僕の推しは独身美母

著者: 高宮柚希

本販売日:2024/06/21

電子版配信日:2024/07/05

本定価:825円(税込)

電子版定価:880円(税込)

ISBN:978-4-8296-4737-0

まさか、生徒の母親が「推し」だったなんて……
家庭訪問で出会った雪江は、元アイドルのユキ。
引退から13年、愛娘のために生きてきた36歳。
Gカップの乳房、肉感的な熟臀、とろける媚肉……
憧れの女神を美声で喘がせ、推しの中に精を放つ夢体験。
さらに若い頃の母に似た娘・愛莉が危険なおねだりを……

目次

序章  あるトップアイドルの引退

第一章 憧れの女神を抱いた夜

    ~トップアイドル・ユキが引退して13年後~

第二章 叔母の淫らすぎる慰め

    ~トップアイドル・ユキが引退して13年後~

第三章 シングルマザーのめざめ

    ~トップアイドル・ユキが引退して14年後~

第四章 処女のおねだり初体験

    ~トップアイドル・ユキが引退して14年後~

第五章 夢のような同棲生活

    ~トップアイドル・ユキが引退して15年後~

第六章 小悪魔のつぐない奉仕

    ~トップアイドル・ユキが引退して15年後~

第七章 美母と娘の蜜なる儀式

    ~トップアイドル・ユキが引退して16年後~

終章  前日譚

    ~トップアイドル・ユキが引退する1年前~

本編の一部を立読み

序章  あるトップアイドルの引退

 藤沢和樹にとって、彼女は青春のすべてだった。
 その名はユキ。アイドルグループ「七色エンジェル」の絶対的エースであった彼女は、常に和樹の心を虜にしてきた。
 胸に響く歌声。しなやかなダンスを紡ぎだすスレンダーボディ。
 華やかなスポットライトの中、黒髪ロングヘアをなびかせて躍動するユキは、清楚と色気をあわせ持つ女神だった。
 だが、その栄光は一夜にして地に落ちる。
「嘘だろう。まさかこんな形で、終わりだなんて……」
 スマホを睨むうち、和樹の視界は涙で滲む。
 ニュースサイトでは、ユキの芸能界引退が一斉に報じられていた。その原因はアイドルにとって、致命的ともいえるスキャンダルだった。
 推しのアイドルによる裏切り。
 悲しみに暮れる和樹の背中には、晩秋の風が無情に吹きつけていた。

第一章 憧れの女神を抱いた夜
    ~トップアイドル・ユキが引退して13年後~


 放課後の進路指導室は、静寂に包まれていた。
 藤沢和樹の前では、津島愛莉が黙々と進路希望調査票にペンを走らせている。
 高校三年の九月に入っても、彼女だけは進路票を提出していない。担任として業を煮やした和樹は、愛莉を個別に呼びだしていた。
「はい、書いたよ。先生」
 用紙を渡された和樹は、一瞥しただけで突き返す。
「ふざけないで、ちゃんと書きなさい」
「ふざけてないよ。全部、私の本音」
 ニカっと、愛莉は屈託なく笑う。
 彼女の進路票には「就職」に丸がつけられたうえ、志望先の一位から三位まで、アイドルグループ名が記されていた。どれも今をときめく有名どころばかりだ。
(就職先が、アイドルって……)
 ヒットチャートのようになった進路票を見て、和樹はため息をつく。
「こんなものが受け取れるか。そもそも、うちの高校が芸能活動に厳しいのは、知っているだろう。校則でも、禁止しているくらいだ」
「校則は知っているよ。だからオーディションは卒業してから受けるつもり」
 確かにアイドルをめざしているだけあって、愛莉は目を引く顔立ちをしている。
 まっすぐ背中まで届く黒髪に、あどけなさを残す頬のライン。小動物系の瞳は、ふっさりとした睫毛に彩られており、唇もぷっくりして可愛い。
 だからといって和樹は、安易にアイドルの道を認める気になれない。
「だいたい芸能界なんて、嘘ばかりでいいものじゃないぞ。事務所の人間だって、ファンを金ヅルくらいにしか思っていない」
 和樹は中学高校と、あるアイドルを熱烈に推しており、ライブや握手会などに足繁く通った。必死にバイトしてCDや写真集、グッズも買い漁った。
 けれどもこれら「推し活」は彼女の引退と同時に、すべて黒歴史と化す。
(よりによって、子どもがいたなんて……)
 七色エンジェル・ユキの隠し子スキャンダルで、当時受験を控えていた和樹は、どれほど傷ついたことか。それでもどうにか立ち直り、彼は志望の大学に合格を果たす。卒業後は夢だった教師の職につくこともできた。
 とはいえ大人になった今でも、和樹はアイドルや芸能界を信じられずにいる。そんな世界へ大切な教え子を送りだすのは、個人的にも反対だった。
「とにかく愛莉については、一度家庭訪問をさせてもらうからな。親御さんにも伝えておいてくれ」
「ひどい。ママを巻きこむつもり?」
「そうだ。家庭訪問が嫌なら、ひとつくらい現実的な進路を書きなさい」
 愛莉は膨れっ面で志望先の一部を訂正する。
 書き終えると、紙を裏返し「これでよろしく」と言って、部屋を出ていった。進路票を見た和樹は呆れ果てる。
 第三志望が「永久就職・藤沢先生のお嫁さん」と直されていた。


