ずっと好きだった幼馴染の佐保と交際を始め、ついにプロポーズした僕。
婚約の挨拶をするため、彼女の祖父母の住む島へ二泊三日の夏旅行へ。
「旅行中でもエッチがしたい」と恋人が微笑みながら誘ってくる。
家族やいとこの海美ちゃんが寝ている家で、声をひそめて二人で達した夏の夜。
翌日、実は海美ちゃんに覗かれていたことがわかり……
意外とやきもち焼きな佐保の新たな一面が!
書き下ろしSSを収録!
1 島へ行こう
2 島の海水浴場で遊ぼう
3 渚でディープスロート
4 海美はセックスを覗きたい
5 民宿でセックス
6 海美のオナニー
7 民宿の朝
8 恋人灯台に行ってみよう
9 海美と水紀
10 立ったままクンニリングス
11 覗き見
12 幼馴染のフェラチオ
13 ノーパンスカートの誘惑
14 セックスの勉強がしたくなった海美
15 湯けむりガールズトーク
16 いとこはハメ撮り撮影者1
17 いとこはハメ撮り撮影者2
18 お風呂で感想会
番外編 海美と水紀の約束
本編の一部を立読み
1 島へ行こう
「……海」
ざざざ、ざざざと波の音がしている。それから唸るようなエンジン音も。床面は僅かに揺れていた。
ここが船の上だからだ。
太平洋に浮かぶ離島へと向かう、そう大きくはない市営の連絡船、いわゆるフェリーである。フェリーは飛ぶように海の上を走っていて、僕たちはその二階にある展望デッキで海を眺めていた。
夏の終わりの海である。青というには濃く、深い色をしていた。そのせいか濃い潮の香りがしている。風が強いので不快感はない。むしろ水平線まで見えていることの方が新鮮で面白かった。思い切り遠くまで見渡して、それから目を上げると真っ白い入道雲が浮かんでいた。
そうして遠くを見て、それから隣に目をやると、今度は白い帽子が見えた。つばの広い大きな帽子だ。
フェリーの速度が速いので帽子は大きくはためいている。飛ばされてしまいそうだ。
当たり前だけれどここは海上である。もしも帽子が飛ばされてしまったら二度と戻ってこないだろう。
にもかかわらず当人は余裕の表情で、風を感じながら小さな声を出していた。
「ひろいな、おおきいな」
かすかな声で、けれども鈴の鳴るような綺麗な声だった。
「もしかして佐保、歌ってる?」
「……ん」
僕が尋ねると彼女はこっくりと頷いた。
彼女──雪村《ゆきむら》佐保《さほ》は僕の幼馴染で、恋人だ。
今日の佐保は白いつば広帽子に清楚な感じの白いワンピースという出で立ちで、フェリーの甲板の強い風が彼女の白い帽子とひざ丈のスカートを揺らしていた。それはまるで夏の幻想みたいだった。
「光儀《みつぎ》……」と佐保が僕の名前を呼び、それからスッと前方を指さして言った。「見て、島」
そこには確かに島が見えていた。海の上にこんもりと盛り上がったように見える島だ。そう大きな島ではない。民家がまばらにある。それから広い海岸線と崖と、崖を覆うように生えている林、そしてその奥には白い灯台が見えた。
「あれがそう?」
「……ん」
僕が尋ねると佐保はこっくりと頷いた。
あれが今回の僕たちの目的地『波跡《はあと》島』だ。
波跡島は、島の円周が十五キロもない小さな有人島だ。といっても人口も千人に満たないけれど。本土からは連絡船で約二十分の距離である。近隣の島の中では二番目に大きいのでフェリーも一日八本出る。
そして佐保の生まれ故郷である。
佐保と僕は三歳のときから隣の家に住んでいる幼馴染であるわけだけれど、その佐保が三歳まで住んでいたのが波跡島なのだそうだ。
島にはまだ佐保の祖父母と、それからいとこの海美《うみ》ちゃんが住んでいるらしい。佐保の祖父母は島で民宿を営んでいて、今日はそこに宿泊がてら『挨拶』に伺う形だ。
そう、挨拶。
