猫耳乙女のトワの舌で全身愛撫を施されて、魔術師のミアにフェラされつつ、
転生者アリオスは苦悩していた。美醜逆転世界にたまたま魂が舞い降りただけで、
自分に都合のいい楽園をつくろうとしか思わなかった俺って一体……
この世界で不遇の存在だった仲間たちと築きあげた絆を守りたくて、
ひきこもりたかったアリオスが、ついにみんなの幸せのために立ち上がる!
一念発起の第4巻! eブックス限定、特別書き下ろし収録!
四章 結成! アリオス・ファミリー!
一話 始めるべきこと
二話 ファミリー
三話 最初の壁と自慰バレ
四話 アリオスの準備
五話 帰郷と立脚点
六話 二週間の話・前編
七話 二週間の話・中編
八話 二週間の話・後編
九話 主の帰還と硬直
十話 二週間の裏話・セリカ
十一話 リリエルという女
十二話 決起集会は龍龍で
十三話 アリオスの願い
十四話 アリオス・ファミリー
十五話 龍龍大乱交
十六話 大乱交、その後
十七話 始動! アリオス・ファミリー
四章閑話 こちら、旧知ですが温めますか?
四章閑話 がんばれユーリ君
四章閑話 おせっせ勉強会
四章閑話 ロザリア・ファミリー
書き下ろしSS 支配者一年生
本編の一部を立読み
四章 結成! アリオス・ファミリー!
一話 始めるべきこと
「ご主人、様……♡」
俺の名を呼びながら、仰向けに寝転がった俺の顔へとまずは蕩けた瞳のトワが唇を寄せてきた。
「アリオス、さん……♡」
唇が塞がれたと思えば視界の外、下半身から聞こえる、やっぱり蕩けたミアの声。
未だに、と言えば二人に申し訳ないとは思うけれど。
「ん、んんぅ♡あ、むぅ♡」
「は、あぁ……はぁ、ぷっ♡」
ここまで俺に惚れてくれているのはなんでだろうと、思ってしまうことがある。
こうしてトワは夢中に、そして熱心に俺の唇と舌を舐めてくれて、ミアは熱い咥内で肉棒を扱き上げてくれる理由を考えてしまう。
「ご主人様♡ごしゅじん、さまぁ♡私は、トワは♡気持ちよく、できておりますか♡もっとこうして欲しいなど、ございませんか♡」
「んんっ♡じゅるっ♡んあぁ♡おいし、おいしいよぅ♡アリオスさんのデカマラ♡すてき♡すき♡しゅきぃ♡」
いや、余計なことを考えるのは勿体ない。
そうとも、恵まれているのか都合が良いのか。
どちらにしても最高に気持ちがよくて、気分だって最高なのだから。
「いや、最高だ。気持ちいいよ、二人とも」
「ふにゃ……♡勿体なき、お言葉です♡」
「んぷっ♡んんぅ♡えへ♡えへへ♡」
幸せだ、そう思う、掛け値なしに。
ただ、二人は……いや、周りにいる人たちはどうなんだろう。
ロザリアへと啖呵を切って、手を貸せなんて言ったはいいけれど、どうすれば彼女たちは俺の感じる幸せを同じように幸福だと思ってくれるのだろうか。
「では、ご主人様♡こちらは、如何ですか? んれぇ……♡」
トワのざらついた猫舌が俺の首筋から胸元へと伝っていく。
「む♡ミアだって、負けないからねっ♡覚悟してね? アリオスさん♡はぁぷっ♡」
同時に負けん気だろうか、ミアの口淫に籠る熱が増した。
「く、ぅ」
思わず口から声が漏れてしまう。
トワの舌はねっとりしているにもかかわらず、刺激的で。最近は俺の反応によって強弱をつけてくるようになってたまらないし。
相変わらずどころか日に日に俺の弱いところをどう攻めたらより気持ちよくできるかの研究に余念がないミアのフェラチオは、気を抜いたらすぐにでも精子を漏らしてしまいそうになる。
「んふ♡ご主人様♡ごしゅじんさま♡気持ち、よろしいですか♡トワの舌は♡お気に召しておりますか♡」
「っぷあ♡ちがうもん♡アリオスさんはミアのお口に首ったけなんだよ♡さっきのきもちよさそーな声だって、ミアのご奉仕に出してくれたんだもん♡」
ベッドの上で喧嘩をするなと言いたいところだが、女を御しきれない自分を情けなく思うべきか、それとも男として気分を良くすればいいのか。
