後夜祭での公開告白を乗り超え、ついに二見小夜と恋人関係に。
しかし、オカルト研究部の不思議系女子・仲野羽衣奈から、
「恋人のフリをしてほしい」とお願いされ……
さらに、バレー部エースの結城千絵は僕のこと好きらしいし、
南川を狙うチャラ男とはマラソン大会で勝負することになるしで、
この青春ハーレムに休みなし! 怒涛の展開ラッシュ第六巻。特別書き下ろし付き!
第一話 恋人のフリしてっ!
第二話 女社長に電マ
第三話 告白の相手は僕?
第四話 生徒会室で挟射
第五話 キスしたら止まらない
第六話 今夜だけはお嫁さん
第七話 秋空に飛行機雲
第八話 大事な彼氏彼女
第九話 選挙とマラソン
第十話 幸せでいいんだよ
第十一話 後味はビタースイート
幕間 翼をありがとう
落葉閑話一 風香 ~朝まで社長室でヤること
落葉閑話二 雛姫 ~生徒会長はエッチな子
落葉閑話三 小夜 ~今日は僕だけのモデル
落葉閑話四 雫 ~ハッピーバースデイ、うち
落葉閑話五 ハーレム ~性に堕ちる
書き下ろし 続・ハーレム ~夢うつつ
本編の一部を立読み
第一話 恋人のフリしてっ!
しっかりと髪と眉毛を整え、髭もいつもより丁寧に剃った。
叔母である石野風香《いしのふうか》さんが用意してくれたスーツを着て、二見小夜《ふたみさよ》がくれた紺色のハンカチもポケットに入っている。磨いて黒光りした靴を履き、カバンも用意した。
今日ほど、高級時計がしっくりくる格好もないだろう。
「初めまして。石野清明《せいめい》です」
やってきた男の人に僕は席を立って頭をさげた。男の人はグレーのスーツを着て、髪はロマンスグレー。太い眉が特徴的で、眉もグレーだった。
「ああ、キミが……なかなか好青年じゃないか。まあ、すわって……そうか、羽衣奈《ういな》の言う通りだった」
場所は仲野《なかの》羽衣奈の父親が経営するレストランの個室で、僕の隣には、水色のワンピースを着た仲野がすわっていた。学園で見る仲野とはまったく違う、いかにもお嬢様といった雰囲気を醸し出している。
やってきた男の人が仲野の父親だった。その父にむかって仲野が微笑む。仲野は普段からあまりしゃべらないが、いまの無口はお淑やかさからくるものに見える。
「石野くん、待たせてすまなかったね」
僕にすわるように手で示しながら、仲野の父親がむかいにすわる。
すぐに店員がやってきてお水を出してくれた。
高級レストランではないが、品のあるお店だった。
「い、いえ……きょ、今日は、お会いできて光栄です」
「ははははっ。そんな固くならなくて大丈夫だよ。ご飯はまだだよね?」
「あ、はい」
「シェフに作らせてあるから、すぐに出てくると思うよ。学生なんだから、たくさん食べなね……」
豪快な人だった。仲野から想像できる親といった感じはしない。
僕は緊張の極致にいて、変なことを言わないようにするのに必死だ。
「それで、石野くんは学年でトップの成績なんだね」
「あ……そ、そうですね……いちおう」
「すごいね。恵万《けいまん》学園でトップって、将来は医者か弁護士かな?」
ちらりと仲野を見ると、仲野はにっこりと笑っていた。すべて段取り通りに答えるようにという無言の圧力を感じる。
「会社を……つくろうと思ってまして」
「ほう」
と、仲野の父親が目の色を変えた。
料理が運ばれてきて、会話は一時中断となったが、店員がいなくなると、仲野の父親が身を乗り出した。
「どんな会社かな?」
「そ、それはまだ……大学に入学して、いろいろ考えたいと思っています」
「それはそうだ。ゆっくり考えるといい。ははははっ!」
冷や汗を拭い、僕はちいさく溜息をついた。思った以上に仲野の恋人のふりをするのは重労働だった。なんでもやると言った手前、協力は厭わないが、ここからが大変だ。
文化祭の片づけも終わり、通常の日々が再開した。そんな中、僕と二見は学園で話題の人だった。触ると恋愛が成就すると噂の僕の頭もいろんな人の手で大賑わいだ。
「どうなんだよ? どこまでいったんだよ?」
「てか、二見ってかなり巨乳だよな。もう触ったか?」
「もっと俺たちの前でイチャイチャしろよ」
「男なら、いけるときにいっておけ!」
などなど下衆な男子たちが話しかけてくる。僕はそれらすべてに苦笑いで返し、いなしていった。同じように二見も女子たちに囲まれ、いろいろ言われている。
「イシ勉が恋人とか、デート楽しい?」
「図書館で勉強デートとかしてそうだよね」
「でも身長は高いし、もうちょっと頑張ればハンサム?」
「わたしは、あれはないかなぁ」
など、身勝手に僕を品評する。二見も苦笑いで、すべてをいなしていた。元来コミュニケーションスキルは高いので、軋轢を生まないように返事をしている姿は参考になる。
恋人同士になったからといって、学園での僕と二見は変わらない。以前もちょこちょこ話していたし、いまは話すと茶化されるため、恋人らしくできるのはもうすこし先だろうと思う。
「小夜、一緒に行こう」
と、学園一の人気者と言ってもいい南川雫《みなみかわしずく》は移動教室のときなど二見を平然と誘う。大きな変化のひとつはこの南川と二見の学園での関係だ。
二見と南川が旧知の仲であることは知れ渡っているし、同じ部活に所属しているとなれば、むしろ仲良くないほうが不自然だ。
「だから、これからいろいろ誘うね!」
僕の部屋に来たときに、南川は二見に宣言していた。
「えぇ……わたし、面倒くさい」
二見は南川と行動を共にするのをイヤがったが、南川はそれを許さなかった。
「だって、モデルの仕事が忙しくて、部室にも、清明の部屋にも来ないじゃん! 学園以外、小夜と一緒にいる時間ないんだから、それくらい許してよ!」
