あべこべ異世界でドスケベスローライフしようとした結果、裏社会の支配者になった件2

著者: 靴下香

電子版配信日:2024/06/14

電子版定価:880円(税込)

美醜逆転した異世界で、アリオスは王都に料理屋・龍娘を開店!
王都の不遇な少女たちをエッチで救って仲間を増やしていたところ、
ライバル店の女店主・リリエルが、顧客の争奪戦を仕掛けてきた!
ギャルだけど初心なカズネを対面座位で蕩けさせお得意様にするうちに、
ただの料理屋の小競り合いが、裏社会の連中に勢力抗争と勘違いされて……
ドスケベ生活を満喫したいだけなのに! アリオスファミリー胎動の第2巻!

目次

登場人物紹介


二章 襲来! ライバル店主!

一話 チャイナでいっちゃいな!

二話 空振り宣誓

三話 わけがわからないよ

四話 お食事タイムは修羅場と共に

五話 そろそろなーおれもなー

六話 情に溶ける狐娘

七話 欲求不満心理

八話 一石を投じる影達

九話 理由という言い訳

十話 誰がための普通か

十一話 誰にとっての予定調和

十二話 コキ捨て下僕受胎ックス

十三話 恋、宣誓

十四話 新しい先へ

十五話 宝物の手に入れ方

十六話 お嬢様、チン媚びレベル1

十七話 休息中の契約

十八話 ひきこもり環境構築完了

二章閑話 ヘビとセリカ

二章閑話 ミアの芽生え

二章閑話 そうだ、キャンプに行こう・前編

二章閑話 そうだ、キャンプに行こう・中編

二章閑話 そうだ、キャンプに行こう・後編

書き下ろしSS ぷっつんアリオスと、おまけで終わらない女

本編の一部を立読み

二章 競合店現る!

一話 チャイナでいっちゃいな!



