ボッチの僕でも、クズのヤリ××になれるってホントですか?

著者: 黄金の黒山羊

本販売日:2023/12/22

本定価:869円(税込)

ISBN:978-4-8296-4704-2

修学旅行の夜、ボッチな僕の童貞を奪う優しいギャルたち!
浴衣ギャル・延岡ルリナと黒木アイリと生ハメ初体験し、
清楚で真面目な委員長の金井純花にいきなり跨られて、
陸上部の山尾涼子から処女までもらって全員セフレに!?
四人の子宮にまとめて種付け、陰キャからヤリチンデビュー!
eブックス発の大ヒット作、フランス書院文庫に堂々降臨!

目次

第一話 ボッチの僕と修学旅行

第二話 ボッチに優しい彼女たち

第三話 浴衣ギャル二人に奪われる童貞!

第四話 騎乗位委員長&処女捧げ陸上部少女

第五話 夜が明けてもヤリチンセフレハーレム

第六話 ビーチで嫉妬する委員長に立ちバック

第七話 市内見学をサボってギャルに種付け

第八話 陸上部アイドルをメス堕ち寝取り

第九話 僕に種付けされる四人のセフレ

第十話 修学旅行の終わり、新たな少女と……

登場人物

るりな 女子学生

あいり 女子学生

すみか 女子学生

りょうこ 女子学生

本編の一部を立読み

第一話 ボッチの僕と修学旅行

 突然だが、僕──瀬戸真司はボッチだ。しかも、筋金入りの。
 僕という人間は、とにかく影が薄く、人の視界に入りにくいし、記憶に残らない。小さいときから、グループ決めなんかの場面では必ず一人だけ余ったし、遠足のバスに置いていかれるなんてこともよくあった。小学校と中学校の卒業アルバムには、集合写真の端っこに写っている以外、僕の姿はどこにもなかった。別にカメラを避けていたつもりじゃないのに。
 仮にこれが、イジメられているとか、キモイから意図的にハブかれているとかなら、原因がわかって対処のしようもあっただろう。けど、そうというわけでもない。
 僕の見た目は、決してイケメンではないけど、引くほどブサイクでもない……と思う。清潔さにもほどほど気を使っている。ただ、普通すぎるくらいに普通だ。個性に乏しいと言われればその通りだ。
 コミュニケーションという意味では、確かに引っ込み思案な面がある。いわゆる「陽キャ」のように、積極的に人に絡んでいくことができない性格だ。だからと言って、オタク趣味を持つ陰キャのクラスメイトたちの輪に加わろうとしても、上手くいかなかった。
 影が薄く、よく忘れられる。だから自分から人と交わらないようになり、さらに孤立する。そういう悪循環が続いた結果、中学を卒業し進学するころには、僕は本当に動かしがたいボッチになっていた。
 僕は一生このままなのか。誰とも深く関わることなく、孤独に生涯を終えるのか。今年の春から両親が長期の海外出張に旅立ち、家でも一人になってしまった僕は、最近そういうことを考えるようになっていた。
 そこに訪れたのが、五泊六日の修学旅行という、三年間の学園生活でも最大級のイベントだ。一学期の期末テスト終了直後、その修学旅行のグループ決めのため、学年全体でホームルームが開かれた。
 教室の生徒たちはみんな夏服を着ていて、テスト直後の解放感と、目の前に迫った修学旅行を楽しみにする浮かれた気持ちが混じり合った雰囲気の中で、僕は先生に話しかけた。
「あの、先生」
「──ん? どうしたお前。え・っと……せ、せ……」
「瀬戸です」
「あ・そうだ、瀬戸か!」
 一年のときから僕の担任をやっている先生は、僕の顔と「瀬戸真司」という名前を覚えていない。けどこれは、僕にとっては普通のことだ。
「──で、なんだ瀬戸」
「いや、あの……」
「……あ・、そういうことな。わかった」
 僕が申し訳なさそうに言い淀んでいると、先生は納得したように頷き、大きな声でクラスに呼びかけた。
「おい誰か! 瀬戸を班に入れてやれ!」
 できればそんな大声で言わないでほしいと思ったけど、そのときにはもう手遅れだ。
 ざわめいていたクラスは、一瞬シーンと静まり返った。けど、すぐにみんな、グループのメンバーとの楽しいお喋りに戻った。
