放課後、俺の部屋に入り浸り、ベッドに寝そべるギャルがいる。
隣の席から俺をいつもからかってくる巨尻同級生・貝山深愛。
わざと無防備なノーブラ姿で谷間を見せつけ、童貞の俺の反応を楽しんでいる。
そんな絶対に一線は超えなかった生活は、とある転校生の登場によって一変!
市之瀬ひろむ──悪ガキだったかつての親友は、実は女で爆乳に成長していた!
以降、深愛の誘惑は過激になり、いつものお礼と称して騎乗位で搾られ……
入り浸りギャルとボーイッシュ幼馴染に種をねだられる日々が始まった!
プロローグ ギャルと幼馴染
第1話 戦端を開く
第2話 渡したくない
第3話 変身
第4話 責任取って
第5話 衝突と、最高最悪の閃き
第6話 ふたりの入り浸り通い妻
最終話 ずっと入り浸り
おまけ短編 プチ旅行デート!
本編の一部を立読み
プロローグ ギャルと幼馴染
「ねえオタクくんさあ、今から暇? 中間テストの勉強教えてよ」
──桜もすっかり緑に変わった、春の終わりかけ。そんな、とある日の放課後。
ホームルームも終わり、にわかに賑やかになるクラス。帰り支度をする俺に、楽しそうに笑って話しかけてきたのは、隣の席に座るギャルだった。
俺は自然と、渋い顔を浮かべてしまう。
「もちろんオタクくんの家で。あ、ノートも写させて」
「ええ……、お前また来る気かよ」
「いいじゃん別に。それともあたしが家に行くと、なんかまずいことでもあんの? ああ、もしかしてエロ本出しっぱとか?」
「出しっぱじゃねーよ!」
「あははは。なんか怒ってるし。ウケる」
ニヤニヤとからかうような笑みを向けてくるこいつは、クラスメイトの貝山深愛《かいやまみあ》。
流れるような、綺麗な金髪のロングへア。シルバーのアクセサリーが好きなのか、ピアスやネックレスをしているが、どれもシルバーだ。
制服のブラウスの中には結構な大きさの巨乳が収まっており、彼女が動く度に、ゆさ……っと重たげに揺れていた。
制服のスカートは短くしており、その中からは、ぶっとい太ももが伸びている。
そういえば、やけに尻がデカい気がするが、そのデカ尻を支えるために、そこまで太くなってしまったのだろうか。
そして何より特筆すべきは、164センチの俺よりも10センチ近く高い、その身長だ。
立てばもちろんだが、こうして座っていても、どこか見下ろされているかのような、そんな気さえするデカいギャルなのである。
あちこちデカいせいで、目のやり場に困る。
「勉強くらい自分でやれよ。なんで俺を頼るんだ」
「オタクくん、一年生の時も同じクラスで隣の席、二年になってもこうして同じクラスで隣の席だし。そのよしみってやつ?」
「俺の名前は、笹目海斗《ささめかいと》だ。オタクくんじゃない」
「えー? だって漫画とゲームとプラモ好きっしょ? 部屋にいっぱいあるじゃん。てことはオタクくんじゃん」
「ぐぬぬ……! は、反論しづらい……!」
「でしょ? てことで、今日はオタクくん家《ち》で決定ね」
「俺以外にもイケメンの彼氏とか友達とか、教わるんだったら他にもいっぱいいるだろ」
「だってオタクくん、知り合いの中じゃ一番頭いいからね~。それに、家は一人暮らし状態でしょ? 騒ぎ放題で都合いいじゃーん」
「騒ぐために一人暮らししてるんじゃないんだが!?」
「まーまーそう言わず。ね? エグいエロ本あっても、見て見ぬフリしててあげるから~」
「おまっ、ほんっとお前は……!」
ニヤニヤしながら、言いたい放題の貝山。
本当にこいつは、急に馴れ馴れしく、からかうようになりやがって。
一年の時に隣の席だったことで知り合った仲だが、その頃はまだ素っ気ないものだった。
派手好きで、常にイケメンと楽しそうにはしゃいでいるようなギャルで、遊んでるやつだなあとは思っていたが、俺との接点はほぼなかった。
たまに教科書見せたり、ペンを貸したりだとか、単純に隣の席というだけの関係。
しかし二年生になってしばらくした頃、突然こいつは俺に接近してきて、ニヤニヤ笑いながらからかうようになった。
そしてちょうどその頃、父さんが単身赴任することになった。
