無口無表情な幼馴染が「いじわるされたい」とか囁いてきて

著者: しじままどせ

電子版配信日:2024/05/10

電子版定価:880円(税込)

――放課後の空き教室でセックスすると、ふたりは一生の愛で結ばれる。
学園のこの噂が気になる恋人の雪村佐保は、教室で「ハメ撮りがしたい」らしい。
いつもクールで口下手な彼女が、小説の参考映像にという口実で僕に迫ってきた。
お仕置きクンニ、ローターお散歩、倉庫で乱暴プレイ……カメラに収める絶頂姿。
激しく強引なエッチも、甘々両想いなふたりにとっては、秘密の愛のフィルムに。
晴れて結ばれた幼馴染同士を描く、ハメ撮りから始まる学園純愛ライフ!

目次

1 与木遥奈という子

2 日常と一生の愛について

3 お仕置き

4 羞恥クンニ

5 立ちバック

6 アキレスと亀と永遠

7 昼休みの催し

8 女子トイレにてフェラチオ

9 釘を刺される

10 今後のこと

11 デートの待ち合わせ

12 リモコンバイブ、装備

13 リモコンバイブ、散歩

14 リモコンバイブ、家電量販店、店内絶頂

15 自撮り棒を持って臨海公園を歩く

16 ラブホにて生ハメ

17 ばら風呂

18 お風呂で背面座位

19 デートの帰り道

20 これから

21 体育倉庫でハメ撮りプレイをしよう

22 合意なしという「てい」

23 やや強引に生ハメ

24 アイコンタクト

番外編1 疑似姉弟プレイでハメ撮りをしよう

番外編2 与木遥奈は見た

番外編3 アダルトグッズとロケハン

番外編4 僕と佐保の何もない日

本編の一部を立読み

1 与木遥奈という子



「この映像を世間に流出させたくなかったら……わかるよね?」
 放課後の空き教室。
 夕日が窓から差し込んできて、長い影を床に落としている。グラウンドからは運動部のかけ声や楽器の音が流れてくる。ほんの少しだけノスタルジックで、どこか切ない空気感だ。
 しかし、そんな雰囲気の中で、僕たちの間には緊迫感があった。
 美少女が僕にスマートフォンを突き出している。
 その画面に映っているのは、ハメ撮りの映像だ。
 僕と、僕の恋人である雪村佐保が裸で絡み合っている動画だ。これは先だってラブホテルで撮影した映像で、誰に見せるものでもない、門外不出の品である。
 そんなモノが、学校のこんな空き教室で再生されているなんて、どう考えても普通ではない。
「わかるよね?」と念を押す彼女。
「……ぐっ」と思わず押し黙る僕。
 彼女は、はぁ……とため息をつくと、少し呆れたような態度で、けれども当たり前のように言った。
「今からここでセックスをしてもらいます。あなたに拒否権はありません」
 と。

