放課後インスタントセックス4

著者: 佐々木かず

電子版配信日:2024/12/27

電子版定価:880円(税込)

同級生の南川雫&二見小夜と築いたセフレ以上な関係に、生徒会の観音寺雛姫が加わりスタートした夏休み。
そこに、抜群のプロポーションで大人の色気を漂わせる叔母・風香さんも参加することに!?
ナイトプールでビキニ姿の風香さんとシャワー室エッチして、
プライベートビーチで遊んだ後、ホテルで初心な観音寺と破瓜エッチして、
花火大会を抜け出して、浴衣姿の二見と夜空の下で野外エッチして、
そして夏の最後の思い出作りで、園芸部のみんなと離島での合宿へ。
青春とハーレムが加速する大増量15万字の夏休み編。電子書籍限定書き下ろし短編「浴衣エッチ」も収録。

目次

第一話 夏といえば水着!

第二話 猥褻ナイトプール

第三話 ハーレムは清く正しく

第四話 処女穴ぶっかけ

第五話 過信と慢心

第六話 シャワーですっきり

第七話 サマーミラクル

第八話 婚前交渉する悪い子

幕間 乱れ牡丹

閑話一 せっかくなら勉強以外も

閑話二 夏のボウリング

閑話三 二人きりで……

閑話四 夏に咲く花

書き下ろし 浴衣エッチ

本編の一部を立読み

第一話 夏といえば水着!



