11/28 電子版発売

羅刹鬼6 ランデブーポイント

著者: 赤だし滑子

電子版配信日:2025/11/28

電子版定価:990円(税込)

スラム街の少女・ナツキと借宿に潜伏する復讐鬼、その陰では怪奇事件が多発!?
掲示板荒らし、聖夜に出没した雪男、二大ギャング襲撃、連続失踪事件……
一方、地上のフォートではアビゲイルがフォックス隊員達と遂に接触!
金色の死神・ニゲル──ある者は怖れ、ある者は慕う、戦没した狙撃兵の異名。
かつてその相棒だった兵士・イノライダーと出会い、運命は動き出した!
生き別れた美女と野獣、約束の合流地点へ。SFダークファンタジー、怒濤の第6巻!

目次

第二十七章 ナツキとヤクモとじぇぼたん

第二十八章 ファーストコンタクト

第二十九章 ドミニク

第三十章 諦めきれないブッチャー

第三十一章 死神の家

第三十二章 すべてがニアミスの夜

第三十三章 強盗帰り

第三十四章 【選ばれし者】西区高層階専用・雑談スレ【高天原】5028

第三十五章 忠犬と雷槌

第三十六章 神の家にて

第三十七章 ランデブーポイント

第三十八章 ベッドの上の報告

第三十九章 白面金毛九尾の狐

特別書き下ろし キャットフィッシング

本編の一部を立読み

第二十七章 ナツキとヤクモとじぇぼたん

 ◇◆◇(ジェヴォーダン視点)

 ぴんぽーん。
「はーい!」
 元気な声を上げて、ナツキが玄関へ走った。
「――シゲアキさんのお宅はこちら――」
「――ダーリン寝てるから、あたしがかわりに――」
「――ではターミナルをこちらに――」
 通販は素晴らしい。
 文明が辿り着きうる、ひとつの到達点だと思う。
 感謝――圧倒的感謝――。
 シゲアキの財布にも感謝。そつなく玄関対応をこなしてくれるナツキにも感謝。いつの間にかパソコンを使えるようにしてくれたヤクモにも感謝。仲間はずれにならないようにダイヤにも感謝。みんな愛してる。おかげで、ブッチャーである僕でも、こうして部屋に引きこもって安心安全にネットショッピングを堪能できているのだから。ポチポチとボタンを押すたびに、欲しいものが向こうからやってくる。これでどうして世界を愛せずにいられようか(いいや、愛せずにはいられない)。
「うんしょ……」
 ナツキが大きな段ボールを抱えてリビングに戻ってきた。
 かなり重たそうだ。ぜんぶ僕の注文した品。人の金で物を買い、いたいけな少女にその荷物を運ばせる。やや申し訳ない気分にもなる。どうやら、僕には人をこき使う才能がないようだ。心に芽生えた小さな罪悪感を紛らわせるため、立ち上がって手を貸した。こんなときこそ頼りがいのあるブッチャーの出番だよね。力仕事なら任せて。
「……」
 そんな僕の純粋な親切に、しかしナツキはお礼も言わず、じとっと|一瞥《いちべつ》。ソファーへ直行してしまう。
 ちなみに彼女、今日はノースリーブのニットワンピース姿だ。白い肩が見えていて、脇の下から腰までガバッとスリットの入った、なかなかセクシーなやつ。シゲアキが所有していた女物の服はこんなのばっかりだった。殺人鬼のくせに、なんていい趣味なんだ。柔らかい生地が垂れかかり、浮かび上がるお尻のシルエットに息子が涎を垂らしている。
 気を取り直し、僕はキッチンで荷物をほどいて冷蔵庫に食料を詰めた。いろいろと購入したんだ。生鮮食材に、冷凍食品。冷凍チーズケーキは早速、冷蔵庫に入れて解凍しておく。荷物にはナツキの変装グッズも入っていた。カラコンとウィッグ。彼女の特徴的なジト目をカモフラージュするアイプチと眼鏡。その他、ギャル風の衣装。いずれ、外へお使いに出てもらわなくなったときのための変装グッズだった。
 非合法な娼婦という仕事柄、ナツキのターミナルには偽装用の身分証がいくつか入っているらしく、それを使えば、よほどピンポイントに捜索されないかぎりは、簡単な変装でも問題なく警察をあしらえるという。頼もしいことだ。
 チーン。電子レンジが鳴った。
 ほかほかのホットミルクココアを作ったんだ。ソファーまで持っていき、ナツキの前に置く。コトリ。お仕事、お疲れさまでした。
「……」
 彼女は差し出されたココアにフーフーと口をつけ、無言でターミナルをいじる。
 無視――圧倒的無視――。
 それも仕方あるまい。
 昨日の昼ごろになって、ようやくのろのろと寝室から出てきた彼女は、僕がヤクモの目の前で何度も中出ししたことに大層ご立腹。リアル激おこぷんぷん丸なのだった。
 結局、昨日は寝るまで口を利いてくれず。夜の営みもなく。今朝もこんな感じで、おこモードはついに二日目に突入している。まぁ、昨晩は休ませるつもりだったからいいんだけど、ちょびっと寂しい。でも、弟くんの前で何度も種付けしたことには後悔していない。気持ちよかった。
 まぁしかし、今朝はなんとか「おはよう」のひと言を引き出せたから、勢いを増した外の雪とは対照的に、彼女の心の氷は少しずつ雪解けの兆しを見せ始めている。(性的な)春は近い。一生懸命、真心を込めて肉料理をこさえたのが彼女の心に届いたのかも。
 実はこんな喧嘩のやりとりさえも、僕としては新鮮で楽しかったりする。あんまり、こういう怒り方をする人は、僕の周りにはいなかったから。かわいらしいね。
 一方で、こうして無視攻撃を受けている時間を利用して、弟くんと心の交流も進めている。
 キッチンから、ちらりと書斎をのぞいてみると、コンピューターに向かってマウスをカチカチするヤクモが見えた。机の上にはダイヤもいて、一緒になって画面を凝視している。初めて見るパソコンに夢中になる蜘蛛なのだった。
 弟くん、ぜんぜんしゃべらないけど、普通にネットとかはできるみたい。
 それならメールでテキストのやりとりくらいは可能なのでは?
 そう思ったんだけど、それはできないそうだ。ナツキいわく、生まれつきの障害らしいけど、重症だ。もっとも、その分厚い|模糊《もこ》とした|靄《もや》の向こうには、知性の輝きが透けて見える。ヤクモはまったくの|白《はく》|痴《ち》というわけではない。
 思えば、この子は僕と似たようなところがある。
 頭で考えてはいるけれども、それを他者とやりとりできない。あるいは、そのやりとりに重大な障害がある。やや同情を覚える。
 そこで、言語障害の大先輩であるこの僕が、|教鞭《きょうべん》を執ったというわけだ。
 書斎に向かい、ヤクモの肩をつんつん。次いでリビングに座っているナツキの背中を指差し、頭の上で指を二本立てて見せる。おこのポーズ。さらに口にビーッとジップを引いて、両手で「ホワイ?」のジェスチャーで首をかしげた。
 そんな一連の「ナツキがまだ怒ってて口きいてくれないんだけど、どうしたらいいかな?」なボディーランゲージを、すんっと眺めていたヤクモは、ごそごそとノートを取り出して、とあるページをめくって見せてくれた。
 ナツキのエロい絵だ。
 かなりエロい。ノートの最後のページだから、たぶん、おとといの、らぶエッチなシーンだと思うんだけど、どういうわけか、彼女が無数の触手に犯されている絵になっている。彼にはこう見えていたのかも。想像力たくましいね。
 つまり、もう一回ラブなまぐわいをすればよいということだね?
 喧嘩して仲直りした日の夜は、普段よりも熱い営みになるって言うもんね。よし、今夜は勇気を出して誘ってみよう。ヤクモのナイス・アドバイスに、頭を撫でてサンキューの意思を伝えた。僕を見上げるジト目は、そこはかとなく満足そうだ。
 どうですか。言葉なんてなくたって、知恵と工夫で相互理解は可能なのです。大切なのは伝えたいという情熱。僕と弟くんの会話は基本的に指差しジェスチャーだけど、不思議なことに、これでもなんとなく分かり合えるものだ。すれ違っている感も、ややあるけど。
 ところで彼、やっぱり絵が上手い。
 ノートをペラペラとめくってみると、そこにはいろいろな絵が描かれていた。
 すべてが|上手《じょうず》。
 そして問題のヌード絵なんだけど、かなりの枚数がある。そして、前に見せてもらったときは、顔が見えない構図だったから気がつかなかったけど、これ間違いなく、ぜんぶナツキのヌードなんだよね。おとといの夜に見た彼女の透き通るような裸体がよく表現できていた。ふーむ……ムラムラしてきたぞ。絵でムラムラさせられるというのは、一流画家の証明だ。
 勃起しそうになったので、机の上に視線を流した。
 そこには大量の折り鶴が散らばっていた。
 このとおり、彼は折り紙も得意だ。鶴だけじゃなくて、犬、猫、ネズミ、馬、牛、はてはファンタジーなドラゴンまで。机の上は折り紙サファリパークになりつつあった。その中でカサカサと動き回るダイヤは、さしずめ怪獣枠か。
 それから、ヤクモはネットが使える。
 シゲアキのコンピューターを真っ先に使い始めたのは彼だった。そのとき、ふと疑問に思ったのは、どうやってロックを解除したのだろうか、ということだった。
 シゲアキはものぐさで、いわゆるパスワードとしては絶対に使ってはいけない、ありふれた記号列を使ってしまう人間だったのだろうか。不思議だったけれども、まぁコンピューターが使えるのであれば些末なことだ。そんなことよりインターネットが使えるぞ!
 そんなことで昨日、ナツキの無視攻撃に耐えかねた僕は、ヤクモを膝の上に乗せて一緒にネットサーフィンを楽しんでいたってわけ。丸一日ずっと、そんなことをしていた。
 真っ先に調べたのは、アビゲイルの性的|嗜好《しこう》について。
 僕に殺されそうなシチュほど感じちゃうって、マゾと言えるのか、ちょっと気になってたところなんだ。そうして開始した調査は半日ほど続き、結果として彼女はオートアサシノフィリアという立派な名前がついた性的|倒錯《とうさく》に当たるであろうことが判明した。勉強になった。っていうか、性的倒錯のリスト、充実しすぎでしょ。業が深いにもほどがあるぞ人類。
 僕とヤクモはネットショッピングにも精を出した。とても楽しかった。買い物って、どうしてあんなに楽しいんだろう。シゲアキの金だけど。いや、他人の金だからこそか。
 僕は指が太いし、爪が邪魔だから、キーボードを打つときはデジタルに不慣れな老人みたいにして人差し指でぽちぽち押すほかない。身体の大きなブッチャーが背中を丸めてぽちぽちと。|惨《みじ》めな絵面だ。
 一方のヤクモはハッカーよろしくカチャカチャカチャ……。
 普通にキーボードで文字を打てるでやんの。
 納得がいかない。お前、言葉を扱えないんじゃないのかよと。一人で勝手に仲間意識をいだいていた僕が馬鹿みたい。騙された気分だ。
 試しにと思って、ノートにネット記事の書き写しなどもやらせてみれば、できるんだこれが。文字は書ける。それではと、僕がノートに文字を書いて語りかけてみるとすんっ……強制シャットダウン。
 要するに、会話形式がダメらしい。文字自体は読めるし、書けるんだ。そんな法則性が判明したとしても、やっぱり納得がいかない。なんで? 単に僕が嫌われているだけなの? 姉弟そろって無視しないでよ!
 たまらず、シカト中のナツキに問い合わせてみた。
 すると彼女は「ああ……そうなんだよね」と、僕を徹底シカト中にもかかわらず、昔からそうだということを教えてくれた。彼女もまた、会話形式だけがダメという弟くんの状態は把握しているらしく、だからこそ、いつか治る可能性もあると信じているそうだ。
 こうなれば僕も意地だ。あの手この手で、ヤクモとテキストのやりとりを試みたものの、とにかく双方向に至るやりとりは、ことごとく失敗した。自分の中で反骨精神が首をもたげるのを感じる。僕は生前から諦めが悪いことで知られていた。絶対に会話してやるからな、ヤクモ。首を洗って待ってろよ。
 そういう君は結局、ネットで何をしていたのかな?
 好奇心で彼の閲覧履歴をあさってみると、その中にネットの匿名掲示板を見つけられた。〈Fちゃんねる〉という。
 これ、フォート民のガス抜き場であり、他のフォートとも情報交換できることもあって、結構昔から流行っていたやつだ。
 当然、自治政府による監視対象となっているわけだけど、政府もこれを潰そうとまではしなかった。むしろ、好きに吐き出させて監視した方が、コントロールしやすいと考えていたフシもある。監視されているとはいえ、ある程度の匿名性があるのが人気の秘密なんだって。僕は興味ないから、ほとんど使ったことはなかったけど。