「おい、誰もいないのか? 誰か瀬戸を──」
「い、いや、大丈夫です。全然、一人で大丈夫なんで。ホントもういいです先生」
「もういいってなんだ瀬戸。いいわけないだろ。どっかの班に入るのは、決まりなんだからな」
 止めておけばよかった。修学旅行のグループ決め。ボッチにとっては最悪のイベントだ。好きな者同士で固まれと言われても、案の定、僕はどこのグループにも入れてもらえなかった。だから先生に相談したんだけど、そんなことをすればこうなるのはわかりきっていた。
「──おい、誰か瀬戸を入れてやれって言ってるんだ。聞こえてないのか!?」
 先生は、生徒みんなが自分を無視している状況に腹を立て始めた。
 先生の横に立っている僕は、実に居たたまれない気分だった。こうなったら、僕を無理やりどこかのグループに入れるまで、先生は引き下がらないだろう。こんなのつるし上げに等しい。自分がどのグループにも望まれていないと知っているだけに、なおさら申し訳ない。
 なんて思っていたら、クラスメイトの一人が手を挙げた。
「あの、先生」
「おっ、金井か。なんだ?」
 その女子というのは、学級委員長の金井純花さんだ。ちょっと釣り目気味の涼やかな目元、腰まで届くツヤツヤの長い黒髪、可愛い子が多いと言われているこの学園内でも、別格の美人だと言われている、真面目で成績優秀な委員長が、細い腕を控えめに挙げている。
 その瞬間、彼女のほうにクラスメイト全員の注目が集まった。特に男子は、普段から彼女の一挙手一投足に注目しているやつが多い。化粧なんかしていないように見えるのに、そこらのアイドルも霞むような顔の金井さんが、薄桃色の唇を動かして何を言うのかと思ったら──
「瀬戸君さえよかったら、私たちの班はどうですか?」
「──は?」
 先生が呆気に取られて聞き返していたが、そうしたくなる気持ちは、周囲のクラスメイトも、僕自身でさえも同じだった。
 あの金井純花が、ボッチの瀬戸を同じ班に誘うだって?
 たとえ先生の怒りを誤魔化すためだとしても、あり得ない。
「いやいや金井、女子の班に男子を入れられるわけないだろ! 旅館の部屋割りも、この班分け通りにするんだからな」
 おまけに先生は、圧倒的な正論を付け加えて、委員長の案を却下した。
 金井さんは手を下げた。残念そうというか、僕に同情的な目をしているのは、彼女が決して、からかいの気持ちとかで今の提案をしたのではないということを示している。ほとんどまともに話したこともないボッチの僕なんかのために、なんていい子なんだろう。
(──あれ? でもそう言えば、委員長のグループって……)
 そこで僕は、ちょっと引っかかった。今、他のグループは机を寄せ合い話し合っているのに、金井さんだけは一人だ。背筋を伸ばして椅子に座る彼女の周りには、グループメンバーらしい人が誰もいない。
 あ、そうか。金井さんの班のメンバーは、今日はみんな欠席してるんだ。──じゃあ、他のメンバーって誰だっけ。えっと、確か、陸上部のアイドルの山尾涼子ちゃんだろ。あの子は今日は試合だから、ここにいないんだ。それと──
「おい、瀬川!」
「──えっ、先生? は、はいっ、なんですか?」
「なんですかじゃない! 飯田たちの班にお前を入れるから、それでいいかって確認してるんだ!」
 僕が金井さんに気を取られている間に、話はずいぶん変わっていた。
 先生は、飯田くんという男子生徒がリーダーをしているグループの中に、無理やり僕を突っ込むことに決めたらしい。飯田くんとメンバーの男子が、露骨に嫌そうな顔をしている。断れよと、視線と口パクで念を送ってきている男子もいた。先生は、そんな彼らを一度にらみつけて黙らせてから、僕にも威圧的な態度で確認した。
「──いいな、瀬川?」
 それは、ほとんど強制に近い問いかけだ。
 僕は、先生が「瀬戸」という僕の名前を間違っていることすら指摘できず、飯田くんたちに心の中で謝りながら、「はい」と頷くしかなかった。


