性に目覚めたきっかけの初恋のお姉ちゃんが、教育実習生としてやって来た!
年上女性をいじめることでしか興奮できなくなり、性に飢えている学生・瑞江田奏。
年下のオスにドジっ子な自分を滅茶苦茶にお仕置きしてほしい教育実習生・笠城明夏。
性癖をマッチングさせる謎の力に導かれ、時を超えて二人が運命の再会を果たす!
燻らせていた欲望をさらけだせる最高の相手と、生ハメ調教の日々が始まった!
20万字超の特濃孕ませ純愛劇! 大サービスの書き下ろし後日譚を収録!
プロローグ:マッチングキャンディ
第1話:待ち望んだこと
第2話:尻軽処女
第3話:追い詰めるための飴玉
第4話:理想のご主人様
第5話:淫紋メス犬と体育祭
第6話:二匹のメス犬と種付け遊び
第7話:幸せな担任メス犬
番外編:コスイベ参加とメス犬ダブル調教・前編
番外編:コスイベ参加とメス犬ダブル調教・後編
本編の一部を立読み
プロローグ:マッチングキャンディ
昔、俺は悪戯好きの悪ガキだった。
男の子はだいたい悪ガキなのかもしれないが、俺の場合、両親共働きの寂しさを悪戯や喧嘩といった問題行動で紛らわせていたので、よりいっそうの悪ガキだったのだ。
野山を駆け回るだけでは飽き足らず、年上だろうが年下だろうが気に入らない奴には喧嘩を吹っ掛け、面白そうなゲームソフトを持ってる奴がいれば嫌だと言っても無理矢理に借りた。
その度に両親が相手に謝りに行ったが、態度を改めることはなかった。
ある夏の、ちょうど夏休みに入ったばかりの時期、そんな毎日に変化が起きた。
家でゲームをしながらお菓子を食べていたら、突然近所の〝お姉ちゃん〟が上がり込んできて、こう言ったのだ。
「今日からお姉ちゃんがあなたのお世話をするからね!」
その時は何がなんだか、わけがわからなかった。
今まで会話もしたことのない、俺より少し年上のお姉ちゃんが、いきなり俺の世話をするなどと言い出したのだから。
後にわかったことだが、両親がこのお姉ちゃんに、うちの子の面倒を見てくれとお願いしたらしい。ずっと家にいる俺が余計な面倒事を引き起こさないように、見張っていてくれと。
お姉ちゃんは、快く応じたのだそうだ。
その時から、俺の甘酸っぱい夏が始まった。
同世代の女子はもちろん、年上の女の子など碌に接したこともない俺は、男とはまるで違う柔らかい身体に、膨らんだ胸に、甘いにおいに、ずっと胸を高鳴らせていた。
喧嘩は邪魔するし、あれはだめこれはだめと怒るし、本当ならふざけんなと怒鳴りつけて追い払ってやるべきところだが、俺にはそれができなかった。
まさに借りてきた猫のように、素直に言うことを聞くことしかできなかったのだ。
おそらく俺は、恋をしていたのだと思う。
時に、お姉ちゃんは俺と一緒にゲームを遊んだり、お昼やおやつを作ってくれたりした。
所謂ドジっ子だったお姉ちゃんは、チャーハンを焦がしたりパンケーキならぬ炭ケーキを作っては、ごめんねごめんねと平謝りしてきたが、俺は文句を言いながらも全部食べてやった。
お姉ちゃんは謝りながらも、とても嬉しそうにしていた。
そんな〝苦い〟経験も、いい思い出だった。
時に、お姉ちゃんは俺を川へ釣りに連れ出した。
薄着の隙間から見える綺麗な肌や膨らみに、ドジっ子だからうっかり川に落ちて透けたブラを見せつけるその無防備さに、俺は腹の奥に異様な熱を感じていた。
時に、お姉ちゃんは俺をお祭りに連れ出した。
結った髪と浴衣が艶めかしく、けれどドジっ子で何度も転びそうになっていたから、ずっと俺が手を繋いでやっていた。その時も俺は、腹の奥の疼きを感じていた。
今までとはまるで違う夏、何もかもが鮮やかに彩られた眩しい夏。
俺は、誰かと喧嘩したり悪戯をしたりすることよりも、お姉ちゃんと過ごすことに幸せを感じていたのだ。
──そんなある日、事件は起こった。
蝉がいつもよりうるさい、暑い午後のことだった。
いつものように俺のお世話に来たお姉ちゃんが、俺が大事に作っていたプラモデルを、誤って床に落として壊したのだ。
俺は、カッと頭に血が上った。
お小遣いで買った大事なプラモデルを、大切に作っていたプラモデルを、バラバラにされてしまったから。
わざとでないことは、もちろんわかっていた。
いつものドジであることは、もちろんわかっていた。
けれどもガキだった俺が、その怒りを抑えられるはずもなかった。
お姉ちゃんは「ごめんね。ごめんなさい」と、泣きそうになりながら何度も謝ったが、それすら俺の耳には届かなかった。
我慢して飲み込めるほど、俺は大人ではなかったのだ。
だから俺は、つい、普通ではあり得ないような言葉を吐いた。
「……お仕置きだ!」
「え……?」
「お姉ちゃんは悪いことをしたんだ! 俺がお仕置きしてやる! お姉ちゃんのお尻を叩いてやる!」
我ながら、とんでもないことを言ったと思う。
プラモを壊された怒りと、お姉ちゃんへの恋心と、そしてお姉ちゃんへ抱いていた劣情が、ぐちゃ混ぜになったせいで出た言葉だった。
「……ごめんね。お姉ちゃんが悪いんだもんね、しょうがないよね」