[103] ハチハチの名無しさん[sage] ID:bsKHifcj0u
この雪は豪雪となるであろう
白く輝く|猩々《しょうじょう》は厄災と共に現れる
備えよ

 これがヤクモの書き込み。予言者かな?
 ちなみに、否定的なレスがめっちゃついてた。ここって豪雪地帯じゃないからね。この雪も珍しいよ。
 ヤクモはこんな感じで、ものすごく特徴的な書き込みをするから、匿名でもおおよそ一連の書き込みが同一人物だと分かるみたいで、Fちゃんねるではノストラダムスくんと|揶揄《やゆ》されていた。
 ヤクモが書き込むと「ノストラダムスくん降臨!」「キター」みたいなレスがついて、|気狂《きちが》い扱いする層と、面白がる層で言い合いが始まる。ある意味、すごい存在感を放っているとも言えるだろう。その的中率を検証するサイトなんかもあったりする。ちなみにその的中率は驚異の百パーセントだ。えぇ……?
 掲示板で、顔真っ赤にして不毛な戦いをすることを、レスバって言うんだっけ。でもヤクモはどんな反応が来ようとも顔真っ白のまま、すんっ。そもそも|返信《レス》に興味なさそう。この子、レスバ無敵かも。
 彼はこうして、やや言葉づかいに宗教味を感じさせるけれども、掲示板にだって書き込める。理由はたぶん、会話じゃないから。すなわち書き捨てであれば書けるということだ。
 やっぱり納得いかない。
 脳の障害かなと想像してたけど、ただの重度のコミュ障なのでは……?
 僕が疑惑の眼差しを注いでいると、ヤクモがノートにカキカキ。
 血塗れたチーズケーキの絵だった。丁寧に|血糊《ちのり》だけ赤く色づけているから、なんだかすごくバイオレンスなアートっぽい。ひょっとして血じゃなくてイチゴソースかな。
 ヤクモを連れてリビングのソファーに移動し、ナツキの隣に腰掛けた。
 届いたばかりで、まだちょっと凍っていたチーズケーキをテーブルに置く。ナツキが真っ先に手をつけようとしたけど、テーブルの下からダイヤがもぞもぞと這い上がってきたのを見て、肩をビクッと跳ねさせて手を引いた。彼女はまだダイヤという巨大昆虫の存在には慣れないようだ。というか、ヤクモの適応力の高さがすごすぎる。
 僕はラップトップを引っ張り出して、ソファーに座りながらネットサーフィンを継続。ものすごく久しぶりの人間社会に中毒気味なブッチャーなのである。
 するとなんと、隣に座ったヤクモが僕の口にほいほいとチーズケーキを配給してくれるではないかうまい! まだちょっと凍っててシャクシャクだぁ!
 ダイヤにもチーズケーキを差し出すヤクモ。ペイフォワードの精神。チーズケーキを分け合うなんて高潔だ。でもさすがに蜘蛛はチーズケーキを食べられないのか、ダイヤは前の脚でバッテンを作っていた。それを見たヤクモはすんっ……と残念そう。かわりに僕が|黝《あおぐろ》い舌を伸ばして頂戴する。シャクシャクうまい!
 僕がチーズケーキを頬張る姿をすんっと見つめていた彼が、ふと何かを思いついた様子で手元のターミナルを見せてきた。その画面には、キリンが草を|食《は》んでいる写真が。
 んー、なるほど。確かに。僕のベロってキリンの長い舌に似てるのかも。色やボリューム感もそっくりだ。聖人ヤクモにとってみれば、ブッチャーだって、きっとサファリパークの愉快な一員にすぎないんだね。やったぜ。
 ゲンキデスカーッ!
 の音が、突然ヤクモの端末から上がった。これ、ヤクモのメッセンジャー着信音。毎回びっくりする。ターミナルをのぞいてみると、ナツキのアイコン(プロレスの覆面)にバッジがついていた。
『じぇぼたん、ランチど?』
 メッセンジャーアプリをぽちぽち。
 ワン、ツー、スリー、ダアアアアアア!
 これがナツキの受信音。プロレスが好きなのかな?
『何か食べたいものある?』
『お肉飽きた定期』
『今日はラーメンもあるよ』
『わっしょい何系?』
『昨日ナツキが買ってたやつ。辛い系だったかな』
『3150~~これはもう麺しか勝たん』
『唐辛子系より|麻辣《まーらー》系の方が僕は好き』
『はわ~~~~~~卍わかりみが深い。あたし|酸辣《さんらー》もすこなのだ~~草』
 隣同士でぽちぽち、ぽちぽち。お互いに無言で端末と睨めっこ。
 |既視感《デジャブ》。この何を言っているのか分からない感じ。エイリアンと会話しているみたいだ。ナツキのメールは時代の最先端で、ちょっと解読に時間がかかる。追いつくためには僕も勉強が必要だ。ポチポチ。
 ふと、ヤクモが僕の握る端末に手を伸ばした。そのままポチッと画面をタッチ。
 すると――。
「午後ハ人捜シヲ手伝ッテ欲シインダケド」
 と、ターミナルから声が出た。僕が今まさに送ろうとしていたテキストだった。
 ――おお……。
 音声読み上げか。
 そうか。
 人類側のテクノロジーを使えば、僕も声を出せるのか。
 いいね! 君、天才っ!
 素朴な発見をくれたヤクモの頭を撫でておいた。
「ナツキ、僕ノ声ドウ?」
 彼女は渋い顔になって、ポツリ。
「なんか、気味が悪い……」
 僕もそう思う。
 なんでこういうのって気味が悪いんだろう。声音は人間のそれにかなり似せてあるんだけど、逆にぞわぞわする。似せれば似せるほど、その気持ち悪さは深まっていく。これも不気味の谷と言っていいのだろうか。
 僕がそうやって端末から人工合成音声を出して遊び始めると、ナツキがソファーの上を移動してきて、僕の顔を横からのぞき込んできた。
「そういえばさ、エイリアンとはどうやって会話してたの? 友達がいるって言ってたじゃん?」
 ぽちぽち。
「念話シテクレル子ガイタ。テレパシーヲ使ッテ。スゴインダヨ。言葉ガ分カラナクテモ、会話デキルンダ。ソノ子ガ友達」
「へぇ……すごいね。人間にも、そんな便利な能力があったらよかったのに……」
 ナツキはヤクモを見た。そのジト目に、素直な憧れや希望のようなものがうっすらと浮かんでいる。
「あっ、そういえば」とナツキが続ける。
「昔さ、ヤクモのためにと思って探したやつがあるんだけど、どうかな?」
「ナニソレ?」
 彼女が見せてくれたターミナルの画面には、謎の装置の写真が出ていた。
「これこれ。脳波を読み取って声を出すやつなんだって。声が出せない病気の人が使うやつで、脳波音声シンセサイザーっていうんだって。結局、値段が高すぎて手が出なかったんだけど」
 欲しい!
 僕の目は画面に釘付けとなった。
 見た目は首からぶら下げるスピーカーそのものだ。
 確かに、結構な値段がするけど、シゲアキのクレジットなら切れるでしょ。
「ソレデハ、今日ノ、ショッピングヲ始メマス。集合」
「あっ、まってまって。あたしも欲しいのがあるから!」
 左からナツキが、右からヤクモが。わくわくを隠しきれない様子でラップトップの画面をのぞき込んでくる。
 早速、脳波音声シンセサイザーとやらをカートにポイッ!
 追加のポラロイドフィルムをポイッ! チーズケーキの缶詰をポイッ! BBQソースもポイッ! こういうソース系は自然界では絶対に手に入らないから貴重なんだ。帰ったらタイターニアにもご馳走を作ってあげよう。
 他にも食材や飲み物の追加、日用雑貨品などもポイポイとカートに放り込んでいく。
 不意に広告が目に入った。シゲアキはエロいコスチュームとか、ハードSMグッズなどを通販で買っていたみたいで、広告がそれ系でパーソナライズされていた。これこそがターゲティング広告の恐怖。他人に見られたら、とても恥ずかしい感じだ。すまないシゲアキ。でも僕は、そこに運良くペ×スバンドが出たのを見逃さなかった。
 リディアのお土産をゲット。おまけに遠隔ローターや手錠なんかもつけておこう。ソフトSMのご提案を添えて。ポイポイっと。
「どうするの、そんなの……?」
