クラスの中心キャラの南川雫。普段は地味な姿だけど美少女の二見小夜。
二人との出会いで、僕の暗黒の学園生活は鮮やかに色づき始めた!
二人と一緒に波打ち際で遊んだり、何気ない青春を過ごしているけど、
僕たちは裏では3Pエッチしている、セフレ以上恋人未満な関係。
性と恋の狭間で思い煩う内に、修学旅行で三人の心を揺らす事件が……
小説投稿サイトでランキング1位の学園青春劇! 書籍版限定書き下ろし付き!
第一話 数珠つなぎセックス
第二話 激しい夜への助走
第三話 全部してあげるから
第四話 後輩は男の娘?
第五話 青姦にちょうどいい日
第六話 夕焼けの名残
第七話 プリンとストーカー
第八話 全部、満月のせい
第九話 この席は僕のもの
第十話 舞台飛び
第十一話 好きのち交尾
第十二話 彩られた日々
幕間 暗中飛躍
番外編 ぼくと先輩の主従関係
書き下ろし 禁欲の果て
本編の一部を立読み
第一話 数珠つなぎセックス
チャイムもノックもなかった。
がちゃり、と玄関のひらく音がして、ベッドにすわっていた僕、石野清明《いしのせいめい》は、参考書から顔をあげた。
二見小夜《ふたみさよ》が、さも自分の家のように部屋の中へと入ってくる。
「雨だねぇ……気が滅入るわ」
ただいまを言われても妙だが、挨拶もなかった。ローファーを脱ぎ、傘立てに傘を立てると、二見はベッドにすわっている僕を見て陽気に笑った。
「びしょ濡れですわ」
「シャワー、浴びる?」
「そうする」
言って、二見は玄関にあるタオルを手にした。黒髪のおさげに、丸い黒縁眼鏡。いかにも優等生といった風貌の二見は、カバンを廊下の端に置くと、洗面所に姿を消した。
「イッシー! Tシャツ借りるね!」
洗面所兼脱衣所から二見の声がする。
「あと、ハンガーも借りる! 帰りまでに乾けばいいけど」
何度か二見は僕の家に泊まっているため勝手を知っている。歯ブラシや化粧品なども置き、いまや僕の物よりも二見たちの物のほうが多い。
シャワーを浴びた二見がリビングにやってくる。僕の紺色のTシャツは二見には丈が長く、ワンピースのようになっていた。ノーブラなのだろう、胸の頂点がどこだかわかる。
髪をタオルで拭きながら、二見が台所へと行く。髪をほどき、眼鏡をはずした二見は別人のようだった。足が長く、モデル体型なのは変わりないが、一気に垢抜けて、都会的な空気を全身に纏っている。
「とうとう明日だと思うと、緊張でヤバいわ……」
「なにが?」
「なにがだって!? 数学のテストが返ってくるんだよ! 明日でしょう?」
冷蔵庫から麦茶をとり出す二見。
「イッシーは成績がいいから、そういうの気にしないかもしれないけど……」
「二見も大丈夫だろ」
「いやいや、数学だけは予想がつかない」
「自己採点だと、いちおう赤点じゃないんだよね?」
「いちおうね……でも、ギリギリ」
二見は、僕の家に泊まって、中間テストのための勉強に励んだ。数学のテストの前日にはほとんど徹夜で勉強した。その結果がわかるのが、明日の数学の授業というわけだ。
「胃がキリキリする……こんなにテスト前に頑張ったの初めてだから」
コップに入れた麦茶をテーブルに置くと、二見がベッドにいる僕へとちかづく。
僕は急いでズボンとパンツを脱ぐ。勃起した肉棒が跳ねるように外に出てくる。ちらりと肉棒を一瞥してから、二見がベッドにのった。
「雫《しずく》がさ……わたしが補習だったらイッシーと二人でデートするって言うんだよ。意地悪じゃない?」
「そ、そうだな」
ベッドに仰向けになった僕の上に二見がまたがる。二見はブラジャーどころか、ショーツもつけていなかった。長い黒髪をかきあげると、腰をおろしていく。
「んッ……ちょ、キツイね。だから、ん、補習だけは、ほんと勘弁」
ぬぷぷ。僕の肉棒が二見の膣へと埋まっていく。