涙目で親友に訴えられて、二見もしぶしぶだが承諾。それで、なんとなく南川のグループの端っこにいる感じになった。
僕はますます二見と一緒にいられなくなり、教室の隅で勉強をする。つまり、以前と変わらない学園生活だと言えるだろう。話し相手がすこし増えたくらいで、結局、僕はイシ勉だ。
そんな感じで文化祭が終わって二週間が経った頃、仲野羽衣奈から連絡があった。
『日程が決まったから電話したんだけど……』
電話で急に言われて僕は返事ができなかった。
そのまま仲野は話しつづける。
『今日、いまからちょっと会えない? わたしが、そっちに行ってもいいし』
「え? 会う? これから?」
僕は自分の部屋で、南川とゲームをしていた。南川が最近はまっているカーレースのゲームだ。一時停止を押して、電話をしている僕を南川が焦ったように見てくる。
「えっと……ちょっと待って」
僕は受話器の部分を手で覆うと、南川に言った。
「仲野からだ。ほら、恋人のふりするってやつ……これから会って話したいって」
「むぅ」
と、頬を膨らませる南川。
「明日、休みだから徹夜でゲームするって言ったじゃん!」
「そうだけど……帰ってきたらいくらでも相手するから」
「へいへい。羽衣奈の頼みだし、しかたないね」
僕は了承の意を仲野に告げて電話を切った。
どこに住んでいるか知らないが、仲野が恵万駅まで来るという。喫茶店かどこかで、話せればとのことだ。
「羽衣奈、日程が決まったって……なんのだろうね」
「わからん。話をきいてみないことには、なんとも」
「うちも一緒に行こうかなぁ」
ゲームのコントローラーをテーブルに置くと南川が言う。
僕は着替えながら答えた。
「変だろ、それ……恋人の二見ならともかく、南川と僕はなんでもないことになってるんだ……あ、ごめん」
パンパンに頬を膨らせて南川が僕を睨んでいた。
南川と僕の関係は公表していない。公表したら大変なことになるのは間違いがなかった。逆に言えば、二見は恋人ということになって、いろいろと行動を共にしやすいわけだ。
南川が首をふる。
「ですよねぇ……うちは、恋人でもなんでもないですからねぇ。清明と一緒にいたら変ですよねぇ」
「だからごめんって」
南川がただ甘えていることは僕にもわかっていた。面倒な女の子になることで、南川は僕への気持ちを示す。
「帰ってきたら、どういう話だったかきかせてね」
「ああ」
「羽衣奈のことだから、おかしなことは頼まないと思うけど……一人で解決しようとしないで」
「わかってるよ」
僕はゲームに夢中になっている南川を残し、部屋から出た。
やっと秋らしい様相を見せはじめた気候。香りからなんとなく寂しさを感じる。
駅に行くと、すでに白いセーター姿の仲野が待っていた。夏には水着姿を、オカルト研究部では黒いフード姿を見た。が、もっとも似合うのは、今日の白いセーターな気がする。
「ごめんなさい……急に呼び出して」
仲野の発した声は、僕に届いた瞬間に霧散するように儚く、薄く化粧をしているようで、どこか大人びて見えた。オペラの観劇帰りのお嬢様といった雰囲気がある。
「ちょっとお茶しながらお話ししよ……」
「そ、そうだな」
僕は自分の格好を恥じた。仲野と話したあと、そのまま公園で走るつもりだったためジャージ姿だ。髪もボサボサだろうし、靴もボロボロのやつだ。
「どうしたの? ああ……この格好……」
僕の戸惑いの理由を察したのか、仲野が照れたように顔を伏せた。
「気にしないで。さっきまで、ちょっとオペラを観てて……それで」
まさか、本当にオペラを観ていたとは思わなかった。
僕は、自分のよく知る喫茶店に仲野を案内した。
「わたしのお父さん……でさ……」
唐突に仲野が言う。閉店時間もちかいため、喫茶店はすいていた。窓際の席に僕と仲野は横に並んですわった。
「は?」
うまくききとれずきき返すと、仲野がもう一度言う。
「お父さん……成金なの……」
「あ、ああ、成金ね……」
うなずくと、仲野が世間話もなく話しはじめる。
仲野のお父さんは、レストランを経営しているという。いまは十店舗のレストランを経営しているオーナーだ。
「でも、すごい貧乏な時期もあってさ……借金もたくさんあった……」
仲野がまだ小学生のときはかなり苦労したらしい。粛々と一店舗の店を守るよりも、仲野の父親は無理してでも店舗を増やしていくことを選んだ。途中、仲野の母親は心労がたたり倒れた。
「お父さんの勢いっていうか、そういうのにお母さんはついていけなくて……離婚はしてないけど、小沖のおばあちゃんの家で静養することになって。わたしもお母さんが心配だから、お父さんと離れて、おばあちゃんの家にいるの」
小沖は恵万から自転車で行ける距離にある地域だ。電車の路線が違うため、学園へは自転車かバスで来ているのだろう。
「それでも、わたしはお父さんとけっこう会ってて……」
すこし時間はかかったが、結果、仲野の父親は大成功。それなりに名の通ったレストランオーナーとなった。そして家を買い、車を買い、高級レストランに通いつめるようになる。
「オペラに行くのもさ、自分が金持ちだって誇示するためなんだよね……」
溜息をつくと、手をつけていなかったアイスティーを飲む仲野。血色は良いのに透き通るように白い肌をした仲野の横顔は、憂いはあるものの、どこかいまの状況を楽しんでいる気配もある。
「でも……」
と、仲野が僕を見る。
「お母さんのことは、ずっと引っかかってるんだと思う」
「そうか……」
返事をしてから僕は尋ねた。
「そんなプライベートなことを僕に話してもいいのか?」