わからない。
わからないけれど、少なくともベッドの上でいちいち惑うなんて二人に失礼だ。
「んにゃあぁ♡」
もぞもぞと胸元で動くトワの頭を撫でれば、ゴロゴロと喉を鳴らし始めて。
「んぐっ♡♡♡」
亀頭を熱心に舐ってくれていたミアに合わせて腰を押し上げれば喜びの嗚咽が響く。
「ほら、トワ。ぺろぺろが止まってるぞ?」
「はにゃ♡も、もうしわけありましぇん♡」
「ミアも。びっくりしてる場合じゃないぞ、今日はお前の下の口にぶち込みたい」
「はひゃ♡ひゃい♡も、もうとろとろ♡だから♡アリオスさん専用ミアま×こ♡いつでもご奉仕準備かんりょーしちゃってるから♡」
再開されるトワの乳首舐めと、一瞬離れてすぐに口とは違う生温かい感触が下半身に伝わってきた。
「んん――んんあぁぁっ♡はい、ったぁ♡」
それがなにかなんて言うまでもない。
相変わらずキツキツのくせに、挿入した瞬間から肉棒を一生懸命ご奉仕するぞとまとわりつき始める柔肉穴がたまらない。
「ん、あぁっ♡ありおす、さんっ♡ありおすさぁんっ♡み、ミアのおま×こ♡ちゃんとご奉仕できてる? きもち、いーいっ?」
何よりこれだ。
淫らに、いや、ドスケベに。
「いいぞ、相変わらず俺の好みをちゃんとよくわかってるお利巧さんま×こだ」
「あ、はぁっ♡うん、うんっ♡ミア、おりこう♡アリオスさんのスケベで気持ちよくなっちゃうところ♡よぉく知ってるおりこうさん、だよぅ♡」
言葉通り、ミアは俺がこうされたいを常に先回りして動いてくる。
当たり前に今もそうだ、子宮口のコリコリした感触以外をなんて思う瞬間に肉穴の浅いところを使って細かく早く腰を動かして肉棒を扱き上げてきた。
「あっ♡あっ♡ああぅっ♡これ、これぇ♡すっごい♡み、ミアもすっごくきもち、いぃっ♡」
俺も気持ちよくてミアも気持ちいい、その一つの到達点だろうこれは。
アソコのサイズが違いすぎるという問題への解答は、浅いところ。ミアのGスポットで擦り上げるというもの。
「あっ♡あっ♡あっ♡」
いやらしいスタッカートが耳に心地よい。
何度か股座に飛沫がかかる感触がある、これをされるのは何回目だったか? ついにはハメ潮まで吹けるようになったらしい。
「……むー」
なんて気持ちよさに身を任せていたら不意に舌の動きを止めたトワのジト目が突き刺してきた。
ミアばっかりずるいです、かな?
「むくれるなっての。ほら、トワの可愛いお尻をこっちに向けてくれ」
「ふにゃっ!? え、えぇとっ! そ、それは流石に恥ずかしく……」
「見せてくれないのか?」
「ず、ずるい、ですよぅ。ご主人様ぁ……」
ずるいなんて言いながらいそいそと猫しっぽがゆらゆらご機嫌に動くお尻がやってきて。
「いただきます」
「ふ――にゃあぁぁっ♡」
顔面騎乗位、には少しメス穴が遠い。
「んにゃっ♡ごしゅじんさまのっ♡ゆび、ゆびぃ♡きもちいいです♡わたし、わたしぃこれ、これ好きです♡」
遠慮、というか慎み深さというか。
「はいはい。じゃあもっとこっちに来ましょうねぇ」
「ふにゃ――あぁぁぁあぁぁっ♡♡♡」
中途半端な位置にあった腰を引き寄せて、舐めやすい位置にまで持ってくる。
「んん……トワは、こっちのほうが好き、だろう?」
「で、ですがっ♡この、かっこう♡かっこう、がぁっ♡」
「素直になれない子だぁれ? ってなわけでお仕置き」
「にゃぁぁああんっ♡」
トワの大好きなクリトリス甘噛みをすれば、ぴんっとキレイな背筋が反りあがって。
「あり、おすさんっ♡みあ、みあぁっ♡」
どうやらいつの間にか限界に近づいていたミアの切羽詰まった声が聞こえてきた。
随分と早漏になったもんだ、なんて偉そうに思うけど俺も大概我慢の限界だ。
「よぉし……ほら、トワ」
「ふ、ふえぇ?」
「合図、出すからさ。目の前にいるヤツの乳首、ぎゅってしてやれ」
