本販売日:2025/03/24
電子版配信日:2025/04/04
本定価:825円(税込)
電子版定価:880円(税込)
ISBN:978-4-8296-4793-6
代わり映えのない毎日に嫌気が差していた河北は、
仕事中に見かけた可憐な乙女・宮島美都に一目惚れし、
電車の中で彼女に魔指を這わせたい衝動を募らせる。
一線を越えた時、強烈な興奮に良心と理性は崩壊!
美都が通う図書館内でも不埒な行為を働き……
御前零士が描く、生々しくリアリティ溢れる痴指日記。
第一章 図書室で乙女に抱いた危険な衝動
第二章 魔指に抵抗できない可憐な肢体
第三章 芽生え始めた快感に戸惑う美都
第四章 書棚の狭間で達する恥辱の絶頂
第五章 中年男に奪われたキスと処女
第六章 書庫での交尾で許した膣内射精
第七章 恋人同士のように繋がる日々
本編の一部を立読み
第一章 図書室で乙女に抱いた危険な衝動
その日、河北周平はいつになく苛立っていた。年下の男性上司からネチネチと小言をぶつけられたせいだ。
『河北さんさぁ、やる気ある? ウチもさ、やる気ない社員を雇っていられるほど余裕はないんだよなぁ。分かる?』
(なんだよ、自分はコネ入社のくせに……)
水曜日の午後四時。営業車のワンボックスで信号に停まり、河北は大きく溜め息を吐く。教育関係の書籍や教材を取り扱う会社に入って早二十年。営業課に配属されて、不得意ながらも身を粉にして働いてきた。だが営業職には巧みな話術と見た目の好印象が大事だ。残念なことに、河北にはそのどちらもが少々足りていなかった。
河北は係長補佐の役職に就いてはいるが、ほぼ平社員と言って良い。同年代の者が課長や部長に任命されている中で、肩身の狭い思いをしている。二十四歳で結婚してすぐに娘も生まれて、いまが一番お金の掛かる時期だ。一人娘は年頃で、学費にお洒落代にと飛ぶようにお金が消えてゆく。家族三人での暮らしだが、金銭的余裕はほとんどなかった。自宅は二階建ての一軒家だが、築年数の経った借家だった。
年下の上司がやってきたのは去年のことだ。それまで色々と良くしてくれていた上司が病気で退職して、その代わりとして採用された。しかし実力での入社ではなかった。彼は社長の親戚で、所謂コネ入社だ。そのせいか仕事は部下に丸投げで責任も取らず、パワハラ発言も多い。河北のような、うだつの上がらない男が憂さ晴らしの標的にされるのも無理からぬことだった。
信号が青に変わり、男は営業車を発進させる。河北が現在受け持つ仕事は私立学園への教材の納入だ。五校同時の担当で学期末は目が回るほど忙しいが弱音は吐けない。営業成績トップの年下社員は自分よりも多くの得意先を持っている。車で二時間も掛かるところにまで足を延ばしていて、その姿勢は見倣うべきだ。
目的の私立学園に着いた中年男は守衛所へ向かって手続きを行う。台車に教材の詰まった段ボール箱を積み、くたびれたグレーのスーツで担当者を待つ。今日の仕事は図書室への書籍追加と新規教材の提案だ。学園側の担当者は同年代の女性教師で、司書の代役も務めている。
「お疲れ様です、お待たせしました」
「先生、お疲れ様です。お手数をお掛けします」
現れた女性教師と挨拶を交わし、河北は台車を押して校舎に入る。彼女は小太りで黒縁の眼鏡を掛け、既婚者で夫も教師らしい。対する中年男は身長百七十センチで中肉中背、顔立ちはパッとせず目立たない。もう少し身長があって顔立ちも整っていたら、今頃は課長になれていただろうか。男は無い物ねだりをして内心落ち込む。
放課後を迎えた学園の校舎は静かで、若者たちの声は主にグラウンドから聞こえてくる。共学のここは図書室が大きく、蔵書数は二万五千を誇る。大型の本棚が北と西の壁沿いに並び、背中合わせになった本棚も島状に四つずつ二列ある。机は六人が使える大型の物が四つ、パーティション付きの個人用が二十席ほど用意されている。公営の図書館並の豪華さだ。だが女性教師には悩みがあるらしい。
「いまは情報の時代でしょう? スマホでなんだってできるし、塾通いも当たり前だから図書室を使う子がめっきり減っちゃって」
「ですねぇ……。ウチの子も暇さえあればスマホ弄ってますよ。本もスマホで読めちゃうし、なんか寂しいですよねぇ」
