あべこべ異世界でドスケベスローライフしようとした結果、裏社会の支配者になった件5

著者: 靴下香

電子版配信日:2024/09/27

電子版定価:880円(税込)

美醜逆転した異世界で不遇な女の子達とアリオス・ファミリー結成だ!
メンバーは献身的な猫耳美少女・トワ、凄腕魔術師でエッチなご奉仕大好き・ミア、
サキュバスの血を継ぐS級冒険者・セリカたち──
エッチでみんなと絆を深め、縄張りの維持に奮闘するアリオスが出会った謎の教団の聖女・シシェ。
聖女の瞳に宿る悲しみを見つけたアリオスは、仲間とともに聖女誘拐を企てる!
アリオス・ファミリー、初出撃の第5巻! 電子書籍限定SS付き!

目次

登場人物紹介

五章 初めての仕事は聖女の誘拐

一話 最初の仕事

二話 会合の場は姦しい

三話 いともたやすく行われる愚鈍な行為

四話 不憫じゃないルゥリィ

五話 聖女の務め

六話 総本山

七話 儀式と饗宴

八話 各々の願い

九話 アリオスの神

十話 笑顔と嫉妬と慰めと

十一話 カーシャ様も大変よな、アリオス、動きます

十二話 歪な家族

十三話 誘拐前夜のご奉仕

十四話 誘拐作業より愛を込めて

十五話 一件落着

十六話 異世界の神に俺はなる

十七話 シシェだけの愛され方

十八話 後始末と先の行方

五章閑話 幼く拙い恋路の始まり

五章閑話 カズネの一人遊び

五章閑話 シュリの夜遊びスポット

五章閑話 満たされルゥリィ

五章閑話 ミアの見る未来

書き下ろしSS 神、始めました

本編の一部を立読み

五章 初めての仕事は聖女の誘拐

一話 最初の仕事



 アリオス・ファミリー、なんて。
 自分の名前を冠した組織に気恥ずかしい思いが抜けきらないのは、結成理由が自分の好きな女を自慢したいからって理由が原因だろう。
 世界から目を背けてひきこもろうとしていた時の自分や、前世の俺が今を見ればなんて言うかを考えれば苦笑いが浮かんでしまうね。
 けど、後悔はない。
 むしろ自分の時間が動き出したって感覚があるあたり、ようやくこの世界に生きるって覚悟が決まった証なんだろうと思う。
「ご主人様、お考え事ですか?」
「トワ、目の前に最高の女がタオル一枚の姿でいて、考えることなんてどう可愛がろうかくらいだよ」
「はにゃ……♡も、もうっ♡そういうところですよ、ご主人様♡」
 恥ずかしがりながらもバスタオルを開けるトワの姿は、初めての時を思い出す。
「おいで」
「はい♡」
 あの時おいでなんて言ってもこうして近寄ってきてはくれなかっただろう。
 私なんかで興奮してくれるなんてあり得ない、むしろ不快感を与えてしまうだけ。
「相変わらず、キレイだな」
「だ、だからっ♡そういうセリフは、反則です♡」
 そんな風に距離を置いていた、前世であれば誰もが是非お相手をなんて願う猫耳猫尻尾生やした美女が、頬を染めながら嬉しそうに身を寄せてくる。
「思ったことを言っただけで反則になるなら、たまらないな」
「ふにゃ……♡う、うう、ほ、本当にご主人様はずるくなられました」
 ぽすんとベッドに腰掛けていた俺の腕の中に収まったトワは、潤んだ瞳を向けてきながら。
「反則には罰金がいるかな?」
「そんなもの、いりません」
「じゃあ、罰金代わりに可愛がろうか」
「……嫌です、ご主人様」
 少し意地の悪い話の持って行き方だったか。
 そうだよな、トワを抱くことが罰則であるわけがない。
