「ハメ撮りがしたい」の一言から始まった、幼馴染との恋人関係。
いつも通り無表情な佐保だけど、何か僕に隠し事をしているらしい。
ポリネシアンセックスに溺れた放課後、衝撃の事実が明かされた!
残り少ない学校生活、二人の愛の集大成となるハメ撮り撮影に臨む!
最初は愛の言葉に照れていた彼女も、笑顔でキスを返すようになり
カメラを忘れるほどに深い絶頂へ── 純愛劇最終章、そして未来へ。
1 ポリネシアン・セックスがしたい
2 ポリネシアン・ハグ
3 ポリネシアン・セックス開始
4 ポリネシアン・セックスで蕩けあう
5 繋がったままピロートーク
6 最後のハメ撮りをしよう
7 最後のフェラチオ
8 最後のクンニリングス
9 最後の愛撫・連続絶頂
10 最後のハメ撮り
11 最後のピロートーク
12 十年後の僕たち
13 十年後の学校に行こう
14 十年後の学校でハメ撮りをしよう
15 十年後の学校で騎乗位からの対面座位
エピローグ 僕たちの過去と未来
本編の一部を立読み
1 ポリネシアン・セックスがしたい
「……ポリネシアンセックスがしたい」
前置きもなく唐突に、幼馴染の雪村佐保《ゆきむらさほ》がそんなことを言い出した。
その日は日曜日で、僕たちは佐保の部屋でまったりしているタイミングだった。九月になったというのにまだ気温は高くて、佐保は半袖のワンピースを着用していた。そこから覗く二の腕が眩しくて目を細めながら眺めているところだった。
そんなタイミングで声をかけられたけれど、僕はそこまでびっくりしなかった。
ポリネシアンセックスという言葉に聞き覚えがあったからだ。
そのポリネシアンセックスというのはポリネシア地方から伝わってきたとされるセックスだ。ポリネシア地方というのは、だいたいハワイとかタヒチとかサモアとか、ようするに太平洋上に浮かぶ島国である。ゆったりとした時間の流れる南国、穏やかな自然に囲まれた環境をイメージしてもらうと分かりやすいだろうか。
そんな感じの南国で行われるとされるポリネシアンセックスは、やっぱりゆったりとしたスローセックスだ。
一週間くらいかけてゆっくりと触れあっていって、七日目までは挿入はしない。一日目の軽い触れあいから始まって、キスとか、ハグとか、日を追うごとにその接触を深めていく。
この期間を通じてパートナーとの心身の結びつきを深化させていき、七日目にようやく行われる挿入で──深い快楽の海に溺れるような体験が待っているという。
そういったポリネシアンセックスについての解説を、僕は以前に佐保から聞いたことがあった。
あのときの佐保は無口な彼女にしては珍しく多弁で得意げに解説をしていたから、よく覚えている。佐保がポリネシアンセックスについて解説をしてくれたのは、確か初めて佐保の家に泊まってセックスをした日の夜だ。僕たちは背面側位で繋がったまま窓の月を眺め、ゆったりとした時間を味わいながら色々な話をしたんだっけ。
あれからまだ半年も経っていないというのに、あの日がもうずいぶん前のことのように思える。
佐保と交際を始めてからのほんの約四ヶ月間で僕たちは何度となく体を重ねてきたから。
「……光儀《みつぎ》?」
僕が黙っているので、佐保は不安そうに首を傾げた。
さらりと彼女の栗色の髪が流れる。
佐保は美少女だ。
大きな丸い眼鏡を掛けていて、小柄で華奢で、無口で無表情な女の子。三歳の頃から隣に住んでいた幼馴染で、お互いにずっと片思いをしていた間柄で、約四ヶ月前からは恋人同士で──ハメ撮りを繰り返す仲だ。
セックスやらハメ撮りやらはいつも佐保の側から唐突に誘われる。彼女の言葉に翻弄されながら僕は彼女と交わっていく。それが僕たちの関係だ。
「でも、どうしてポリネシアンセックス?」
「気持ちがいいらしい」
「なるほど……?」
「それに今日はお母さんがリビングに居るからハメ撮りができない。一週間後にセックスできる確約がほしい」
「なるほど」
佐保の言うことも一理あった。今日はこの家で佐保とふたりきりではなかったから、セックスをするのに安全でも適切でもないだろう。もしも佐保とセックスをするならラブホテルなりに行った方がいい。それはそうだ。