 青い空と海、そして白い砂浜。それらは夏の太陽に燦々と照らされて、キラキラと鮮やかに輝いているように見える。
 でも、僕の心には雲がかかり、いまいち晴れやかな気分にはなれなかった。
 南国のビーチで、他の生徒たちが、泳いだりビーチバレーをしたり、とにかく思い思いにエンジョイしている中で、制服姿の僕は、一人でポツンと体育座りしている。
 班分けから修学旅行の当日までは、あっという間だった。
 僕らの学園の目的地は、国内の南の島である。宿泊先は、ビーチに近いホテルというか温泉旅館だ。「修学旅行」だから、もちろん社会見学なんかのプログラムも組まれているけど、五泊六日の間には、かなり自由行動の割合が多い。初日の今日も、バスで旅館に到着するなり、みんなこうやって海に繰り出した。
「仕方ねぇから名前だけ入れてやるけど、向こうじゃソロで行動しろよ、瀬尾! 俺らにくっついてくるんじゃねーぞ!」
 飛行機に乗る前、僕は飯田くんたちからそう言われた。彼らは今頃、気の合う男子や女子たちと、仲良く遊んでいる頃だろう。一般観光客も含め、見渡す限り、このビーチ内に一人で過ごしているのは僕だけだ。
(やっぱ、部屋にいたほうがよかったかな……)
 このまま砂浜に腰を下ろして、何もせずジリジリと肌を焦がしているくらいなら、冷房の効いた部屋に居残っていたほうがよかったかもしれない。
 それにしても、こんなのが僕の青春か、修学旅行っていう、学園生活で一度しかないイベントが、こうやって虚しく過ぎていくのかと思うと、ついため息が出てしまう。
 顔を上げると、うちの学校の女子たちが、波打ち際で水をかけ合って遊んでいるのが見えた。同級生の水着姿は新鮮に映るけど、ここから彼女たちまでの距離は、ずいぶんと遠く感じる。
 僕だって健全な男子だ。彼女が欲しいっていう人並みの感情だってある。でもそれより、こうやってずっとボッチのまま、孤独に過ごすのが嫌だって気持ちのほうが強い。だけど、どうすればいいんだろう。昔っから、誰かに積極的に話しかけて輪の中に入ろうとしても、どうしてもスルーされる。まるで、僕だけが透明人間でもあるかのように。それによって、もともとコミュ障な性格に、ますます磨きがかけられてしまった。今さらそれをどうにかしようだなんて、ちょっと無理がないか。
「はぁ・……」
 僕は再びうつむくと、ひときわ大きなため息を吐いた。そしてそのせいで、頭上からボールの影が近づいているのに気付かなかった。
「──ぶふっ!? えっ!? な、なんだ──!?」
 遠くから飛んできたビーチボールが、うつむいている僕の後頭部にぶつかった。ほとんど空気の軽く柔らかいボールでも、不意打ちで直撃したから、かなりの衝撃だった。
 それまでのアンニュイな思考を吹き飛ばされた僕は、後頭部を片手でさすりながら、慌ててキョロキョロと周囲を見回す。そして、すぐ隣の砂浜に転々と転がるカラフルなビーチボールを発見した。
 そして、僕がボールに注目したのと同時に、砂浜を歩いてくる足音と、二種類の女の子の声がした。
「あ・、ごめ・ん。痛くなかったぁ?」
「ったくアイリ、どこ飛ばしてんのよ……」
 やけに間延びした声と、不機嫌さを感じさせるダウナーな声。脱色した髪と大胆なビキニ。僕とボールのほうに近寄ってきたのは、見るからにギャルという出で立ちの二人の女子だった。
「く、黒木さん!? 延岡さん!?」
 僕は、その二人の顔と名前を知っていた。──というより、僕らの学園で二人を知らない人間は、多分いない。
「あれ……? アンタ誰だっけ? なんか見覚えある気が済んだけど……」
「あははっ、ルリナったらヤバぁ。覚えてないのぉ? 同じクラスの瀬戸くんじゃ・ん。ね・瀬戸っち・」
「せ、瀬戸っち?」
 布面積の少ない過激なデザインのビキニを着て、僕を不審な目で睨んだ白い肌のギャルの名前は、延岡ルリナさんという。一方、担任すら覚えていない僕の名前を記憶していて、「瀬戸っち」というあだ名で呼んだギャルの名前は、黒木アイリさん。黒木さんも、延岡さんに負けず劣らずの大胆な水着を着ている。その水着が、浅く日焼けした彼女の肌とコントラストを作って、やけに煽情的だった。
 延岡ルリナと黒木アイリと言えば、校則違反上等の、先生も手を焼く完全無欠のギャルたちである。脱色してパーマをかけた髪といい、ピアスといい、バッチリ決めたメイクといい、派手目のアクセサリーとネイルといい、けっこうな進学校の部類に入るうちの学園に、どうしてこんな子たちがいるのだろうと、常日頃から疑問に思ってしまうほどには。
 とにかく、状況からして、僕にぶつかってきたビーチボールは、この二人のものだったのか。僕は初めの混乱から立ち直ると、ボールを手に取りながら立ち上がり、日焼け肌の褐色ギャルである黒木さんに差し出した。
「ありがと・、瀬戸っち♪」
「い、いや、別に。どういたしまして」
 僕はどもりながら、黒木さんの、少し汗でテカっている大きな胸の谷間から目を逸らした。すると必然的に、隣の延岡さんに視線が向く。ぎょっとしたことに、延岡さんのおヘソには、銀色のヘソピアスが光っていた。