 数日後の夕方、和樹は家庭訪問をするため、傘をさして住宅街を歩いていた。あいにく雨は強くなるばかりで、スマホを使って家を探すのも苦労する。
(せめて愛莉が一緒なら、助かるんだけど……)
 なんでも当の愛莉は、今夜は友だちの家に泊まるらしく、面談は母親とふたりで行うことになった。
 この母親には五月の三者面談で、一度会ったことがある。
 銀縁メガネをかけたうえ、マスクをしていたので顔はよくわからなかったが、上品な感じの女性だったと覚えている。
 しばらく歩いていくと、瀟洒な二階建て一軒家にたどりついた。
 玄関先に「津島」という表札がかかっている。
 愛莉の家に間違いないが、自宅へ来て、彼女がひとりっ子の母子家庭であったことを思いだす。
(まあ。最近は片親なんて、珍しくもないけどな)
 家の軒先で傘を閉じ、呼び鈴を押した。
「本日は雨の中、お越しいただき、ありがとうございます。さあ、どうぞ」
 愛莉の母、雪江に迎えられ、和樹はリビングへ通された。
 記憶に違わず、彼女は銀縁のメガネをかけていた。
 色白にして、ストレート系の黒髪は、肩の位置でパツンと切り揃えられている。清潔感があり、落ち着いた印象を受ける。家の中なのでマスクはつけておらず、ひと目で美しい人だと思った。
 ソファーに腰かけて待っていると、雪江がお茶を運んできた。
 このときの彼女は、カーキ色のニットシャツに、グレーのタイトスカートという地味な色あいで装いをまとめていた。
 だが地味でもスタイルのよさは隠しきれない。細身のわりに豊かに実った胸や、円熟した腰まわりは、なかなかお目にかかれるものではなかった。
(いやいや。生徒の母親をエロい目で見て、どうする)
 邪念を振り払い、和樹は本題を切りだした。
 話を聞き、雪江は深々と頭を下げた。
「先生には、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私も反対しているのですが、本人はアイドルにどうしてもなりたいらしくて」
 どうやら娘の芸能界入りは、母親もよく思っていないようだ。
「お母さんとしては、愛莉さんにどのような将来をお望みですか?」
「人並みの人生です。できればあの子には大学へ行ってもらって、普通の仕事についてほしいです。可能なら、結婚もごく普通の方と」
 彼女はしきりに「普通」を口にする。
「愛莉さんがアイドルにこだわるのは、何か理由があるのですか?」
 この質問に雪江は軽く俯き、沈黙を挟む。
 少し考えてから口を開いた。
「おそらく、私がアイドルをしていたからだと思います」
 これには虚を突かれる。
 今日では元アイドルという人と会っても、さほど驚きはしない。
 地下アイドルを含めると昔は何千といたからだ。とはいえ落ち着いた雰囲気の雪江がステージに立っていたというのは、かなり意外に思われた。
 だが、このわずか数秒後、和樹は人生で最大の驚きに見舞われる。
「やはりこんな私が、アイドルだったなんて、おかしいですよね」
 雪江はおもむろにメガネを外した。
「え? ユキ……」
 思わず発した言葉に、和樹自身が一番驚く。目をゴシゴシとこすった。
(間違いない。ユキだ)
 涼しげな目元に、星の瞬くような瞳。眉から鼻筋までの優美なラインに加え、血色のよい紅唇が肌の透明感を引きたてる。
 アイドル引退から十三年。記憶が確かなら、彼女は三十六歳になるはずだが、美しさに翳りはない。いや、むしろ年を重ねた分、大人の色香を感じさせる。
 メガネのせいで気づかなかったが、まぎれもなく眼前の女性は一世を風靡したスーパーアイドル「ユキ」その人だった。
「ようやく、気づいてくださいましたね。和樹さん」
 いきなり下の名前を呼ばれて、腰を抜かしそうになる。
「まさか、僕を覚えているのですか?」
「はい。和樹さんはデビューした頃からのファンですもの。忘れたりしません。和樹さんへのサインは、毎回参考書にしていたことも覚えていますよ」
 和樹は無言で、お茶に手を伸ばす。
 驚きすぎて、喉がカラカラだった。
「あら、湯呑みが空ですね。今、お茶を淹れ直しますね」
 雪江は盆を持ち、キッチンへ行ってしまった。
(これは夢か。まさか生徒の母親が、ユキだったなんて……)
 呆然と頭を抱える。担任として愛莉を受け持って半年近くになるが、まったく気づかなかった。それくらい母と娘では印象が違った。