 男子更衣室で一人、僕、石野清明《いしのせいめい》は、白いハイビスカスの柄がついた青色の水着へと着替えていた。同じ学園の観音寺雛姫《かんのんじひなひめ》とショッピングモールに行ってから二日が経っていた。観音寺は、『Clearness』のことを知っていて、そこの社長が僕の叔母である石野風香《いしのふうか》だときかされると驚いていた。
「石野くんって、何者なの!?」
「ただのガリ勉だよ」
 そう答えたが、そうではないことは僕にもわかっていた。学年一、いや学園一の人気者の南川雫《みなみかわしずく》と特別な関係で、地味な格好をして学園ではなりを潜めているが、実は超がつく美人の二見小夜《ふたみさよ》とも心を通じ合わせているし、叔母の風香さんは『Clearness』の社長だ。
 そして、今日は、そんな人たちとナイトプールに来ている。
 僕自身が、僕をただのガリ勉とは思えなかった。
 更衣室を出ると、そこは光の海だった。ホテルの屋上に設置されたプールを照らす無数の照明。紫やピンク色の光がメインで、プールの中からも光っている。いろいろな色の光が水面に反射し、ゆらゆらと屋上全体を包みこんでいた。
 そんなプールの奥では写真撮影がおこなわれている。
「ごめんね、予定よりも押しちゃってて……」
 フォーマルな格好をした風香さんがちかづいてくる。やり手の女社長といった雰囲気。撮影はスタッフに任せているらしい。
「……もうすぐ終わると思うけど。そしたら、わたしも水着に着替えるから」
 と、風香さんが僕へとウィンクをした。
 僕の心臓が大きく跳ねた。
「あ……」
 僕がなにか言おうとしたとき、更衣室のほうから声がする。
「ああ、風香さん! こんばんはっ!」
「セイナちゃんだ!」
 女子更衣室から出てきたのは、水着姿の二見だった。風香さんの存在に気づき、大きな胸を揺らしながら小走りでちかづいてくる。髪をおろし、眼鏡もしていなかった。水着はカラフルなボーダー柄のビキニ。白い肌を惜し気もなく露出していて、長い腕と足に細い腰はまるでモデルのよう。
 風香さんが、ぴょんぴょん跳ねている二見の手を握ると言った。
「……セイナちゃん! うちのモデルにならない?」
「え? あ、あはははっ、うれしいです!」
 と、二見は満更でもないのか、にっこり笑った。そして、二見がちらりと僕のほうを見て、人差し指をむけた。
「イッシー、水着姿、かっこいいよ」
「あ、ありがとう……二見の、その水着も……」
 そこで僕が言葉を切ると、二見が首をかしげた。
「なぁに?」
「あ、いや……似合ってるよ。可愛い」
 何度も二見の裸を見ているというのに、どうしてかドキドキした。
「へへへ。ありがとう」
 南川と二見は、昨日、ショッピングモールで水着を新調していたが、当日のお楽しみということで僕にはどのようなものを買ったかは教えてくれなかった。
「いいでしょ、これ? でも、風香さん、モデルは言いすぎですよ」
「いや、わたし、けっこうマジだからね」
 本気なトーンで言うと、風香さんは離れていった。撮影が終わったらしく、プールサイドの奥へとむかう風香さん。
「ちょ、イッシー!? 本気でモデルに誘われたらどうしよう?」
 去っていく風香さんを見つめながら二見が言った。
「……いや、本気だと思うけど」
 風香さんは、冗談は言うが、お世辞は言わない。
「ふ、二見さんが……二見さんが……」
 ぼそぼそと言いながら、観音寺が更衣室から出てきた。僕の横にいる二見に気づき、はっと顔をあげると、観音寺は目をこすりながらつぶやいた。
「……変身した!?」
「してないしてない! てか、もう慣れろし。むしろ学園での格好がコスプレみたいな感じなんだからさ」
「人間不信になりそう……」
 観音寺もビキニの水着を着ていた。オレンジ色にちかいピンク色をした水着で、縁の部分が金色だ。長いウェーブした髪を頭の上でまとめていた。胸は制服姿のときよりも大きく、水着のカップ部分におさまりきっていない。
 僕の不躾な視線に気づいたのか、観音寺が頬を膨らませて睨んでくる。
「ちゅ、中学生のときから、身長変わってないから新しく買わなかったんだけど……胸だけ大きくなってたみたいで、きついの」
「あ、ああ……僕も中学校のときの水着だ」
 ちょっと頬を赤らめると、観音寺がちらりと僕の腹部を見た。一昨日もそうだったが、どうやら観音寺は僕の腹筋に興味があるらしい。