 隣から、じとっと湿度の高い不信感が押し寄せてきた。僕がナツキとのプレイに使う気だと思っていそうだ。実際、変態度の高いラインナップだった。
「例ノ、エイリアンノ友達ヘノ、オ土産」
「ふーん……あ、これ。普通の服も買ってほしい。ないと困るんだよね。さっきも、宅配の人、あたしの格好を見て鼻の下伸ばしちゃってさ。間違いが起こったら大変じゃん?」
 それは大変。
 間違いを起こして押し入ってしまった宅配のにーちゃんは、僕に食われる運命にある。今のシゲアキ宅は、一歩踏み入ったら二度と出られないリアルガチ・スプラッターハウス状態なのだった。普通の服も買っておこう。ポイッ。
 いつの間にかカートに冷凍チーズケーキまで。ヤクモだな。
「おにーちゃんも服買ったら? その格好、ぜったい寒いでしょ」
 ――僕の服、だと……?
 もう裸エプロン生活が長すぎて、服を着るという発想がなかった。
「寒クハナイヨ。ソモソモ着ラレル服ガナイ」
 サイズがね……。
「うーん、そっかぁ……なんかいい感じの、ないかな……」
 僕からラップトップを奪い取って、難しい顔でカタカタと検索し始めるナツキ。
 その間に決済を済ませてしまおうと思って、僕はシゲアキのターミナルを持って彼のSM部屋へと向かった。
 ドアを開ける。すると目に飛び込んでくるのは、暗い部屋の中で|磔《はりつけ》になった男が一人。彼の冷たい指をターミナルに当てて、ぽん。静脈認証でシャラーン。決済完了だ。今まさに強盗の被害に遭った家主シゲアキは頭を垂れていて、ピクリとも動かず、肌は青ざめて指も冷たい。まるで死体のようだった。
 でもこいつ、死んでいない。仮死状態なんだ。だから静脈認証が通る。なんか、気づいたらこういう状態になっていた。僕は何もしていない。昨日、こいつの様子を見に来たときに、シゲアキの頭の上でダイヤがタッタカ、タッタカと自慢げにダンスをしていたから、たぶん彼がやってくれたんだと思う。
 おそらくダイヤは仮死毒みたいなものも使えるんだろう。ほら、蜘蛛って糸でぐるぐる巻きにしたあとに、そんな能力で保存食を作るとかなんとか。僕がこいつを保存食にするって言った冗談を真に受けたのかな。すごく賢い。
「そいつ、殺すんだよね?」
 不意に、部屋の入り口から声がした。
 ナツキだ。ジト目を据わらせて、その瞳の奥に、ほの|昏《ぐら》い殺意を光らせている。
「絶対、ぶっ殺して」
 言い方がどぎつい。声もまた、心なしかどぎつい。急にどうしちゃったの?
 僕が首をかしげてみせると、彼女はつかつかと部屋に入ってきて、僕の隣に並び、腕に抱きついてきた。
 数呼吸あって、彼女はぽつりと言った。
「――あっちの部屋の写真、見たんだ」
 シゲアキのコレクション部屋のことだ。たくさんのスナッフ・フィルムがあった。
「一年前にいなくなったスラムの子が写ってた」
 なるほどなるほど。そういうことね。
「時々だけど、あるんだ。スラムの子が失踪するの。ここ数年は増えてて……こいつら、あたしたちを何だと思って……!」
 ギリッと奥歯を鳴らしたナツキ。
「毎日必死に生きてるのに……こんな……遊び半分で……ッ」
 燃えるような憎悪を湛える眼光は|本気《マジ》だった。
「絶対、許せない……ッ!!」
 彼女は僕を見上げて訴える。
「ジェヴォーダンだって、こういう奴らに動物扱いされたんだよ。こんな命を弄ぶ奴らなんて、みんなひどい目に遭って死んじゃえばいいんだ……ッ!」
 そういう考え方も、できるかな。
 肩に手を置くと、彼女は僕の胸に顔をうずめてきた。
「……友達だったんだ……」
 その痛みは分かる。
 僕も、自分に関わった人たちが死んでいくのを何十人と見送ってきた。最後の方は、もう憤りも感じなくなって、残るのは無力感だけだった。
 フォートの連中が僕を死神と揶揄したのは的を射ている。
「あたしに殺させてよ」
 殺したいの? どうせ始末するもりだから、好きにしたらいいけど……うーん……。
 彼女は僕に向かって、まともに生きたいと言った。
 なら、やめておいた方がいい。
 殺人は、人間にとって最大級の刺激なんだ。
 人間は刺激に慣れる生き物だ。例えば、分かりやすいところで飴細工職人。初めは熱くて、溶けた飴に触れなくても、何年も我慢して飴を加工していると、そのうちに、あんまり熱く感じなくなって、作業がスムースにできるようになってくる。
 同じように、人を殺すと、初めは凄まじいストレスに|苛《さいな》まれるけど、一人また一人と殺していくうちに、だんだんとその刺激に慣れてくる。
 すると殺人という究極の刺激に対して適応した人間は、やがて、あらゆる物事に動じなくなってくるんだ。それは肝が据わったとも言えるし、兵士としては成長していると言えるのかも知れない。
 でもね、気持ちの変化が平坦になっていくということは、心が砂漠のように無味乾燥な、のっぺらぼうに変わっていくということの裏返しでもある。
 何を見ても、何をやっても、感動しなくなってくる。
 朝から晩まで退屈。食べ物は砂を噛んでいるよう。やがてセックスすらも作業感が出始める。自分が生きているのか死んでいるのかすら分からなくなってくる。
 こうして一人殺すたびに、自分もまた少しずつ死んでいくというわけだ。
 兵士は生きている実感が欲しくて、より強い刺激を求めて無茶な戦い方をしたり、強いアルコールとか、クスリとか、ギャンブルとかに手を出し始めたりする。セックス依存症なんて当たり前。プレイ内容はどんどんと過激に。あえて犯罪に手を染めるものもいる。
 まぁ、まともには生きられないね。
 先日、デリンジャーを構えたときの姿で分かった。ナツキは人を殺したことがない。だったら、自分の手で殺したいだなんて、そんなことは言わない方がいい。ここで一歩を踏み出すと歯止めが利かなくなる。
 殺しすぎると、そのうち、僕みたいになっちゃうよ。
 それにしても、この戦争。相手はエイリアンなんだから、人殺しとは言えないんじゃないか、とも思うんだけどね。PTSDをわずらう兵士は多い。実際、この僕ですら、生きているのが面倒くさい、と感じる程度にまではなった。きっと、彼らに対する殺傷行為は、僕らの中では殺人扱いになるんだ。まぁ、僕の場合は本当に同胞を殺したりもしていたけれども。
 やっぱり、見た目が似ているからなのか。僕らは心のどこかで、本当ならばエイリアンとも仲良くできたらいいな、なんて親近感を感じているのかも知れないね。
 人間って、いったいなんなんだろう。
 僕はまだ、人間と言えるのかな?
 ナツキたちは、今の僕のことをどう思っているのやら。いつか、どこかのタイミングで聞いてみたいと思う。
 ナツキの跳ね毛ひとつない、つるりとした茶髪を撫でた。
 僕は彼女の背中を押してSM部屋を出た。
「お手洗い」
 ナツキはトイレのついでに、とんでもないことを言い出したもんだ。
 リビングに戻ると、ヤクモがダイヤと一緒に遊んでいた。
 ――さて、と……。
 会話してくれるようになった。お仕置きタイムは終了したっぽいぞ。だから僕は、これから彼女をエッチに誘うわけなんだけど、ヤクモはどうするのかな。彼女がいないうちに聞いておこう。
 彼のノートをパラパラ。ナツキの絵を指差して、左手でリングを作り、そこに右手の指をズボズボ出し入れ。ファック。次いで両目に指のリングを当てて双眼鏡のポーズをしてから、手でバイザーを作ってみせた。今日も僕らのセックス見る?
 こくりと、うなずいたように見えた。偶然かも。
 よしよし。この性獣ジェヴォーダンに任せなさい。エッチ(僕ら)・スケッチ(ヤクモ)・ワンタッチ(?)なんだ。あとでスケベな絵、見せてね。
「よしよし、じゃねぇよ」
 ギクゥ!?
 突如として背後から湧き上がった殺気に、胸を掴まれた。
 恐る恐る振り返ると、そこには腰に両手を当てて、こめかみに血管を浮かべた|仁王《におう》ナツキが。トイレ早いね。