 ◇◇◇

 |与木《よき》|遥奈《はるな》さんは僕と佐保のクラスメイトだ。
 ふわふわとした柔らかい髪質の栗毛に、クリっとした大きな瞳をしたかわいい系の女の子だ。性格も明るくて人懐っこくて、そういう距離感の近い子だからなのか、人気がある。転校してきたばかりだというのに友達が多い。
 僕もなかなか好感を持っている。人見知りの気がある佐保ともすぐに仲良くなったみたいだし、僕に対してもなかなかフレンドリーに接してくれるからだ。
 そんな与木さんと佐保がお昼休みの教室で立ち話をしている姿を見かけた。
「ねぇねぇ佐保ちゃん、この間貸してくれた小説すっごく面白かったよー! なんか胸がきゅんきゅんしちゃいましたっ!」
「そう」
「同じ作者の方が書いた本とかある? あったら借りたいんだけど……」
「ある」
「ほんとに!? え、また貸してくれるんだ、やったぁ」
「……ふふん」
 どうやらお気に入りの小説を貸し借りしているらしい。文学少女であるところの佐保は他人が好みそうな小説を紹介するのがとても上手い。与木さんに貸したのは恋愛小説だろうか。
 与木さんはオーバーにぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。こちらはひとつひとつの動作が大きい。そのたびに彼女の柔らかそうな髪の毛が揺れている。
 一方、佐保の反応は無口無表情な彼女らしいとても淡白なものだ。けれど、彼女が内心では喜んでいることを僕は知っている。そしてそれを悟られないようクールぶっているということも。
 なにしろ与木さんに本を差し出す佐保は、いつもよりずっと胸を張ったドヤ顔だったのだ。幼馴染たる僕の目にはバレバレである。
 客観的に見るとふたりとも美少女なので絵になる。いや、正確には佐保単体でもめちゃくちゃ美少女だけど、与木さんがいることで美少女と美少女になってかわいさが二乗になっているというか。
 というか、与木さんが佐保のかわいい面をめちゃくちゃ引き出してくれているように思う。
 佐保は僕以外に対して普段あまり感情表現しない分、客観的に佐保のかわいい面を見かける機会が少ないのだ。だから新鮮で、とてもいい。
 全然自分とは関係のない会話をしている恋人を常に目で追っている僕って、なかなか気持ち悪いとは思うけれども。まあ、昼休みで暇だしね。
「…………?」
 ふと、僕からの視線に気がついたらしい佐保が、こちらを見て小さく手を振ってきた。ほんの少し顔を赤く染めて、嬉しさを隠しきれない様子で。とてもかわいい。
 僕は微笑みながら手を振り返す。
 すると佐保は満足げにこくりと首肯して、再び与木さんの方に向き直った。
 そんな僕たちを与木さんは交互に見ながらクスクスと笑っている。なんだかすごく楽しげだ。いつも朗らかな子だけれど、今日は特に機嫌が良いように見える。何か良いことでもあったのかもしれない。
「ふふっ、相変わらず仲良しだねっ」
「それはそう」
「いいなぁ、わたしも彼氏欲しいなぁ」
「あげない」
「あはっ、佐保ちゃんからは取らないよっ」
「……ならいい、応援する」
 そんな感じで佐保は与木さんとの会話を楽しんでいるようだ。与木さんも与木さんで、佐保と話すことが楽しいらしく、その後もしばらく談笑してくれていた。
 やっぱり美少女ふたりの戯れはとても眼福だ。見ているだけで癒される。
 そうしてぼんやりと見ていたら、与木さんがこちらを見てクイクイと手招きしてきた。「こっちにおいでよ」というジェスチャーだ。
 誘われるように、僕はふらふらとそちらに近づいていく。
「……|光儀《みつぎ》」
 佐保が僕の名前を呼んだ。彼女が僕の名前を呼ぶことはまあまあ珍しいことだ。それだけで嬉しい。たぶん与木さんと三人の場だったから名前を呼ばれたのだろうなとは思うけれども。
