01/09 電子版発売

清楚な彼女が先輩の性奴隷になるまで【転落編】

著者: 舞条弦

電子版配信日:2026/01/09

電子版定価:880円(税込)

男の視線を釘付けにする90cm超のバストとヒップ、
バスケで鍛えた豊かな肢体への視線がトラウマとなっていた乙鳥陽菜。
特訓合宿と称し先輩女子に真夏のビーチへと連れだされた先で
待ち構えていたのは、おぞましき淫鬼たちの集団だった。
扇情ビキニを纏わされ、晒された白肌は羞恥に染まり、
恋人への想いを胸に抗うも、容赦ない調教で魔悦に支配されていく。
夏合宿を終え、作り替えられた身体で恋人のもとへ向かう陽菜。
永遠に続く転落の未来は、まだ始まったばかり……
鬼才・舞条弦、渾身の完全書き下ろしシリーズ、開幕!

目次

プロローグ

第一章 転落の始まり

第二章 終わらない悪夢

第三章 貪られる若い身体

第四章 中年男の淫棒

第五章 公開交尾と新たなる愉悦

第六章 終わりと始まり

本編の一部を立読み


プロローグ



 ギシギシと軋んだ音が鳴る。はっはっと短く息を継ぐ恋人は、小柄な身体を揺すって、私の孔に棒を擦りつけていた。薄暗い部屋のなか、私は薄目を開けて彼氏の表情を伺う。恋人は、恍惚の滲んだ表情を、幼い顔立ちに浮かべていた。
「陽菜ちゃん……ッ、はぁはぁ、陽菜ちゃん、気持ちいいよ……ッ、ああッ」
 愉悦に溺れる恋人は朦朧と呟く。その声には確かに快美の情が滲んでいる。ゴム越しに感じる肉棒も張りを増していて、彼が強烈な快楽を得ているのは明らかだった。だけど、私は……。
「ああ、陽菜ちゃんは、どう? 気持ちいいっ?」
「……う……ん、あ、ン……ッ、気持ち、いいよ……」
 控えめに喘ぎつつ、もう何度目かもわからない嘘を吐く。シンくんはほっと安堵した表情を浮かべた。その顔を見ると少し胸の奥がチクリとして、申し訳なく思う。
 柔らかなシンくんの髪が、前後運動に合わせて揺れていた。毛先から汗が散り、私の唇を湿らせる。ほのかな酸味がするそれをぺろりと舐める。美味しくはないけれど、獣のような味は嫌いじゃない。セックスも同じだ。気持ちよくはないけれど、私はこの行為が好きだった。誰かに愛されているのを、実感できるから。
「ああッ……陽菜ちゃん……ぼ、僕、そろそろ出るよ、出ちゃうよッ」
 恋人が切羽詰まった声をあげる。私はいつも通り「私も、キちゃう……っ」と彼に調子を合わせる。これも嘘だ。だけど、彼が悦んでくれるならそれでいいと思う。
「じゃあ一緒に……イ、イッて、陽菜ちゃん……陽菜ちゃんッ」
「う……んっ。イ、イク……あん、あん……っ、イ、イク」
 棒読みにならないよう注意して言う。首を傾け、唇を震わせ、少し大袈裟にお腹を引き攣らせてみせる。シンくんは私の嘘を見抜けない。でも、それでいい。
「イ、イク……ッ、ああっ、出るよ、ああッ」
 シンくんは叫んで、私の股間に重ねた下半身を震わせる。私の胸裏は複雑だ。彼が昇り詰めたことをうれしく思う。同時に、私もそこに連れて行ってほしかったなと、寂しい気持ちも抱く。
「ああ、まだ出てる……射精してるの、わかる……?」
「……うん。ドクドクって、言ってる……おちん×んが、私の中で跳ねてる……」
 肉棒が脈を打ち、避妊具の中に子種を散らしている様子を想像する。想像、だけだ。実際のところ、私は今、何も感じていない。確かにペニスが震えているような気はする……けれど、うまく実感はできない。彼のモノが小さいのか。もしかして、私のアソコが人より緩いのか。お互いが初めての恋人同士で、処女と童貞を与え合った存在だから、わからない。
「ああ……僕、幸せだよ。陽菜ちゃんみたいな彼女がいて、本当にうれしい……」
「……うん、私もだよ。シンくんのこと、好き。もっといっぱい、私を愛してね」
「もちろんだよ。また今度の休みも……僕の家、誰もいないし……シていい?」
 私は頷く。シンくんはうれしそうに口元を緩める。別に、このまま続けて二回戦でもいいんだよ? そう言おうとしたけれど、やめた。シンくんは体力も精力も全然ない。今も色白の顔は紅潮しきっていて、汗の量も尋常じゃない。勃起もできないだろう。
「わ……たっぷり出ちゃった」
 シンくんは身体を起こすと、恥ずかしげにゴムを掲げた。膨らんだコンドームが揺れている。その精液の量が多いのか少ないのか、私にはよくわからなかった。

