目を覚ました俺の前には、おっぱいを揺らして顔を近づけてくる美少女が!
記憶喪失になっていた俺は、たった一瞬で彼女に一目惚れしてしまった。
柔らかい垂れ目でボブカットの、誰にでも優しい学年一の美少女・鳴橋菜々果。
友人曰く、なぜか〝俺とだけ〟は仲が悪かったらしいけど、彼女とある約束が……
「今すぐ赤ちゃん作っちゃおうっていう約束。本当に覚えてないの……?」
実は恋人関係だった菜々果との、思い出を取り戻すイチャラブ生ハメ生活が始まった!
Webで大人気の記憶喪失ラブコメ、3万字オーバーの書き下ろしも大収録!
プロローグ 俺は記憶喪失
第1話 初めてのやり直し
第2話 好かれすぎでは?
第3話 デートのやり直し
第4話 年上の友達
第5話 彼氏と彼女
第6話 最後のピースと一目惚れ
最終話 幸せな未来
番外編 夏のお祭り、盆踊り!・前編
番外編 夏のお祭り、盆踊り!・後編
本編の一部を立読み
プロローグ 俺は記憶喪失
──頭が痛い。
遠くからセミの声が聞こえる。
目を覚ますが、視界がぼやける。
俺はベッドで寝ていたらしい。
刺すような頭痛に目を細めながら、少しずつ身体を動かす。
「なんだ……?」
ゆっくりと、上半身だけ起き上がる。
額に濡れタオルが置かれていたらしく、ぼとっとシーツの上に落ちる。
周囲を見渡すと、俺の寝ていたベッドの他にもベッドがいくつか並んでいた。
その奥には机と、薬品類が入った棚が置かれている。
ああ、どうやらここは、学校の保健室らしい。
保健室の中には誰もいない、俺ひとりだ。
なんとなく、異様な違和感を感じながらベッドを下りる。
近くの壁に鏡が取り付けられていて、そこに学生服を着た男子生徒が映った。
俺の姿か。
俺の姿?
「う……、あっ……!?」
途端、ぐらぐらと視界が歪む。
揺れる視界に目を回し、俺は再びベッドに倒れ込んでしまった。
少し吐き気のようなものもするが、手で押さえて無理矢理飲み込む。
俺はなんとか身体を起こして、ベッドの縁に腰掛けた。
すると───
「あっ、|岸見《きしみ》くん。よかった~、目が覚めたんだ」
不意に保健室の扉を開けて入ってきた、ひとりの女の子。
彼女は身を屈めて、覗き込むように俺の顔を見た。
俺よりも背が低く、へにゃっとしたタレ目と眉。綺麗な、どちらかというと赤に近い感じの茶髪、ふわっとした感じのボブカット。
アクセサリーのような物は見えない。飾りっ気の無い雰囲気だからか、透き通るような瞳が、余計に綺麗に見えた。
そして、柔らかく耳をくすぐる声。
温かい空気感と、イチゴに近い感じの甘いにおいが漂う。彼女の香水だろうか。
そして何より、おっぱいが大きい。うおっ、でっか。
白いブラウスに包まれた胸が、身を屈めているせいでずっしりと垂れ下がり、重たげにだぷんっと揺れている。
重量感、質量が段違いだ。
今にも弾け飛びそうな、悲鳴を上げるブラウスのボタンとボタンの隙間から、空色のブラがチラ見えする。彼女に似合っていて可愛らしい。
俺は、なるたけそこに目を向けないように、彼女の顔を見つめる。
とても可愛い、笑顔の可愛い、女の子だった。
「購買に行って、スポドリ買ってきたんだ~。喉渇いてない?」
「喉……? ああ……、そういえば……」
「じゃあはい、どうぞ」
「ありがとう……」
彼女からスポーツドリンクを受け取り、ごくんと飲む。
冷たい液体が喉を潤し、少しだけ気分をすっきりさせてくれた。
「それより大丈夫?」
「え? 何が……?」
「〝頭〟だよ。岸見くん、教室で盛大に転んじゃって、机と床に、思いっきり頭を打ち付けたの。だから急いで保健室連れてきたんだけど……。平気そう? 気分悪くない? だいじょぶ?」
「ん……、あ、ああ。ちょっと、頭……痛い」
「そっか。じゃあまだ寝てなよ」
ふんわりと微笑み、俺の身体に手を添えて寝かせてくれた。
身体に感じる冷房の涼しさと、寝転んだベッドの心地よさに、俺はふー……っと深く息を吐く。
するとその子は、俺の額にそっと手を当ててくれた。
