俺の担任で女教師が性癖合いすぎだったので、従順メス犬にして孕ませデキ婚した話。【養護教諭編】

著者: 孕間せん

電子版配信日:2025/06/13

電子版定価:990円(税込)

オスに跪き媚びるドMな女性を求めている保健委員・厚木瑠維。
エッチのトラウマで性癖をさらけ出せない養護教諭・斧沢乃々。
不思議なキャンディの力で、相性最高な異性とマッチング成立!
陰のある保健室のヤニカスおねえさんに、メスの悦びを思い出させる!
喘ぎ&潮吹き癖を必死に我慢しているが、久々の挿入に身体は歓喜し……
孕ませ純愛劇、ダウナー養護教諭編! 3万字超えの番外編も収録!

目次

プロローグ:不思議な飴玉

第1話:ドスケベなギャル

第2話:喜ぶ身体と塞ぐ口

第3話:トラウマ

第4話:許し

第5話:セレブなプールで種付け遊び

第6話:愛されメス犬

番外編:ハロウィン仮装で種付け遊び・前編

番外編:ハロウィン仮装で種付け遊び・後編

本編の一部を立読み

プロローグ:不思議な飴玉



「もうやだ」
「えっ」
 ラブホテルの一室。
 お互い全裸になって愛撫をしているというこの場面で、突如として女の子側からそんな言葉が飛び出してきた。
 彼女は俺への愛撫を止め、ベッドから降りる。
 即ち、〝もう終わり〟という意思表示だ。
「あんたの前で跪いてフェラすんの、見下ろされてる感じがして嫌なんだよね」
「あははは。そんなことないってー。気のせいだよ気のせい」
「てか、あんたのちん×んデカくて顎痛くなるのよ。挿入《い》れても気持ちいいってより、だいたい痛いし」
「そんなことないと思うけどな。前は気持ちいいとか言ってたじゃん?」
「とにかく、あんた注文も多いし、なんかフェラばっかさせるし、もう無理。帰る」
「いやいやいや、待って待って。帰るってさ、ほら……君ってば俺の彼女じゃん? もうちょっと楽しんでこうよ」
「別れる」
「ええ……」
 つい数秒前には恋人であった女の子は、俺を放ってさっさと着替えると、ホテルの部屋から出ていってしまった。
 俺はひとり、ぽつんとホテルの部屋に取り残される。
「まいったね、上手くいってると思ったんだけどな。……はあ、別れるにしても、せめて最後までさせてくれよ」
 声も顔も心もペニスも、全部しょぼしょぼになりながら、もそもそと服を着る。
 ああ、こんなにも悲しく虚しい気分は、久しぶりかもしれない。
 ひとつだけ、反省すべき点はある。
 数分前までは恋人だった彼女が口にした、「見下ろされてる感じがして」という言葉、俺は誤魔化していたが、そう感じたのは正解だった。
 俺は立ったまま、自分のペニスをフェラする女の子を見下ろすのが好きだ。
 たまらなく、そうだ、滾るほどたまらなく好きだ。
 だからそのせいで、知らず知らずのうちに彼女に無理強いをさせてしまっていたのかもしれない。彼女がそれを言い出したのも、フェラの直後だったから。
 いつからそうなってしまったのか、記憶はない。
 激しめのアダルトビデオを見たせいか、エロ漫画の読みすぎか、SNSで流れてくるエロショート動画を見すぎたせいか。
 自慢の長くて太い肉棒の前に跪かせ、オス様に媚びながら美味しそうにしゃぶる女、それに酷く興奮するようになった。
 ペニスをしゃぶるのが大好きで大好きで、犬がパタパタと尻尾を振るように、腰を振って亀頭も竿も舐め回す女。
 オスが与える快感が欲しくて、自分の膣穴にペニスをぶち込んで欲しくて、媚び媚びのおねだりフェラをする女。
 そう、俺はドMな、強いオス様に媚びる女の子、〝メス〟が好きになってしまった。
 しかし現実は甘くない。彼女を作っても自分からフェラをしてくれるわけでもなく、させようとしても特に媚びるわけでもなく、時に萎えてしまったこともある。
 だから余計にフェラに執着している、というのはあるかもしれない。
 毎度毎度こんな調子なので、恋人とも長続きせず、すぐ別れてしまうという毎日を送っているというわけだ。
「あははは。でもだからって、今さらこうなっちまったのを、簡単に捨てられるわけもないんだよなあ。……こんな性癖くらい、許してくれたっていいのに」
 他のカップルが、満ち足りた幸せそうな顔でホテルを出ていく中、俺はひとりポツンと寂しく出る。
 羨ましい。素直にそう思う。羨ましいと。
 心底、俺──厚木瑠維《あつぎるい》は思う。
「フェラ大好きなメス犬みたいな女の子、どっかにいねーかな。そしたら俺も幸せになれるんだろうけど。……あははは、いねーか。そんな簡単に見つからねーか」