第一章 転落の始まり



(……あ、このシュートは外れそう)
 ゴール下に立つ乙鳥陽菜(おっとりひな)は、チームメイトが放ったバスケットボールを見上げて結果を予想する。ボールの回転が悪い。リングに弾かれるだろう。落ちる方向を予測して、陽菜はポジションを奪う。思い描いていた通り、ボールはリングの右側にぶつかった。ガタンと音がする。ボールが、ふわりと宙に浮きあがった。
「リバウンド!」
 よく通る親友の声が体育館に響きわたった。その声に応じるように、陽菜は足裏でぐッと床を押す。体躯に見合った長い腕を伸ばし、指先でボールに触れる。このままシュートしてもゴールは難しいだろう。陽菜は素早く周囲の様子を探る。視界の端、相手選手の隙間を縫って移動する萌香の姿があった。親友に向かってボールを弾く。
「ナイスパス、陽菜ッ!」
 ボールを受けとった萌香は、すぐにシュートモーションに入った。細くしなやかな健脚で床を蹴ると、見惚れるような美しい所作でボールを放る。リズムも角度も回転も完璧だ。弧を描いたボールは、ぼすッと気持ちのいい音を鳴らし、ゴールネットを揺らした。
「そこまでッ。十分休憩! 終わった後はすぐにミーティングを開くぞ!」
 女教師の凛々しい声が響く。二チームに分かれていた女子バスケ部の面々は、「はいッ」と返事をして水分補給に向かう。陽菜もまた、体育館の隅に置いていた水筒を手にとった。ただ、中身がない。
(……さっき全部飲んじゃったっけ……水道水……いや、買いに行こうかな)
 バッグの中を探り、財布を取りだす。出口へ足を向けたところで声がした。
「陽菜、自販機? 私も行く」
 萌香が小走りで近づいてくる。陽菜は親友が来るのを待って、肩が並んだところで外に出る。汗みずくの身体に夏の熱気が纏わりついた。ジャージが焦げつきそうなほどの痛い日差しが降り注ぐ。空を見上げれば、太陽がぎらぎらと輝きを放っていた。
「あっついね。外のほうが涼しいと思ってたのに、全然風吹いてないじゃん」
「ちょ、ちょっと萌香、気持ちはわかるけど油断しすぎだよ。男子もいるのに……」
 萌香は体操服を捲り、パタパタと腹をあおぐ。引き締まった下腹部が陽光を反射して艶めいていた。
「別にいーって。減るもんじゃないし。私は気にしなーい」
「私が気にするんだってば」
「それを言うなら陽菜の格好のほうが気になるってば。見てるだけでこっちが倒れそうなんだけど。もしかして、今年の夏もずっとそれで過ごす気? 本当にマジで死ぬよ?」
 本当にマジで、という表現に苦笑する。一方で、親友の顔は笑っていない。長袖長ズボンのジャージを身に着けた陽菜を見て、汗に濡れた顔を歪めていた。
「……大丈夫だよ。もう慣れたし」
「本当にマジで?」
「本当にマジで」
 虚勢だ。実際のところ、炎天下で全身をジャージに覆われて快いわけもない。それでも、首元まで閉めたファスナーを緩める気はなかった。
(……だって、こうでもしないとじろじろ見られるんだもの)
 女子にしては大柄な体躯が、否が応でも他人の注意を惹く。いや、それだけならまだ問題は薄かっただろう。何よりも男子の関心を集めるのは、強烈な量感を誇るバストとヒップだ。
(ああもう……どうしてこんな、無駄に立派に育っちゃったかな……)