ずっと好きだった佐保と交際を始めて、先日僕は佐保にプロポーズをした。そして婚約と相成ったわけだけれど、その挨拶をするために僕たちは佐保の祖父母の住む島へと向かっているのだ。
といってもまあ僕たちはまだ学生だし、婚約といっても今すぐ結婚をするわけではない。ただ互いに結婚の意思があることを確認しただけの状態だ。だから佐保の祖父母に会いに行くのは本当に顔見せ程度の挨拶であるのだけれど。
だからあくまでも今回は『夏休みを利用しての旅行で、佐保の実家の民宿に泊まる』というていである。
それでも僕にとっては初めて佐保の実家に挨拶に伺う形なわけで、多少なりとも緊張していた。
「ふふ……夏、旅、旅行、たのしいなー」
一方の佐保は気楽なもので、鼻歌交じりに海を眺めている。
佐保にとっては久々の帰省であるし、実際に楽しみなのだろう。あるいは今朝、出がけにご両親から頂戴した軍資金がけっこう大きかったのかもしれない。
「本当にご機嫌だね、佐保」
「……ん、楽しい。やっとわたしの生まれ故郷をあなたに見せられる。あなたはわたしが海生まれだということを疑っている節があるから」
「え、そうだっけ?」
「そう。わたしが『泳ぎが得意』とか言ってもちっとも信じてくれない」
「いや、それは……」
どう見ても佐保は泳ぎが得意そうに見えないのは確かだ。
だって彼女は明らかに文学少女然とした顔をしているし、肌だって透き通るように白い。プールよりも図書室の方が好きそうに見える。体育会系というよりは断然文系だ。いや確かに先日、川で遊んだときの佐保は上手に泳いでいたように見えたけれども。
そんな僕の目線に対して佐保は「……む」という顔をしてこちらを見上げ、自分の下げているボストンバッグをぼすっと叩いた。
「今回は水着を持ってきた。泳いで、あなたに証明することもできる」
「ああ、このあいだ買った水着?」
「……ん。他にも浮き輪も持ってきているし、海中で使えるウェアラブルカメラもある。普通のビデオカメラも、もちろんある」
「普通のビデオカメラは、何のために使うの?」
からかうように僕が尋ねると、佐保はまた「……む」という顔をした。
僕と佐保は普通に恋人同士であるけれど、同時にハメ撮りを繰り返す仲である。といってもどこかにアップロードするわけでもなく専ら自分たちの観賞用であるけれども。
とはいえ佐保が『カメラを持っている』と言ったときはたいていハメ撮り用であると思って差し支えない。
「今回は単に旅行の記録用だ、もん」
「もん、って」
「それともわたしの生家でハメ撮りがしたい? 民宿の母屋の方には祖父母も、いとこも住んでいるのに? お客さんもいるかもしれないのに?」
「あ、そっか、確かに。ラブホテル以外ではハメ撮りはするべきではないね」
「……今、残念そうな顔をした。えっち」
「う……」
かすかに目を細めながら佐保に切り返されて、痛いところを突かれたな、と思った。
だって僕は佐保と同じ部屋に宿泊するわけだけれど、その際に彼女とセックスできないとなると、けっこう辛い。だって無防備な状態の佐保を見ているとどうしてもムラッときてしまうのだ。
するとこの二泊三日は禁欲をすることになるのか、と気が付いて思わず下唇を僅かに突き出すと、佐保はそれを見てクスッと笑った。
「あなたが残念そうにしてくれて、うれしい」
「佐保……」
「だいじょうぶ。なんとかする。秘策がある」
「なんとかするって、ハメ撮りを?」
「……えっち」
クスクスと笑いながら佐保はこちらを見上げて首を傾げてきていた。
どうやら佐保はこれから向かう島でも何らかの方法でハメ撮りをするつもりのようだ。でも人にバレないようにするなんて、いったいどういう方法を取るつもりなのだろう。
そのことを僕が尋ねようとした瞬間に、ポーッ! と汽笛が鳴った。
見ると波跡島のフェリーの発着場がすぐ近くに迫っていた。話し込んでいるうちにいつの間にか島の近くまで来ていたらしい。