「いいの……これから頼むことは、わたしの家のことを知っててもらわないとダメだし」
そこで言葉を切ると、仲野がちいさく笑った。
「イシ勉は、いいやつだからさ」
「占いで、そう出たか?」
茶化すようにきくと、仲野は首をふったあと、すこし照れたように目を伏せた。
「違うよ。ほんとにそう思ってる」
「で、僕はなにをすればいい?」
言いにくさはないようだが、仲野は慎重な口吻《こうふん》で答えた。
「……わたしの恋人として、お父さんに会ってほしい」
「まあ、そういうことだろうな」
父親の話が出た時点で、そんな気はしていた。
「前々から、ある社長の息子とわたしをくっつけようって、お父さんが頑張ってて……一度は会ったんだけど……」
すこし顔をしかめると、仲野が首をふった。人の悪口を言えない性格なのだろう。
「もうその御曹司と会いたくないから、恋人がいるって嘘を吐いたんだな」
「うん……」
子供のように素直にうなずく仲野。
「そしたらお父さんが会わせろって言うんだよね……」
「娘の恋路なんて、自由にさせればいいのに」
思わず出た言葉に、仲野が苦笑いした。
「お母さんのことがあるから。苦労させた負い目があるんだよね……だから、娘にはそうなってほしくないんだって、お父さんなりの優しさなんだよ」
「ごめん……」
仲野の父親は父親なりに、娘のことを思っているわけだ。
素直に謝ると、仲野が笑う。
「まあ、ちょっと面倒くさいっちゃ面倒くさいけどね……」
「僕である理由はなんだ?」
「はじめは太田《おおた》あたりがいいかなって思ってた」
「太田だって?」
どうしてか僕はすこし腹が立っていた。自分よりも太田のほうが上なのがイヤなのだろうか。こんな気持ちになったのは初めてだった。
「恋人のふりって言ってもさ、それなりにお父さんを納得させられる相手じゃないといけないから。こいつなら、娘に苦労させないってお父さんに思わせないといけないの」
それで第一候補は太田だったわけだ。人気者でサッカー部のエース。顔もいいし、勉強もそこそこできたはず。
「だけど、市民プールでさ……ちょっと性格見ちゃって」
仲野の前で、太田は結城《ゆうき》のことを罵った。それを見ていた仲野は、太田に恋人のふりを頼むのをやめた。
「それで僕か……」
「結城さんのことで、雫ちゃんと必死でなにかしてたでしょ? それに……学力はトップだし、身だしなみもちゃんとすれば、そこそこかっこいいし」
「お父さんも、納得してくれるはずだってことか……」
「そういうこと。本当は夏休み中にお父さんと会うつもりだったんだけど……ちょっと、お母さんが入院しちゃって」
いろいろあって、と仲野が言っていた。それが、母親の入院だったわけだ。
「大丈夫なのか?」
「平気。いまは、もう家にもどってきてる……」
仲野がアイスティーを飲んでから言った。
「再来週にお父さんが時間を作ったから……そのとき、わたしの恋人として会ってほしいの」
「わかった」
僕が即答すると、仲野が目を丸めた。
「いいの!? かなり変な頼みだし、断られてもわたしはイシ勉のこと恨んだりしないけど……」
「文化祭ではいろいろ助けてもらったし……」
「あれは、わたしたちのほうが助けてもらった感じだけど」
実際、園芸部のおかげでオカルト研究部はかなりの寄付金を得たという。しかし僕たちが集客に協力してもらったのは、本当のことだ。僕としてはお礼のつもりで仲野の頼みをきこうと思っていた。
「まあ……一度、会うくらいなら」
「あ、違う」
と、慌てた様子で仲野が僕の言葉を遮る。
「一度じゃない!」
「え?」
「いちおう学園を卒業するまでは、付き合ってることにしてくれるとうれしい……だから、もしかしたら、ちょこちょこお父さんと会ってもらうかもしれない」
返事ができないでいると、仲野が両手を顔の前に合わせた。必死な感じが仲野からなんとなく伝わってくる。
「お願いします! 二見さんに説明が必要なら、わたしのほうからちゃんとするし……実際に付き合うわけじゃないから」
「いや……やるけど……」
「よかった!」
と、仲野が思わずといった感じで僕の手を握るが、すぐに自分のしたことに気づき、手を離した。
「ごめん」
顔を赤くして照れたように笑った。
「触れてしまってごめん……本当の恋人でもないのに……」
その後、やはり世間話もなく仲野とは別れた。
時間も時間だから送ると言ったが、タクシーで帰るという。仲野の乗るタクシーを見送ると、僕は東方公園で走ってから部屋にもどった。玄関のドアをあけると、見慣れないハイヒールの靴が置いてあり、すぐに誰が来ているのか察して、僕は部屋に飛びこんだ。
すると、そこにはゲームをする南川と風香さんがいた。
「あ、せいくんおかえり! ちょっと、雫ちゃん、うますぎるって!」
「いまのとこ、カーブしたほうが速いですよ! 清明、どうだった? 羽衣奈との話」
二人はゲーム画面に夢中で、必死にコントローラーを操っている。南川はTシャツ一枚のいつもの格好で、風香さんはワイシャツにタイトな黒いスカートだ。長い髪を頭の上で器用にまとめていて、首筋が色っぽい。
そういえば、僕は仲野と会うのにスマホを持っていかなかった。連絡をしてくれたのに、僕からの返事がないから直接来たのだろう。風香さんじゃなければ、南川は居留守を使ったはずだ。
「とりあえずシャワー浴びてくるから……仲野の話はそのあとだ」
「やったー! 勝った! 風香さん、へたっぴだなぁ」
「初めてなんだからしかたないじゃん!」
僕の話をきいていない二人。この分だと、僕が南川の相手をする必要はなさそうだ。タオルを手にすると、僕は風呂場にむかった。