「あ、あい、ずぅ♡は、はい♡はいぃ♡かしこまり、ましたぁ♡」
でろでろに蕩けたトワの声と、やっぱり張りつめた様子のミアの声が重なって。
「それじゃ――イってらっしゃい」
「ふぃ――」
「んぎゅ――」
トワのクリトリスをこりっと強めに噛んだ瞬間、ミアの乳首が捻られて。
「イくぅううっ♡♡♡」
「んぎゅううっ♡♡♡」
「ぐ、ぅ……」
ミアの膣内に、思い切りぶちまけた。
熱烈な夜が明けてから、考える。
このアリオスという肉体に、俺という意識が宿らなかったなら、こいつはどんな風に生きたんだろうって。
美醜にややこしくて、美しいとされている存在がやりたい放題できて、その分醜いと言われるやつらが割を食う。
そんな世界でアリオスは、どんな生涯を遂げたのかって。
この世界で、自分にとっては強烈な一面の浅い部分を見ただけで都合の良い世界を作ってひきこもろうと考えた俺だ、想像もつかなければこうなるだろうなんて決めつける権利だってない。
だからこそ。
だからこそ俺は今、改めて知る必要があるんだと思う。
訳がわからないままロザリアなんて女と出会って、お気持ち表明をしたんだ、その責任を取らなければならないし。
昨日の夜みたいに、折角の一時を妙な考え事で気持ちを逸らしたくない。
「――以上が、ユーリ君に関する調査結果になります」
膝をついて頭を下げたままカズネが改めて、ユーリに関する調査結果を報告してくれた。
「そっか。うん、ありがとうカズネ。楽にしてくれ、今お茶でも淹れるよ」
「はっ。ありがとうございます、アリオスさん」
お仕事モードの時のカズネは見た目ギャルのくせに……いや、ギャルっぽいからこそ余計にかっこよく思ってしまう。
なんつーか、カズネにしてもそうだけど。周りにいる女はどうしてこうもギャップで俺を殺そうとしてくるのか、それが問題だ。
「あ、あの。うちが淹れるっすよ?」
「ありがとう。けどまぁ座ってくれよ、これくらいやらしてくれ」
「は、はいっす、ありがとうございますっす」
メリハリ、なんても言うんだろうな。
仕事モードが終われば、わたわたしてるカズネの姿に苦笑いが浮かんでしまうけれど。
多分カズネの本性とでもいうか、根っこの性格ってやつはもうちょっと違うのかもしれない、いずれ見たいとも思う。
そう、ロザリアに見とけなんて大見得を切って。
俺の目の前にはいろいろ解決すべき、じゃあないな。解決したいと思える問題の山ってのがあると自覚した。
その中でも可及的速やかになんては言わないが、少なくともユーリの件に関しては優先して考えるべきことだろう。
「それにしても。故郷がそんなことになってるって……やっぱロザリアが?」
「なんとも言えないところっすね。けど、関係しているのは間違いないっす」
ユーリの身体はもう完全に回復している。
なら当然家に帰してやらないといけないわけだ。けれど、村のやつらが魂を抜かれてるなんて状態なら難しい。
カズネは状況証拠的にその村がユーリの故郷であるとは言っていたが、同時に100%と断言できないとも言っている。
確定、断定できるレベルまでの調査となれば現状を踏まえて考えればリスクが高いとも。
気持ち的に難しい判断ではあるが、ユーリとカズネ達なら俺はカズネ達のほうが大事なわけで。
俺もユーリも、自分の置かれている状況ってやつに対してきちんと向き合わなければならないのだろう。
「んで、だ。カズネ」
「は、はい!」
呼びかけにカズネはピンっと背筋を伸ばして、見るからに緊張し始めた。テーブルにカズネ用のお茶を置いてみるが反応はない。
「今後のネズミに関してなんだけど」
「――」
あ、冷や汗かいてる。そこまでか。
真面目な話、お抱えとするかどうかに関しては龍娘の従業員全員で話し合った。
というのもカズネ、ネズミに依頼した件が完璧に達成されたと言うには微妙なラインだったからだ。