「もうじき到着する。戻ろ」
そう佐保が言ってフイッと身を翻して船内の方へ向かってしまった。話は終わりだということだろう。だから僕も慌てて佐保の後を追った。置いて行かれると島で道に迷ってしまうからだ。
だから僕は結局、島の中でどうやってハメ撮りをするのかという方法について聞き逃してしまったのだった。
でもまあ、僕も後から身をもって知ることとなったその『秘策』は、佐保にしてはかなり強気な方法だったので、結果的にこのとき聞いておかなくてよかったと思う。
聞いたら僕は絶対に反対していただろうから……。
◇◇◇
「ふわふわ、する……」
船着き場から島に降り立って、佐保は両手を広げて平均台を歩くようなポーズを取った。フェリーはずっと波で揺れていたからその感覚が残っているのだろう。
そうして佐保がよたよたと歩いて行くので、僕も彼女の後を追った。
波跡島の船着き場は本土のそれと比べてずいぶんこぢんまりとしていた。そこを通過して外に出ると港みたいになっていて、軽量トラックが何台か停まっているのが見えた。強い潮の香りがする。まだまだ夏真っ盛りの海である。
セミ時雨がやかましいほど降ってきていて、島の方に目をやると青々と木の茂っている山が見えた。海と、森。自然豊かな島なのだ。
「なんか『島』って感じだね、佐保」
「それはそう」
「ここが佐保の生まれた島なんだ」
「……ん。こっち」
なぜだか佐保は照れくさそうに頬を染めて、両手を広げたままてくてくと歩いていく。
港町みたいな雰囲気の場所を抜け、堤防の上に登って、曲がりくねった海岸線に寄り添うみたいに立ち並ぶ民家と青々とした海とを眺めながら進んでいく。
「わたしたちの行く民宿の名前は、くろしお」
「黒潮?」
「……ん。島に三つしかない宿屋のうちのひとつ。寡黙な大将の供する海鮮料理がまあまあ有名。看板娘もいる。宿からは海水浴場も見える。おーしゃんびゅー」
「えっと、佐保のおじいさんとおばあさんが経営している民宿なんだよね? 寡黙な大将って、佐保のおじいさん? 看板娘は、もしかして佐保のおばあさん?」
「ふふ……それは見てのお楽しみ」
と佐保は急に立ち止まって、急に「あそこ」と崖の上に建っている建物を指さした。
その建物は切り立った崖の上に建っていて、崖に張り付くような急な階段を登っていかなければならないような構造になっていた。その階段のふもとと、それから建物の正面に手書きの看板が掲げられている。そこには『民宿くろしお』と書いてあった。
「これだね、よし、行こうか」
「……ん」
「荷物を持つよ。さすがに階段が急だし」
「たすかる。せっかくだからあなたの写真を撮っても?」
「えっと、どうぞ?」
佐保から旅行鞄を預かると、彼女はコンパクトサイズのデジタルカメラで僕の写真を何枚か撮影した。たぶん記念写真だろう。何の記念かは不明だけれど、いつものことなので気に留めない方向にする。
そしてそのまま『民宿くろしお』へと続く、見るからに急な階段を登っていくと、中腹あたりで急に声が聞こえた。
「あー! 佐保お姉ちゃん!」
そちらを見ると民宿の窓から顔を突き出すようにして快活そうな雰囲気の少女がこちらを覗いて、目を丸くしていた。
その子はやや日に焼けた茶髪を頭の後ろでポニーテールにしていて、パッと明るい顔になったかと思うとブンブンとこちらに向かって手を振り、それから急に顔を引っ込めた。直後にドタドタと廊下を走る音が聞こえてくる。
「今の子は……?」と僕が佐保に尋ねるのと、佐保が「ふふっ」と得意げな顔をするのと、それから民宿の玄関が勢いよく開くのが同時だった。
そして先ほどのポニーテールの少女が階段をタタタッと駆け下りてくる。
「こんにちは! ようこそいらっしゃいました!」