 ──翌日。
 俺は落ち込んだ気分のまま、〝学校へと向かう〟。
 昨日の気持ち、彼女と別れたことよりも、いつまで経っても自分の性癖に合う子が見つからないという絶望を引き摺ったまま、俺は学校へ向かう。
 まあそもそも、俺がまだ学生であるからこそ、同じような性癖に目覚めた女の子が周囲にいるわけもない、というのはあるのだろうな。
「おっす厚木。なんだよ、元気ねーな」
「いやー、それが彼女と別れちまってさ」
「はあ? またかよ。何度目だこれ」
「うるせー」
 教室に入り、自分の席に着くと、隣の友人が話しかけてきた。
 こうしてこいつに彼女と別れたことを報告するのも、確かに何度目だろうか。
「いったい何があったんだよ」
「別に何も。普通にしてたら、いきなり別れるって言われちゃったんだよなあ。俺はこんなに彼女を愛してたのに。くすん」
「いやいや、普通にしてたらそんな別れないだろ。……なあ厚木、まさかお前、何か変な趣味でもあるんじゃないか? 俺を叩け! ぶて! とかお願いしたりとか」
「あははは。ないないない。そういうんじゃないって。ほら……あれだよ、すれ違いっていうかさ、そういう感じ?」
「まあ、そういうことにしとくわ」
 当たらずとも遠からず。
 変な趣味とまではいかないだろうが、他人の身体を舐めたり体液を啜るなんて、嫌う子はとことん嫌うだろうから。
 最初からオス媚び大好き跪くの大好き、という気持ちでいる女の子でもなければ、俺の性癖を受け入れるのは難しいのだろうな。
「……だからそんなの、身近にいるわけねーんだよなー……」
「あ? 何か言ったか厚木」
「いや別に」
「それよりさ、今日の数学の宿題、また見せてくれよ」
「ええ……、またかよー。お前いつになったらちゃんと自分でしてくるの。この前のテストだって、俺に頼りっぱなしだったじゃん」
「いやあ……、だって厚木勉強できるし、頼んだら面倒見てくれるし、去年の林間学校で料理も上手かったし。おかんみたいじゃん?」
「おかんじゃないっての! たまには自分でやるの!」
「そこを頼むって! なんかいい雰囲気になった女の子がいてさ、その子とデート行くのにバイト頑張ってんだよ、頼むわ!」
「……しょうがない奴だな。今回だけだぞ? 次からはちゃんと自分でやれよ? な?」
「ママ……!」
「ママじゃないから!」
 友人の頼みに、ちゃんと断れないこの性分。
 困っている奴を見たら救いの手を差し伸べずにはいられない性格、だからこそこんな俺でも彼女ができるし、面倒くさい〝保健委員〟なんて仕事も任される。
 委員の仕事はともかく、これであとは、性癖ぴったりの彼女ができれば最高なんだけど。
「……はーい、みんなおはよー……」
 そんなことを考えていると、教室に先生が入ってきた。
 予鈴が鳴り、朝のホームルームが始まる。
 だがしかし、現れたのはいつもの担任とは違う、別の女性。それは白衣を着た、養護教諭の先生だった。
 茶髪でさらさらのボブカット。下品さを感じさせない赤い口紅。
 耳には金のリングピアスをしており、ぱっと見た顔の雰囲気はチャラい。
 年齢は、確か二十七歳だったろうか。
 ラベンダー色に近いワイシャツを着込み、下は黒の短いタイトスカートに黒ストッキング。その上から、ゆったりした白衣を羽織っている。
 別の友人によれば、あのストッキングは30デニールだとか何とか。見ただけで型とかわかるのかよと、それは戦慄したものだ。
 脚は長く腰はキュっと締まり、一見するとモデル体型だ。背は、170センチの俺より、10センチ弱くらい低いだろうか。
 そして、胸元はボタンが外されゆるゆるで、長い直線の谷間と黒いブラがチラ見えしている。
 だが、ゆるゆるなのも仕方のない話なのだ。先生の胸はシャツをぱつんぱつんに張り詰めさせてしまうほど大きく、そのせいで胸元を緩めざるを得ないのだ。
 もしボタンを留めたのなら、少し屈んだり身体を反らせただけで、そのボタンは弾け飛んでしまうことだろう。
 全男子の視線を集め、全女子の憧れの的である、魅惑の巨乳なのだ。
 見ただけで相当なサイズだとわかるその巨乳を、だゆんっと重たげに揺らしながら、その先生は俺たちの顔を見渡す。
 眠たそうな半目に、口元は「へ」の字のまま。
「あー……、えっと、担任の瑞江田《みずえだ》先生が産休に入ったので、養護教諭のあたしこと斧沢乃々《おのざわのの》が、このクラスの臨時担任になりました。……まあ、普通は養護教諭が担任になることはないんだけど、知っての通り全国的に教員不足でね。なので、あたしでもホームルームくらいはできるだろうってんで、代理を務めることになったわけでー……」
 言いながら、「はふう」とため息をつく先生。
 心底面倒くさい、とでも言いたげに。
「えー……、梅雨もまもなくで鬱陶しい時期だけど、まあ体調に気を付けてよろしくやってください。以上。……あ、それと日直さん、これ配っといて。連絡用のプリント」
 それだけ言って日直にプリントを渡すと、先生はさっさと教室を出ていってしまった。
 呆気ないというか、簡単すぎるというか。クラスメイトも少しざわついている。
 長々とどうでもいい話をされるよりはよっぽどいいが、こうもあっさり帰られてしまうと、逆にこれでいいのかという気持ちになる。
「なあ厚木さ、お前って保健委員だったよな? 斧沢先生いつもあんななのか? 俺、保健室なんてほとんど行かないから、わかんないんだけど」
「ああ……、まあ、だいたい?」
「んー……! 俺はああいうタイプだめだわ。めっちゃ美人だし、おっぱいでっかいけどさ。なに、なんつーの、ダウナーって感じか? いや、俺はもっと愛嬌がある先生がいいわ。ああ、ドジっ子だけど懸命で可愛い瑞江田先生の方が好きだ! 早く帰ってきて! 俺の愛しい瑞江田先生っ!」
「あははは。瑞江田先生、人妻で妊娠三人目だけどな」
「ううっ、ちくしょう! いい女はいつもそうだ! いつも誰かのものになってやがる!」
 お前はいい雰囲気になった子がいるんだろと、ひとまず友人にツッコミを入れておく。
 まあ、確かに気持ちはわからないでもない。
 担任の先生に比べると、あの人は愛嬌もなく無愛想。みんなの頼れる保健室のお姉さんは、しかし、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 俺も保健委員で、なまじ〝酷い中身〟をさらに知っている分、ちょっと距離を置きたいなどと思ってしまうくらいなのだ──