「ひよ子、触ったら?」
 二見も観音寺が僕の腹筋を見ていることに気づいたらしく言った。
 両手をふりながら、観音寺がうしろへとさがる。
「いやいや! ダメダメ! 無理無理! 見てるだけでけっこうです!」
「そう? まあ、触ってもべつに面白いもんじゃないのはたしかだね……」
 言いながら二見が僕の腹筋をつついた。
「ちょ、くすぐったい」
 つつかれる僕の腹筋を見てから、観音寺が頬を膨らませてそっぽをむく。
「あはははっ、ひよ子、可愛い……で、雫は?」
「雫ちゃんは、なんか電話があったみたいで……すぐ来るって言ってたけど」
 すこしして、モデルさんやカメラマンが歩いてやってきた。みんな人がよさそうで、僕たちを見ると笑顔で手をふってくれた。
「……ほんと、夢みたい。この場所を貸し切れるなんて」
 観音寺がぼそりとつぶやいた。
「有名なのか?」
 僕の質問に目を大きく見開いて観音寺が驚く。
「ゆ、有名だよ! このあたりのナイトプールの聖地みたいなところで、予約がなかなかとれないの! わたしも何回か挑戦したけど、無理だったんだから!」
「へ、へえ……」
 そんな場所とは知らなかった。
 と、撮影を終えて更衣室にむかっていたスタッフたちからどよめきがおこった。ちょうど更衣室から南川が出てきたところで、それにスタッフたちが反応したらしい。南川は人がいっぱいいることに驚き、頬を赤くしながらぺこぺこと頭をさげている。
「なに? 社長の知り合いって、可愛い子しかいないの?」
「あっちの子たちも、ヤバいでしょ……」
「わたし、モデル引退しようかなぁ」
 そんな冗談が飛びかっている。風香さんが、スタッフたちを更衣室や出口へと押しこんでいた。風香さんにお礼を言うと、南川が逃げるように僕たちへとちかづいてくる。
「……二見さん、あれは別格だね」
 ちかづいてくる南川を見ながら観音寺が言うと、隣の二見が神妙にうなずいた。
「わたし、親友だけど、女として危機感を感じるわ」
「わかるよ、二見さん。あれを野放しにすると、世の男が全部とられてしまうって感じがするよね……」
 白と青のギンガムチェック柄の水着を着た南川。シンプルなつくりの水着であるのに異常なほど似合っている。ほどよく膨らんだ胸、引き締まった腰と長く細い足。容姿だけをいえば、二見も観音寺も負けていないが、南川が持っているのは容姿だけではないなにかだ。無邪気にいまを精いっぱい生きている人間にしか発することのできないオーラとでもいえばいいのか。
「ごめんごめん! あかりんから電話があってさ。風香さんが、自分が来るまで、どっかに荷物置いて待ってるようにって……ん? なに?」
 全員から熱い視線を注がれていることに気づき、南川が首をかしげた。
 なんでもない、と二見がすこし不機嫌そうにプールサイドを歩き出すと、観音寺がそのあとを小走りで追いかけた。
「あれ? 石野、うち、なにかした?」
 南川が心配そうに僕へと尋ねた。本人は無自覚かもしれないが、あまりにも破壊力がある南川の水着姿。
 なぜ南川がうまいこと人間関係を築けているかわかる気がした。性格にも体にも嘘の部分が一切なく、混じりけのない南川そのものなのだ。明るく元気で、いつでも自分一〇〇%で、騙らず、生きたいように生きる。もちろん器用に立ちまわる賢さもあるが、それも含めて南川はいつも南川だった。
「いや、南川はなにも悪いことはしていない。南川が眩しすぎるだけだ」
「なにそれ……よくわかんないけど、怒ってないならいいや」
 と、南川が白い歯を見せて笑った。
「荷物、ここ置こう!」
 二見がプールサイドにあるソファのほうで手をふっている。
 わかったぁ、と返事をして南川が小走りでむかう。ほどよく膨らみのある胸が揺れ、水着からこぼれそうだ。
「雛ちゃん、プール入る前に、写真、何枚か撮っちゃおう!」
「そうしよう!」
 はしゃぐ南川の声に触発されたように明るい声で観音寺が返事をする。
 すぐに二見の声がそれにのっかる。
「なら、わたしが撮ったげる! 雫も、ひよ子もめちゃくちゃ可愛く撮ってあげるよ!」
 僕もソファがあるほうへとむかった。屋上にあるプールのため、街を一望することができた。一〇〇万ドルの夜景とはいわないが、十分に胸躍る煌めきに満ちている。
 夜空に月は出ていないけど、だからこそ、たくさんの星が瞬いていた。