彼女はニコニコと笑いながら僕たちのところまでやって来て、真正面からこちらの顔を見た。
顔立ちはとても整っていて、可愛らしい子だ。僕たちよりも少し年下だろうか。白いティーシャツと丈の短い緑色のハーフパンツを着用している。そこから覗いている四肢はとても健康的な色をしていた。
どや顔のまま佐保はその子の隣に立って、彼女と並んだまま僅かに目を細めた。
「この子が、看板娘」
「佐保ちゃんのいとこの海美っていいます! お待ちしていました!」
「「ねー」」
何が『ねー』なのか分からないけれど、佐保はポニーテールのその子、海美ちゃんと声を合わせてそう言った。
言われてみれば佐保と海美ちゃんの顔の造形はよく似ていた。そうか、看板娘がいとこか、と思った。
そうしてそれから、僕と佐保は海美ちゃんに案内されて『民宿くろしお』の受付を通り抜け、僕たちが今回宿泊する部屋へと通された。
途中で佐保のおじいさんとおばあさんにも会って、軽い挨拶を交わした。佐保のおじいさんは確かにこれぞ佐保の祖父という感じで『うむ』としか言わなかったけれど、おばあさんの方はにこやかな感じだった。どちらにしても敵意は感じない、歓迎されている雰囲気だった。僕としてはかなりホッとしたし、佐保はいつになくリラックスしている様子だった。
そんな感じで僕たちは民宿くろしおの僕たちの部屋へと行った。
僕たちが宿泊するその部屋は建物の一番奥にある畳敷きの和室で、窓を開けると海と砂浜が見えた。同時に夏の潮風が室内に入り込んでくる。
「こちらがおふたりのお部屋です! 一番いいお部屋ですよ!」
海美ちゃんは部屋の隅に佐保の荷物を置きながらそう言った。ポニーテールが左右にぴこぴこと揺れていて、それにあわせて佐保の体もなぜか左右にぴこぴこ揺れていた。
それから海美ちゃんはズイッと僕の方にやってきて、また下から覗き上げるように好意的な表情でこちらを見た。
「まさか佐保お姉ちゃんが彼氏さんを連れてくるなんて、思わなかったな」
「ど、どうも」
「優しそうだしスマートだし素敵な感じの人!」
「ふふ……でしょお?」
いとこだからなのだろうか、佐保と海美ちゃんは仲がよさそうだった。
海美ちゃんとふたりで僕の顔を様々な角度から眺めてくる。美少女ふたりに見つめられてこちらとしては小っ恥ずかしい。水を差すのもなんだけれど、とりあえず話を逸らしてみようと試みる。
「そ、それにしてもいいお宿だね。窓からの景色も最高だし」
「このお部屋が一番眺めがいいんです。角度的に朝日が昇ってくるのも見えますよ。今日のご宿泊はおふたりだけだから、一番いいお部屋を当てたんです」
「え、そうなんだ?」
「そうですよお? 佐保お姉ちゃんの久々の里帰りだから、おじいちゃんも張り切っちゃって」
「……ちなみに晩ごはんはお刺身だそう」
「それから、お風呂は二十四時間いつでも入れるようになっていますから、いつでも入っちゃってくださいね! ちなみに残念ながら混浴ではありません!」
「……ここのお風呂、本当に大きいから、おすすめ」
ずいずいと海美ちゃんはこちらに迫りながら宿の解説をしてくれるし、佐保はそれに便乗してどや顔をしてくる。こちらとしては彼女らのペースに飲まれっぱなしだ。
もしかすると今回の旅行は始終こんな調子になるかもしれないと思った。
思わず目を逸らして窓の外を見るとそこは海で、小さな海水浴場があるらしいのが目に入った。
「……泳ぎたい?」
こちらの顔を覗き込みながら、佐保が目を細めてそう言った。
2 島の海水浴場で遊ぼう
「……海」
「そう、海ですっ!」
ざざん、ざざん……と波が砂浜に打ち寄せている。
眩しすぎる夏の日差しと陰、青い空と海のくっきりとしたコントラストが綺麗だ。ジリジリと焼けるように熱い。もうお盆過ぎだというのにセミの鳴く勢いも止んでいなかった。
いかにも夏、という感じである。