「えぇと、銅貨がいちまーい、にまーい……いちまいたりなーいっと」
 実際にやってみて初めてわかることっていうのは多くあるもんで。
 営業開始から半月が経過した今、やらなくちゃわからない苦労ってやつに追われている。
 自業自得もいいところだが、本当ならのんびり楽しんで学んでいくという予定が通らなくなってしまった以上、必死こいてやらざるを得ない。
 自業自得もいいところだが、のんびり学んでいくという予定が通らなくなってしまった以上、必死こいてやらざるを得ない。
 いつやるの? うるさいなぁ、今からやろうと思ってたの! 
「もっと真面目に勉強しとくんだったか? こっちにもなんかそういうの教えてくれる学校とかねぇかなぁ? ねぇよなぁ」
 独り立ちすると決めた時から、独学ではあるがそれなりに勉強はしてきたつもりだ。
 だから帳簿つけくらいなら、まだ慣れないけど時間をかければできる。一人でできるもん! 
「落ち着こうか俺、うん」
 若干興奮気味な心を落ち着けて。
 っていうのもあれだ、楽しいのだ。
 逃避しているわけじゃなくて本当に。
 こうしていると、なんと言うか生きてるって感じがする。
 充実感とでも言うのだろうか、マスターのとこで働いていた時が虚無だったのかと言えば違うけど、この大変さが楽しく思える。いや、だから俺がマゾ豚と言っているわけじゃない。
 自分の命を喜ばせるために働いていると強く実感できるからだ。
 ひきこもるためってのがなんとも締まらない部分ではあるけどもね。
 確かに色々考えなければならないことはある。
 それはたとえば皆に支払う給料だったり、セリカが持ってきてくれた食材であったりもそうだ。
 トワへの給料は銀貨五枚、ミアへは三枚に加えて魔術師としての仕事をしてもらったら最大金貨一枚を支払うことに。
 セリカへは給料ではなくどちらかと言えばお小遣いだろうか、毎月最低銀貨三枚渡すことにした。
 今後かかってくる税金だなんだという面を考えれば、現段階で既にギリギリのライン。
 繁盛しなくていいとは言ったし思っているけど、流石にもう少し収入を増やす必要がある。
「けど客を増やしたいけど増やしたくない、我ながら現実的じゃないこと言ってるな」
 我が儘を実現する難しさってやつだろう。
 大前提としてうちの客層は美人、もとい社会的には醜女の人が多い。
 醜女が作る料理なんて食いもんじゃないと言う人が多い世の中だから、必然的に醜女の料理は醜女が食べる。
 故にターゲッティングは成功、旗屋としての面から考えても今の結果に不満なんてない。
 ただ、醜女とされている人っていうのは基本的に裕福ではないのだ。
 冷遇というか不遇というか。
 そんな扱いをされている人たちだから、得られる稼ぎに不安が付きまとい気軽に外食なんてできないわけで。
 だからこそ、俺が一人で経営するって路線にマッチしていたんだ。
 安価で仕入れられる料理をできる限り美味しく安く提供して、信頼できそうなら性交渉を持ちかけて心も身体も満足してもらおうという路線が成り立っていただろう。
 しかしながら状況が変わった。従業員ができた。
 給料を払うってことだけを考えても稼ぎを当初より多く求めなければならないわけで。客の入りを増やして売上を伸ばさなくてはならない。
 でもそりゃ簡単だ、俺が裏方から表に出ればいい。それだけで必要以上の客が入るだろう、美女醜女関係なく。
 けどそれをすればどうしても旗屋の面が露呈しやすくなって、美人様に我が物顔されて食われること間違いなし。
「俺がこだわりを捨てればいいだけの話ではあるんだけど。そうしていいと思えるくらいなら娼館に勤めるんだよなぁ」