俺は自分でも知らないうちに、頬を熱くしていた。
まるで、〝一目惚れ〟でもしたみたいに。
「もう少ししたら保健の先生が戻ってくるから、改めて診てもらおうね」
「うん……、そうする。……ていうか」
「うん? どうかした? もうちょいスポドリ飲む?」
「いや、違くて……。……君、誰?」
「え……っ」
「岸見……って、誰? 俺?」
「えと、悪ふざけやめて? 笑えないって」
「いや、マジで……。……俺、誰? 俺は……」
「っ……!? せ、先生! 先生大変!」
女の子は顔を真っ青にして、慌てて保健室から出て行った。
俺はひとり残った保健室で、頭痛を感じながら呟く。
「……何も……思い出せない……。頭……、痛い……」
俺の感じた、異様な違和感。
それは、記憶、だった。
───俺はすぐに救急車に乗せられ、病院へと運ばれた。
救急車は、なんとなく、乗るのは初めてのような気がした。
病院に着くと、俺はすぐにでっかい機械の中をくぐらされ、頭の中を輪切りにするような写真を何枚も撮影された。
その間に両親と思しきふたりが現れて、俺を見て悲しそうな顔をしていた。
目の前で、お前は|幸紀《こうき》、|岸見幸紀《きしみこうき》だと名前を呼ばれ、大丈夫なのかと声をかけられても、俺は戸惑うばかりだった。
医師の診断の結果、頭部強打による一時的な記憶喪失ということだった。
内出血も無く、外傷もたんこぶ以外は見えないので入院の必要も無く、ひとまず普通に生活をして、様子を見ようということになった。
その日、見慣れているはずなのに見慣れない家族と、家と、自分の部屋で、俺は苦笑ばかりを浮かべていた。
ひとまず部屋で、身の回りの物だけはチェックをしておいた。
診察券、財布、教科書とノート、えっちな本や漫画のある場所も、なんとか把握した。
近くのコンビニの給与明細まであったが、これも記憶は無い。バイトでもしてたのだろうか。
一番面倒でわけがわからなかったのは、鏡で見た自分の髪。厄介なくせっ毛を、整髪料でなんとかキメる方法だった。
───翌日。
二年Bクラス、自分の教室に入った時、クラスメイトは一斉に俺の周りに群がった。
「おい岸見、お前記憶喪失ってマジか?」
「僕のこと覚えてる?」
「ねーえー岸見くん、ほんとに覚えてないの?」
「今日髪型ちょい変じゃない?」
「岸見くんあたしお金貸してたんだけど!」
「ちょっとやめなよこんな時に」
朝から男女入り乱れての大騒ぎだ。
みんな、どれを覚えているのか、何を覚えていないのか、あれこれと聞いてきた。
俺は正直に、基本的な生活や仕組み、ルールは覚えているが、身近な人間の関係性やそこに関わる記憶がすっぽ抜けている、と話した。
スマホやテレビ、芸能人や有名人、機械や道具、なんというか、そういった世の中の大枠の部分はしっかりと覚えている。
しかし、自分のパーソナルスペースとその近くにいた人達、そう、主に近しい人間関係を何も覚えていない。
クラスメイトの名前も顔も、担任の名前と顔もわからない。
学校や教室の配置、学年は覚えていても、自分のクラスがどこかわからない。そんな感じだった。
「まあしばらくは面倒見てやるから、安心しろよ」
不意に、茶髪の男子が、ぽんっと俺の肩を叩いてそう言った。
彼は、ちょっとだけ寂しそうな笑顔を浮かべている。
「その様子じゃ俺のことも覚えてないだろ」
「えっと……?」
「|東山《とうやま》だ。お前の友達やってた。……ま、わかんないこともまだ出てくるだろうし、気兼ねせずに俺を頼ってくれ」
「あ、ああ……、ありがとう。助かるよ、東山……くん」
「はは、東山でいいよ。くんなんて、今さら気持ち悪いわ」
よかった、彼……東山は、いい奴らしい。
なるべく自分のことは自分で解決したかったけど、困った時は遠慮無く頼るとしよう。
俺は東山に教えてもらった、俺の席と思しき場所に腰掛ける。
何故か、どこかしっくりくるような感覚。なるほど、慣れ親しんだ机ってわけだ。
「……おはよ」
その時だった。
不意に、俺の右隣の席に女子が腰掛け、声をかけてきた。
