敵勢力を吸収し、裏社会での地位を固めていく転生者・アリオス。
服飾業界を牛耳る勢力との抗争が、転じてファッションショー対決に!
ランウェイでは犬耳のシュリが、自信満々にセーラー服を着こなし、
スレンダーなルゥリィが、大胆なショートパンツ姿で決めポーズ。
女の子の着飾る自由を求めて、カワイイ衣装で美の価値観に革新を!
すべてはファミリーの女の子の居場所をつくるために! 躍進の第6巻!
六章 マネーウォーズ
一話 金は天下のまわりもの
二話 表との繋がりよりも先に身体の繋がり
三話 ロザリア、再び
四話 アリオスとかいう罪なヤツ
五話 着衣ックスはいいものだ
六話 メイビーアンビシャス
七話 気味の悪い進展
八話 勝利の在り処
九話 ドリームフロンティア
十話 新たな物語
十一話 ウサギとカメ、醜女と美人
十二話 ファッションショー 前編
十三話 ファッションショー 中編
十四話 ファッションショー 後編
十五話 後の宴 前編
十六話 後の宴 中編
十七話 後の宴 後編
十八話 広がる世界
十九話 それぞれの選択
六章閑話 届き得る未来
六章閑話 神妻アナル開発
六章閑話 醜女と美人とお節介と
六章閑話 三歩後ろ
六章閑話 聖女日記
書き下ろしSS 豊かな性活はメイドさんと共に
本編の一部を立読み
六章 マネーウォーズ
一話 金は天下のまわりもの
自分の女を自慢したいがために、自分の名前を冠したアリオス・ファミリーなんて組織をぶち上げた。
にもかかわらず、やった最初の仕事ってのが国で唯一信仰されているアフロン教の聖女の誘拐だってんだから中々に笑えない。
「後悔なんざ欠片もしてねぇし、どうだ俺の女たちは最高だろってなもんなんだけどなぁ」
聖女、ひいてはアフロン教と密接な繋がりを有していたカーシャ・ファミリーを保護下、外から見れば支配下に置いたことでうちは更に大きな組織となったわけだが。
「ちょぉっと、いきなりデカくなりすぎたなこりゃ」
改めた組織図をテーブルに放り投げてため息をついた。
大きくなれば強くなるというわけではない。
身体が大きくなっても、隅々まで血や神経が行きわたっていなければ、ただの木偶の坊でしかなくなってしまう。
アリオス・ファミリーの現状はまさにそうだった。
単純な話、マンパワー不足なのだ。カーシャ・ファミリーを庇護下に置いたことで、当たり前だがやらなければならないことってのが増えた。
たとえば縄張りの管理だ。
うちのメンツで自分たちの縄張りとカーシャ・ファミリーが治めていた縄張りまで管理しなければならなくなった。
新しい宗教に関しての動きをアイナに任せたこともあって、今まで彼女がやってきたことに手を回しきれていないんだよな。
「手を抜いて良い部分じゃねぇ、からなぁ」
縄張りを管理することとは、すなわち他ファミリーの脅威から守ることだ。
王都にある大きなファミリーはうちを除けばロザリア・ファミリーとドルザ・ファミリーってところだが、規模を問わないのであればファミリーは無数に存在する。
今はまだ小さい勢力であったとしても、きっかけがあれば急成長するファミリーはあるだろう。
そのきっかけがカーシャ・ファミリーやうちへの噛み付きであってはならない。
そういった仕事を得意としてくれているネズミの皆は、正直うちの縄張りで手一杯な状態だ。
ヘビの皆がカーシャ・ファミリーの縄張りを担当して頑張ってくれているが本職ではないし、何より相変わらずの盛況っぷりを誇る龍龍《ろんろん》の食材集めを疎かにはできない。
結局、アイナには新しい宗教……新しい宗派、アリオス派とでも言っておくか、そっちに関してを進めるよりも縄張り管理補助に大きく力を割いてもらってる状態だ。
「うーん……」
手段としては支配下に置いたアフロン派の信徒たちを利用するってのがあるが、正直お得っていうエサで動いているような連中だ、信用できるかどうかといえば難しい。
アリオス派がしっかり確立してしまえばある程度解決できるだろうが、ちゃんとしたものが出来上がるまでには時間がかかるだろう。
「あっちを立てれば、こっちが立たず、だなぁ。どうするか」
そういった事情を無視した正直な思いとしては、表への進出をそろそろ考えたい。
いつまでも裏社会だけにひきこもれる環境を作るわけにはいかないのだ。もちろんまだ夢のまた夢だと理解もしているけれど、このまま裏で力をつけようと頑張っているうちに機を失してしまうような気がする。
地固めは必要だ、今強く実感している。
けど、大きく強くなることで相手から向けられるのは警戒だ。
お互いを刺激し合わないようにしましょうと、恐る恐るお互いのラインを探り合うってのは俺の望むところではない。
じゃあ力をつけまくって、パワーバランスを逆転させて、こっちの言うことを聞けよと迫るってのも……また違う。
融和、融和なのだ、あえて言うのであればだが。