 そうすればわざわざ難しいことを考えなくても済むってのはわかってる。
 皆が優秀過ぎて余計に難しくなってることは否定できないけど。
 特にセリカが仕事という部分においては顕著だろうか。
 以前のドラゴパピーやラブラシアの件しかり。今はこっちから指定した魔物をこれくらい取ってきてくれと言うようにしているが、同じ魔物でも値段が変わってしまうくらいに質がめちゃくちゃいい。
 トワが料理上手ってのもそうだ。下手に作れなんて言えるわけもないから、いいものを渡せばよりよいものを作り出してしまう。
 美味い料理に合うドリンクをオリジナルブレンドよろしくミアが提供するもんだから、隠れた名店どころか、隠したい絶品店状態になってしまっていて。
 この状態がまた曲者なんだよな、利益管理の難しさに拍車をかける。
 裕福ではない醜女の客から、利益を得るためにそんな高級食材を使った高級料理を端金で提供する? 
 バカを言っちゃいけない、相場を崩すってのはやっちゃいけないことだ。
 確かに売れる、そりゃもう高級料理を正真正銘ありえない激安価格で売れば飛ぶように捌けるだろう。
 セリカが実質無料で持ってきてくれるんだ、どんな値段をつけようが利益になる。
 だけど、簡単に売れることによって商品価値が下がる。
 まず王都に存在する高級料理店は潰れるだろう、高い金を払ってまで行かずとも簡単に手に入れられる場所があるのだから。
 そうなるとどうなるか? 当然恨まれる。
 何の後ろ盾もない俺だ、簡単に恨みへ飲まれて潰されてしまう。
「一人じゃないもんな。失敗しちゃった、死ぬわ俺。なんて簡単に言えるはずもなく」
 元よりするつもりはないが、店の主人として取ってはいけない選択肢だ。
 だから可能な限り保存が効く状態へ俺が加工して、他の料理と一緒に添えて提供するとか。
 トワに安くて美味いを意識して作ってもらったり、ミアにドリンクの種類を絞ってもらったり。
 相場を崩さないようにあれこれ手は尽くしているつもりではあるんだ。
 けどやっぱりそういう手段じゃ多くは捌けない。
 大量に在庫を抱えて、加工するとはいえ捌くのに時間がかかってしまえば食材がダメになり無駄となってしまう。
 今の時点で一日平均三十人程お客さんが来てくれる。
 そのうち八人ほどは常連と呼んでいいかもしれない人がいるが、それは置いておいて。
 三十人程度じゃ捌くのは厳しいんだ。実際半月経った今でも、かなり残ってる。
「なんとかしないとな。まだまだこれから、か」
「ご主人様」
 羽ペンを机に転がした時、ドアがノックされて返事をすればそこにはトワがいて。
「夕食の準備ができましたが、もう少し後の方がよろしかったですか?」
「うんにゃ、丁度いいタイミングだよ、ありがとうトワ」
 イスから立ち上がれば腰辺りでいい音がした、ポキポキするの気持ちいいよな。
 頭を使った後は甘いものが欲しくなるけれど、何かあるかな? 
「ご主人様? 何か良いことでも?」
「良いこと? いや、むしろ帳簿つけで頭抱えてたけど」
 はて? むしろこれからクリアしていかなければならない壁が見えて気が重いくらいだけれども。
「申し訳ありません。その、素敵な、笑顔でございましたから」
 ……あぁ、なるほど。
「そりゃトワが呼びに来てくれたら笑顔にもなるって」
「お、おお、お戯れを」
 はいはい、そう言いながら尻尾が俺に伸びてきてますよ? 全くこのにゃんこは。
 まぁやっぱりあれなんだ。
 俺は今こうして頭を抱えていることを楽しんでいるんだな、と。