 ギャルめいた刺激的な格好もそうだけど、二人とも、めちゃくちゃスタイルと顔がいい。胸が大きくてお腹が引っ込んでて脚がスラっと長くて、ただでさえ人馴れしていない僕は、ドギマギと声を発した。
「の、延岡さんと黒木さん、ふ、二人とも海で遊んでたんですね」
「──は? 当たり前じゃん。てか『ですね』ってなによ。なんで敬語なワケ? アタシら同い年でしょ? キモ」
「うっ……」
「あはははっ、瀬戸っち真っ赤じゃ・ん・ どーしてそんな緊張してるのぉ?」
 延岡さんに畳みかけられたうえ、黒木さんに笑われて、僕は自分の顔が物凄く熱くなるのを感じた。何か気の利いた返しをと考えても、咄嗟にそんな台詞が出てくるわけがない。延岡さんは何を思ったのか、そんな僕をジロジロと見ている。
「ふ・ん、瀬戸ねぇ。そういえば、そんなのもいたっけ。──ね、アンタどーしてこんなトコで一人でいるワケ? みんなあっちこっちで遊んでんじゃん」
「い、いや……」
 僕はますます言葉に詰まった。
 でも、下手な嘘をつくのもやめておいた。正直な理由を言うのは情けなさすぎるけど、ここで格好つけたところで、何にもならない。
「単純に、僕……友達がいないからさ」
「はぁっ?」
 延岡さんは、目を丸くした。そしてしばらく呆気に取られていたかと思うと、さっきまでの不機嫌そうな表情はどこへやら、面白そうにお腹を抱えたり、黒木さんの肩を叩いたりしながら笑い始めた。
「──ぷっ! アハハハハっ! なにそれ、おっかしーんだけど! そんでこんなトコで、制服着て体育座りしてたの? マジでウケるし!」
「る、ルリナ?」
「そ、そんな笑うことじゃないだろ」
「うわっ、ムってした! ボッチのくせに! アハっ、アハハハっ!」
 僕がボッチであることが、やけに延岡さんのツボにハマってしまったらしい。いっそ無邪気に、黒木さんすら困惑するほどの勢いで笑う延岡さんの笑顔を見ていると、最初は気を悪くした僕も、すっかり毒気を抜かれてしまった。
「アハハ……あ・……笑った。ふぅ……お腹痛くなっちゃった」
「そんなにおかしかったかな……」
「うん、こんなに笑ったの久しぶりだわ。あんがとね、瀬戸」
「え、ど、どういたしまして?」
「ぷっ!」
 また噴き出しそうになる延岡さんに釣られて、僕の顔も少しだけほころんでしまう。なんであれ、こんなに可愛い子にお礼を言われるというのは、悪い気がしないものだ。その原因が僕のボッチっぷりというのが、少々複雑ではあるものの。
 僕ら三人は、それからほんの短い時間だけ話をした。僕の名前を前から覚えていたのは黒木さんだけだったものの、延岡さんのほうも、僕という人間が同じクラスにいるということは記憶してくれていたようだ。
 彼女たちはギャル、僕はボッチということで、まったく接点のない人間だと思っていたけど、話してみると、普通に気のいい子たちだ。こうやって、面と向かって人と会話をするのは久しぶりだ。楽しかった。
 しかし、偶然訪れたその楽しい時間も、すぐに終わりがきた。
「お・い、アイリちゃ・ん、さっさと戻ってきなよ・」
「ルリナも早くしろって、せっかくの時間がもったいねーよ」
「あっ、ごめんね・」
「あ・はいはい」
 離れた場所から延岡さんたちの名前を呼んだのは、学園の生徒ではない、サーファー風の男たちだった。大学生だろうか。いわゆる細マッチョっていう体型で、いかにも遊び慣れしている感じだ。
 びっくりしている僕の横顔を見て、延岡さんが言った。
「ああアレ? さっき遊ぼうってナンパされてさ。どーせヤリモクだろうけど、アタシらもヒマだったし」
「ね・・」
「は? ヤリ……? え? ……え?」
「そんじゃね、瀬戸」
「ばいば・い。またね、瀬戸っち♪」
 そんな感じで、二人はあっさり僕から離れ、ナンパ大学生のほうに歩いていった。僕は延岡さんが残した言葉が衝撃で、しばらく固まっていた。
(や、ヤリモクって……そういうことなのか?)
 遊んでいるっていう二人の噂は、やっぱり本当だったのか。ていうことは、延岡さんと黒木さんは、このあとあの大学生たちと?
 僕の頭の中に、突如として、水着姿の彼女たちが、サーファー男たちと岩陰で楽しそうにセックスする姿がよぎった。
 大学生たちは、自分たちのほうに戻ってきた延岡さんと黒木さんの肩や腰に、馴れ馴れしく手を伸ばそうとしている。二人は慣れた感じで大学生をあしらっているけど、今から数時間後には、あの手が二人のおっぱいを掴み、日焼けした腰を彼女らのお尻に打ちつけて、あんあんと淫らに喘がせているというのだろうか。
(そ、そんなの……)
 僕は、久しぶりに僕とまともに話してくれた子たちの、そんな姿を妄想して、ゴクリと生唾を飲み干した。
 そのときの僕は、自分がやっぱりただのコミュ障のボッチであることと、自分とあの大学生みたいな男たちの間には、大きな壁があるということを痛感していた。
(でも……だったら僕は? 僕は……僕だって……)
 しかし同時に、僕の心の奥で「このままでいたくない」という強い思いが芽生えるのもわかった。それは、これまで感じたことのない、身体を突き動かすような衝動だった。