風香さんと会ったのは、久しぶりだった。メッセージや電話でのやりとりはあるが、直接会ったのは文化祭の振替休日に出かけて以来だった。今日は仕事帰りに寄った感じだろうか。
「こんこん」
と、シャワーを浴びていると、声がした。
「風香さん?」
シャワーを止め、尋ねると返事があった。
「そうだよ。風香さんだよ……せいくん、一緒に入ってもいいかな?」
「え?」
「わたしさ……汗かいてるのに、部屋来てすぐに雫ちゃんとゲームしちゃったから、シャワーまだでさ、その……いいよね?」
承諾していないのに、風呂場の扉がひらいた。髪をおろした風香さんが、タオルで体の前側を隠して立っていた。隠されたことで、逆に卑猥な感じがして、肉棒がぴくんと反応する。
「あんま見ないの!」
照れたように視線を下にむけると、風香さんが手をひらひらとふった。
「雫ちゃん怒っちゃうから、エッチなことはしないで、すぐ出るつもりだからね」
そんなこと言いながら、風香さんの視線は僕の股間を捉えて離さなかった。
あまり広い風呂場ではないため、ほとんど風香さんと密着するようにシャワーを浴びる。
正面で向かい合い、近距離に風香さんの顔があった。
「オチン×ン、勃起してるね……」
「そ、そりゃ」
エッチなことはしない。その風香さんの言葉は本当だったらしい。体をよせ合い、一緒にシャワーはするが、触れてこない。
巨大な胸が僕の体に押しつけられる。湯気が風呂場に充満し、視界を白くしていった。風香さんが呼吸をするたびに、むにゅりとおっぱいの感触が肌から伝わる。
「セイナちゃんも、雛ちゃんもいないんだね……」
「二見は仕事で明日が早いって言ってたな」
いますぐ肉棒に触れてほしい欲求を抑えながら僕は答えた。
風香さんが、うなずく。
「うちの仕事ではないね……だんだん忙しくなってきてるね」
「そうだね」
二見はしっかりと学園に来る。部活も出られるときは出ているが、文化祭のあと、僕の家に来たのは数えるほどだった。
「せっかく、せいくんと恋人同士になったのに、学園でもあまり話せてないんでしょ?」
「まあ、いまは無理だな」
「あ、雛ちゃんは、生徒会副会長になったんだって?」
「来月までの期間限定だけどな……」
細萱《ほそがや》先輩が行ったことは、僕から校長先生に伝えてある。しかるべき対処をするから任せてほしいと校長先生は言っていた。僕は全面的に校長先生を信頼して、その件から離れた。
細萱先輩は任期を終える前に会長職をおりた。理由は、文化祭のときに骨折をして、会長職がつづけられないからということになっている。実際、細萱先輩は、平林を追いかけようとしてコードに足をかけて転んで骨を折っていた。
結果として、細萱先輩は、一週間の停学を食らった。混乱を避けるために、骨折で入院していたということになっている。停学明けに学園へやってきた細萱会長は松葉杖をついていて、入院していたという話は信ぴょう性があった。
当然、大学の推薦はなくなって、これから受験勉強をしなくてはいけないため、たしかに生徒会長をやっているどころではないだろう。
僕はこのことについて一切口をつぐんだが、どこからか噂が囁かれるようになる。証拠はないが、細萱会長がやったことはみんなが知るところになった。
「昇降口の植物、めちゃくちゃにしたんだって……」
「ほら、ステージでの告白音源、あれ、自分で流したらしいよ」
あんだけ人気者だった細萱先輩は、いま学園で誰とも話さないという。話しかける生徒もおらず、腫れ物扱いだった。
僕は、一度、廊下で松葉杖姿の細萱先輩とすれ違った。
「こんにちは」
挨拶をすると、足を止めて細萱先輩がゆっくりと顔をあげた。やつれた顔をした細萱先輩は、しばらく僕を見てから言った。
「……悪かったな」
本心で言っているかわからないが、僕はその謝罪を受け入れることにした。
うなずく僕に、うなずき返すと細萱先輩は去っていった。生徒会長がいなくなったため、副会長が繰り上がりで生徒会長になった。十月の生徒会選挙までの短い期間、代理での生徒会長だ。空いた副会長の席には、庶務だった観音寺雛姫《かんのんじひなひめ》がすわった。
第二話 女社長に電マ
「あッ……」
風呂場で急に甘い声を出す風香さん。僕の肉棒が、ちょうど風香さんの下腹部にぶつかった。びびびっ、とほどよい快感に僕も溜息を漏らす。
「はぁ……風香さん、我慢できない……」
「ダメ。あッ、こら、こすりつけないの……んあッ」
細いのにふかふかの風香さんの体。僕は、ちょうど風香さんの子宮があるあたりに肉棒をこすりつける。火照った体を密着させ、至近距離で見つめ合う。
「んッ……ダメってばぁ……雫ちゃん、怒っちゃう」
「すこしだけだから……お願い……」
僕が言うと、風香さんが目をぎゅっとつむった。んんん。考えたあとにつぶやいた。
「かわいいな……もう……」
顔をあげると、潤んだ目で僕の瞳を覗きこむ。
「ちょっとだけだぞ」
「風香さん」
と、僕がキスをしようとしたときだった。風呂場の扉が勢いよくひらいて、南川の声がした。
「寝る前にみんなでしましょうって言ったじゃないですか!」
顔をむけると、南川が仁王立ちしていた。
風香さんが、あらら、と笑いながら僕から離れる。
「だって、せいくんに頼まれちゃったから」
「清明!」
鋭い目を僕にむけ、南川が言った。
「羽衣奈のこと、きかせてよ。けっこう心配してんだから」
「そ、そうだったな……」
僕が帰ってきたときはゲームに夢中だったくせにとは言えない。
なかなかシャワーから出てこない僕と風香さんが気になっていたのだろう。
「でも、まだシャワー……終わってないから」
と、僕は南川の全身を上から下に見つめた。