二見と初めて交わったのは一週間ほど前だが、その後はほとんど毎日セックスしていた。一日二度することもあり、回数はすでに二桁を超えているだろう。
「イッシーがうごく? わたしがうごく?」
体の中へと肉棒をすべて挿れてから二見がきく。Tシャツ一枚だけを着たモデルのような美少女に問われ、肉棒がぴくんと反応した。
「んッ……チン×ンで返事されてもわかんないし」
「二見がうごいて」
「了解」
短く返事をして二見が腰を前後にゆっくりうごかしはじめた。すぐに、くちゅくちゅ、と結合部が音を立てた。
「あッ、ん。はッ、あ、んッ……気持ちいぃ……」
腰をふりながら、二見がにっこりと微笑む。
「んッ……しかもさ……補習の日、すごい晴れるらしいんだよね」
「島に行くにはちょうどいいわけか」
「そうそう。はんッ。だ、だからさ、んあぁッ、補習するのがもったいないっていうかッ……あうぅ、んッ」
会話をしながら二見と交わっていると、玄関がひらく音がした。顔をむけると、南川《みなみかわ》雫が傘を閉じ、ローファーを脱いでいた。
「雨もイヤだけど、この湿気が嫌い……」
ぶつぶつ文句を言いながら、南川もやはり勝手に玄関のタオルを手にすると、ショートボブの髪を拭きはじめた。ベッドの上で僕とセックスしている二見を見て、南川がわずかに眉をひそめた。
「あれ? 小夜、シャワー浴びたの?」
「だって、んッ……びしょびしょだったからっ……」
二見が腰を止めずに答えた。
「うちも浴びよ……石野、Tシャツ借りるね」
「あ、ああ……」
僕の返事をきくより先に、南川は洗面所へといなくなっていた。このままだと、僕の着るTシャツがなくなってしまいそうだ。
「ん、あんッ。イッシーの、いいとこ当たる、んッ。ああッ」
二見の腰のうごきがすこし速くなる。
「雫が出てくる前に、イッちゃおうか? どうせ雫とすぐするでしょ?」
「たぶん……」
「じゃ、うしろから……して」
二見はうごきを止め、肉棒を体内から出した。透明な蜜液が、二見の太ももをつたっていく。
ベッドからおりると、二見はソファの背もたれに掴まった。僕がベッドからおりて、背後に立つと、腰を突き出し、肉棒を挿入しやすいようにしてくれる。ぱっくりと口をひらき、雌穴が、ひくひく蠢いていた。
二見の腰を掴むと、僕は肉棒を穴にあてがった。
「……んあぁッッ」
声をあげる二見。ぬらぬら、と生き物のような小陰唇が肉棒の先に絡みつく。
「くはッッあぁ……やっぱ、うしろからされるの、好きぃ」
先っぽを挿れただけで、二見が体を震わせる。
二見の体は柔らかく、膝を伸ばしたまま、ソファの背もたれを掴んで、腰を突き出すことができる。そのため、肉棒はスムーズに膣へとめりこんだ。
「はッ、うッ。ああぁ……イッシーが、うごいてね。すぐイクからッ」
言われた通り、僕は腰をうごかした。ほどよい膣圧が肉棒全体にかかり、腰を引くときにはカリの部分が襞に撫でられ、ぞわぞわした。
あまり激しくせず、一定のリズムで腰を前後にうごかす。
「はッ。あぅッ、んんッッ……すごッ、いいッ……あ、あ、あッ、んんあッッ……」
「二見、僕、そろそろ」
「いいよ……たぶん、一緒にイケる感じ……はッ、んあッ、ん。出すとき、一番奥突いてね……突いてね……」
限界だった。睾丸にたまった精液が沸騰したように暴れ出し、気をゆるめた瞬間に大量に放出されるのがわかる。僕はすこし乱暴に腰を突きながら、二見が着るTシャツの中に手を伸ばした。巨大な胸を鷲掴みにする。
「ああああぁッッ。はあんッ、ダメダメッ、イッちゃうッッ」
人差し指で乳首に触れると、二見が大声をあげた。
「……んんあッ、イッシーより、先、イっちゃうよッッ」
「んッ、二見――」
僕は二見の一番奥を突いた。子宮口を、ぐぐぐぐ、と奥に押してから一気に射精する。どびゅりゅっ。濃い精液が二見の中へと放たれた。