俺としてはぶっちゃけ雇う気満々だったんだけどな、トワとミアからちょっと待ったコールがかかった形。
雇うことを反対するわけじゃないけれど、しっかり考えてほしいといった意味での待っただった。
その結果は。
「今後とも、よろしく頼む」
「ぁ――」
雇うと決めた。
現実的に、組織の力が必要だと思ったからだ、気持ちの上をまるっと除いて考えても。
敵対、なんて言うべきなのかはわからないがロザリアとはいい関係に収まったとは言えないだろう。
そしてそのロザリアは明らかに一人で行動しているわけではない。対抗じゃあないけれど、俺が何かする前に潰されることを防ぐって意味でも力が欲しいのだ。
皆にはそうしっかり説明した。
その上で納得もしてもらえたと思う。
「あの……えっと、夢、じゃあないっすよね?」
「頬を抓りたくはないからキスで確かめるか?」
言いながらカズネの唇を奪えば、夢心地な様子で。
現実感を伝える手段としては間違っていたかもしれない。
けれど。
「――っ! 我らネズミ一同、アリオス様を今後唯一の主と定め、生涯の忠誠と愛を捧げます」
「あぁ、ありがとう。俺のためにしっかり働いてくれ、俺もお前達に応えられる主となるべく頑張るよ」
カズネは深々と頭を下げてくれた。
「そういうわけで、だ。お前達には基本給として月銀貨一枚を支払うつもりだ、加えて依頼の達成で追加報酬が発生すると考えてくれ」
「そ、そんなに貰えないっすよ!! う、うちらアリオスさんの配下になれるだけで――」
「カズネ」
「あぅ……はいっす、ありがたく受け取るっす」
いい仕事にはいい報酬を。
そういうにはまだまだ足りないんだが、今の経済状況を考えれば結構ギリギリで。
むしろこれだけしか払えなくて申し訳ない気持ちがある、だから。
「それと、だ。ネズミのメンバーで龍娘に常時一人詰めてほしいんだ」
「詰める、っすか?」
「あぁ、地下に部屋があと二つ空いていてな。俺との連絡をすぐに取れるように、誰かが居てほしい。こちらの希望としては三日くらい詰めては交代のシフト制で」
建前としては連絡が取れるように、だけど。
「そっ! それは、つまり、その! そういうことを、きき、期待してもいいってことっすか!?」
悲しいかなそういうことである。足りないと思う分は身体でとは情けないが。
「お察しの通り、だよ。三日間のうちに少なくとも俺が……うん、夜這いするから」
「よ、夜這い……!」
うわ、めっちゃ目ぇキラキラしてる。
あー、こっちの世界じゃ女が襲う側だもんな、襲われることに憧れを持ってるやつもいておかしくない、か?
「ローテーションの仕方はカズネに一任するよ。なるべく不公平のないように頼むぞ」
「もちろんっす! お任せくださいっす!」
「それだけじゃなく、うちにいる間はメシだなんだの保証もする。なんだったら俺がメシを作ってもいいし……希望があれば遠慮なく随時頼む」
「――天国はここにあったし」
あ、白目剥いた。
弁慶の立ち往生と言うにはあまりに微妙だけど。
「喜んでくれるなら何より、か」
納得しておこう、とりあえず。
ユーリの件にしても、ロザリアの件にしても。
「おはようございまーす」
「えっ、あ、はい、おはよう、ございます」
それらだけに目を向けているわけにもいかない。
「おっ、その葉物めっちゃうまそうっすね!」
「あ、あぁ、そう、だ……そうですね、煮物に使うと、味がしみ込んでいい、ですよ?」
「おっしゃ! ほんじゃちょっと一つ頂きます! いくらですか?」
「えぁっ!? お、お代は……ど、銅貨、二枚で」
「……あー申し訳ない! 今丁度細かいの無いんすよ、銀貨一枚! 今度おまけしてもらうってことでお釣りはいらねぇぜ!」
「は、はは、はいっ!? あ、ちょっと!? アリオス、さ――」
いや、これが銅貨二枚なわけないじゃん。むしろ銀貨で足りるかな?
