囚われの女スパイ・アビゲイルと手を組み、起爆装置の解析に成功した羅刹鬼・ジェヴォーダン。
護衛対象のフェリスやテレパス遣いのリディアとイチャイチャ交流を深めつつ従順なブッチャーを演じ、
地下で待つお気に入りの嬢と共に自由を手にするために着々と足場を固めていた。
そして異世界への遠征という絶好の機に乗じ、ついに最終計画を始動!
しかし突如として巨虫の軍団に襲われ、自爆シーケンスが急作動し窮地に陥り──
美女と野獣の脱獄劇、最終局面へ。深遠なるSFダークファンタジー、激動の第3巻!
第十九章 独房に咲く百合
第二十章 リディア
第二十一章 バイトリーダー
第二十二章 獣の饗宴
第二十三章 第二回ジボダンの会
第二十四章 女のプライド
第二十五章 反省会
第二十六章 完全変態
第二十七章 旅行のお誘い
第二十八章 銀髪の託宣、金髪の導き
第二十九章 ミフォーシス
第三十章 鎖を解かれた獣
第三十一章 屠殺鬼の王
第三十二章 フェイムバウム
第三十三章 フォート88
特別書き下ろし 井戸穴
特別書き下ろし ゴミを食わされた話
特別書き下ろし デート
本編の一部を立読み
第十九章 独房に咲く百合
「ジボダン!」
トテトテ。
そんな足音を立てて屋敷から出てきたのは、お漏らし狐っ子こと、フェリスだ。
彼女は見た目、中学生から高校生といったところだけど、動きはまるっきし小学生だった。僕のお守り任務はいまだに続いている。ちょっと信じられない神経だ。この狐一族の神経は、しめ縄のように図太い。
でも今回ばかりは助かった。
さすがに女子校に連れて行かれることはなくなったけれど、その後も僕は、ときどきこうして呼び出しを受けて、彼女が外を歩くときの護衛役として連れ回されている。
今日もバイトの途中で呼び出され、ミノタウロス店長の肩をツンツンして抜け出し、彼女の屋敷まで迎えに来たところだ。店長は万事承知しているといった具合に僕を送り出してくれた。
フェリスが街を歩き、僕がふさふさのしっぽと狐耳を眺めて、その後ろをついていく。
彼女はベレー帽をかぶることをやめたようだ。理由は分からないけど、何か心境の変化があったんだろう。耳、見えてる方がかわいいよ。
こうして彼女にあちこち連れて行かれるおかげで、街の様子も随分と詳しく知れた。今日の目的地は、どこだろうか。
「#&△〓◎○#、※○☆。ジボダン〆◎△★◇?」
香ばしい煙がモクモクと上がる出店で、おやつを買ったフェリス。
道ばたのベンチに腰掛けた彼女が、僕に話しかけながら串肉を渡してくる。ありがとう。もぐもぐ。タレ味。うまい!
ついでに肩にかけていたバッグから何かを取り出して、追加でそれを僕に差し出した。手に握られていたのは草だ。ミノタウロス店長に何を聞かされたのかは知らないけど、その草……もぐもぐ。ネバネバの味。うまい!
ベンチに座ったフェリスが、プラプラと足で空気を漕いだ。僕と並んでもぐもぐと串肉に舌鼓を打っている。彼女は大型犬でも連れ歩いているような感覚なのだろうか。僕に対する警戒心がまったくない。それどころか、こうして熱心に餌付けまでしてくる始末。その内、お手とかやらされそう。おちん×んなら得意です。
僕、彼女に好かれるようなことなんて、何もしていないどころか、彼女の|初心《うぶ》な青春に何ページにもわたってトラウマもののシーンを書き殴っているのに、この懐かれようはなぜ?
だがしかし、そんな彼女の無垢な好奇心が、これから鍵となってくる。
「――?」
ふと、フェリスが僕を見上げた。頬張った肉のせいで、両頬がぷっくりと膨らんでいる。
そこで僕が彼女の食べかけの串を指差して、小首をかしげてみせると、それを見た彼女はゴックン。口の中の肉を飲み込んで言った。
「タプア」
ふむふむ。これはタプアという食べ物なのね。
続けて、お馴染みの草を指差してみせる。
「マリファナ」
なるほどなるほど。この草、マリファナっていうのか。
――……え? これ|大麻《マリファナ》なの? まじ?
店長、昼間っからマリファナ食べてたのか……。
いや、単に言葉が同じだけだという可能性も……でも言われてみれば、この草ってスジっぽいし、甘い香りがして、たしかにそれっぽいな? 葉っぱの形もすごく似ている。店長ってやけに陽気だしな……っていうか、マリファナって生でも効果あるのかな?
ま、いっか。
最近、僕もこの草がお気に入り。基本的に肉食の僕だけど、|猫草《ねこくさ》感覚でもりもり食べれちゃう。むしゃむしゃ。
フェリスは、食べちゃダメだよ。
クンクン。興味津々に鼻を利かせていたフェリスから、草を取り上げた。あっ……とか残念そうな声を出してもだめー。眉をひそめて口をへの字に曲げてもだめだめー。これは自由なセックスを手にした大人が果たすべき義務なのさ。
串肉を食べ終わった狐っ子が、指をペロリと舐めて立ち上がった。
また僕を先導して歩き始める。
彼女は道すがら、指を差して僕にあれこれと単語を教えてくれた。
そのたびに、うなずく僕。
「ドレン」うん。
「ミサクラ」うん。
「サータフーフ」うん。
「バッフタンリコノアーレギョル」ちょっとそれは無理。
そうこうしている内に、目的地へと到着。
本日は、街の反対側にある大きな公園にやってきた。そこは今の時期、秋バラやコスモスが咲き誇る、ボタニカルな感じの公園で、彼女はその庭園を見たかったようだ。やっぱり花が好きなんだね。超似合ってる。
で、それにつき合わされたのがブッチャー。
せっかくのお花が台無しだよ。
それにしても僕、完全に犬扱いだなこれ。
公園まで犬を連れてお散歩。優雅だ。実態はブッチャーだけど、そこは彼女はあまり気にしないみたい。公園にいた周りの人たちは、すごく気にしていたよ?