と、何より驚いたのは、お姉ちゃんがその言葉に従ったことだった。
素直に、ただの一言も文句を言わずに、俺のお仕置きを受け入れたのだ。
服こそ脱がなかったものの、情けなく消え入りそうな声で何度も「ごめんね」と言い、顔を耳まで真っ赤にして、俺にそっと尻を突き出してきたのだ。
その様はどこか、自分を追い詰めているようでもあった。
俺はお姉ちゃんの尻から、目が離せなかった。
今までずっと胸の膨らみばかりに目が向いていたが、突き出されたその尻は、服の布地に包まれていながらも、惹き付けられるほどの柔らかな丸みであったから。
何かが、おそらくは本能に直結した何かが、俺の中で鎌首をもたげた。
尻を叩くなどと言っておきながら、俺はついその尻に、両手を乗せていた。
そしてその手で、ぎゅうぅっと尻肉を思いきり鷲掴みにした。
むっちりとした弾力を返してくる大きな尻肉、それは初めて触れる、母親以外の〝メスの身体〟であった。
俺は片方の手を、それは右手であったか左手であったか定かではないが、力加減もわからないまま思いきり振り下ろした。
ばちんっと音が響き、お姉ちゃんは「痛い」と微かに呟く。
だが俺はそれを気にも留めず、その手を何度も振り下ろした。
お仕置きだと、これはお仕置きなんだと自分に言い聞かせながら、しかし抗いようもない誘惑に囚われながら、何度も何度も尻を叩いた。
ふとお姉ちゃんの顔に目をやると、彼女は笑っていた。
俺の見間違いでなければ、口元に僅かな笑みを浮かべていた。痛いと呟きながらも、嬉しそうな顔で笑っていたように見えたのだ。
俺の中に眠る本能が、それがオスを誘う淫蕩な、まさかの尻を叩かれたことに対する喜びの、〝メスの顔〟であると教えてくれた。
その瞬間、俺は初めて勃起を経験し、そして精通していた。
そう、夏の暑さと、手の感触と、お姉ちゃんの顔に、頭の中身をかき混ぜられたような快感を得て、俺は身体を震わせながらパンツを真っ白に汚していたのだ。
俺は初めての射精の快感を覚えながら、俺はしばらくの間、手が止まっていた。お姉ちゃんが「……もういい?」と、言い出すまで。
何も言わないまま、俺は手を引っ込める。
呼吸は荒くなっていたと思う。
全身は汗だくだったように思う。
そして俺の脳には、ただただお姉ちゃんの笑みと手で感じた感触が、焼き付いて残るばかりだった。
──あれから数年──
「なあ、次の合コン行く?」
「……相手は?」
「俺らと同い年」
「パス」
「なんだよまたかよ。お前マジで年上相手の時しか参加しねーのな。たまには選り好みしないでホイホイ参加してくれよ、|瑞江田《みずえだ》」
「うるせーよ。お前こそ、この前お持ち帰りした子、どうしたんだよ」
「いやあ……、とりま一発ヤっといたんだけど、どうも相性悪くてさ。フェラしてくんないし、そのくせクンニしろって言ってくるしで……。その日で切っといた」
「ほらみろ、お前だって選り好みしてんじゃねーか。たまには即切りじゃなくて、しばらく付き合ってみたらどうなんだよ、ヤリチンが」
「うっせーよ瑞江田、このやろ」
俺、|瑞江田奏《みずえだそう》の肩を、笑いながらバシバシと叩く友人。
学校での休み時間という喧騒の中、他のクラスメイトにもしっかり聞こえる声の大きさで、俺と友人はいつもこんな会話ばかりをしている。
ちょっと大人になった悪ガキコンビといえば、聞こえだけはいいだろうか。
だいたいが女と合コンのことばかりで、近くの陽キャなギャルでさえ、「うわ」と会話の内容にドン引きしていた。
「じゃあそんな瑞江田のために、また大学生あたりの合コン用意してやっか~」
「……それなら行く」
「わはは。素直すぎる。……やっぱアレか? 初めての合コンで知り合った女が大学生だったから、ほら、あの時に童貞捨てたんだろ? それで、年上の女に味をしめたって感じか?」
「まあ……、そんなとこだよ」
「オッケーオッケー。性癖なんて人それぞれだもんな、まあ俺に任せとけって」
「そういう意味では頼りにしてるよ、|沢渡《さわたり》」
「そういう意味ってどういうことだよ」
「先日の中間テスト、ヤマほとんど外してただろ。えらい目にあったんだからな。お前が信用できるのは、女を集める能力だけだよなって話」
「うるせー! 勉強してないで俺を頼ってきたお前が言うな!」
「ごもっとも」
そう言いながら、俺は席を立つ。
友人の沢渡はスマホを操作し、早速メッセージをどこぞの女の子たちに飛ばしながら、横目で俺を見た。
「どこ行くんだ?」
「トイレだよ。ベル鳴る前にな」
背中に「へいへいよー」と沢渡の声を受けて、教室を出る。
ポケットに手を突っ込み、廊下を歩きながら、俺はふと物思いにふける。
梅雨前の、やけに熱を感じる異様な陽気。前日に降った雨の湿気が残っているから、蒸しているのかもしれない。
ゴールデンウィークも終わったばかりなので、それが余計に鬱陶しく思えた。
──あの暑い夏の日から、はや数年。
今やあの時の〝お姉ちゃん〟の年齢をも超えて学生となった俺だったが、今でも彼女のことは、毎日のように思い出す。
