小学生に転生したら、斜め前の席には俺好みの美少女が!
泣きボクロに垂れ目の、どこか儚げな同級生・藤原桔梗。
家に入り浸る仲の幼馴染に、前世ぶりの淡い恋心が蘇る。
──隣に居続けて、いつか彼女と付き合いたい。
だけど、桔梗には他に気になる人がいるらしい。
ある日の放課後、失恋して涙を流す桔梗を見かけ……
リスタート青春純愛ノベル、第2巻は負けヒロイン編!
プロローグ
1章 中学生
1話 幼馴染
2話 桔梗の好きな人
3話 近づく距離感
4話 焦れるお泊まり
5話 キャラメルポップコーン
6話
2章 高校生
7話 勘違い ~Side桔梗~
8話 告白
9話 性癖
10話 桔梗は通い妻 ~Side桔梗~
11話 桔梗は通い妻 ~Side冬希~
3章 大学生
12話 同棲
13話 初めてのお酒
4章 社会人
14話 子作りエッチ
エピローグ
本編の一部を立読み
プロローグ
気絶した時というのは、案外こんな感覚に襲われるのだろうか。意識が急に遠のいて、己の五感すべてにピントが合わなくなった。
視界が黒に覆われて、音も匂いも風が肌に触れる感覚もすべて失せる。
外界からの情報が一切遮断され、内側がふわりと浮き上がるような心地がした。徐々に視界に光が戻っていく。
視界に戻った光は、黒に慣れていた目にあふれる困惑の感情だけがあった。意識だけはしっかりとあった。
ただの気絶とは違う。ただ世界と隔絶されただけで、思考は鮮明だ。
そこで、失っていた感覚が戻ってきて、体がはいささか眩すぎた。光が眼球に突き刺さり、やがてその光が像を成し、脳がその景色を処理する。
――教室。
瞼を持ち上げ飛び込んできた光景は、教室だった。どうして成人を迎えて何年も経った自分が教室にいるのか、理解が及ばなかった。
ただ空っぽの教室ではない。自分の周りでは制服を着た生徒たちが、わいわいと思い思いに談笑していた。
自分もその生徒たちと同じ制服に身を包み、行儀よく椅子に座っていた。
意識を失う前は、会社の無機質なデスクの前で、腰の痛くなるチープな椅子に座っていたはずなのだが。
これは夢だろうか。しかし、夢にしては妙に鮮明で、感覚もはっきりとある。
手を握り、開く。血が一瞬止まり白くなった掌が、赤みを取り戻す。じわりと血が指先まで広がる感覚があって、その感覚が強まっていく。
血の流れる感覚は鋭くなっていった。血は掌を通り、腕を伝って心臓へと戻っていく。心臓に流れる血潮をやけに感じると同時に、とくり、と心臓が跳ねた。
その瞬間に、記憶が一気にフラッシュバックする。
これは夢などではない。制服を着て椅子に座る自分が何者であるのか、はっきりと思い出した。俺の名前は市川《いちかわ》冬希《ふゆき》。意識の混濁で、まるでデスクワークをしていた自分が突然この教室に転移したかのように錯覚していたが、俺《冬希》が前世を思い出したのだ。
十三歳の春。記憶が舞い戻ったのは唐突だった。
そして、その前世の記憶はまるで俺の脳に居つくかのように、俺の記憶と混然となっている。
いや、むしろ、前世だと思っている自分の魂が市川冬希に取り付いて、市川冬希の記憶にアクセスできるようになっただけなのかもしれないが。
――難しいことを考えるのはよそう。俺は俺だ。ただ前世の記憶がよみがえっただけの男子。そういうことにしておこう。ライトノベルでもよく見る展開じゃないか。……そのライトノベルを読んでいたのは、今世か前世なのかはもう区別はつかないが。
前世の俺は、もう一度人生をやり直せることにワクワクしていた。生まれ直したようなものだ。まだ幼い体を手に入れて、やれることをやれるだけやってやろう。
今世の俺には好きな人がいる。前世にはなかった年相応の淡い恋心に、俺は身を焦がすような思いをしていた。