「海だねえ」
ここは民宿くろしおの目の前にある海水浴場である。海水浴場といっても人の気配はほとんどない。ほとんど貸切みたいな状態の、穴場である。
そこに僕たち、つまり僕と佐保と海美ちゃんの三人は遊びに来ていた。
今は民宿と海のちょうど中間地点あたりにある砂浜にビニールシートを敷いて、そこで持参した水筒から麦茶を飲んでいるタイミングだった。
この麦茶は佐保の祖母が用意してくれたもので、水筒の中に大量の氷が入っていてキンキンに冷えていた。ありがたい話である。
民宿の部屋に荷物を置いて佐保の祖父母のところへ行ったところ、挨拶もそこそこに『海で遊んできたら』と言われてしまったのだ。まるでこちらの遊びたい意図を見透かされたようだった。実際に佐保は遊ぶ気満々で、ワンピースの下には既に水着を着用しているくらいだったから。
だからありがたくお言葉に甘えて海に駆けだしてきて、まずは水分補給している、というわけ。
「島の外海側に大きな海水浴場があって、そちらの方はちゃんとした更衣室とかシャワーとかもあって人気なんです。こっちの海水浴場はそういったアメニティ的なやつがないし、地味に岩場が多いので穴場になっております」
「へええ、そうな──!?」
海美ちゃんの解説に頷きながら『そうなんだ』と言おうとして、振り返った瞬間に絶句した。
ちょうど海美ちゃんがハーフパンツを脱いでいたからだ。
紺色。
彼女の白いティーシャツの下端から紺色の布地が覗いていて、それから健康的な生足も見えていて、思わず息を飲んで目を逸らした。
「あ、これ水着なので大丈夫ですよ?」
僕が顔を赤くしたのを察したのか海美ちゃんはクスッと笑って、今度は腕をクロスさせながら白いティーシャツの方を脱ぎ捨てた。
そうして海美ちゃんは紺色のスポーティな水着姿になった。
「あ……下に着ていたんだね」
「ここには更衣室とかないので!」
海美ちゃんが着用しているのは競泳水着に近いタイプのスクール水着だった。肩紐あたりは白い縁取りがなされている。たぶん学校で本当に使っているやつだろう。
おそらく海育ちで泳ぎ慣れているせいだろう、海美ちゃんの肢体はとても健康的で均整が取れていた。しかしお尻あたりはスク水の生地がやや食い込んでいて、女性的な丸みがないわけではない体つきをしているように見えた。
「……光儀、見すぎ」
ぱす、と足に衝撃を感じて振り向くと、佐保がムッとした顔でこちらを見上げていた。ほっぺたが膨らんでいる。僕が海美ちゃんに見とれていたことを咎めているらしい。
「あ、いや、そんなことは」
「……ない?」
「ないです、本当に」
「そう」
ジトー……っと佐保はしばらくこちらを見上げたあと、ふっとため息を吐いて「見るならこっち」と小さな声で言って自分のワンピースのスカートを摘まんだ。
鮮やかなライムグリーン色。
「ちょ、ちょっと……!」
ハッとしてその色を凝視しているうちに佐保はワンピースのスカートをそのまま持ち上げ続けて、一気にそれをガバッと脱いでしまった。
そして見えたのは上下ともにライムグリーン色の、佐保の水着だった。
ビキニタイプの水着だ。装飾は少なくて、布面積もそれほど広くないやつ。だから彼女の腹部は当然すべて丸見えになっているし、肩や腋の下や、しなやかな両足だって丸見えだ。露出度はほとんど下着姿と変わらない、ビキニタイプの水着だった。
「み、水着」
「元から下に着てきた。知っていたはず」
「それはそうだけど……でも今、わざと見せつけたじゃないか」
「……えっち」
海美ちゃんと同じように佐保が下に水着を着てきていることは最初から分かっていたけれど、とはいえ急にワンピースをたくし上げられると面食らうものだ。