俺も成長しただろうからと、父さんに母さんもついていってしまい、俺は広い家に一人暮らし状態。それを知った途端、貝山は俺の家に入り浸るようになってしまったのだ。
漫画は読み漁るわ、勝手に冷蔵庫のジュースは飲むわ、やりたい放題だ。
俺なんか放っておいて、イケメンたちと遊んでいればいいものを。
そして今日もこうして、間近に迫った二年生初めての中間テストを控え、勉強を教えろと言ってきた。
こいつ、何かと理由をつけて、俺の家に入り浸ろうとしてやがる。
とはいえ、それを無碍に断るのもしのびない。一年生の時、テストに苦しめられているのを、横で見ていた身としてはな。
「……しょうがないなあ。ちゃんと勉強しろよ?」
「やった! オタクくん大好き好き好き~」
「か、軽々しく好きとか言うなって」
「なーに、照れてんの? 可愛いじゃ~ん」
「またお前はそうやって……! 頭撫でんなこら! おい!」
ちくしょうこいつ、またからかいやがって。
俺よりも背が高いせいで、子供扱いされている気分だ。
でもさほど悪い気がしないのは、こいつの言葉に、悪意やトゲがないからだろうか。
「お。なあ貝山、暇ならこれからカラオケ行かね?」
その時、不意に貝山に話しかけてくるやつがいた。
クラスメイトの陽キャ男子だ。
「……パス。あたし用事あっから」
「ちぇ。最近付き合い悪いなー。まあ、また誘うわ」
どうしてか、貝山は目も合わさず素っ気ない態度。
昔はこうやって声をかけてきた男と、ホイホイと遊びに行く姿を見たものだが。確かに最近は、まるでそんな姿を見なくなった。
まあこいつなりに、何か考えがあるのだろう。俺には関係のない話だ。
「それじゃ、張り切ってオタクくん家に行こうぜ~!」
「笹目海斗だっつってんだろ!」
──学校を出て、一緒に家に向かう俺と貝山。
人の気配がない一軒家の鍵を開けると、「ただいま~」と図々しくも言い放った貝山が、勝手知ったる何とやらで、ズカズカと一直線に俺の部屋へと向かう。
やれやれと、ため息をつきながら、先に歩く彼女を追う。
「相変わらずプラモと漫画とゲームがいっぱいの部屋だな~」
「相変わらずオタク臭くて悪かったな」
「誰もそんなこと言ってないじゃーん。さてそしたら……、よいしょっと~」
「あっ、こらお前っ」
テーブルの上にあったスナック菓子を手に取り、貝山は俺のベッドに寝転がる。
こいつはいつもこうだ。本当に遠慮というものがない。
勝手にベッドでくつろいでは、勝手に俺のお菓子をバリバリ食べやがる。
しかも貝山が寝転んだあとは、彼女の甘い香水のにおいがベッドに移り、夜眠る時にモヨモヨしてしまうのだ。
今もほら、うつ伏せで頬杖をついて、巨乳がシーツに沈み込んでいる。今日の夜には、あの巨乳のにおいを嗅ぐことになるのだろう。
さらに、山のように盛り上がった豊かなデカ尻は、足をパタパタ揺らす度にもちもちと揺れて、まるで俺を誘っているかのようだ。
あんなデカ尻を鷲掴みにして、後ろから腰を叩き付けたら、さぞ気持ちいいに違いない。
俺は知らずよからぬ妄想を頭に浮かべ、小さく「ごくり」と喉を鳴らしていた。
「とりま漫画の続き読ませて~」
「えっ。あっ、いやお前、漫画を読むな、ベッドの上でお菓子を食べるなお菓子の油を漫画に付けるな。というか勉強はどうしたんだよっ」
「いいじゃんいいじゃん、お堅いこと言うなって~。まずは息抜きっしょ」
「お前なあ」
「それよりさ、なんか見たことないプラモ飾ってあんだけど。なんかゴツいね~。色も毒々しいし。なんかこう、ラスボス的なアレ?」
「お、おお……! それに気付くとは! そう! 主人公の前に立ちはだかる最強の敵なんだよ! この前ようやく手に入れたんだ! いやー……、作中ではトンデモ能力で主人公を追い詰めるんだけど、その恐ろしさを表現するために、色合いを少し暗めに……!」
「あははは。オタクくん楽しそうに語んね~」
「あ。わ、悪い。ごめん。昔、小さい頃からの趣味で……」
「あーあー、謝る必要なんてないって。趣味を馬鹿にしてるわけじゃないし。好きなんだったらいいじゃん」
「貝山……」
不覚にも、その言葉にちょっとキュンっとしてしまった。
自分が好きな物を、自分の価値観を肯定してもらえたことが、とても嬉しかったのだ。