「見テモラエタ方ガ、興奮スルカラ」
「普通の恋人はエッチの最中、肉親に視姦とかさせねぇから。恋人ごっこなんだろ?」
 ごもっとも。
 そこで、僕のフェイムバウムにおける境遇を話した。
 何年も牢屋に素っ裸で閉じ込められて、望んでもいないレイプを強制させられる。拒否すれば鞭打ち。休むと電気でビリビリ。ご飯はドッグフード。汚れたらバケツで水をぶっかけられ、戦場に引っ張り出されておとり役。怪我をして死にそうになっても床に転がされて放置。牢屋の外からそんな僕を見て笑うエイリアン。唯一の救いはお肉屋さんのバイト。
 そんな牢獄には壁一面のマジックミラーが張られていて、自分の姿を見ながらセックス。鏡の向こうで笑われながらセックス。頭がおかしくなりそうな日々。乗り越えるには、衆人環視でセックスすること自体を楽しめるようになるしかなかった。
 少しくらい性癖が歪んでも、仕方ないじゃん?
 と、ちょっと誇張を込めて伝えた。
 最後の方には、ナツキは気の毒そうな表情になって僕の話を聞いていた。眉がハの字に倒れ、ジト目はうっすらと|潤《うる》んですらいる。
「そっか。そんなにひどい扱い、受けてたんだね……」
 ヤクモも僕の指をギュッと掴んで見上げてきた。ダイヤまでもが僕の肩の上に這い上がってオイオイと泣くジェスチャー。みんな、さんきゅー。ちょっと嘘も入ってたけど。
 不幸自慢をして、ナツキの母性を刺激する作戦だ。
「アノ夜、ナツキガ誘ッテクレタ時、スゴク嬉シカッタ。マタ、人間ニ戻レタ気ガシタ。君ニ、受ケ入レテモラエタ時ハ……ナツキガ天使ニ見エタ。僕ハ、ミンナニ、気持チワルガラレテイタカラ」
 このひと言が効いた。顔を伏せて、グスッと鼻をすする音。若い子はちょろいぜ。
 まぁ、嘘ばかりというわけでもない。九の真実に、一の嘘だ。
「グスッ……お昼にしよっか。今日はあたしが作ってあげるよ」
 よしよし、これでいつしか同情心は恋心へと昇華されるはず。僕に惚れさせるんだ。
 ――そして、部屋は真っ赤に染まった。
 ナツキが作ってくれたのは激辛ラーメンだった。冷凍だから簡単だったはず。
 ところがだ。
 僕は目を疑った。
 ただでさえ元から辛そうなラーメンのスープなのに、彼女はなんとそこに、この家にあった鷹の爪や、|豆《とう》|板《ばん》|醤《じゃん》を始めとする赤いスパイスを、ドバドバと山ほど入れて、じっくりコトコト煮込みよったのだ。この娘は。
 部屋に充満した湯気が目に染みる。ブッチャーの眼球が危険を訴えるほどの状況にもかかわらず、ナツキもヤクモもケロリだ。この二人……。
 こうして僕は|死刑台《テーブル》についた。
「どうぞ!」と、ナツキは両手を広げて会心の笑み。
 なるべく顔を離しながら、どんぶりをのぞき込んでみた。
 赤い。
 スープが真っ|赤《か》っか。こんなに赤い物質、この世に存在する?
 地獄に流れている川の水って言っても信じてもらえそう。僕には唇がないから、麺もスープもすすれない。フーフーすらできない。歯の隙間からシーシーになってしまう。ひと口で行くしかない。怖いよぉ。
「いっただっきまーす!」のかけ声で、二人はフーフー食べ始めた。
 食べず嫌いはよくない。
 試しに舌を、つけてみよう――。
 ――痛い!!
 ガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
 い、痛……? から……辛すぎる……あれれ……? 辛いのかな、痛いのかな……? うーん、辛いってこういうことだっけ? 辛味がゲシュタルト崩壊を起こしている。
 僕、ブッチャーになって初めて辛味を感じたかも。辛味って味覚じゃなくて痛覚らしいから。つまり、このラーメンはブッチャーの防御力をも貫通してきたということだ。カプサイシン恐るべし。毒だね。殺人ラーメンだよ。
 見ると、ナツキもヤクモも平気な顔でズズズーッ。
 僕も覚悟を決めてゴクゴク。
 喉を、ちくちくと大量のウニが滑り落ちていくようだった。
「――っぷはぁーっ! 久しぶりのラーメンおいしかった~~~~! どう、おにーちゃん。あたしの特製ラーメン! 冬はやっぱ|元寇《げんこう》タンメンでしょ!」
「オイシカッタデス」
 消化器官がズキズキと脈を打つ。口と喉の粘膜から、何か別の生き物が生まれてきそうだった。
「これくらい辛くないと、汗出てこないよねぇ!」
 額の汗をぬぐったナツキが、パタパタと手うちわで涼を得る。脇のスリットに風を送って爽快な笑顔。チラッと見えたけど、ノーブラだ。白い肌が汗でじっとりと光っている。ふっくら横乳の表面を、一滴の汗がツツーッとしたたり落ちていく。えっろ。
「冷凍ってさ、お店と違って一般人向けにアレンジされてて、ぜんぜん辛くないから、いまいちなんだけど、この家にはたくさん唐辛子あってよかったよ~~♪」
 ナツキはスコヴィル|中毒者《ホリック》、と……。
 僕は心のメモにしっかりとそのひと言を殴り書きし、すぐに食器を片付けて換気扇を全開にした。部屋に漂っている、この灼けつく|瘴気《しょうき》を排出しないと死んじゃう。毒ガス騒ぎにならなきゃいいけど。
「それで? おにーちゃんが捜してるってのは、なんて人なの?」
「アビゲイル、ッテイウ女性ナンダ」
「アビゲイル……うん……?」
 ナツキが腕を組んで首を倒した。頭の上に「?」が浮かんでいる。
 エイリアンの陣地から生き残って帰ってきたことになるから、それなりに話題になったんじゃないかと思うんだよね。
「うーん……? なんか最近、そんな名前を耳にしたような……?」
 うーん、うーんとうなる彼女の服を、ヤクモが引っ張った。
「どうしたの?」
 ターミナルを見せられて「あっ!」と声が上がる。
「そうだそうだ! ちょっと前だけど、この女の人の話題で一時期、街の中が持ちきりだったんだ。この人のこと?」
 ナツキがターミナルを見せてくれた。
 ――うぉおおおお……。
 |草《くさ》草草。新聞に載っちゃってるよ。
 アビゲイル、すげー有名人ンゴ。ってかこの挿絵なにさ? ゴリラみがじわる。似てなさすぎて大草原。おっと、ナツキの影響でネットスラングが。
 でもよかった。この感じなら、まだ生きてるはず。
 アビゲイルはやっぱりできる女だ。こうして目立っておいた方が安全に違いない。いやしかし、それにしても、これは……。
 いったいどうやって会えばいいんだ? 間違いなく監視されているだろう。
 この記事を書いた人物は……と。ユージンっていうのか。こいつはアビゲイルに直接会ったことがあるってことだな。昨日、ネットサーフィンをしてたときにも、ちょいちょい見た名前だ。それなりのベテラン記者かな。まだ彼女と連絡をつけられたりしないかな。でも、言うことを聞かせるのが難しいぞ。一人くらい目の前で誰かを殺してみせて脅迫するしかないか。
「なんでこの女の人に会いに来たの? 記憶なくなっちゃったんじゃなかったっけ? 唯一覚えてた人ってこと? 昔の記憶の鍵になりそうだから? 彼女? ひょっとして奥さんだとか?」
 興味津々のナツキ。
「アビゲイルハ、エイリアンノ街カラ、僕ト一緒ニ脱出シタ」
「……? …………えええええええええええッ!?」
 ナツキは一瞬の間を置いてから、仰天した。
「そ、そういうことだったんだ……」
「ソウ、ソウイウコト。ムコウデ出会ッテ、二人デ脱獄シタ。ソレデ、別レタハズダッタンダケド、彼女ハ今、タブンコノ街デ、ピンチナンダ。僕ハ彼女ヲ助ケニ来タ」
「すっご。そんなの嘘みたい……ほぼほぼ映画じゃん……」
 手で口を押さえて絶句。
 僕を見る、キラキラと憧れや敬意を含んだジト目。
 先ほどの僕の不幸ストーリーへの同情。そして明かされた過去と、僕らの秘密に対する尊敬。ナツキをメロメロにして今日もらぶエッチだ。