「んんんんはぁッッッ――――」
同時に二見が絶頂を迎える。ソファにしがみつきながら、体をびくびくと痙攣させた。
僕は一滴残らず、二見の子宮へと精を注いだ。
「あれ? もう終わったの?」
ちょうど南川が、洗面所からタオルを首にかけて出てきた。
はぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返し、二見が親友のほうを見る。
「いま、ちょうどね……はぁ……すごかったわ……」
「じゃあ、小夜、石野のキレイにしておいて……次、うちだから……」
言いながら、南川はテーブルにあった麦茶を飲んだ。
「あ、それ、わたしが入れたやつだから……ああんッ、ちょ、イッシー?」
僕が肉棒を引き抜くと、二見が咎めるように睨んでくる。
コップにあった麦茶を全部飲んでから、南川が二見にきいた。
「小夜、なにか言った?」
「ちゃんと、新しく入れておいてよね? イッシーはいきなり、チン×ン抜かないで」
「ごめん」
と、素直に僕は謝る。
「許します」
そう言ってうなずくと、二見は、めくれていたTシャツを元にもどした。
「イッシー、ソファすわってくれる?」
言われた通り、僕はソファにすわった。
二見が床に膝をついて、果てたばかりだけど、まだまだ硬い肉棒を細い指で握った。
「……ちゃんとキレイにしないと、雫に怒られちゃうからね」
ウィンクしてから、二見が精液と愛液でびちゃびちゃの肉棒を躊躇いなく咥えた。
「ちゅぅぅ」
尿道に残っていた精液が二見によって吸い出されていく。
「あッ……んんあッ、あ。いいッ……あッ、んあッ」
僕と南川は風呂場で交わっていた。
二見は帰ったが、南川は泊まっていくとのことだ。明日も学園だが、性欲には些末なことだった。
湯船のふちを掴み、背中を僕にむけている南川を、うしろから何度も突く。くちゅんくちゅん、と絶え間なく結合部からは音がして、風呂場に響いた。
「ぁぐッ。うあッ、あッ、んんあッ。いいッッ……すごく、気持ちいいッッ」
今日だけで南川とは二回目だった。さきほど、二見に肉棒をキレイにしてもらったあと、ソファで一度している。その後、二見を駅まで送りがてら、僕はランニングに出た。帰ってきてシャワーを浴びていると、南川がやってきて黙って背中をむけたのだ。濡れた秘部は、一回じゃ足りない、と無言で告げていた。
「ふあッ、ンッ……石野、やッ、あッ……ヤバッ、またイクッッ。んんんあッッ――――」
風呂場で南川がイッたのは、四回目。イクたびに、体を痙攣させ、つま先立ちになるためすぐわかる。肉棒を引き抜くと、南川がしゃがんだ。
「はぁ、はぁ……あぁ……石野は、イかなくていいのかい?」
荒く呼吸を繰り返しながらも、南川が僕の肉棒を見つめて尋ねる。
僕は腰をすこし前に出すと、南川に言った。
「これ以上は南川がもたなそうだから……僕は口で出すよ」
「口で出すよって……出させるの、うちなんだけど。顎が疲れる前に出してよ? はむっ」
文句を言いながらも、南川はいままで自分の中にあった肉棒を咥えた。すぐに舌がうごきまわり、肉棒を刺激する。
「ちゅ、んちゅぅ……ちゅぷ。あちゅぅ……ん」
南川が頬を窄め、ちゅうちゅう、と射精を促すように肉棒を吸う。
あっという間に射精感は高まり、限界を迎えた。
「あッ……南川、出るッ」
どぴゅっ、どびゅ。口の中に出された精液を、南川がすべて飲みこんでいく。
「んく、ん……く、ん……あぁ……マズ」
南川と一緒に風呂場から出ると、順番に髪の毛を乾かした。そして、同じベッドへ入ると、南川が僕の体にぴたりと密着する。ここのところ南川は僕と一緒にベッドで寝ることが多かった。
「狭くないか?」
きくと、南川から小声で返事があった。