 ──放課後。
 朝と同じく適当なホームルームが終わったあと、俺は保健室へ、保健委員としての仕事をしに向かう。
 しかしそこに、先生の姿はなかった。部屋はしんと静まりかえり、人の気配もない。
 しかも机の上には、コンビニの袋と一緒に何かのトレイやお菓子の袋が散乱している。
「またかよ……。しょうがないなあ」
 俺はそう呟くと、誰かが来ないうちに、ぱぱっとゴミを捨てる。
 こんなことは、もはや慣れっこになってしまっていた。
 そして、保健室を出て校外へと向かう。
 学校のすぐ裏手、生徒もよく立ち寄るコンビニへ、おそらくは先生がいるであろう場所へ。
 歩いて五分もしないコンビニへと辿り着くと、その入り口付近に先生の姿があった。
 我ながら、こんなにも先生を探すのが上手くなってしまうとは。なんとも要らない技能が身についたものだ。
「ちょっと〝乃々ちゃん先生〟、こんなとこで何やってんスかー」
「……ん? ああ、厚木じゃん。見ればわかるでしょ、ヤニ吸ってんのー……」
「あははは。養護教諭の先生が、学校裏のコンビニでタバコ吸ってちゃだめでしょー」
 乃々ちゃん先生はコンビニ前に置かれた灰皿の前で、白衣のままヤンキー座りをして、スパスパとタバコを吸っていた。
 この姿、白衣を着てはいるが、まさか学校の養護教諭とは誰も思わないだろう。
 だがこれが、これこそが、普段の乃々ちゃん先生なのである。
「臨時担任なんて任されるわ、二日酔いで頭痛いわ、ヤニ休憩しないとやってらんないっしょ。あー……、めんどくさー……」
「養護教諭とは思えない行動と言葉っスねー。ほどほどにしとかないと、また教頭に怒られますよ?」
「いいのいいの。あのお爺ちゃんなら、適当にあしらっとくから」
「ま、先生がそれでいいならいいですけど。……それより、一服は学校終わってからにしてくださいよ。せめて保健室の掃除くらいしてから」
「だから、やってらんなかったのー。……すはー……。あー……、うんま」
「てか、一日何本吸ってんスか」
「まあ……、一箱くらい?」
「はいはい、いっぱいってことっスね。ほどほどにしとかないと、身体に悪いっスよ?」
「ほんっっと厚木って、おかんだよね」
「おかんじゃないですって。まあ、だらしない先生の面倒を見てあげてるのなんて、俺くらいでしょうけど」
「やっぱおかんだ」
「いいからほら、戻って仕事してくださいよ。部活中は怪我する奴も多いし、保健室にいてくんないと困りますって」
「はいはい、わかったわかった。……ところで厚木さ、ここに冷たい缶コーヒーが二本あるんだけど、戻る前に一杯付き合わない?」
「……そういうことなら、いただきまっス」
「ん。厚木のそういう付き合いのいいとこ、嫌いじゃない。卒業したら、一緒に飲みでもどう?」
「あははは。考えときます」
 俺は乃々ちゃん先生の隣に、同じようにヤンキー座りで並ぶと、コーヒーを受け取る。
 こうやって、先生に付き合って一杯やるのも、割とお馴染みになっていた。
「先生、俺が来るのがわかってたから、缶コーヒーを二本買っててくれたんスか?」
「違うよー。ここでヤニ吸いながら一本やって、保健室に帰ってもう一本飲もうと思ってただけ。……まあ確かに、わざわざここまで探しに来るのは厚木だけだし、悪いなーとは思ってるけども」
「そう思うなら、そもそも気軽にタバコ休憩に出ないでくださいよ」
「ごめんて」
 言いながら、先生は缶コーヒーを開けて、ゴクリと飲む。
 一気に飲み干そうとしたことで、身体が軽く仰け反り、それに合わせてシャツの中に窮屈そうに詰め込まれた巨乳が、だゆんっと跳ねた。
 ちょっとだけ眼福である。
「あー……、コーヒーうんま。タバコと一緒に飲むのが最高。……フーっ。うんま。ほら、厚木も飲みなって」
「じゃあ俺も、いただきます。……うへっ。無糖だ」
「ははっ。甘いのが好き? まだまだお子様だなー」
「大人でも甘いのは好きでしょ。俺がブラックが嫌いってだけです。……まあ、何にしてもお礼は言っておきます。ありがとっス」
「うん、そうしときなー。若いもんは素直が一番だよ」
「先生だって若いでしょ」
「……年だけ若くても、捻くれたら老人と一緒でしょ」
「……?」
 言っている意味はわからなかったが、どこか意味深に聞こえる言葉。
 そしてそれを誤魔化すように、乃々ちゃん先生は「よっこいしょ」と立ち上がり、吸い殻を灰皿にねじ込んだ。
 その動きは、もはやおっさんである。
 けれども、それさえどこか艶めかしく感じてしまうのは、先生の見事なスタイルのせいか、タバコのにおいに紛れた甘い香水の香りのせいか。
「っ、あー……! 肩こるわ~」
「たまには揉みましょうか?」
「おいおいセクハラだぞ学生くん」
「違いますって。肩でしょ肩」
「おっぱいが重いから肩こるの。あー……、しんど」
「おっぱいって言っちゃってるし」
「さて……、それじゃ、そろそろ保健室に戻りますかー……」
「そうと決まれば、早く行きましょう。待ってる人がいるかもですから」
「んあ。ちょっと、袖引っ張んないでよ。伸びる伸びる」
 休憩は終わり。
 俺は先生を急かしつつ、保健室に戻るのだった。