「南川も、一緒に浴びるか?」
「え? いや、うち、さっき浴びたし……」
ちらり、と南川が風香さんを見る。いちおう久しぶりに僕に会った風香さんに気を使っているらしい。
風香さんが優しい声で言う。
「お話は、ほら、シャワー浴びながらでもできるから。雫ちゃんも一緒に、ね?」
すこし沈黙してから、南川がうなずく。
「わかったよ……うちも、浴びる……」
拗ねた子供のような表情の南川が、扉をしめた。僕と風香さんは目を合わせると、声を出さずに笑った。
疑問に思ったことを風香さんにきいた。
「てか、泊まってくの?」
「そうだよ。だから、ここでしちゃうのもったいない気がしたけど」
風呂場の扉がひらいて、裸の南川が風呂場へ入ってくる。
「雫ちゃん一緒なら、しちゃってもいいよね」
言うなり、風香さんが僕に飛びつき、キスしてきた。うしろにのけ反り、僕は風呂場の壁に背中をぶつける。
「シャワー、浴びる気ないじゃないですか……」
呆れたような南川の声がする。
「ちゅっ……ん、んちゅぅ。だって、我慢できないよ、んっ」
ふっくらした風香さんの唇が、夢中で僕の唇を吸う。巨大な胸が押しつけられ、細い指が僕の肉棒を掴んでいた。
「せいくん、せいくん……ちゅぷ、んっ……」
「ま、ん、まって、風香、さん……」
ぐいぐい、と風香さんがさらに僕に体を押しつける。肉棒をしごきながら、口の中に舌を入れてきた。
シャワーヘッドを手にした南川が風香さんの顔にシャワーをむける。
「あばっ」
と、風香さんが驚いて僕から離れた。顔にかかったお湯を手で拭いながら南川に言う。
「なに!? なんで!?」
「あ、いえ……ちょっと、落ち着いてもらおうかと思って……」
僕は風香さんの唇と胸から解放されて大きく息を吐いた。
「助かった、南川……」
「ご、ごめん……せいくん……」
我を忘れた自分を恥じるように風香さんは苦笑いした。
「つい……」
南川がシャワーヘッドを壁にかけた。そして風香さんのことをひしと抱きしめる。
「……え?」
急に抱きしめられて、風香さんが目を点にする。
「し、雫……ちゃん?」
「風香さん、気持ちはわかります……けど、うちも仲間に入れてください」
「あ……」
と、目を潤ませると、風香さんが南川の頭を撫でた。いまの風香さんの状態はまさに、キュンキュンしているといった感じだ。僕のほうを見ると、すこし困ったように眉を八の字にした。
「どうしよう……雫ちゃんが、かわいい……」
裸で抱き合う美女二人に僕の肉棒も限界だった。ちかづいて、僕は二人を同時に抱きしめた。南川と風香さんの顔が僕のほうをむき、唇を尖らせた。
「ちゅ……んちゅぅ」
「んあ、んっ、ちゅ、ん」
三人でキスをする。舌も出し、唾液の交換を積極的に行う。どちらかの手が僕の肉棒を握って、しごきはじめた。
僕は右手で南川の尻を、左手で風香さんの尻を撫でた。呼吸は荒くなっていき、キスも激しさを増す。
風香さんがキスをやめたので、僕と南川は思い切り濃厚なキスをした。
「んっ……しぇいめぇ……んちゅぅ、んあっ……ちゅ」
しゃがんだ風香さんが、僕の肉棒に舌を這わせる。躊躇いのない舌のうごきに快感が遅れてやってくる。
「んあっ……れろ、んっ……せいくんの……んあっ」
「清明、もっとチューして、んっ……」
僕は南川のお尻から指を、秘部へ這わせた。
キスをしながら、喘ぎ声をあげる南川。
「んんあッ、ちゅ、んんんッ……んあッ」
「ちゅぷ……んっ」
夢中になって僕の肉棒を舐めていた風香さんが。口を大きくひらくと、肉棒を飲みこむ勢いで咥えこんだ。
「あむぅ……んちゅぅ……ん」
淫靡な音がちいさな風呂場で反響する。シャワーは出しっぱなし。湯気がどんどん立ち、白くなる視界。そして、思考も白くなる。
「雫ちゃん……雫ちゃんのも、舐めたい……」
「うちの?」
僕とのキスを止め、南川が風香さんを見る。
肉棒を口から出した風香さんが、にっこり笑う。
「雫ちゃん……足、ひらいて……」
「え? 舐めるんですか?」
戸惑いながらも、南川は足をひろげていった。
「どうしよう……すごいドキドキする……」
南川が湯船のへりに右足をかける。ぱっくりと足がひらかれ、桃色の陰唇がはっきり見てとれる。しゃがんだままの風香さんが顔を南川の股にむけた。
「キレイな……おマ×コだね……」
「あッ……風香さん、息が……」
「感じやすい?」
「はい……」
足を大きくひろげた南川がすこし不安そうにうなずいた。
「な、舐められると、すぐイっちゃうんです……うち……」
「じゃあ、優しくするね。せいくんは、手で我慢してね」
言って、風香さんが僕の肉棒を手で握って、やさしく、だけど素早くしごきはじめた。肉棒をしごきながら、風香さんは南川の股に顔を埋めた。
「は、あ、ああッ、風香さん、優しくって言ったのに、ああんッ……ああああんッッ……」
南川は風香さんに舐められながら、顔を上にむけた。ぺちゃぺちゃ。風香さんが南川の秘部を舐める音もきこえる。
感じまくる南川を見ながら、僕は風香さんの手淫に耐えた。すこしでも気を緩めたら、すぐにでも射精してしまう。
風香さんはどこを舐めたら気持ちいいか熟知しているようだ。快感の坩堝《るつぼ》にいる南川が、急に蕩けた顔で僕を見た。
「ダメだ。うち、イクッッ……」
瞬間、南川がびくびくと体を震わせて絶頂を迎えた。
僕も我慢の限界を迎え、激しく射精する。どびゅる、と濃い精液が尿道を押しひろげて、外に飛び出した。南川の股に顔を埋めた風香さんの頭に白濁液が多量に飛びかかる。
顔を南川の秘部から離すと、濡れた口を拭う風香さん。髪についた僕の精液に気づき、大人の笑顔を浮かべた。