「目ぇ、瞑って」
「はい♡――んっ♡」
 重ねた唇は柔らかくて温かい。
 あぁ、そうとも。これが罰か何かだというのなら、俺は一生何度だって反則してしまう。
「んんっ♡あ、む……♡ちゅっ♡んふ……は、ぁ♡ご主人様の唇ぅ……♡トワは、蕩けてしまいます♡はむっ♡」
 最初に比べたら少し積極的に感じる。
 ファミリーを作ったことが、こういう積極性に繋がったというのなら、それだけでお釣りがくるほどだ。
 唇をなぞるざらついた猫舌は、くすぐった気持ちいいという言葉がそっくりそのまま当てはまって、何度味わっても飽きない。
「ご主人様♡ごしゅじんさま、からもぉ……♡」
「もちろん」
「んんんっ♡ふにゃっ♡ん、ふぅ♡」
 可愛いおねだりにお応えして、キスをすると同時に丁度いいよりも少し大きめの胸を揉めば、ぴくりと身体を反応させた後嬉しそうに力を抜く。
「ふにゃぁ♡ふ、んふぅ♡き、きもち、いいです♡ごしゅじんしゃまぁ♡」
 早くもトワの呂律が怪しくなってきた。相変わらず何しても効果は抜群だよね。
 積極性が身に付いてきたとはいえ、未だにトワは受け身気質だ。貪られたいって根っこはまだまだ変わらない。
「ん♡にゃぁっ♡ちく♡ちくびぃ♡そんにゃ♡こりこりしちゃ、だめれすぅ♡」
「こんなに触って欲しそうにしているのに?」
「い、いっちゃ♡やーですよぅごしゅじんしゃ♡みゃぁぁっ♡」
 少し力を入れて乳首を扱けば反応は劇的で、まだろくに愛撫を続けていないっていうのにトワの下半身からぷしゃあなんて飛沫の音が聞こえた。
「まったく、お漏らしするにはちょっと早いんじゃないか?」
「ら、らって♡らってぇ♡ごしゅじんしゃまに♡さわって頂けるだけで♡トワは♡とわ、わぁ♡」
「まだまだこれから何度も潮吹くことになるんだから、ちょっとは辛抱しろって言ってるんだよ」
「ふにぃっ♡♡♡」
 耳元で叱るように言えばまた吹いた、可愛いやつよ。
 早漏加減は別にしても、やっぱりトワは良い感じに羞恥を感じてくれる。
「ほら、見てみろよトワ。もう、こんなだぞ?」
「ひぁぁっ♡はず、はずかしいです♡や、やめ♡見せないで、くださいぃ♡」
 溢れてくる愛液をそっと掬って、目の前で指と指の間に恥液の橋を作ってみればトワはしっかり橋が途切れるまで見送った後に顔を背けた。
 本当に、恥ずかしいと思ってくれるところを恥ずかしがってくれるとでもいうのか、一番手のひらの上で気持ちよくなってくれるよ。
「い、いじわる♡いじわるですごしゅじんしゃま♡私の恥ずかしがる姿を、楽しまれてますね♡」
「そうだよ。トワが恥ずかしがってるのを見ると、すっげぇ滾るんだ」
「ひにゃっ!? そ、そんなお腹にごりっとおち×ぽ様を押し付けないで下さいませ♡わ、わかっております♡わかって、おりますからぁ♡」
 わかってるって何をかな? ち×こ押し付けた瞬間に腰がへこへこ動き出してるけど?
 うーん、今日はちょっと意地悪モードに入ってる自分がいるな? まぁこれもトワが可愛すぎるのがいけないってことで。
「まったく、セックスの体力つけてほしいって言ったのになぁ。ヤればヤるほどすぐにイっちまうのはどういうことだ?」
「あっ♡あっ♡あっ♡も、もうひ♡もうひわけ♡ありまひぇん♡ごしゅ♡ごしゅじんしゃまっ♡あ、あやまりましゅ♡あやまりましゅから♡いりぐち♡いりぐちごしごししながらみみっ♡みみもとでぇいじわるいわなひでぇ♡」