できれば首輪をお願いしたい。鎖を持ったフェリスに犬扱いされて街中を引き回される想像をすると、やや興奮する。
僕を先導して、フェリスが夕暮れの帰り道をテクテクと歩く。
彼女の歩き姿を背後から眺めると、ふさふさのしっぽや、ピンとした耳が強調されて、すっごく狐。牢獄にお持ち帰りした上で、ひと晩かけて毛繕いしたい。
――なんだろうな……。
落ち着いた気分で彼女を見ていると、妙に庇護欲が刺激される。他の獣人を見ても、しっぽを掴んでバックで突っ込みたいな、くらいにしか思わないのに。
これは、あれかな。
ひょっとして、僕が元|フ《・》|ォ《・》|ッ《・》|ク《・》|ス《・》チーム所属だから、無意識的に狐に対して親近感を抱いているとか、そんな単純な話なのだろうか。
もしそうなら、フォックスさまさまだ。おかげでフェリスを食べなくて済んだし、結果として、僕はこうして自由の糸口を手にしている。まさかブッチャーになったあともフォックスのお世話になるとは。人生、どんな因果が巡ってくるか分からないものだ。
日が暮れる前に、フェリスを屋敷まで送り届けた。
彼女は玄関前で立ち止まり、僕に向かってバイバイ。
いつもならここでお別れだけど、いよいよパーツが出揃った。よし、やるか。
おもむろに玄関の一カ所を指し示した僕。
それを見たフェリスが、ニコッとした。
「フェイグス」
別の場所を指差した。
「リンピオ」
さらにもうひとつ。
「スーブル」
その三つを繰り返し指差して、ローテーションを続ける。
「フェイグス、リンピオ、スーブル……フェイグス、リンピオ、スーブル……」
やがて彼女は、はっと息を呑んで僕を見上げた。
「――フェリス?」
うなずく。
「○§#&#☆○ジボダン、▲□、フェリス▼◇#!」
ガッ! と、拳を天に向かって突き出した狐っ子。
夕日に向かって、よっしゃーッ!!
なんだかすごく嬉しそうだ。ついにインコがしゃべり出したときに見せる飼い主のガッツポーズ感ある。
彼女が教えてくれた単語の音を覚え、初めのひと文字を繋いで別の単語を作る。とてつもなく回りくどい会話手段。そのスローテンポは、あのモールス信号の非効率に肩を並べる。
実はこれ、アビゲイルが僕に授けてくれた策の一環なんだ。
僕はまず、フェリスともっと仲良くなる必要がある。
狙いは、学友の褐色娘だ。
あの娘こそが、自爆機能つき制御装置を外せると|目《もく》されるキーパーソン。当面のマイルストーンは、その褐色娘とのコネを作ることだった。最後の一手は、まだ決めきれていないけれど、とにかく褐色娘と会話を果たし、彼女とも仲良くなり、得られた情報をアビゲイルに届けるのが、今の僕に課された最優先課題となる。
この作戦をアビゲイルがぶち上げたとき、僕はもうフェリスの家に呼ばれない可能性を|危惧《きぐ》した。理由は明らかだ。僕が遠征直前に、女子校で大暴れしたから。
けれども彼女は、僕は必ずまた呼ばれると断言した。
彼女いわく、結局のところ、僕は与えられた任務を達成したわけだし、そして何よりも、全校生徒の前でフェリスが僕を|御《ぎょ》してみせる形になったのは大きかったと。結果的に、フェリスの地位向上に大きく貢献したことにもなるのだから、ジボダンの価値は、むしろ高まった。そもそもの話、ブッチャーである僕を自宅や学校に呼ぶという時点で、僕は並のブッチャーとは見なされておらず、変態狐女の僕に対する評価は相当に高いところにある。アビゲイルはそう分析した。
そして今。
僕は引き続き、こうしてフェリス宅に呼ばれている。
金髪の魔女の言うとおりになった。
これからもきっと、彼女の言うとおりになる。
――さぁ、ここからが本番だ。
僕はまた指を送り、次の言葉を紡いだ。
フェリスも勝手が分かったもので、僕が指差す単語の先頭音だけを拾っていく。
「う、て、ごぅ、る、あ、く、――」
僕が伝えようとしている言葉はシンプル。アビゲイルはエイリアンの言語も多少は分かるらしく、これだけを伝えればいいと教えてもらったフレーズだ。
「び、な、く……」
最後に、フェリスは僕を見上げてぽかんとなった。
意味は「僕も、お話、したい」だ。
僕からこの|憐《あわ》れな言葉が出ると強烈なインパクトがある。アビゲイルはそう言っていた。女の子なら間違いなく胸が詰まると。
僕とフェリスのストーリーをひと通り聞き終えたアビゲイルの結論は、フェリスは僕に対して親近感が芽生え始めており、彼女の母性と共感性を刺激すれば、必ずどうにかして僕とコミュニケーションを取ろうとする、ということだった。そこで褐色娘か、あるいは別のテレパスを操る人物を頼るはずだと。幸い、褐色娘とフェリスは仲が良さそうだった。褐色娘が来る可能性が高い。
僕には、フェリスが僕に対して親近感を持ち始めているとは到底思えなかったのだけれど、アビゲイルは絶対にそうだと強弁した。
だって、僕がフェリスにやったことと言えば。顔面にザーメンをぶっかけて、至近距離から僕の極悪な淫棒とその裏筋を見せつけ、彼女の見ている前でエイリアンを二人丸かじりにして平らげた。失禁つき。さらに屋敷の中を何日にもわたって追い回し、三日三晩、枕元に立った。たぶん夢枕にも立った。彼女の目の前で人間を惨殺して、背骨まで引っこ抜いてみせた。おまけに彼女の、仲は良くなかったのかも知れないけど、学友を半殺しにした上で公開レイプ躍り食い寸前までいったわけだ。その帰りには、フル勃起した僕を引かせるという羞恥プレイまで。
いくらなんでも親近感は無理だろう。僕の見立ては常識的だったはずだ。
いやぁ……しっかし……。
ほんとに碌な目に遭わせていないな。なんだか申し訳なくなってきた。
ところがだ。
僕とアビゲイルの、どちらが正しかったのかは、僕を見るフェリスの不憫そうな目つきが物語っている。
そら恐ろしいのはアビゲイル。彼女、本当に魔女なのでは……?