幼馴染の藤原《ふじわら》桔梗《ききょう》は家が隣同士で、昔から家族ぐるみの付き合いだった。ほかの異性よりも距離が近く見てくれもいい桔梗に、幼いころの俺が恋心を抱くのは当たり前だった。
彼女とは小学校のころにやっていた習い事のバレーボールで仲良くなった。家が隣ということもあって、送り迎えや何やらで一緒に過ごすことが多く、彼女との接点は必然的に増えていった。そこで俺は彼女に惹かれていったのだ。
俺はうまくなれず楽しくなくなって早々にやめてしまったが、桔梗はメキメキと上達していって楽しんでいるようだ。
その桔梗は俺の斜め前の席に座っていた。
桔梗は窓の方、つまりは教室の左側を熱心に見ている。
――授業を聞け、なんて思うが、俺だって桔梗の方を見て授業なんか聞いていなかった。
彼女は何を見つめているのだろうか。たまに揺れる長いポニーテールは彼女のトレードマークだった。右後ろのこの席からでは見えないが、桔梗の左目の下にある泣きボクロも色っぽくて好きだった。
よく見ればこの年でもうエッチな身体つきをしているのがわかる。
胸はそれなりに大きいし、特にお尻は安産型で柔らかそうな丸い良い形をしている。彼女の身体を俺の好きにできたらと考えると、授業中にもかかわらず前かがみになってしまう。
だが、彼女と視線は絡むことはない。
彼女の視線の先を追ってみる。そこには有象無象のクラスメイトたち。中にはクラス一の優男、|廣瀬蓮人《ひろせれんと》の姿もあった。ひそかに彼に思いを寄せる女子は多いらしいが、幼いころから交際している女子がいるということもあって、アプローチを仕掛けるような子はいないらしい。
もしかして、桔梗も彼のことが好きなのだろうか。そうだとしたら、どうやって彼女を振り向かせよう。
交わることのない視線にやきもきしながら、俺は桔梗のことを見つめ続けた。
1章 中学生
1話 幼馴染
「ねえ、ちょっと熱くない?」
「扇風機、出すか?」
「んー、そこまでじゃ、ないかも」
桔梗は俺に寄りかかるようにして漫画を読んでいた。
学校が終わり、放課後になると桔梗は毎日のように我が家へ漫画を読みに来る。俺の母が集めている少女漫画が彼女の目当てだった。
桔梗は絶世の美少女と言っていいほどの容姿をしている。
背中の中ほどで切りそろえられた黒髪は、赤い髪留めでポニーテールになっている。その髪は絹のように美しく、夕焼けをしっとりと反射していた。
真っ黒な瞳を宿す垂れ目は、彼女の顔立ちを儚げに演出している。その儚さに俺は昔から惹かれているのだ。――といっても、彼女の内面自体は元気そのものなのだが。
左目の下には泣きボクロがあって、彼女の儚さをより一層際立たせていた。
「ん……」
桔梗が身じろぎする。彼女が寄りかかっているせいで、俺と桔梗の服がこすれてうっすら熱を持つ。それは桔梗の体温と混ざり合って俺に伝導する。伝わってくるのは熱だけではなかった。桔梗の、年のわりにはっきりと女性へ発育した身体の柔らかさが俺の二の腕に感じられた。
昔から彼女はこの距離感だった。
これが小学校低学年くらいであればまだよい。お互いに性的に意識するような歳でもない。だがしかし、今となっては別だ。
桔梗の身体はしっかりと大人に向かって成長している。胸はボディラインをあえて隠すように作られた制服の上からでもわかるほどに膨らんでいるし、お尻もザ・安産型ででかい。
こちとら思春期真っ盛りの健康な男子。意識するなという方が難しい。桔梗の裸だって想像するし、キスやそれ以上のことだって妄想する。彼女の柔らかさを直に感じるこの距離感は毒だった。
まっすぐ伸ばされた桔梗の足は、むっちりと程よい肉付きだ。それは彼女がバレーボールで培った筋肉と、その上にうっすらとついた女性ならではの皮下脂肪による健康的なものだった。腕を少し伸ばせばすぐ触れるような距離にその脚はある。