 さて本日営業日。
 うちは基本的に月曜日と木曜日を休日としている。週五営業だ。
 この世界でも同じように一週間は日曜日から土曜日まであるがそれが五週続けば一ヶ月という扱いで、十二ヶ月続けば一年となる。
 龍娘を「ろんにゃん」と呼ぶように、所々エセ中国語っぽい発音があるが、一番耳にするのはこの曜日だろう。
 たとえば月はユェと発音して曜日はシンチージー。つまり月曜日はユェ、シンチージーなんて言うわけだ。
 一週間目の月曜日ならイーユェシンチージー、三週間目の水曜日ならサンスイシンチージーなんて言い方をする。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ!」
 じゃあ店の制服はチャイナ服でいいな! 
 と、無駄にできない金を無駄に使って用意しました、こちらですご照覧ください。
「ご注文はどうしますか?」
「えぇと、ひ、日替わりで」
 早速ミアが元気いっぱい席に案内してますよ、ちっちゃくて可愛いね。
 一番よく動くポジションだから変に露出しないように、スリットは浅めの赤いチャイナ服。
 店に立つ時のミアはいつものツインテではなく頭の左右でお団子にしております、ゆる団子ヘアーってやつと思われます。
 わざとなオシャレじゃないなら今度シニョンを仕立ててもらいましょうかね。
 そしてなんということでしょう、不思議な色気があります、ぺったんこなのに! ぺったんこなのに! 
 いえ、わかっています。俺が見て楽しめるようにミアがチラリズムを意識して動いているからなんですね。
 どうやって感知しているのかは怖いので調べませんが。あの子、俺が見ている時だけこっちにパンチラとか自然にしてくるんですよ、ち×ぽイライラするったらないね。
「はぁい! てんちょー、日替わりだよー!」
「かしこまりました」
 言いながらフライパンを魔石で熱し始めましたのはトワ。
 こちら、汚れが目立たないように黒を基調としたものになっております。
 スリットは深め、キレイな足が眩しいです、目が、目がぁ。とりあえず拝んどこ。
 黄金比ボディですので、やはり映えます。正直一生見ていても飽きません。
 スリットを深くした理由もそうですが、本人がキッチン内は暑くなるので通気性を考慮してと言いながら胸元、谷間が見えるよう改造したんですね。いいぞもっとやれ。でも火傷には気をつけて? 
 職務に一生懸命なトワだからかこちらを誘惑なんてしてきません。ですが、それだけに汗を拭う仕草などにぐっと来ます。谷間に吸い込まれる汗とかたまらんです。ぐっと来すぎた日はお察しください。
「ありがとうございました!」
 そして控えますのはぶるんっ♡と胸を揺らしながら大きく頭を下げてお客様を見送ったセリカさん。
 もうね、一言ぱっつんぱつんなんですよ。
 わざとじゃないです、ほんとです。普段着の修道服もそうだけど、あまりにもバストトップとアンダーの差が激しすぎましてですね? 
 胸に合わせたらズドーンとした何これ状態になってしまうのでですね、見た目を考慮したギリギリのラインを攻めた結果です。俺は悪くねぇ! 
 色は白。お会計係と給仕補助のセリカは清潔感をモットーに仕立てて頂きました。
 スリットは普通です、普通なのにお尻がおっきいから不覚にも深く見えてしまいます。
 なんだよこのバインボインはとね、小一時間ね、説教したいベッドの上で。
 断言しましょう。
「美とエロの宝石箱やでぇ!」
 げふん。
 ともあれ皆一生懸命働いてくれる。
 セリカが店に立つのは食材調達しなくていい日だけって話になってるんだけど、午前中に出発したと思ったら昼には帰ってくるなんてよくある話で。
 龍娘《ろんにゃん》は昼前からの営業だから、帰ってきて少し休んだらそのまま店に出てくれたりもする。休んでくれって言ったら悲しげな顔されたからどうしようもない。
「いらっしゃ――カズネかー」
「あーミアさんなんで残念そうなんすか! ちゃんとお金持ってるお客様っすよー!」
「はいはい。で? 今日も龍飯?」
「もちろんっす!」
 来店してくれたのはカズネって女の子。ワーフォックスって獣人種だ、尻尾がふっさふさ。
 常連と言っていいかもしれない八人の中で、この子は間違いなく常連だ。だって営業日に毎日来るもん。
「お金あるって言ってたけど、龍飯ばっかり食べて大丈夫なの? 貸さないよ?」
「ここに来るためなら何してでも金作るっすよ! あ、夜はシュリっちと来るっす」
 やれやれと肩を竦めながらミアがトワの元にオーダーを通しに行った。
 ここの料理を気に入ってくれたんだろう、嬉しくありがたいことだ。しかも龍飯。
 これは俺がせっせと加工した高級素材を多く使ったもので、売れたら一番儲かる料理。
 神様お客様カズネ様といったところ。
 裏からこっそり覗いているだけだから断言できないが、旗屋のお客様として迎えてもいいかもしれないナンバーワンだったりする。
 っと、龍飯だったら俺も準備しないとな。
 ソーセージと……ええい、今日は気分が良いからドラゴパピーの干し肉スープもサービスだ。
 こんなことしてるから売上がいまいちなのかもしれない、反省しなければ。
「って、うん?」
 表からパリーンと景気のいい音が聞こえてきた。
 誰か皿でも割ったなこりゃ、大丈夫かな。
 表を覗いてみれば。
「リ、リリエル、様?」
「……何しに来たのよ」
「え、えと? いらっしゃい、ませ?」
 名前に聞き覚えはあれど、そこには見たことのない絶世の美女がいて。
「お客様に対するお行儀がなっておりませんわね? 店長の、いえ。支配人の教育不足ですわ! 一言申し上げさせて頂きますので案内してくださる?」
「……まじか」
 なんとも無理やりな言を頂戴して、アリオスさんご指名されてしまいましたとさ。
二話 空振り宣誓