そこには昨日保健室で一緒にいてくれた、あの美少女がいた。
この子、隣の席だったのか。
彼女は何故か、昨日とは違って、むすっとした表情で正面を向いている。俺の方なんて、見向きもしない。
昨日とは明らかに違う態度に、俺は一瞬、挨拶を返すのを躊躇う。
「あ、お、おは……」
それでもなんとか、おどおどとした風に俺が口を開いた、その時───
「|菜々果《ななか》、おっはー」
「お~、のっちゃん。おっは~」
そんな俺の言葉は、彼女の友達と思しき女子の登場によって阻まれた。
俺はその間に割って入ることも出来ず、出しかけた言葉を飲み込んでしまう。
仕方ない、挨拶は諦めよう。
しかしそれにしても、彼女が隣の席だなんて、なんてラッキーなんだ。
あの時、保健室のベッドに寝ている俺を見下ろす、彼女の顔。
優しげで、可愛くて、本当に一目惚れでもしてしまったかのような感覚だったのを覚えている。
菜々果、っていったっけ。
彼氏はいるのかな。
いや、いるかもしれない。
でももし、いなかったら───
「……気を付けろよ」
「う、わっ!? な、何……!?」
急に東山が俺と肩を組み、耳にそっと囁いてきた。
男のASMRは、背筋に寒気が走る。
「|鳴橋菜々果《なるはしななか》、学年一の美少女で、カースト上位。誰にでも優しくて、明るくて、飾りっ気もなくて、その辺のチャラいギャルとも違って純粋な雰囲気マシマシなのにおっぱいでっかくて、まさに男子の憧れの的……!」
「東山、熱の入りようが凄いな」
「入れ込んでいるので」
「そか」
「……なんだけど、なんか〝お前とだけ〟は仲が悪いんだよ」
「え? 俺とだけ? ……仲が悪い?」
「鳴橋ってさ、いつもお前につっかかってくるし、何度か口喧嘩もしてた。あー……、いつだったかお前、謎の怪我もしてたな」
「怪我……!?」
「まあ、あれが鳴橋のせいかどうかはわからんがな。……いずれにしてもだ、お前さ、着替え覗いたりとか、エッチッチなことしたんじゃないのか? そうでもないと、お前だけあんなに嫌われてる説明がつかん」
「ええ!? そんなことするわけな……い、と思う……、けど」
「まあ記憶無いもんな、確かめようもないか」
「うん……」
「なんでもいいけど、とにかくお前は記憶が戻るまでは、鳴橋に不用意に近づくなよ? どうなっても知らんぞ」
「ええ……」
「昨日保健室に付き添ってたのだって、ただ保健委員ってだけだろうからな。まあ触らぬ神に祟りなしってさ。……仲直りするにしても、記憶が戻るか、色々事情を知ってからの方が得策だと思うがね」
「う、うん……、そうだな。わかった」
急に明かされた新事実に、俺は混乱する。いったい彼女との間に、何があったというのだろうか。
でももし、東山の言うことが本当だとしたら、昨日のあれは何だったのだろう。
俺を見下ろす鳴橋さんの表情は、とてもそんな間柄の相手が向けるものではなかった。
優しい瞳と、優しい言葉。
いや、もしかしたら、単に怪我した俺を気遣っていただけなのかもしれない。普段はいがみ合っているけど、怪我をした時くらいはって。
だってほら、今も鳴橋さんは俺を見もしないし。
記憶を失う前の俺、お前はいったい鳴橋さんに何をしたんだ。
どうして俺だけ嫌われているんだ。
本当に着替えを覗き見たりしたのか。もしかして、転んだ拍子にあのおっぱいを掴んだりしたのか。
どうなんだ、記憶を失う前の俺。
その時、一瞬、鳴橋さんがこちらを見た。
すると汚い物でも見たかのように眉を顰め、彼女はすぐに視線を逸らしたのだった。
───放課後。ひとりとぼとぼと廊下を歩く俺。
朝からずっと、俺の頭の中は鳴橋さんのことで埋め尽くされていた。俺と彼女の関係を、あれこれ考え続けていた。
しかし東山の言葉を裏付けるように、隣の席であるにもかかわらず鳴橋さんは俺に一言も話しかけようとはせず、以降一瞬たりともこちらに視線を向けなかった。
当然俺から話しかけるような空気でもなく、結局「昨日はありがとう」と、たった一言のお礼を言うことすら出来なかった。