 修学旅行一日目の夜がやってきた。海で延岡さんたちと出会った以外は、特に大きな出来事もなかった。
 僕らの学園が利用する温泉旅館は、風光明媚な庭と、海を一望できる露天風呂が売りの、学生が使うにしてはかなりいい宿だ。
「うわっ、広っ、うちのガッコーって金持ってんだなぁ。てかすっげーフゼーあんじゃん!」
「わははっ、『風情』ってノリかよお前!」
 僕と同室の男子たちは、部屋に入るなり、そんな感じで盛り上がっていた。そういう僕も、畳の匂いがする綺麗に手入れされた和室を見た瞬間に、内心でテンションが上がった。
 宿全体の規模は決して大きくないから、ひと学年分の生徒を受け入れたことで、旅館はほぼ貸し切り状態になっているのだという。うるさくするなと先生には釘を刺されているものの、みんなウキウキしていて、せっかくの修学旅行の夜だし「ちょっとくらいハメを外したっていいだろう」って考えているのが、言葉や表情の端々からありありと読み取れた。
 昼に海ではしゃいだ程度では、若い僕らがエネルギーを使い果たすはずがない。大広間で夕食を食べたあと、部屋のみんなは、これから何をして遊ぶかで盛り上がっていた。
「カードゲームしようぜ、カードゲーム! 大富豪とか!」
「お子様かよ! それより、どっか女子の部屋に遊びに行かねぇ?」
「えっ、マジで? 先生に見つかったらヤバくねェ?」
「大丈夫だって。熊岡は酒飲んで酔っ払ってたし、凛ちゃん先生に見つかったって、怒られるわけねーし」
「それより、どこの部屋に行く気だよ」
 温泉に浸かろうとかいう前に、そんな話題が出ていた。先生の目を盗んで女子の部屋に遊びに行くっていうのは、活動的な男子にとって修学旅行先での鉄板なんだろうか。──ちなみに、部屋の隅にいる僕のことは、すでに彼らの視界から消えている。女子の部屋に遊びに行こうという頭数の中に、僕は入っていない。
「う・ん……やっぱ委員長の部屋じゃね? 二年で美人っつったら委員長だろ」
 彼らの口から最初に候補として挙がったのは、僕らのクラスの委員長の金井純花さんだ。そういえば、昼間の海では彼女の姿を見なかった。どこかにいたことは間違いないんだろうけど。
「委員長? いや、それは俺らにはレベル高すぎだろ……。それに、金井と一緒にいんのって、涼子ちゃんとあいつらだろ?」
 涼子ちゃんというのは、陸上部女子の山尾涼子ちゃんのことだ。この子も陸上界のアイドル的な扱いをされている可愛い子で、当然、学年ではトップクラスの美少女とされている。
 涼子ちゃんの名前が出た瞬間、男子たちは「あ・」という顔をした。
「涼子ちゃんかぁ。確かに涼子ちゃんはマズいよなぁ。康太くんにマジ切れされっぞ」
「そういうこと。だから委員長の部屋はナシな」
 康太……っていうのは誰のことだか、僕にはわからなかった。それに、彼らが涼子ちゃんの部屋に遊びに行ったら、その康太くんが怒る理由も。しかし、僕以外の全員が納得しているところを見ると、ボッチの僕ではわからない文脈が、今の会話の中に含まれていたのだろう。
「なら女子テニスの部屋は!? あそこもレベルたけーぞ!」
「俺は藤沢の双子がいる部屋がいいなぁ。水泳部の」
「あ、じゃあ僕は、温泉に入ってくるから……」
「俺もテニス部に一票かな。女テニの八ツ塚ひとみちゃんって、絶対にフリーだしさ。だよな?」
「だからってお前ごときにチャンスねーよ!」
 僕が風呂用具を持って部屋から出たことに、会話に夢中の彼らは気付かなかった。
「はぁ……」
 かすかにBGMが流れる、静かな廊下に出た途端、僕はため息を吐いた。別に高尚ぶって、彼らに呆れていたわけじゃない。むしろ逆だ。ああいう会話に何気なく加われるようになれれば、どんなにいいだろうと思ったんだ。