「二人とも……つづきは、部屋でしようね」
こくこく。僕と南川は同時にうなずいた。
風香さんがドライヤーで髪を乾かしているあいだ、僕と南川はベッドで激しく交わっていた。一度絶頂した南川の膣は濡れに濡れていた。
「ああッ、あッ、清明ッ……ああッッ、気持ちいいッ」
正常位で、僕は南川の一番奥に肉棒をぶつけつづけた。
大きく口をあけながら嬌声をあげる南川。
「んなッ、奥、あたるッッ……ああッ」
「……せいくん、イっちゃダメだからね?」
風香さんの髪は長いため、乾かすのに時間がかかる。
僕も南川も風香さんも、全員が裸だった。ベッドがギシギシと音を立てる。
「よしっ。じゃあ……わたしも、一緒にいいかな?」
乾かした髪を頭の上で緩くまとめる風香さん。
僕に突かれながら、南川がうなずく。
「あッ、んんあッ。んあッ……風香さんも、来てください」
風香さんのほうへ手を伸ばす南川。風香さんがベッドのほうにやってきた。そしてすこし考えたあと、四つん這いになって尻を僕にむける。
「せいくん……いじって」
仰向けの南川の右側で風香さんは四つん這いになっていた。引き締まった臀部が、僕のすぐ脇にあり、秘部からは透明な蜜液が漏れ出ていた。
「風香さん……」
「ああんッ」
僕が右手で割れ目に触れると、ぴくんと風香さんが反応した。
止めていた腰のうごきを再開すると、ふたたび南川が声をあげる。
「やッ……あッ、清明、んあッ……もっと……」
「雫ちゃん……おっぱいは感じる?」
「へ?」
「あむ……」
と、風香さんが四つん這いのまま南川の乳首にしゃぶりついた。
「ふぁッ……ああッ。風香さんッ、ああんッ」
「ちゅぅ、んあッ……ちゅぷ」
僕に秘部をいじられながら、風香さんが南川の乳首を吸う。下半身と上半身の刺激が腹部あたりで混ざり合っているのか、南川の体が赤くなっていく。下腹部が荒く呼吸をしていることを示すように、激しく上下していた。
「ああッ……乳首、イヤッ……ダメッ……ストップッッ。ああんッ」
こんなに南川が感じているのは久しぶりだ。大きく足をひらき、僕を全面的に受け入れている。自分に襲いかかる刺激に驚いているようだった。
「ちょ、ああッ……また、イっちゃうからッ……清明も、風香さんも、あああッ、激しいッ。イクッ……うちッ、イクッッ」
がくん、と大きく南川の体が痙攣し、膣が強く収縮して肉棒をしめつけた。口を半開きにした南川が、あ、あ、と呼吸を繰り返す。
「深く、イッたみたいだね……」
南川の乳首から口を離すと、風香さんが笑った。
呼吸を整えながら南川が風香さんを睨んだ。
「石野家に……殺される……」
ゆっくりと、南川が体を起こす。膣から肉棒を抜くと、四つん這いで僕にいじられる風香さんを見つめた。
「清明……次、風香さんを二人がかりでやろう」
「ん? どういうこと?」
風香さんは、南川の提案に戸惑う。
指を風香さんの秘部から離すと、僕はうなずいた。
「わかった……」
「ちょ、せいくん?」
僕は、風香さんの体をうしろから抱きよせた。ベッドにすわった風香さんを羽交い締めにすると、うごけないように足も使って固定する。
「ええ? わたしは、普通でいいのに……」
「ダメです。今日は、死ぬほど気持ちよくなってもらいます……清明、そのままね」
言うと、南川がベッドからおりて、クローゼットをあけ、奥のほうから箱をとり出す。
「な、なにそれ……」
「けっこう前に、夜中のテンションで買ったんです」
南川が戸棚から出してきたのは、マッサージ機器だ。しかし、それをマッサージの用途で使っている人はすくないだろう。取っ手の先に、ソフトボールくらいの玉がついている、いわゆる電マ。
「そ、それって……」
「うちと清明って、めちゃくちゃセックスするけど、あんまオモチャ使わないんです」
箱から電マをとり出すと、除菌シートで玉の部分をキレイにする南川。電源コードをコンセントに差し込み、スイッチをオンにする。ぶぶぶぶ。くぐもった振動音が発せられた。
「風香さんは、使ったことあります?」
「な、ないよ……気持ちいいの?」
僕に羽交い絞めにされた風香さんが不安そうにきく。
「うちも知りません……でも、マッサージ器だし、気持ちいいんじゃないですか?」
「なにそれ、わたし、実験に使われるの?」
すでに風香さんは抵抗する気はないらしい。
僕はカタチだけ羽交い絞めにした状態でチカラを緩めた。
興味深そうに南川の持つ電マを見つめる風香さん。
「じゃあ……はじめは、弱めからいきますね……」
「う、うん……」
風香さんが自らゆっくりと足をひろげる。
目を爛々とさせた南川が、電マを風香さんの秘部にちかづけた。
「風香さんのおマ×コ……エロ……」
「そ、そう? 変じゃないよね?」
「キレイです」
電マと秘部が接触したのが、音の変化でわかった。
「ああああッ……ちょ、あああッ。んんあッ。無理ッ! あああッ」
逃げようとする風香さん。僕はふたたびチカラをこめて、風香さんを羽交い絞めにした。足をバタバタさせて風香さんは電マの刺激を避けようと身をよじる。
「せいくんッ……あああッ、雫ちゃんッッ……待ってッ。一回、待って」
「そんなに感じます?」
と、電マを風香さんの秘部から離し、南川が尋ねる。
何度も縦に頭をふると風香さんが言った。
「すごい……もうちょい、触れるか触れないくらいにしてくれる?」
「ごめんなさい。押しつけすぎたんですね……じゃ、これくらいで……」
南川が優しく電マを風香さんに接触させる。
「はふッ。んんあッ……」
「平気ですか?」
「あッ……うん。これくらいなら……あッ」
体をひくひくさせながら風香さんが喘ぐ。巨大な胸が、ぷるんぷるんと揺れて扇情的だ。