女性教師の先導で図書室へ入ると、人影はまばらだった。彼女の言葉通り、放課後に図書室で勉強する生徒はごく少数だ。それでも図書室は学び舎にはなくてはならない存在だろう。印刷された言葉から得られるものは確実にある。紙の手触りと共に得た知識は必ず心の糧になってくれるはずだ。男は台車から段ボール箱を降ろし、女性教師の指示通りに内扉で繋がった書庫へ運び入れる。
「こちらでよろしいのですか? 並べるのお手伝いいたしますが……」
「ええ、後はこちらで。頼もしい子がきてくれるようになって、整理を任せているんです。ああ、あの子です」
河北は女性教師の視線を追う。そこには机に着いて自習をするひとりの女生徒の姿があった。少女は大人ふたりの視線に気付き、教師の手招きに応じて腰を上げる。身長百五十五センチほどの、全体的に華奢な少女だ。艶やかな黒髪を清楚なボブカットにまとめ、縁なし眼鏡を掛けている。紺色のブレザーの制服をきちっと着こなし、理知的で大人しい印象を受ける。
「宮島さん、紹介しておくわね。こちら、ヒナタ出版の河北さん」
「初めまして、宮島美都です。よろしくお願いします」
少女が眩い微笑みと共にぺこりと頭を下げ、得も言われぬ甘い香りがふんわりと漂う。目が合った瞬間、中年男の時間は止まる。そればかりか、背筋から脳天へと強烈な痺れが駆け抜けた。なにが起きたのか自分でも分からない。
「……あの……?」
「えっ!? あっ、ああ、河北です。こちらこそよろしく」
硬直していた心臓が一気に最高速の脈を刻み出す。河北は乙女の怪訝そうな視線から思わず逃げ、慌てて頭を下げ返す。まだ背筋にはじんじんと謎の痺れが走っている。そしてスーツの下で全身にどっと汗がしぶく。どれもこれまで経験したことのない身体の反応だ。一体自分はどうしてしまったのか。
(も、もしかして、これが……)
人は運命の相手に出会った時、まるで感電したかのような感覚に陥ることがあるという。いまの状態がまさにそれだ。中年男は恐る恐る視線を乙女の瞳に戻す。するとまた全身が痺れ、思わず膝が笑う。縁なし眼鏡の奥で輝く瞳はどこまでも澄んでいて、吸い込まれてしまいそうだった。
宮島美都と名乗った乙女は見蕩れずにはいられない整った美貌をして、色白の柔肌が目に眩しい。赤のタータンチェックのミニスカートから伸びる細い美脚、その太腿にどうしても目を奪われる。細めのそこはぼうっと白く輝いていて、見ているだけで涎が湧き出してくる。
大きな瞳は長い睫毛に縁取られ、目が合う度に心臓が激しく弾んでしまう。形の良い桃色の唇は見るからに柔らかく甘そうで、笑みの際に覗く白い歯にもどきりとさせられる。そして声も澄んでいて耳に心地好い。もし愛の言葉でも囁かれたら、どんな男でも立ち所に呆けることだろう。
「この子ね、入学してすぐここへ通うようになって。色々手伝ってもらってすごく助かっているんです。どこになんの本があるのか、いまじゃわたしより詳しいくらいで」
「そ、そうなんですか、それは頼もしい」
少女は教師の言葉を受けて照れ臭そうに笑う。その眼前で中年男はそわそわと落ち着かない。これほどまでに可愛い子が学園内にいるとは思ってもいなかった。〝ビビッときた〟せいもあり、男の脳裏は美都のことで一杯になってしまう。
(それにしても可愛いなぁ……。さぞかしモテるんだろうなぁ……)
河北は女性教師と上の空で会話を交わしながらしきりに少女を盗み見る。美都は華奢な体躯をしているために儚さも感じられる。思わず嗜虐的な衝動に駆られて、中年男はつい喉を鳴らす。
自分の娘とは正反対の存在だ。娘は逞しい性格をして、幽霊騒ぎや昆虫にもまるで動じない。妻も同様で、体型も性格もいまではすっかり〝オバサン〟だ。だが仮に妻が交際開始当初の姿だったとしてもまるで勝負にならない。もしも独身時代にこんな美少女と出会えていたら、毎日が明るく楽しくなっていたに違いない──そう考えて男は微かに笑う。それは有り得ない話だった。
自分はこれまで女性にモテた例しがない。中学時代も高校時代も片思いに苦しみ、決死の覚悟で挑んだ告白は全て失敗に終わった。積極性に欠ける暗めの性格とパッとしない容姿のせいだろう。お陰で目に眩しい美少女との交際は妄想でしか楽しめなかった。
結局童貞は風俗で卒業した。しかし自分に自信が持てないのだから、風俗へ行っても萎縮するばかりだった。折角好みの美人が在籍しているのに指名ができず、地味で体型の悪い女性を選ぶのが常だったのだ。相手は喜んでくれて様々な淫技を学べたものの、とても自慢にはならない。勝ち組の男性は美女を相手にそれを行っているのだから。