「おにーさん? えと、いいの?」
「足りてればいいんだけどなー」
俺の右手を握って一緒に歩くユーリが心配そうに。
「だいじょーぶだよアリオスさん。多分、銅貨五枚くらいだと思うよ」
「そかそか、なら安心だ」
俺の左手を握ってこれまた一緒に歩くミアの言葉で安心して。
「……ほんと、何を考えてるのかしら」
「怖い……引っ込んでくれていたらいいのに」
赤信号、皆で渡れば怖くない。
じゃあないけどさ。ユーリのおかげで受け入れられ始めたかなって空気にはまだイヤな視線と雰囲気が残っている。
多くは俺というより、黒ローブを被っていないミアに注がれている。けど、ミアの顔に曇りはなくて。
「うん? どうしたの? アリオスさん」
「あーいや。ありがとうって思ってな」
それだけで何を言いたいか察してくれたんだろう、にっこりと笑顔を返してくれて。
俺にできることってのはやっぱり多くない。
けど、やりたいことってのは多いわけで。とりわけ最初の第一歩として選んだのが地域に受け入れられるってことだった。
手を繋いで、皆で商店街を歩く。
わかりやすい話だけど、ミアがというより醜女が黒ローブを着ないだけでこうも変わる。
最初に挨拶したおっちゃんは、普通に挨拶を返してくれるようになった相手だったはずだ。
にもかかわらずミアを一瞬視界に入れて、大きく動揺していた。
「ミア、アリオスさん以外の視線なんて気にならないよ」
「ありがてぇこった。けど、ちょっと違うんだよミア」
視線を気にするべきなのだ。
嫌悪されることを無視できるってのは強いとは思う。けどそれは割り切りっていうか、断絶しているだけに過ぎない。
「何も悪いことをしてないヤツに嫌悪の視線を向けることも、嫌悪されるのに慣れるのも、違うんだ」
「アリオスさん……」
それが行き着けば結局ロザリアが言う世界のひっくり返しが生まれてしまうだけだ。
融和を目指さなければならない。そのために余計なフィルターやバリアを取っ払う必要がある。
犯罪者に対して厳しい視線を向けるならわかるが、生憎俺の隣にいる女はただの最高な美少女だ。
美しいと思う必要はないが、醜いからが排他していい理由にはならない。
「自己満足だってのは、わかってるんだけどな」
そうだわかってる。
差別というか、常識というか。
長年で築き上げられた認識なんてものは簡単に覆されない。
前世だってそれは根深くあった。
肌の色、生まれた地域。たったそれだけの理由で生まれた悪感情が、一日二日。あるいは一年程度でなくなるわけないんだ。
それを無くしたいなんて難しい話だし、お偉い様が世代を跨いで取り組んでもなお叶えられないことを、俺ができるなんて強く言えるわけもない。
「ただ、受け入れてもらいたいんだよ」
だから練り歩く。
手を繋いで、悪いもんじゃないんだって示して。共存の形を変えようって、言いたいんだ、俺は。
できることも、やりたいことも。まだまだ朧気にしか見えないけれど。
そんな思いだけは、強く生まれたから。
「そんな下準備のために……ミアやユーリを利用してんだから、申し訳ねぇけどな」
一人でできることはちっぽけで。カズネ達ネズミにしても大きく力を借りなければならない俺だから。
そんな言い訳を理由に誰かを傷つけていいわけじゃないなんてわかってるが、それでも。
「うぅん。ありがとう、アリオスさん。ミアにできることなら、何でも言ってね」
「ぼ、ぼく……難しいことはよくわかんないけど。おにーさんのやりたいこと、お手伝いしたい!」
「あぁ、ありがとうな二人とも」
繋いだ手を解いて二人の頭に乗せる。
細められる視線は二種類、心地よさそうにしてくれる二人と、刺々しく突き刺してくるもの。
一歩踏み出してみたはいいものの、まだまだこれから何をすればいいのかはわからないが。
「頑張らねぇとな……って、うん?」
「あれ……? ネルバ?」
龍娘の入り口まで戻ってきてみれば、そこには覚えのあるカリスマさんがいて。
「おぉ。久しいというにはそこまで時間は経っていないはずだがね、久しぶりだアリオス殿」
「は、はい。お久しぶりです。うちに何か御用ですか?」
握手をしながら、社交辞令を交わして。
「うん。龍娘にというよりアリオス殿にね……一つ、じゃあないが話を持ってきたのだよ」