「お久しぶりですわ、あなた様」
 どなたのことでしょうか。あ、俺ですがそうですか。あなた呼びイズ何? 
「お久しぶりです。えぇと、先程はうちの従業員が失礼をしました、申し訳ありません」
「あらいやですわ? 口実に決まっていますのに、そんな丁寧に話されましては。おやめになって下さいまし」
 えらくお上品に笑われるけどさ。
 いや、どないせーっちゅうねん。
 というかほんとにリリエルさんなの? 俺の中にいるリリエルさんはひげもじゃマッチョだよ? 
「戸惑われていますわね」
「そりゃまぁ。いや、失礼になるかもしれないけど、ほんとにマスターの娘さんですか?」
 確認してみれば、もちろんだとこれまた上品な笑顔と共に頷かれる。
 ってことは変身能力を持っているのだろうか、随分と両極端な容姿だけど。
 でも変身能力を持つ種族なんて聞いたことない。そういやリリエルさんの種族も知らないや。
 どんだけ興味持ってなかったんだ俺。
 いやだって、流石に男と間違えかねない容姿の女の人が存在するって思いたくないじゃん。完全に意識から切り離してたわ。リリエルさんにしてもマスターが娘って言わなかったら男だと思ってたぞきっと。
 とりあえず、だ。
 口実と言ったんだ、要するに会いに来てくれたということだろう。
 え? ほんとに? 
 ぶっちゃけマジで理由が思い当たらない、なんでこの人会いに来てくれたの? こんな美人が会いに来たってのはテンション上がる話だけども、わからないだけに疑問と嬉しさで半々だ。
「マスターに言われて様子を見に来たとかでしょうか」
「いいえ? わたくしの意思ですわ」
「俺に会いたかったと?」
「もちろんですわ。お会いしとうございました」
 わ、わからねぇ、なんというか鉄壁感がある。内心が見えない。
 そもそもマスターの店で働いていた時だって交流が多かったわけじゃないんだ、精々顔を見れば挨拶する程度。
 そんな相手がそれなりに遠い街からわざわざ俺に会いに来たってのはどういうことだろうか。
 王都に何か用事があってそのついでに会いに来たって話ならわかるけど、どうやらそうでもなさそうだし。
 うーん、お手上げだ。
 率直に聞いてしまうのが一番だろうか。
「くすっ。確かにこうして急に訪ねられては混乱されもするでしょう、ましてやこの姿。わたくしの本当の姿でお顔を合わせるのは初めてですし」
「まぁ、失礼を承知で仰る通りです。更に失礼を重ねてよいのなら……本日は、どのようなご用件で?」
 わかっててやってるなら性格黒いぞリリエルさん。
 けどよかった、このままじゃ話が始まらないし。
「あなた様を、わたくしのモノにしに来ました」
「ちょっとどういうことよっ!!」
「……えぇ?」
 言い切った瞬間にドアが開かれた、タイミング良すぎな? 
「あらミア様? 聞き耳立てるなんて失礼ですわよ?」
「そんなの――」
「後でミアはおしおき」
「あ、う……ごめん、なさい」
 いやまぁいいから。
 というか後ろに猫耳見えてる。トワ、お前もか。
 まだ営業中だけど? お客さんはどうしたのかな君達。
「ミア、戻ってくれ。客をほったらかしにするなんて何事だ」
「で、でもっ!」
「ミア」
「う……わかった、ごめんなさい」
 肩を落として戻っていく背中にごめんと心で呟いて。
「重ねてうちの従業員が申し訳ないです」
「いいえ、結構ですわ。むしろ、あなた様の価値が高まるというもの、大変嬉しく思いますわ」
 にっこりと、心底嬉しそうに。
「では、詳しくお話伺ってよろしいですか?」
「あら? こちらには驚かれませんのね?」
「ええ。そういう人には慣れていますから」
 俺が何回拉致監禁されそうになったと思ってるんだ。面と向かって何度私のモノ発言かまされたと思ってるんだと。
 そりゃ、慣れるよ。