 プールサイドにある籐を編みこんでつくられたソファで、南川と観音寺が二見に写真を撮られていく。三人とも興奮しているのか、きゃっきゃと楽しそうな声が絶えない。
 南川と観音寺が、抱き合い、頬と頬をくっつける。
「ちょー可愛いっ! そのまま笑ってて!」
 ソファで密着している南川と観音寺へと、中腰になった二見がスマホをむける。かしゃかしゃ、と何枚も写真を撮る。
「三人のこと、僕が撮ろうか?」
「いいね! じゃあお願いしていい?」
 南川が僕へとスマホを渡した。
「じゃ、小夜は、そっちにすわって……そうそう!」
 真ん中の観音寺を南川と二見が左右から挟むカタチだ。二人がけのソファにぎゅうぎゅう詰めですわる。
 淡い紫とピンクが混ざったような色の照明に彩られた水着姿の美少女三人に、僕はスマホをむけた。撮るぞ、と言う僕の声で三人がさらに密着する。巨大な胸と胸が密着する。
 南川がピースして、二見がわざとアヒル口をつくった瞬間に、僕はボタンを押した。中央にいる観音寺だけが、どうしてか緊張気味な表情のままだった。
 僕は撮ったばかりの写真を見ながら観音寺にきいた。
「どうした? さっきまであんな笑顔だったのに……」
「いや……うん……」
 観音寺が下をむいたので、心配したように南川がその顔を覗きこんだ。
「どうしたの? お腹でも痛い?」
 首をふると、観音寺が顔をあげて僕を見た。
「石野くんにじっと見られると、うまく笑えない」
「……可愛いなぁ、もう!」
 と、二見が観音寺へと覆いかぶさるように抱きついた。水着なのだからそういうことをすると、すぐに胸が露出してしまいそうだ。
「あぎゃっ! ちょ、二見さんっ!?」
「……てか、ほんとひよ子、可愛いね。え? 可愛い! すごい!」
 言いながら二見が観音寺に馬乗りになり、その大きな胸を鷲づかみにした。
「てか、このおっぱい……わたしよりデカい?」
「ちょ、やめ……」
 ふにふに。二見に胸を揉まれながら観音寺が言う。
「そんなわけないじゃん。あッ……二見さんのが、んあッ、おっきいよぉ」
 観音寺がつけている水着は、胸が成長したためにサイズが合っていないと本人が言っていた。実際、二見が揉んだせいですぐにでも胸がこぼれそうだ。
「ねえ、いまの写真見して……」
 いい香りとともに南川が僕にちかよってくる。
 ああ、と僕は南川のスマホを返すと、真剣な顔で写真を見ていく南川。
 ソファでは二見がまだ観音寺の胸を揉んでいた。
「あッ、二見……さん、ちょ、あんッ」
 ちかづいて、僕は観音寺に馬乗りになる二見の腰を掴んだ。
「もうやめろ、二見」
「あひゃっ! ちょ、こらっ!」
 暴れる二見を引っぺがし、僕は隣のソファにすわらせた。ソファで仰向けのまま長めに息を吐き出す観音寺は、揉まれすぎて、やはり巨大な胸が水着からすこしはみ出ていた。
 僕は頬をかきながら尋ねた。
「観音寺、大丈夫か?」
「うん……」
 水着を直しながら起きあがると、観音寺がちらりと僕のことを見た。
「……あ、あのさっ、わたし、石野くんとも写真撮りたい!」
 観音寺のその提案に反応したのは南川だった。
「それ、いいねぇ! 石野! そのまま雛ちゃんの横すわって!」
「あ、ああ……」
 僕は言われるがまま観音寺の横へとすわった。拳ひとつ分の隙間が僕と観音寺のあいだにはあった。
 スマホをこっちにむける南川が眉をひそめる。
「雛ちゃん、もっと石野によったら?」
「え? あ……はい……」
 何度かすわり直し、観音寺が体を僕へとよせた。肩と肩が触れる。
「石野、笑って!」
「あはははっ、イッシー! ぎこちなさすぎる!」
 二見が笑い声をあげる。
 難しい顔でスマホを見ている南川は、シャッターチャンスを探しているようだ。
「雛ちゃんも、笑顔になって」
「イッシーは笑顔下手すぎるし、ひよ子は緊張しすぎ! ピースしてピース! あはははっ」
 足をぱたぱたさせて二見が大笑いする。
 僕と観音寺はピースをして写真を撮ってもらった。南川に写真を見せてもらうと、二見が笑うのもわかる。僕の口元は強張っていて目はほとんど笑っていない。観音寺は地面にむかってピースをして、緊張しているのが写真からも伝わってくる。
 被写体としてはひどいありさまだが、観音寺はそれを見て南川に言う。
「雫ちゃん……それもちょうだい……」
「もちろんっ。すぐ送るよ」
 南川の返事をきくと、観音寺が破顔した。その笑顔でこそ写真を撮られるべきだと僕は思った。
「風香さん来たっ」
 二見がソファの上で膝立ちになって更衣室のほうをむき、手をふった。更衣室のほうから、一人、背の高い女性がちかづいてくる。
「うわぁ……」
 観音寺が思わずといった感じで声を漏らすと、なぜか南川が自慢げに言った。
「すごいでしょ、風香さん。元モデルだけど、いまだって十分にトップモデルでいけるよね」
 僕もそれは思った。南川も二見も観音寺も、それぞれベクトルは違うが、スタイルがいい。二見はそれこそ、モデル体型と言ってよかった。しかし、風香さんが持つ肉体は二見のそれとも違う、大人の女性しか醸し出すことが許されない色気を放っているようだ。歩き方も堂に入っていて、ちかづかれただけで気持ちが沸き立つ。
「ごめんね、お待たせ。ちゃんと許可とれたから、軽く準備運動したらプール入ってもいいよ」
 風香さんは濃いベージュをしたビキニの水着を着ていた。スパンコールがカップ部分を彩り、照明に反射して眩しい。肩からボタニカル刺繍が施されたレースのカーディガンを羽織っている。二見と同じか、もしくはそれ以上の大きさを誇る胸と細い腰。なによりもほとんど隠すもののない下半身に視線がいってしまう。
 口をあんぐりあけていた観音寺が慌てたように頭をさげた。
「ああ、あの! 石野くんと仲良くさせてもらってます観音寺雛姫といいます。今日はお招きいちゃじゃき、ありがとうございます!」
 挨拶を噛みまくる観音寺の頭へと風香さんがゆっくり手を伸ばし、優しく撫でた。
 急なことに観音寺が頭をあげ、目を瞬かせる。
「はじめまして。わたしは石野風香です……せいくんから、いろいろきいてるよ」
 僕は昨日のうちに風香さんに、観音寺が生徒会で疎まれていて、それを打破するために南川との写真を撮ろうとしていることを電話で話していた。もちろん観音寺には、風香さんに事情を伝える許可はとってある。
「一時間くらしかないけど、今日は、思いっきり楽しんでねっ」
「……へい」
 頭を撫でられた観音寺は魂を抜かれたように呆け、奇妙な返事を放つ。
「風香さんの水着、攻めてますねぇ……」
 二見が言うと、風香さんが照れたように微笑んだ。
「あ、これ? これね、うちの商品なの。ちょっとエッチすぎる気はするんだけど……けっこう売れてんだよね。黒もあるんだけどね。どう?」
 ちらり、と風香さんが僕のほうへと意味ありげな視線を投げてきた。
 気づかないふりもできたが、僕は肩をすくめると言った。
「すごくいいよ……」
「そう? なら、これにしてよかった」
 そう言ったときだけは、風香さんはあどけない少女のようだった。