 優しく肉穴の浅いところを指で苛めながら囁けば、トワはもうたまりませんなんて顔で喘ぐ。
「エロい顔してるなぁ? これで十分気持ちよくなれるならこのままずっとしてあげようか」
「あいっ♡いやっ♡す、すごく気持ちいいっ♡ですけれどっ♡やっぱり、やっぱりぃっ♡ごしゅじんしゃまのっ♡ごりっぱさまがっ♡ほしいのですぅ♡」
「じゃ、どうすればいいのか、わかるよな?」
「んいぃっ♡は、はい♡はいぃっ♡しってましゅ♡とわ、わかってましゅ♡」
 わかってるとのことだ。
 じゃあ追い込まなくてもいいよねと指の動きを止めれば、一瞬唇を尖らせ頬を膨らませた後。
「だ、だめにゃんこのトワを♡ご、ごしゅじんさまのおイチモツ様で♡し、躾けて下さいっ♡ぎゅってします♡いっぱいいっぱい気持ちよくなって頂けるように腰もふりふりしましゅ♡だから、だか、らぁ♡」
 ベッドに仰向けに寝転んで、おま×こを指で広げながら腰をもぞつかせ言い切った。
「はい、よくできました」
「ふぎゅっ♡き、きたっ♡きましたっ♡きて下さいましたぁ♡ごしゅじん♡さま♡のぉっ♡」
 こっちの具合もヤればヤるほど自分専用の肉穴になったよなと、イイ具合の締め付けを味わいながら、すっかり全部挿入《はい》るようになったトワの中を奥へ奥へと進んでいく。
「んぎゅっ♡おく♡おくですぅ♡お、おかえりなさいませ♡ごしゅじんしゃまぁっ♡」
 おかえりとは一体。
 いやまぁ、トワは本当に奥が好きになったよな、こつんとぶつかった瞬間一気に顔を蕩けさせたし。
「ただいま。今日も沢山ここに射精するからな」
「ひぎゅ――♡♡♡」
 あ、またイった。ほんと早漏さんだよね……んじゃ、しっかり有言実行しますか。
「や♡や゛ぁ゛っ゛♡ごしゅっ♡ごしゅじんしゃまっ♡イってましゅ♡わたひっ♡イってましゅかりゃあぁっ♡ぱんぱんっ♡ぱんぱんしちゃらめでしゅうっ♡」
「これは躾け、なんだろう? だったらしっかりやらないとな?」
「い゛っ♡いじわりゅでしゅっ♡ごしゅじんしゃまはっ♡ほんとにいじわりゅでしゅうっ♡」
 トワはやだやだと首を横に振るけど、膣の感触はもっともっといじめてと訴えてくる。
 まさに身体は正直だなってなもんだけども。
「意地悪な俺は嫌か?」
「いやじゃないでしゅっ♡すきっ♡だいしゅきでしゅっ♡ふにゃぁぁあっ♡」
 うんうん、素直が一番ってね。
「良い子だ、いいにゃんこだ。ちゃんとできたトワにはご褒美をあげないと、なっ!」
「にゃっ!? にゃあぁぁああぁぁんっ♡」
 ピストンして、奥に辿り着けば子宮口をごりごりとひっかくように意識する。
「ごほうびっ♡ごほうびうれしいっ♡とわっ♡これ♡これしゅきでしゅうっ♡もっと♡もっとしてくだしゃいごしゅじんしゃまっ♡」
「言われるまでもないよ」
「ひんっ♡あぁぁぁっ♡きもちいいですよぅ♡すきっ♡ごしゅじんしゃましゅきっ♡あいしてましゅっ♡だから、だかりゃぁっ♡」
 意地悪モードはトワにクリティカルだったよね……さっきからずっとイキっぱなしだ。
 仕方ない、まずは一発目ってことで。
「いいよ。イっていいぞ、トワ」
「はいっ♡はいっ♡トワ、イきましゅっ♡だかりゃっ♡いっしょ♡いっしょにぃっ♡にゃ――にゃあああぁああんっ♡」
 トワの絶頂に合わせて射精して。
「あ――は、あぁ♡」
 くたりと脱力したトワに向かって。
「まだまだ躾はこれからだぞ?」
「ひゃ――ひゃいぃ♡お、おねがいいたしましゅ♡」
 夜はこれからだと、言いつけた。

