二学期が終わりクリスマスも近づき、イベントは目白押し。
南川が「恋人になりたい」と言い始め、仲野も結城も乗り、
バレンタインデーに僕に同時告白して決着をつけることに!
クリスマスは家に集まり、南川とこっそりこたつエッチ。
仲野と結城とそれぞれ二人きりのデートで好きを深め……
ハーレムの輪がさらに広がる第七巻! 「年越し温泉デート」書き下ろし付き!
第一話 ガマン出来ない肉食系
第二話 寒い日に暖かい部屋で
第三話 セフレの流儀
第四話 好きって気持ちの正体
第五話 スポブラ少女の初体験
第六話 極上の相性
第七話 いきなり肉体関係
第八話 盗撮ハーレム
第九話 ドレスアップ4P
第十話 バレンタイン決戦
幕間短編 レゾンデートル
書き下ろし 年越しランデブー
本編の一部を立読み
第一話 ガマン出来ない肉食系
終業式、つまり二学期最後の日。
体育館に集められた生徒たちはどことなく浮足立っていた。定期考査、補習期間も終わり、明日からは冬休み。しかも今日はクリスマスイブ。
僕、石野清明が体育館からもどると、やはり教室は騒がしかった。僕の所属するクラスは南川雫が中心となってカラオケでクリスマス会をするという。
「石野さ」
ホームルームが終わるとクラスメイトの結城千絵がちかづいてきた。今日も部活があるのか、冬服にスポーツバッグを斜めにかけている。身長が高く、ショートカット。どこか王子様といった雰囲気があった。
「……な、なんだ?」
結城は男子からの人気もあるが、女子からの人気がすごい。生徒会長になった観音寺の応援演説や、太田の悪口があって注目度が増している。南川の親友ということで人気があった結城が、ここ最近では独自の人気を獲得していた。
「石野もクリスマス会くるよね?」
「ああ……一回帰るけど。結城は部活か?」
「うん。それでさ、部活組は参加が遅いからさ」
そこで言葉を切ると、結城がすこし照れたように笑った。
「帰らないで待ってて」
「ん?」
顔をむけると、結城が軽く手をふって去っていった。部活に一緒に行くのであろう友達の輪に混ざると、会話をしていなくなってしまう。なんだか女子同士で会話の華を咲かせているようで、きゃっきゃとしている。
「イシ勉」
と、今度は背後から声がしてふりむく。足音もなくちかづいてきていたのは、仲野羽衣奈だった。身長が低く、前髪が長いため、感情がわかりにくい。オカルト研究部の部長として、それなりにまとめ役をやっているようには見えない。文化祭での活躍もあり、一部では熱狂的なファンがいるとのことだ。普段は大人しいが、仲野がけっこうはっちゃけるのを僕は知っている。
「な、仲野か……」
「イシ勉もクリスマス会くる……よね?」
「その、つもりだけど。仲野は?」
来るのをわかっていて、僕は質問した。いちおう会話をつなげるくらいのコミュニケーション能力はついてきた。
仲野はちいさくうなずくと、すこし語気を強めて言う。
「わ、わたしも行くけど! イシ勉、一緒に行く?」
「え?」
「まだ早いから、ほら、ちょっと二人で散歩とかしながらさ!」
「あ……いや、僕、一回、家に帰ろうと思ってて」
「……そ、そうなんだ」
残念そうに目を伏せてから、仲野がうなずく。
「わかった。じゃ、またあとでね」
「あ、ああ……あとで」
僕が教室を出る一瞬、友達に囲まれた南川と目が合う。すぐに互いに目を離したが、なんとなく言いたいことはわかる。
二週間ほど前のこと。
南川の誕生日の翌日に、南川と二見が二人で話し合いをおこなった。内容は、僕と二見が別れたことにするか否かだった。
結果的には、別れることになった。
実際の関係に変化はないが、周囲には別れたことにする。