 南川と観音寺がプールの真ん中で二見に写真を撮ってもらっている。僕と風香さんはソファに隣り合ってすわって、撮影の様子を見ていた。何度も風香さんの裸は見てきたはずなのに、どうも視線がむけられない。今日の風香さんはいつもに増して、美を醸し出しているようだった。
「……観音寺さんも可愛い子だね」
「あ、ああ、そうだね」
「せいくんたち、このあとはどうするの?」
「帰るんじゃないかな」
「ならさ、みんな時間あるならだけど、一緒にご飯食べる?」
「どこで?」
「このホテルのレストランで。いちおううちの会社、このナイトプールのスポンサーになってるから予約なしでも入れてもらえると思う」
 僕はプールの中で騒いでいる三人を見ながら言った。
「みんなよろこぶと思う」
「あ、あとさ……控室用に、部屋も明日まで予約しているんだよね」
 思わず風香さんのほうを見そうになってしまい、僕はぐっとこらえた。いま風香さんを直視するのはよくない。
「と、泊まっていけってこと?」
「それでもいいよってだけ。わたし、明日、オフにしてるし。せいくんさえよければ、ちょっと食事のあとに話ができないかな?」
 僕が返事をしないでいると、風香さんが自信なさげな声で言った。
「だ、大丈夫だよ、話すだけだから……寝るときは、部屋も別々にするから……」
 ちゃんと話したいこともあるのだろう。先日、僕の叔父との離婚が本格化していると言っていた。その後、メッセージや電話でその話題は出ていない。
「わかった、泊まってくよ……じゃあ、食事のこと、みんなにきいてくる」
 僕は風香さんがなにか言う前に、逃げるようにプールへと入った。壁を蹴って、南川、二見、観音寺の元へと泳ぐ。
「あ、石野くんも来た!」
 貝のカタチをした浮き輪にしがみついていた観音寺が、ちかづいてくる僕へと手をふった。
「じゃあ、次、うちと石野を撮って!」
 観音寺の写真を撮っていた南川が言う。
「ならさ、イッシー! この貝の上、乗って!」
 二見が示す白い貝の浮き輪は、一人用だろう。ちょうど直角に貝がひらいた形状をしていて、椅子のようにすわることができる。
「いいけど、その前に……」
 と、僕はこのあとの予定についてみんなに尋ねた。全員が、風香さんと食事がしたいと即答した。風香さんのほうをむくと、僕は手で大きな丸をつくった。
 三人が風香さんに頭をさげている。風香さんも僕たちへむかって大きな丸をつくって返事をしてくれた。スマホをとり出すと風香さんが誰かに電話をかけ始めた。レストランに席を用意してもらっているのだろうか。
「石野! ほら、うちと貝の上に乗って写真撮ろう!」
 南川が言うと、観音寺が僕へと浮き輪を渡した。
「これ二人で乗って大丈夫か? 沈みそうだけど……」
 平気、平気。言いながら南川が浮き輪へと乗った。
 南川が差し出してくれた手を握りながら僕も浮き輪の上に乗る。
「わわ! こ、これ、二人で乗るとバランス、ヤバい!」
 僕にしがみつきながら、けらけら笑う南川。豊満な胸が体に押しつけられる。
 すわる位置を何度も変え、どうにかバランスをとると、僕と南川は密着した状態で観音寺が構えるスマホへと顔をむけた。
「雫ちゃん……すごい可愛い……」
 観音寺が思わずといった感じで言う。
「あんがと!」
 調子に乗った南川がさらに僕へと体をよせた。
 僕は観音寺の持つスマホのほうを見ながらも、さらに奥にいる風香さんに焦点が合っていた。風香さんは、さっきとは別の誰かと電話をしているようだった。僕たちとは異なる世界の人。
「じゃ、撮るよー」
 観音寺の声で、はっとすると、僕は慌ててスマホへと意識をもどした。パシャリ。写真を撮る音がした瞬間だった。貝の浮き輪が大きく揺れた。
「よいしょっ!」
 と、二見の声がきこえたかと思うと、微妙なバランスでどうにか浮いていた貝の浮き輪が浮かびあがる。
 わっ。南川が驚きの声をあげて、僕へと抱きつく。浮き輪が、ぐるりと回転した。
 僕はしがみついてきた南川の肩を引いた。強く抱き合った状態で、僕と南川はプールの中へと放り出される。深いプールではないし、二見は親切にも声をかけてから浮き輪をひっくり返してくれた。僕も南川も勢いよくプールに落ちたが、慌てなかった。水中で南川と目を合わせて、笑い合う余裕すらあった。顔と顔はほとんどゼロ距離。息を合わせたように唇をちかづけ、水の中でキスをする。
 水面から顔を出すと、二見が手を叩いて笑い、観音寺がスマホを構えたまま固まっていた。
「おいこら、小夜!」
 南川が声をあげ、大きく両手をひろげながら二見へと迫った。反撃とばかりにばしゃばしゃと二見へと水をかける。
「観音寺、平気か? びっくりしたよな……」
 僕がちかづいていくと、こくこくとうなずいてから観音寺がにっこりと笑った。
「わ、わたし……楽しい!」
「そ、そうか、よかった」
 観音寺がきらきらした目を僕へとむける。
「ねえ、石野くんっ! 次、わたしと乗ってくれない?」
「いいけど……たぶん、二見か南川がひっくり返すと思うぞ……」
 言うと、観音寺が胸の前で両拳を握った。
「それをやってほしいの!」
 それならば、と今度は僕と観音寺が貝の上に乗った。いちおう南川が写真を撮ってくれる。
「では、ひっくり返りますので、注意してくださーい!」
 貝のうしろに控えていた二見が、テーマパークのアトラクションにいるスタッフのような口調で言った。予告通り、貝が下から押され、簡単にバランスを崩す。
「きゃっ」
 観音寺が短い悲鳴をあげ、僕へと密着した。二人一緒にプールの中へ落ちた。観音寺は、水の中できゅっと目をつむっていたが、口角は上にあがり、表情からすごく楽しんでいるのがわかった。