 夜が明けて、改めてファミリー結成から一ヶ月ほど。
 自分の魔力コントロール訓練やら、裏社会のなんやらを学んでいれば時間はあっという間に経過した。
 相談に乗ると大々的に言った割には残念と思うべきか、うちに直接力を貸してくれと話を持ち掛ける人はまだ現れていない。
 一応、面と向かって話すことに抵抗がある人もいるだろうと、意見箱的な物を縄張り内に設置したりはしているが、悪戯に近い内容ばかりが投函されている。
 ただ治安の維持、調査チームとなったカズネ率いる『ネズミ』たちからの報告では、縄張り内の犯罪発生率というか、問題発生率は目に見えて低下していてはいるみたいだ。
 これはアリオス・ファミリーの存在が認知されている証明だろう、うちの存在が抑止力になっているわけだな。下手なことをしたら目を付けられるぞと警戒しているんだ。
 だからこそ目安箱の中に嫌がらせ、悪戯が詰まっている。やりたい放題できなくなった苛立ちをそんな形で発散しているんだろうな、なんというか子供かよって感じだが。
 あるいは喧嘩の仕方や頼り方がわからないんだろうなとも言える。
 今まで美醜で全て解決されて、喧嘩にすらならなかっただろうこの世界。競争であってもそうだが、実力なんて中身を見る前にガワで決着がついてしまうことの方が多いのだから。
「挨拶は、してもらえるようになってきたんだけどな」
 散歩は継続してやっている。
 日替わりで一緒に歩く相手を変えて、誰が俺の隣にいたとしても最低限挨拶を交わしてくれるようにはなった。
 だが、内実から見ればやっぱり目を付けられたくないって思いの方が強いからなんだろう。
 抑止力とは言ったが、決してそういう存在になりたいわけではない。
 いっそのこと目安箱に入っていた、理想の男を用意しろなんてものを俺自ら叶えにいってやろうかとも思うが。
「急いては事を仕損じる、ね」
 わかっていたはずだ、時間がかかるどころか生きているうちに達成できるかもわからないことだなんて。
 じっくり時間をかけて、一歩ずつ歩み寄っていこう。相手にだって受け入れるための準備というものもあるさ。
 第一歩としての到達点が抑止力であるのなら、それをまた変えていけばいいだけの話だ。
 そういう意味で、早くまともな相談ってやつが一件でもこないかなと思ったりしている。
 美人であろうと醜女であろうと構わない、本当に悩んで困っていることへの力になりたいと言えば偽善的だが、それでもだ。
「まだまだこれから……っと、どうぞー」
「失礼致します」
 がんばるかーと気合いを入れ直した時にノックの音が響く。
 ドアの向こうからトワが手元に手紙、だろうか? 封筒を持ってやってきた。
「手紙?」
「はい。ご主人様宛てに」
 トワの表情はちょっと固かった。
 面倒くさい相手からだろうかと思いながら手紙を受け取って、名前を見てみれば。
「カーシャ……って、カーシャ!?」
「は、はい。私も驚きました。いえ、偽者の可能性もあるのですが」
 むしろ偽者の可能性の方が高いだろう。
 なにせ、王都東部裏社会支配者の名前だ。そんなやつが直々になんて方があり得ない。
「ま、まぁとりあえず――」
 妙な緊張感を覚えながら封を開けてみれば、なんだかよくわからんゆるキャラみたいなのが描かれている便箋が入っていた。
「これって?」
「えぇと、特徴を見るに……メグメグという魔物でしょうか? 大人しい魔物で、ペットとして飼う人もいるとか」
 ほほーん? 聞いたことない魔物だな。
 実際に見たことないからわからんが、猫に近い感じかな? 猫にしては耳が大きく垂れているが。
 ともあれ、中身はっと。
「――字ぃきたな!?」
「ご、ご主人様?」
「え、えぇ? 宛先の字からは想像もつかんくらい下手くそだな? 子供が書いたみたいだ」
 つい最近ユーリが文字の練習をしていたが、それとどっこいどっこい。
 少なくとも、大人が書いたとは思えない。いや、大人が書いちゃダメなレベルだろう。
「あ、暗号かよ……うーん、トワ?」
「はい、私が読みましょうか?」
「いや、俺宛ての手紙だし頑張るよ。けど、ちょっと時間がかかりそうだからその間、表を任せておいていいか?」
「かしこまりました。また、何かあれば申し付け下さい」
 はいよとトワが部屋から出て行くのを見送って。
「さて、と……」
 そう文量は多くない、似ている文字もある。
 いっちょ腰据えて解読しますか。