俺の初恋を奪い、俺の精通を奪い、俺の性癖を歪めたお姉ちゃん。
大切なプラモデルを壊され、彼女の尻を叩きながら性に目覚めたという体験は、俺の心を深く深く抉って、今でもその傷は癒えないでいる。
あのあと、お姉ちゃんはすぐにどこかへ引っ越してしまった。
お別れも言わず、いつの間にかいなくなっていたのだ。
俺のお世話は、引っ越す前にあの場所で思い出を残したかった、引っ越す前に何か人のためになることをしたかった、だから引き受けたということだったらしい。
最初から、用事が終われば去る予定だったのだ。
挨拶すらなかったのは、あの一件があったから、顔を合わせづらくなったということもあるのだろう。
そんな事情を知らないガキの頃の俺は、酷くショックを受けた。
自分を精通、オスとして目覚めさせた相手が、忽然と消えてしまったのである。
何か言ってくれてもいいじゃないか、そんな寂しさよりも、自分の〝つがい〟がいなくなったという、どこか本能的な喪失感の方が大きかった。
だからなのか、こうして歳を重ねて学生となっても、俺は常にお姉ちゃんの影を追うようになっていた。
幸運にも女好きの沢渡と友人になり、何度も合コンをセッティングしてもらった。
もちろん相手は、年上の女たちばかりだ。
そうやって何人もの女と出会えたが、しかし、俺は全く興奮することができず、付き合ってもすぐに別れてしまった。
相手があのお姉ちゃんではないから、というだけではない。
普通の恋をしようとしても、まるでその気が起きないのだ。たとえそれが年上の、どう考えても俺なんかとは釣り合わなさそうな美人だとしても、どこか気が抜けてしまう。
けれども、年上のくせにトロくさくて、いつも情けなく謝っていて、俺に迷惑をかける、そんな女の尻を叩いてお仕置きすることを想像すると、それが漫画やエロ動画であっても、俺のペニスは激しくいきり立った。
突き出したメスの尻を叩け、その尻に腰を叩き付けて種付けをしろと、オスの本能が湧き上がった。
そう、あの時、あの暑い夏の日の一件から、俺は〝ごめんなさいと謝る情けない年上の女の尻を叩いてお仕置きする〟ことでしか、興奮できない身体になっていたのだ。
あまりにもニッチで最悪な性癖であり、今さら直しようもない性癖である。
まともに恋愛することでさえ、俺はできなくなってしまっていたのだ。
だから俺は沢渡を何度も頼り、〝そういう〟年上の女を探して彷徨い歩いた。
迂闊に声をかけてしまわないように、女を見る目も厳しくなった。少なくとも、こちらに素直に従うドMの変態でなければいけないからだ。
だがこんな厳しさ、相手にとっては侮辱でしかないだろう。
だがそれを敢えて好み、尻を叩かれて喜ぶような女と、俺は付き合いたいんだ。
あの時、あの暑い夏の日のお姉ちゃんのような、お仕置きを喜ぶような女と。
本物のお姉ちゃんがいない今、どこにいるのかもわからない今、俺はそうやって、お姉ちゃんの〝代用品〟を探すしかないのだ。
「はは。最低だよな」
笑いながら、独りごちる。
そんな女がそうそういるわけでもないし、代用品だなんて失礼にも程がある。そもそも、お姉ちゃんが〝そういう女〟であるとも限らないのに。
俺が勝手に、そのように見ていただけ。
あの時、あの暑い夏の日に彼女が浮かべていた表情を、俺が勝手に〝メスの笑み〟などと妄想して、そんな妄想と幻想の影を追い求めているだけなのかもしれないのに。
けど、本当にそうなのだろうか、とも思う。
あの時にお姉ちゃんが見せた、どろどろにとろけたメスの笑みは、本当に俺の勘違いだったのだろうか、と──
「痛っっった!」
──と、その時だった。
トイレに向かう俺の目の前で、唐突に人が、女が転んだ。
紺色のスーツで、タイトなスカート。学校の生徒ではない。
どうやら何かの理由でバランスを崩して、転んでしまったようだ。俺は慌てて、彼女のもとへと駆け寄った。
「大丈夫ですかー? 怪我は?」
「あたたた……。ごめんなさい、慣れないパンプスなんて履いたから、上手く歩けなくて」
「どこか痛みはない? 立てます?」
「うん、立てます。大丈夫」
「じゃあ俺の手に掴まって。はい」
「よいしょ……、っと」
転んだ女の手を取って、立ち上がらせる。
彼女は、この学校の生徒ではないようだが、若い女だった。
背丈は170センチの俺より、10センチほど低い。
艶やかで綺麗な黒髪の、セミロングストレート。前髪はセンターで分けられている。
やや吊り上がった眉ではあったが、目はタレ目だ。口元は、逆「へ」の字で、少しだけ勝ち気というか、やる気だけはありますよといった感じ。
紺のジャケット、タイトスカート、そして転んだ原因と思われる、黒いパンプスを履いている。
そんなスーツの向こう、ワイシャツはふっくらとした豊かな膨らみを見せていた。
それ以上に目を引いたのが、今にも破れそうなまでにぱつぱつになっている、タイトスカートである。
破れそうになっている原因は、ほぼ、その驚くほどのデカ尻のせいだ。
