本販売日:2025/05/23
電子版配信日:2025/06/06
本定価:935円(税込)
電子版定価:935円(税込)
ISBN:978-4-8296-4804-9
「どう? 上司を抱いた感想は?」
彼女の負けん気の強さ同様にきつく締め付けてくる女膣。
高校の同級生で同期入社、仕事ができる女友達・楓が、
俺の硬直に貫かれてこんな表情で絶頂を遂げるなんて。
夜の職場で溺れる背徳の交合──その先に待つ未来とは?
新世代エース・懺悔が切り開く、これが官能の最前線!
プロローグ 女友達が俺の上司になりまして
第一話 最後までしてみる?
第二話 コンドーム無しでしたくない?
第三話 あたしを妊娠させたいの?
最終話 職場でアナルセックスだなんて
エピローグ 女友達が俺の××になりまして
本編の一部を立読み
プロローグ 女友達が俺の上司になりまして
朝の通勤ラッシュは嫌いじゃない。この圧迫感と熱気が自分のやる気を圧縮してくれる気がするから。
電車を降りると息苦しさから解放される心地良さはサウナと少し似ていると以前同僚に話したら、誰からも共感されなかった。
駅を出て混雑したスクランブル交差点を歩く。皆一様に早足だ。その顔つきの殆どに覇気は見当たらない。俺はそこまで腑抜けた表情をしていないだろう。やる気に満ちているとまでは言わないが、そこそこに精力的な気概を有している自負はある。それは三十歳になった今でも変わらない。
陽光は淡く柔らかい。日中には上着のスーツを脱いでも良いくらいの温度まで上がるらしい。春が訪れたのだ。
その春の人事で俺の部署にとある変化が生まれた。会社まであと数分といった場所で、その源となる旧知の仲とばったり出会う。
「おはよう。圭ちゃん」
スーツ姿で黒い長髪をたなびかせる、女性にしてはやや長身の彼女は獅童楓。高校からの昔馴染みである。
俺はぺこりと会釈をした。
「ご昇進おめでとうございます。獅童係長」
楓は苦笑いを浮かべる。
「ちょっと。やめてよ。気持ち悪いな」
俺は冗談ではないということを示す為に真面目に言った。
「示しがつかないので」
「え~」
楓は本気で嫌がっているようだ。
そんな彼女に向かって念を押す。
「少なくとも会社の中では上司と部下なので」
「今は会社の外だし、まだ出勤前じゃん」
楓は唇を尖らせた。
「ともかく、今後は勤務中は圭ちゃんじゃなくて萩本君って呼ぶようにお願いします」
彼女は蕁麻疹が出たかのようにむず痒そうにする。
「いー。何それ。気持ち悪い。敬語もやめて欲しいんだけど」
「そういうわけにはいきません」
「あたしと圭ちゃんの仲じゃん」
「萩本君で」
そんな会話を交わしていると会社のビルに到着する。立派な建屋であった。一部上場している世間でもそれなりに名が知れた企業である。
そんな会社で獅童楓は出世コースに乗った。
別段驚くことではない。学生の頃からこいつは大物になるだろうと確信していたからだ。
彼女との出会いは高校の生徒会である。楓が生徒会長で俺が副会長。彼女は昔から他人に頼られる人物だった。
感情豊かで懐が深く、誰に対しても分け隔てなく砕けた態度を取る。そしてスパイスとして多少の威圧感を備えている。いかにも勝気そうな整った顔立ちや、すらりとした体型もその風格に寄与しているだろう。
けして真面目な堅物ではない。どちらかといえば破天荒な性質を秘めている。
名は体を表すと言う。彼女は心に獅子を飼いならしていた。とはいえ誰彼構わず噛みつくような粗暴さや短気な性質は持ち合わせていない。
仕事ができる、というよりかはその人間性で人の上に立ってきた。カリスマと呼べるものかもしれない。
学生の頃から姉御肌として老若男女問わず頼られることが多く、時には教師からすらも緊張感を帯びた信頼を受けていた。
会社の入口で守衛さんに社員証を見せて中に入る。俺はそれとなく尋ねてみた。
「中間管理職としての初勤務、少しは緊張してますか?」
「ぜーんぜん」
そのとぼけた返事が強がりでないことを俺は知っている。
エレベーターに乗ると、彼女が俺を肘で突きながら小声で呟いた。
「そんなことより、本当にその敬語なんとかならない?」
「ならないです。慣れてください」
「はぁ……つれないなぁ」
そして勤務が始まる。
オフィスは広々としており、何台も設置された空気清浄機により清涼な雰囲気が保たれていた。
朝礼では部長から楓が係長に昇進した旨を改めて皆の前で紹介される。彼女はその時も物怖じ一つせずにこう言った。
「大船に乗ったつもりであたしについてきてください」
少しの茶目っ気を含んだ、あまりに威風堂々とした宣言は極めて獅童楓を象徴している。
自然と拍手で溢れた。
朝礼直後は楓の席の周囲に人が集まり、お祝いの言葉を各々が掛けている。そんな彼らに共通するのは自然な笑顔であった。
男女平等が標榜される現代社会でも、若い女性がトントン拍子に出世すると妬みの一つでも買いそうなものだが、彼女よりもずっと年上の平社員の男性ですら昇進を我が事のように喜んでいる。
「これで我が社はあと三十年は安泰だね」
そんな言葉すら受けていた。
「いやいや。五十年はあたしが支えてやりますよ」
楓はそんなことを冗談交じりに言う。
しかし彼女が口にすると、明らかな戯れの大言壮語にも妙な現実感が漂うのだから不思議なものである。
竹を割ったような性格で裏表が無く、それでいて清濁を併せ呑む器の大きさを備えていた。
人の上に立つことが運命づけられたかのような人間である。
「係長。良いですか?」
早速新人の女の子から仕事の相談を受けていた。
楓は老若男女に好かれるが、特に年下の女性から特別な慕われ方をされることは学生の頃から変わらない。同性に恋愛感情を持たれることも珍しくない。その凜々しさがそうさせるのだろう。
ともかく彼女の係長としての一日目は特に問題無く過ぎ去っていった。テキパキと部下に仕事を割り振り、時には決断や問題の処理を迫られることもある。その全てを颯爽とこなしていく。
そんな彼女の姿に皆が感心している。
しかしそんな楓の仕事ぶりに俺が今更心を揺さぶられることは無い。高校時代に生徒会長である彼女の腹心を務めていた俺にとっては、楓の有能ぶりなど嫌というほど思い知らされていた。
最初は彼女に対して劣等感や対抗心もあった。
しかしそれもすぐに消え去る。
むしろ楓のすぐ傍でサポートできる喜びを知った。
会社でもそんな関係になれるかはわからない。
それでも一人の部下として、彼女の下で働けるのは悪い気分ではない。
「係長。企画案ができました」
そう言いながらプリントアウトした書類を提出する俺に対して、彼女は照れ臭そうに頬を掻いた。
俺の敬語に慣れないのだろう。
それでも彼女はその変化に適応しようとする。
「ん。ありがとう。圭ちゃ……萩本君」
それで良い。
俺たちはもう子どもではないのだから。
そんな風に俺は親友の部下となった。