僕はフェリスの答えを待たず、きびすを返した。
僕らが仕掛けた賭けの勝敗は、遠くない内に分かるだろう。
僕は胸中でほくそ笑み、精肉店へと戻った。
*
あれから、いろいろとあった。
蜘蛛の二号君を外に出してあげられたこと。アビゲイルという協力者を得たこと。女子校で大暴れしたこと。久しぶりの遠征に出たこと。ソバージュの子を失ったこと。アビゲイルを拠点に連れて行ったこと。そこでのこと。これからのこと。
そんな思いを込めて、二回ほど嬢に飲ザーしてもらった。
独房に来るのは数週間ぶりなのに、もう半年も会っていなかったかのような感動で早漏になった。嬢の舌遣いは相変わらずの絶技で、怒った精子が射精管を駆け抜けるたびに、その爽快感で腰が抜けそうになった。
僕がそろそろ三回目の絶頂を迎えようというとき。
亀頭にカリッと控えめな刺激を感じた。
視線を下ろすと、嬢が歯を立てていた。
これは珍しいことだ。彼女はプロフェッショナルだから、こんな凡ミスは犯さない。わざとだ。どうしたの? 前回から随分と時間が空いちゃったからかな? 僕が心の中で語りかけても、彼女は頬張ったままジト目になって動かない。違うらしい。どこか不機嫌そうだ。
理由に思い当たるところがなく、僕が頭を悩ませていると、やがて嬢は「ぷはぁ……」と肉棒から口を離し、根元をギュッと握り込んできた。
ギューッと締め上げられて、僕の息子がうっ血する。苦しい。間違いない。何か怒ってる。ホワイ?
――はっ!
まさか、僕がアビゲイルと仲良さそうなのが気に入らなかったとか?
たしかにアビゲイルは美人だ。スタイルもいいし、すごくエッチ。頼れる人物であることも分かった。とはいえ、あくまでも協力者。目的を果たせば、はいそれでおしまいの間柄。僕らみたいな、魂の奥底で繋がるような深い絆じゃない。そもそも僕は人間が嫌いで、彼女は人間だ。誤解させてごめんね。だからイカせてください。
辛抱たまらなくなって腰を小さく動かす僕。
そうして嬢の手の中で息子を前後させたのだけれど、彼女はそうはさせじと手を離してしまう。
つーん。
顔を背けた嬢の横顔。
彼女の眼前で、独りよがりの肉棒が、プラプラと情けなく揺れている。
嬢は僕から視線を外したまま動かない。
ええー……すっごく怒ってるー……。
恐る恐るベロを伸ばして嬢の巻き角を舐めた。
しかし彼女はぷいっ。顔をもっと横に背けてしまう。耳から鎖骨にかけて浮き上がる首筋が性的だった。
言葉を伝える手段を持たない僕は、ひたすら彼女の横顔を舐めて許しを請う他ない。ペロペロ。|忙《せわ》しなくペロペロ。耳をペロ。許してペロ。
やがて彼女は表情を崩し、僕の|黝《あおぐろ》い舌をレロォ……レロォ……チュッチュと優しく愛撫してくれた。その顔には慈愛の笑みが浮いている。許されたみたい。
僕が伸ばした舌に、彼女のテラつく舌先が這い回った。横から甘噛みしたり、先端をジュルジュルとねぶったり、しごいたりと楽しそうに遊んでいる。
舌は敏感なんだ。だからこうやって弄ばれると、くすぐったくて気持ちがいい。舌の横腹をくすぐられるのって新感覚。彼女の新しい奉仕の形に、僕も興が乗ってくる。舌を伸ばして首に巻き、おっぱいに巻き、腰に巻いて臀部の丸みをなぞった。
ベロもいいけど、息子のお世話もお願いします! 寸止めされたままでプッツンしそうです!