 ぶっちゃけその発言を聞いて冷静になれた。なるほど、そういう目で見られていたんだなって。
「ご不快、でしたか?」
「いいえ、言われて感じる気持ちにも慣れてます。至ってフラットですよ、なんとも思っていません」
 言いながら少し棘があるなと反省する。
 久しぶりにそういう系のこと言われたからってのはあるけど。
 それ以上に不気味なんだよな、警戒心を表に出してしまったって言う方が正しいか。
「リリエルさんなら、マスターの娘って立場を使って迫ることもできたでしょうに。なんで今頃?」
「なるほど。確かに何度もそう思いましたわ。あなた様がよく女をご存じであることを失念していたなんて……わたくし、思っている以上に興奮しているようです。しばし、お待ちを」
 すっと瞑目して、謂う所の興奮を鎮めているんだろう、容姿と相まって一気に神聖さすら感じる雰囲気。
 長めの緩くウェーブしている緑髪から覗くとんがり耳の長さは人間種とエルフの中間くらい。
 リリエルさんはハーフエルフなんだろう、もう片方の種族はわからないが。
「あなた様は、わたくしの宝物なのです」
「宝物」
 思わずオウム返ししてしまった。ちょっと言っている意味がよくわからない。
「はい。どんな美人の姿をとっても、全くわたくしに興味を示さないどころか意識にすらいれてもらえないなんて、初めての経験でしたわ」
「ごめんなさい」
 興味なかったのばれてーら。素直に謝ろう、土下座も辞さない。
「いいえ。わたくし、嬉しかったのですわ。あなた様が容姿に靡かない、高潔な殿方だと理解できましたから」
 むしろ今の姿で迫られてたら靡いていたかもしれないんですがそれは。
「力でも、美貌でもわたくしのモノにならない殿方。ええ、はっきり申し上げますわ。わたくし、あなた様に恋をしておりますの」
「こ、恋、ですか」
 うわ、久しぶりに聞いたよ恋なんて単語。
 恋をしたと思ったのなら組み敷いてレイプしろって世界じゃんここ。
「この恋を叶えたいのです、そしてその準備が整いました。故に……今日ここに来た理由は、あなた様へ宣戦布告をするためですわ」
 あ、よかった安心した。やっぱりここ異世界だったわ。
 さて、リリエルさんはどうやって俺をモノにしようとするのか。
 金だろうか、それとも暴力だろうか。マスターの娘って立場もある、なら権力って線もあるか。
 そんな予想をする度に心が冷えていく感触。
 大人しく旗屋の客として来たと言ってくれた方が何倍もマシだった。
 そうすりゃ特別な目で見る必要もなく、満足できるだろう快楽へ沈めてあげたのにな。
「ここに、宣誓致しますわあなた様。わたくし、リリエルは、アリオスという男を手に入れるために、龍娘へと戦争を仕掛けます」
「……はい?」
「あなた様の龍娘をわたくしのモノにすれば、必然的にあなた様も手に入れられる。……あぁ、たまりませんわ! ようやく、ようやくです! あなた様が手に入るのです! ええ、ええ! もちろんですわ! もちろんわたくしの部屋に飾り、毎日愛でますわ! その心、身体、おち×ぽ様だって! 全て――」
 ――わたくしのモノにして差し上げます。
 まっすぐこっちを貫いてきた視線に背中が粟立つ。
 引き絞られた瞳は、エルフ以外の血を感じさせて、危険を引き立てる。
「……わかった。いや正直ちゃんとわかってないけど、真正面から言われたなら受けて立つとしか言えないわ、リリエルさん」
「うふふ、そうして下さいまし。その方が、よりあなた様の魅力が、価値が高まるのですから」
 わけがわからないよ。ぶっちゃけ軽くどころかかなり引いてるよ? 俺ってば。
「では、ごきげんよう、あなた様」
「あぁ、また」
 めっちゃすっきりした顔で出ていったけどさ、こっちは頭の中ハテナ状態だよ。
 とりあえず。
「仕事しよ」
 後で皆と相談しようと一旦頭を切り替えて、仕込み場に向かった。