「慣れた。あったかい」
すぐに寝息を立てはじめる南川。
僕も南川のさらさらの髪を撫でながら眠りについた。
翌日。四限目にあった数学を終えた昼休み。
僕はすっかり習慣化した元園芸部の部室で植物に水をやっていた。
「はぁあぁ……」
ベランダにいる僕にもきこえるように、二見が大きな溜息をついた。見ると、教壇によりかかり頬杖をついて遠くを見つめている。黒髪おさげの丸眼鏡の美少女が、憂いを帯びているのも、なかなか見応えがあった。
「どうした?」
尋ねると、丸眼鏡の奥にある二見の目が細くなった。
「どうしたもこうしたもないでしょ! わかってるくせに!」
「……残念だったな」
二見は数学で赤点をとった。一点だけ足りなかった。
「わたしにとっては、できたほうなのに! 柄谷《からたに》先生、許さん!」
いまの二見の姿は、他の人たちには見せられないものだ。教師は別として、二見が勉強できないことを知っているのは、学園では僕と南川だけだ。
「あぁぁ……初デートはお預けですかねぇ?」
「補習って、一回で終わるんじゃないのか?」
僕は水やりを終えて、部室の中に入った。
教壇の上にすわった二見がうなずく。
「まあ、数学だけだったから……一回で終わるけどさ」
「なら補習以外の日に行けばいい」
意地悪で補習の日にデートに行くと南川は言っているらしいが、さすがに、本当に赤点をとった二見を置いていくことはしないだろう。
「そうなんだけどねぇ。そもそも補習を受けたくないというか……むしろ補習がある日に、穴浜島に行って、『わたしは自由だぁぁぁ!』って叫びたいわけね」
意味がわからないが、いちおううなずいておく。
「僕は教室に行くけど……二見は、まだここで泣いてる?」
「泣いてないし! わたしも、行くし!」
二見は、教壇からおりると、窓に映る自分をたしかめてから僕と一緒に廊下へと出た。隣り合って歩いているところを人に見られると面倒なので、先に二見が階段をおりていく。
僕は一階の用具室にジョウロをもどしてから教室にむかった。
「おお、今日も助かった!」
と、まだ昼休みなのに教室の前に柄谷先生がいた。
僕が会釈してからちかづくと、柄谷先生がすこしだけ声を潜めて告げた。
「放課後に、園芸部の部室に来てくれないか? とっておきの話があるんだ」
すごく上機嫌な柄谷先生を不気味に思いながら、僕は尋ねた。
「とっておきってなんですか?」
「……まあ、とりあえず来てくれ」
「はあ……」
僕にそれを言うためだけに教室の前で待っていたのだろうか。他の生徒たちに声をかけながら柄谷先生が去っていく。
教室に入り、自分の席につくと二見がちかよってきた。
「……柄谷先生、なんだって?」
「あ……なんか、放課後に話があるから、園芸部の部室に来いって」
「わたしも、言われたんだよね……」
「二見も?」
眉をよせると、二見が僕の耳へと顔をちかづける。いい匂いがした。
「……補習を免除してやるから、来いって言うんだよ」
僕の耳から顔を離すと二見が肩をすくめた。
「変でしょ?」
「へ、変だな……」
「まあ、行くだけ行こうかなぁ。イッシーが一緒なら安心だし」
釈然とはしないようだが、二見は機嫌がいい。補習を免れられれば、補習の日に穴浜島へ行けると思っているのだろう。
僕は南川のほうを見た。予想通り、南川はこっちを見ていた。友達と話してはいるが、目だけを僕と合わせ、なにがあったの? と、無言で問うてくる。もしかしたら二見以上に南川は仲間外れを嫌っているかもしれない。
二見がメッセージを送っているはずだ。僕はなにもせず、カバンから参考書をとり出して、授業までの時間を勉強してすごした。
放課後になり、先生からの呼び出しに応じるため、僕と二見は連れだって歩いていた。昼休みと違って、先生からの呼び出しがあったという大義名分があるため、堂々と一緒に歩ける。