 プールで遊んでいると、風香さんに呼ばれた。
 僕はプールサイドのほうへと泳いでいき、プールからあがろうと顔を水から出した。風香さんが目の前にしゃがんでいた。
「せいくん、泳ぐの速いねぇ」
 僕は慌てて視線を外し、プールから出ずに風香さんへと背中をむけた。
 そんな僕を不思議に思ったのか、風香さんがきいてくる。
「せいくん、どうかした?」
「あ、いや……で、なに?」
 やはり直視できない。いまの風香さんをしっかり見たら、雄としての本能に抗えそうにない。ちょっとしたきっかけで僕の下半身は風香さんとの日々を思い出し、準備を始めてしまいそうだった。できるだけ平静でいるためにも、風香さんを見ないほうがいい。
「わたし、ちょっと準備で離れるけど、電話してくれれば出れるから」
「準備?」
 僕はきき返したが、風香さんはそれには答えなかった。
「みんなに親御さんへ連絡するように言ってね。わたしからかける必要があったらするから……帰りは篠塚さんが、みんなのことを車で送るから安心して」
 風香さんのうしろには身長の高いスーツ姿の女性が控えていた。その女性が篠塚さんなのだろう。ベリーショートの茶髪で、すこし切れ長の目。風香さんの秘書のような立場なのだろうが、まだ大学生くらいの年齢にしか見えない。
「わ、わかった……みんなに伝える」
 僕の返事をきくと、風香さんは篠塚さんと一緒に更衣室のほうへと去っていった。背中だけなら、と僕は風香さんのほうに顔をむけた。それがいけなかった。一気に股間へと血液が集まり、肉棒を硬くした。
 風香さんの水着は、下がTバックで、見事な引き締まったお尻がお披露目されていた。
 すこし落ち着くのを待ってから、僕は南川、二見、観音寺のところにもどった。
「ちょっと風香さんは離れるって……」
 それから、親への連絡のことと車で送ってくれることを告げた。
「え? 悪くない? 電車で帰るからいいよ」
 と、南川が代表して口をひらくと、二見と観音寺も同意するようにうなずいた。
「いや、電車だと、逆に心配かけてしまうだろうから……」
「そ、そういうことなら……うん、わかった。うちは、親への連絡は平気。どうせ石野のとこに泊まるつもりだったし」
「わたしも……お姉ちゃんに遅くなるって連絡すれば、平気」
 観音寺が言う。二見も言わずもがな、親は海外にいるから問題ないとのことだ。
 それから四人でビーチボールを使って遊んだり、写真を撮り合ったりした。
 時間はあっという間に過ぎ、風香さんの声がした。
「おーい! そろそろ出ようか!」
 すぐに僕たちはプールを出て、荷物を手にすると、話しながら更衣室にむかった。
「じゃ、ロビーに三〇分後に集合ね」
「もっとすぐでもいいんじゃない?」
 僕が言うと、非難囂々《ごうごう》だった。女性にはいろいろと時間が必要なのだという。
「控室用に予約している部屋に、うちの化粧品を用意させてあるから好きに使って。あと、サイズが合えばだけど、撮影用の服もいくつかあるから、もしよかったら着てみて」
 風香さんが言うと、南川たちから歓声があがった。
「部屋にうちのマネージャーと、専属のスタイリストがいるからキレイにしてくれるよ」
 風香さんが二見へと部屋の鍵を渡した。興奮気味に女の子たちが更衣室へと入っていく。
「いたれりつくせりだな……」
 僕は風香さんを見ないようにしながらつぶやいた。
「せいくんの大事な人たちだからね……それに、セイナちゃんには、うちでモデルをしてもらいたいから、接待でもあるかな」
 冗談半分といった感じの声で、風香さんが言った。
 まだなにかしゃべりたそうな風香さんから離れ、僕は男子更衣室へと入った。