こうやって立ち上がるだけで、服の上からでもだゆんっと重たく揺れたのがわかる。尻がデカすぎて、布が張り付いたようになっているのだ。
もちろんそのせいで、パンツラインもはっきり浮かび上がっている。
スカートの中からは、当然のようにむっちり太い太ももが伸び、その先にある尻の質量の如何を俺に教えてくれていた。
そこで俺は、妙な既視感に囚われる。
会ったこともないこの女を、俺は知っている気がする。
「ふーっ。ありがとう、お陰で助かりました」
「……ああ、はい。えっと……、新しい先生? ここで何を……」
「え? ああ、ごめんなさい! 私、教育実習生なんです! 明日からこの学校のお世話になるので、先にご挨拶をと……」
そこまで言ったところで、教育実習生の女は言葉を止めた。
いや、止めたのではなく、止まったのだ。
俺の顔をしっかりと見た時に、まるで何かを思い出すかのような思案の色を顔に浮かべ、ぽかんと口を開けている。
次の瞬間──
「奏……くん?」
「え?」
「やっぱり! 奏くんだ! 瑞江田奏くん!」
「え。ちょっと、どうして俺の名前……」
何故か俺の名前を知っているその女の声、口調、呼び方。
それによって、俺の脳が既視感の答えを出す。
「……|明夏《めいか》……お姉ちゃん?」
「そう! そうだよ奏くん! |笠城明夏《かさぎめいか》だよ! 昔、お世話したことがあった、明夏お姉ちゃんだよ!」
どくんっと胸が高鳴った。
あの明夏お姉ちゃんと、こんなにも唐突に、久方ぶりの再会を果たしたのだ。
今まで感じたこともないくらいの、いや、鮮やかに彩られたあの夏の日々に感じた胸の高鳴りと同じ物を、俺は感じていた。
合コンで知り合った年上の女では決して起きなかった、心臓の早鐘。
初恋の相手を前にして、あの時にずっと抱いていた恋心が一気に燃え上がり、心臓から全身に送られていくようだった。
教育実習生として、またしばらく一緒に過ごせる。
同じ空間で、同じ空気を吸って、同じ時間を過ごせる。あの時、あの暑い夏の日と同じ幸せを感じることができるのだ。
「大きくなったねー、奏くん」
「お、お姉ちゃん……こそ」
「だーめ」
「えっ」
「ここでは、〝笠城先生〟と呼んでください。教育実習中は、公私混同はなしです」
「……じゃあ俺のこと、奏くんなんて呼んだらだめだろ」
「あっ。そうだね、それもそうだ。……ごめん」
「はは……。おね……、笠城先生は昔と変わらないな」
すぐドジをして、すぐ謝って。
昔と何も変わらない、元気で、明るいお姉ちゃん。
しかしその身体はこんなにも、こんなにも成熟している。昔そう思っていた以上に、可愛くて美味しそうな〝メス〟に育っている。
何より、何よりも、瑞々しい桃のようなデカ尻が。
不意に、俺の中にあったオスとしての本能が、性癖が、どろどろと頭から全身を覆っていくような感覚を覚えた。
自分でも、今の俺の目がギラギラしているのがわかる。
せっかく初恋の相手と再会できたのに、その嬉しさよりも、飢えて渇いた心を満たしたいという、劣情の方が大きくなっていった。
あの尻をまた叩けたら、と。
あんなむっちりとデカい尻肉を、叩いてくれと言わんばかりに重たく揺れるデカ尻を、この手で思いきり叩けたのなら、と。
「ここね、私の母校なんだ。引っ越し……転校してからこっちで暮らして、この学校に進学したの」
「そうだったのか……。……俺はそんなこと全然知らなくて、普通にこの学校を受けて、今は電車で通ってるよ」
「そうなんだ。なんか、すっごい偶然だね」
「ああ、ほんと……ほんとに。〝あの日〟以来……」
「……〝あの日〟……」
急にお互いの言葉が途切れ、周囲の空気がパキっと凍り付いた気がした。
先ほどまでのギラつきも、今この瞬間は消えていた。
まるでタブーに触れたかのように、その次に出てくる言葉が浮かんでこない。何を言ったらいいのかさえ、わからなくなってしまっている。
その静寂を突き崩したのは、名も知らぬ男子生徒数人の、ヒソヒソ声だった。
「……おい、あれ、笠城明夏じゃね?」
「え。誰」
「馬鹿お前知らんの!? K大学のミスコンの、前年の優勝者だよ。卒業後は局アナか、スタイルいいからグラビアアイドルかって言われてんの。雑誌にだって載ったんだぞ」
「お前やけに詳しいな……」
「載ってる雑誌なら、俺も買ったぞ。マジで尻でけーんだよ。マジ」
「ああ、SNSでもめっちゃ有名だしな」
「アピール用のショート動画も、あっという間に何十万再生とかいったんだってよ」
「そんな人がこの学校に来てんの? マジで? てか何の用事で?」
「……そういえば教職課程取ってますって、プロフに書いてあったな。もしかして教育実習なのか?」
「うおすっげ。笠城明夏の授業受けれるってマジ?」
どうやら俺が知らない間に、明夏お姉ちゃんは有名人になっていたらしい。
SNSはもちろん、雑誌にまで載ったとなると、今回の教育実習は大騒ぎになりそうだ。
大学のミスコンなんてあまり興味もなかったから、俺が知ることもなかったわけだが、そんな状態でこうして出会えたのは、まるで〝運命の巡り合わせ〟のようだった。
