【禁忌】(タブー・キンキ)
ふれたり口に出したりしてはならないとされているもの。
これが国語辞書風の解説だが、官能小説では、これを犯すこと、つまり破られるべきタブーという存在がなくてはならない大事なものである。タブーのない関係で性交したところで、お話にもならないのだ。
tabooはポリネシア語に語源を持つ英語。禁忌は、正しくは「きんき」と読むが、フランス書院文庫では「タブー」と読んでいる。
また、禁忌は一般的に近親相姦を意味するものとして、小説中やタイトルにも使用することが多い。麻田龍太郎は『禁忌実習』『禁忌寝室』『禁忌診察室』『私の禁忌日記』などのヒット作を生みだしている。

【抽送】(チュウソウ)
一見、国語辞書に載っていそうで、実際にはない。しかし官能小説では必修の単語がこれ。
性交時、入れたり出したり、押し込んだり引いたりする、ピストン運動のことである。
辞書に載っていないのは、「抽迭」(ちゅうてつ)が正しいのに、誰かが間違って使いはじめたため。それがいつの間にか官能小説では一般化してしまったのだ。「抽」は「抜く」、「迭」は「するりと入れ替わる」の意味。
ちなみにフランス書院編集部は全員、ワープロやパソコンに抽送を単語登録している。

【露】(ツユ)
大気中の水蒸気が冷えてできた水滴のことを露というが、もちろん官能小説の世界でそう答えれば馬鹿にされる。
「露」というより「お露」と表記されるこの言葉は、もっぱら女性器のなかから滲みでてくる愛液のことをいう。
翻訳小説ではラブジュースという単語が使われ、高竜也の小説でもラブジュースが頻繁に登場する。お露、愛液、ラブジュース、いずれにせよ、美しく美味なものとして描かれることが多い。
ちなみにフランス書院文庫では「露」と単独で登場すれば必ず「つゆ」と読み、「露(あら)わ」には「わ」を送ることで、混乱を避ける配慮をしている。

【ティッシュ】
ティッシュはあくまでもティッシュ、説明の必要もないほどで、大量(官能小説では恐ろしく大量に放出されるのだ)の精液、愛液を拭き取るために必要なもの。
しかし、舐めまくってしまうからなのか、鬼頭龍一作品ではあまりティッシュは登場しない。
綺羅光はイラマチオで大抵は呑ませてしまうのだが、なぜかティッシュは必ず出てくる。
ここで問題なのは、その表記方法。ティッシュ、ティシュー、テシュー、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなど作家によっていろいろ。綺羅はティシュー派、高はティッシュペーパー派ではあるが、これは自宅で使用しているティッシュのメーカーによる影響なのだろうか。クリ ○○○○、スコ○○○○、ネピ○……などなど、よーく見ればメーカーによって表記方法が微妙に違う。
いずれにせよ、作家にはそんなところまで調べ、こだわり、描いている人もいるのです。

【年上】(トシウエ)
まず注意してほしいのは、あらゆる世代、年代において、「年上」と言える対象は存在するということである。
ただし、同じ年の差でも「32歳の男性&47歳の女性」の場合と、「17歳の男性&32歳の女性」という場合では、まったく雰囲気が異なる。淫靡感、背徳感などを考えた上で、官能小説家は、年の差を設定しているのである。
弓月誠は『年上初体験【僕と未亡人】』でデビューして以来、一貫して年上を描き続けていることで知られている。弓月誠曰く、「二回り離れるのはやりすぎ、一回りでは足りない、二回り『近く』離れているのがツボ」らしい。たかが年の差といっても、奥が深い。
【土手】(ドテ)
医学用語ではmons pubis(モンス・ピュービス)と言い、いわゆる陰阜(いんぶ)、恥丘(ちきゅう)のこと。
もっとわかりやすくいえば、裸身を正面から見て陰毛が見えているあたり、三角地帯、デルタ、などと書くこともある。また、性器そのものをさすこともあるので、かなりいい加減といえばいい加減。
「土手高の女は味がいい」などとよく言われ、小説のなかでも男たちが猥談をしているシーンで登場するが、真偽のほどは定かではない。
土手に関連して「肉土手(にくどて)」という言葉もある。これも土手をさらにリアリティがあり、かついやらしく表現するものではあるが、肉土手は陰阜ではなく、性器の周囲の肉、大陰唇、外陰唇が肉厚でぼってりしていることを言う、という作家もいる。
そういった説を唱える作家はそこまで性器描写にこだわっているわけだから、一字一句、読み落とし、確認し落とし、感じ落としのないよう、注意して読んでもらいたい。
フランス書院の誘惑小説と言われるジャンルにおいては、年上の女性と初体験に挑む少年が、あまりの興奮に挿入する前に射精してしまうことがままある。そんな時でも年上の女性は決して叱責することなく、逆に元気の良さと想いの強さに感動すらしてくれることもある。