真剣な顔をして南川が風香さんの秘部に電マをあてていた。
「ああッ……すごッ。あああッ……これ、すごいッ」
「気持ちいいですか?」
「気持ちいいッッ……ああッ、雫ちゃん、上手ッ……うぅぅんッ」
僕は風香さんから離れた。支えをなくした風香さんが、ベッドに仰向けになる。
「ああッ……」
風香さんが足を大きくひろげて、腰をふりはじめた。あまり強くなりすぎないように、南川は慎重に電マをあてている。
我慢できなくなった僕は、仰向けになった風香さんの口元に肉棒をちかづけた。
「風香さん、僕のも……」
「んんあッ。んんッ……いいよ……あむ」
電マに激しく感じながら、風香さんが僕の肉棒を咥えた。口内はねっとりした唾液に満たされていて温かかった。
「んんんちゅッ……あぷッ……ああぐッッ」
年下の女子に電マをあてられ、年下の男子の肉棒を口に咥える風香さん。年下二人に好き勝手犯されているお姉さんという構図は、南川と僕をいつも以上に興奮させた。
僕は風香さんの巨大な胸へ手を伸ばした。
「ああッ……んッ……ちゅちゅ、んなッ」
さらに南川が電マを風香さんに押しつけたらしい。はぐッ、と声をあげ、風香さんが体を震わせる。強い刺激にも慣れたのか、電マを止めるようには言わない。
「ぷはっ……あああッ。雫ちゃんッ……わたし、イっちゃう!」
肉棒を口から出すと、風香さんが叫ぶように言った。
うなずくと、南川がにっこり笑う。
「遠慮せずに……深く深くイってくださいね」
「あああッ……激しくしてッッ」
乱れた風香さんが、南川に懇願する。言われた通り、南川が電マを強く押しつけた。ぶぶぶぶ。卑猥な振動音が部屋の中で響く。
「んんんんなッ……イクッッ……イ、クッッッ――――」
腰を浮かせて、風香さんが震えた。びくびく、と首筋まで真っ赤にして絶頂する。
素早く南川が電マを秘部から離した。
「あああッ……しゅごいッ……あッ。深い……んあぁ……」
絶頂の余韻に浸ったあと、風香さんが脱力する。
電マのスイッチをオフにしてから南川が言った。
「これで、風香さんを撃破した」
「ゲームじゃないんだから……」
と、僕がつっこむと、南川が意味ありげな目を僕にむける。
「次は、清明だからね?」
「え?」
「そうだよ……」
のっそりと、体を起こす風香さんは、まだ呼吸が荒いままだ。潤んだ目で僕を見て言う。
「せいくん……今日は、寝れないの覚悟してね」
「ちょ、え? でも、南川とテレビゲームする約束だから」
慌てる僕に、南川が抱きついてくる。露出した肌と肌が触れて心地よい。
「そんなのいつでもできるじゃん! 今日は風香さんいるし、いっぱいエッチしよ!」
苦笑いする僕に、美女と美少女による攻撃が始まった。
結果、僕は風呂場での一回も含めて四回射精し、いつの間にか寝てしまい、涼やかな声で起こされるまで熟睡していた。
「清明くん……起きてくださいな」
目をあけると、南川の顔があった。キレイな瞳にそのまま吸い込まれそうになる。
思わず、南川へキスをしようとすると、風香さんの声がした。
「せいくん起きた?」
台所のほうからエプロンをした風香さんがやってきた。
キスをすることなく、僕から離れた南川は、黄色いTシャツにホットパンツという格好をしていた。
「起きましたよ」
「ごめんね、せいくん」
謝る風香さんは、ワイシャツに黒いスカートの上に桃色のエプロンをしていた。そのアンバランスな感じが、すごく生活感があってエロい。
「わたし、そろそろ行かないとだから。朝ご飯だけ、一緒に食べようと思って」
「日曜日なのに、仕事なの?」
時計を見ると、もうすこしで昼になるという時間だった。
「あんまり曜日は関係ないかな……」
テーブルの上にトーストとヨーグルトが並んでいた。
僕は顔を洗って、服を着ると、南川と風香さんと一緒にすわった。欠伸を噛み殺しながら、トーストをかじった。
「昨日、ききそびれちゃったけど、羽衣奈との話はどうなったの?」
南川がきいてくる。ああ、そんなこともあったな、と仲野との会話がひどく昔に感じられた。
記憶を探っていると、風香さんが言った。
「さっき、雫ちゃんにきいたけど、恋人のふりをするんだって?」
「そう……」
ゆっくりと頭を覚醒させながら僕は仲野からの頼みを二人に話した。プライベートなことは伏せて話すと、なんとも荒唐無稽な頼みだった。しかし、二人とも僕があえてしゃべっていない部分があることを理解してくれて、内容を飲みこんでくれた。
「なるほど。それで、お父さんと会うわけか……なにか協力できることあったら言ってね」
「そうするよ」
「じゃあ、ごちそうさま。わたし行くね」
「洗い物は、うちらでしますから」
立ちあがる風香さんに南川が言った。
「ありがとう」
風香さんがエプロンをはずしてカバンを手にした。
僕と南川は玄関まで風香さんを見送りに行った。
「じゃ、また来るね」
「僕のほうからも、そっち行くから」
「期待しないで待ってるよ……ちゅ」
靴を履き終えた風香さんが、僕にキスをした。
ぎょっと目を見張って南川が見ている。
「えへへ……ごめんね、雫ちゃん」
唇を離すと、風香さんが南川に言う。
「せいくんの、今日のファーストキス、もらっちゃった」
なにも言い返せず、苦笑いを浮かべる南川。
そんな南川の頭を撫で、ついで僕の頭を撫でる風香さん。いってきます。そう言って、風香さんは爽やかな香りを残して部屋を出ていった。
「あの人には敵う気がしない……」
ドアがしまると、南川が脱力するようにつぶやいた。
南川は、仲野の家の事情を知っていたため、僕があえて話さなかった部分についても理解していた。