 ちょっと照れているらしい様子の佐保は、丸眼鏡の奥の目を泳がせている。小柄で華奢な身体をもじもじとさせている姿は、小動物みたいに愛らしい。
「やあ、佐保。それから与木さんも、こんにちは」
「うん、こんにちは、光儀くんっ」
「……ん」
 与木さんは佐保の隣に立つと、僕に向かってニコッと笑いかけてきた。誰に対しても分け隔てなく接することのできる活発な子だ。
 くりくりとした目で僕を見上げてくる与木さん。
「ねぇねぇ、佐保ちゃんとラブラブなの?」
 唐突に、与木さんが僕に問いかける。
 百パーセント興味本位だと思われるその質問に、僕は苦笑しながら答える。
「ラブラブだよ」
「わわっ、明け透けだねっ」
 与木さんが両手を口に当てて驚いたような声を出す。挙動がいちいち大きい子だ。
 とすっ、とスネに軽い衝撃を感じた。
 見ると、佐保が僕の袖を掴んだ状態でローキックを放っていた。耳まで真っ赤にして、ジトっとした半目で僕を睨んでいる。
「……ばか」
 ぼそり、呟かれた言葉。たぶん佐保語によるところのツンデレだ。アイラブユーに近い意味。
 それがあまりにもかわいくて思わず抱きしめたくなったけど、さすがに公共の場だし自重した。
 そんな僕たちの様子を与木さんはニヤニヤと眺めていて、なんだかいじりがいのあるおもちゃを見つけた子供みたいな表情だ。
「はいはい、ご馳走さまです。お熱いことですねぇ」
「……それはそう」
「もー、佐保ちゃんは素直だねっ。かわいいかわいい」
 与木さんはそう言って、佐保の頭を撫でる。
 小柄な佐保は嫌がることもなく、されるがままになっている。お人形さんのように大人しい。佐保が小柄なので、身長差もあって与木さんがお姉さんみたいに見える。
 佐保は僕の方をちらりと見上げると、与木さんの手に頭を委ねたまま、口を開いた。
「……いつもこう」
 その口調は愚痴みたいな響きがあったけれど、佐保の口元は緩んでいた。与木さんに構われて満更でもない感じがあった。
 佐保がこういう風に僕以外に甘えることは本当に少ない。僕が知っている限りでは、与木さんが初めてだ。
 人懐っこい人ってすごいんだな、などと僕はのん気に考えている。
「ところで、どうしてこの学校って空き教室が多いんだろう?」
 転校してきたばかりの与木さんが、不思議そうに言った。確かに、僕たちの通う高校には使われていない部屋や教室が多くある。
 与木さんのその疑問はもっともだと思う。佐保は僕の袖を掴んでいない方の手を顎に当てると、首を傾げた。
 答える気がなさそうな佐保のかわりに僕が与木さんに答える。
「少子化の影響らしいよ」
「へぇ、そっかぁ」
「昔はマンモス校だった名残で教室がたくさんあるんだけど、今は少子化で生徒が減ってるから使わなくなったんだって。放課後の見回りの先生も、たまにしか来ないし」
「それであんな噂があるんだね……」
「……噂?」
 与木さんが声を落として、囁くように言う。
 佐保がそれに聞き返す。
「なんかね、放課後の空き教室でセックスをしたふたりは一生の愛で結ばれるんだって」
 与木さんは内緒話でもするように、僕たちに顔を寄せてそう言った。
 なんという噂だよ、この学校の治安大丈夫か、などと思うけれども、佐保は別段動揺している風もなく、淡々としていた。
「ふぅん……」
 と、興味無さげに呟いて、僕に身を寄せて腕を組んでくる。まるで自分のものだとアピールしているかのようだった。
 佐保がそれ以上何も言わなかったので、僕も黙って立っていた。
 そうして、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。それで会話は打ち切られて、ごく真面目な僕たち三人はそれぞれの席に戻った。
 自分の席に姿勢正しく座った佐保は相変わらず無表情で、何を思っているのかわからない。じっと見つめていたら、ふいに目が合って、佐保はまた小さく手を振ってくれたのだった。