「じゃあ、ぜったい会わなきゃだね」
 そう言って、ナツキは僕の指を取った。
「あたしが連絡つけてあげようか? 危ないところの歩き方なら多少は知ってるよ」
「イヤ、危ナイコトハ、シナクテイイ」
 ニュースを見たけど、おととい、僕が侵入したときに起こしてしまった方々の事件で、まだ警察もギャングも動いてるみたいなんだ。ひと晩で大量に|殺《や》ったからね。軍の施設で二人、ナツキの部屋で三人、おまけにギャングの事務所を血の海に変えた。ブラッドクリスマス――なんていう新聞記事を書いていたのは、やっぱりユージンとかいう記者だった。
「ふーん」
 つまらなそうに鼻を鳴らしたナツキに念を押しておく。
「君ハ渦中ノ人ダカラ、シバラクハ大人シク」
 大人しく、僕の息子のお世話をよろしくお願いします。
 無言で立ち上がって彼女に向き直る。
 エプロンにもっこり浮かび上がった元気なシルエット。
「……」
 押し黙るジト目と見つめ合う。
 ――その服がね……。
 ノースリーブのニットワンピは卑怯だよ。無理だって。耐えられない。身体のラインがふわふわ柔らかそうだし、つるりとした白い肩が見えてるし、生足だし、脇のスリットからチラチラとあばら骨見えてるし、ノーブラだし。でも乳首が浮いて見えないのは、またニップレスだな。パンツは? パンツは|穿《は》いてるの? くそう、妄想がはかどる。そのニットワンピを下からゆっくり、まくり上げて答え合わせしたい。
「まだ真っ昼間なんですけど」
 はぁ、とナツキが呆れ顔で言った。
「夜ハ寝タイデショ?」
「一回してから寝ればいいじゃん」
 そこで彼女にブッチャーの体質についてご説明差し上げる。
 つまり、基本的に女を抱いていないと自分でも手に負えないくらい攻撃的になってしまうということ。これはブッチャーという怪物の特性で、どうしようもないこと。一回じゃまず収まらないこと。
 それゆえに、君が必要だったこと。
「はぁ……あぁ、もう」
 ナツキは嘆息をついてから、ヤクモにこのリビングで待っているようにと言い聞かせた。
「絶対に、寝室に来ちゃダメだからね、ヤクモ……絶対絶対絶対だからね」
 すんっと聞いていた弟くんに念を押してから、ナツキは僕の手を取って寝室へと向かった。
 二人で一緒に寝室に入った。
 すぐに、エプロンを脱いだ。
「え」
 背後から抱きつくと、ナツキは驚いたように振り返った。
「あっ……」
 爪が引っかからないよう、慎重にニットの上から胸をまさぐった。もみもみ。うなじの香りを嗅いでクンクン。甘い。蜂蜜の香り。バキバキに|滾《たぎ》った灼熱棒を、ニットワンピ越しにナツキの尻にこすりつけて僕の興奮度合いを伝える。
「熱っ……そんなに我慢してたの?」
 彼女は肩越しに、僕の頭に腕を絡みつけてきた。
「ごめんね、昨日は無視しちゃって」
 仲直りを確認。らぶらぶだ。
 |黝《あおぐろ》い舌をぞろりと伸ばして彼女の唇に押し込んだ。
「んぶぅ」
 少女の曲線を撫で回し、柔らかい口粘膜を味わい尽くす。
「んん……おぶ……んんっ♡」
 上顎をごりごりと舐め上げるたびに、ナツキが僕の腕の中で小さく震えるのを感じた。|嘔吐《えず》かないように、優しく彼女の舌のつけ根を絡め取る。そんな愛撫を数分間ほど繰り返し、いかに僕が君を犯したいのかを伝えていると、やがて彼女の青い女体は熱を上げてその欲望に応える準備を始めた。
 彼女のニットを爪で切り裂いて、火照った身体を空気にさらしていく。縦にピリピリ、斜めにピリピリ。一分もかからずにニットワンピはズタズタになった。裂け目の奥で光る鎖骨。裂け目の奥でかげるヘソ。裂け目の奥で悶えるVライン。全身がチラリズムの嵐だ。その裂け目に、そーっと手を差し込んでみる。さらさらとしたお腹の手触りの下に、布の引っかかりを感じた。ショーツは穿いていたようだ。イタズラに、それもプツリと断ち切ってしまう。
「んっ♡」
 支えを失った|端布《はぎれ》が白い脚を滑り落ちた。それは普通の白いショーツだったけれども、お尻側に丸い尻尾穴みたいのが開いていた。お洒落だね。
 彼女を立ち鏡の前に連れていき、一緒になって僕らの営みを観察。
 ズタズタのニットを着た少女が、背後から全身を弄ばれ、頬を赤らめつつも、ぶっとい舌をじゅるじゅると音を立ててしゃぶっている図だ。うわ、すごくエロいよこれ。
 ぬぽぉ……と舌を引き抜くと、彼女は涎をこぼしながら「はぁ……♡」と熱い吐息を漏らした。
「あーあ、こんなにしちゃって。気に入った服だったのに」
 からかうようなジト目が、鏡の向こうから僕を見た。
「ね、じぇぼたんって呼んでいい?」
 じぇぼ……?
 また変なあだ名が……。
「メール打ってて、たまたま思いついた名前なんだけどさ。カワイイかもって。よく考えたら、おにーちゃんって恋人っぽくないしさ。でもジェヴォーダンも、ちょっと響きが怖いから、ね?」
 出たよ、カワイイ文化。アジア系の子に多いんだよね。なんでもカワイイって言うの。僕にはそういう文化ないけど。
 歯茎剥き出しの口から小さく嘆息をついて、うなずいた。好きに呼んで。
「えへへ……じぇぼたん♪ 今日はシャワーが先だからね」
 手を引かれた僕は、洗面台を抜けてバスルームに向かう。
「先に浴びちゃって」
 促されて、大人しくバスルームのドアを開けた。バスタブのない、レインシャワーの造りだった。キュッと水栓レバーを上げると、天井付近からシャワーッとお湯が出た。
 ソープを手に取り、全身を撫でて洗っていく。
 昔、石鹸で頭のてっぺんから足の先まで洗うっていうやつがいて、さすがに信じられない神経してるなと思ってたけど、今ならその感覚が分かる。髪の毛が無ければ頭もボディーの一部だね。
 興奮した息子が落ち着くまで、そうして身体を洗っていると、半透明なドアの向こうで人影がガサゴソと動いた。
 ブッチャーの五感は鋭い。息をひそめて動いている様子だけど、僕には丸聞こえだ。磨りガラスの向こうで片足を上げる裸体のシルエットが|艶《なま》めかしかった。
「ふーっ……」と深呼吸の音に続いて「――よしっ!」の気合いで、やる気スイッチをオン。
 コンコン。
 ガチャン。
「えへへ……きちゃった♡」
 恥ずかしそうに白い歯を見せてナツキが入ってきた。
 髪を後ろにくくって、肩とうなじが丸見えの姿にドキッとする。うなじって、ときにおっぱいやお尻よりも性的だ。
「じぇぼたんの背中、大きくて大変でしょ。洗ってあげるね」
 そうなんです。手が届きません。
 バスルームは広く、ブッチャーと少女が一緒に入っても問題ないほどだった。彼女は僕の背後に回り込むと、シャワーを出しっぱなしにしたままタオルで手際よく背中を洗ってくれた。
「肌の色、すごいね」
 ぺちゃりと、背中に柔らかい肉が押しつけられる感触。
 するすると脇から伸びてきた手が、僕の腹に伸び、胸に伸び。身体の前面をぬるぬると這い回る。
「さっきのお返しだぁっ!」
 ナツキは泡まみれで背中から抱きついて愛撫してくれた。ぬるぬると|熟《こな》れた手つきだ。やがてその手が僕の半立ちになっていた逸物に触れると、一瞬だけ熱いものに触れたかのように細い指先が跳ねた。彼女は後ろからそーっと僕の淫棒を握りしめた。静かにしごき始めた彼女の顔が、曇った鏡の向こうから僕に挑発的な笑みを向けている。
 どっしりとしたペ×スに絡みつく、女の子特有の細い指の感触に、ブッチャーランスはすぐさま立ち上がって臨戦態勢に移った。ビキビキ。
「すっごい。やっぱり、ち×ぽ洗ってるって感覚じゃないよ。触ってるだけでドキドキする。なにこれ……こんなのが、本当にあたしの中に入ったの……?」
 瞬く間に膨張した海綿体を凝視し、ナツキは優しく指を滑らせる。