二見が言うには、「イッシーを独占するのはイヤだ」ということだ。
これから僕と南川が恋人同士になるかは未定。二見からしたら、僕と南川が恋人同士になるのが良いらしい。それは、観音寺も同じ気持ちだという。
二見の気持ちを完全に知ることはできない。きいても素直に答えてくれるかは怪しい。思い悩んでいる感じでもないため、いまは深くきかないでおくことにした。
「でもさ、小夜と別れてすぐに、うちらが付き合うのは……なんかね……」
話し合いがあった日、南川は部室に来て僕に報告してくれた。
僕と南川、互いに恋人同士になることに異論はない。学校でも仲良くしていたが、恋人同士ということになればさらに親密でいられる。しかし南川が言うように、二見と別れてすぐに恋人同士になるのは憚られた。僕だけでなく、南川や二見がどのように言われるかわかったもんではない。もうすぐ三年生になるといういまの時期に面倒ごとは避けたかった。
「しかも、文化祭でのあの感動的な告白でしょ?」
「あの気持ちはいまも変わってない」
「わかってるよ……」
南川が溜息をつく。
「うちらは、そのことはわかってるよ……問題は周りだよ。あんな感動的な告白して恋人同士になったのに、数ヶ月で別れました。それでうちと付き合いますって……あんまりじゃない?」
「……二見と南川が親友っていうのも、もうみんな知ってるしな」
「そういうこと」
こうやって部室で二人きりになれれば、それ以上を望む必要はない気がした。みんなの目がないところでは、その辺の恋人よりもイチャイチャしている。
とりあえず二見と僕が別れたことだけにして、その後のことは様子を見てということになった。
僕と二見が別れた理由はゆっくり考えればいいと思ったが、翌日には僕と二見が別れたことは誰もが知るところになる。僕も南川も観音寺も誰にも言わないので、犯人は二見しかいなかった。
昼休みの部室に二見を呼び出し、僕と南川はどういうつもりか問い詰めた。
「だって、ずるずる付き合ってる感じにするよりよくない?」
二見は自分がやったことだとすぐに認めた。
「だからって……」
南川が言う。
「小夜のほうからふったことにしなくても……」
「誰も傷つかない方法を考えたら、その理由が一番いいかなって」
二見が勉強に集中したいからと、僕をふったことになっていた。見た目と雰囲気から二見はガリ勉ということで通っている。そんな二見が二学期の期末試験の結果が悪く、僕をふったというのが別れた理由だ。
「……実際、かなりヤバかったし」
ここのところ忙しい二見は、期末テストの結果が赤点ギリギリだったという。補習は免れたが、赤点でなかったのは奇跡だと苦笑した。
「でも、あんな告白してくれた石野を、そんな理由でふるなんてひどいって……そんな話も出てきてるよ」
と、親友を慮る南川が正直に告げる。
二見が鼻で笑った。
「わたし、気にしないし! まあ、いいじゃん……勉強に集中したいっていうのは嘘だとしてもさ、海外に行くための準備に集中したいのは本当だし」
「……一言、相談してほしかった」
「まあまあ」
ぼそぼそ文句を言う南川の頭を撫でる二見。
「雫がいれば、イジメは受けないだろうし。平穏な毎日を送らせてよ。変に注目を浴びるのは今回が最後ってことで……それにイッシーと喧嘩別れじゃないから話さなくなるわけじゃないし」
「わかったよ……」
釈然とはしていないが、南川は二見の行動を許した。それにしても、友達がいない二見が、どうやって噂を流したかは不思議だ。
なにはともあれ、僕と二見はあっさりと別れたことになる。
その後、数日は話題になったが、恋人同士になったときよりも盛りあがりはしなかった。僕の頭も触れられることはなくなり、静かな日々を過ごせるはずだった。