──放課後の空き教室でセックスをしたふたりは一生の愛で結ばれる。

 他愛ない、どちらかというと馬鹿みたいな話だけれど、その噂はしこりのように僕の胸に残った。
2 日常と一生の愛について



 佐保と放課後の空き教室でセックスがしたい。一生の愛で結ばれたい。
 そんなことを考えながら、僕は午後一番目の授業を受けていた。
 教壇では社会科の教師が歴史の教科書を片手に講義をしている。講義が眠いことで有名な教師だ。なんて不名誉な有名さだろうと思うけれど、事実なので仕方ない。
 なんだか気だるい雰囲気が漂う中、僕は黒板に文字が書かれていくのを書き写すでもなく眺めていた。
 クラスの半分くらいの生徒はもうすでに夢の世界に旅立っている。まあ、眠くなる時間帯だ。はっきり言って僕もかなり眠かった。
「…………」
 そんな中で、佐保だけは背筋をピンと伸ばして真剣に話を聞いていた。時おり小さく頷いたりしながら熱心に聞いている風に見える。
 彼女はどの授業でも寝ている姿を見たことがない。成績も優秀でテストでは毎回上位に入っているらしい。
 ただ、真面目そうな様子で話を聞いているからといって、きちんと受講しているとは限らない。
 佐保からノートを見せてもらったことがあるのだけれど、とても綺麗な字で書かれているものの、ノートの隅に詩の一節のようなものが書いてあったりした。猫のような生き物の絵が描かれてあったりすることもあった。
 ちなみに、佐保はまあまあ絵が下手である。それを指摘したら二度とノートを貸さないと言われてしまったので、以来佐保の落書きについては何も言わないようにしている。
 きっと佐保は今も真剣な顔をしながら頭の片隅で突拍子もないことばかり考えているに違いない。まあ、それは僕も同じだけれども。
 なにしろ僕は佐保とセックスがしたくてたまらないのだ。それも、学校で。そんな邪な考えをずっと抱いているのはいかがなものだろうか。
「…………?」
 そんなとき、佐保がこちらに顔を向けていることに気がついた。
 視線をやると、佐保はなんでもないとばかりに首を振る。そして前を向いてしまった。授業中なので手を振ったりもしなかった。いつもの無表情。
 けれども目が合ったときに数ミリほど唇の端が持ち上がったので、もしかすると微笑みかけてくれたのかもしれない。
 思わず佐保とセックスした日のことを思い出す。佐保の裸、佐保の吐息、佐保の感触……。
『放課後の空き教室でセックスをしたふたりは一生の愛で結ばれる』というその噂。
 与木さんから聞いたときはどうとも思わなかったのだけど、こうして意識してしまうと変な妄想が膨らんでしまう。
 一生の愛。
 一生の愛とは、なんだろうか。
 結婚して夫婦になること? 死ぬまで添い遂げること? それとも、単に愛し合うこと? どれをとっても素敵なことだとは思う。佐保とならどれも叶えたい夢だ。
 たぶん佐保も僕と同じ気持ちでいてくれるだろう。そんな気がするけれど、いや、確信に近いレベルでそう思うけれど……。
 佐保といつまでも一緒にいられたらいいな、などとぼんやり考える。それはとても幸せなことだと思った。
 佐保と放課後の空き教室でセックスをしたい。
 そんなことを考えながら再び佐保を見ると、彼女はいつもと変わらない様子で黒板と向き合っていた。