 ふと、彼女は何かに気がついた様子でクンクンと鼻を鳴らした。
「おとといも思ったんだけどさ、香水でもつけてるの?」
 それね、ザーメンの香りです。我慢汁もそんな匂いがするようですね。僕自身は分からないんだけど。
 シャワーで息子を流し、振り返って見せつけた。亀頭がぷっくりピカピカだ。
「……」
 ナツキはゴクリと唾を飲み込んでから、何も言わずにその場でストンと|跪《ひざまず》いた。|敬虔《けいけん》な手つきでもって、ロザリオのかわりに怒張した肉棒を両手で包み込み、神に祈りを捧げるかのようにブッチャーを仰ぎ見る。
「はぁ……」
 彼女はトロンと目尻を下げ、中身の詰まった睾丸を|尊《とうと》げに下からすくい取り、小鼻に肉棒を押し当ててその匂いを鼻腔に送り込む。
「……くふ、ふふ……やっぱりこれ、じぇぼたんのち×ぽの匂いなんだ……ウケる……んふふふ、ふんぐぅ……!?」
 こらえきれず、ペ×スを握ったままくつくつと笑い出した小生意気な口に、無理やり突っ込んで|戯言《ざれごと》を封じた。
 促すまでもなく、自主的な口唇奉仕が始まった。
 フェラの仕方で女の子の性格は分かる。僕の長年の経験から導き出されたフェラ性格診断によると、ナツキは几帳面派だ。
 浮き出した血管を舌でなぞる。生暖かく、ぷりっとした舌を、ぬらり、ざらりと舐め残しがないよう満遍なく這わせていく極上のフェラチオ。口に含んでいない部分には細い指をしきりに絡みつかせて、時々、僕の顔をジト目でチラリと見やった。つんと伸ばした舌先で、カリ周囲のくぼみを丁寧にくすぐり、同時にふぐりをモミモミと揉みしだいて精子を活性化させることに余念がない。独創的な技がキラリと光る。
 ザーザーというシャワーの音と、ニチニチという粘液が混じり合う音、そして彼女の興奮を隠せない鼻息が、混然とバスルームに響いていた。
「なんでだろ。しゃぶってるだけですごいドキドキする……こんなの初めて……」
 ナツキは唇を舐めて顔を上げた。
「こんなにゴツゴツして、太くて、熱いのがあたしを犯してたって想像するだけで、胸がきゅんきゅんして心臓がはじけちゃいそう」
 股をもじもじ。彼女は潤んだ目で僕に媚態を示した。
 まぁ、君が相手にしてるのは野蛮な獣であって、僕とのセックスは、ある意味では獣姦なんだよね。お馬さんと|致《いた》したことはないでしょ。こんなの初めてという感覚は、ある意味では正しい。
 彼女の眼前で獣のペ×スをビクつかせて続きを催促。
「はむ」
 ご奉仕はジュボジュボと下品な音を立ててそのペースを上げた。
 もっとも、いくら娼婦の経験があっても僕のデカマラはディープスロートできないみたい。考えてみると、牢獄の女の子たちも、アビゲイルだって全部は飲み込めなかった。人間には無理なのかな。ってか、リディアでさえ、自分ではできなかったな。イラマチオなら、喉奥まで突っ込めたけど。アーシェラだって、喉に入れようとしたら|嘔吐《えず》いていた。エイリアンだからできるってわけでもないんだ。
 つまるところ、タイターニアがメジャーリーグ級だったということだ。またしても彼女の天賦の才が証明されてしまった。そういう意味だと、フェリスもいいところまではいったから、その片鱗はあったのかな。あの子、実は才能の塊だったのかも。本当に惜しいことをした。
 そんなことを考えているうちに、カリ裏を狙ったナツキの的確な舌技で精子がいい感じに上がってくるのを感じた。
 ジュッポ、ジュッポ、ジュッポ、ジュッポ――。
 頭を大きく前後に振って大変そうだ。
 僕は軽く彼女の頭を掴んで固定し、腰を振った。イラマでお手伝い。
「んッ!? ん゛ん゛ッ!? んーっ! んーっ! んーーーーっ!?」
 突然の乱暴についてこられないナツキは、コリコリと歯を当ててしまうけれども、僕は気にしない。そんな刺激もおかずにしつつ、少女の口内粘膜を激しく犯し、最後は喉の奥めがけてビュルルと発射した。
「んぐぅ!? ――んん……んぅ……んぐ……」
 ナツキは目を白黒させて動きを止めた。
 ドクドクと注ぎ込まれるがままに、大人しく灼熱の獣慾を舌と喉で受け止めている。
 飲み込むという発想には至らなかったのか、やがて頬がハムスターみたいに膨らんできて、白濁液がとろぉっと口の端からあふれ始めた。彼女は眉根を寄せて、苦しそうな目つきで僕を見上げてくるけれども、射精中はお|情《なさ》け無用。ブッチャーは種付けには厳しいのだ。ぜんぶ口で受けてね。
「んご……ごぽ……ごほっ! けほっ……! けほっ……!」
 しかし、ナツキは我慢できずに途中で吐き出してしまう。まぁ、初めての口内射精だから仕方ないか。気管支に入るとマジで危ないから、頭を離してあげた。
 そのかわりに、髪を掴んで上を向かせた。
 苦しげに咳き込む顔に、絶賛放精中のペ×スを乗せる。
「あ……♡」
 ベチャリと、重量感のある男根に額を叩かれて、白い身体がビクリと震えた。彼女はすぐにジト目を閉じて顔面を差し出した。やや幼さを残した顔つきに向かって顔射を続行。ドロドロと白く塗りつぶしていく。
「あー……」
 彼女は大口を開けたまま、ベロを突き出す雌犬のスタンスで|恭順《きょうじゅん》を示した。どうぞ、この顔のどこにでも出してくださいご主人さま、とでも言わんばかりの性奴のポーズに、僕の放精は勢いを増した。
 遠慮なく、おでこや、ほっぺた、舌の上や前歯のみならず、上あごの裏にもザーメンを吐きかけた。途中で「はふ……」と唇に付着した白濁ゼリーを舐め取る姿が、最高にエロチックだった。
 ピュ……と、最後の一滴までしごき出すと、ナツキは口に溜まった精液を両手にどろぉっと吐き出して、汚れた自分の裸体を茫然と見下ろした。
 全身スペルマまみれにされて、何を言うかと思いきや。
「歯、当たっちゃってごめん……」
 と、彼女は申し訳なさげに笑った。
 |健気《けなげ》できゅんです。よしよし。いい子いい子。
 立ち上がらせて、シャワーを浴びさせた。お風呂場はすぐに汚れを洗い落とせていいね。ブッチャーも文化人になれた気がする。
 ふらふらと立ち上がったナツキが、抱きついてきた。
「じぇぼたんも、あたしを洗ってよ。疲れちゃった」
 僕の胸をチロリと舐めて、ナツキが媚びた声で言った。
 本当は、僕も洗いっこがしたいんだけど、すまぬ。指でバッテンを作って見せた。そこには、ブッチャーの鋭い爪が光っている。この爪が憎い……。
「そっか……」
 少し残念そうだ。
 かわりに、膝を立てて彼女の股に差し込んで、下から押し上げた。
「んっ……!」
 すぐに分かったようで、ナツキは僕の太い膝を跳び箱に見立てて、こすりつけた。
「ん、ん、ん、ん、ん」
 角オナならぬ膝オナだ。下唇を噛んでクネクネとナツキが腰を動かすと、僕の太ももの上を熱くてぷっくりした割れ目が滑って往復した。すぐに、ぬめった音が摩擦部から聞こえてきた。濡れやすいのは健康な証拠だ。もうよさげかな。
 僕はナツキを壁際に追い込み、彼女の片足を持ち上げてブッチャーランスの切っ先をあてがった。
「んひっ――――ぅあ゛ッ!!」
 突然の侵入に、一瞬だけ彼女は目を剥いた。
 グイッと膣奥を押し上げるところまで突き込んで、腰を引く。
「そんな、急ぅあん♡」
 グイグイと奥を押し上げるたびに、彼女はつま先を伸ばして色の乗った声を上げた。そんな運動をシャワーの中で何度も繰り返した。
「はっ♡ はんっ♡ はんっ♡ はんっ♡ はんっ♡」
 僕の首にしがみついた彼女は、抽送のリズムに合わせて必死に喘いだ。
 ナツキの膣肉はまだ硬くて、締まりもキツいけど、よく濡れる体質なのか、とても具合がよかった。奥が好きなんだね。僕との相性抜群かも。
「あっ♡ んん~~~~ッ♡!? しびれ……こしが、ぬけちゃ♡ もうだめぇ♡」