結局こうして放課後になっても、状況は変わらなかった。
東山は部活があるとかでさっさと行ってしまったし、鳴橋さんの姿も既に無い。
クラスのみんなも、お昼休みになる頃には俺の記憶喪失のことなんてすっかり飽きて、いつもの日常を取り戻している。
なので帰宅部であるらしい俺は、こうして何も出来ず、寂しく帰るしかないのだ。
「はあ……。……にしても、本当、俺と鳴橋さんの間に何があったんだ」
俺は夢でも見ていたのだろうか。
ベッドに横たわる俺に、優しく話しかけてくれた彼女は、都合のいい妄想に過ぎなかったのだろうか。
「……岸見くん」
「えっ」
不意に、何者かに呼び止められる俺。
誰もいない廊下、いつのまにか俺のすぐ後ろには、件の鳴橋さんが立っていた。
そんな彼女の現れ方は、まるで先に帰ると見せかけて、俺がひとりになるのを隠れて待っていたかのようだ。
俺達の間の空気が、ぴんっと張り詰めた気がした。
鳴橋さんは背負ったリュックの紐に手をかけて、じっとりとしたジト目で、俺を静かに見上げている。
「あ、あっ……! え、えっと、鳴橋……さん」
「……」
「あ、あのっ、昨日は……その」
「ねえ」
「アッハイ」
「こっち来て」
急にぐいっと手を握られ、近くの空き教室に連れ込まれた。
半分物置みたいに使われている、第二視聴覚室。ぶ厚い昔のテレビと、ビデオテープという物を再生する機械が鎮座している。
そんな、西日の差し込む暑い部屋。
遠くから、運動部のかけ声と、セミの声だけが聞こえる。
そんな部屋に連れ込まれた俺は、急に、突然に、鳴橋さんに正面から抱きしめられた。
俺の胸に顔を埋めて、ぐりぐり押しつけてくる。
「う、あっ……!?」
思わず声が出てしまった。
彼女のずっしりと重たい胸が俺の身体で押し潰され、柔らかい身体の感触が薄着のせいで直に伝わったから。
俺はつい、仕方なく、反射的に股間を後ろに引いてしまった。
「ん~、一日ぶりの〝幸紀くん〟成分~」
「……えっ? お、俺の名前……」
「ごめんね。みんなのいるところじゃ、こうは出来ないからさ」
「え、えっと?」
みんなのいるところじゃ?
こうは出来ない?
こうって、こうやって抱きつくってことが?
「そうだよね~……、記憶喪失だもんね。そういうのも忘れちゃってるよね」
「う、うん……ごめん。てか、あの、ど、どうして俺、抱きしめられて……?」
「そりゃ抱きしめるよ。だって幸紀くんは、あたしの〝彼氏〟だもん」
「えっ」
「彼氏だよ」
「彼氏……っていうのは、その」
「うん。恋人ってこと」
恋人、俺と鳴橋さんが恋人。
そんな言葉が頭の中で反響を繰り返し、次の瞬間、反響して増幅されたそれが、言葉となって口から飛び出た。
「恋人ぉっ!?」
「ちょ、声おっきい。いきなり叫ぶなし~」
「あ……ごめ、ごめん。いや、でも、びっくりして。……あの、えと、彼氏ってことは、鳴橋さんは俺の彼女……ってこと?」
「あはは、当たり前じゃん。なーに? キョドってんの~? うりうり」
「い、いやだって、こ、こ、こんな可愛い子……、彼女だ……なんて。驚いて」
俺がそこまで言うと、鳴橋さんはそっと顔を上げた。
そして、ほんの少しだけ首を傾げて、ちょっと困ったような、悲しそうな笑みを浮かべたのだ。
「……やっぱり、忘れちゃってるんだね」
「え……?」
「ううん、しょうがないよ。怪我したんだもん。むしろ無事にいてくれてよかったって、そう思わなくちゃいけないんだもんね」
「あ、あの?」
「でも、本当に忘れちゃったの?〝約束〟のことも?」
「約束……?」
「……あたしと一緒に、赤ちゃん作ろうっていう……約束」
「え……? はっ!?」
「将来じゃなくて、今すぐ赤ちゃん作っちゃおうっていう約束。本当に覚えてないの……?」
「あかっ、あ、赤ちゃん……!?」
鳴橋さんの口から飛び出た、まさかの一言。
俺は混乱と、熱さと、ぎゅっと強く抱きしめる鳴橋さんの身体の感触に、その場に倒れてしまいそうだった───