「ちょっと! なに二人でこそこそしてんの!」
四階についたとき声がした。ふりむくと、南川がぷんすかと肩を怒らせながら、僕と二見へとちかづいてくる。
「こそこそって……」
僕は言った。
「だから、柄谷先生に呼び出されて……あれ? 二見が連絡してると思ってた」
「あ、わたしはイッシーがしてるものと……」
「どっちもしてないよ!」
頬を膨らませ、南川が鼻から息を吐き出した。
「で、柄谷先生が二人になんの用なわけ?」
その質問には二見が答えた。
「わかんないんだよね、それが……とりあえず来いって言われただけで」
廊下の一番奥にある園芸部の部室をちらりと見ると、南川がうなずいた。
「まあ、二人きりでこそこそしてないならいいけど……」
「雫に内緒でイッシーとなんかすることは、ほとんどないから安心して」
「ほとんどって……絶対じゃないんだ」
「だって雫の誕生日のサプライズ計画とかは、ほら……雫には教えられないし」
「誕生日……サプライズ?」
そこでぱっと顔を明るくすると南川が笑った。
「ま、そ、そういうのは、まあ……しかたないよね」
「そういうこと以外は、雫に秘密はないよ」
「わ、わかった……信じる」
南川はつぶやくように言うと、今度は僕のほうを見た。
「石野は? うちに内緒にする?」
「……し、しない」
「ほんとに?」
「ほんとだ。僕にとって南川が一番だから」
「へ?」
みるみる頬を赤くすると、南川が何度もうなずく。
「一番……あ、あ、あそう。そ、そうですか。へえ」
「南川?」
「石野はわたしが一番ですか……そうですか……」
「どうして敬語なんだ?」
きくと、南川が急に頭をさげた。
「あざーす!」
野球部のような口調でお礼を言ったと思うと、次の瞬間、ぱっと顔をあげた。
「では、達者で!」
踵を返して階段を駆けおりていく南川。
去っていく親友のうしろ姿を見ながら二見がくすくす笑った。
「なにあれ……雫、動揺しすぎなんだけど」
「……変なやつだな」
「イッシーも雫の扱いに慣れてきたってことかな?」
「扱い? ああ……いや、南川が一番なのはほんとだからな」
僕はふたたび廊下を歩き出しながら言った。
小走りで、僕に追いつくと、二見が肩をぶつけてきた。
「イッシーは雫が好きなんだねぇ、なるほどなるほど」
二見がさっきの南川を真似するように何度もうなずいた。そして、部室に入る直前にぼそりと付け足した。
「それはそれで、嫉妬しちゃうなぁ」
まだ柄谷先生は部室に来てなかった。
「すわって待ってよっか……」
部室の後方に無造作に積まれていた椅子を、前のほうに持ってきて並べた。すこし蒸し暑いので、窓をあけると、気持ちのよい風が入ってきた。
「悪いな! ちょっといろいろ手間どった!」
勢いよく柄谷先生がやってきて、教壇の前に立った。すわっている二見と、窓の横に立っていた僕を見て満足気にうなずいた。
「全員いるな……よしよし」
「二人しかいないですけどね」
僕が二見の隣にすわりながら言うと、柄谷先生が笑った。
「二人で全員だ。あははは」
「先生……わたしと石野くんになんの用ですか?」
と、二見がか弱い声を出してきいた。
僕はぎょっとして二見を見てしまった。教師に対するとき、こんな風なのかと驚いた。
「気になるところだよな」
言いながら、柄谷先生が不気味な笑顔をつくった。いや、本人はいたって爽やかな笑顔をしたつもりなのだろう。歯だけは健康的に白いが、なにせ他のパーツが厳つすぎる。
「ここに園芸部の復活を宣言する!」
どうだ、と言わんばかりに柄谷先生が僕へと顔をむけた。
「部長は、俺の一存で石野! おまえがやれ!」
「え? はい? 部長?」
「部員は、いまのところ、二見だけ!」
がた、と椅子を倒しながら勢いよく二見が立ちあがった。