「どう思う?」
「う、うぅん……」
 解読も終わって夜になった。
 トワ、ミア、セリカっていうお決まりの三人に加えて、ファミリー事情に詳しいリリエルにも来てもらって家族会議の始まりだ。
「その、ご主人様は、カーシャ本人だと?」
「どうだろうな。ただ、誰が書いたにしても無視できない内容であることは確かなんだ。ミア、リリエル。カーシャ・ファミリーについて何か知っていることはあるか?」
 書かれていた内容は、文字の下手さからはかけ離れて大人びた文字列が並んでいた。
 要約するなら、ファミリーの結成を祝福する、良い関係を築きたい、一度会うことはできないか。
 といった内容がそれこそ大人もびっくりレベルに堅苦しく書いてあった。ギャップで余計に頭が痛くなったよ。
「カーシャ・ファミリーは以前申しました通り、信仰関係へと力を伸ばしている一家ですわ。それ以外となりますと……」
「ミアもあそこが別ファミリーと必要以上の関わりを持とうとするなんて聞いたことないなぁ……」
 世界を牛耳る魔術師連盟で権力を握っていたミアと、裏社会で一角の人物になったリリエルが難しい顔をしているあたり、情報の露出はかなり控えめなファミリーなんだろうか。
「それに、カーシャ・ファミリーといえばボスの名前よりもアイナって名前の方が有名だし」
「うん? アイナ?」
「あ、うん。説明するね? リリエルは補足をお願い」
「かしこまりましたわ」
 咳ばらいを一つした後、ミアが口を開いた。
「王都、というよりこの国は、だけど。アフロンを唯一神として崇めるのは変わらず、アフロンが残したと言われている言葉の解釈方法で宗教……というよりは宗派って言った方がいいかな? そういうのがそれなりにあるんだ」
「解釈方法、宗派は多くありますが崇める神はアフロンただ一人。カーシャ・ファミリーは大本であるアフロンが残した言葉、語録のようなものでしょうか? 定かではありませんが、それを持っていると喧伝しているのです」
 言葉を持っている? なんだアフロンは語録集でも遺したのか?
 うぅむ、いまいちわからん。前世では宗教って遠い位置にあるものだったからなぁ……精々冠婚葬祭の時くらいだ、関係があったのは。
「話のコシを折るけど、この中でアフロン神を信仰してるってやつは?」
 聞いてみれば誰も手を挙げない、あれ? 唯一神なんだよね?
「えぇと、アリオスさん。アフロン最大の言葉っていうのがね? 『美、あるものに祝福あれ』ってものなの。だからミアたち含めて、醜女は基本的に信仰すること自体が許されてないんだよ」
「なるほど? じゃあうちの皆は信仰してていいじゃねぇか」
「あ、あぅ。う、嬉しいけど! その! 社会的に! ね? も、もう!」
 まぁ、ムカつきポイントアップではあるけど、ひとまず話が進まないし納得しておこう。
 アフロンってあれだよな? セリカを身請けした時の教会にあった、あの不細工なふたなり像のやつ。
 って、そういえば。
「セリカは? シスターだった時、あの教会にいたよな? 贖罪にしろ、それは信仰って言えるんじゃないか?」
「女として祈っていたわけじゃ、ない、からね。罪人として、懺悔することは許されてる、よ。でも正直、なんであんなのに祈ってたのか、今となったらわからない、けど。恥だよ、恥。ごめんなさいアリオス様」
「お、おう」
