魔指囮捜査官・美優【狩られた媚肉】

著者: 御前零士

本販売日:2025/10/10

電子版配信日:2025/10/17

本定価:1,199円(税込)

電子版定価:1,199円(税込)

ISBN:978-4-8296-7953-1

(犯人を捕まえるためなら私の身体を犠牲にしても……)
新人捜査官としての正義感が、瀬山美優の仇に!
裏社会の捜査協力者・池内に卑劣な報酬を求められ、
事件解決に懸ける25歳は肉欲の蟻地獄に嵌ってゆき……
奇才・御前零士が描き切る、官能小説の神髄!

目次

第一章 新人女捜査官・美優

第二章 満員電車の獲物に

第三章 魔指に剥かれる肉体

第四章 望まぬ快感に襲われて

第五章 性犯罪者と捜査協力者

第六章 未解決事件の試練

第七章 情報と引き換えの姦淫

第八章 四匹の野獣に穢されて

第九章 女捜査官の新たな禁忌

本編の一部を立読み

第一章 新人女捜査官・美優

 澄んだ青空に雲の白さが眩しいその日、瀬山美優は雑多な人種の集まる大都市へ美脚を踏み入れた。豊島区の中心部──ショッピングや遊行で何度も足を運んではいたが、任務を帯びていると空気の味わいも違って感じられる。
(気を引き締めないと……。これまで以上に頑張らなきゃ)
 艶やかな黒髪を肩口までのショートカットに整えた美優は、笑顔が溢れる街中でひとり気合いを入れる。紺のパンツスーツに白の開襟ブラウス、オーソドックスな黒のパンプス──お堅く見える装いにもかかわらず、すれ違う男たちは一様に息を呑んでこっそり振り返る。二十五歳の新人女捜査官は、その伸びやかな肢体に溢れんばかりの色香を湛えていた。
 身長百六十五センチ、バストはトップ九十二センチのFカップ。日々の鍛錬できゅっとくびれたウエストは五十四センチ。瑞々しく張り詰めたおしりは、重力をものともせずに上向いて八十八センチだ。
 優美さと健康美を兼ね備えたスタイルだけでなく、美優は顔立ちも整っている。長い睫毛に縁取られた涼しげな瞳、すっと通った小鼻、つやつやと輝く形の良い唇、その美貌には非の打ち所が見当たらない。
 色白の美肌であることも男たちの興味を惹き付けてしまう。しっとりと光を帯びた柔肌は絹のようになめらかな手触りをして、得も言われぬ甘い香りを立ちのぼらせる。たっぷりとフェロモンを含んだそれが、雄の本能を呼び起こすのだ。
 しかし美優にはそんな自分の肉体が時に煩わしかった。中学へ上がった頃から無数の男性に声を掛けられるようになり、度々痴漢の被害に遭った。同性からは妬みの陰口を囁かれるようになり、涙で枕を濡らす夜も経験した。
(どこ見てるのよ。ばれてるんですからね)
 信号待ちの交差点で、美優は右隣に立つ中年サラリーマンを一瞥して溜め息を吐く。男は手にしたスマートフォンを見る振りをしながら、しきりに胸元へ視線を流してくる。スーツを窮屈そうに盛り上げる乳房に、良からぬ妄想を抱いているのは明らかだ。性欲の籠もった目で女性を品定めする、そんな男性に怒りが込み上げてならない。
 性に起因する犯罪は多い。美人だから、スタイルが良かったから性欲を我慢できなくなった──性犯罪を犯した者たちは口を揃えて同じ台詞を並べる。劣情を抑えようともしない彼等に、一体何人の女性が泣かされてきたことだろう。
 性犯罪からか弱い女性を守るには、対抗できる力を手に入れるのが最も確実だ。しかし〝本職〟では性犯罪以外の事件にも時間を取られてしまう。そこで美優が選んだのが〝鉄道特別捜査官〟になる道だった。
 鉄道特別捜査団──それは鉄道各社の出資により設立された組織で、鉄道路線内の犯罪に特化したものだ。電車内でのスリや喧嘩などにも対応するが、最も重視しているのは痴漢の撲滅となっている。拳銃の携帯こそ許されていないものの、それ以外はほぼ〝本職〟と同等の権力を持つ。しかしあくまで鉄道路線内での話であり、捕らえた犯人は調書と共に引き渡さなくてはならない。
 それでも美優は捜査官を志して訓練学校でのタフな日々を過ごした。痴漢は絶対に許さない、そんな怒りが彼女の原動力だ。そして訓練期間が終了し、晴れて捜査団への配属が決まったのだった。
 人混みはやがて途切れがちになり、並木の前方に目指す建物が見えてくる。鉄筋コンクリートで無骨な造りをした三階建てのそこが若き女捜査官の職場だ。
「よくきてくれたわ。貴女のこと、ずっと待ってたのよ」
「はい、団長。改めまして瀬山美優です、よろしくお願いいたします」
 豊島鉄道捜査団。その団長室で、新人女捜査官は女性団長と男性副団長に最敬礼する。団長は山井雪江、四十三歳。文武両道の才媛だ。美優が彼女と出会ったのは訓練学校卒業後の面談の場だった。山井も女性が遭う性被害に心を痛めており、お互いに響き合うものがあった。是非とも彼女の下で働きたいと思い、配属希望を出してそれが叶った格好だ。
 山井の左側に立つ副団長もにこやかな面持ちで口を開く。