結婚できたのも奇跡と言えるだろう。もちろん、告白が成功した結果ではない。親の伝手で半ばお見合い状態の紹介をされ、お互いの親から結婚を勧められ逆らわなかっただけだ。悪いとは思うが妻の容姿は当初から優れているとは言い難かった。それでも結婚へと踏み切ったのは、一生独身でいるのが怖かったからに過ぎない。
妻も自分と似たような境遇だったようで、キスすらしたことがない処女だった。傍から見れば、冴えない者同士で似合いのカップルだろう。そんな引け目があったために、妻の初めての男になれても特に喜びはなかった。スタイルが良くないのだから中々襲う気にもなれない。そして娘を授かったのを切っ掛けにとうとうセックスレスとなってしまった。
それでも性欲は溜まる。金銭的に余裕があれば、独身時代と同様に風俗を使うことができる。だが平社員も同然では生活するだけで精一杯だ。どうにも性欲が抑えられない時はスマホを持って深夜のトイレに籠もり、オナニーで発散するしかない。なんと情けない有様だろう。でもそれが自分なのだ。
「あの、河北さん? この前お話しした、模擬テスト集は……」
「え……、それなら、えっと……」
男は女性教師の言葉で我に返り、台車で運んできた段ボール箱たちを確認する。しかしそこに目的の物は見当たらない。どうやら凡ミスを犯し、車に残してきてしまったらしい。
「すっ、すみません! 車にありますので、すぐにお持ちします」
河北は女性教師に頭を下げ、小走りに図書室を出る。この学園は自分にとって最大の得意先だ。失礼があって契約を切られたら大変な損失になる。こういう時、できる男はミスしないのだろう。気を張っていたつもりが抜けていて、そんな自分に腹が立つ。
車まで辿り着き、ハッチバックを開けて目的の段ボール箱を探し出す。それは大小ふたつで、台車がなければ運ぶのが難しい。焦るあまりに肝心の台車は図書室に残してきてしまった。またも情けないミスを犯して、中年男はがっくりと肩を落とす。すると次の刹那、思いも寄らない声が背後から響いた。
「あの、河北さん。お手伝いします」
「えっ、あ……」
驚いて振り返ると、そこには美都がいた。女性教師の姿はない。なんと少女はひとりで手伝おうと追いかけてきてくれたのだ。妻以外の女性からこんな優しさを受けた例しはない。河北は思わず涙ぐみ、慌てて笑顔を作る。
「いやいや、重たいから。ここはまか……」
「あっ、こっちの小さいのなら持てそう。よいしょ……っと、うん、大丈夫」
華奢な制服少女は男の言葉を待たずに小さい方の段ボール箱を抱える。ぽかんと口を開けていた河北は我に返ってもうひとつの箱を地面へ降ろし、ハッチバックを閉めて箱を抱え直す。美都は大人しそうな印象だったが、ここ一番で身体を張れる豪胆さも持ち合わせているようだ。
「ご、ごめんね。手伝わせちゃって」
「いえ、良いんですよ。河北さんのお仕事って大変ですよね。先週だって、ひとりで汗だくになって、車と図書室を三往復もされてたじゃないですか。いつもあたしたちのためにありがとうございます」
なんてことだ──男はまた涙ぐむ。先週は気付かなかったが少女は図書室にいて、自分のことを見ていてくれたらしい。しかも愛らしい声でお礼まで述べてくれるではないか。その言葉で身体から疲れが消し飛び、重いはずの段ボール箱が軽く感じられてくる。こんなに嬉しいことがいままでにあっただろうか。
「こちらこそありがとうね。宮島さんは優しいなぁ」
「えへへ、そんな。誰だってすることですよ」
見た目ばかりか性格まで良いのだから、美都にはもう恋人がいてもおかしくない。そう考えると河北は猛烈な嫉妬に駆られる。自分は既婚者なのだと我に返るも、少女の横顔に視線を向けるだけで嫉妬の炎が蘇ってしまう。この天使の如き乙女を我が物にしたい、そんな邪な思いが沸々と込み上げてくる。
(なにを考えてるんだ。そんなことが許される訳ないだろ)
図書室に着いて女性教師に段ボール箱を届け、河北は制服少女にもう一度頭を下げる。美都ははにかんだ笑みで迎えてくれて、箱の開封まで手伝ってくれる。彼女の清らかな吐息がふと感じられる度に、心臓が大きく跳ねて身体の芯が熱くなる。冴えない中年男は娘ほど歳の離れた相手から目を離すことができなくなっていた。