 本当に腰が抜けかけているようで、彼女はずりずりと体勢を崩し始めた。
 そこで両足を持ち上げる駅弁スタイル。彼女の内臓を少し強めに突き上げる。
「ん゛ぁあ♡」
 頭上から降る温かな雨に打たれながら、目を細めて甲高い声を上げる。その顔から、流れ落ちるお湯と共に理性が溶け出していくのが分かった。表情と声の変化を楽しみながら、ピストンを繰り返す。
「んぁあ♡ だめっ……♡ い、いき……いっ――――ッ♡♡!」
 ぎゅーっと抱きついてきた。膣口が何度もぎゅうぎゅうと僕のデカマラを締め上げ、ガクガクと全身を揺らす絶頂は眼球が上を向きかけるほど深いものだった。
 全身の緊張が解けるのを待ってから、ペ×スを引き抜いた。
「――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……先に、イッちゃって、ごめん……」
 ナツキは風呂場の床にへなへなと座り込んだ。
「もがっ……♡!」
 その顔を上げさせて、てらてらと濡れそぼつ肉棒を彼女の口に突っ込んだ。
 そのまま軽くしごいて、またしても口内でフィニッシュ。
「んぶッ!? ……んん♡ んぐ♡」
 今度は鼻を軽くつまんで飲精を強要。勝手に|絶頂《イ》っちゃった罰なんだ。
 僕の脅迫的な要求に、ナツキは恐る恐るうなずき、覚悟を決めた様子でコクッと喉を鳴らした。
 彼女は飲精する間、曇った瞳で僕を見続けていた。その瞳が、苦い薬を飲まされる子供のものから、徐々に、甘いジュースを求める子供のものへと変わっていく。吐き出された精液を唾液と混ぜる程度だった消極的な舌の動きは、いつしかバキュームを伴う蠕動となって肉棒の側面を這い回るようになった。
 チュポンッ! と盛大な音を立ててナツキが口を離した。
 彼女はしばらく荒い呼吸を繰り返していたけれど、やがて顔を上げ、|蕩《とろ》けた目つきで僕を仰ぎ見た。にっこりと表情を崩す。
「あまーい♡」
 ソフトクリームをそうするように、射精直後の肉棒に残っていた白濁液を舐め上げる。
「じぇぼたんのせーし、甘くておいしいね……あたしの頭がおかしくなってきたのかな……」
 そう言いつつも、彼女は積極的に肉棒にすがりついて、根元や陰嚢に残った精液をペロペロとし始めた。
 ひとつ、調教ステージをクリア。
 まずはザーメンを好きになってもらうのが、ブッチャーと楽しくまぐわうコツなんだ。アビゲイルはかなり好きになってくれたから、いつでも二人で楽しめた。
 こうして、さっぱりしたところで、ラブドールとして仕上がったばかりのナツキをお姫さま抱っこでベッドに連れていく。
 途中、クローゼットがちょっと開いているのが見えた。
「きゃ!」
 ぽいーっと、ナツキの華奢な身体をベッドに放り出した。ぼよんぼよん。スプリングで跳ねた彼女は、抗議のジト目を送ってくる。
「さっきから、ちょっと乱暴だって!」
「ゴメンゴメン」
 ターミナル復活。やっとしゃべれる。
 頬を膨らませるナツキに、かぶりついた。
 股を開かせ、ぐいっと下半身を持ち上げてから、空気にさらされてヒクヒクする膣口に、アリクイのごとく舌を突き刺して中をほじくる。
「んっ、んんああぁあぁあッッッ♡!?」
 あ゙膣内でベロを暴れさせると、彼女は愕然とジト目を見開いた。
 ビチビチビチビチ……。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛んひぃ♡ それ、だめぇ♡!」
 ガチガチの男根とはまた違うでしょう。ディルドやローターともまた違う。ちょっと普通では味わえない刺激の連続に、ジト目が淫蕩として歪んだ。指を噛み、眉をハの字にして、あらぬよがり声を上げる。
「んんんん、りゃめ♡! あ゛っ♡ あ゛っ♡ あ゛――――ッッ♡」
 未開発の子宮口を舌先で堪能していたら、彼女はすぐにイッてしまった。
 僕の舌を、膣口がきゅんきゅんと締め上げ、ねっとりとした愛液があふれ出してくる。
「はーーーーッ! はッ――! はッ――!」
 小さなオーガズムの波に何度も飲まれ、ぼーっと遠い目になる。舌を引き抜けば、糸を引くほどの粘度。僕のキリン式ディープ・クンニリングスが大好きになってくれたみたい。こんなに喜んでくれるなら、明日は朝からイキ狂うまでクンニしてあげよっと。
 彼女の腰を上に引っ張り上げたまま、ヒクつく陰唇の上にブッチャーランスを乗せた。股ぐらから大きくはみ出した、肉々しい征服者の影が、彼女の顔に落ちた。
 股の上でピストン運動し、たっぷりの蜜を絡ませる。ニチャニチャ、ニチャニチャ。これから、このごんぶとペ×スで君を孕ませますね、というリハーサルを込めて。
 そんな卑猥な準備運動を、彼女は大人しくジトッと見守っていた。切なげな呼吸を繰り返し、これから自分に襲いかかる子作りの試練を前に、期待を隠せていない。口元がだらしなく歪んでしまっている。
 ふと思い至って、横に転がっていたターミナルをぽちぽち。
「挿レテイイ?」
 これ、聞いてみたかったんだよね。大抵、問答無用だから。
「――うん、いいよ♡ きてぇ♡」
 ナツキは初めて出す猫なで声で僕を誘った。
 膨らんだ亀頭を、上から膣口に押し込んだ。
 ぐにゅーっと広がっていく感覚があってから、あるところを|境《さかい》にして一気に奥まで滑り込んだ。ずっぷりと。
「はっぎ……んにぁ♡!」
 歯を食いしばったナツキの苦しげな表情に、すぐに|悦然《えつぜん》とした色が乗った。
 彼女の下腹部に、巨根の形がくっきりと浮かび上がり、皮膚の下を前後に動いて、彼女のヘソを持ち上げた。
「へっ……♡ へっ……♡ へっ……♡ へっ……♡」
 ナツキはだらしなく舌をこぼした。ちょっと飛んじゃった感じだけど、仕上がりは上々。ハチハチを去る前に、僕専用に調教してしまう予定だ。だって僕が買った娼婦だし。
 よっこいしょと、彼女をベッドに横たえて、上からのし掛かると、正常位で彼女の頭を抱える体勢になった。これだと、性行為しながらでも指が自由になる。
 ずんずんとナツキの細い腰を突き上げながら、ターミナルを近くに置いてぽちぽち。
「僕ノザーメンハネ、栄養ドリンクミタイナモノラシイカラ、飲ンデモ大丈夫ダヨ」
「へぁ♡? ほんとぉ♡?」
「スゴク元気ニナルラシイヨ。友達ノ子ガ言ッテタ。結構ミンナ美味シソウニ飲ンデタシ、デトックス効果ナンカモ、アッタリシテ」
 絶対ないけどね。
「よかっ、たぁ♡ サイダー、みたい、なの……じゃ、もっとのむぅ♡」
「次モ、お口ニダソウカ?」
「あんっ♡ つぎは……なか♡」
 ナツキが下から抱きついてきた。
「なかぁ♡ あっ……なかに、だして♡ じぇぼたんの、なかだし♡ すき♡ なにも♡ かんがえたく♡ なくなるから♡」
「オッケー」
「ひっ♡!? あっ♡! あ゛っ♡! あ゛っ♡! あ゛っ♡! あ゛っ♡!」
 携帯をいじりながらセックスするのって、退廃的で素敵。
 体位を変えて、松葉崩しで結合部をクローゼット側に開いてみせた。
 ナツキの片足を抱えて腰を振れば、僕の亀頭がぐりぐりと下腹部で暴れ回るのが、よく見えるはずだ。
「あぁッ♡! あぁッ♡!! くるっ♡ とんじゃ……いっ♡ いっ♡」
「イッテイイヨ、合ワセテアゲル」
「やっ、あっ……んんんんんんんんんんんんッッ♡!!」
 ナツキが指を噛んだ。そのタイミングを見計らって腰を突き出し、彼女の一番奥で亀頭をはじけさせた。
 二人で一緒になって動きを止め、びゅくり、びゅくりと結合部で繰り広げられる粘液の受け渡しに集中する。
「あ゛ーーーー……」
 へそを押し上げられるに従って、彼女が掴むベッドシーツのしわが深くなっていった。
「な、ながっ♡ ……ながい、よぉ……♡ からだ、もえちゃう……♡ すきぃ♡ じぇぼたん、すきぃ♡」
 涙を浮かべて快楽を訴えかけるナツキ。