「えっと……、とにかく奏く……じゃなくて! ごめんなさい。全然慣れなくて。ごめんね」
「大丈夫だから、落ち着いて」
「とりあえず瑞江田くん、しばらくこの学校にご厄介になるから、よろしくね」
「はは、ほんとそのドジっ子っぷり、相変わらずだな」
「ちょっと! 一応ほら、お姉ちゃんで先生なんだから、もうそういう言い方はしないの」
「はいはい、わかったよ。よろしく、笠城先生」
表面上は笑いながら、俺は心の中で舌なめずりする。
男子のヒソヒソ話のお陰で、凍り付いた空気もいつの間にか元に戻り、俺のギラつきも再度この目に宿ったようだった。
そうだ、あの日を思い出して凍り付くだなんて、そんな暇は俺にはない。
自分がずっとその影を追い続けていた相手が、昔のまま、想像の中の彼女のままで、こうして俺の前に現れたんだ。
湧き上がる恋心、久しぶりに聞いた「ごめんなさい」、そしてむっちりとしたメスの身体、それらに俺のオスが隆起していた。
ペニスに、どくどくと血が流れていく。
あの日、あの時、あの暑い夏の日に感じた、異常な興奮が再び俺の中に湧き上がっている。
明夏お姉ちゃんを、お仕置きしたい。
あのデカ尻を叩きたい、あのデカ尻に腰を叩き付けたい。
昔のように、悪いことをした彼女を、叱り、尻を叩いてお仕置きし、従わせ、唇も胸も膣も子宮も何もかもを蹂躙して、俺の物にしたい。
情けなく、申し訳なさそうに謝る彼女を、ぐちゃぐちゃに犯したい。
昔の俺ではできなかったことを、今の俺だからこそできることを、この謝りグセでもついているのではないかと思う明夏お姉ちゃんに、全てぶつけたい。
もう必要ない。他の女なんて、代用品なんていらない。
教育実習の期間を使って、どうにかしてお姉ちゃんを俺の物に、俺だけの女にしたい。
こうして明夏お姉ちゃんの前に立っているだけで、俺の本能が訴えかけてくる。
それはまるで、〝運命で導かれた〟かのようであった。
だから俺は、証明しなければならない。この胸の高鳴りと本能の隆起が、あの時、あの暑い夏の日の、尻を叩かれて喜ぶお姉ちゃんが、本物であることを。
そうだ、〝昔のように〟してやればいい。
お仕置きを、尻を叩いてやればいい。
いつの間にか俺のペニスは勃起し、制服のズボンを軽く押し上げていた。
前屈みになるほどではないが、形はうっすらと浮かび上がっている。お姉ちゃんに気付かれなければいいのだが。
「奏くん……? どうかした? 変な顔して」
「いや……、懐かしすぎたからかな。ちょっとどう反応したらいいか、わかんなくなって」
「あはは。そっか。あの生意気小僧も、ちょっとは大人になったか」
「なんだよ、そっちこそドジっ子のくせに大人ぶって」
「そーうーくーん?」
「嘘嘘。怒るなって。……じゃあ俺、もう行くよ。これからよろしくな、先生」
「うん。よろしく、ね」
俺は手を振って、お姉ちゃんと別れる。
そしてすぐに、彼女から見えない物陰に隠れて、スマホを使って沢渡にメッセージを送った。
メッセージSNSである、〝OINE〟を使って。
「……悪い、次の授業サボるわ、先生に保健室行ったっつっといて、っと」
この湧き上がる劣情は、抑えきれるものじゃない。
どこかで吐き出してしまわないと、溺れてしまいそうだったから──
「ねえそこの人、美味しい〝飴〟はいかが?」
──教育実習が始まる、少し前。
自身の母校へ、教育実習が始まる前にご挨拶に伺おうとした、その前日。
〝私〟、笠城明夏は、雨が降る公園を訪れていた。
教育実習という大仕事を前に、そしてちょっとした〝野望〟を前にして、リラックスをしようと思ったからだ。
あいにくの雨ではあったけれど、それはそれで風情があった。
そんな公園で、私は〝彼女〟と出会った。
パンツルックのスーツを着込み、口に電子タバコを咥えた、ショートヘアで長身の女性。彼女はその手に可愛らしいピンクの水玉の傘を持って、私に視線を向けながら佇んでいた。
何故こんな場所にいるのか、何をしているのか、何もわからない。
ただ、綺麗な、とても綺麗な人だった。
「……あなた、とんでもない性癖を持ってるわね」
「え? な、なんですか、いきなり」
「隠してもわかるのよ。あなた、〝年下のオスに激しく犯されたい。悪いことをした罰として、お尻を叩かれてお仕置きされたい。ごめんなさいと何度も許しを請いながら躾けられたい。メス犬のように扱われて交尾されたい〟。……そう思っているでしょう? しかもその夢を叶えるために、その相手を探すために、教育実習を利用しようとしているなんて」
「な……っ!?」
「なんでわかるのか、って? わかるのよ。私にはね」
ニィっと笑う、そのスーツ姿の女性。
決して、決して知られてはいけない、私の中のどす黒い欲望。
昔、そう、〝弟のように可愛がっていたあの男の子と過ごした暑い夏の日の思い出〟が忘れられずに、異常な性癖に目覚めてしまった私を、この女性はひと目で看破した。
あの時、あの暑い夏の日、私が悪いことをして、お尻を叩かれた思い出。
お仕置きだと、年下の男の子に何度もお尻を叩かれ、子宮を疼かせたあの思い出。