「羽衣奈とは、それがきっかけで仲良くなったんだよ」
「それって?」
南川が拭いた皿を僕が戸棚に入れていく。
「お父さんと出かけるときの格好を相談されてさ。そういう服とかって、ぜんぜんわかんないっていうから」
「ああ……」
たしかに、昨日会った仲野の格好は、普段の仲野から想像できないものだった。
「何度か一緒に買い物に行って、ブランドとか教えて……それで、なんとなく一緒に行動することも多くなった感じでさ」
「南川たちと馴染んでるよな」
「だよね」
くすり、と笑う南川。
仲野は南川とはまったく違うタイプだ。どうして、南川のグループにいるのか疑問なくらいだ。
「うちも、最初は単体での付き合いになると思ってたんだけど。案外と馴染んでるんだよね」
南川たちと一緒にいる仲野は浮いていない。大声で笑ったり、冗談を言ったりする質ではないのに、馴染んでいる。本人も居心地が悪くないようで、プールや祭りにも一緒に行ったという。
片づけを終えると、僕は勉強を始めた。もうすこししたら僕は水やりに学園へ行かなくてはいけなかった。南川は午後から友達と会うらしいが、それまでは僕の部屋でゲームをするという。
「ねえ、うちも協力する!」
ゲームをしていた南川が唐突に言った。
「ん?」
ノートから顔をあげると、僕はソファにいる南川を見た。
テレビ画面を見たまま真剣な顔で南川が言う。
「ほら、羽衣奈のこと……」
「今回は南川にやってもらうことなさそうだぞ」
SNSでなにか情報を拡散する必要もないし、友達に噂をひろげてもらう必要もない。むしろ今回の恋人のふりが他の人にバレると面倒なことになりかねない。二見と付き合っているのに、仲野とも付き合っていると勘違いされたら大変だ。
「こうやって情報共有して、意見をもらえれば十分だ」
今回は、あくまでも仲野の父親に付き合っていると思われればいい。
「でもさぁ……」
南川が唇を尖らせる。ふたたびテレビ画面ではカーレースが始まっていた。
「……うちも、なにかしたいなぁって」
「なにかって……」
「文化祭終わってから、生活に張り合いがないんだよね」
「勉強しろ、勉強」
僕はそう言って、ふたたびノートに目をむけた。勉強しろとは言ったものの、南川は、勉強はしているしできる。次のテストも余裕な感じがあった。
「……小夜は仕事が忙しいし、清明と恋人同士になったじゃん」
「そうだな」
「雛ちゃんは生徒会副会長になって、来月の生徒会選挙に立候補してるよね」
「だな」
「ユッチーもハルくんと別れたことにしちゃったし……」
はぁ、と溜息を吐いてから南川が言う。
「うち、やることないんだよね」
「あるだろ……」
ふたたび僕は南川のほうを見た。南川も僕のほうを見ていた。小首をかしげて、僕の言葉を待っている。
「ほ、ほら……南川は友達がいっぱいいて、予定が詰まりまくってるじゃないか。それ以外のときは、僕と一緒にいるし」
「そーだけど、それっていつも通りって感じじゃん」
ゲームのコントローラーをテーブルに置くと、南川は、ソファに横たわり、大きな欠伸をした。
「勉強しろ、勉強」
「うっさいな! そればっかり! 勉強なんて、やったら結果が出るんだからつまんないよ!」
頬を膨らませる南川。足をソファの上でパタパタさせながら言う。
「もっと変化がほしいんだよ!」
「なにもないっていうのが一番幸せなんだぞ?」
「なにその人生三周目の人みたいな言い分……」
威嚇する子猫のように南川が歯を見せた。
「うち、まだ若人なので、その境地には達してないの!」
そのときだった。ゲームのコントローラーの横にある南川のスマホが震えた。と、同時に充電器につなげたままの僕のスマホも震える。
「あ、ユッチーだ」
「なんだ? グループに送ってくるなんて……」
僕のスマホの通知にも結城の名前があった。偽物の恋人であるハルくんのことを話し合うために、僕、南川、結城で作ったグループで、文化祭のあとは使っていなかった。
「これ、マジ?」
「だろうな。こんな嘘を吐く理由はないから……」
結城からのメッセージを読んだ僕と南川は顔を見合わせた。
「よかったな南川……変化だ」
「これは違うし! え? これ、うちが願ったから?」
スマホに視線をもどした南川が苦々しく笑った。
僕はもう一度、結城から送られてきたメッセージを読んだ。
>さっき太田に告白された
>断ったけど、ヤバいかも
>これから会えないかな?
>いま、学園です
つまり結城は部活で学園に行っていて、太田に告白されたということだ。太田も部活で学園に来ていたのか、それとも結城に告白するために来たのか。いろいろ考えを巡らせてしまうが、どれも予想の範囲を超えない。
「とりあえず、会って話をきいたほうがいいね」
同じことを思ったのか、南川が言った。
ノートを閉じながら僕はうなずいた。
「そうだな……」
「午後の予定はキャンセルしなきゃ。ユッチーとどこで会う?」
「園芸部の部室でいいんじゃないか。今日の水やりは僕だけの予定だし」
「わかった。じゃあ、ユッチーには清明から連絡しておいて」
南川は午後からの予定をキャンセルするために、友達への連絡を始める。
そんなに慌てる必要はないかもしれないが、なにか起きてからでは遅い。
>園芸部の部室で会おう
>すぐに行くから待ってて
>お茶とか、勝手に飲んでいいから
既読にはなったが、返事はなかった。
僕は制服を着て、学園へ行く準備を済ませる。南川は未だ友達と電話で話している。
「南川……先、行く……時間差があったほうがいいから、すこししたら、南川も」
小声で告げると、友達と電話しながら南川が指でOKを示す。
合鍵を靴箱の上に置くと、僕は部屋を出た。