――触れたい。この衝動を抑えなければならないもどかしさに、俺はおかしくなってしまいそうだった。
桔梗からふわりと甘い香りがした。鼻で感じ取った香りは脳へと伝達され処理される。香りを処理した脳はそのまま溶けていく――。そんな錯覚を覚えた。もしも肌にも嗅覚や味覚があったなら、桔梗から伝わる熱は甘かっただろう。
「はぁ……」
突然、桔梗がため息をついた。
「どうした……?」
俺の邪念が伝わりでもしたのかと一瞬焦る。
「いや……、この漫画の主人公が報われなくってさ……。かわいそうで……」
「……ふーん」
桔梗の返答に俺は内心安堵しつつ、ちらと視線だけで桔梗の表情を盗み見た。眉間にはくしゃりとしわが寄って、視線はまっすぐ漫画に下ろされている。漫画の中の絵は、女主人公が意中の男子に振られているシーンのようだった。
少女漫画のことはよくわからないが、そのシーンが良いシーンではないことは彼女の表情からもわかる。漫画のワンシーンでころころと表情を変える桔梗のことが愛おしくなった。
その後は特に会話もなく、ただのんびりとした時間が流れていった。
「それじゃ、そろそろ帰るね」
「ん」
暗くなり始めた窓の外を見た桔梗は、座りっぱなしで凝り固まった足腰をほぐしながら立ち上がった。制服のスカートのまま前屈をしたりするもんだから、後ろで座っている俺からはパンツが見えそうになる。視線を逸らすか逸らさないか迷っているうちに桔梗は前屈をやめてしまった。
「じゃあね」
「送るよ」
「んー? いいよ。すぐそこだし」
「いいから」
俺も立ち上がり、脱いでいた靴下を履いた。
桔梗と連れ立って家を出る。外は夜の帳が下り始め、東の空は深い藍色に覆われていた。
送るといったって桔梗の家はうちの隣だから、歩く距離はわずか十数メートルしかない。その十数メートルを無言のまま歩き、桔梗を彼女の家の玄関に送る。
「それじゃ、また明日も行くから」
「わかった」
桔梗は軽く手を振って玄関の中へと消えていった。彼女の全身が玄関へと吸い込まれていくのを見送り、俺は踵を返し自分の家へと引き返した。
俺は自室に戻ってくると、扉に鍵をかけた。そしてそそくさとズボンとパンツを脱ぎ去り、桔梗が座っていたところに腰かけた。まだ彼女のぬくもりがあって、残り香も部屋に漂っていた。
それをオカズに俺は自慰をした。
――いつか、桔梗と付き合ってエロいことができたら……。頭の中に空想の桔梗のヌードが浮かんでは消えていく。
……いや、もうこの際、いつかとか言っていないで告白してしまおう。当たって砕けろだ。射精して妙にすっきりした頭で覚悟を決める。
ティッシュで汚れを拭い、パンツとズボンを履いた。
ベッドに寝転んで天井を見つめる。今までは純粋な少年の魂で、思春期真っ只中なだけあってか告白に臆病だったが、前世の記憶と入り混じった今なら思い切った行動ができる。
明日、告白しよう。
俺は天井を睨みつけて誓った。
2話 桔梗の好きな人
次の日の放課後、意を決して桔梗に告白しようとしていた俺は、職員室に呼び出されてしまってその機会を逃していた。
「市川、お前カンニングしてないか?」
「してません」
「筆跡も変わってるしなぁ」
「気のせいです」
前世の記憶が入り混じったからか、小テストの出来がいつも以上に良く、教師に疑われてしまって職員室で詰められていた。
はやく帰って桔梗のもとに向かいたいのだが、どうにも粘着質な教師で、なかなか解放してくれない。
ようやく解放してくれたころには、普段俺たちが家で集合して漫画を読んでいるような時間だった。
一応、桔梗には校舎に残っているように伝えたのだが、さすがに帰ってしまっただろうか。俺は早歩きで教室に戻りながら彼女を探した。