僕の心の叫びに、嬢はようやく爆発寸前の怒張を飲み込んでくれた。彼女の生暖かく湿った体温に、ほっとする。
――と、安堵したのも束の間。
入り口の向こうから、カツカツと複数の足音が近づいてくる気配があった。
嬢も気がついたのだろう。喉の奥でいっぱい|射精《だ》してモードだった彼女は、口から逸物を吐き出して、顔にいっぱいぶっかけてモードに切り替えた。
目を細めた嬢の顔が、赤黒い肉棒の向こうで上下する。その艶然とした口唇奉仕に、僕の興奮は最高潮に達した。
絶頂の電撃で薄く明転した視界の中、独房の入り口に現れたのは二人の女の子だった。
パタタッと、白濁のしぶきが彼女たちのつま先まで飛び散った。
一人はフェリスだ。
もう一人は…………褐色娘。
フェリスは目を見開き、縦割れの瞳孔をキュッと収縮させてフリーズしていた。
驚いたかな。これが大人の空間だよ。嬢は頭から何度もぶっかけられ、すでに全身が白濁液でドロドロ。僕は素っ裸で|磔《はりつけ》になってエレクチオン。しかも鈴口からはビュルビュルと絶賛放出中。白いアーチが嬢の頭上を飛び越えていく。うら若い少女が見る光景としては|些《いささ》か、えげつない。
褐色娘はというと、こちらは「おお……」といった顔にはなっていたけれど、さほど引いた様子もなくガン見だった。
放精シーンをライブで若い女の子にじっくり鑑賞される、という新たなステージに踏み出した僕が、しばらく身体を震わせて、そのいかがわしい余韻に浸っていると、そのかたわらに褐色娘が歩み寄ってきた。
彼女は両手を尻の後ろに組んで、さして僕を気にした素振りもなく、嬢に話しかけた。
嬢がそれに応じ、二人はそのまま僕の分からない言語で会話し始める。
嬢は嬢で、イッている最中の息子をしごく手を止めないものだから、僕はおしゃべりの片手間に手淫され続ける格好に。
ニチャニチャと体液まみれの肉棒がこすれる音に、ピチャピチャとザーメンが床に飛び散る音。そういった、どうしようもなくみっともない音が独房に響いているにもかかわらず、二人は素知らぬ顔で会話を続ける。この放置感、ちょっと癖になりそう。ビクビク。
フェリスはまだ顔を真っ赤にして石化している。でも目は逸らさないんだね。
ようやく|射精《だ》し切った僕は、太い息をついた。
褐色娘と会話を終えた嬢が、汚れた陰茎のお掃除に戻った。ぺろーん。ビクビク。
――結局、何だったんだろう。
不審に思った僕が、独房の入り口に視線を送った。ちょうどその時。
褐色娘が独房の中にフェリスを引きずり込み、彼女を近くの壁に押しつけるのが目に入った。いったい何をするつもりだろう。まったく状況が掴めない。
戸惑う僕を尻目に、褐色娘はフェリスに身体を寄せつけ、彼女の首筋をぺろーり。服の下から手を差し込んでモゾモゾ……モゾモゾ……。
唐突に始まったそんなじゃれ合いに、困惑は深まる。
また、いじめかな……?
フェリスの学園ヒエラルキーは、彼女が通う女子校において、いじめられっ子に近い位置にある。彼女自身が弱いからというよりは、周りが強すぎて血気盛んすぎるからと言った方がいい。しばらく一緒に行動した僕から言わせてもらえば、フェリスは常識的な女の子だ。
僕がフェリスと出会うきっかけになったのも、エルフ娘によるいじめが原因だったと思われる。今日は、褐色娘にからかわれているのだろうか。
フェリスの表情を確認した。
彼女は頬を朱に染めて、小さく拒否の声を上げていたけれど、抵抗する素振りはいっさい見せていない。そういえば、褐色娘はフェリスと仲が良さそうだったことを覚えている。とはいえ、喜んでペッティングを受け入れているようにも見えない。硬い表情だ。
嫌がっているなら、止めてあげようかとも思った。僕が本気で怒鳴り声を上げれば、行為をやめさせることもできるだろう。しかしフェリスの表情は、どちらとも取れない。嫌がってはいないけど、楽しんでもいない。我慢しているのか。はたまた。
――いったい何が起こっているの……?
いったん嬢を見よう。
彼女は、その豊かな乳房で僕の困惑する棒をあやしている最中だった。ぴっちりと閉じたおっぱいの谷間から、ひょっこりと頭を出す、赤黒くゴツい亀頭。嬢は長めの舌をべーっと突き出して、ぬらぬらと先端に絡みつけてくる。よしよし、よしよし。いっぱい、せーしをだしましょーねー。そんな幻聴まで聞こえてくる、見ているだけで心安らぐパイズリだ。
嬢を見て心を落ち着けた僕は、ふたたび視線を二人に戻した。
行為は落ち着くどころかエスカレート。もうすでにフェリスの口は塞がれていて、褐色娘の膝が彼女の股ぐらに差し込まれている段階だ。軽く押し上げてグリグリ。薄いおっぱいをもみもみ。うらやま!
フェリスの様子はというと、目をギュッとつむっていて、しかし抵抗はしていない。口を開いて、消極的ながらも褐色娘の舌を受け入れている。
フェリス、実は|百合《ゆり》属性だったの?
だとしても疑問は残る。なぜこんなところで?
ついに褐色娘の指がフェリスの陰部に伸びた。
「――ん゛っ!?」
スカートの下から手を入れられ、目を見開いたフェリス。
「●&〆★□●&※……」
「★§、#◇☆〆〓★●〆?」
フェリスが何かを言い、褐色娘が答える。
唇を噛んで大人しくなったフェリスと、ペロリと舌なめずりする褐色娘。
彼女はフェリスの上着を無理やりたくし上げ、露わになった白いブラを口でずらし、その下からのぞいた小さな膨らみに舌を這わせた。同時に指先もうねうねとショーツの中で|蠢《うごめ》いて、フェリスの顔は茹で蛸みたいに真っ赤っ赤。
腰を抜かしたフェリスが、背中をズルズルと壁に滑らせて床にへたり込んだ。
褐色娘はそんな彼女を冷たい床に押し倒して行為を続行。
乳首をペロペロ。かみかみ。続いてフェリスの口をキスで塞ぎ、舌を奥まで差し込んでムグムグ。それが終わったら唾液の糸を引いた口で狐耳をはみはみ。
「ふぃ……ふぃ……ふぃ……」
フェリスの半開きになった口から、なんとも言えない声が上がっていた。呼吸は上気して、目の焦点はボケている。褐色娘、テクニシャンだな。伊達に学校中ところ構わずチュッチュしていない。
ああ、それにしても楽しそう。僕もぜひ。
直後にカリッと亀頭に刺激を感じた。歯を立ててジト目の嬢。せっかく素敵な奉仕をしてもらっているのに、僕がよそ見をしていたから。
でもさ、あれは目が離せないよ。だって、ほら。僕って一応、フェリスのお守りだし。止めなきゃいけないタイミングがあるかも知れない。しっかりと監視しなければ。プロとして。
しばし動きを止めて見つめ合う僕と嬢。
……。
嘘です。僕はレズのビアンが大好物。あんなの見なきゃ損。
ほら、今も。