私は、濡らしていた。
まるでメスの本能が噴出したかのように、下着を愛液で濡らしていたんだ。
あれから私は、同年代や年上の男性に全く興味を示すことができず、そういった彼氏ができてもすぐに、キス以上のことをする前に別れてしまっていた。
私はどうしようもない人間になってしまった。
どうしようもない変態になってしまった。
年上のくせに情けなくてドジばかりの私のお尻を、「ごめんなさい」と連呼して許しを請う私のお尻を、年下の強い〝オス〟から激しく叩かれてお仕置きされたいと願う変態に。
お尻を叩かれて濡らす変態の私を、滅茶苦茶にして欲しかった。
いやらしい喘ぎ声を上げさせて欲しい、お尻を叩きながら酷く犯して欲しかった。
いつしかそれは、強いオスに従属したいという懇願へと変わっていった。
公園で飼い主に叱られる犬を見ては、それを羨ましい、私もあんな風に叱られたいと、常軌を逸した衝動にかられた。
私をメス犬のように扱い、躾けてくれる年下のオスが欲しかった。
情けないメス犬のお尻を叩いて躾けてくれる、犬のように交尾をしてくれる、年下のご主人様が欲しかった。
満たされない欲望は、自慰で発散させた。
処女のくせに、毎月のように〝おもちゃ〟を通販で買い漁り、乳首やクリトリスを責めては、「ごめんなさい。すいません」と想像の中の〝強いオス〟に許しを請い、何度も絶頂してはベッドを濡らした。
ローターをクリトリスに貼り付け、自分の手でお尻を何度も叩いた。そのせいか、私のお尻は他の人よりも、幾分かサイズが大きくなってしまった。
それは、あまりにも甘美で、止めることができない快楽だった。
けれども自慰をすればするほど渇きが生まれ、本物の強いオスにお尻を叩かれたい、躾けられたいという思いは、日増しに強くなるばかりだった。
友人に誘われたミスコンでさえ、それを利用する道具としか思っていなかった。
明るく元気、ドジっ子だけどめげない、などと謳われながら、その中身はそれを利用して、自分をお仕置きしてくれる、強い年下のオス彼氏を探し求めていた。
お陰様で私は優勝などという、身に余る栄誉を賜った。
誘ってくれた友達は、「芸能界を目指そう!」などと祝ってくれたが、そんなのには興味もなかった。
この肩書は利用できる、私を満たしてくれる男の子を探すのに大いに利用できる、としか思っていなかった。
そう、私はもはや既に、思考も行動も何もかも、濁った情欲に支配されていた。
けれども、ミスコン優勝という肩書に集まってきた大学の後輩の男の子でさえも、私を燃え上がらせることはなかった。
彼らは優しかった。私をまるでお姫様のように扱った。苛立つほどに。
一縷の望みをかけて付き合いを続けても、結局何も燃え上がらないまま、キスも碌にしないまま終わるだけの虚しい作業。
もっと年下の、もっと強いオスが、そう、〝あの男の子〟のようなオスが欲しかった。
容赦なく私のお尻を叩いて叱り、私のメスを目覚めさせた男の子のようなオスが。
だから私は、教職課程を取るのをいいことに、教育実習でそういう男の子を見つけようとしていた。
自分の劣情を、どうしようもない欲望を満たしてくれる男の子を探すため、あろうことか教育実習を利用しようとしていた。
それが、野望。どうしようもない性癖を持った私の、欲望。
──その野望を、この女性は見抜いた。
誰にも話していない心を、ましてや初対面である私の心を、いったいどうやったのかはわからないが、一瞬で見抜いた。
言い知れない恐ろしさに、身震いがした。悪寒と、恐怖だった。
けれど、足はすくんだけれど、逃げようとは思わなかった。
もしかしたら、縋ろうとしていたのかもしれない。そこまで知っているこの女性は、私に救いの手を差し伸べてくれるのではないかと。
その救いの手こそが、彼女が差し出した、この〝飴〟なのではないかと。
「この飴玉はね、〝マッチングキャンディ〟っていうの」
「マッチングキャンディ……」
「美味しそうでしょ? マッチングキャンディは、自分の性癖とぴったりの相手と、〝運命をマッチングしてくれる〟飴なの」
「……運命をマッチング……? すいません、意味がよくわからないんですが……」
「大丈夫、簡単な話なのよ。これを食べれば苦労なんて何もなく、〝とても簡単に理想の相手を見つけることができる〟っていうだけ。あなたを満たしてくれる男と、〝運命の赤い糸〟を結んでくれる飴なの」
「……!」
「どのように効果が表れるのかは、食べてみてのお楽しみ。三個セットで税込百八円。どう? 学生さん」
そう言って女性は、私に小袋を差し出した。
明らかに商業用の包装がされていない、黄色の飴玉が三個。透明なビニールの袋に、無造作に入れられている。
馬鹿みたい。
何の冗談だろう。
小説や映画じゃあるまいし、そんな都合のいい話。
実はあの飴は違法な薬で、私を罠に掛けて、薬漬けにしようとしているに違いない。
けど、なのに。
私はお財布を取り出して、小銭を差し出した。
ちょうどよく、ぴったりとあった、百八円を。