静まり返った校舎に上履きが床板を鳴らす音が反響する。遠くで吹奏楽部が楽器を鳴らす音が聞こえた。誰ともすれ違うことのないまま、廊下を曲がると俺たちの教室が見えてきた。西日が突き当たりの非常口から差し込み廊下を照らした。ワックスがけされた床材はその光を淡いオレンジに反射し、天井に日の光を映し出している。
その淡いオレンジに包まれた人影が教室の前でしゃがんでいた。遠目でもそれは桔梗だとわかった。
「……桔梗……?」
待っていてくれたのかとホッとすると同時に、どうしてそんなところでそんな格好を、と疑問も湧いた。
桔梗は教室のドアの前にしゃがみこんで、ドアの隙間から教室の中を覗き込んでいるようだった。彼女は見るのに夢中になっているのか、俺が彼女を呼んだ声にも気が付いていない。彼女が何を見ているのか気になって彼女の後ろに回り込んだのにも、桔梗は気が付いていないようだった。
桔梗のつむじを見下ろしながら、俺も教室の中を覗いた。視線の先では、教室のカーテンが西日に照らされながら揺れている。
「――!」
一組の男女がキスをしていた。
それも、ただならぬ情熱と欲望を感じさせる熱烈なキスだ。
男子の方の舌が女子の舌に絡みつき、口内に入り込んでいく。両者ともうっとりとした表情を浮かべながら、お互いの舌を貪り合っていた。
唇と唇を唾液の橋が結び、西日に照らされて金糸のように輝く。舌は斜陽に赤々としていた。その赤は俺の網膜に焼き付く。目が焦がされるような心地だった。
二人がお互いを想い合うその姿は俺にとってあまりに眩しすぎたのだ。俺は興奮よりも先に感動を覚えた。
視線を下ろして桔梗を見る。こんな光景じゃ桔梗も夢中になって見ているのも納得だ。そう思って彼女の顔をよく見ると――。
「……っ」
――桔梗の頬には一筋の涙が流れていた。
「桔梗……?」
「……っ! 冬希――。い、いたの……」
バッと勢いよく振り向いた桔梗は、俺の顔を見て目を丸くさせた。目じりには大粒の涙が浮かんでいた。
「――っ!」
桔梗はハッとして立ち上がり、目元の涙を乱雑に拭った。俺が何かを言う前に、桔梗は踵を返し、俺の脇を通り抜けて走っていってしまった。
俺が振り返って彼女を追おうとするころには、桔梗の背中は廊下の奥、西日の中へと消えてしまっていた。
――いったいどうしたというんだろうか。いつもと様子の違う桔梗に、俺は妙な胸騒ぎがしていた。どうしてあの二人のキスを見て泣いていたのか……。嫌な想像が脳裏によぎった。
「……あ」
俺が呆然と廊下の奥を見つめていると、後ろから男の声がした。
「市川くん……」
俺が振り返ると柔和な顔に苦笑を浮かべた男が立っていた。廣瀬《ひろせ》蓮人《れんと》。同じクラスの男子で、さっきまで熱烈なキスをしていた片割れ。嫌味のないイケメンで女子人気も高い、と記憶している。クラスでも美少女と名高い明石《あかいし》春音《はるね》と付き合っているという噂くらいは聞いたことがあるが、まさかこんなところでキスしてるなんて。
「あー、見てた?」
「いや。なにも」
「そっか……」
廣瀬はごめんね、と小さく呟きながら明石を連れ立って廊下を歩いていった。明石の方は、廣瀬の陰に隠れるようにして、俺の視線から逃れるように彼についていった。すれ違いざまに見えた彼女の耳は真っ赤に染まっていたから、二人とも見られていたことにはなんとなく気が付いていたのだろう。廣瀬のごめんねというセリフも、見ないふりをしてくれてありがとうという意味も含んでいるんだろう。
離れていく二人の背中を見送って、俺は教室の前に立ち尽くしていた。
今帰ろうとしても、また昇降口であの二人と遭遇してしまっては気まずいだけだ。