床に飛び散った僕の精液を、褐色娘が指に絡ませて、フェリスの口に突っ込んでジュプジュプと遊んでいる。フェリスは意識を混濁させていて、舌をつまみ出されたり、白濁液を唇に塗り込まれたりと好き放題。うわー、なにあれ楽しそう。
褐色娘は、そんな彼女の|蕩《とろ》け顔を至近距離で凝視しながらはぁはぁ。だらしない顔だ。
フェリスのベロがちっちゃくてかわいい。床に飛び散ったやつじゃなくて、僕のデカマラから直接フレッシュなのをあげたい……じゃなくて、褐色娘があのザーメンまみれの指を下の口に差し込もうとしたら、そのときこそが、止めるべきタイミングだろう。目を離さずに監視する。じーっ。
僕の息子を咥えた嬢が、鼻で小さく嘆息をついた。あきれた目つきになって僕をゴクゴクと飲み込んでいく。ぬらぬら、ぬらぬら。背筋を這い上がるゾクゾクとした快感。こっちもこっちで目が離せない。
でもやっぱり向こうが気になる。
褐色娘は、ここからどうするつもりなんだろう。興味が尽きない。おもちゃは持ってきていないように見えるけど。
褐色娘の執拗な愛撫を受け続けたフェリスは、まるで浜に打ち上げられた魚のようにピクピクと酸欠に喘いでいた。
それを満足そうに見下ろした褐色娘が、ようやく身体を離した。
彼女がフェリスのショーツをするーっと膝まで引っ張り下ろすと、ぐっしょりと濡れた白い布地から透明な糸が引くのが見えた。フェリスは僕の方に頭を向けて寝そべっているから、僕からは肝心の部位がスカートに隠れて見えないのが口惜しい。絶対に無毛で桜色なんだ。
褐色娘は、先ほどまでフェリスの秘裂を弄んでいた指先をうっとりとした目つきでチュパチュパとねぶった。その瞳に、ドロッとした欲望の火が灯る――。
次の瞬間、褐色娘はやおらスカートの奥に顔を突っ込んだ。
フェリスの目が驚愕に見開き、腰が跳ねる。
「――ふあぁ!? ぁぁんん~~~~っ!? んん~~~~っ! んんんっ!?」
エイリアンも喘ぎ声は人間とそんなに変わらない。フェリスのちっちゃな悲鳴が独房に響いた。
「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……んんん~~~~……」
声を上げるのが恥ずかしいのか、フェリスは両手で口を押さえて必死そうだ。でもそんな彼女の押し殺せていない吐息は、もうすっかり発情した|雌《めす》のそれ。彼女の口から漏れるボリュームは小さくとも、独房の固い壁で幾重にも反射を繰り返した青い嬌声は、臨場感あふれるサラウンドとなって僕の耳にまで届いている。僕の脳幹から、性欲ホルモンとして名高いテストステロンがあふれ出す。
「んっ! ――んっ! ――んぅ! んんぅ!」
褐色娘の頭が上下運動を繰り返し、その動きに合わせて狐っ子の首が反った。
フェリスはたまらず、股の間に挟まった頭を両手で押さえたけれど、褐色娘の顔面はピッタリと股間に吸いついて離れなかった。
クンニリングスの詳細なシーンは見えない。
そこで繰り広げられているであろう、いかがわしい粘膜の動き。それが鑑賞できないもどかしさと、結果として加速を続けるフェリスの呼吸音が、むしろ僕の妄想をかき立てた。
性に消極的そうな狐っ子の股に、女の頭が挟まっていて、その奥からクチュクチュ、ピチャピチャと具体的な音。フェリスはその伴奏に合わせて「ふんに……っ! ふんに……っ!」とエロチックに身体をくねらせてよがった。
フェリスの|爛漫《らんまん》であるはずの目に、女性ホルモンたっぷりの涙が溜まりつつあった。
これはある種の衝撃映像だ。
フェリスは敏感なのか、次から次へと小さなオーガズムに達しているように見えた。褐色娘の|力《テク》なのかも知れない。
片手でフェリスの尻を揉み、あるいは狐のしっぽをしごき、そしてその手を今度は自分のホットパンツに突っ込んで慰める。褐色娘は飽きることなくそんなルーチンを繰り返した。
とりあえず、ものすっごく楽しそう。
そうやって何度も何度も背中を反らせたフェリスは、いつしか床の上でビクビクと痙攣するだけの肉になってしまった。
それでも褐色娘の責めは終わらない。むしろ抵抗がなくなったことを、これ幸いと、先ほどよりも顔面の密着度を増して励む。バター犬も真っ青な熱心さだ。
冷たい床の上でだらしなく大股を開き、その行為を受け入れるフェリス。
光の消えた彼女の|眼《め》が、僕を見た。
潤んだ眼球から流れ落ちたひと筋のしずく。
「じ、ぼ……だん――」
――なにこれ、すごく興奮する……。
寝取らレイプを、疑似体験しているみたい。
床の上で身体を弛緩させ、褐色娘のクンニで為す術なくイカされ続けるフェリス。
そんなシーンを見ながら、嬢のディープスロートを受けていると、あたかも自分がフェリスの奥深くに|挿《い》れて凌辱している気分にもなってくる。
僕は視線を落とした。
すると、それに気づいた嬢はいたずらっぽい笑みを浮かべ、喉の|蠕動《ぜんどう》運動を強めてくれた。んぐんぐと、彼女の喉仏が上下して、ぬめった生暖かい摩擦が僕の裏筋にいっぺんに襲いかかる。
実際、フェリスはレイプされているわけではない、という謎の安心感が――いや、レイプされているのかも知れないという小さな危機感もスパイスとなって――彼女のあられもない姿で興奮する、僕の一抹の罪悪感を覆い隠してくれた。
「ん゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!?」
フェリスが声にならない悲鳴を上げた。大きく背中を反らし、尻を浮かせてビクビク。
僕はそんな彼女の|絶頂《イキ》顔に目を奪われたまま、射精の合図を送ることも忘れて嬢の喉奥で果てた。
「――ん゛、ぐ――――ゴポォ」
ビチャビチャと、嬢の口から涎とザーメンの混合液が逆流した。
今までにない形で性欲を刺激されていたせいか、僕のミルクはいつになく濃厚だった。あの嬢が、珍しく咳き込んでいる。
「けほっ……けほっ……」
そんな嬢の苦しそうな顔と、フェリスの放心顔を交互に見るという贅沢を堪能する。
褐色娘が顔を上げるのが見えた。顔面にべっとりと付着した体液を、まるで汗をそうするように手でぬぐって、ふぅとひと息。満足げな仕草。あっちも終わったようだ。
――あ、終わってなかった。
褐色娘は名残惜しいと言わんばかりに、もう一度フェリスの上に覆いかぶさってムチュッと濃密なディープキス。
唇の隙間で蠢く二枚の舌は、まるでヒルの交尾のよう。
――なんと……。
調教完了だ。すごい。
感心する僕。その視線の先で、ようやく褐色娘が立ち上がった。
指を舐めて綺麗にしながら、こちらに歩み寄ってくる。
嬢が道を空けた。
入れ替わるように立った褐色娘が、僕の胸に手を当ててくる……えっ?