 ──保健室に戻ると、そこには一人の女子が立っていた。同じ保健委員の先輩女子だ。
 彼女は手を腰に当て、〝怒っていますポーズ〟を取ると、乃々ちゃん先生に詰め寄った。
「先生やっと帰ってきた! もう、さっきまで指切った子が来たり、気分が悪いって子が来たりして、私ひとりで手当てしたんですからね?」
「あーあーあーあー、ごめんごめん。でも手当てしてくれたんなら、それでいいじゃん?」
「それじゃだめでしょ! 養護教諭なのに保健室にいない、タバコ臭いとか、どうなってるんですか!?」
「はいはい、やりますやります。仕事やりますよー」
 などと言いながら机に座って、のっしりと巨乳を机の上に乗せる。
 とんでもない質量だ。さぞ揉み甲斐のあることだろう。
 そんなくだらないことを考えている俺を余所に、乃々ちゃん先生は引き出しから何か書類を出して、ペンで何かを書き込み始めた。
 ようやく仕事に取りかかってくれる気になったのだろうか、俺と先輩は顔を見合わせ、ため息交じりに肩をすくめてみせるのだった。
 そして俺と先輩も、仕事を始める。
 今日は、保健室内の備品のチェックだ。コピー用紙やペンなどといったものから、絆創膏や包帯といった救急用品まで。大事な仕事だ。
 先生がこの調子なので、俺たちがしっかりしなければいけない。
「ねえ先生、そんなんじゃ彼氏いないでしょ」
 先輩が作業をしながら、ふと乃々ちゃん先生にそんなことを言う。
 先生は「はあ?」と、書類を書きながら返事をした。
「朝はお酒臭いし、放課後はタバコ吸いに行くし、机の上にコンビニの袋が散乱してるし、そういうのを教頭先生に怒られるし。この有様だと家でも同じ風にしてそうだし? なんかいなさそうだなーって」
「失礼な奴だなあ。……まあ、いないけどさ」
「やっぱり。でも先生、顔はいいのにどうして?」
「あんた失礼なことズバズバ聞いてくるなあ……。んあー……、まあ、なに、男なんてくだらないし」
「え?」
「別に男に好かれようとか考えてないし、どうでもいいっていうか……」
「はあ……、なるほど。え? もしかして先生、〝そっち〟の趣味ありとか?」
「違ーう。そういうんじゃないの。なんていうか……、恋愛とか恋人とか、怠いだけだし。彼氏とか作るのもさ」
 恋愛なんて怠い。
 そう口にした時、いつも怠そうにしている乃々ちゃん先生が、ひときわ怠そうで、そして、少し寂しそうに見えた。
 その寂しさの中に、奥の深そうな陰りすら見える。
 単純に何もかも面倒くさがりで、彼氏を作ることさえ怠いというだけ、ただそれだけのようにも思えるが、どこか引っ掛かる。
 などと考えていると、ふと乃々ちゃん先生の瞳が俺の方に向けられた。
 陰りと、しかしその中に空虚さも見え隠れする、瞳を。
「なあ厚木さ、あんたは彼女とかいんの?」
「俺っスか? あははは、いたけど別れちゃいました。なんか付き合う子みんな、相性悪くってすぐ別れちゃうんスよー。ほら俺、注文多いんで」
「なにそれ。変な性癖でもあるの?」
「いやいやいや、そういうんじゃないと思いますよ。たぶん」
「……そう。まあでも、すぐに別れるってのは問題かな。男と女は、時には妥協ってのも必要だし。ちょっとは大人にならないと」
「あはははは。そっスねー」
 妥協なんかで納得できるか。
 そんなことをしても、結局俺が幸せになれるとは限らないじゃないか。
 俺は、そうだ、俺を受け入れてくれるような女の子を探して、強いオス様に媚びるメスを探して、お互いがぴったりの性癖で幸せになりたいだけなんだ。
「厚木はしっかり者に見えて、変なとこちゃらんぽらんだからなー……。そういうとこが、女の子に忌避されてるのかもだけど」
「乃々ちゃん先生ほどじゃないと思います」
「うるさいなあ。……まあ、あんたみたいなのは、意外と姉さん女房みたいな大人の女の方が合うのかもね」
「姉さん女房。じゃあ先生、いっそ俺と付き合います?」
「はあ? 馬鹿言わない」
「あははは、冗談ですって。本気でなんて言ってないですよ」
「……あたしなんか相手にしてないで、ちゃんと真面目な彼女見つけな」
 視線を逸らして言う、乃々ちゃん先生。
 陰り以上に、俺の目を見ずに言ったことが、妙に気になった。
 俺へアドバイスしてくれているだけなのに、どうして目を合わせてくれないのだろう。ダウナーな人ではあるけども、普段話す時は必ず目を見てくれるのに。
「ねえねえ先生、ほんとに男が怠いなら、私が貰ってあげよっか?」
「ええ……。あたしより、あんたの方がそっちの趣味?」
「やだもー。冗談ですってー」
 先輩と乃々ちゃん先生の会話に、保健室内の空気が少しだけ明るくなる。
 そこへ、さらに空気を入れ換えるかのように、何者かが保健室に突入してきた。
「斧沢先生ぇっ! うち、うち……! 彼氏が中折れして困ってるんですっ!」
 扉を開けるや否や叫ぶ女子生徒に、部屋にいた全員が、俺も含めて、ブバっと吹き出す。
 いきなり入ってきて、いきなり何を言い出すのか。
 言った本人の表情はとても深刻そうで、真剣に悩んでいるであろうことはわかるのだが、開口一番に言う言葉ではないだろう。
「あははは……。悩みがあるのはわかるんだけどさ、いきなり入ってきてそんなこと言われても、俺らみんな困っちゃうでしょ。いやほんと、どしたん? 話聞こか?」
「こら厚木、なだめついでにナンパしてんじゃないの。……ほら、こっち来て座って。話くらい聞いてやるから。……それと厚木、あんたはちょい席外して」
「はいはい、センシティブなお話の間、俺は石けんの補充にでも回ってきますよ」
 そう言って、保健室を出る俺。
 去り際、来訪した女子の話を優しげな表情で聞く、乃々ちゃん先生。そこに、先ほどまでの陰りはなかった。
 そんな姿に、俺は思わず、ほっと安堵するのだった。