しかし、僕と二見が別れたと知れ渡った翌日から、結城と仲野がうごき出す。
「石野、お昼、一緒にとってもいい?」
と、結城はお弁当を持って昼休みによく僕の席に来る。いままでは、南川たちか、部活の仲間と食事をしていたはずだ。一人でいる僕が断るのも変なので、同じ席でお昼をとるようになった。
「イシ勉、またお父さんが会いたいって言うんだけどさ」
そんな感じで、仲野もよく声をかけてくる。仲野と僕は、仲野のお父さんに対して恋人であると嘘をついた。しかし、その後、嘘であったことを正直に話している。
鈍感な僕でもさすがに気づく。
いや、僕だけでなく、誰もが気づいているようだった。
結城と仲野は、イシ勉のことを狙っている。
「モテモテじゃねぇか!」
そうして、僕の頭はまた知らない誰かに叩かれる。問題は、結城も仲野も僕を狙っていることを否定しないことだ。それどころか、二人はどこかあからさまにして競っている感じがある。
「さっき、羽衣奈となに話してたの?」
そう結城がきいてくれば、仲野も同じような質問をする。
「結城さんと最近、仲いいけど……休みの日も会ってるの?」
などなど。
質問されても、僕にはのらりくらりとかわす能力がない。しどろもどろ本当のことを答えるしかない。
「仲野とは、ほら、恋人のふりをお父さんの前でしてるから……」
嘘をつくのも変だし、二人の仲が悪いわけでもない。互いを気にしているだけで、険悪な雰囲気はなかった。
「結城とは仲いいけど、休みの日は会ってないぞ……」
正直に答えると、二人は安堵した表情を浮かべる。
こんな感じで、僕は終業式を迎え、先ほどもクリスマス会について二人から尋ねられた。もちろん二人からアプローチを受け、イヤな気持ちはしない。
結城は南川に並ぶ勢いの人気者になりつつあって、その面倒見のよい性格から先輩後輩関わらず人気がある。嫉妬している生徒もいるだろうが、最近の圧倒的な人気の前にはなりを潜めていた。
仲野は決して人気者というわけではないが、一部の男子生徒からカルト的な人気があるらしい。前髪をあげた仲野が、この学校で一番美人という噂もあった。
そんな二人から言い寄られる。男としてうれしくないと言えば嘘になるだろう。問題があるとすれば、南川だけでなく、二見が不機嫌なことだ。
「こんなことになるなら、別れなきゃよかった……」
部屋に帰ると、扉の前で二見が待っていた。僕が鍵をあけて中に入ると、二見がうしろからついてくる。
「ねえ、イッシー。さっさと雫と恋人同士になってよ……」
「そう簡単な話じゃないだろ」
「簡単じゃん! 好きだ! うちも好き! で、おしまい! でしょ?」
さっさと手洗いを済ませると、二見が先にリビングに行く。そして流れるような動作でショーツを脱ぎ、ソファの背もたれに手をつくと僕に背をむけた。
僕はズボンとパンツを脱ぐと、二見にちかづき、そのスカートをめくった。
「んッ……雫と付き合ったことにすれば、さすがに結城さんも仲野さんも諦めるって」
ずぶぶ。あっという間に二見の膣に僕の肉棒が埋まる。
最近の二見はすこしでも時間があれば、僕の部屋に来てセックスをしていく。今日も、このあとはクリスマス会には参加せずに仕事だったはずだ。眼鏡やおさげより先にショーツを脱ぎ、僕に犯される二見。
僕の帰りを待っているあいだに準備ができていたようで、二見の膣は熱く湿っていた。うしろから勢いよく突くと、嬌声をあげる二見。
「ああんッ……イッシー……んんあッ。気持ちいぃ……んあッ」
たしかに二見が言うように南川と恋人同士になれば、結城や仲野は諦めるだろう。二人が積極的に僕にちかづいてくるようになったのは、二見と別れたあとだ。