「……ぴったりです」
「毎度ありがとう。学生さん」
そう言って女性は、私からお金を受け取り、私に飴を渡す。
もはや先ほどまであった不信感は、綺麗さっぱりと消えていた。
それは、私の心を見抜いた超常的な恐ろしさ、ずっと私の胸の奥だけに秘めていた想いを一瞬で見抜いた恐ろしさを、逆に信用したからだ。
私の縋る〝藁〟は、ここにあったのだと。
「キャンディの効果は、一個で二十四時間よ。効果の重ね掛けはできない。食べたら効果時間の間、自分の性癖ぴったりの相手と〝運命マッチング〟しやすくなるわ。即効性があるのだけど、それがどんな形で表れるかはわからない。まあ、そこもお楽しみってとこね」
「……はい。ありがとうございます」
「それと便利なことに、キャンディの効果時間中は、他の運命も弾いてくれるわ」
「他の運命を……?」
「マッチングキャンディを渡しているのは、あなただけってわけじゃないのよ。食べ続けておけば、一度繋がった赤い糸をずっと繋げておける。自分とお目当ての相手に群がろうとする羽虫どもを、運命ごと寄せ付けないようにできるの」
「それは……凄いですね」
「追加が必要なら、またここに来てちょうだい。値段は一緒、三個で百八円よ」
「ひとつだけ、お聞きしてよろしいですか?」
「なあに?」
「どうして私に、こんなことを……」
「聞いたことない? SDGs」
「持続可能な社会……ですか」
「弊社の方針なのよ」
そう言うと、彼女は名刺を取り出した。
その名刺には、某有名お菓子企業の営業部の名前、そして『SDGs営業チーム』と書かれていた。
その横には、彼女の名前らしき物がある。
「今、うちのチーム主任と、営業成績を競ってるの。あんたを倒して私が主任になるわ、ってね。あなたに出会えたお陰で、ちょっと助かったわ」
「はあ……」
「でも安心して。最後まできっちりあなたをサポートするから。……この|浅山《あさやま》を、以後よろしくお願いいたします。お客様」
その女性、浅山さんはぺこりと一礼する。
私は迷いも躊躇いもなく、「よろしくお願いします」と言うのだった。
──そして、奇跡が起こった。
あの女性から飴を買った翌日、私は予定通り、母校へご挨拶に向かった。
数年前の景色と全く同じ、記憶の中にあるそのままの校舎、その門をくぐろうとする直前に、私はあの飴を食べてみた。
甘い、甘い、レモン味の飴玉を。
学校に入った直後、私はいつものようにドジをして転んでしまった。履き慣れないパンプスのせいで、いきなり失敗をしてしまったんだ。
けれど、転んだ私をひとりの男子生徒が、助け起こしてくれた。
なんとそれは〝彼〟だった。
あの時、あの暑い夏の日、私をお仕置きした男の子。ほんの少しの間であったけれど、弟のように接した生意気だけど可愛い男の子。
瑞江田奏。奏くんだった。
マッチングキャンディを食べたその直後に、私は酷い性癖を植え付けられた原因であるところの男の子と、まさかの再会を果たしたんだ。
〝運命〟だと思った。飴が導いてくれた、繋げてくれた運命だと。
私は、浅山という女性に出会えたことを感謝すると同時に、マッチングキャンディが持つ力の凄さを思い知らされた。
教育実習を決めたのも、彼がこの学校を受験したのも、飴を買う前の話。だからその二点に関しては偶然に他ならない、いずれ私たちは再会していたことだろう。
けれど、けれども、転んだ私を助け起こしたのが奏くんであったのは、間違いなく飴の力だ。
私のお尻を叩き、消えない傷跡のように異常な性癖を植え付けた彼と、飴を食べたあとすぐに出会えたのは、間違いなく飴の力だった。
そうだ、飴は教えてくれたんだ。
お前の相手はこの男の子だ、この目の前にいる、この年下のオスなのだと。
そして同時に、私は奏くんが、私の身体に視線と興味を注いでいるのに気付いた。
あの時、あの暑い夏の日、大切なプラモを壊した私に、お尻を叩いてお仕置きをする彼が向けたそれと同じ、メスを見定めるギラついたオスの視線。
見間違いでなければ、彼は制服の下で勃起さえしていたように思う。
勃起した男性器なんて、実際には見たことなんてないけれど、ズボンを押し上げていたあの膨らみ、あれはきっとそうに違いなかった。
私は子宮が疼き、じゅん……っと濡れるのを感じていた。
運命の人が本当に奏くんだというなら、私に再会するなり勃起してしまったというなら、性癖を植え付けた彼自身によって私の願いが叶えられるのなら、それは願ってもないこと。
彼なら、奏くんならきっと、どろどろに煮立った私の欲を満たしてくれるはずだった。
──確信を得たのは、そのすぐあとのこと、だった。
私が奏くんと別れたあと、彼はすぐに、教室に戻るでもなく、別の方向へと向かった。
彼が向かったのは、視聴覚室や調理室などの特別教室がある別棟。
最初はトイレにでも向かうのかと思ったのだけど、だったら何故、こっち側のトイレを使おうとしないのかが気になった。
私はおそるおそる、奏くんを尾行した。
彼はそのまま、別棟のトイレに入った。やはりトイレだった。でも何故この別棟で?