 ──保健委員の仕事も終わり、帰る頃になると、雨が降り始めていた。
 梅雨が近いせいではあるのだろうが、俺が帰る時を狙って降らなくてもいいだろうに。
「やだな。早く帰るか」
 俺は小雨の中、小走りに家路を急ぐ。
 そして、こんな時は近道だと、近くの公園の中を横断しようとした時だった。
「ねえそこの学生さん、美味しい〝飴〟はいかが?」
 俺は、一人の女に声をかけられた。
 パンツルックのスーツを着込み、口に電子タバコを咥えた、ショートヘアで長身の女性。
 その手に可愛らしいブルーの水玉の傘を持ち、奇妙にも雨の中でひとり佇んでいる。
 俺は、普段なら無視するところを、何故か無視できなかった。
 雨に濡れるのも構わず足を止めて、スーツの女へと歩み寄る。すると彼女はスっと傘を差し出して、俺を中に入れてくれた。
「学生さん、いい趣味してるわね」
「え?」
「女を跪かせて、見下ろしながらフェラさせたいんでしょう? 絶対的な王様のように、自分に媚びを売って腰を振る、犬のようなメスを跪かせフェラさせたい。……いいじゃない、強いオスはそうでなくちゃ」
「な……っ!?」
「なんでわかるのか、って? わかるのよ。私にはね」
 笑みを向ける、スーツの女。
 彼女の顔に浮かんだそれに、半ば恐怖さえ覚えた。全身に鳥肌が立ち、頭の中ではアラート、警報音がうるさく鳴っている。
 だが、俺は動けなかった。
 恐怖に足がすくんだわけではない。心が、身体が、おそらくは別の理由で、動くなと俺に命令しているのだ。
 その理由が、俺にはわかる。
 この女は見抜いた。
 誰にも、別れた元彼女たちにさえ話していない、俺の秘められた欲望であり、願望を。
 それを、ましてや初対面である俺の心を、いったいどうやったのかはわからないが、一瞬で見抜いたのだ。
 恐怖しながらも、俺はその中に、光を見つけた気がした。
「この飴玉はね、〝マッチングキャンディ〟っていうの」
 俺の恐怖も動揺も、まるで気にしていないとでもいった風に、女は小袋を取り出した。
 個包装された黄色い飴玉が三個、透明なビニールの袋に、無造作に入れられている。
 飴だと言われなければ、一見、ヤバい薬のようにも見えた。
「マッチングキャンディは、なんと〝運命をマッチングしてくれる〟素晴らしい飴なの」
「運命をマッチング……? なんなんスか、それ」
「そんなに難しい話じゃないわ。この飴を食べるとね、〝あなたと性癖がぴったりの人間〟と運命が繋がるってだけ」
「性……、癖……っ!?」
「興味が出てきたでしょ? 相手は遠くにいるかもしれない、身近にいるかもしれない。でもそんなの関係ないわ、この飴を食べれば、あなたは〝あなたの前に跪くフェラ好きのメス〟と運命が繋がるの」
「そんな、いや、まさか……!」
「苦労してきたのよね。性癖が合わない女の子と何人も付き合って、何人も別れて、その度に性癖が合わないことを悲しんだ……。でも、それももう終わりよ。これからは性癖ぴったりの相手を手に入れて、好きなように楽しんでちょうだい。……マッチングキャンディは、三個セットで税込百八円。どう? 学生さん」
 馬鹿じゃないのか。
 何の子供だましだよ。
 小説や映画じゃあるまいし、そんな都合のいい話があるわけない。
 最近よくある、ヤバいバイトに引っ張る餌とか、そういうのに違いない。
 そんな言葉が頭の中に浮かびつつも、しかし俺はすぐに、財布の中にちょうど残っていた百八円を差し出した。
 何の躊躇いも、迷いもなく。
「……これでいいっスか?」
「毎度ありがとうね。学生さん」
 飴を受け取ったあとも、俺は後悔をしなかった。
 そして、恐ろしい事件に巻き込まれるというような、危惧すらもしていない。
 俺の心を見抜いた、その超常的な恐ろしさ。寒気と怖気をもよおす力を、逆に俺は信用したのだ。
「キャンディの効果は、一個で二十四時間よ。効果の重ね掛けはできない。食べたら効果時間中、自分の性癖ぴったりの相手と〝運命マッチング〟しやすくなるわ。個人差はあるけど、即効性よ。ただ、それがどんな形で表れるかはわからないから、注意して見ておいて」
「わかりました。……とりま、食べてみろってことっスね」
「そういうこと。ああ……それとね、便利なことに、キャンディの効果時間中は他の運命も弾いてくれるの」
「他の運命……? って、なんスか?」
「マッチングキャンディを渡しているのは、あなただけじゃない。せっかくマッチングした相手が、他の誰かに奪われてしまうこともあるのよ。でも食べ続けておけば大丈夫、一度繋がった赤い糸はずっと繋げておけるって寸法よ」
「なるほど……。一度相手を見つけたら、食べ続ければいいのか……」
「追加が必要ならまたここに来てね。値段は同じよ」
「はい……。……ってか、どうして俺にこんなことを? なんで俺に声をかけたんスか?」
「難しい話じゃないわ、これは当社の方針なの」
「当社?」
「聞いたことない? SDGs。持続可能な社会、ってのに貢献しているわけ。……持続可能な社会を実現するためには、まず人間が繁栄、〝繁殖〟していかないとね」
 そう言って、女は名刺を渡してきた。
 名刺には、俺もよく買う某有名お菓子企業の名前と、『SDGs営業チーム』という文字が書かれていた。
「浅山《あさやま》よ。どうか今後もご贔屓にね」
「……よろしくお願いしまっス」
 一礼する彼女に合わせて、俺も頭を下げる。
 しかし顔を上げた時には、その姿は消えていた。周囲を見渡しても、どこにも姿が見えない。
 今のは夢? 幻?
 いや、違う。俺の手の中には、飴玉があった。
「……マッチングキャンディ……か」
 雨の勢いが強まる中、俺はしばらく公園の中で立ち尽くしていた。
 その飴玉の入った袋を、じっと見つめながら──
第1話:ドスケベなギャル



 ──翌朝。自室。
 登校前の準備をしながら、俺は机の上に置かれた飴玉を見る。
 昨日、あのスーツ姿の営業、浅山という人から買った、マッチングキャンディだ。まだ三個とも、袋から出さずにいた。
 どうせなら一番活動時間の長い、昼間を狙って食べようと思ったのだ。
「さて……、吉と出るか凶と出るか。ま、今までが碌なもんじゃなかったから、そこから脱出でもできれば御の字なんだけどな」
 俺は袋を開けて、個包装された飴を一個取り出す。
 ぽいっと口に投げ入れると、レモンの味がした。あのメーカーから出ている他のレモン飴と、同じ味がした。
 本当に効くのだろうか。
 口の中でコロコロと飴を転がしながら、俺は鞄を手に取り、家を出た。何はともあれ、遅刻する前に学校へ行かなければ。
 ──学校、教室へ着くと同時に予鈴が鳴った。
 意外とギリギリだったらしい、間に合って良かった。
 ただ、本鈴が鳴ってもしばらく乃々ちゃん先生はやって来なかったので、遅れたところで問題はなかったようだが。
「んあー……、ごめんごめん、遅れちゃったわー……。キミタチ元気しとるかね。それじゃ、ホームルームを始めるよー……」
「ちょっと先生、先生が遅刻しちゃだめでしょ」
「あー……、まあ、ギリセーフでしょ。それより今日もプリントがあるから、各自ちゃんと見ておくようにねー……」
「中身を説明してくださいよ」
「こんなの見りゃわかるじゃん。大したこと書いてないし、読めばすぐに理解できるからさー……。てか二日酔いで頭痛いんだよね、そういうわけでホームルームこれで終わりねー……」
 クラス委員長の真っ当なツッコミに、相変わらずの適当さを見せつける乃々ちゃん先生。俺は苦笑するばかりだ。
 わかってはいたことだが、今日も一日、あのやる気のないダウナー加減に付き合わされることになりそうだった。
「はあ……、俺たちの瑞江田先生、早く帰ってこないかな……」
 隣の友人が嘆くように呟くが、それに同調するように、クラス中からため息が聞こえてきた。
 保健委員の俺が普段どれだけ苦労しているか、これで少しはわかってもらえただろう。