 そうだ。僕だって、このままボッチでいたいわけじゃない。
 でも、だからって、どうすればいいんだ。
 大浴場に向かう途中でも、土産物コーナーで仲良く買い物する浴衣姿の女子や、大浴場の近くの卓球スペースで、楽しそうにはしゃぎながら卓球をプレイするカップルなんかを見て、言いようのない孤独感と焦燥感が募る。温泉に入って多少はリフレッシュできたものの、心の底の悶々とした気持ちを、完全に拭い去ることができなかった。
 修学旅行一日目の夜は、すぐに更けていき、深夜、僕は布団の中で目覚めた。
(う・ん……なんか、眠れないな)
 妙に目が冴えて、暗がりの中でも、天井がはっきりと見える。
 同室の男子たちは、みんな寝ている。彼らは結局、他の部屋に出かけることなく、遅くまでカードゲームをして騒いでいた。そのせいか、ちょっとくらい揺すった程度では起きそうになかった。
 今何時くらいだろうか。わからないけど、このままではとても眠れそうにない。
(もう一回、温泉に入ってこよう)
 僕はそう考えて、むくりと上半身を起こした。
 浴衣のまま部屋を出る前に、この旅館がオートロックであることを思い出し、鍵を手に取った。──彼らは朝まで起きないだろうから、一つしかない鍵を僕が使っても、特に問題はないだろう。
 廊下はさっきよりもさらに静かだった。きっと、この建物にいる、ほぼすべての人間が眠っているのだと、気配だけでわかる。静寂のあまり、僕のスリッパが立てる足音や、大浴場の入り口脇にある自動販売機の駆動音が、やけに大きく響いて聞こえた。
 大浴場は二十四時間営業だけど、こんな深夜に入ろうとする生徒は僕くらいだろう。ひょっとしたら貸し切り気分を味わえるかもしれない。──そう思っていたんだけど、残念ながら、男湯の入り口には、先客がいることを示す二組のスリッパがあった。
(なんだ、誰か入ってるのか)
 脱衣所にも、誰かが脱いだ浴衣が入った籠が、二つあった。しかもその二つは隣り合っていたから、先客の二人は友人同士なのだと、僕は判断した。女子ならともかく、男子がこんなに連れ立って温泉に入りに来るなんて、ちょっと変わっているなと思った。
 もしもそのとき、僕がよく観察していれば、二つの籠の一方に入っているのが、男物ではなく、女物の浴衣だったっていうことに気付けただろう。しかし僕は、特に気にすることもなく、その二つの籠から離れた位置で浴衣を脱ぐと、適当な空いてる籠に突っ込んだ。
「ふ・……」
 僕はタオルを持つと、首を何度か横に倒しながら、ドライヤースペースの大きな鏡の前を通った。
 前を隠していなかったから、陰毛とペニスが丸見えだ。やけに太くて長い──いわゆる巨根でありながら、先端が半分くらい皮を被っている。正直なところ、小学生くらいのときから、これも僕のコンプレックスの一つだった。
 同級生たちがたくさんいる温泉ではくつろぎにくいけど、中にいるのが二人なら、そんなに縮こまらなくても大丈夫だろう。
 浴場のガラス戸をカラカラと開ける。途端に漂ってくる、温度と湿度の高い空気。温泉独特の匂い。広い浴槽に、ちょぼちょぼと音を立ててお湯が流れている。
(……あれ?)
 しかし、いると思っていた先客は、そこにいなかった。僕は小さく首を傾げた。
(ああ、そっか、中じゃなくて露天風呂にいるのか)
 だけど、すぐにその理由に思い当った僕は、滑りやすい石タイルの上を歩いて、カランの一つの前に腰を下ろした。そして、洗面器にお湯を満たし、かけ湯をした。さっき入ったとき身体は念入りに洗ったから、この程度で構わないだろう。そう思って、さっそく湯船の中に身体を沈めた。