 僕はそんな彼女の足を抱えて、さらに奥に押しつけながら種付けを続行。
 動きを止めて流し込む僕の視界に、ふと、かすかな光がチラついた。
 クローゼットの隙間から床の上へと伸びている、キラキラと光る一本の糸。それは、しおり糸だ。
 蜘蛛は、歩くときも常にお尻から糸を出している。それをしおり糸と呼ぶ。
 ふっふっふっ。
 あのしおり糸は、ヤクモがクローゼットにいる証拠だ。
 あそこからこっそりのぞくようにと、弟くんには事前に指示を出しておいた。ヤクモは今、あの隙間から僕らのセックスを鑑賞しているはず。
 僕が気配を読めなかったほどの忍びの者だ。あのマコモとかいう女忍者を超えるマスター忍者の存在に、素人であるナツキが気づけるはずもない。
「ひぁ♡」
 ナツキの膣口から白濁液がピュッと噴き出した。その刺激で、彼女は反射的に膣口を締めてしまう。無意識に、精子を一滴も逃がさないようにする女の子の本能かわいい。
 こんな姉の痴態にも、ヤクモは興奮していないんだろうな。
 前回のときも、ちらっと確認したんだけど、勃ってはいなかった。あくまでもナツキの様子を観察しているっていう感じだ。弟くんは今日もこれをネタに、オナニーじゃなくて、創作活動に|勤《いそ》しむに違いない。アーティストの|鑑《かがみ》だ。僕もヌードモデルとして芸術にコントリビューションしないと。
 数分間に渡るブッチャーの吐精を終えた。
 ナツキは息も絶え絶え。
 そんな彼女をうつ伏せにして、今度は寝バックで上から押し潰す。
 白い尻をおなかでスパンキングするイメージで、乱暴に突き込んだ。
 ズグンッ! という幻聴が聞こえたのと同時に「んお゛ッ♡!!」という下品な声が上がった。
 寝バックっていいよね。ベッドの上でしかできないんだけど、これだと、女の子はまったく抵抗できなくなる。正常位は手足をバタバタさせられるし、わんわんスタイルは前に逃げられる。でも寝バックは無理。ましてや僕の巨体に押し潰されると、もう動けない。股を閉じてもだめ。実はレイプで一番有効な体位は寝バックだった。
「ふー……ッ! ふー……ッ! ふー……ッ!」
 ナツキはシーツを噛んで、ジト目を潤ませることしかできない。このまま受胎するまで犯されるしかない。そんな確信にも似た予感を、尻を叩くことで彼女の深層心理に植えつけていく。
「――んお゛ぁッ♡!? これ、だめぇ♡! まって♡! じぇぼ、たん♡! やめて♡! ばらばらに、なるぅ♡!」
 寝バックだと、角度的にGスポット削りまくるからね。壊れちゃう、なんていうお決まりのセリフを吐き出す子は多い。実際、壊れちゃう子もいる。
 ナツキの後頭部からシャンプーのいい香りがする。そこに鼻を突っ込んで、汗の匂いも一緒に楽しみつつ、僕はターミナルをぽちぽち。
「仲直リ記念デ、アト五回ハシヨウネ。昨日ノブンモアルシ」
「ご、ごか……♡」
「晩ゴ飯タベタラ、朝マデシヨウ」
「ぜつりん♡! ぜつりん、はんたい♡! だめ♡! しんじゃう♡!」
「コレカラ毎日スルヨ。ダッテ僕、ナツキヲ買ッタンダカラ」
「♡♡ッ!? ♡♡♡ッ!?」
 ナツキが僕の下から逃れようと藻掻き、助けを求めて手を伸ばした。だがしかし、ベッドフレームは遠くて手が届かず。彼女はかわりに、枕を引き込んでそれに顔面を沈めた。
 いい感じに、脳味噌が|灼《や》けてきたかな。
 そろそろ、聞いてみよう。
「トコロデサ、ヤクモノ絵ナンダケド」
「♡?」
「ナツキノ裸ダヨネ、アレ?」
「――ひっっ♡!?」
 きゅーっと締まった。
 ナツキのぷよぷよな尻肉を下腹部で押し潰し、尋問を続行。
「顔ガ全部隠レテタケド、僕スグニ分カッタヨ。タクサン、ノートニ描カレテタ」
「そ、それは――ぁん♡」
「ヒョットシテ、ヌードモデルシテタ?」
「してな……ぁん♡!」
「ヤクモガ、セガムワケナイカラ、ナツキガ自主的ニ見セテタ、ッテコトダヨネ?」
「ち、ちが……ん――――ッッ!!」
 ナツキが小さくイッた。
「ナツキ、ヤクモニ見ラレルノ――」
 彼女がオーガズムを乗り越えるのを待ってから、動きを止めてぽちぽち。真意を問いただす。
「実ハ好キデショ」
「――う、うそッ!! そんなわけないだろッ!!」
 ナツキは突如、じたばたと暴れ始めた。
 上から押さえ込んで、僕からのご提案。
「ヤクモニ見ラレテ感ジルナラサ、イッソノコト、毎回僕ラノエッチ見テモラエバ?」
「い、いやっ……だあぁぁぁぁんっ♡!!」
 彼女の答えを待たず、ぬらーっと肉棒を引き抜いて、カリが膣口に引っかかったらまた、奥までずぷーっと押し込んでいく。
 抵抗がない。極限の滑り。
「ホラ、ヤクモノコト話シタラ、スゴイ濡レテキタ」
「そんな、ことぉ……ッ♡!」
 彼のノートにはエロ絵もあった。たぶんナツキが男に抱かれてる絵なんだ。
 ナツキがセックスシーンをヤクモに見せていた?
 いや。僕の推測だと、それはないだろう。
 先日、ヤクモに見られていたときの彼女の拒否は本気だった。びしょびしょに濡れてたけど。とにかく、性行為を見られたのは、あれが初めてなんだ。
 ヤクモは創作ができる。
 事実、僕との絡みシーンはファンタジーな触手エロになっていた。でも、そんな創作絵画にも、元ネタがあるはずなんだ。
 すなわち、あのエロ絵の元ネタは――。
「ヤクモニ、オナニーシテイルトコロ、見セタコトアルデショ」
 僕の下で、ナツキが枕を噛んで全身をビクビクさせた。がっつりイッたみたい。耳たぶまで真っ赤だ。
「やぁ……やめて……もう言わないで……うぅ……」
 彼女は枕に向かって弱音を吐いた。
 いいね。|俄然《がぜん》レイプ感が出てきた。
「見ラレルノ好キナラ、僕ト一緒デ変態ダネ」
「いっしょ?」
 ナツキは火照った顔でチラリ、僕を振り返った。
「イッショ、イッショ。僕モ、ソッチノホウガ好キ。二人デ一緒ニ変態ニナロウ。オ尻アゲテ」
「いっしょ……いっしょ……いっし、ぁあんっ♡!」
 熱々とろとろになった蜜壺を、心機一転。蹂躙する。
「あ゛ぁっ♡! あ゛ぁっ♡! あ゛ぁっ♡! あ゛ぁっ♡!」
 悲鳴に近い嬌声が寝室に響き渡った。彼女の理性は壊滅寸前だ。これでよし。
 よく考えたら、シゲアキの撮影機材があるんだよね。
 ここはひとつ、監督総指揮ヤクモでAV撮影とかどうだろうか。
 タイトルはこう。
〈クローゼットの隙間 ~ブッチャーに朝から晩まで犯され壊れていく姉の堕落を見つめる弟の光なき瞳~〉
 世も末だ。世紀末なんだ。ばっちり売れそう。
 そんなことを妄想しながら、僕はビジュアルインパクトを重視して、今度はナツキの背中に射精することにした。彼女の茶髪にも、しっかりと僕の汚らわしい体液を塗布していく。
 そうして無残な顔になったナツキを引き起こし、今度は背面座位でゆすり犯した。
 クローゼットからよく見えるような体位を選んで、中も外も関係なく白濁液をぶっかけていく。
 その後も、ヤクモの名前を出してなじるたびに、彼女のオーガズムは深く、長いものになった。僕はただ、そんな弟くんのショタパワーに敬服しながら、彼女を汚し続けるだけで極楽なのだった。
 昼過ぎから始まった、そんなブッチャーによる現代アート教室は、結局、夜まで続くことになった。どんな名作が生まれるのか楽しみだ。
 気を失ったナツキをベッドの上に放置して、僕はヤクモとダイヤをクローゼットから連れ出し、夕飯の支度に取りかかった。
【オートアサシノフィリア】
 自分が殺害されることに性的な興奮を覚える性的倒錯。望まぬ死に肉薄して、至上の快楽を得る。首絞めが一ジャンルとして認知されていることが、この性癖の存在証明である。死を望んでいるわけではないので自殺願望とは異なる。

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