しかもさっきの佐保は分かっていてこちらの視線を集めたあとで脱ぎ始めた。今だって自分の水着の上だとか、露出している腹部だとか、腋から脇腹にかけてを指でそっとなぞっている。そこの肌の滑らかさをこちらに視認させているかのようだ。
佐保の肌は染みのひとつもなく、夏の日差しや鮮やかな水着の色とのコントラストが非常に眩しい。端的に言ってセクシーである。これまでにも何度となく佐保の裸は見てきたわけだけれど、太陽の下で見る佐保の水着姿はそれとはまた違った魅力があって格別だった。
そんなものを見せつけられるとこちらは唾を飲み込むより他なくなるわけで。
「わたしなら、いくら見てもいい」
「べ、別に見たくなんて……」
「見たくないの? 海美に遠慮している?」
「う……見たいけど、さあ」
僕のそんな様子を佐保は見つめて、それから海美ちゃんに向かって親指をグッと立てるポーズを取った。どや顔である。
海美ちゃんはそんな僕たちのやりとりを、目をぱちくりさせながら眺めていたけれど、それから「ラブラブ……!」と深く頷いた。何らかの納得があったらしい。
「光儀さんとお姉ちゃん、すっごいラブラブなんだ!」
「……どや」
「その水着もめっちゃ可愛いと思うな!」
「ふふん、がんばった」
「本土の方はお店がいっぱいあっていいなあ」
「海美も今度来たとき、一緒に買い物行こ」
「やったあ!」
佐保と海美ちゃんは楽しそうにきゃいきゃいと笑っている。脱いだ服を畳んでビニールシートに置いたり、浮き輪やら日焼け止めやらを取り出したりしている。
美少女ふたりが水着姿でじゃれ合っている様子は非常に楽しそうだった。
「楽しくなりそうだな、今日は」
それはともかくとして僕も着ていた上着をサッと脱いで水着姿になったのだった。
◇◇◇
そうしてそれから僕と佐保と海美ちゃんは思いっきり海で遊んだ。
確かに『穴場』であったらしいこの浜辺はぜんぜん混んでいなくて、せいぜい親子連れを二組程度見かけただけだった。まあメインの海水浴場は別の場所にあるらしいし、時期的にもお盆を過ぎているからこんなものなのかもしれないけれど。
ともかくここは半ばプライベートビーチのような感じで、僕たち三人が遊び回るにはぴったりだった。
海美ちゃんは海生まれ海育ちだけあってめちゃくちゃ泳ぎが上手だったし、佐保もそれに匹敵するくらいに泳ぎが上手かった。自称『泳ぎが得意』は伊達ではなかった。
僕の方はあまり水泳が得意ではないので浮き輪につかまって美少女ふたりをぼんやりと眺めていたけれど、確かにあれくらい泳げたら楽しいだろうな、と思った。
「ああ、楽しかった……」
途中から海中にクラゲが増えてきたので一旦海から上がって、僕はビニールシートに腰掛けてホッとため息を吐いた。肌を焼くような夏の日差しが今は心地よい。
他の二人は何をしているのだろうと思って姿を探すと、佐保と海美ちゃんもちょうど海から上がったところだった。
佐保は波打ち際にしゃがんで、何かモノを拾っているような動作をしている。何かを拾って手のひらに握り、また数歩歩いてしゃがんで何かを拾う。そんな彼女の背中が太陽に照らされて見えていた。
ビキニだから背中側はほとんど裸だ。だから背骨の出っ張りのひとつひとつまでもが見えそうだった。
佐保は何をしているのだろうと思って眺めていると、海美ちゃんが髪を絞りながらのんびりとこちらに歩いてきて、僕の隣にストンと腰掛けた。
「貝殻を拾っているんだそうです」
「ああ、佐保が?」
僕がそう尋ねると海美ちゃんは持参した水筒から麦茶を飲み、それからこっくりと頷いた。思い切り泳いだせいだろうか、海美ちゃんの日に焼けた頬は少し紅潮していた。
こうして隣に並んで座ってみると、確かに彼女の顔は佐保に似ている。眼鏡をかけたら一瞬どちらがどちらか分からなくなってしまうかもしれない。つまるところ美少女だ。
そんな彼女はスクール水着姿のまま体育座りをして波打ち際の方を眺めている。
