本販売日:2025/10/23
電子版配信日:2025/11/07
本定価:1,089円(税込)
電子版定価:1,089円(税込)
ISBN:978-4-8296-4831-5
「お願い……荒っぽくてもいいの。絹代を女にして」
熱い眼差しで見つめ、悠汰の腰をグイッと引き寄せる。
女の路がこじ開けられ、52歳の口から濡れた声が……
茶道教室の師範を務める古風な若祖母・絹代。
愛する孫息子と隣家の熟女のふしだらな関係を知り、
自らの肉体で「性の防波堤」になろうとするが……
第一章 美しすぎる若祖母・絹代
第二章 五十二歳の熟れた身体
第三章 祖母と孫の淫らな日常
第四章 隣家の美熟女の逆襲
第五章 初めて許した肛門性交
第六章 新しい家族の形
本編の一部を立読み
第一章 美しすぎる若祖母・絹代
「お稽古ありがとうございました」
ゴールデンウィーク明けの夕刻、東京都心にある女子大。その構内の池のほとりの純和風平屋にある茶室に、女子学生たちの凜とした声が響く。
「はい、お疲れ様でした」
美淑女がスッと背を伸ばして正座し、上半身を折り曲げ丁寧に頭を下げた。五三の桐の染め抜き五つ日向紋が施された、薄い若草色の色無地単衣に身を包んでいる。
総礼を終え、落ち着いた色柄の着物姿の女子学生たちがおのおの茶道具を片づけて帰り支度を始めた。いつものように茶道部長が切り出す。
「小早川先生、この後、お食事会はどうしましょうか?」
「そうね……。今日は学生さんが少ないし、たまには皆さんだけでお食事に行きなさい。先生がいない方が話しやすいこともあるでしょう。それに、小早川先生じゃないでしょ」
「そうでした。絹代先生ですね」
小早川絹代は、東京西部にある地元のカルチャーセンターの茶道教室講師を主たる仕事としている。それとは別に、週に一回、若い世代への普及目的もあって茶道部の顧問として女子大に足を運ぶ。年齢は五十二歳、部員たちの親と同じくらいだ。
「先生は、若い皆さんに肩肘張らないで茶道に親しんでほしいのよ」
真珠のような白い歯を覗かせ、鈴を転がすような美しい声音が響く。
「絹代先生のおかげで、茶道部の活動、本当に楽しいんです。みんなで、先生みたいな大和撫子になりたいなって話してるんですよ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。じゃあ、後はお願いね。これ、少ないけどお食事代の足しにしなさい」
上質の懐紙に相応の額の紙幣を包み、茶道部長に手渡した。
「そんな……。いつもお世話になっているのに、このようなお心遣いまでいただくわけにはいきません」
「一度出したお金を引っ込めることはできないわ。遠慮しないで」
「はい……。ありがたくいただきます」
最敬礼する女子学生たちの姿に、透き通るような白肌でやや面長の瓜実顔が綻ぶ。聡明そうな富士額と優美な気品漂う三日月眉が印象的だ。
年齢的に、髪には白いものが混じっていても不思議ではない。にもかかわらず、若い学生たちと交流しているおかげなのか、しっとりした艶のある黒髪だ。ストレートロングヘアを夜会巻きにキリッと纏め、雪白のうなじからは匂い立つような色気が漂う。
「美味しいものをたっぷり食べるのよ」
茶道部顧問は、娘のような年頃の学生たちを慈愛に満ちた目で見つめる。
古典的な和風顔の女性は、往々にして一重の細い目が多い。しかし、絹代は切れ長の奥二重、目尻が少し垂れた優しげな目をしている。長く濃い睫毛、大きな黒い瞳と相俟って、玲瓏さと現代的な魅力を兼ね備える。
スッと筋が通った高い鼻は気高さを、小さい耳は可憐さを、薄い唇に覆われたおちょぼ口は慎ましさを象徴する。古風な顔立ちにもかかわらず、目鼻立ちがくっきりした美貌だ。
茶道という職業柄、薄化粧で、艶めいた唇には口紅を塗っていない。それでも、いや、だからこそ小ぶりな細面の美貌は周囲の目を惹かずにはおかない。
「絹代先生、気をつけてお帰りください」
「皆さんこそ、帰りはあまり遅くならないようになさいね」
淑やかな大和撫子は、桐製の茶道具箱を手に取りゆるりと立ち上がった。優雅な所作で薄桃色の全通柄、西陣織の単衣帯を整えた。