「ちょっとッッ。んッ……いまは、わたしに集中してよね……んんッッ」
考え事をしていたことがバレて、二見に叱られた。
僕は二見に集中をもどし、腰を激しくふった。
したたかに膣内に射精すると、二見は満足したのか笑顔になった。
「イッシー、浮気しちゃダメだぞ」
「浮気って……もう僕たちは恋人同士じゃないだろ」
「そういうことじゃないでしょ……」
と、二見が頬を膨らませながら股から垂れてくる精液をティッシュで拭う。
「結城さんと仲野さんのこと、早めにどうにかしたほうがいいと思う」
「……告白されたわけじゃないし……どうにもできない」
「恋する乙女は暴走しがちだから、要注意だよ」
それだけ言うと、二見は仕事にむかった。
僕は二見を見送ると、シャワーを浴び、着替えを済ませた。クリスマス会へ行くために、部屋をあとにする。
日が沈む直前だった。紫色の混じった冬の夕日が眩しく顔を照らす。風が吹いていて、遠くのジングルベルがちょっとだけきこえた。
南川が主催するクリスマス会には、他クラスからも参加者がいた。それどころか、後輩や先輩まで顔を出し、大賑わいだ。
ソファの端にすわる僕の右側には結城がいて、左側には仲野がすわっている。
「石野、なにか飲む?」
「あ……いや、自分でとりに行くから」
そんな感じで結城と会話をすると、すぐに仲野が声をかけてくる。
「イシ勉、これ、美味しいよ」
「そ、そうか……じゃあ、あとでもらうよ」
合間なく甲斐甲斐しく左右から世話を焼かれる状態。すでに結城と仲野に僕が狙われていることは周知のことで、誰も気にとめず、歌をうたう人に拍手や喝采を送っている。
さっきから気になるのは、結城が僕の膝に手を置いていることだ。ときおり、撫でるように手がうごき、どことなく艶めかしい。本人は気にしている様子もなく、僕に笑顔をむけてくる。
一方、仲野は触れてはこないが、制服のスカートが短かった。学校では校則を守っているはずなのに、いまは太ももが半分以上見えている。しかも足を組んでいるため、すこしうごくだけで際どいとこまでちらちらしていた。
誰も気にとめていないと思ったが、二人だけ気にしている人がいる。南川はみんなに話しかけながらも、僕に視線を送る。生徒会の後輩と会話をしている観音寺もちらちらと僕を見ていた。
南川も観音寺も、二見と同じく快く思っていない。しかし、結城と仲野は、南川や観音寺とも友達だ。結城に関しては、南川へと僕のことが好きだと告げている。
「僕がどうにかするしかないのか……」
そんな独り言を漏らしていた。不思議そうに左右の美少女から顔を覗かれ、思わずのけ反る。
女の子に慣れたと思っていたが、そんなこともない。限定的な女子と深く深く関係があるだけで、このように、あからさまにアプローチされると困惑する。
と、イベント事が大好きな大河内の大声がきこえた。
「次は、イシ勉! おまえがうたえ!」
マイクを通していないのに、かなりの音量。
僕は救われたと思い、思わず立ちあがる。
誰も僕がうたうと思っていなかったのか、水を打ったように静かになった。
「ちょ……清明、やめときなって……」
前に出ていく僕に、南川が小声で言った。
以前、僕は自分が音痴であることを笑われている。だからここでうたっても、きっと笑われるだろう。
だが、それでいい。南川や観音寺は僕が音痴でも気にしない。僕を狙っている結城と仲野が幻滅すればいい。
大河内にマイクを渡され、僕は誰もが知るクリスマスソングを入れた。囃し立てるみんなの前で棒立ちになり、前奏をきく。
緊張して声が震えるに違いない。
頑張れイシ勉。そんな声があちこちからあがっていた。
前奏が終わり、僕はうたい出した。一瞬でカラオケルームが静寂に包まれた。伴奏がよくきこえ、うたいやすい。