 たとえ悩み事があって眠れないとしても、温泉はいいものだ。お湯がじんわりと肌から沁み込んで、身体の芯から暖まっていく感じがする。血の巡りがよくなって、全身がポカポカする。本当に──
(あっ・ あっん・)
 ──温泉は最高だ。
「……え? い、今なんか、変な声が聞こえた気が……」
 僕は思わず周囲をキョロキョロ見回した。
 なんか、物凄く艶っぽい女の子の声が聞こえた気がしたからだ。よく耳を澄ませてみると、お湯がちょろちょろと流れる音に混じって、その声は確かに聞こえてくる。でもいったい、どこから聞こえてくる声なんだろう。
 どこかの部屋の男子が、テレビの有料チャンネルを見ていたとしても、ここまで聞こえてくるはずがない。それ以上に、大浴場や露天風呂に隠れてエロ動画なんか見ている奴がいるわけない。だったら、この声はどういうことなんだ。
(……露天風呂? 露天風呂のほうか?)
 僕は露天風呂に続くガラス戸のほうを見た。それだけに留まらず、湯船の中で立ち上がると、無意識のうちに、その扉に向かって歩き始めていた。まるで、何か見えない力に突き動かされるように。
「あっ、あっ、あっ、あっ、ああんっ・」
 薄っすら聞こえていた声が、だんだんとハッキリしてきた。
 心臓がめちゃくちゃ跳ねている。その扉の奥に何があるのか、何が行われているのか、予感しながら、信じられない思いでいっぱいだった。
 扉の前に立つと、僕はそれを、ほんの数センチだけ、音を立てないように慎重に開けた。
「あっ、あっ、はあぅっ・」
「ほら、もうちょっと声抑えて。誰かに聞こえたらどうするの?」
「だっ、だって、君のおチン×ン、気持ちいいからっ・ ああんっ・」
 知らない女子の声。知らない男子の声。──でもそれは、確実にうちの学園の生徒だった。その二人が、真夜中の露天風呂で何をしてるのかも、これ以上ないくらい明白だった。
「はぁっ、はぁっ、んっ・ んっ・ んっ・ んっ・」
 僕のいる位置からでは、露天風呂のすべてを見渡すことはできない。けど、この鼻にかかった甘い声と、リズミカルに響くちゃぷちゃぷという水音、そしてパンパンと濡れた肉と肉を打ちつけるような音が、すぐそこで繰り広げられている行為が、男と女の性交であるということを、嫌でも僕に教えてくれる。
(せ、セックスしてるのか? ここ、男湯だぞ!? だ、誰か来るかもしれないっていうのに──それ以前に、ぼ、僕らまだ学生じゃないか!)
 僕はたぶん、当事者の二人よりも慌てていた。誰かがこの大浴場に入ってこないか心配になって、咄嗟に後ろを振り向いた。けど、深夜の浴場は、やっぱりしんと静まり返っている。僕と、露天風呂にいる二人さえ騒がなければ、海の波の音が聞こえてきそうなくらいに。
「あんっ・ んっ・ んっ・ ンんっ・」
 音を立てたらマズいっていうのは、さすがにあの二人もわかっているようだ。女の子の喘ぎ声が、どっちかの手で口を塞いだみたいに、くぐもったものに変わった。しかし相変わらず、リズミカルな水音は響き続けている。
 画像とか動画とかではない、「生」のセックスっていうものを、僕は初めて目撃した。と言っても、僕は扉の隙間から彼らを覗いているだけで、しかも湯気が漂っているから、二人の身体はほとんど見えない。辛うじて、女の子の手らしきものが、湯船の端にある岩に置かれて、身体のバランスを支えているのが見えるだけだ。
「んっ・ んっ・ んっ・ んっ・」
「あー、イイよ。すごいよくなってきた。もしかして、見られるかもって思って、興奮してたりする?」
 そこにいる二人が誰なのか、やっぱり僕にはわからない。けど、男子のほうは、余裕たっぷりな声で、女の子を責め立てているように聞こえた。