 セリカさんは相変わらず俺を神扱いしてくるよね、嬉しいような怖いような。
 ともあれなるほどね、要するに信徒となる、認められるのは一定以上の容姿を持つ者に限られるってわけか。
 妙なところまで容姿差別があるもんだ、呆れる以上に感心してしまうけど胸糞悪い。
「話を戻すね? アイナって人はカーシャ・ファミリーで一番有名、というか一番表に出てくる人なの」
「はい、確かに龍龍へもアイナと名乗られる方がボスの名代として来られましたわ。縄張りについて話し合い、不可侵条約を結ぶためであって、今回のように仲を深めるといった意図はありませんでしたが」
「そそ。連盟に来た時もアイナ、ネルバのところへ挨拶しにいったのもアイナだった。渉外案件があれば必ずアイナが出てくるの。カーシャ・ファミリーとは言うものの、カーシャなんて人はいなくて、アイナこそがボスだなんて話も出るくらいだよ」
 ファミリーの名代、アイナ、ね。
 渉外、つまり外部とのやり取りでカーシャが出てこないでそいつが出てくるってことは。
「アイナって人は……言い方があってるのかわからないが、大人か?」
「え? ……あぁ、なるほどね。うん、もちろん字が綺麗で、礼儀作法もしっかりしている。見た目もそうだね、普通容姿と言っていい人間種の大人だよ」
 こんな手紙を出すような人じゃないんだよな? なんて意を汲んでくれたミアにありがとうと言って。
「しかし汚い字など、それこそ誰でも書けますよ? 自分で書いてもいいですし、近所の子供を使ってもいいのですから」
「そう、だね。会いたいなんて嘘で罠の可能性の方が高いと思うな、ぼく。……何より、神様はアリオス様だけなんだよ、アフロンなんて滅べばいいんだよ」
 もっともだ。この手紙がカーシャの存在証明になるなんて言えるわけもない。あとセリカさん? 小声が怖いです。
「わかってる、けど。下手な字で書いた手紙を送る理由が考えつかない。今後ともよい関係をと願って顔合わせを望むのなら、それこそ丁寧な字で手紙を送った方が相手の心象だっていいはずだ」
「それは、確かにそうですが」
 違和感がある。そうだ、この手紙には違和感ばかりが詰まっている。
 文面こそ友好を願う内容ではあるが、見た目からはとてもそう思えない。
 これがうちを侮るってかナメているからって理由なら構わないが。喧嘩を売る手段としても、下策と言っていいだろう。不快感だけを与えて、敵対心を煽ることしかできない。
 何より封筒に書かれた宛先は綺麗な文字なんだ。
 つまり、誰かとは断定できないが。宛先を書いた人と、手紙の内容を書いた人。少なくとも二人以上でこの手紙は書かれている。
 仮に、礼儀作法がしっかりしているとミアが評したアイナという人が宛先を書いて内容を考え、中身を別の人が書いたというのなら、まずこの手紙は出さない。
 単純に礼儀を失しているからだ。書いた人の顔を立てたいといった意図があるのなら、もう一通ちゃんとした書体のものが入っていてもいいはず。
 厄介なパターンとしては、全部一人で書いた。書き分けた場合だが。
「ふむ……」
 俺の手元に届いたこの手紙には、何にしても意図があるはずだ、東部の裏社会支配者が戯れでこんなことをするわけがない。
 ましてや、うちも外から見ればリリエル・ファミリーって組織を乗っ取った形になってるから、大きな力を持っているファミリーだと目されている。