「我が団はまだまだ女性捜査官の数が少ないです。色々と風当たりも強いでしょうけど、頑張ってくださいね」
 彼は木田照雄、五十二歳。眼鏡を掛けた中肉中背で、伝わってくる雰囲気は実直そのものだ。山井がそんな副団長に柔らかな視線を向けてから新人捜査官を見詰める。
「私はね、瀬山さんはこれから沢山の女性を助けることができるって思ってるの。細かいことは気にしないで、思いっきりやって頂戴ね」
「はい。全力で務めます」
「ふふ、頼もしいわ。副団長の言葉通り、貴女は団の内外から注目を浴びているのよ。成績優秀だったし、それにとっても美人なんだもの。だから最初に言っておくけど、スキャンダルには気をつけて。特に異性関係はね」
「はい、それは大丈夫です。やましい付き合いは一切ありません」
 新人女捜査官はすっと背を伸ばして女団長の目を見る。男性関係での憂慮は無用だ。美優も二十五歳、恋人は既にいる。訓練学校で共に励んだ、同い年の宮下陸がその人だ。
 彼とは訓練学校の入学前、大学で知り合った。犯罪対策研究サークルにほぼ同時期に加入して意気投合し、交際に発展したのだ。美優は男性を見る目が厳しいせいで、陸が〝初めて〟の男である。周囲よりも初体験が遅く、経験人数も彼ひとりだけだが、まったく気にしていない。元々セックスは子作りとしてのイメージが強かった上に、母親との確執が美優を更に性から遠ざけていた。
 母親は高校生時代に事故で他界した。しかしその生き様が美優の心に大きな傷を遺すことになった。彼女は性に奔放で、度々夫以外の男性との性行為に耽っていたのだ。
 小学六年生の時、体調不良で早退した美優は偶然母親と見知らぬ男のセックスシーンを目撃してしまった。夫が仕事に精を出している時間帯に、他所の男を連れ込んで獣のように求め合い──その光景がいまでも忘れられない。
 陸に身体を求められると、必ずその時の記憶が蘇ってきて気持ちが冷めてしまう。お陰で彼との営みは限りなく少ない。ここ数ヶ月の間も、デートの際はキスする程度で終わっている。
 こんな状態だけに、彼とのセックスに於いてオーガズムの経験はない。とは言っても不感症という訳ではなく、オナニーではきちんと絶頂を得られる。しかし繰り返し快感を求めることには抵抗がある。性的快感には後を引くものがあり、なにも考えずに楽しんでいたら母親と同じになる気がして怖いのだ。幸い性的興奮や快感を得なくても日々の暮らしには影響がない。そのため美優は恋人との営みが少なくても危機感を持ったことはなかった。
「まぁ瀬山さんは真面目だものね、いらない忠告だったかしら。それじゃ捜査官課の皆に紹介するわ、ついていらっしゃい」
「はい」
 山井に付き従い、美優は飾り気のない廊下を進む。二階の一角に捜査官課はあった。女性団長が室内へ踏み入ると、ざわついていた捜査官たちが口を引き結んで一斉に礼をする。男女の比率は八対二と、圧倒的に女性が少ない。
「みんな、ちょっとだけ時間を頂戴。こちらが本日付で配属の瀬山さん」
「初めまして、瀬山美優です。よろしくお願いいたします」
 凜とした美貌の女捜査官は深々と頭を下げる。すると男性捜査官たちからたちまちどよめきが湧き起こる。
「おお……。すっげえ美人じゃないの」
「マジかよ。こりゃあ毎日楽しくなるな、おい」
「カレシいるの? オレ立候補するよ」
 野太い歓声を上げる男たちに、美優はつい表情を強張らせる。その胸中を察したのか、山井が場を制する。
「ほらほら、早速セクハラしないの。指導役は……播磨さん、お願いね」
 団長の視線を浴びて、輪の最後列にいた中年男性捜査官が面倒臭そうに頭を掻く。がっしりとした体格で強面、いかにも捜査官といった風貌の男だ。美優は播磨に歩み寄り、改めて礼をする。仏頂面の男性捜査官はやりにくそうに呟く。
「チッ、よりによってこんな姉ちゃんとはな。……播磨幹雄だ。いくら団長のお墨付きだからって、俺は特別扱いしねえからな。覚悟しとけ」
「はい、望むところです」
「ふふん、言うねぇ。泣きベソかくんじゃねえぞ」
 団長はそんなやり取りを目にして微笑み、退室してゆく。すると課内は騒がしさを取り戻し、若い男性捜査官が一枚の出席表を手に声を張る。
「よぅし、今夜は歓迎会一発目だ。最終確認するぞ、出られない奴はいないよな? 美優ちゃんは強制参加だからね。後でもう一回やるけど、そっちも参加だよ」
 どうやらシフトを考慮して、二回に分けて新人歓迎会を催すらしい。参加者は皆満面の笑みを浮かべている。捜査官とはいっても、四六時中お堅い訳ではない。基本的には気さくで面倒見の良い者たちなのだ。
「んじゃ瀬山、ここがお前の机だ。荷物整理したら管轄を少し回って、そしたら歓迎会だ。まずは仲間の顔と名前を頭に叩き込め。いいな」
「はい」
 いよいよ捜査官としての毎日が始まる。シンプルな事務机に私物をしまい込みながら、美優は胸の高鳴りを覚えていた。

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