やけにサマになっているウィンクを向けられて。
「話ですか。えぇと、それじゃあとりあえず、俺の部屋にでも」
「ありがとう。あぁ、入る前に身を清めたほうがいいかい? 一応、風呂には入ってきたんだけどね」
なんて、茶目っ気で済ますわけにはいかない言葉を向けてきた。
二話 ファミリー
「すまないね、会う約束をしていたわけでもないのに」
「はは、お偉い様にそう言われると困りますね。俺はただの小市民だというのに」
まったくほんとにね。
約束なしで魔術師連盟のお偉いさんに突撃をカマした俺がどうこう言えるわけないじゃんよ。
「いやいや。ともあれ元気そうでなによりだ、安心したよ」
「お陰様で。とでも言ったほうがいいでしょうね」
そんでまぁ含みを持たせた言い方も相変わらずだこと。
自分で言っておいて何がお陰様かわからないが、あやふやなやり取りが好きだろうネルバさんに付き合うとしましょうか。
「なるほど、ね。少なくとも恨まれてはいない様子で安心したよ」
「何を恨むことがあるのか聞きたいところですが?」
いやマジで何したのさ、何されたのさ。怖いって。
というか要件はなんですかって話だよ。
探られる腹に痛いものはないはずだけどさ、ネルバさんみたいなできる人相手は緊張するんだって。
「わかった。ではまずこちらを収めてもらいたい」
そういって差し出してきたのは硬貨袋だった、ずしりと中々に重量を感じるが。
「金貨三〇枚ある。迷惑料と、アリオス殿の時間を頂戴するには足りないかもしれないが、受け取ってほしい」
何言ってんのこの人。めっちゃ目ぇ真剣だし。
迷惑料? 時間? いやいや、預かり知らぬところで受け取る理由が発生しているのかもしれないけど、明らかにやりすぎだ。
「用件を、伺いたいです」
「立ち位置を明確にしたいと思いやってきた」
金貨の詰まった袋に手を伸ばさないことを気に留める様子もなく直球で。
うーん、試されてる感すごいなほんと。
んで? 立ち位置を明確にしたい? 立ち位置、ねぇ。
「なるほど、それは願ってもない話です。最近はよくわからないことが多くて困っていたところ。差し当たって、ネルバさんが敵なのかどうかが気になります」
「これは手厳しい。先のロザリアとの一件からそう思われても仕方ないが、ね」
一手目は通し。
加えてネルバさんはロザリアについての情報を有していて、俺との間に発生した件も把握していることがわかった。
「ただ、こちらとしても今のアリオス殿に対してどう支援すればいいのかと頭を抱えているんだよ。あまり私は個人に対して動いてはいけない立場でもあるからね」
「ご面倒おかけして申し訳ないです」
お偉いさんが動きにくいってのは、なんとなくではあるが想像できる。
ただ言い方が気になるところだな、個人に対してなんてわざわざ言うってことは、だ。
「私はね、アリオス殿。キミの味方になりたいと思っている」
「ふぅ。矛盾が過ぎますよネルバさん。回りくどい話をするために金貨三〇枚も用意したのですか?」
個人に対して動けない。でも俺の味方になりたい。
組織同士の付き合いをしたいということだ。要するに、俺に何かの組織を作ってほしいということ。
「アリオス・ファミリー。うん、いい響きだと私は思うね」
ファミリー?
えぇと、マフィア? ギャング? なんだそれ。少なくとも真っ当な響きじゃないけれど?
「キミを頂点としたファミリーを結成してもらいたい。その上で、この近辺をキミの縄張りであると私が保証しよう」
「後見人、後ろ盾になりたいということですか? ネルバさんに旨味があるようには思えませんが」
縄張りとかファミリーとかはとりあえず良いとして。
そうすることで何を益とするかが問題だ。仮にファミリーとやらを結成したとして、俺に何をさせたいのか。
「一つ明かそうか。私の仕事の一つは王都の裏を調整することだ」
「裏の調整、ですか」
「その上で言おう。アリオス殿がロザリア。いや、ロザリア・ファミリーに仕掛けられた最大の原因は、キミが勢力として名をあげていなかった面が大きい」
そりゃ勢力をっていうか、自分の存在を秘匿したかったからね、仕方ない。
けどそれが理由であんなことされたってのは無視できない。皆に余計な心配かけた原因は俺にあるってことだ。
……いつ、何処で、俺は何のミスをした?