 そんな相手に迂闊なことをしてどうなるか、想像できないはずもないだろう。
 信仰関係に力を伸ばす、カーシャ・ファミリーと、魔石と食に関する力を持つ、アリオス・ファミリー。
 触り合う袖は何処にある? もしくは俺に何かを求めているのだろうか?
 わからん。わからん、が。
「会う方向で動く。トワ」
「はっ」
「ネズミたちに、アテリナ教会の調査を指示しておいてくれ。そうだな、カーシャ・ファミリーとの繋がりになりそうなものを、だ」
「かしこまりました」
 アテリナ教会は王都唯一の教会だ。セリカを身請けした時の経験からいまいちいい感情はないけれど、カーシャ・ファミリーと切っても切れない関係にあるはず。
 ネズミの面倒も見てくれて、俺の意をしっかり汲んでくれるトワに任せれば大丈夫だろう。
「ミア」
「はいはーい!」
「ネルバさんにカーシャ・ファミリーと接触することを連絡。その後、アフロンについて調べられることを調べておいてくれ」
「りょうかい!」
 大きなファミリー同士の接触だ、裏社会の調停者であるネルバさんへの配慮は忘れたらだめだろう。
 表向きには魔術師連盟とのコネクションが途切れているミアではあるが、ネルバさんと密であり続けてくれてるのには感謝しかないし、こっちはミアに頼めば大丈夫だ。
 アフロンと言ったら漠然としすぎているが、美の神だってやつ以外いまいちわかっていないし、ある程度の知識は必要だし、頼りにするべきだろう。
「セリカ」
「はいっ!」
「会合は龍龍でやる方向で考える。相手はVIPだ、『ヘビ』たちと協力して、不足ない食材を用意してくれ」
「御心のままに、だよっ!」
 図式としては相手が望んでいる状態だ、龍龍以外と言われるのならお断りするが、受け入れられたのならそれ相応の対応をしなくちゃならない。
 セリカと普段から訓練してるヘビに頼めば不足ないものを準備できるだろう。まぁ、直接会わせたらどうなるか予想がつかないから裏方を頼むなんて流石に言えないとも言うが。
「リリエル」
「はい、旦那様」
「返事の手紙を出してからのやり取り次第だけど。当日は特別室を使いたいから調整を。加えてルゥリィに同席してもらいたいから伝えておいてくれ」
「承りましたわ」
 良い女は良い女って自分のスタンスを貫くって話なら、それこそリリエルに同席してもらうべきなのはわかっている。
 なによりかつてリリエル・ファミリーのボスとして一度面通しだって済ませているんだ、話だって幾分かスムーズに進められるだろうが余計な圧力と捉えられても困るからな。
 誰にでも中指立てて噛みついていいわけじゃない、まずは牙を向けなければならない相手なのかを確かめる必要がある。
 なら世間的に普通容姿とされている上に、礼儀作法にしても、場への順応にしても多くのことを水準以上にこなしてくれるルゥリィが一番適役だろう。
「いまいち相手さんの狙いが見えないままではあるが……」
 そう、わからない。
 喧嘩を売られているのか、それとも別の何かを伝えたいのか。
 あるいは頼られているのか。
「なんにせよ、ファミリーとしての初仕事だ。皆、よろしく頼む」
「お任せ下さいっ!」
 さぁ、動き始めよう。

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