私がそう思っていると、そのトイレの中から、彼の声が聞こえてきた。
それは、興奮したオスの声、だった──
「はあっ。はあっ。お姉ちゃん、明夏お姉ちゃんっ……! はっ、ははっ。ああ、あのデカい尻を叩きてぇ……! あのデカ尻に腰をぱんぱん打ち付けてぇ……! 俺にごめんなさいって、怒られて、情けなく叱られてるお姉ちゃんを、お仕置きしてぇっ……!」
明らかに、自慰をしている声だった。
明らかに、私を想い、私にお仕置きをしたいと、自慰をしている声だった。
彼がこちらに、人気のない別棟に来たのは、自慰をするためだったんだ。
「もう他の女なんてどうでもいい、明夏お姉ちゃんだけいればいい……! 合コンで女を漁る必要なんてない……! わかった、わかっちまったんだ……! 悪いことをしたお姉ちゃんを、年上のくせに情けなく謝るお姉ちゃんを、俺が叱る、尻を叩く……っ! そんで、ぐちゃぐちゃに犯してやる……っ! くそ、くそっ! ぜってー手に入れてやる……! 教育実習の期間中に、絶対に俺の女にしてやるっ……! あの時、あの暑い夏の日にできなかったことを、俺が、俺が今……っっ!」
彼は、奏くんは、立派に成長していた。
あの時のまま、私が焦がれたあの時のままだった。あの時のまま、酷く捻れて歪んだ私を受け止めてくれるほどに、奏くんは成長していた。
同時に、奏くんも同じだった。
私と同じだ。私と同じ、あの時、あの暑い夏の日、あの思い出に脳を焼かれていたんだ。
「私も……、私もだよ、奏くん……!」
疼きは膣から漏れ出し、下着をぐちゃぐちゃに濡らしていた。
床にねっとりと、滴り落ちそうなほどに。
私はマッチングキャンディのお陰で、見つけられたのだ。私を叱り、お尻を叩いてお仕置きして、滅茶苦茶にしてくれる年下の男の子を。
奏くんこそが、私の運命の相手だったんだ。
今すぐにでもトイレの中に飛び込んで、そのオスの猛りを私に向けて欲しかった。
毎月のようにおもちゃを買い、強い年下のオスにお仕置きされることを妄想しながら激しく自慰をしていたことを告白し、処女のくせになんて淫乱で情けないお姉ちゃんなんだよと、お尻を叩いて叱ってもらいながら犯して欲しかった。
メス犬のように、私を躾けて欲しかった。
けれども、私はそれをぐっと堪えた。
そんな刹那的な、一時の快楽の充足などではなく、お互いが一生離れられなくなるような状況にまで持ち込みたい。
どろどろにとろけ合って、混ざり合って、どこまでもお互いを求めるようになりたい。
奏くんとなら、きっと私は幸せになれる。
これも飴の、マッチングキャンディの効果なのだろうか、私はそれすら確信していた。
そして、私は思いついてしまう。思いついてしまった。
ああ、そうだ、そうしよう。私は彼に、奏くんに、〝悪いこと〟をして、お仕置きをしてもらおう。
教育実習の期間中、いつまでも変わらない私の情けないところを見てもらって、彼に迷惑をかけて、叱ってもらおう。
そうやって〝私を追い詰めてもらって〟、彼の方から私を逃げられない状況にしてもらおう。
きっとそれすらも、マッチングキャンディは叶えてくれる。
本当にこの飴玉が本物であるのなら、その相手が奏くんであるのなら、そんな運命でさえ繋げてくれるはず。
私が、絶対に、奏くんから逃れられないようにしてくれるはず。
そして奏くんは、必ずやってのける。
こうして私を想って自慰をする奏くんなら、それを利用して、どんな手を使ってでも、私をお仕置きしてくれるだろう。
叱り、お尻を叩いて、犯して、滅茶苦茶にしてくれるだろう。
きっと彼は、奏くんは、あの時の、あの暑い夏の日の時のように、私を追い詰めてくれるだろうから──