彼女の濡れた髪が首筋に貼り付いていて、それがなんだか艶っぽく見えた。佐保と違ってこちらのことを意識していない様子だから、その無防備さにそう思ったのかもしれない。
「ラブラブですね、おふたりは」
「え……?」
海美ちゃんが遠くを見ながら小さく呟いたので、僕は尋ね返した。すると彼女は体育座りをしたまま下から見上げるようなポーズでこちらを見た。
キラッとしていて大きな瞳だ。それがゆっくりと細められていて、ニッと笑った。
「佐保お姉ちゃんと光儀さんは、すっごいラブラブなんですね、って言ったんです」
「そうだね、ものすごくラブラブだよ」
「わわっ、すっごい断言っ! 言い切りますねえ」
「まあね」
「こういうときに、ちゃんと『ラブラブだよ』って言い切るひと、珍しいです。ふつうはもうちょっとこう『いや、まあ、あはは……』みたいな感じになりません?」
「でも、謙遜しても仕方ないから」
実際に僕と佐保はかなり仲が良いのだという自覚がある。だって僕は佐保のことが好きだし、佐保もかなりのところ僕のことを好きだろうという質感が随所に感じられるから。
それに、塩水に濡れたまま波打ち際で無邪気に貝殻を拾っている佐保は、ぶっちゃけ、ちょっと変わり者だ。すぐ『ハメ撮りがしたい』とか言い出すし。
あの子のことを受け入れられるのはこの世に僕しかいないと思っている。これは惚気だろうか。たぶん惚気だろうな、と思ったのでそれは言わないことにして、僕は黙って海美ちゃんに向かって深々と頷いた。
すると彼女はそれを無言の惚気と感じ取ったのだろうか、ひゅーっと口笛みたいなため息を吐いて笑った。
「いいなあ……あたしも恋、したいなあ」
恋に恋する年頃なのだろうか。海美ちゃんは遠くを見るような目をして、体育座りの膝にアゴを乗せた。そうするといよいよ小柄に見える。
「海美ちゃんは好きな人、いないの?」
「いないですよお……この島、若い子がぜんぜんいないし。おじいさんとおばあさんばっかりだし、学校だって分校だし」
「クラスメイトとかもほとんど居ないんだ?」
「ぜんぜんです。特に、光儀さんみたいに落ち着いた人なんて皆無ですよ、皆無。一個下の男の子なんていまだに虫取りやってるし! このあいだは学校の廊下でセミを十何匹も放って大変なことになったんですから!」
「あはは……」
この波跡島は人口千人程度の小さな島である。ともなれば若者の数が少ないのも道理だ。
でもその分、島民たちの人間関係というか結びつきは強いのではないかと想像したりもする。僕と佐保は三歳からの幼馴染だけれど、それに匹敵するような近しい人間関係が島にはあるのではないかと思われた。
「その男の子のことが、気になっているんだ?」
「え!?」
「海美ちゃん今、ものすごく楽しそうな顔になったから」
「そんなことないですよっ! あいつ、本当にまだガキなんだからっ!」
僕がからかうと、海美ちゃんはバッと立ち上がって腕をぶんぶんと振り回した。顔が真っ赤である。といっても怒っているという風ではない。むしろ照れている風で、それがなんだか可愛らしかった。
佐保はこういう挙動はしない。無口で無表情である佐保は僕がからかうと「……む」と頬を膨らませたり、小突いてきたりはするけれど、こういうコミカルで大振りな動作はあまりしないから。だからちょっと新鮮な感じである。いとこ同士で顔は似ているというのに、表情の付け方はぜんぜん違うらしい。
などと思って見とれていた、そのときだった。
「海美? 何やってんだ?」
急に上から声をかけられて、見上げると堤防の方に男が立っていた。逆光でよく見えないが、声は若い。少年だろうか。釣り竿を肩に担いで、手にバケツを持っているのが見えた。
「水紀《ミズキ》!」
海美ちゃんは彼の方を見て小さく叫び、それから腕組みをしてそちらを見上げた。ちょっと楽しそうな表情をしている。