「名をあげていたらあんなことは無かったと?」
「断言はしない、できない。だが、ロザリアは手を出しにくくなっていただろう。直球を望んだアリオス殿に甘えて言えば、キミが一家の主、ボスとして未熟だったが故に仕掛けられたのだよ」
「っ……」
言われると痛ぇな、マジで。
確認は、できねぇか。
ただ、ネルバさんは事実として言っているように思う。
どちらにしても俺がへっぽこだったから、あの事態は発生したと。
「誤解はしないでほしい。そうだとしても私側の不手際であることに違いはないし、先にも言った通り責めに来たわけではなく立ち位置を明確にしようとやってきたのだから」
「わかりました……少し、落ち着きたいので待ってもらっても?」
「構わないよ」
跳ねる心臓を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
いろいろとわからないことが多い、まとめてみよう。
まずネルバさんは魔術師連盟の偉い人、その実は王都の裏を管理している人らしい。
そんな人が立ち位置を明確にしたいと俺に接触してきた。つまり俺を裏側の人間だと認識しているということだ。自分ではそんなつもりなかったし、今もそうなんだけれど。
ともあれ、裏の人間、裏社会に存在する組織のトップになれと求められている。
責任論でぼかされてしまったが、俺が作る組織の後ろ盾になることで得られる何かがあるらしい。
それが何かなんて想像はつかないが……一致するメリット、か。
「ネルバさん」
「聞こう」
「仮に俺がファミリーを結成したとして。それがどんなものであっても味方になると言えますか?」
「なるほど、そう来たか」
今度はネルバさんが渋面を作った。
そう、俺にとっちゃそこは見逃せない点だ。
組織を結成するのが今後の穏やかな生活に繋がるっていう弁に納得したとしても、俺が思う組織がネルバさんの思う組織と一致しているかはわからない。
何らかの状態を作り上げたその瞬間、ネルバさんが敵に回る可能性があるわけだ。
敵を減らすための活動が、敵を作る活動になるんじゃたまらない。
甘えた考えになるかもしれないが、現状を正しく認識していない俺だ。恥程度は捨てるべきだろう。
「正直に言えば、言えないね」
「でしょうね」
「アリオス殿も大概だね?」
「知りませんよ」
当たり前だろう。
ネルバさんが後ろにいるからやりたい放題してやる! ってなる可能性もあるわけだし。
つまるところ、誘いというかそんなのに乗って行動するのはよろしくないという話だ。
「ネルバさん。この話はもう少し未来で聞くことにします」
「ふむ。それはつまり、先を見て判断しろと受け取っていいんだね?」
頷く。
収穫として、現在俺は王都の裏側にいる人間として認識されているらしいということと、そんな世界ではなんちゃらファミリーってやつらがバチバチやりあってるって状況があるってことがわかった。
「結成するかどうかは……お伝えできません。ですが、何かしらの形はお見せできるかと思います。それを見て、改めてお話頂戴できればと思います」
テーブルに乗せられた金貨袋を押し返す。
なんとも言えない顔をしたネルバさんではあるが。
「わかった。できれば、もう一度このテーブルに金貨を載せたいと願うよ」
「ええ、俺としては金貨よりも握手を望みたいところですが」
納得は、してくれたらしい。
なんとも予想外な方向が指し示された。
アリオス・ファミリー? いや正直わけがわからない。
裏社会ってのはどんな世界にもあるもんだとは思うが、まさか自分がいつの間にか片足突っ込んでるとは思わなかったよ。
そんなわけで。
「ファミリーとは何か、ですか」
「あぁ。無知で申し訳ないんだけどな、リリエルさんならと思って」
「光栄ですわ、あなた様。わたくしが知り得ることならなんでもお答えします」
龍龍《ろんろん》にやってきた。
普段ならトワかミアに相談するんだけど、多分すべき相手じゃあない。
するなら結成するかどうかを決めた後、ついて来てくれって言うべき相手になる。
リリエルさんは王都に来て僅かな時間で龍龍をでかくしたやり手だ。
ならそういう裏との付き合い方にも詳しいだろうって見込みもあったが故のチョイス。
「ありがとう。じゃあ、ファミリーってなんで結成するんだ?」
「そうですわね、結成理由は様々ではあるのですが、共通して言えるのは同じ目的を共有し、達成するために、でしょうか」