「でさーオタクくん、ジュース欲しい。オレンジね」
「はっ。あやうく流されるところだった。そうじゃないだろ、勉強しに来たんだろうが! あーあーあー、お菓子のカケラをベッドに落とすな!」
「いいじゃんちょっとくらーい」
「よくねーよ! ……まったく、しょうがないなあ。ジュース持ってきてやるから、ちゃんと勉強しろよ?」
「お、さすがはオタクくん~。好き好き~」
「はいはい。適当言いやがって……」
からかわれ、受け流す。
なんだかそんな関係が、既に定着してしまったような気がする。そして俺はそれを、どこか楽しく思っている。
しかし貝山は、誰にだって優しいギャルなのだろう。
そうだ。こうして入り浸るのだって、ただ俺を利用しているだけで、他意なんてないはず。
俺はキッチンに向かい、ジュースをコップに注ぎながら、そんなことを考える。顔に浮かんでいたのは、おそらくは自嘲だった。
「……ほら貝山、ジュース持ってきてやったぞ。いい加減に漫画読むのやめて、そこのテーブルに着け」
「はいは~い。……お? 何これ。なんかお高そうなクッキーじゃん」
「食いかけのお菓子より、ちゃんとしたのがいいだろ。一応、図々しく入り浸る不届き者だが、お客様には違いない。おもてなしくらいはしないとな」
「ふーん……? いいやつじゃん、オタクくん」
「うっさい。いいからほら、勉強」
「はいはいは~い」
ニヤニヤした笑みを向けながら、部屋の真ん中にあるローテーブルに着く貝山。
俺はそこにジュースとお菓子を並べると、彼女の対面に腰を下ろすと、教科書とノートを広げた。
そして、やっと始まる、中間テストの勉強。
ノートを写させてあげて、わからないことも教えてあげる。どこまで理解したかは不明だが、まるっきりだめというわけでもなさそうだ。
俺は、とにかく簡単に、わかりやすく教えるのだった──
「あ゙ー、疲れた~。めっちゃ勉強した。頭痛い~」
「どうだ貝山、少しは理解できたか?」
「わかったようなわからないような……。でもまあ、何もしなかった時よりは、だいぶわかってきた感じ?」
「んん……、なんか微妙だな。でも、何がわからないかもわからない、よりは進んだ感じか」
「そんな感じ。……てことで、また教えてね、オタクくん」
「……また?」
「そ。また。よろしく~」
「やれやれ……」
少なくとも中間テストが終わるまでは、こいつは入り浸るつもりのようだ。
おもてなし用のジュースとお菓子、買い足さないとだな。面倒な。
「とりま、ありがとオタクくん。すっごい助かったわ~」
「お、おう」
テーブルに身を乗り出して、素直にお礼を言う貝山。
無防備な巨乳が、ブラウスの中に包まれた巨乳が、目の前でだぷんっと揺れる。
ついつい、視線が貝山の顔ではなく、そちらに向いてしまう。そして、それを見逃すような貝山ではなかった。
途端に彼女は、いつものニヤニヤ笑いを浮かべるのだった。
「なーにオタクくん、あたしの〝ここ〟、気になる~?」
「んあっ。いやっ、あの、俺は別に」
「あははは。興味ないねーなんて顔しても無駄無駄。あたしには全部わかってんだぞー?」
「ち、違っ……!」
「さっきもあたしがベッドに寝てる時、シーツに押し潰されたおっぱいと、ぷりっとしたお尻、いやらしーぃ目で見てたじゃん」
「気付いてたの!?」
「気付かないわけないじゃん。男の子視線なんて、女の子は丸わかりなんだから。……ほら、今みたいに」
急に貝山がニヤニヤしながらブラウスの胸元を指で開き、胸の谷間を見せつけてきた。
結構な大きさだとは思っていたが、やはり結構な大きさだった巨乳の谷間が、はっきりと目に飛び込んできた。
それは少しばかり長い、長いI字型のみっちり閉じた谷間だ。
俺はあまりのことに身体の動きが停止し、視線をそこから動かせなくなってしまう。
「どうよ? ん? クラスで一番の巨乳の谷間は」
「お、おまっ……! いきなり、何っ……!」
「あれー? おかしいなー? ブラが見えないなー?」
「え」
言われて初めて気付いたが、確かにブラが見えない。
貝山の綺麗な肌と、ゆさ……っと重たげに揺れる巨乳が見えてくるが、しかし何故か、ブラジャーの肩に伸びる紐がどこにもないのだ。