それはそうなのだけれど、しかし、どこか違和感があった。
「…………?」
違和感の正体は何なのだろうと考えて僕は佐保を見つめる。
いつも通りの無表情な佐保だ。大きな丸眼鏡の奥に静かな光を灯している、僕の幼馴染で恋人の美少女。いつもの佐保。
けれども何か違和感があって、その違和感の正体が掴めない。強いて言うなら今日の佐保は僅かに唇を震わせている気がしている。何か言いたいことがあって、けれども言葉が見つからない感じだろうか。
「佐保、言いたいことがあるんなら今、言ってほしいんだけど」
「ちゃんと言った。ポリネシアンセックスがしたい」
「それだけじゃないよね。佐保、まだ自分が本当に言いたいことを何か隠してる」
「……む」
確信を持って僕がそう問いかけると、佐保は唇を突き出してムッとした表情を作った。
そして、佐保はそれっきり黙ってしまった。
こちらが何を言ってももう反応はない。佐保は無口だ。ずっと黙っていても苦にならないのだろう。佐保が沈黙に耐えられなくなったところなんて見たことがない。
はあ、と小さくため息を吐いて窓から空を見上げる。
まだ秋は遠いと言わんばかりの雰囲気、まだまだ夏空の気配を残した九月の空だった。
「今日の佐保はなんだか様子が変だよね」
ひとり言みたいに呟いた。
けれどやはり佐保からの返事はない。また小さくため息を吐く。
考えれば考えるほどどうも朝から佐保の様子が変なのだ。何か言いたそうにこちらを見上げて唇を震わせて、それに気付いてこちらが尋ねると『何でもない』とそっぽを向いてしまう。
朝、玄関前で佐保と待ち合わせをしたときからこの調子だ。今はもう夕方である。すると八時間以上も佐保はこんな風にむっつりとしている計算になる。
佐保が無口なのは今に始まったことではないけれど、こういう風に何かを言いかけて止めるというのは今までにほとんどなかった。無口だけれど基本的に佐保は言いかけたら最後までハッキリと言う子なのだ。
彼女がそんな調子だから僕は少し心配をしている。何か言いたいことがあるのならば言ってほしいと思っている。言いづらいことなのだろうか。分からない。そのうえ佐保は無口だから、話を聞き出すのは難しくて、困っている。
心配だったから諦めずにちょいちょいと問いかけ続けて、ようやく返ってきたセリフが『ポリネシアンセックスがしたい』だった。
たぶん、佐保はポリネシアンセックスがしたいわけではないと思う。いや、セックスそのものはしたいのだろうけれど、ポリネシアンセックスを提案したのは絶対にこちらの追及をはぐらかすために適当を言ったのだという気がする。
けれど何をはぐらかそうとしたのかまでは分からない。
それでこちらとしては困惑してしまっていた。
こういうパターンで佐保から翻弄されるのは初めてだったから、僕は困ってしまっていたのだった。
「まあ、言いたくないんなら今はいいや。そのうち教えてね」
「……ん」
佐保に向かって手を差し出すと彼女はそっと僕の手を握った。小さいけれど温かな手だった。はぐらかされたことがまだ釈然としないけれど、それでも佐保の手の温かさだけは本当だと思った。
だからまあ、僕たちは部屋の中でゆっくりと手を握りあう。しばらくの間黙って互いの呼吸音を聞いている。
「……まだ、言えない」
「え?」
とても小さな声で佐保が呟いたので、慌てて僕は佐保の方を見た。
佐保は真面目な顔で進行方向を向いていて、こちらには視線を向けていなかった。彼女の丸眼鏡の奥で長い睫毛が肌に影を落としているのが見えた。それから彼女の薄い唇がふるふるとほんの少し震えているのも。
やはり、何か言いたげだ。
だから僕は佐保のことを見つめたまま辛抱強く待った。何となく今なら何か話してくれそうな気配だったからだ。
「今はまだ言えない。不確定だから」
「不確定? えっと、何が?」
「ひみつ」
「秘密?」
「……そう、秘密」
佐保は口の中でその言葉の音をひとつずつ確かめるみたいに『ひみつ』と言って、それから真っ直ぐにこちらを見上げた。