 夜。
 本来であればミアからのお誘いがあった日ではあったけど、俺に怒られてしょげにしょげた本人を前にえっちしよう! なんて言えないわけで。
 相談に乗ってくれると嬉しいと話を切り出してみれば、そうりゃもう命を懸けてと言わんばかりに持ち直してくれた。そういう所だぞ可愛い。
 トワやセリカにしても頼もしく頷いてくれたので、只今絶賛龍娘会議が開催されている。
「――ってやり取りだったんだけど」
 昼間にあったことをそのまま伝えてみればミアとトワは難しそうな顔をして考え込む。
 そんな中セリカは。
「リ、リリエルって人、こ、殺して、くるね?」
「はいちょっと待てステイステイ」
 めっちゃいい感じに温まっていた。やめてください死んでしまいます。
「で、でで、でもアリオス様を、モノだなんて……! ふ、不敬、だよ! やっぱり、しょ、処す。処す?」
「ダメです座りなさい。あぁもう、セリカ。俺の言うことが聞けないのか?」
「うぐ……ご、ごめん、なさい」
 ちょこんとイスに座り直したセリカだが、すっかりしょげてしまった。俺はどうしたらいいんだよ。
「宝物、か。トワ?」
「はい、おそらくミアの想像通り龍人種の血でしょう」
 うん? 龍人種って……ドラゴンと人の合いの子ってやつだよね。
 え、何? リリエルって龍の血を引いてるの? もしかして龍娘って、マスターの親バカ的なネーミングだったりする? 
「ドラゴンって絶滅したはずの幻想種だよな? まだ生きていた頃、人と龍が交わってできた命が龍人種だっけか。その血が何か関係があるのか?」
「龍人種……というより幻想種であるドラゴンの血と言うべきでしょうか。様々な逸話を持つドラゴンですが、その中に一つ、金銀財宝を蒐集するといった特性を示す話があるのです」
「エルドは龍人種。父親はエルフだから、リリエルは龍人種の血を引くハーフエルフだよ。エルドにドラゴンを感じる要素はなかったし、血がどれくらい濃いのかはわからないけど」
 え? 今なんて言った? 
「父親が、エルフ?」
「あ、ご主人様がエルド様の店で働かれる前に亡くなられています。エルフにしては珍しい容姿の方でしたよ」
「エルフでイケメンなんて希少種もいいところよね。アリオスさん以上の男なんていないからもうなんとも思わないけど、昔は羨ましいと思ったっけ」
 いやそこが気になったわけじゃない。
「マスターって……女だったんだ……」
「はい? ご主人様? 何か仰いましたか?」
「い、いや。何でもない。それで? ドラゴンの宝物蒐集癖がリリエルさんに表れてるんじゃないかって話だよな」
 ごめん、マスター。今まで渋い親父系店長だと思ってた。ほんとにごめんなさい。
 やべぇやべぇ。
 リリエルさんに口を滑らせていたらどうなってたかわかんねぇよ……気をつけよう。
「変身能力についてはエルフの特性です。基本的に醜悪な容姿を持って生まれてくる存在ですから迫害の対象になりやすく、それから身を守るために容姿変化の魔法が使えます」
「本当の容姿と真逆の容姿を取れるってだけの特性だから魔法とは言えないし、性的刺激で解けちゃうからかゆいところに手が届かないけどね。ともあれ、エルフの血なんて魔力操作が上手くなったり環境適応能力が向上する程度だから。やっぱりドラゴンの血がアリオスさんをモノにしたいって言ってるんだろうね」
「ドラゴン……許すまじ……だよ!」
 セリカさんが怖いです。
「動機は確定できませんがこれが濃厚として。気になるのはご主人様をモノにする手段が龍娘に戦争を、という部分ですが」
「アリオスさんをモノにしたいならアリオスさんだけ狙えばいい話だもんね? 龍娘ごと手にしたいっていうのはちょっとおかしい。蒐集癖って線を前提として考えると……アリオスさんが手にしているもの全てに価値を感じているから龍娘ごと、とかかな?」
「リリエル……許すまじ……だよ!」
 もうセリカは知らん。
 とりあえずなんだ、頭脳派が二人もいると大変助かるわけだけども。
「確認したいんだけど。戦争なんて言ってたけど、別に誰か殺されるとかじゃないんだな?」
「無血戦争である可能性は高いと思われます。手に入れたいものを傷つけるなんて道理ではありませんし」
「武力的な交渉じゃないだろうね。経済か、それとも権力か……出方がわからないけど、血生臭い話にはならないと思うよ」
 なんだ、だったら安心だ。
「オッケー。じゃあ放置で」
「……はい?」
 当たり前だよなぁ? 
 話を聞く限りこれは戦争ではなく競争だ。身構えて損したともいえる。
 予想ではあるが、龍娘って食事処に競争を仕掛けるって話なら要するに近くに店を建てて客を奪ってやるってところかな? 
 そうすりゃ当然こっちの店は立ち行かなくなる。
 そこに手を差し伸べるんだ、自分の勝ちだと。助けて欲しければこの手を取って自分のものになれって。
「あーでも、流石に飼い殺し状態はいやだな。とりあえず、出方を待とう。最悪がその程度なら慌てなくていいよ。それよりミアとエッチする雰囲気がなくなった方が辛いわ」
「か、かしこまり、ました?」
「ミ、ミア! お風呂入ってくるから! すぐに来るから! いっぱいしよ!? アリオスさん!」
「むー……ど、どうやったら、い、いいかな……」
 トワさんトワさん、別に悩まなくて大丈夫だよ。
 はいはい、ミアは待ってるからな。
 セリカはいい加減帰ってこい。
 ぶっちゃけライバル店現るっ! ってだけの話だ、仰々しいやり取りがあっただけに身構えてしまったけど。
 普通の話なんだ、この店どうしていけば経営安定するかなと考える内容が一つ増えただけに過ぎない。
「んじゃ、かいさーん」
 リリエルさんには悪いけど、やっぱりちょっと楽しみだよね。
三話 わけがわからないよ