貝山はただ、俺にニヤニヤした笑みを向けるだけだ。
「お前もしかして、ブラして、ない……?」
「さー、どっちかな? してるのかな? してないのかな? 確かめてみよっか」
「確かめる、って」
「実際に見てみればいいじゃん、ってこと。ほんとにあたしが、ノーブラなのか」
言いながら、貝山はブラウスのボタンを外していく。
プチ、プチ、と。
「ち、ちょっ……!?」
「えいっ」
と、貝山は思いきり、手でブラウスを左右に大きく開いた。
開いた……と思ったが、実際には開いていない。それは手の動作だけで、ブラウスは元のまま、ボタンは外されていたが閉じられたままだ。
彼女は今にも吹き出しそうになりながら、今度はボタンをひとつずつ留めていく。
つまり俺は、からかわれたのだ。
「あはは、あはははっ。そんないきなり見せるわけないじゃーん。オタクくんおもろ~。反応が童貞丸出しなんだが~」
「どっっ、どどどどどどどどどどど」
「あははは。期待しちゃった? ねえねえなんか期待しちゃった?」
「お前ええぇ!」
ケラケラと楽しそうに笑う貝山。心臓をバクバク鳴らして、顔を真っ赤にして怒る俺。
悔しい。悔しいが、完全に俺の負けである。
──ニヤニヤ笑う貝山を追い返したあと、俺は一人夕食を取る。
スーパーで買ったいくつかのお惣菜をおかずに、炊いた米を食べる。
自分で作ると失敗しそうだし、変に余るのも困るし、余っても冷凍したりチャーハンにできる米以外は、アウトソーシングするのが楽でいい。
にんにくの効いた餃子と一緒に白米をかっ込んでいると、不意に家の電話が鳴った。
受話器を取ると、向こうから母さんの声が聞こえてくる。
『海斗、元気でやってる?』
「まあね。なんとか元気だよ」
貝山が入り浸っていること以外は。
と、俺は心の中で付け加えた。
『こっちも元気よ。お父さん、こっちのご飯美味しい美味しいって、なんかいっぱい食べちゃってるわ』
「はは。太らないようにって、そう言っといてくれよ」
『気を付けとく。……そういえばね、言い忘れてたんだけど、〝ひろむ〟ちゃんがそっちに戻ってくるんですって。この前、電話があったのよ』
「え? ひろむが?」
ひろむ。市之瀬《いちのせ》ひろむ。
久しぶりに聞いた名前だった。
小さい頃この近くに住んでいて、俺と一緒に野山を駆け巡り、一緒にプラモを作り、河原に落ちていたエロ本を嗜んだ、悪ガキ少年である。
プラモ趣味は、そいつの影響で始めたんだ。懐かしいな。
『小さい時にご両親の都合で引っ越しちゃって、それきりだったでしょ? 今度また、お仕事の都合で戻ってくるんだって』
「そうなんだ」
『それでね、ひろむちゃんに、たまにあんたの様子見に行ってってお願いしたから。ひろむちゃんも楽しみにしてるみたい。来たら、お菓子でも出してあげてね』
「ああ、わかったよ」
それだけ話すと、母さんは電話を切った。
そうか、ひろむが戻ってくるのか。
たぶんまだプラモやってるだろうし、同じ話で盛り上がれるかな。こっちは一人暮らしだし知った仲だし、徹夜でゲームも遊べるぞ。
俄然、楽しみが増えた気がする。
悪いな貝山、男同士の友情があるんだ。あいつが戻ってきたら、しばらくは入り浸りを控えてもらおう。
しかし母さん、ひろむにちゃん付けしてたな。
ひろむも立派な男子学生になってるんだろうし、いつまでも子供扱いしないで欲しいもんだ。
──それから数日後。朝。
無事に中間テストも終わり、初夏の暑さが空気に滲み始めた頃。
俺は教室に入ろうとしたところで、足を止めた。貝山が、俺の机にデッケェ尻をのっしり乗せて、別の女子と話しているのが見えたからだ。
入りづらい。話に割って入るのは気が引けるし、あのデカ尻をどかそうとしたら、絶対にからかわれるだろうから。
仕方ないので、しばらく教室には入らず、様子を窺うことにした。
「ねえ深愛、なんか最近、笹目くんと仲良くね?」
「そんなことないってー。勉強教えてもらってただけだって」
ふと、そんな貝山と彼女の友人が、俺のことについて話し始めた。
余計に教室に入りづらくなったじゃないか。
「でも距離感ってか、それが全然違う気がすんだけど」