 パンパンという卑猥な音に従って、岩に置かれた女の子の手が、もどかしそうに動く。得られる情報が声と不鮮明なビジュアルだけという状況が、かえって僕の妄想力を刺激した。仮に第三者の目から見れば、僕は、大浴場の隅にうずくまって、目を血走らせながら股間をいきり勃たせる、非常にみっともない姿を晒していたのに違いない。
 そう、僕のペニスは、信じられないほどガチガチになっていた。フル勃起した肉棒が、一応は腰に巻いたタオルを大きく持ち上げ、天井を向いて反り返っている。ほんの数メートル先で、同級生の女子が男にセックスされているという事実が、物凄く僕を興奮させていた。
「んっ・ ふぅっ・ んん・っ! んっ!」
 くぐもった嬌声が、僕の脳にダイレクトに響き、ペニスがビクビクと震える。
 扱きたい。ガチ勃起した肉竿を手で掴み、思いっきりオナニーしたい。でも、いくらなんでも、こんな場所で自慰行為なんて。
 扉の向こうの二人が、細かいことを忘れて、肉と肉を交わらせる快楽に浸っているのとは対照的に、僕は一人で、自分を慰めることすらためらっていた。
「くっ、そろそろ出る! イキそうだ!」
 その男子の声で、女の子の嬌態に気を取られていた僕は、ハッと我に返った。
 イクってどういうことだ。ってそんなの決まっている。そいつは女の子のアソコ──マ×コにチ×ポを突っ込んだまま、射精するつもりなんだ。
 ピストンのリズムが加速し、パンパンという肉音が小刻みになる。女の子のくぐもった嬌声もボルテージが上がり、二人の限界が近いことが伝わってくる。
 修学旅行中に同級生の女子と露天風呂でセックスし、しかも中で射精するだって?
 どんだけヤリチンなんだよ。ボッチで非モテの僕には、まるで別世界の出来事だ。──でもそうか、こういう世界は実際に存在するんだ。ボッチの僕が一人寂しくビーチで体育座りしている間に、女の子と仲良くなって、その流れでセックスしてしまうようなヤリチンが、世の中には実在するんだ。
「んっ! ンんっ! んっ! んぅ・・っ・」
「あーイク、イクよっ! 出るっ!! うっ!!」
「んっ・ んんっ・ ンんんっ・」
 一瞬、扉の向こうの音が止まった。
 けど、何が起こっているのかは想像がついた。
 ヤリチンの男子が射精して、女の子はそれを、自分のマ×コの中で受け入れているんだ。
 コンドームはしているんだろうか。それともまさか生でセックスしていたんだろうか。どっちにしても、扉の向こうのヤリチン男子は、温かいマ×コの中にチ×ポを突っ込んで、とんでもなく気持ちよくて、オスとしての満足感に溢れる射精に浸っている。
 一方、誰とも交わることのできない情けない僕は、覗き見しているだけで、興奮のあまり過呼吸寸前に陥っていた。
「うあっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
 あり得ないくらいバクバク跳ねる心臓が、口から飛び出してしまいそうだ。ペニスの先端からは濃厚なカウパーが長い糸を引き、触れてもいないのに、射精しているみたいにビクビク震えている。口の端からは涎が垂れ、サルみたいに発情した身体は、「オレもセックスしたい、メスと交尾したい」と、ひっきりなしに訴えかけてくる。
「ふぅ……気持ちよかった」
「うん、わたしも……。大好き……」
「俺もさ」
 扉の向こうの二人は、絶頂の余韻に浸りながら、互いに甘い言葉を投げかけている。このまま僕がここにいたら、いずれあの二人は僕の存在に気付くだろう。離れるタイミングは今しかないと、残った僅かな理性が僕に伝えていた。
(は、早く逃げないと……!)

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