びっくりするくらいに綺麗な目に見上げられて思わず尻込みする。彼女の目から何か強い意志のようなものを感じたけれど、その意思が何なのかはまだ不明だ。
でも佐保が秘密だと言うのなら、それは佐保なりのひとつの回答なのだろう。朝からずっと佐保は僕に何かを言うべきか言わないべきかで悩んでいたようだったけれど、今は言わずに秘密にすることを選んだらしい。だったら僕はその選択を尊重するべきなのだろう。
「秘密ならしょうがないね、佐保」
「……ん。秘密ならしょうがない」
「いつかは言える?」
「ポリネシアンセックスが終わった頃には」
「じゃあ一週間後かあ」
「ポリネシアンセックスに一週間かかるから、妥当な期間」
「なるほどね。えっと、ちょっとずつ触れあいを増やしていくんだよね、一週間かけて」
「そう。それから、これから一週間は禁欲をする。あなたもわたしも。自慰行為も禁止」
「え、佐保も禁欲をするんだ?」
「……? それはそう」
「というか佐保ってオナニーとかするんだね。しかも週一以上のペースで。それは知らなかった」
「……むっ」
僕が指摘をすると、佐保は急に真っ赤になって僕の手を痛いくらいに握った。どうやら自分のオナニーの頻度を自らバラしてしまったことを恥じ入っているらしい。明らかに拗ねたような顔で赤くなっている。
「ぬかった……」
「大丈夫、可愛いよ。佐保ちゃんはオカズは何を使っているの?」
「ばか、あほ、ちかん、変態」
「あはは、冗談だよ、冗談」
笑いながらこちらが首をすくめると、拗ねたように口を尖らせていた佐保もようやく小さく笑った。
その表情の変化はほんの僅かだったけれど、それでも親しみを感じさせる笑みだった。どうやら僕がからかったことは許してくれるらしい。
それから佐保はコホンと咳払いをして、改めてまたこう言った。
「……ポリネシアンセックスがしたい」
と。
そう言った佐保の丸眼鏡はキラッと光を反射していた。
◇◇◇
それで、だ。
そのまま四日ほどが経過した。
「光儀くん、なんだか浮かない顔してる……? あ、さては佐保ちゃんと喧嘩したんでしょー?」
放課後の通学路で佐保と会話をしてからおおよそ四日後のお昼休み、ぼんやりと教室の窓からグラウンドを眺めていると、いきなり横から声をかけられた。
そちらを見ると明るい表情をした女子生徒が目を細めながら立っていた。クラスメイトの与木遥奈《よきはるな》さんである。与木さんはまったく人見知りをしないタイプの女の子で、佐保とも仲のいい子である。
「いや、喧嘩はしていないよ。佐保と僕はいつでも仲良し」
「本当にぃ?」
「すっごいラブラブだよ」
「わわっ、惚気ますなあ」
「謙遜してもしょうがないからね。佐保に対する好意は素直に言うことにしてるんだ。たくさん言うくらいでちょうどいいんだよ、こういうのは」
「なるほど……?」
僕が正直に話をすると与木さんは若干引きつった様子で笑った。佐保のことを話すと人からはたいていこんな反応をされる。不思議である。
引きつった笑いのまま与木さんはちょっと息を吐いて、それから気を取り直したみたいに頷いた。そして僕の前の席の椅子に勝手に座り、こちらの顔をジッと見つめてくる。
まるで穴が開きそうなくらいの視線だ。
「な、何かな?」
与木さんは目がくりくりしていて大きい。クラスでも人気が高い方だ。そんな目で見つめられると尻込みをしてしまう。
思わず助けを求めるように周囲を見渡したけれど、あたりには誰もいなかった。集まってお喋りをしながらお弁当を食べている女子たちやら後ろで雑談に興じている男子たちやらはいたけれど、誰もこちらを注視していない。佐保もここにはいなかった。図書室かトイレだろうか。何にせよ、助け船は出なさそうだった。
だから仕方なく僕は与木さんの方に向き直る。すると与木さんは真面目な顔で頷いて、また尋ねてきた。
「それじゃあ、光儀くんが浮かない顔をしている理由は、なぁに? 佐保ちゃん関係じゃないの?」
「う……」
思わず唸った。流石に与木さんは周囲をよく見ている。
実のところ僕が浮かない顔をしていたのは、まさしく佐保に関連することだったのだ。といっても佐保と僕の間で悪いことが起こったわけではない。しかし、現時点でいいことが起こったというわけでもない。