 ──放課後。
 夕方のホームルームも適当に終わり、俺はいつものように保健室へと向かう。
 すると、いつものように保健室には乃々ちゃん先生の姿はなく、いつものように机の上にはコンビニの袋や競馬新聞などが散らばっていた。
 しかも机の上には、『大事なレースがあるからちょっと行ってくる』と、保健委員に宛てた書き置きがあった。
「あははは。あの人、また競馬に行ったのかよ。しかもホームルーム終わってすぐ。ほんっと、乃々ちゃん先生は乃々ちゃん先生だよなあ」
 笑いごとではないが、もはや笑うしかない。
 俺は、まるで先生のお母さんのように、「仕方ないなあ」と机のゴミを片付け、ウェットティッシュで拭くのだった。
「他の先生が訪ねてきたら、どうやって誤魔化すかな……。お腹が痛いとかでトイレに行ってる……、とでも言っておくか」
 そんな、先生のための言い訳を考えているところで、保健室の扉がノックされた。
 俺が「どうぞ」と言うと扉が開き、ひとりの男子生徒が入ってきた。確か、俺の隣のクラスの男子だったはずだ。
 記憶間違いでなければ、確かこいつは──
「お。良かった、厚木だけか」
「うん。俺だけ。どうかした? 怪我か?」
「いや……その、実はさ、今日このあとデートなんだけど、〝アレ〟も金も忘れちゃって……」
「あははは。そっか、〝アレ〟か。そりゃしょうがないよな」
 やっぱりそうだ。
 俺は近くの戸棚の中から、小さめの段ボールを取り出す。その中に詰められているのは、いくつものコンドームだった。
 俺は既に開けられている箱の中からコンドームを一個取り出し、彼に渡した。
「ほら。次はこういうことのないように、ちゃんと用意しとけよ? 前も都合してやっただろ。減りが激しいと先生に気付かれて、俺もお前も怒られるからさ」
「わ、わかった。悪いな、恩に着るよ」
「いいってことよ」
「いや……しかし厚木、噂には聞いてたけど、ほんとにおかんみたいに面倒見がいいよな」
「おかんじゃねーって!」
 おかんは余計だが、健全で安全な性行為、これも保健委員の大事な仕事だ。
 もちろん、公に学校側が推奨しているわけじゃない。
 たまに乃々ちゃん先生が、申し訳なさそうに相談しにくる女子にコンドームを渡しているのを見たことがあるから、それを真似しているだけなのだ。
 どうしてもすぐに欲しいけどお金もない、しかし乃々ちゃん先生には相談しにくい男子が、たまにこうやって俺を頼ってくるというわけである。
 本来は教材として授業で配布される物なので、怪しい品ではない。
 しかしそこは一応は備品。個数管理は俺がしている上に、先生が勝手に渡したりしているお蔭で、なんとか誤魔化すことはできている。
 けれど、さすがに何度もともなると、そうはいかなくなってしまうから、釘は刺しておかなければいけない。
 俺のコンドームを個人的に渡してもいいのだが、おそらく〝サイズが違いすぎる〟ので、役には立たないだろう。
「痛たたたた……。あの、部活で怪我をしちゃって、手当てをしてもらいたいんですけど……」
 と、そんな時、ユニフォーム姿の陸上部員の女子が現れた。
 どうやら転んで肘を擦りむいたらしい、傷ができて血が流れている。
 まったく、乃々ちゃん先生がいない時に限って忙しいな。
「はいはい、保健委員に任せてくれ。ほら、そこの男子は用事が終わったら、帰った帰った」
 コンドームを渡した男子をシッシッと追い払い、女子を保健室に招き入れる。
 ひとまず近くの椅子に座らせて、消毒用の薬剤とガーゼや絆創膏を探し始めた。
「あの……、斧沢先生は……?」
「ああ、なんか……ちょっと〝私用〟で出かけてるみたいでさ。あははは。用事があるんなら昼間にでも終わらせとけばいいのに、部活が始まる放課後にいなくなるとか、なんていうか適当な先生だよなあ」
「ふふ……、そうかも。先生の机の上、飲みかけのラテが置いてあるし。これ、裏のコンビニの奴だよね?」
「げっ。片付け忘れてたか」
「大変ね」
「ほんとだよ」
 乾いた笑いを発しながら、俺は手当てを始める。
 幸いにも傷は深くない、土を払って消毒すれば大丈夫だろう。
 ただ、擦りむいた範囲が広くて絆創膏ではカバーしきれない。見栄えは悪いかもだが、軽く包帯を巻いておくとしよう。
「ほい、ほい、ほいっと。それじゃ包帯巻くから、腕を上げててくれ」
「ありがとう。さすが保健委員、手慣れてる」
「いやあ、乃々ちゃん先生が頼りないから、自然としっかりしちまうっていうか。まったくしょうがねーよな」
「でも先生、身体のこととか、恋の悩みとか、親身になって話を聞いてくれるから、信頼してる生徒は多いわよ」
「知ってる。まあそれはそれとして、普段の素行はどうなんだって感じでさ」
「それは確かに」
「まあ、彼氏もいないみたいだし? 男でもできれば、もっとちゃんとするんだろうけど」
「……そういえば、彼氏の話とか聞かないわね」
「ああ。自分でいないって言ってた。……ここだけの話だけど、男とか怠いとか言っててさ」
「えー。あんなに美人でスタイルいいのに? みんな憧れてるんだよ、綺麗だって」
「な。変な話だよな」
「でも噂だと、昔どっかのいいとこの彼氏がいたみたいよ」
「いいとこの彼氏? ……うーん、お金持ちとか、そういう?」
「そうそう。だから男に興味がないってわけじゃないと思うんだけど……。……何かあったのかしらね?」
「ふうん……」
 普段なら聞き流す、ごくありふれた女子の噂話。
 だが、それが先生に関することだからなのか、妙に俺の印象に残った。
 ──その女子の手当てを終えたあとも、ひっきりなしに怪我人が訪れた。
 どうしてこういう時に限って、先生はもちろん、他の保健委員も来ないんだか。
 ようやく人が途絶えたと思った頃には、既に保健室には、オレンジ色の夕日が差し込んでいた。
「なんだよ、もうこんな時間かよ。疲れたー……」
 椅子に座ったまま、うーんと伸びをする。
 時計は、午後五時を指していた。
 ここに至ってもなお、乃々ちゃん先生は帰ってくる気配すらない。全てを投げ出して俺も帰りたいところだが、また誰か怪我人が来たらと思うと、そうもいかない。
 俺の性分なのだろうな。おかんなんて言われるわけだ。
 仕方がないので、適当にSNSでも覗いて暇潰しをすることにした。
 しばらくこうしていれば、そのうち先生も帰ってくるか、もしくは退校時刻が来て自動的に帰ることになるだろう。