「先生! もしかして園芸部に入ることが補習を免れる条件ですか?」
「そうだ!」
「なんじゃそりゃ!」
あっという間に被っていた猫を脱いでしまう二見だったが、柄谷先生はまったく意に介さず、あっけらかんとしている。
「二見も石野も友達がいないからな! 部活でもやって友達をつくったほうがいい!」
「ちょ、え? どういうことです? 園芸部で友達をつくるんですか?」
二見の質問は無視され、柄谷先生が頭をかきながら説明を始める。
「活動内容はおいおいだ。とりあえず、やってみろよ。石野は植物が好きみたいだし」
とんだ勘違いだが、僕は否定も肯定もしなかった。
「二見は、ほら、勉強が苦手なぶん、石野と仲良くなれれば得だろ?」
「……ま、そ、それはそうですけど」
二見が僕を見て苦笑いした。もう仲良くなっているとは言えず困った様子だ。
僕は二見が倒した椅子を直しながら先生にきいた。
「先生、決まりでは、部活として認められるのは、部員が五人からですよね?」
「ん? そうだ。だから、とりあえず同好会ってカタチで、俺のほうから申請してやるから。顧問は俺がする……で、おいおい部員が集まったら部活にすればいい」
「同好会も、三人いないとダメなはずですよ?」
僕は恵万《けいまん》学園の校則を思い出しながら質問した。
「ねえ、恵万学園の校則を暗記してるの?」
二見が椅子にすわり直す。
「まあ、入学前に一通りは……」
「なにそれ、怖い」
自分の体を守るように二見が腕をクロスにした。
僕も椅子にすわり直すと、柄谷先生へ視線をむけた。
「だから、同好会も無理なんじゃ?」
「それもおいおいだな……」
全部、おいおいだった。見切り発車したのだろう。
「……とりあえず、石野と二見の二人で園芸部を始めててくれ。部員の募集とか、いろいろやれることはあるだろ」
「あと、ベランダの植物への水やりですよね?」
「悪いな石野。それはほんとにお願いしたい……」
そう申し訳なさそうに言って、柄谷先生は部室を出ていこうとした。
二見が慌てて先生へと声をかける。
「あ、先生!」
「なんだ?」
「三人目って、わたしのほうで誘ってもいいですか?」
柄谷先生がもちろんだ、とうれしそうにうなずいた。
「誰か心当たりがあるのか?」
「南川さんに声をかけてみます」
「南川って……うちのクラスの南川か? 二見、友達なのか?」
不思議そうに柄谷先生が尋ねる。たしかに南川と二見の接点を、学園にいるときの二人から見出すのは難しい。
「……中学校が一緒なので。知り合いなんです」
「そうか……でも、入部するか? 忙しいだろあいつ、友達多くて」
「誘うだけです。友達作りが活動内容なら、一人くらいは交遊関係がひろい人を入れないと意味がないですから」
「たしかにな……」
感心したように柄谷先生がうなずいた。じゃあ、頼んでみてくれないか、と言うと、柄谷先生はいよいよ部室を出ていった。これから柔道部の練習があるのだろう。
「いらぬお節介とは、まさにこのことだな……」
僕が椅子の上で体を伸ばすと、同じように二見も椅子の上で体を伸ばした。
「……で、どうしますか、石野部長」
「……廃部にしよう」
「早い早い! まだ、始まってもいないんだから。それに、わたしの補習がかかってるんだよ?」
スマホをとり出す二見。
「とりあえず、雫に連絡しようかな」
待ちかまえていたのか、南川はすぐに電話に出たようだ。
ちかくにいるから、ダッシュで部室までやってくるとのことだ。
一通りの説明を終えると、南川が二見をじっと見つめた。
「友達作りが活動目的の部活ね……そして、うちも部員になれと……」
「そそ。いちおう園芸もやるけどね、水やりとか?」
南川は新しく出した椅子にはすわらず、僕の膝の上に腰を落ち着けていた。ふかふかする南川の体に腕を回しながら、僕は女子二人の会話を黙ってきく。