 ◇◇◇

 放課後になった。
 佐保が僕の元に寄ってきて、カバンを手に取る。
「帰ろ」
「うん、帰ろうか」
 佐保が当たり前みたいに僕に声をかけてくる。僕はそれを受け止めて、佐保の隣に立つ。
 僕たちはそのまま教室を出て、下駄箱に向かう。僕と佐保の間に言葉はなかった。ただ隣り合って歩くだけだ。
 昇降口に着くと、佐保が僕の手を握ってきた。その小さな手を握り返す。すると佐保はほんの少しだけ嬉しそうに口元を緩めた。
「…………」
「…………」
 お互いに言葉はなく、ただ立ち止まった。
 佐保のことが好きだな、と思った。佐保もそう思ってくれたらいいなと思う。
 彼女は僕のことをじっと見上げてこちらの言葉を待っているようだった。丸眼鏡の奥の瞳がくらくらと揺れていて、佐保の緊張のようなものが伝わってきて、それがなんだかいじらしく感じられた。
「佐保?」
「……ん」
「僕、ちょっと行きたいところがあるんだけど……」
「わたしも」
「そっか」
「……ん」
 佐保がこくりと小さく首を縦に振る。
 それからどちらからともなく歩き出した。佐保の手を引いて、来た道を戻る。すっかり人の気配がしなくなった校舎に戻って、廊下を歩いて、階段を上る。
 無言だ。けれど、示し合わせてもいないのに、ふたりとも行き先は決まっていた。
 心なしか歩調が速くなっていって、呼吸が少し乱れる。佐保も同じだ。まるでひとつに溶けていくみたいだ。
 やがて、目的地に着いた。
 そこは普段使われていない空き教室のひとつだった。
 扉を開ける。誰もいなかった。窓の外には夕日が落ちかけており、薄暗い室内には影が伸びて、床に長く黒い線を作っている。
 佐保が先に部屋に入って、部屋中のカーテンを閉める。僕もそれに続いて中に足を踏み入れる。後ろ手にドアを閉める。鍵もかける。かけ終える。
 瞬間、佐保が僕に抱きついてきた。
 ぎゅっと身体を押しつけて、僕の背中に手を回してくる。佐保の顔が僕の肩口に押し当てられる。
 そうしてかき抱くように互いに密着したまま、数秒が過ぎた。彼女の手が僕の腰を引き寄せて、その感触にぞくりとする。こちらも彼女を思いきり抱き寄せて、より強く密着した。
 そして、しばらく無言だった。
 ただ互いの呼吸の音と、心臓の音だけが聞こえる。
 お互いに心臓が高鳴っている。まるで走ってきたかのよう。佐保が僕の胸に耳を当てた。
「どきどきしている」
「そりゃね」
「わたしも」
「だろうね」
 佐保が顔を上げて、至近距離で見つめ合った。佐保は頬を紅潮させながらも、目を逸らさなかった。僕もまた、佐保を見つめ返す。
 まっすぐに見据えたままの目が、ゆっくりと瞼を閉じた。キス待ちの顔。
 僕はそれに吸い寄せられるように、彼女に顔を近づけ、そして、唇を重ねた。
 柔らかい感触。
 キスをしているのだと自覚すると、胸が熱くなった。頭がぼうっとして、全身の感覚が鋭敏になって、佐保の体温を感じることができる。
「……ん……ふ」
 佐保の口から声が漏れ出る。鼻にかかったような甘い響きだ。佐保の吐息を間近で感じる。
 それから、自分が学校でキスしていることに気がついた。
 ここは学校なのに、こんなところで、いけないことをしている。セックスをするために空き教室へ来てしまった。
 そう思うと、背徳的な興奮があった。佐保も同じようで、佐保は僕の首の後ろに手を回すと、もっと深く求めてきた。
 キスをしたまま口を開くと舌が触れた。舌と唾液を絡ませ合い、互いの味を確かめる。ぬめった粘膜と粘膜が触れ合うと、それだけで気持ちよくなってしまう。
 ちゅ、ぴちゃ、と水音が響いて、頭の中までぐずぐずに溶かされていくようだ。
 止めなければ、僕が冷静にならなければ、という心許ない理性もないことはないのだが。
「ぷは……」
 どれくらいの時間そうしていたのかわからないけれど、名残惜しみつつ、どちらからともなく口を離す。透明な糸が引いて、切れた。
 佐保は甘い呼吸を繰り返している。僕も似たようなものだった。
「佐保?」
「キスをした。意味は?」
「意味?」
「こういうことする理由」
「ああ」
 そんなことは決まっている。