 どうせ彼女とは別れたし、家に帰ってもさしてすることもないし。
「……にしても、ここまで時間が経ったのに、マッチングキャンディとやらの効果、まるで感じられないな。個人差はあるとか言ってたけど、即効性じゃないのかよ」
 クラスの女子が誰か声をかけてくるわけでもなければ、見知らぬ女の子とのラッキースケベがあったわけでもない。
 先ほどの怪我をした女子と話し込んだりもしたが、それ以上何かが起こるわけでもない。
 まあ、もし俺の相手にとマッチングされた相手が、物理的な遠方にいるというのであれば、この状態も仕方ないのかもしれないが。
「まあ、慌ててもしょうがないか。どうせ、あんまり期待もしてなかったわけだし」
 などと言いながら、SNSのタイムラインを更新した時だった。
 不意に、〝流出〟とだけ書かれた動画が流れてきた。
 よくあるエロアカウントなのだろうか、インターネットに溢れている裏動画らしきものを引っ張ってきて、アップしているアカウントのようだ。
 普段ならそんなもの、無視して他の投稿や記事を読むところだ。
 けれど俺は、妙にムラムラとしているのか、それとも忙しく働かされたストレスからか、その動画の再生ボタンを押してしまう。
 まあ、たまにはこういうのを見るのもいいだろう。
 どうせ保健室には誰もいないのだ。
『お゛っほ♡ ち×ぽ♡ ち×ぽ好き♡』
 動画を再生すると、それは若い男とギャルが絡み合う動画だった。
 美人でモデル体型、驚くほどの長乳をこれでもかと揺らすギャルだ。
 ギャルは、楽しそうに腰をヘコヘコ振りながら男にチン媚びし、喉奥までペニスを飲み込んで、えずくほどの長いストロークでフェラをしている。
『ぢゅるるるる……♡ ち×ぽしゃぶるの好きぃ……♡ 我慢汁も好き♡ もっと欲しい、いっぱい欲しいっ♡』
『はは。マジでエロい女。さすがに引くわ』
『んん……♡ ち×ぽ♡ ち×ぽぉ♡ フェラ好き♡ れろれろれろれろれろれろ♡ ち×ぽ舐める♡ 竿も亀頭も玉も舐める♡ ぢゅるるるるるるるっ♡ ち×ぽち×ぽ♡ フェラもっとしたい♡ もっと舐める♡ ぢゅるぅ……っ♡ ぢゅぽっ♡ ぢゅぽっ♡ ぢゅぽおぉ……っ♡ ぢゅろおおおおぉぉ……♡』
 画面の向こうで若い女が、男の腰に両腕を回してしがみつき、ペニスを亀頭から根元までじっくりと、味わうようにフェラをしている。
 いつまでもペニスから離れず、我慢汁を啜りながら、もっと舐めたいとおねだりする。そして、物欲しそうに腰を振って愛液を撒き散らしながら、口内射精を受け止める。
 口に溜めた精液をぐちゅぐちゅと撹拌し、ごくんと美味しそうに飲み込んだ。
『あへぁ……♡ 精液、濃ぉ……♡ ねぢゃ……ぁ♡ 濃いの、口に絡み付いて取れない♡ んへぁ……♡ ねえ欲しい♡ もっとち×ぽ欲しい♡ おま×こ、おま×こに入れてぇ……♡』
『クッソ変態女、ほら腰を突き出せ。犯してやるよ』
『んひっ♡ ち×ぽ♡ おま×こにきた♡ きたあぁ……っ♡ お゛っ♡ お゛ほぉっ♡ お゛んんんっっ♡♡』
『まるで尻尾ぶんぶん振るメス犬だな、どんだけ腰をヘコヘコ振ってんだよ。ほらドスケベ犬がよ、お前が腰振れ』
『お゛んっ♡ お゛んんんっ♡ 腰振るっ♡ いっぱい腰振っておねだりっ♡ お゛っ♡ お゛お゛お゛んんっっ♡♡』
 腰をヘコヘコ振りながら、いっぱい出してくれたオス様に媚びて、交尾おねだり。
 挿入された瞬間に潮吹きし、気持ち良さそうなオホ声を上げて、そのまま激しいセックスへと突入する。
「なん、だ。これ……」
 ほんの数分の短い動画のようだが、それは衝撃の内容だった。
 まるで俺の欲望と願望を煮詰めたような光景が、そこで繰り広げられていたからだ。
 俺のペニスに一気に血が流れ込み、今までにないくらいに勃起する。何もしていないのに竿は気持ち良さそうに跳ね、先端からは我慢汁が溢れ出た。
 女ではない、まさにメスだった。オスに媚びることがなにより好きなメス犬が、美味しそうにフェラをして交尾する姿。
 そうだ、これだ。俺はこんな女が欲しかったんだ。
 女の子じゃない、女、メスが、俺の前にこんな風に跪いて媚びるメスが欲しい。そんなメスに喉奥までペニスを突っ込んで、美味しそうにフェラする姿を上から眺めたい。
「でも……、なんだ? このギャル、どこかで見たことが……」
 見覚えのある顔。聞き覚えのある声。
 金髪ロングで、化粧もアクセもギンギンにキメたギャル。会ったことなどないはずなのに、どこかで見たことがある。
 アダルトビデオ? 以前にもこの動画を見たことがある? いや、わからない。
 だがその時、動画の最後、本当に最後の最後で、聞き覚えのある言葉が飛び出した。
『あー……、うんま……♡』
 セックスを終えたあとだろうか、ベッドに寝転がって気怠げに寝転び、顔射された精液を舌で味わっている場面。
 ギャルから出てきた言葉に、口調に、声色に、俺は明確な聞き覚えがあった。
「の……、乃々ちゃん先生が、タバコ吸ってる時に言う、口癖……?」
 いつも裏のコンビニでタバコを吸いながら、幸せそうに言う言葉だった。
 そこに気付いた途端、今と化粧の感じや髪色は違うものの、そのギャルの顔も声も、乃々ちゃん先生と酷く似ていることに気付いた。
 そうだ、これは──
「このギャル……、乃々ちゃん先生、なのか? の、乃々ちゃん先生が、こんな、メス……っ。ドMで、オスに媚びる、メスに……!」
「めっちゃ負けたあぁ! なんで一番人気と二番人気が揃って崩れてるんだよもおおぉ!」
 俺が呟いた瞬間、急に開け放たれた保健室の扉。
 外れ馬券であろう物体を握りしめた乃々ちゃん先生が、唐突に帰ってきたのだ。
 俺は突然のことと、そして見ていた動画のこともあり、心臓が口から飛び出るほどに驚いてしまった。
「んあ? ……なんだ厚木じゃん、あんたまだ残ってたの」
「せっ、せっ、先生っ……!?」
「どうしたー? なんか顔が青……いや、赤い? いや青い? なに、なんか信号機みたいなんだけど。気分でも悪いの?」
「な、な、なんでもないっス! あ、ああ、俺これから用事があるんで、失礼しますっ!」
「あ、ちょっと」
 俺はすぐにスマホを閉じて、そのまま保健室を逃げるように出た。
 背中から「なんなのいったい……」という先生の声が聞こえてきたが、今はそれどころではない。
 そうだ、俺の方こそ、なんなのいったい、だ──