やはり音を盛大にはずしているようで、静寂から一変して、大爆笑が起きた。僕が真剣にうたえばうたうほどに、みんな、腹を抱えて笑った。
やれやれと南川が頭をふり、観音寺が両拳を握り応援してくれる。結城と仲野を見れば、目を点にして僕を見ていた。
うたい終わって、みんなに拍手をもらいながら僕はルームを出た。手が震え、汗をかいていた。トイレにでもいって落ち着きたい。
とととと、と足音がきこえふりかえると南川だ。
「ちょっと……」
腕を引かれて、僕は外階段に連れていかれた。熱気に包まれていたカラオケルームと違い、外階段は寒い。予報だと明日は雪になるようだった。
制服姿のままの南川が僕を見あげて睨む。怒っているというよりも、呆れている感じだろうか。口をへの字に曲げ、溜息を長くついてから告げた。
「やりたいことはわかるけど……あれはないよ……」
「そんなに下手か?」
僕としては、いたって真面目に歌った結果だ。
首をふる南川。
「そうじゃなくて。わざと格好悪いところ見せる必要ないってこと」
「じゃあ、どうすればいいんだよ? 南川も観音寺も、イヤな思いしてるだろ?」
「それは……まあ、そうだけどさ」
と、すこし寒いのか南川が自分の身体を抱く。
早く中にもどるべきだが、この会話を切りあげるのもよくない。
ちいさな声で南川が言う。
「……だからって、清明がみんなからバカにされたり、嫌われたりするのもイヤだよ」
「え?」
「わかるでしょ?」
目を潤ませながら南川が僕の目をじっと見る。
「……やっぱり好きな人にはさ、できるだけ格好よくいてほしいもんだよ」
「そ、そうか」
「そうだよ。だからユッチーや羽衣奈にベタベタされるのはイヤだけど……好かれてるのは、うちとしては、なんというか……鼻が高いんだよ……恋人でもないのにそんなこと思っちゃう」
恋人ではない。
僕と南川は好き合っているが恋人ではなかった。
結局のところ、恋人というのは、この人はわたしの恋人ですという外にむけた証明だ。
本人同士がしっかりと気持ちを通じ合わせていれば、そんな証明、本来は不要で、その証拠に、僕は南川だけでなく、二見や観音寺、風香さんとも気持ちが通じていると思っている。常識から考えたら特殊な関係性ではあるが、本人同士が納得していれば、他人にとやかく言われる由縁はなかった。
「もどろうか……」
さすがに我慢できなかったのか、南川が中にもどろうとする。しかし僕はその手を引き、自分の体へと引きよせた。きゃ。短い悲鳴をあげた南川がすっぽりと僕の胸におさまる。
「……な、なに?」
僕に抱きしめられながら、南川が顔をあげた。そのままキスしてもよかったが、その先まで我慢できなくなりそうだ。
「南川……恋人になろう……」
「あ、えっと……うん。いいけど……」
と、南川が首をかしげる。
「それって……うちにだけ言っても無意味だよね。みんなの前で言うか、みんなに公表するかしないと……」
「だから、それをしよう……いま……」
「いま!?」
驚いている南川から離れ、僕は外階段から中にもどった。慌てた南川が僕へと追いつき、服を引っぱる。
細い廊下で南川が声をあげる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! いまって……いま、みんなに言うの?」
「そうだ……」
「いやいや、ダメだって! 今日はクリスマス会だから!」
「だから?」
と、僕が足を止めふりむくと、南川がもじもじと言う。
「……み、みんなに幸せでいてほしいというか」
「は?」
「だ、だから! ユッチーと羽衣奈に悲しい思いしてほしくないの!」
「そ、それは……南川が責任を負うことなのか?」
思わず言うと、南川が唇を尖らせる。
