貘の棲む館㊤

著者: 千草忠夫

本販売日:1990/11/23

本定価:607円(税込)

ISBN:978-4-8296-0343-7

人の夢を喰うという貘。

野獣に似た男が棲む幽寂の館に連れこまれた人妻。

義弟との情交に溺れていた人妻に、屈辱の折檻が……。

数奇な運命のもと、悪の館に監禁された

美しき女たちの性を千草忠夫が赤裸々に描く。

登場人物

さよ その他

はつこ 兄嫁

れいこ その他

さえこ(26歳)人妻

本編の一部を立読み

「あ、死んじゃう……やめてッ」

「まだ死ぬのは早い。その前に弟とのことを吐くのだ。ジョー、気をやらすんじゃないぞ」

「わかってるよ、ボス」

初子は狂おしい瞳をカッと瞠ったと思うと、崩れるようにそれを伏せ、長い睫毛を陶然と震わせ、切なく歔いたかと思うと、またカッと眼をいからせる。

「ああ、もうやめて……」

喉を絞りたてるようにかぼそい声をあげて何かを訴える。

「吐けば、楽にしてやるよ」

ともすれば昇天しそうになるのを、そのたびごとに引きずりおろされているのだ。アクメを求めてジョーに哀訴するその眼差しの凄艶さはゾッとするほどである。佐渡原のもっとも好むシーンが、遂に始まったのである。

「お、おねがいです……おねがい……」

切なく鼻ですすり泣き、腰をゆすりたてながら初子は訴えた。

「だから、弟との関係を素直に認めなさい。そうすれば、何度でも気をやらしてあげる」

「…………」

初子はキリキリと唇を噛みしめてううむとばかり大きくのけぞった。のけぞったまま腰を小刻みにゆさぶっている。が、それがアクメにまで達しないよう、ジョーはバイブレーターを浅くしてくねりも止めてしまった。

「き、気が変になるッ……」

初子は人妻らしからぬみだらな言葉を半狂乱のていで口走った。乳房が弾み、腰がよじれ、喘ぎと泣き声が嵐のようだ。

「お、おねがいッ……ど、どうにかしてッ」

初子は唇が色を失うまで噛みしめ、そして自分を見捨てたものをうらむように天を仰いだ。

「もう、ど、どうなっても、いいわッ……ちょうだいッ」

呻きとともに絞り出した。佐渡原とジョーは眼くばせし合った。佐渡原が立ってきて、意識も定かでない初子の顎に指をかけて、グイと仰向かせた。

「弟と通じたことを認めるんだね?」

初子は焦点の定まらない瞳を宙に据えたまま、コクリとうなずいた。

「はっきり返事するんだ」

「ああ、そんなこと……」

美しい眉を八の字に寄せて、初子はいやいやと首を振ったが、拒み通す気力はなかった。

「は、初子は……京二さんと……ああ、いや……」

「言うんだ」

「い、言えません。言えないんです」

「オマ×コしましたと、はっきり言うんだ」

さらに迫られて、弱りきった初子からは何かが抜け落ちたようだ。まるで人が変わったように、全身を羞じらいに燃え上がらせながらもはっきりと弟との情事を告白したのである。

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