教会連中には上段から構えてしまったが、成果を出すと約束した三ヶ月であいつらの認識も変わるだろう。
俺たちに協力することこそが自分の欲を満たすための近道だって理解はあまり健全ではないかもしれないが、目に見えて協力し合えるって形は大切だ。
「そうなんだよな。俺たちが無理矢理介入する必要なく、向こうから手を伸ばしたくなる何かが欲しい」
理想とは少し遠い位置に存在するが、利害関係から始まる友好関係だってあるはずだ。
認識なんてものはすぐに変わるものじゃない、じっくり歩み寄るきっかけ作りこそ世に出すべきものとなる。
「でも。じゃあ何があるって話で――ん? はいはい、開いてるよ」
「失礼いたしますわ」
考え込んでいたら、リリエルが部屋に入ってきた。
相変わらずキレイだよな、癒やされるというよりなんか清められる感じだよ。
「あら? あなた様? どうかなされましたか?」
「あぁ、いや。ちょっと見惚れてただけだよ」
「っ!? も、もうっ! さらっと仰らないでくださいませ! ま、まだお仕事の時間ですのに……もう、もう!」
やっぱり癒やされもしてしまった。からかったわけじゃないんだけどな……こういうところ、好きだわー。
「あはは、悪い悪い。それで? 仕事ってことは、何か相談案件でも来たか?」
絶賛空振り中の目安箱だけど、そろそろ来てくれよなぁ……いや、余力が微妙だからアレだけどさ。
「うぅ……あの、いえ。ご期待を裏切ってしまうのは心苦しいのですが、わたくしからの相談ですわ」
「おっと、余計に大歓迎だな。とりあえず座ってくれ、聞く相手は俺だけでいいか?」
「っ……もう、あなた様という人は。素敵すぎるのも困りものです……はい、失礼いたしますわ」
いや、ほんとリリエルの所作は上品で優雅だ。
笑い方一つにしても高貴っていうのか、うん。座る時だって物音一つ立てねぇんだもんな、マスターってばどういう教育をしたのやら。
「さて。それじゃ相談とやらを聞かせていただきましょうか」
「はい。実は――」
「ソーニャ? ちょっといいか?」
「っ!? は、はいっ! 主様、如何なされましたか!」
「あ、うん、メシ食いながらでいいから、固くならずに頼む」
リリエルの相談から日が変わって昼メシ時を迎えた。
龍娘《ろんにゃん》で食事中のソーニャへと声をかければ、素早く、あぁいや、素早すぎる反応を見せられて、止める暇もなく床へと膝をつかれてしまった。
「で、ですがその。主様の言葉は至上の調べ、同じ高さに座ってなど――」
「オーケー俺が悪かった。一緒にメシ食いながら話したいと思っただけなんだ、だから頼むから座ってくれ」
「わ、わたひとしょくじをっ!?」
どないせぇっちゅうねん。
今度はピキーンしちゃったよ、誰か助けて?
ってか、エッチな食事のほうはそこまでならないじゃん、なんでだよ。
「トワー? ごめん、今日の昼定頼むー」
「かしこまりましたー!」
完全身内食堂状態になってる龍娘をどうするかってのはおいといて。とりあえず硬直してるソーニャをイスに座らせてみれば。
「――ハッ」
「お帰り。じゃあ早速なんだけどさ、今の給料に不満はないか?」
「えあっ!? ふ、不満などと! 私はもちろん! 主様に仕える者全てが満足どころか本当にこれほど貰っていいのかと困惑するばかりで――」
あー、うん。
とりあえず不満はないっていうのはわかった。
「そもそも我らに給金など必要ではなく、主様の精、ひいてはご寵愛を賜るだけでもう天にも昇る心地と申しますか楽園はここにあったというべきか――」
お、おう……いやまぁ、こういう考えを持ってるのはソーニャだけじゃなかったりするけども。
セリカや同じチームの『ヘビ』は基本的にこんな考え方だし、諜報チーム『ネズミ』の一部もこんなことを言っていたりする。
醜女の生活歴、特に『ヘビ』の背景を考えればこうなっても仕方ない……のだろうか? いや、今はいい。
とにかく俺としてはいい仕事にはいい報酬をってのは譲れない部分だ。
ここ最近は特にだけど、やっぱり結構な仕事をしてもらっていると思っているし。
「わかった、そういう風に思ってもらえているのは嬉しい。けど、この前も言ったけどいい仕事にはいい報酬をってのは俺の譲れない部分だ。それはわかってくれるな?」
「……はい」
「その上で、だ。改めて聞くけど、今の生活を送っている中、経済面で困っていることはあるか?」
そこまで言えばソーニャはしっかり考え始めてくれた。
なんでこんなことを聞いているのか、それが昨日のリリエルからされた相談だからだ。
すっぱりはっきり言ってしまえば、アリオス・ファミリーは今、金を持て余している。
環境費や人件費、その他雑費を差し引いても、大きく黒字になっている。緊急時を想定した金は別に確保されているが、それでも貯まっていくばかり。