「そういうわけじゃないけど……もうちょっと待ってよ。いろいろ場を整えてから、それから……」
「場を整えるか」
天真爛漫なようで、南川は人との関係を気にする。自分のせいで傷つく人が出ないように細心の注意を払う。中学生のとき、田舎者だとバカにされていた南川は、進学して得た友達を失いたくない。
南川にとって結城は親友であり、仲野も大切な友達だ。どちらも僕のことを狙っているとわかっていながらなにもできずにいる。嫉妬して不機嫌になりつつも、なにもできない。
「南川……」
「なに?」
と、僕の服の裾をちょっとだけ握った南川が顔をあげる。
もしかしたら、南川は究極の我儘なのではないだろうか。そんなことを僕は思った。結城や仲野が僕にベタベタするのはイヤだ。しかし僕と恋人同士になることで、結城や仲野が傷つくのもイヤ。それでいて、僕が結城や仲野に嫌われるようにふるまうのもイヤ。
妥協や我慢をいっぱいしているのはわかるが、それは自分の中で許せる範囲までだ。僕を独り占めしたいという欲望を抑え、二見や観音寺、風香さんとの関係すら上手に保つ。
「任せた」
一言、僕がそう言うと南川が笑った。鼻の穴をちょっとだけ膨らませると、大きくうなずく。
その子供っぽい表情に僕が笑うと、南川が拳で脇腹を殴ってきた。
「笑うな! これでも、頑張ってるんだから!」
「わかってるよ。いつもありがとう」
言って、僕が頭を撫でると、南川は脱力したように笑った。
カラオケルームから生徒が出てきたので、僕たちはぱっと離れた。出てきたそいつは、僕にむかってサムズアップしてきた。
「ナイス、イシ勉! ますます人気者だな!」
「あ、ああ……」
僕が思っていた評価とは違っていた。カラオケルームにもどると、拍手で迎えられた。みんながバシバシと肩や背中を叩いてくる。
「面白かったぞ!」
「今年一番笑ったぞ!」
「またうたってくれ! できれば俺の前に!」
席にもどると、さっそくといった感じで、結城と仲野が体をよせてくる。二人とも、すこし僕の様子をうかがう沈黙があった。
先に仲野が言った。
「イシ勉てさ、エンターテイナーだよね?」
「へ?」
僕はウーロン茶の入ったコップに伸ばしかけた手を止めた。
結城がさらに体をよせて、僕の耳元で言った。
「あれ、笑われるのわかってて、やったんだよね……」
「そ、それは……」
「盛りあげるために、あそこまでできる勇気があるのすごいよ」
やはり思ったのと違う方向だ。先ほど部屋で二見に言われた言葉を思い出す。恋する乙女は暴走しがちだから、要注意だよ。
「おおおおお!? 南川がうたうのか!」
「すごい! 雫ちゃんがマイク持ってる!」
にわかに、部屋が騒がしくなる。見れば、南川がマイクを持ってみんなの前に立っていた。
僕の右隣りにいる結城がぼそりと言う。
「へえ……雫が……珍しい……」
どうやら南川がカラオケでうたうのは珍しいらしい。よく友達と行っているイメージがあるが、あまりうたわないのだろう。
観音寺が憧れの人を見るように目をきらきらさせていた。
『えっと……うたは、まあ……うたうけどさ、みんなで一緒に合唱する感じにしてほしいかな』
照れくさそうに言う南川は、マイクを両手に持って緊張した様子だ。いま、ルームにいる全員が南川に注目しているからしかたない。
『あ、あんま静かになると困るんだけど……うたう前に、ちょっとだけ言っておきたいことがあって』
すこし場の空気が変わるのがわかった。それというのも、南川が僕のことをじっと見ているからだ。今日はダメだと言っていたが、もしかして公表するつもりだろうか。
僕の左右にいる結城と仲野が身じろぐのがわかった。動物的な本能で構えてしまっている感じだ。