 佐保のことが好きで、彼女を抱きたくなって、思わずキスをしてしまった。それだけのことだ。だからそのまま言う。
「僕は佐保のことが好きで、キスをしたくなってしまって、それでキスをした。それだけだよ」
「……むぅ」
 佐保は不満そうに眉根を寄せて、僕の制服の裾を掴んで引っ張ってくる。ちょっとほっぺたを膨らませて、僕を睨んでいた。
 珍しく本当に表情に出て不満げだ。いつもの無表情が崩れて、かわいらしい怒り方になっている。佐保は僕の服を掴んだまま、さらに一歩踏み込んできて、また僕に身を寄せてきた。
「キスでお終い?」
「えっと、どういうこと?」
「……ハメ撮りがしたい」と佐保がぼそっと呟いた。
「こ、ここで? い、いや、さすがにそれはダメでしょ」
「なぜ?」
「だって、そんなことしたらバレたら大変なことになるよ? 停学とかになるかもだし、親にも連絡行くだろうし……」
「む……」
 むーっ、と佐保が不機嫌そうな顔で僕を睨んでいる。そのまま自分の腹部を僕の股間に押し当てて、ぐりぐりと刺激してきた。
 制服越しに柔らかな腹部の感触が伝わってくる。同時に首に腕を回されて、顔を寄せられた。佐保の吐息が耳にかかって、こそばゆい。甘い匂いがする。
「あなたは勃起している」
「……う」
「わ、わたしは濡れてる」
 佐保の声音は真剣そのもので冗談ではないことがわかる。
 そして、佐保の言う通り僕のペニスはガチガチに硬くなっていた。佐保の身体に密着していて、その感触が伝わっているのだから当然だ。ズボンの中で痛いくらいだ。
 佐保はスカートを穿いているのだけど、それでもその奥にあるものがどうなっているのか想像できてしまう。きっと下着も湿らせてしまっているに違いないのだ。
 僕だって、したい。というか、するためにここに来た。けれどもそんなことをしていいわけがない。
「いや、やっぱりまずいって、佐保」
「…………」
 佐保は無言のまま僕に抱きついて、甘えるように頭を擦りつけてきた。猫がマーキングするような仕草だ。
 それから「はぁぁ……」と大きなため息をつく。呆れられたかなと思ったが、違った。
 佐保は僕から少し離れると、上目遣いでこちらを見上げてきた。
「……どうしても、だめ?」
「だ、だめ」
「……ん」
 残念そうに俯き、視線を落とす佐保。その様子はいじらしくて、抱きしめたくなるほどかわいい。
 佐保はしばらく黙り込んでいたが、ふいに何かを思いついたかのようにカバンからスマートフォンを取り出して、それを操作して、僕に画面を見せてきた。
 その画面には、ハメ撮りの映像が映っていた。
「──ッ」
 僕と佐保が裸で絡み合っている動画た。先だってラブホテルで撮影したもの。つまり僕たちがセックスしている映像だ
 どうしてそんなものをスマホに入れているんだよ。落としたらどうするんだ、などと焦る。
「さ、佐保、それは」
「ハメ撮り。あなたがわたしを犯している瞬間」
「い、いや、そうだけど、そうじゃなくて」
「これが流出してしまった暁には、あなたは破滅します。社会的に死ぬ。家族からも白い目で見られるようになるでしょう。わたしもあなたの傍にはいられなくなるかもしれないし、もしかしたら転校させられる可能性すらある。当然、わたしたちは、別れることになる」
 佐保の瞳が強い光を帯びた気がした。
 無表情ながら、挑みかかるような迫力がある。
「どっちにしても、もう終わり。ここでヤッても、ヤらなくても、同じこと。やらなくて後悔するよりも、やって後悔した方がいい、という言葉がある」
「……佐保」 
「この映像を世間に流出させたくなかったら……わかるよね?」
 佐保は有無を言わせない表情をしている。
「わかるよね?」と念を押す彼女。
「……ぐっ」と思わず押し黙る僕。
 彼女は、はぁ……とため息をつくと、少し呆れたような態度で、けれども当たり前のように言った。
「今からここでセックスをしてもらいます。あなたに拒否権はありません」
 と。
 そう言った彼女の目は、本気だった。

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