まさか――。
『こんにちは。君がジボダン?』
脳に直接響いた、艶のある若々しい声。
きたよ……これがテレパスか。
っていうか、どうやって話せばいいんだ?
独房のガチレズという、あまりにも想定外の事態に、準備をするのをすっかり忘れていた。アビゲイルは、テレパスは問答無用で思考を読む力ではないと言っていたけれど、これはヘタなことを考えられないぞ。
『私はリディア。私の言っていることが分かったら、何か合図してくれる?』
僕は逡巡してから、股間の息子をピンと跳ねさせた。
それを見て、プッと噴き出す褐色娘。
『――ごめん。磔だもんね。ってか、本当に言葉が分かるんだ。へぇー……』
感心した風に僕の顔を見上げてくるリディア。
『フェリスにさ、一人で校舎の裏に来るようにって呼び出されたんだ。ようやく私の想いが通じたのかなって、ドキドキが止まらなくなっちゃって。髪の毛まで切って意気込んできたのにさ。蓋を開けてみれば、話の分かるブッチャーがいるー、だなんて。からかわれてるのかと思ったけど――』
彼女がニッと笑うと、小さな牙がのぞく。
『私はテレパスっていう力を使って、君と直接お話ができるんだよ。何かしゃべりたかったら、私の身体に触れて強く念じてみて……ああ、でも拘束されてるから手は動かせないか。どうしよ……』
僕は黝い舌を伸ばした。
一瞬だけギョッとなったリディアだったけれど、すぐに僕の意図に気づいたのか、彼女は舌先が腕に触れるのを払いのけようとはしなかった。
ペトリ。褐色の肩にくっついたベロ。これで脳内トークすればいいのかな。
『僕はジェヴォーダン。フェリスの|騎士《ナイト》だ』
一瞬だけ、きょとんとなって見上げてくるリディア。通じたっぽい。
『ジェヴォーダン? ジボダンじゃなくて?』
『それはフェリスの勘違い』
『へ?』と|呆《ほう》けたリディアが、間もなく吹き出した。
「――あっははははははっ!」
|蓮《はす》っ|葉《ぱ》におヘソを抱えて笑うリディア。
一方の僕は、感動に打ち震えていた。
言葉を直接やり取りしたのなんて、言うなればブッチャーとして生まれて初めてだ。
胸にじんと染み渡るものがあった。
なんて気持ちがいいんだろう。頭がふわふわする。
人間だった頃は、会話できるということが、これほど幸せなことだとは知らなかった。
彼女はひと通り笑うと、目尻をぬぐって、また僕に手を当ててくる。
「ひー、ひー……」
『あー、そうなんだ? フェリスって、ときどき抜けてるところがあるからねぇ。了解、ジェヴォーダン。フェリスの騎士さん』
そう言って、リディアはまだ立ち上がれない狐っ子を振り返った。
一応、彼女のお守りとして確認はしておこうと思う。
『フェリスをいじめてたの?』
『え? ……ああ、フェリスの騎士としては気になるよねー』
リディアはもったいぶった言い方をした。
『違うよ、安心して。むしろ逆』
彼女はニヤニヤして続けた。
『……実はさ、フェリスがね、ブッチャーと話がしたいから手伝ってって、私に言ってきたの。でもほら、私は別にブッチャーと話なんてしたくないからさー?』
肩をすくめてみせたリディア。
『しかも君って、前に学校で大暴れしたブッチャーだよね? アーシェラを圧倒できるブッチャーなんて、怖くて近づきたくもないって、一回は断ったんだ。そしたらさ――?』
ペロリと唇を舐めた。
『フェリスが自分のこと、好きにしていいって』
なるほど。そういうことね。
『|健気《けなげ》じゃない? かわいすぎ! 私、きゅんきゅんしちゃって! だから、これからは、君とお話しするたびに、フェリスにいたずらしてもいいっていう条件で、通訳をオーケーしたってわけ』
『フェリスと話がしたい。リディアが通訳してくれるの?』
『うんうん。私が通訳するから、任せてよ』
『ありがとう』
僕の礼に、リディアはグッと親指を立ててみせた。
しばらく会話を続けた。
僕の設定はこうだ――記憶喪失。
それは便利なパワーワード。すべての疑問を問答無用に。記憶にございませんでぶった切れる。
必要以上に僕の方から話しかけてはいけない。
ペラペラとしゃべり、あまりにも知的な様子を見せると逆に警戒心を持たれる恐れがある。加えて、僕ってちょっと口が軽いところがあるから。アビゲイルと会話しているときに理解した。だからこの設定は、余計なことを口走らないようにするための、僕なりの対策でもある。少し頭が弱い風だと、同情を誘いやすいという期待もあった。
そして何よりも重要なこと。
それは、僕がしゃべれるという事実を他のエイリアンには口外しないで欲しい、というお願いを聞いてもらうことだ。
