【子宝法】のモデル校になりました。マッチングを開始します。
突如、九姫学園に導入された、身体の相性判定&性交渉促進法。
失恋中の童貞の僕が、S級美少女とまさかのWマッチング!?
ガラの悪い不良女子・犬吠埼炎夏さんと校内で合法中だし!
最初は毛嫌いしていた彼女も、相性抜群な肉棒によがり始め……
さらに、僕を振った冷徹な絶対女王・白根小雪とも奇跡的にマッチし──
国家公認の子作りエッチが解禁された、生ハメ学園ライフ、開幕!
プロローグ
一章 まさかのWマッチング
二章 イグニション
三章 雪融は難く
四章 バースト・ラブ
五章 氷の檻を砕いて
六章 バーニング・エクスタシー
七章 情熱の芽吹き
八章 必然のWマッチング
エピローグ
本編の一部を立読み
プロローグ
年が明けた一月、ぼくは人生最大の決意をした。
我が九姫学園が誇る美女、白根小雪《しらねこゆき》に告白をするのだ。
もちろん無謀は承知だ。数多の男子が告白に挑み、そして散っていった。サッカー部のイケメンエース、校内模試一位の先輩……平凡なぼくよりもずっとスペックの高い人たちでも、例外なくフラれている。
ついた異名が、氷の女王。
それでも諦められない。
三学期が始まって数日後、先輩が校内の渡り廊下で一人になったところを見計らって飛び出した。
足をぴたりと止める先輩。切れ長の目がわずかに大きく開く。
その眼差しにぼくは一瞬ためらったけれど、もうこの気持ちは止められない。勢いのままに告白の言葉をぶつけた。
「しっ、白根先輩! ぼく、あなたをずっと好きでした! 付き合ってください!」
静寂。
心臓の音が異様に高鳴っていた。たぶん目も血走っていたと思う。
それでも先輩は、整った顔立ちをほとんど歪めることはなかった。いつでも冷静なクール美女。ぼくをはじめとした男どもは、そこに惹かれたのだ。
儚げな薄い唇が開く。落ち着きのある澄んだ声がぼくの耳に届いた。
「お断りいたします。家の方針で、異性との交際は社会に出てから、ということになっていますので」
凍てついたような表情で、冷たく言い放つ。照れとか迷惑そうとか、そういう感情の動きを一切見せない。
ぼくは完全に凍りついていた。
気づけば先輩は脇を通り過ぎており、後ろ姿に揺れる長い黒髪を見ているしかなかった。
(やっぱり、ダメだったか……)
奇跡はそうそう起きない。
玉砕覚悟だったとはいえ、いざそうなってみるとショックは大きい。奈落の底に落とされたような気分のまま、あてもなく校内を歩き回る。目には何も入らなかった。
──と、軽い衝撃があって、現実に引き戻される。どうやら人にぶつかったらしい。
「あ、ごめん──」
「どこ見て歩いてんだテメェ!? ああ!?」
ドスの利いたくぐもった女の声が、下から轟いた。
目線を下げると、小柄な女子がぼくを見上げ、にらみつけているのが見えた。
黒いマスクで鼻から下は見えなかったけど、目つきと眉の動きだけで不機嫌そうな表情はわかる。
ついてない、と思った。
フラれたところへよりによってこの人に出会うとは。
──犬吠埼炎夏《いぬぼうざきほのか》。
「あたしが歩いてんだからテメェがどくのが筋だろうが!」
白根先輩とは別方向で有名な女子だ。
いわゆる不良。いまどき珍しい、と先生たちがぼやいていたのを耳にしたことがある。
校則なんてなんのその、緩いパーマをかけた髪を茶色に染め、いつもダボダボのジャージに、穴あきサンダルを履いている。そんな格好で校内を練り歩いては、誰彼構わず因縁をつけている。クラスこそ違うけど、ぼくと同じ一年生で、入学式の日から問題を起こしていた。
今回のターゲットになったのは、ぼくだった。しかもまずいことにボーッとしていたこちらに非がある。
「ご、ごめん……いま周りを気にする余裕がなくて……」
「はんっ、どーせ女のことでも考えてたんだろ」
「そっ、それは……!」
見てきたかのような言葉に、ぼくは激しく動揺した。それが余計に犬吠埼さんを怒らせたらしい。
「あ? マジでそーなのか。エロいことしか頭にねぇ、このスケベ野郎がよぉ!」
吐き捨てると同時に、向こうずねを思い切り蹴飛ばされた。痛撃を受け、喉がひゅっと鳴る。
「ぎゃっ……!」
痛い。痛すぎる。ぼくは尻もちをついて悶える。
犬吠埼さんはつまらなそうに鼻を鳴らすと、ぼくの方を振り返ることもなく去っていった。
「うぅ、人生最悪の日だぁ!」
こうして、ぼく──春藤秋彦《しゅんとうあきひこ》の恋は終わった。
◇
何にも身が入らないまま数日が過ぎた。
放課後のホームルームで先生がプリントを配るのを、見るでもなく眺める。
そこでクラスが急にざわついたことに気づいた。
「なんだなんだ……?」
ぼくは慌ててプリントに目を落とす。
そこにはこう書いてあった。
【子宝法(若年者性交渉促進法)のお知らせ】