対する彼、水紀くん(?)は堤防にしゃがんで、それから僕の方をアゴでしゃくった。
「その人、誰?」
「うちのお客さん!」
「ああ、ふうん……」
彼は値踏みするような目でこちらをジロリと見て、それから水着姿の海美ちゃんを頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺め、それからまた僕の方をマジマジと見た。
そんな彼の視線を遮るように海美ちゃんは僕の前に立って「うちのお客さまなんだから変な目で見ないの!」と水紀くんに向かって叫んだ。
それから彼女はこちらを振り向いて、少しだけ申し訳なさそうな顔で笑った。
「あいつが、その……虫取りのやつです。あたし、ちょーっとあいつとお話してきますね!」
そう言うが早いか海美ちゃんはパッと砂浜を駆けだして、水紀くんのいる堤防に登っていった。
水着姿のまま堤防によじ登った海美ちゃんは、またぶんぶんと手を振り回しながら水紀くんと何やら話している。眉をつり上げているように見えるけれど、挙動は相変わらずコミカルだし、楽しそうだ。
対する水紀くんも海美ちゃんをからかいながらお喋りに興じているように見える。海美ちゃんが『男』とふたりきりで砂浜に座って会話しているところにわざわざ声をかけてきたのだから、きっと彼にも思うところがあったのだろう。
なるほど、あれが海美ちゃんの好きな人か。本人たちに自覚があるかどうか不明瞭だけれど、ちゃんと島にも出会いがあるじゃないか。などと思って少し笑えた。
何となく昔の佐保と僕のことを思い出した。僕と佐保も昔はあんな感じだったかもしれない、と思ったのだ。
「そういえば佐保はどこに行ったんだろう?」
先ほどまで波打ち際で貝殻を拾っていた佐保の姿が見えないことに気が付いて、僕は砂浜をぐるりと見回した。まさかひとりで泳ぎに行って流されたということはないと思うけれど、それはそれとして心配になるものだ。特に佐保はひとりでフラッとどこかへ行ってしまう傾向があるし。
そう思って砂浜を見渡して、見つけた。
佐保はビーチの端にあるテトラポッドと岩礁が一体になったような雰囲気の岩場の陰からこちらを見ていた。
「あんな岩場で、何を……?」
彼女のいる場所はちょうど周囲から見えないようになっている場所だ。距離はここからおよそ数十メートルといったところ。その岩場から彼女はひょっこりと顔だけを出して、ちょこちょこと手招きをするような動きをしている。
呼んでいる、のだろうか。
とりあえず振り返って海美ちゃんの方を見ると、彼女は水紀くんと堤防に並んで座ってすっかり話し込んでいるようだ。話の種は尽きない雰囲気である。
それから僕はまた佐保の方を見て、絶句した。
「──ッ!?」
岩場の陰からこちらを窺っていた水着姿の佐保が、おもむろに自分のビキニのブラの側をぐいっと上にたくし上げたのだ。
乳房が、見えている。
ビキニの上をめくり上げたら乳房が露出するのは当然だ。それはそうなのだけれど、ここは海水浴場で、つまりは外で、女性が胸を露出するのに適切ではないことは明らかだ。
にもかかわらず佐保は自分の胸をこちらに見せつけるようにブラをズリ上げている。
「な、なにやってんだよ……!」
思わず周囲を見回しながら僕は立ち上がった。周囲に海水浴客はいない。何組かいた親子連れはもう帰ったようだ。だから貸切状態ではある。僕の背後には海美ちゃんと水紀くんがいるけれど、彼らは話し込んでいて佐保の露出に気付いている気配はない。
それから佐保を見ると、彼女はやはり胸を露出させたまま岩場の陰から手招きをし続けている。
距離は遠いけれど、彼女の口がこう動くのが見えた。
『き・て』
こうしている場合ではない。
だから僕は慌てて佐保のいる岩場の方へと砂浜を駆けていったのだった。