今すぐにでも桔梗を追いかけていきたかったが、どうしようもない。俺は長いため息を吐いた。廊下の奥を照らす西日が眩しい。目の奥がツンとして、俺も涙が出てきそうだった。
その後帰宅して、自室にいても桔梗が来ることはなかった。昨日、明日も行くと言っていたが、今日あんなことがあったからだろうか。
あの涙は、俺の目には明らかに失恋の涙に見えた。悔しいが、桔梗はあの廣瀬に恋心を抱いていたんだろう。
廣瀬と明石の二人が付き合っているという話は結構有名だから、桔梗の耳に入っていないはずがない。ましてや廣瀬のことが好きならば。しかし、ただ噂を聞くのと目撃するのとではショックが違う。
桔梗の涙の理由を勝手に妄想して、俺は勝手に悔しがった。
そりゃあ、ほかに好きな人がいれば、こんだけ一緒にいても異性として意識してもらえるわけないか。昨日、桔梗が座っていたところを見つめて、俺はため息を吐いた。
俺のこの片思いもそろそろ潮時だろうか。不貞腐れながらベッドに寝転ぶ。天井に向かって手を開いて、閉じた。
せっかく、今日告白しようとしていたのに。そう思うと胃のあたりがむかむかしてきた。
……逆に、むしろ今がチャンスなんじゃなかろうか。ふと思う。
桔梗の失恋につけ込むようで気は引けるが、彼女が失恋した今、告白すればもしかしたら俺に振り向いてもらえるかもしれない。
そんな発想が出てきてしまっては居ても立ってもいられなかった。俺は上着を着て、部屋を飛び出した。
そのまま家を出て桔梗の家に向かう。
玄関のチャイムを鳴らし、桔梗が出てくるのを待つ。
『……はい』
しばらくして、涙声の桔梗の声がインターホンから聞こえてきた。
「冬希だけど」
『……ん』
どたどたとドアの奥から階段を下りてくる音がする。
「何」
ドアが開けられて、ひどく不機嫌そうな桔梗が顔を覗かせた。彼女の目元は赤く腫れて、いかにもさっきまで泣いていました、という有様だった。
「今日ウチに来るって言ってたからさ」
「行かない」
そう言って桔梗はドアを閉めようとする。
「ちょ、ちょ、待った待った」
「何」
俺がドアに手をかけて閉められないようにすると、桔梗は眉間にしわを寄せて不快感を露わにした。
「中、いい?」
「……どうぞ」
渋々、といった様子で桔梗は俺を中に招き入れた。
靴を玄関で脱ぎ、階段を上っていく桔梗のお尻を眺める。
桔梗の部屋に入り、彼女の隣に座った。
「なんか、久々だな、この部屋に来るのも」
「……そうかもね」
ぐるりと桔梗の部屋を見まわして、俺は呟いた。最近は桔梗が俺の部屋に来るばかりで、彼女の部屋に俺が行くことはめっきり減っていた。俺が彼女のことを異性として意識してしまって、部屋に入るのが憚られたというのもあるかもしれない。
桔梗は俺の肩にぴったりとくっつくように座っていた。その距離感に、やはり異性として見られていないんだなと落胆する。
「……廣瀬のこと、好きなのか?」
触れていた桔梗の肩がぴくりと跳ねた。
「……なんで」
「さっきのあれ見たら、誰だってそう思う」
「……うん」
それは相槌なのか、肯定なのかわからない曖昧な返答だった。
「俺は――」
言うぞ。ドバドバとドーパミンが分泌される感覚。緊張と興奮に俺は一種のトランス状態だった。
「俺は、桔梗が好きだ」
言ってしまった――。ドクドクと心臓がうるさいくらいに脈打つのが耳の奥で響いた。
触れていた桔梗の肩が離れた。
「えっ……」
桔梗の口からそう漏れたきり、部屋は静寂に包まれる。
長い静寂。
二人の呼吸の音が混ざり合って響く。
「ごめんね」
蚊の鳴くような声で桔梗が言った。かあっと頭に血が上って、視界がぐるぐると回るような感覚に陥る。
「私たち幼馴染だしさ。このままの関係でいよ……?」
そう言う桔梗に、俺は何も返事ができなかった。
「……」
「……」
部屋には無言がうるさいほどに響いていた。