この口止めは極めて重要だ。
アビゲイルの解析によって、ブッチャーは頭が悪すぎるから、素直に言われたことに従っているだけだという背景が分かった。言い換えると、自我を持つブッチャーは危険極まりない存在だと、エイリアンの目には映るはず。ブッチャーに詳しい軍事関係者に知られると処分される恐れがある。
僕に自我があるという事実を、これ以上、広めてはならない。
フェリスとリディアの二人を説得する方法について、僕とアビゲイルは悩んだ。
結局、僕と同じく自我を持っていたブッチャーが処分されたのを見たことがある、という嘘を混ぜつつ、危険物扱いされて処分されたくない。フェリスとお話がしたい。もっと彼女のそばにいたい。そういう心情に訴えかける形でお願いすることにした。
大人に知られてはいけない重大な秘密を友達と共有する。それはティーンエイジャーの憧れ。ジュヴナイルの王道。若い子にはこっちの方が効く。アビゲイルの案だ。
これも正解だったようで、僕のお願いを聞かされたリディアは、同情めいた顔になって何度もうなずいてくれた。エイリアンとはいえ、所詮は女の子だ。
『――今日はちょっともう、フェリスとはお話しできないかもだけど……なんかごめんねー? 我慢できなくて』
依然として床の上で目を回している狐っ子を|一瞥《いちべつ》して、彼女は続ける。
『私さ、ずっとフェリスとエッチしたかったんだ』
やっぱりガチレズさんは君だったんだね。
『何回も告白したんだよ? ときにフォーマルな雰囲気で花束を持って。ときにカジュアルな感じで、私たち一回くらいつき合ってみない? 的な。でもあの子、あの血筋なのに、ものすっごい奥手でさ。ずっと攻めあぐねてたんだ。それで限界まで圧縮されてた欲望がつい、爆発しちゃったみたい。てへ♪』
てへぺろしたリディア。
『すごく、分かる』
思わず口をついて出た完全同意。うんうんと|首肯《しゅこう》。
似たような辛い経験が脳裏をよぎったからだ。ブッチャーもまた、お預け地獄は避けて通れない立場なのである。
するとそれを見た彼女は片眉をつり上げて『わかるの? ブッチャーが?』などと、また笑い出し、僕のいまだにガチガチにそそり立つ馬なみをペチペチ『ジェヴォーダンって、なんかウケるね!』屈託のない笑み。
この子、度胸ある。
隠すことでもないので、僕が女の子を前にして我慢しないといけないケースが多々あることや、そのあとは少しやりすぎてしまうこと、僕が女を仕上げることに心血を注いでいることなど、普段の仕事ぶりを話してあげた。
久しぶりの会話に、僕の舌はよく回った。
リディアは熱心に僕の話を聞いて相づちをくれた。やり過ぎるとは、どんな感じなのか。女の子を仕上げるとどうなるのか。そもそも僕の息子を|挿《い》れても大丈夫なのか。などなど。
『こんな立派なおちん×ん……裂けちゃいそう』
『大変喜ばれております』
『えー、うっそぉー!? 巨チン堕ちなんて、エロ小説だけでしょ! あっははははっ!』
あっ……この子、下ネタ好きだ。天然素材の面白い子だ。
健康的な見た目どおり、中身もオープンで大変よろしい。
僕の中で小さな仲間意識が芽生える。
リディアは人見知りしない性格のようで、僕にもいろいろと話をしてくれた。
やがて彼女のとりとめのない話は、フェリスに収束していく。
『――でさ、結局は男を見つけたらバイバイってなる子が多いの、女子校って。それは仕方ないことだからさ。うん。分かってる。でもね……』
スーッと、片手を顔の高さに上げたリディアが、
『フェリスは死ぬまで室内飼いしたい』
グッと拳を握り込んだ。
『一生、私の性奴隷にしたい』
力強い性奴隷宣言。
『これを機に、一年後にはどっぷり私色に染め上げて、私なしでは生きていけないくらいにまで調教してしまいたい』
ちょっと危ない夢に続いて語られる妄想トーク。
『私が家に帰ったら、フェリスが玄関でモジモジしながら裸エプロンで迎えてくれるから、まずはじっくり視姦して一日の疲れをそこでリフレッシュ』
ふむふむ。
『ディナーを給仕するフェリスはやっぱり裸エプロン。私は素知らぬ顔でフォークを床に落として、それを拾うフェリスのお尻やしっぽのつけ根、それから肩甲骨の浮き出しをオカズに夕食をとるの。やだ、どうしよう……食が進みすぎて太っちゃうかも』
太ったリディアは見たくないな。
『それで夜、私がベッドの上でグラスを片手にパンパンと手を叩くと、ネグリジェに着替えたフェリスが部屋に入ってきて、私の前で恥ずかしそうに服を脱ぎ始める。すると少しずつ見えてくるのは、隠すべきところが隠れていないドスケベな下着』
オープンクロッチのこと?