(そういえば愛莉の母親には、春の三者面談でも会っていたんだよな)
 どうしてそのときに見抜けなかったのか。今度はゴンゴンと頭を叩いた。
 いつしか彼の記憶は、中学時代まで遡る。
 ユキを初めて見たのは、近所のショッピングモールだった。たまたま参考書を買いにいったときのことで、彼女はモール内の特設ステージで歌っていた。
 ユキを含むグループ「七色エンジェル」はデビューしたばかりで、歌も踊りも決して上手いとは言えなかった。知名度もなく、観客もほとんどいない。
 だが和樹はセンターに立つユキに、一発で心を撃ち抜かれる。
(あの瞬間、まるで雷に打たれたみたいだった)
 腰までまっすぐに伸びた黒髪。肌の色は西洋人形さながらに白く、他の誰より笑顔が素敵だった。中でも最大の魅力は大きな瞳だ。
 その瞳は夜闇のように黒々としつつ、一番星さながらの光を放っていた。そういった容姿もさることながらスタイルも抜群で、まさしくアイドルになるために生まれてきたような美少女だった。
(それ以来、ユキは僕の推しになった)
 もっともユキをはじめ、当初は七色エンジェルが売れることはなかった。
 当時は地下アイドルや、御当地アイドルと言われるグループが乱立しており、いくら魅力があっても、なかなか光があたることはなかったのだ。
 ところがあるときを境に、人気に火がつく。
 有名インフルエンサーのSNSに、ユキの写真が載ったのだ。
「一万年にひとりの美少女」
 このフレーズとともに、彼女の名は世を席巻する。
 デビューから一年後、ユキが二十歳のときの出来事だった。
 ひと月を待たずして、テレビでユキを見ない日はなくなった。CDを出せば、ミリオンヒット。イベントやCMなどオファーは殺到。一躍時の人になった。
(けれどもブレイクから三年後、ユキは突然芸能界を去る)
 隠し子がいると、週刊誌にスクープされたのだ。
 もちろん和樹はそんな与太話を信じなかった。だが彼女は記者会見を開くと、子どもの存在をあっさりと認めて、謝罪のうえ、引退を発表した。
 やりきれなかったのは、これまで応援してきたファンだ。
(まったく、嫌な過去まで思いだしてしまった。あれ、待てよ。ということは、あのときの隠し子というのは……)
 和樹が受け持っている問題児、愛莉だ。
 ユキ、いや雪江がお茶を盆に乗せて戻ってきた。
「新しいお茶をどうぞ」
 差し出された湯呑みに手をつけたものの、熱くてなかなか飲めない。
(まずいぞ。何を話せばいい?)
 沈黙して部屋が静まるのとは対照的に、屋外では雷が激しくなってきていた。窓を叩く雨とともに轟音が天を切り裂く。そのような中、事件は起きる。
 耳をつんざく音が響くやいなや、部屋の照明が一斉に落ちたのだ。
「きゃっ」
 雪江が耳を押さえ、身を屈めた。
「停電だ。大丈夫ですか?」
「はい。上の寝室に非常用のランタンがあるので、取ってきます」
 暗闇の中、雪江は壁伝いに階段をあがっていった。
 この直後またも雷が落ちる。二階から悲鳴がした。心配になった和樹は彼女のもとへ向かう。寝室に足を踏み入れると、雪江がうずくまっていた。
「ケガはありませんか……うわっ」
 和樹は混乱に陥る。雪江がしがみついてきたのだ。真っ暗で視覚が効かない中、人肌の温もりだけがリアルに伝わってくる。
(マジか。あのユキと抱きあっている)
 ユキに触れるといえば、ファン向けの握手会が思いだされる。
 純朴だった思春期の少年は、その手を何日も洗わず、親を呆れさせたものだ。それから十三年の時を越えて、憧れの人を腕に抱いている。心臓が今にも口から飛びだしそうだった。
「雷が弱いんですね?」
 和樹はどうにか声を振り絞る。腕の中で雪江が首を振った。
「違います。私、暗闇がだめなんです。暗いとライブ前の緊張が蘇ってきて」
 ライブがはじまる直前、会場は真っ暗になる。
 センターステージに立つ重圧。あの静寂の中、彼女は津島雪江から「ユキ」へ変わることを強いられてきた。
(知らなかった。いつも堂々と歌っていたユキが、緊張と戦っていたなんて)
 慰めようと思い、彼女の背中に腕をまわした。だが和樹は寸前で踏み留まる。憧れの人を抱くことに、気後れしたのだ。
 胸元で雪江が顔をもたげた。
「和樹さん。私はもう、恋愛禁止のアイドルではありません。ですから……」

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