そこでリリエルが言ったのだ、どうか金を何かに使ってもらえませんかと。
金なんてあればあるだけいいじゃないって意見もあるだろうが、いざ経済というか経営者から見ればまた話は変わってくるらしい。
そう、ある意味貯まっていくのは俺の責任だった、単純に使っていないから貯まるのだ。
言い訳をするのであれば、根が小市民だっていう部分だろうか? どれくらい使ったらいいのかと聞いたら桁がおかしかった。
金貨100枚単位ってのは国家予算には届かないだろうが、それに近いレベルのお金だ。使ってくれと言われても、正直言って全く思い浮かばない。
浮かばないから、とりあえず皆への給料アップから考えたという話である。
「ご主人様、お待たせいたしました。どうぞご賞味くださいませ」
「ありがとう、トワ」
ソーニャが考え込むこと少し、トワの料理が笑顔と共にやってきた。
本日の昼定食は前世でいうオムソバだった。ドーラって魔物の卵で焼きそばを包んでいる。
うむ、流石トワだ……フォークで割ってみればしっかり半熟な卵がとろっと。
中からはソースの香ばしい香りに、なるほど夜のお誘いかな? 隠し味というには露骨な精がつきそうな香りが立ち昇って来た。
ちらりとまだ隣にいたトワを見れば、少しだけ俯き頬を染めていて。
「――はい♡」
目で返事をしてみれば嬉しそうに頷いた後、厨房に戻っていった。今夜はお楽しみですね。
「主様」
「ん、どうだ? 何か困っていることはあったか?」
一口目を口に運んで飲み込んだ時、ソーニャが顔を上げた。どうやら考えがまとまったようだ。
「失礼いたしますが、一つ確認を。それは困っているといえば、頂戴しています給金が増すということでしょうか」
「あぁ、内容にもよるがその認識であっているぞ」
ちなみにこの話を出したのはソーニャが一番最初だ。
実際、これまでの生き方やヘビたちの生態を鑑みるに金はもちろん、文化的とでもいうかそんな生活に困っていたのは彼女たちだからと思ったから。
多くのことが叶わなかったヘビたちだ、そりゃ金があればやりたいこととかがあるんじゃないかって思ったんだよな。
「で、あれば主様。我々はもちろん、他の者の多くが、貰うことに困ってしまうでしょう」
「うん? 貰うことに、困る?」
「はい、無論気持ちという面を排除した上の話であります。現状、龍娘に来れば食事は無料、仕事で使用する武具の類もミア様より頂戴でき、メンテナンスすら請け負っていただける。住居に関しましてもウサギ小屋を使用できることから金を必要としておりません」
もちろん俺が手配したことだから知っている。
ミアにしても、物置で埃を被っているより遥かにいいって笑ってたし。
住居に関しては、ちゃんと自分の家ってのが欲しいだろうけど中々手が伸びなくて申し訳ない。
って、あぁ、なるほど。
「今で十分足りてるってことか、それならなおさらもう少し余裕があったほうが、余暇に活用できるだろう?」
「いいえ、主様。我々醜女が金を得れば、まず生活のために使って消えていくのが常というものではありますが。仮に全て消えずとも、生活面以外に使い道がないのです」
生活面以外に使い道がない?
「主様は我らヘビの生活歴を知っておられる。故に、もっと楽な生活をとお話しくださったのだと思います」
「……あぁ、そうだな」
違いない。
生活水準は金が全てではないが、金で多くのことは解決できるものだから。
「大きく深い愛情、慈悲に感謝いたします。ですが、頂きましても……そうですね、可愛らしい服であったり、ルゥリィのように化粧品集めをしたりといったことはできないのです。売っていただけませんから」
「――」
思わず絶句してしまった。つまり、その、なんだ。
醜女は、着飾ることを許されていない、と? そんな程度の自由でさえも、禁止されている?
「正確には醜女向けの商品が無いというべきでしょうか。そもそも金を持っていると思われていませんから」
「……なる、ほど」
危ない、フォローだろうソーニャの言葉は。
もう少し遅くなればちょっと戦争じゃあ! なんて叫んでいたかもしれない。
しかし、そうか。考えが即物的すぎたな、使い道がなければソーニャが言うように金を貰っても困るってもんだ。
むしろ、欲しいものを買ってこいじゃなくて、買ってくるよと言ったほうが遥かにマシだろう。
だけどそりゃ解決方法じゃない。
今の余っている金で皆の希望を聞いてプレゼント。なんてサンタクロースしたところで根本的解決にならない。
「わかった。ありがとう、ソーニャ。嫌なことを言わせたな」
「い、いえっ! さ、先に申し上げました通り! 我々は現状に満足どころか幸福を覚えてすらおりますので! お、おお、お気になさらず! むしろ気にされてしまったほうががが――」
今やるべきことは地盤固め。
そして、表への進出方法の確立とはなるほど、もしかしたら。
「ここに繋がる道が、あるかもしんねぇな」