そういえばそろそろ始まるんだ、と思い出す。告白の件ですっかり忘れていた。
「あー、知ってる者もいると思うが、ウチの学校が子宝法のモデル校に指定された。来年度からはAIマッチングが始まるから、スマホにアプリを入れとくように。校内での細かいルールは後で全校集会で説明するからな」
気恥ずかしそうに言う先生。まあそうなるよなぁと思う。
子宝法──正式名称は若年者性交渉促進法。読んで字のごとく若者にセックスを促す法律だ。学内の男女をマッチングし、セックスさせて子供を産ませる。
思い切ったにもほどがある制度。国が立ちゆかなくなるレベルの少子化では、背に腹は代えられないということらしい。
どちらかといえば男女交際を諫める側だった教師が、セックスを推奨する側になるのだから困惑するのも当然だ。
そして生徒側、特に男子は大盛り上がりだった。何もしなくても女子とヤれる。これで喜ばない男子がいたら見てみたいぐらいだ。
「ん、春藤? お前あんまり嬉しそうじゃねぇな。生で女子とヤれんだぜ?」
隣の席の矢筈が小突いてくる。鼻の下を伸ばして見るからに興奮している様子だ。いいやつなのだけど、スケベがすぎるのが欠点だった。
「そうだけどさ。でも相手を選べるわけじゃないだろ。決めるのはAIなんだから」
プリントには、誰と誰がマッチングするかは国が開発したAIが決めるとある。遺伝子や肉体のデータを照合して、相性最高の男女を引き合わせるから、たとえ知らない間柄でも幸せが約束されるらしい。非常に嘘くさい。
「まー、ブスやゴリ女と当たったらアレだな。でも女は女だろ? 学生のときに脱童貞できていいじゃねぇか」
「うーん……」
ぼくは机にアゴをつけて手をだらんとさせる。そう簡単には割り切れない。間違いなく白根先輩への未練のせいだ。本当なら付き合ってセックスまで持っていきたかった。あの凛とした容姿の下にあるだろう美しい裸体を、ぼくのものにしたかった。
けれどそれはもう叶わない。
もちろん可能性は残されている。AIの仕組みは非公開だから、先輩とたまたま相性が最適と判断されるかもしれない。
けど、か細い希望に縋るのにはもう疲れた。昨年から延々と告白するかしないか悩み続け、結局はフラれたのだ。
ぼくは子宝法のプリントを鞄へ雑に突っ込んだ。
一章 まさかのWマッチング
失恋の傷が癒えたのは、二年生になってからだった。
「こう見せつけられると、悩んでたのがバカみたいだなぁ……」
子宝法が早速始まり、すでに何組もがAIの導きによってセックスしていた。引き合わされた当初は主に女子が嫌がったり、男子がチェンジを要求したりとトラブルもあったけど、実際にヤってみると問題は消えた。
全員そのままセックスにのめり込んだからだ。
肉体の相性が最高な男女が選ばれる、という謳い文句は本当らしい。その後の関係も良好で、ゴールデンウィークが明けると、露骨にカップルが増殖していた。
うちのクラスでも接点がなさそうだった男子女子が、甘ったるいオーラを撒き散らしている。
「くそっ! なんで俺にはまだマッチング来ねぇんだ?!」
なお、ヤるのを熱望していた矢筈(また同じクラスになった)は、まだマッチングしていないらしく、スマホに向かって悪態をついていた。
生徒のスマホには新学期が始まると同時に、マッチング用のアプリがインストールされていた。【ゆいよい】という噛みそうな名前のそれは、マッチングが成立すると相手の情報が表示される仕組みだ。
ただ、それがいつになるのかは全くわからない。ぼくのアプリもまだ誰の名前も表示されていなかった。
(どうせ白根先輩とマッチングすることもないし、誰ともヤれなくてもいいか)
投げやりな気分でスマホに目をやると、通知欄に【マッチングしました】の文字。
「えっ……」
マッチングが三十分も前に成立していた。慌ててアプリを開くと、相手の名前が表示されていた。その名はなんと──。
「春藤秋彦はどこだああぁ!!」
風を巻き起こす勢いで教室に誰かが駆け込んできた。ダボダボジャージの小柄な女子。犬吠埼炎夏だった。
教室が静まりかえる。
犬吠埼さんは顔を真っ赤にして肩で息をしている。どうやら全力で走ってきたらしい。
クラスじゅうの視線がぼくに集中する。いたたまれなくなり、立ち上がっておずおずと手を上げた。
「えーと……、ぼ、ぼくです」
途端に、ものすごい形相で近寄ってくる犬吠埼さん。そのままぼくの胸元をつかむと、
「来い」
思い切り引っ張ってきた。ぼくの方が二十センチぐらい背があるから、引きずられるようなことはない。ただ、逆らったら今度はキンタマでも蹴られかねない。犬吠埼さんの後ろをおとなしくついていく。
「ああああ! 春藤の野郎、俺より先に……! チクショーめ!」
教室に落としてきたスマホを矢筈が見たらしく、怨嗟の雄叫びを上げていた。
そう、アプリに表示されていた名は、犬吠埼炎夏だった。