 ──家に帰るなり自室に飛び込み、鍵をかける。
 俺は服を着替えることも忘れ、再びスマホを開いて、先ほどの動画を見た。
 何度見てもどう見ても、そのギャルは乃々ちゃん先生にしか見えない。
 かなり前の動画なのか、容姿はもちろん、顔つき自体も若い気がする。この姿、若さからすると、先生の学生時代の動画なのだろうか。
 メイクも髪型も髪色も今とは全然違うが、毎日のように接している俺だからこそ、見れば見るほどそれが先生であると思える。
 そしてそのアカウントを掘り返すと、同じギャルの動画がいくつか出てきた。
 やはりどれも短い動画だったが、美味しそうにペニスを咥えては、セックスをしている。これを撮ってセックスしている男は当時の彼氏だろうか、それともセフレだろうか。
 それにしても、どうしてこんな動画が、何年も経った今になって流出動画として流れてきたのか。
 なによりもまず、それが一番気になるところだ。
「あれ、待てよ。まさか……」
 そこで俺は、〝あること〟に気付く。
 何故こんな、まるで俺の願望をそのまま具現化したような動画が、敢えて今こうして流出し、俺のタイムラインに流れてきたのか。
 これはもしかして、飴の、マッチングキャンディの効果ではないだろうか。
 マッチングキャンディが、実はこんな身近に好みのメスがいるんだぞと俺に教えるために、このような動画を見せてきたのではないだろうか。
 飴が自分と先生を繋げたのか。
 自分と相性ぴったりのメスは、こんな近くにいたのか。
「……っは、はは。あはははっ……!」
 自然に口から笑みが漏れる。
 ズボンの中であるのにもかかわらず、勃起したペニスが嬉しそうに、ぶるんっと跳ねた。
 焦がれ続けた理想の女、いやメスが、こんな近くにいただなんて。
 性格はともかく、顔とスタイルはいい年上の養護教諭を、あんなに美味しそうにフェラをする性癖ぴったりのメスを、自分のペニスの前に跪かせ、喉奥まで突いてしゃぶらせてやりたい。
 そうだ、もし先生がこんな風にオスに媚びるメスであるのなら、俺が飼って一生ペニスの前に跪かせてやればいいじゃないか。
 こんなメス、好きにならないわけがない。最高に俺好みだ。
 そんな衝動と欲望が、我慢汁と一緒に溢れ出た。
 何人も無駄に恋人を作って、その度に失望をしてきた虚しい行為も、これで終わるんだ。
 だが──
「……声も、容姿も、口癖も似てる。でも本当に、本当にこれは先生なのか……?」
 動画のギャルは、今のダウナーな先生からは想像もできないほど、ドスケベで明るい。
 明るさがメイクや髪の色、表情にも出ていると言えばいいのだろうか。
 だからこそ今の先生と比べて、全くの別人ですと言われたら、それはそれで納得できてしまうような危うさがある。
 いくら顔と口癖が似ていても、男の影など見えもせず、男なんて怠いと言う乃々ちゃん先生が、動画のギャルと同一人物であるとは到底思えなかった。
 もしこのギャルが先生だとしたら、今の先生にその片鱗さえ見えないのはおかしい。
 そうだ、要はつまり、同一人物であるという証拠がないのだ。
 確かめる必要がある。
 飴の力がそうさせてくれたのだとしても、狙いをつけて自分のものにする前に、俺はあれが先生本人なのか確認しなければいけない。
「……調べてみるか」

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