『それを見た私は、半分くらい脱いだところで我慢できなくなって襲いかかる。床の上に押し倒して、それから朝まで。部屋のあらゆる場所で。夜明けはベッドの上でフェリスの耳をしゃぶりながら優雅に迎える――』
リディアは語り切ってから、じわっと拳を握り締めて遠い目になった。
『そんな未来が欲しい』
なんて羨ましい生活なんだ。
『あぁ~、私も男に生まれてればなぁー。フェリスを君みたいなデカチンでアヘらせてあげられるのに。はひはひ言ってるフェリスの失神アクメ顔を独り占めしたいぜ……ッ!!』
くぅーっと、ひと口目のビールを飲んだおっさん顔になるリディア。
彼女のフェリスに対する想いは本物だった。
この僕が、ちょっと引くくらい、熱く語っている。
僕はその情熱に負けた。彼女たちがベッドの上で熱く絡み合うシーンを想像して、アドバイスを送る。
『そんなリディアにはペニスバンドをお勧めします』
『? ぺにすばんど……? なにそれ』
え、知らないの? レズレズなくせに|遅《おっく》れってるー。
僕が得意げにレズビアン用の疑似男性器の話をしてあげると、彼女は「ははぁ~」と感心したような声を上げた。
『お互いに刺さった状態になるから、腰を振ると二人で一緒に気持ちよくなれるよ。一穴タイプと二穴タイプがあって、二穴タイプの方が安定してて、激しく責められるからオススメ』
僕の話を聞いたリディアが、うつむいてしまった。押し黙った顔は見えないけれど、肩が震えている。
『ちょっと、ジェヴォーダン……君って……』
たっぷり時間をかけてから、パッと顔を上げた。
『――ちょー面白いじゃんっ!』
超笑顔。
『ほら、私たちって女子校だからさー? 知識とか経験が偏ってるんだよね。しかもお嬢様ばっかりだから、男とつき合うどころか男友達も制限されてたりするんだー。だからジェヴォーダンの生々しい話って、すごく興味ある……大変勉強になります』
敬礼ポーズでキラリ、目を光らせたリディア。
僕が差し出したベロを、彼女は無言で握った。
これが同好の士というやつだろうか。スケベ同盟結成の瞬間だった。
僕も、リディアによるフェリス調教過程って興味ある。そのときは、ぜひ助手として活用してください。僕の息子を派遣します。
『――ところで、リディア。彼女の名前を聞いて欲しい』
僕はあごをしゃくって彼女の視線を誘導した。
そこには、独房の隅から指を咥えて僕らを見ている嬢が。
嬢は僕の視線を受けて、コトリと首を倒した。表情は消えてるけど、めちゃくちゃ愛らしい仕草だった。
そんな彼女を見たリディアはしかし、ばつの悪い顔になって耳の裏を掻いた。
『んー……あの|女《ひと》は、たぶん名前ないよ。インプだから』
|淫婦《いんぷ》? 酷いな! 彼女はもっと崇高な存在なんだ!
少し|力《りき》んでしまい、四肢の拘束具がミシリと音を立てた。
顔を引きつらせて一歩引いたリディアが、ひと言ふた言、嬢に声をかけた。
「〓▽■○※#△◎、〓★◇☆#?」
「……〒#〓★」
うーんと喉を鳴らしたリディア。
すると嬢が何かを思い出したかのように顔を上げ、抑揚のない声で「&◎、〆&〒□★……? ……☆■※〓?」と言った。
リディアは、
「■◇○? ジェヴォーダン」
と答えた。
嬢の目が微かな燐光を帯びたような気がした。
リディアがまた僕に手を当ててくる。
『――ごめん、やっぱり名前ないって』
そうなのか……がっくし。
『彼女のことが、好きなの?』
訝しげな問いに、どう答えるべきか迷う。
僕は素直にうなずいてみせた。
それを見て一瞬だけ目を細めたリディアが、ひとつの提案を持ち出してくる。
『じゃあさ、こうしようよ。ジェヴォーダンが私の|恋路《こいじ》を手伝ってくれるなら、私がたまにここに来て、彼女とのお話を通訳してあげる』
それは願ってもない!
しかし直後に、小さな落胆が僕の肩を押した。
リディア経由だと、さすがに脱出の相談はできそうにない。僕は嬢を|攫《さら》ってここを出るつもりだけど、それはどうにかして別の手段で伝える必要がある。
それに、僕の手助けがなくても、君の恋路は王手目前に見えるんだけど、それでもいいのかな?
チラリと奥を見やると、フェリスがのろのろと立ち上がり、衣服を直しているところだった。結構長い時間、倒れていた。相当よかったんだろう。ひょっとして初イキだったとか? なんにせよ、あと二、三回で堕ちそうに見える。一年中これを続ければ、リディアの妄想が現実になる日はそう遠くない。
ま、いっか。
僕はリディアの提案に乗っかることにした。純粋な厚意で言ってくれているような、そんな空気を感じたからだ。
こんな重要な取り引きを、そんな軽々しく受けていいのかと思わなくもないけれど、ここは多少のリスクを取ってでも、彼女との接点を確保するべきだろう。この提案を受けておけば、フェリスがいなくても定期的にリディアと会う口実ができる。アビゲイルも反対するまい。僕は独断を決めた。
リディアはそのあと、フェリスを背負って帰った。フェリスが立ち上がってなお、フラフラと目を回していたので、さすがに心配になったらしく、出直してくると言っていた。
さながら台風一過。賑やかな女子の喧噪が去って、独房にまた大人の沈黙がやってきた。
彼女たちが出て行った入り口を眺めながら、会話の余韻に浸る。
その視線を塞ぐようにして、嬢が前に立った。
微笑む紫紺の瞳。
その中心を縦に裂く金色の|眼《め》が、僕を貫いた。
嬢は突然、僕の首に手を回して抱きついてきた。
おっぱいが潰れるほど密着し、僕の耳元に口を寄せる。
「――タイターニア――」
かすれを含んだ|囁《ささや》きに、僕の心臓が飛び跳ねた。
彼女は僕の耳穴を舌でねぶり、また、
「タイターニア」
と言った。
タイターニア。
それが彼女の名前。
名前を教えてもらえた。
天にも昇る気持ちになった。
「ジェヴォーダン」
甘美な声音が、僕の脳をくすぐった。
それは澄み切った天使の囁き。
タイターニアが僕を名前で呼んだ。
まるで愛の告白を受けたかのごとく全身が火照った。
心ノ臓が、ギリギリと締め上げられた。
すると一転して、全身の血流が氷結したかのように停止した。
凍えるような寒さの中、身動きひとつできない。
息が詰まる。
そうして硬直する僕に、タイターニアが口づけた。
柔らかくぬめった舌が、僕の上顎を舐め上げた。
直後、僕の金縛りが解け、大量の何かが、ぞろぞろと口内に侵入してくる感覚があった。
【テレパス】
言葉を介さずに意思疎通ができる魔法。
究極の暗号通信であり、人類のテクノロジーがその境地に到達するのは何万年とかけても難しい。