「あぁ、あなた様……」
 龍娘から仮宿へと戻ったリリエル。
 ドアを開けて部屋へと入れば、そこにはアリオスの等身大ポスターが飾られていた。
「あなた様、あなた様ぁ……愛しておりますわぁ……♡」
 そっと慈しむように触れた後、二次元に存在するアリオスを愛で始める。
「んちゅ……はぁ、む……んふ……♡」
 唇にキスをし、顔の部分を舐めまわし、身体の部分を撫でまわす。
 もちろん、自分の身体を慰めるのも忘れない。
 アリオスならばこうしてくれる、こうされると想像上の幻指を身体に這わせる。
「あぁ、ん……もう、あなた様、もっとお好きなようにして頂いても構いません、わぁ……んっ♡」
 特別な事ではない、これはリリエルの日課だ。
 むしろ、仮宿故に控えめといってもいい。
 エルドと共に暮らしていた家にある彼女の私室には、所狭しと本人非公式お手製アリオスグッズが並べられていたし、どこを見てもアリオスの姿が視界に入っていた。
 そんな中で思う存分自分を慰めていたのだ。
「あなた様♡ちく、ちくびも……んぅ♡いじわる、ですわぁ……♡」
 頭の中にあるアリオスは焦らし上手で。望んだ刺激は早々簡単に与えてくれない、にもかかわらず想像以上の快楽を齎してくれる。
 彼女にとってこれは最早自慰ではない。アリオスとのセックスだ。
 彼女の中ではとっくに初夜は終わっているし、何から何まで捧げている。
 口も、腋も、髪も、手も、ヴァギナも、アナルも。
 ありとあらゆる自分の部位で、彼に染まっていない場所はない。
「んふぁ♡きょ、今日は、もう、そこを、触ってくださるの……? んひゅ♡は、はひ、あなた様のお望み、どおりぃ……♡」
 生アリオスを見たせいだろうか、今日は昂ぶるのが早い。
 アリオスを模した指がリリエルの性器にあてがわれ、優しくなぞり上げられる。
「んぅ♡あなた様、気持ち、いいです、いいですわぁ……あひ♡」
 真っ赤に充血したクリトリスを、こんこんと湧き上がるメス液を絡めた指でシコれば。
「あ、あひ、んゅ♡んんんん゛♡♡♡」
 簡単に達してしまう。
 そして達してなお終わらない。
「あ、あ♡もう、イッ、イキまひた♡あなた様のたくましい指で、イかへて頂きまひ、んひゅ♡」
 やはり想像上のアリオスは意地悪なのだ。
 やめてと言ってもやめてもらえない、イってもイってもしつこく、しつこく狂うまでリリエルを責め立てる。
「ご、ごめんにゃひゃい♡ご、ごほーし、ごほーしいたしましゅかりゃ♡んぶっ」
 果たしてリリエルの思い描くシーンはどうなっているのか。
 アリオスはリリエルのオマ×コを指で弄りながら、口へとチ×ポをぶっ刺したらしい。
「んじゅ、じゅうう、っぱぁ♡れぉ、れる、ぺろぉ♡んちゅ、ちゅ♡」
 実物を模した指の数、三本。
 気を抜けば手を丸ごと舐めかねない、巨大すぎる逸物。
 丹念に舌を這わせ、キスを降らせ、咥内で包むその所作は、あまりにも淫靡で、熟練ぶりを思わせる。
「んごっ♡んん♡おごっ♡」
 不意に口に入れた指の動きが激しくなった。
「んぷあぁ♡も、もうしわけ、ありましぇんぶふっ♡」
 どうやらアリオスはリリエルの奉仕に満足できなかったらしい。
 口淫とはこうやるんだと、ピストンを開始したのか、リリエルの指が激しく口を出入りし始める。
「んぶっ、おごっ、っがひゅ♡んじゅ、げおっ♡」
 理性というものがあるのなら、咽せるまでやらないだろうと。
 しかしリリエルにとって今口に入っているモノはアリオスのち×ぽなのだ、当然止まらない。
 止まってしまうのはアリオスが満足した証だ。
 動くならまだ満足できていないのだ。リリエルは理性を手放し、架空のアリオスに全てを委ねる。
「ごっ♡んぶ、っご♡んじゅ、じゅる、ずちゅ♡」
 徐々に指へと適応し始めた口。同時に下半身を弄っている指も激しさを更に増す。
「んっ♡んっ♡んぶふ♡んぐっ♡ん、ん、ん゛ん゛ん゛♡」
 ようやくアリオスが満足したと決めた時、同時にリリエルは意識を手放した。
「あなた、様……愛して、います、わ♡」
 狂気的と言っていい愛情を、胸に抱えたまま。

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