体感にして数秒、実際は一秒にも満たない間があったのち南川が告げる。
『うち、石野清明のことが好きなんだよね』
言った。
ざわめきが起きると思ったが、ルームは沈黙したまま。
顔は笑ってはいるが南川が本気だとみんなわかっている。
『でも、ユッチーや羽衣奈が、清明のこと好きなのもわかってて……』
「え?」
「あ……」
顔を赤くして、結城と仲野が同時に顔を下にむける。
南川もつられるように顔を赤くすると、すこし震えた声で言った。
『だからさ……勝負しようかなって……』
「ちょ、南川」
僕が発言をしようとすると、それを手で遮る南川。
みんなが一斉に僕を見るが、その顔には黙れと書いてある。おもしろいことが起きるのを邪魔するなと言いたげだ。
『そうだなぁ……二月一四日のバレンタインとかがいいかな……うち、ユッチー、羽衣奈で、勝負して……バレンタインデーに同時に告白するの。で、清明に選んでもらう。もちろん、誰も選ばれないこともあるだろうけど……それまでは、みんなで清明をふりむかせるために勝負しよう!』
それで言いたいことは終了したようだ。南川が大河内のほうをむいて、うなずく。打ち合わせがあったらしく、クリスマスソングの前奏が流れ出す。
『それでいいかな……ユッチー、羽衣奈!』
僕の左右にいる結城と羽衣奈が、顔を見合わせた。否定的な態度をしてはいけない空気を察している。
「いいよ!」
と、結城が声をあげた。
「すぐに告白だったら負けてたかもだけど、時間があるならわたしにも可能性あるし!」
仲野が何度もうなずいた。
「う、うん……このままだったら埒が明かない気もしてたし……そうしよう!」
おお。場がどよめき、南川が満足気に胸を張る。
『じゃ、決まりね! 二月一四日に誰が選ばれても恨みっこなし! じゃ、みんなでうたおう! メリークリマス!』
ちょうど前奏が終わり歌のパートがはじまった。弾けるように盛りあがり大合唱になった。南川は早々にマイクを観音寺に渡してしまう。
「まさか……雫まで……ヤバいな……」
「ほんとだね。雫ちゃんに敵う気がしないんだけど」
僕がいるのを忘れたように、結城と仲野がボソボソとしゃべる。
腕を引かれたので顔をあげると、大河内だった。
「イシ勉! おまえもうたえ!」
「え? え?」
大河内に連れられて前に出ると、マイクを渡された。しかたなく、観音寺がキレイにうたう横で僕も歌い出した。大合唱しながら、みんなが大笑いする。頭をバシバシと叩かれ、ときおりどさくさに紛れてケリを入れてくるやつもいた。
どうやら男子数人からは恨みを買ってしまったらしい。しかし南川の行動と比べれば、僕の代償はすくないものだ。
さっきまで僕がすわっていた場所に南川がすわっている。結城と仲野は戸惑っているようだが、三人には妙な仲間意識が芽生えているようだった。
南川は結城と仲野とライバル関係になることで、二人の邪魔をする大義名分ができた。しかも告白する日を定め、誰が選ばれても恨みっこなしの約束をとりつけた。友達関係を保ちつつも、僕にベタベタすることをけん制できる立場。
これから学園はこの話題で持ち切りだろうが、明日からは冬休み。園芸部はほとんど活動がないから、そこまで面倒なことも起きないはず。
冬休みが終われば、この話題も熱が冷めているだろう。二月一四日にちかくなれば再燃するかもしれないが、それはしかたない。
どっちにせよ、僕が南川と恋人同士になれば、学校の話題をさらうのだ。それが早くなるか遅くなるかの違いでしかない。
それにしても、こんな乱暴なやり方をするとは思わなかった。
恋する乙女は暴走しがちだから、要注意だよ。
僕は必死で下手な歌をうたいながら、やはり二見の言葉を思い出していた。