「うち、べつに園芸に興味ないんだけど……」
「わたしだって、花は好きだけど、部活でやるほどじゃないよ?」
「なら、断りなよ!」
二見がおさげにしている髪を指先でいじりながら唇を尖らせた。
「だってぇ……断ったら、わたし補習だもん」
「補習は一回で終わるんでしょ? 部活はずっとだよ? 毎日だよ?」
「イヤなの! もう補習は受けたくないの! 『こいつ、なんでいるの!?』っていう目に耐えられないの!」
赤点をとったから二見が補習に来ているとは、一緒に補習を受けている生徒は誰一人として思っていないだろうとのことだ。勉強が好きすぎて、満点をとったのに自主的に補習を受けている変なやつと認識されている、と前に二見が言っていた。
「雫がイヤなら無理にとは言わないよ。いちおう誘わないわけいかないじゃん? わたしとイッシーが入部するわけだから」
「へ? あ、そうか。石野も入部するのか……」
「イッシーは部長だもんね?」
ね、の部分で二見が首をかしげて僕を見た。
「僕の場合は補習がかかっているわけじゃないけどな」
ちなみに、僕の数学のテストは九六点だった。柄谷先生の癖の強いテストで満点をとるのは難しいが、今回は単純なケアレスミスだった。僕としたことが、それさえなければ満点だった。
「なら、石野は入部しないってことだよね?」
なぜか南川がすこし深刻な顔できいてくる。
「……いや、するよ。先生の面子もあるだろうから」
それと、僕の頭には風香《ふうか》さんの顔が浮かんでいた。青春を謳歌してほしいと願っている僕の保護者は、部活に入ったと言えばよろこんでくれるだろう。
「……なら、うちも」
僕の膝にすわった南川が、簡単に返事をした。
「ちょ、なんで!?」
声をあげる二見。
「イッシーが入部するなら即決定なわけ?」
「だって、うちがいなかったら、石野と小夜が二人きりなわけでしょ? それイヤだもん」
南川が、僕へと顔をむけた。体が密着している状態なので、当然ながら顔同士も至近距離になる。ちゅ。自然と唇と唇を合わせていた。
「やめろ! 家でやれ!」
二見が椅子から立ちあがって、僕と南川を引きはがした。
頬を膨らませると、南川がカバンを手にする。
「じゃ、帰ろうか……」
「あ、今日はイッシーの家行かないでもいい?」
と、二見がカバンを持ちながらきいた。
「え? いま、家でやれって言ったじゃん」
「言ったけど……あんま遅くなりたくないんだよね」
「なら、一人で帰ればいいじゃん」
「まあ、そうなんだけど……なんというか、ね? いいじゃん。毎日イッシーの家に行っても迷惑だしさ」
歯切れの悪い二見に、僕はカバンを肩にかけながらきいた。
「なんか理由があるのか?」
「え? 理由って?」
「この時間に一人で帰りたくないっていうのは、二見っぽくない……」
ある程度遅い時間であれば、南川と二見は一緒に帰るが、いまはまだ夕方に片足が入った時間帯だ。むしろ二見は、南川と一緒にいるところを、学園の人たちに見られたくないはずだ。だって、雫と仲いいってバレると面倒だもん、とか言って。
「まあ……いろいろあるっていうか」
さすがに南川も二見の異変に気づき、眉をひそめる。
「小夜? なに?」
「……あんま心配しないって約束してくれるなら、言ってもいいけど」
「なに、え? なに?」
まだ二見がなにも言っていないのに、南川は心配しはじめているようだった。
僕は親友へと詰めよろうとする南川をうしろから抱きよせて止めると、二見に告げた。
「……話してほしい。言いたくないことでも、言ってほしい」
「優しい口調で、すごく強引なイッシーでした」
ふ、と肩から力を抜くと二見が苦笑いした。
「気のせいかもだけど……ちょっと前から誰かにつけられてる気がするんだよね」