 更衣室の奥には、シャワーを浴びるスペースもあった。いくつか並んだシャワーは半透明の板で遮られているだけの簡易的なものだ。
 シャワーの栓をひねると、冷水が頭上のノズルから飛び出した。
 それにしても、今日の風香さんはエロかった。格好はもちろんだが、醸し出す色香が半端ない。水着姿なのに、どこか仕事モードのままで、しっかりと保護者をやってくれている感じも本能をくすぐる。
「ねえ、せいくんっ」
「うお?」
 驚いてふりむくと、そこには、いましがた頭の中にあった風香さんが立っていた。僕は水着姿の風香さんを直視してしまった。どきん。心臓が大きく脈を打ち、股間へと血液が流れこむ。
「ふ、風香さん!?」
「ごめんね。せいくんにもさ、鍵、渡しておかないと……と思って」
 僕の目からなにかを察したのか、風香さんが視線を外す。手には部屋の鍵が握られていた。今日、僕が泊まる部屋のものだろう。
「…………」
「…………」
 数秒の沈黙ののち、風香さんがちらりと僕を見て、甘えるような声を出した。
「せいくん……わたしのこと見てくれないね」
「そ、そんなことない……けど……」
 いや、その通りだった。いまも、僕は冷たいシャワーを頭からかぶりながら、下をむいて呼吸を整えるのに必死だ。
「ねえ、なんで?」
 わかっていて、風香さんはきいている。確実にバレている。水着の下の僕の肉棒は、主張を強めていた。
 なにも言わずにいる僕のほうへと、風香さんがちかづいてきた。
「いま、女子更衣室さ……あの子たちで混んでるよね……」
「…………」
「わ、わたし……こっちでシャワー浴びてもいいかな?」
「…………」
 プールに入っていない風香さんは、そもそもシャワーを浴びる必要はないはずだ。
「ふ、風香さん……」
「シャワー……一緒に……」
 僕の目の前まで来ると、ほとんど息のような声で風香さんが言った。
「ね?」
「あ……」
 顔をあげ、僕は風香さんの姿をしっかり見た。
 無機質な更衣室の照明の中にあって、風香さんから放たれる色香はあまりにも生々しい。

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