臙脂色の地色に金糸を織り込んだ数寄屋袋を携え、しずしずと畳を歩む。一足ごとに正絹の着物の衣擦れの音が響き、白足袋が畳に擦れ清冽な音を奏でる。たおやかな身体から、高雅な伽羅のお香の匂いがほのかに漂う。
頭の頂点から足先まで一分の隙もない和風美人の姿を、娘ほどの年齢の女子学生たちが敬意と憧れを込めた眼差しで見送った。
身長は百五十センチ台半ば、撫で肩で胴回りが折れそうなほど括れた細身の身体だ。スッと背筋を伸ばし胸を張り、大きく見える。内面から滲み出る端麗さと凜としたその姿は、江戸時代に描かれた美人画から抜け出してきたかのようだ。
典雅な茶道部顧問は、上品な和服に相応しい薄萌黄色の草履を三和土で履き、茶室を後にした。敷き詰められた玉砂利の上にある飛び石を踏みしめ、アスファルト舗装された大学構内通路に歩を進めていく。
空には雲一つなく、赤みを帯びた太陽が都会のビル群の谷間に沈もうとしている。夕陽に染まる建物の一階、入り口付近にある大学事務室に足を踏み入れた。
「絹代先生、お疲れ様です。今日は早いですね」
二十年来の顔見知りのベテラン女性事務員が、ねぎらいの声をかけた。
「ええ、今日は学生さんが少なかったんで早く終わりました。それで……どうでしょう?」
微笑を浮かべていた美顔が一転、柳眉を寄せ、ひそひそ声で尋ねる。
「申し訳ありません……。今日も情報はございません……」
「そうですわよね。今さら……」
茶道部顧問は清楚な相貌を歪め、眉宇を曇らせる。
「諦めないでください。当学の教授が、絹代先生に多大なご迷惑をおかけしたんです。大学として、なんとしても手掛かりをと思っております」
「ご迷惑だなんて……。娘……早苗こそ大学にご迷惑を。本当なら、私、こちらの大学の茶道部顧問などする資格はございませんのに、お情けで続けられるよう取り計らっていただいて感謝しておりますのよ」
「いえいえ、先生は学生たちに慕われておりますから。それに、少しでも娘さんの手掛かりをという先生のお気持ち、重々承知しております」
「また何か情報がございましたら、よろしくお願いいたします」
絹代は深々とお辞儀をし、踵を返して外に出た。裏手にそびえる鉄筋コンクリート造五階建て、ライトグレーの研究棟を見やる。近代的な建物の三階、東の角部屋は、今日も焦げ茶色のカーテンが閉まっていた。部屋の主は十八年間不在で、開かずの部屋だ。
(あのお部屋……あそこに孝久さんが……)
小早川家は、遡れば平安貴族に連なる。江戸時代には上流貴族として、皇族・貴族や京都駐在の幕閣たちへの茶道指南役として名声を博していた。明治維新後の東京奠都に伴い、京都にとどまった本家から分家した小早川家が東京郊外に居を構えた。
歴代当主は、地域の名士として地方議会議員を務めるなど栄華を誇っていた。先の大戦で家運は傾いたが、それでもなお名家・茶道師範としての地位と血脈を保っている。
絹代はその跡取りの一人娘として生まれ、母親に厳しく育てられた。名家に相応しい生来の品格を備え、淑やかな振る舞いも自然と身についたものだ。恵まれた容姿や深い教養を少しも鼻にかけることはなく、気さくな性質も併せ持つ。
研究室を見やる茶道部顧問に、おとなしげな女子学生がおずおずと声をかけた。
「先生、今度茶道部の活動を見学したいんですけど……」
「いつでもいらっしゃい。大歓迎よ」
その柔らかい物腰から、一昔前の日本女性そのものの優雅な性格が滲み出る。
「ありがとうございます。私、凜とした先生にずっと憧れてたんです!」
嬉々として帰途につくその後ろ姿を見て、絹代はため息をついた。
(早苗もこのお嬢さんみたいな女子大生になっていたのかしらね……)
小早川家は代々女系継承が多く、婿を取って家系を繋ぐこともあった。一人娘の絹代は高校を卒業してすぐ、これまた名家出身で許婚の市役所職員・義則を婿に取り、ほどなく早苗を出産した。
しかし、義則は急な病で早逝し、悲嘆にくれた絹代は女を封印した。そして、茶道師範として家名を維持しつつ、一人娘の早苗を掌中の珠のように大切に育てる日々が過ぎていった。
(あの時、私が引き受けなければ……)
絹代は自宅で茶道教室を営む傍ら、市役所職員だった義則の伝手でカルチャーセンターの茶道教室講師をしていた。資産家ということもあり、収入のためというよりも茶道普及が主たる目的だ。