「まあ一年生の時から隣の席だし。その付き合い? 的な? だってすっごいオタクだし、あたしらみたいなのには範疇外でしょ~」
不意に貝山の口から出た言葉に、俺は一瞬、息を止める。
だよな。入り浸ってるからって、俺と貝山が……なんて、あるわけないよな。
ああ、なんだ。俺。ちょっと期待してたのか。
「だからさ~、オタクくんのことは気にしない方がいいよ~」
「そうだよね。笹目くん、しょーもないオタクだもんね。冴えないしさ。うちや深愛みたいなイケギャルが付き合うとかないわ」
「……あ? 今なんつった」
「えっ、何。深愛、なんでいきなり怒ってんの」
「……別に」
俺がひとりで落ち込んでいる間に、貝山と友達が険悪な雰囲気になっている。
よくわからないが、話もそこで終わったようだ。俺は頃合いを見計らって、何事もなかったかのように席に向かう。
「お? オタクくん、おはー」
「お、おは……」
いつも通りのニヤニヤ笑みを向ける、貝山。
俺は、できているのかどうかもわからない笑みを、なんとか彼女に向けた。
「あ、ごめんごめん。オタクくんの机に座ってたわ~。今どくね~」
そう言ってデカ尻をどかした貝山だが、どうやら俺の机の上には、彼女の生尻が乗っていたらしい。少しばかり、蒸れた跡が残っている。
なんかホカホカ温かいし、なんかすごくいいにおいする。
生尻ということは、ここにパンツが、クロッチの部分が当たって──
「いやいやいやいや」
「? どしたんオタクくん」
「何でもない。何でも」
俺の動揺を悟られないように、平静を装う。
また童貞だの何だのとからかわれては、たまったもんじゃない。
「そういえばオタクくん、この前のテスト、全部赤点回避してたわ。サンキュ~。この調子で期末も頼むわ~」
「ええ……。また入り浸るつもりだろ、お前」
「へっへっへー、当たり前じゃーん」
「あっ、こらやめろ、頭撫でんな。いいか、もう入り浸ろうったってそうはいかないぞ。だから撫でんなって。いいかよく聞け、俺の昔の友達が戻って──」
と、俺がひろむの話をしようとした、その時だった。
いつもより早い時間に担任の男教師が現れた。そしてその後ろから、見たこともない女の子が現れたのだ。
茶髪のショートカット。輝くような、綺麗な髪だった。
背丈は俺より、5センチくらい低いだろうか。
アクセサリーのような物は着けていなかったが、唯一、腕にはウェアラブル端末が着けられていた。
ソックスは普通のそれではなく、ブランド物のスポーツソックスのようだ。
全体的に活発そうな、活動的な印象を受ける。
そして──
「……でっっか」
クラスの男子が、ボソッと呟いた。
「デカい……」
「デカいな」
「スゴイデカイ」
賛同するように、あちこちで男子が呟き始める。
そう、彼女の胸は制服のブラウスをぱつぱつに押し上げるほどの、ずっしりとした重たげな巨乳だったのだ。明らかに、貝山より大きい。
「あー……。みんなに新しい仲間を紹介する。ご両親の仕事の都合で転校してきた、市之瀬ひろむさんだ」
「市之瀬です! 向こうの学校では女子バスケやってました! こっちでも部活頑張ろうと思います、よろしくお願いします!」
元気いっぱいに、よく通る声で挨拶する彼女。市之瀬ひろむ。
市之瀬、市之瀬ひろむだ。その名前を聞いた瞬間、俺は「えっ」と自然に声を漏らした。
彼女の名前と、見覚えのある顔立ち。そしてどこか聞き覚えのある声。
そしてそんな俺の声に反応したかのように、彼女の目が俺を見つけた。
「……海斗! 久しぶりだなあ親友! ボクだよ、ひろむだよ! この学校に海斗がいるって聞いて、同じクラスにしてもらったんだ!」
「ひ、ひろむ……! おま、お前……っ、女の子だったのか!?」
クラス全員の視線が、一気に俺の方を向く。
男子も女子もみんな、「お前あのめちゃデカ巨乳美少女の知り合いなのか」という視線を向けている。
俺は俺で、男だと思っていた親友が、エロ本まで「ゲヒヒ」と一緒に眺めていた心の友が、こんなスゴデカ女の子だったことに驚きを隠せず、ただ呆然としていた。
そんな中、ただひとりだけ、ずっとひろむを見ていたやつがいた。
隣の席、即ち、貝山だった。
「……敵だ。あいつは、あたしの敵……!」