そしてそれは人に言えないことではあった。
「まあ、色々あってさ」
「いろいろ?」
「そう、色々。与木さんには内緒だけどね。とても言えることじゃないから」
「えーっ!」
僕が首をすくめると、与木さんは大げさな顔をして見せた。相変わらず表情がころころ変わる子である。いつも無表情気味の佐保とは大違いだ。
それはそうとして。
与木さんには言えるはずがなかった。佐保とあった『色々』のことなどは。
佐保と僕はこんな約束をしたのだ。
──一週間後ポリネシアンセックスをする。それまでは禁欲すること。
つまり四日前から今日まで僕は佐保とセックスをしていない。セックスだけではなく、互いにオナニーもしていない。性欲が溜まってきている状態だということ。
しかもそれだけではない。
セックスはしないのだけれど、毎日触れあいの時間が設けられているのだ。お互いに裸になって肌に触れあったり、ハグをして体温を交換したり、キスをしたり。
そうして触れあったりするとどうしても体が興奮して呼吸が浅くなったり勃起したり濡れたりするわけだけれど、決してその先へは進まない。セックスも、オナニーも、もちろん射精も禁止だ。我慢をしたまま触れあいを深めて、期待だけを募らせていく。
これはなかなかしんどかった。
ただ性欲を我慢するだけなら普通に大丈夫なのだけれど、目の前に裸の佐保がいる状態で耐えるのは相当にキツいのだ。しかも佐保の側も性欲が募ってきているからやたら扇情的であるし、勃起した僕のモノを見て『あ……♡』と頬を赤らめてうっとりとしながら自分の腹部を撫でたりするし。その様子は明らかに僕とのセックスをイメージしているし。
こうなると本当に我慢が辛くなって、それこそ佐保のことを押し倒してしまいたい衝動に駆られるのだけれど、ポリネシアンセックスをすると決めた以上は僕たちはその衝動に耐えていたのだ。
これまでにも一週間くらい抜かない日はあったから最初はかなり余裕に構えていたのだけれど、ダメだった。誘惑をされてムラムラとため込んだ性欲がぜんぜん解消されないからずっと発情しているような状態になってしまうのだ。これには流石に困ってしまう。
けれど、こんなことを与木さんに言えるはずがない。まさか今まさに佐保とセックスがしたい衝動に炙られているだなんて。
「う……」とまた思わず唸った。
昨日見た佐保の裸や彼女の肌の質感を思い出して腰の奥が熱くなってしまったのだ。つまりここは教室であるにもかかわらず勃起しているということ。
「光儀くん、大丈夫? 顔が赤いみたいだけど、お熱ある?」
「だ、大丈夫。ちょっと、その睡眠不足なだけで」
「保健室、行く? 連れて行こうか?」
「あ、いや、今は立てな──……じゃなくて、平気だから。気にしないで」
「そう……?」
ブンブンと首を振りながら否定をすると、与木さんは心配そうに首を傾げた。けれども彼女はそれ以上は追及してこず、そのままゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ光儀くん、えっと、お大事にね?」
「うん、どうもありがとう」
どうやら放っておいてくれることにしたらしい。彼女はそのままこちらに手を振ってから廊下の方へと行ってしまった。きっと昼食を買いに行ったのだろう。
与木さんからの追及がそれ以上なかったことに僕はホッとして、小さくため息を吐いた。
しばらくして姿が見えなかった佐保が与木さんと一緒に教室に戻ってきた。
教室に戻ってきた佐保は与木さんと仲良さそうに話していたけれど、佐保もほんの少し顔を赤らめながら両足をモジモジさせていた。きっと下腹部が疼くのだろう。つまり僕と同じようにムラムラしているということ。そのことがはっきりと見て取れた。
といっても、佐保の異変に気が付いているのはきっと僕だけだっただろうけれど。
──あとで
ジッと佐保のことを見つめていると、佐保が口の動きだけでそう言ったのが見えた。
きっと今日もあの焦らしプレイのようなハグをするのだろう。
萎えかけていた股間がまた熱を取り戻すのを感じながら、僕は静かに頷いたのだった。