早苗が女子大系列の中学校に入学したのを機に、請われて大学の茶道部の顧問を引き受けたのが運命の分かれ目だった。大学側の担当教授、当時すでに五十歳で家庭がある孝久と恋に落ちてしまったのだ。
許婚と結婚した絹代にとって、生まれて初めての燃えるような恋。自由恋愛の経験がなかった分、不倫とはいえ、その沼に溺れるのはやむをえない。絹代が幼い頃に父を亡くし父性に飢えていたこともまた、男の魅力に溢れた端整な顔立ちの孝久との不倫に走らせた。
孝久は年長者らしく、遥か年下の不倫相手に優しく包み込むような愛情を注いだ。絹代にとってはこの上ない愛と安らぎに満ちた日々だった。
しかし、早苗が中学三年生の時、衝撃が走った。そのお腹が大きくなってきたのだ。
「お母さん……ごめんなさい……」
母親よりも小柄な身体を震わせ、あどけない顔で妊娠を打ち明けた一人娘。その相手は、こともあろうに最愛の孝久だった。絹代が茶道部の見学に早苗を連れていったことが契機となり、いつの間にか二人は恋仲になっていた。すでに中絶できる時期を過ぎており、出産するしかない。
「なんで……なんでこんなことを!」
「お母さん、二言目には名家とか茶道のお稽古とか……。早苗、普通の女の子なのよ。好きな人とデートして、お食事してるお友達が羨ましかったんだ……」
名家の跡取り娘として、良かれと思って早苗を厳しく躾け、茶道の稽古を強制したことが仇となった。青天の霹靂、驚天動地の絹代は激怒し、勘当した。悠汰を出産した早苗は高校には進学せず、中学校を卒業後ほどなく「悠汰を頼みます」と置手紙をし、大学を辞めた孝久と駆け落ちしてしまった。
当時は今ほどSNSは発達していなかったが、週刊誌に面白おかしく書きたてられ衆人の知るところとなった。大学は、女子大ということもあって志願者が減少。絹代の自宅の「小早川茶道教室」は生徒が激減し閉鎖に追い込まれ、大学と絹代ともども大打撃を受けた。
(自業自得とはいえ、大変だったわ……)
愛する男と娘を同時に失い悲嘆にくれた絹代にとって、孫の悠汰が手元に残ったことは不幸中の幸いだった。孝久は、逃避行に巻き込まないようにあえて息子・悠汰を認知しなかった。
没落しつつある名家再興と茶道の伝承は絹代の宿願だ。母を求め泣き叫ぶ赤ん坊を立派な男に育て、名家の令嬢を娶り、家名を繋ぐこと。そして、悠汰の嫁とその子供に茶道を仕込み、茶道教室を再開してかつての賑わいを取り戻すことを励みに生きてきた。
悠汰に茶道の稽古をさせなかったことは、早苗の時と同じ轍を踏まないため、そして悠汰から母を奪ってしまったことへのせめてもの償いだ。
幸いにも、絹代と孝久との不倫関係は明るみに出なかった。教授に娘を奪われた哀れな母、茶道教室を失った被害者として、大学は絹代に謝罪するとともに引き続き茶道部の顧問を依頼した。それ以降、大学は、杳として消息が知れない孝久と早苗の手掛かりを探す窓口になっていた。
「ハアッ……。もう十八年ね。だけど、諦めきれないわ……」
絹代はため息をつきながらも、すぐさま気を取り直す。大学の校舎の壁にかかる時計に目を向けると、午後六時を過ぎていた。
「いつもは学生さんたちとお食事して遅くに帰るから、こんなに早く帰ったら、悠汰はきっと驚くわ。大学に入ったばかりで疲れているみたいだし、栄養つけてあげなきゃ。お隣の志乃さんもお招きしようかしら」
二十年ほど前、小早川邸の隣の空き地を新婚の吉村夫妻が購入してモダンな洋風二階建てを新築した。若夫婦の初々しい様子を絹代は今も思い出す。偶然にも新妻の志乃は京都出身で、実家の大江家は貴族の流れを汲み小早川本家と交流があった。その縁もあり家族ぐるみの付きあいをしていたため、早苗が駆け落ちした後、若夫婦は残された悠汰を実の息子同然に可愛がってくれた。
十年ほど前に夫が早逝し未亡人となった志乃は、ほどなく両親の介護のため京都の実家に戻ってしまった。その両親が前年に相次いで亡くなり、この四月に隣家に帰ってきた志乃を絹代は実の娘のように思っている。
「志乃さん、ご両親が遺してくれたお金があるから当面はお仕事しなくていいって言ってたわ。この時間なら家にいるはず。悠汰と志乃さんと晩御飯って、昔に戻ったみたいね」
孫と隣人との温かい団欒を想像し、上品な口元が綻ぶ。端麗な茶道部顧問は大学前でタクシーを拾い帰途についた。