目的を共有して達成するために、ね。
なら仮にアリオス・ファミリーを結成するのなら、幸せな環境を作るためにってなるのか。
いや別にそれってファミリーなんざ大げさな組織作らなくてもいいんじゃなかろうか。
「あなた様。基本的にファミリーを形成する、参加する人物は醜女であることが多いのです」
「……あぁ、うん。納得いった」
なるほどね。
ロザリア・ファミリーで置き換えるなら、世界をひっくり返すって目的のために結成されたってことか。
そりゃ確かに一人でなんてできないわな。
ていうかそうだよ。醜女は言ってしまえば社会的弱者だ、ミアを見ていると忘れそうになるけどそういう扱いだ。
だったら群れて自分達を守ろうとするのは自然なことでもあるし、美人ってだけで強者であるやつらと渡り合うために作られるってことか。
「そうした目的を達成するためファミリーを結成し、縄張りを築きます。そして縄張りの中で自分達の思う楽園を作るのですよ」
「縄張りの中で、楽園を作る」
逆に言えば縄張り、楽園の管理者がそのファミリーのボスってことか。
いや、それってマジで俺がやろうとしてたことだな? ひきこもりたい環境を作ろうとしていたってまんまじゃないか。
そりゃロザリアにしてもネルバさんにしても、ファミリーのボスとして俺を見ても仕方ないのかもしれない。
「あ、あの、あなた様? どうして落ち込まれているのですか?」
「いや、なんというか自分の迂闊さに打ちのめされてるっていうかな……悪い、気にしないでくれ。それでええと、この王都にはそんなファミリーってどれくらいあるんだ?」
「は、はい。そうですね、規模を問わないのであればそれこそ無数にございますわ。ある程度大きく、わたくしが知るファミリーでしたら……四つ」
多いと思うべきか少ないと思うべきか。
「具体的な名前はわかるか?」
「もちろんですわ。王都北部に娯楽関係の利権を握るドルザ・ファミリー、東部に信仰関係へ力を伸ばしているカーシャ・ファミリー。西部に宿泊関係で強いコネクションを持つロザリア・ファミリー。そして南部、飲食関係で力を持つリリエル・ファミリーです」
「いっ!?」
いやいやちょっと待とうかリリエルさん? あ、ていうか確信犯だな? 悪戯成功しちゃいましたみたいな顔してるんじゃないよ!?
「以上四つのファミリーですわ、あなた様」
「突っ込まねぇ、突っ込まねぇぞ俺は……あーもう、勘弁してくれよ」
にっこり笑っちゃってまぁ美人なことで。
いやまぁそりゃそうなのかもしれない、王都でのナンバーワンレストランなんて言われつつある龍龍だもんな。
「まぁいいよ……じゃあリリエルさん。おたくのファミリーの目的はなんなのさ」
「あなた様ですわ」
「っ……」
即答された。思わず背筋が伸びてしまった。
「くすくす。いえ、戯れが過ぎましたね。王都にやってきた目的はそうでしたが、今はもうそんな名目もございません。ただ、あなた様に振り向いていただくためにと龍龍を経営していたら、そうなっていただけですわ」
「そりゃなんというか……あぁもう、なんていえばいいかわかんねぇよ」
「はい、お気持ちはありがたく」
けどまぁそうか。
龍娘があるのは王都南西部、ロザリアとリリエルの間くらいだ。
ってことは……俺がファミリーなんて結成するまでもなく――
「――」
「……わかってるよ、ありがとう」
リリエル・ファミリーの傘下に入れば。
なんて言いそうになったけど、リリエルさんの目が止めてくれた。
実情を知ってからやっぱりリリエルさんのモノになろうとするなんて都合が良すぎるわな。
それこそ千年の恋も一瞬で冷めておかしくない。危なかった。
「ファミリー、か」
縄張りの中に幸せを築く。
俺が思う幸せってのは、何なのだろうか。
「あなた様」
「うん?」
「お好きなように、望まれるがままに振る舞いください。きっと、それがわたくし達の幸せでもあると、皆確信しておりますから」
「……そっか」
随分とまぁ皆俺のことを買いかぶってくれているものだ。
別に何でもできるスーパーマンってわけじゃないのに。けど、そうだよな。
やるって決めたもんな。
「リリエルさん」
「はい」
俺が思う幸せ。
作り上げるために、もう腹は括っている。
「リリエル・ファミリーのボスであるあなたに、頼みたいことがある」