 実った乳果実が邪魔で足元が見えない。下腹部がくびれているぶん、余計に安産型の体型が目立つ。媚尻を支える太腿もむっちりと太く、乙女を悩ませていた。
「……まあ、陽菜がいいなら、いいけどさ」
 まだ何か言いたげな様子で萌香は呟く。それから少し、気まずい沈黙が流れる。二人黙ったまま校内を進み、自転車小屋の脇を通って、自販機の並ぶ一角にたどり着いた。それぞれ飲み物を買う。萌香はオレンジジュースを、陽菜はスポーツドリンクを買った。
「……ね、ちょっと話していかない?」
「でも、ミーティング始まるよ?」
「大丈夫。先生にも話は通してあるから」
 真剣な声で萌香は言う。何の話をするのかは見当がついた。嫌だな、と思う。だけど逃げることはできない。陽菜は錆びついた青いベンチに腰を掛けた。
「陽菜、さっきのリバウンドめっちゃよかったよ。やっぱ体幹いいよね。視野も広いし」
「萌香のポジショニングがよかったんだよ。私の視界に入るよう動いてたでしょ。何より、萌香は私と違って存在感あるから。どこにいるのかすぐわかるよ。流石は次期部長だね」
「何それ嫌味? 私、チビだから人に気づかれないことのほうが多いんですけど」
 ぷくぅと頬を膨らませて睥睨してくる。可愛らしくて、頭を撫でてやりたくなった。そんなことをすれば、ガキ扱いすんなって怒ってくるだろうけれど。
「ねえ陽菜」
 声の調子を戻して萌香は言う。きた――陽菜は、肩を強張らせて身構える。
「やっぱ私、陽菜と試合出たいよ。陽菜がセンターじゃないと、嫌だよ」
 萌香が切実に訴えてくる。陽菜はすぐに返事をしない。汗をかいたペットボトルを握って、生徒が下校する様子を眺める。夏服から二の腕を露出した少女たちは、同年代だというのに酷く眩しく見えた。
「……ごめん、無理だよ。練習は手伝うけど、試合には出られない。私が実力を出せるのは練習だけだもの。もし、こんな中途半端な状態でいるのがだめなら……私、部活辞める」
 萌香が息を詰めるのがわかった。表情を見るのも見られるのも怖い。陽菜は長身の体躯を丸めて、ペットボトルから滴る水滴を、意味もなく眺めた。
「……インターハイ」
 ぽつりと、萌香が言う。「え?」と、陽菜は間の抜けた声を零した。
「インターハイ、目指したいの。皆には無理だって笑われたけど、それでも私は、やるなら夏の大会に出場したい。そのためには何でもする。裸で土下座しろって言うなら、そうする」
「は、裸で土下座って……わ、私に?」
「そうだよ。何が何でも、陽菜を試合に出させる。勝つためにはそれが最善の策だもの。それが部長になる私の役目。そして親友としても、このまま陽菜にバスケを諦めてほしくない。自分のためにも。陽菜のためにも。皆のためにも。私は、どんな手でも使ってみせるよ」
 親友は立ちあがると、残ったジュースを一気に飲み干した。そのまま勢いよくゴミ箱に捨てる。それから「ここで待ってて」と言い残すと、陽菜に背中を向けて歩きだす。
「ちょ、ちょっと萌香。私、どうしたらいいの」
「すぐにわかる。……私、どんな手も使ってみせるから」
 先ほどと同じ台詞を口にして、萌香はその場を去った。「陽菜ちゃん」と声がしたのは直後のことだ。自転車置き場の外壁から、大人びた風貌の女性が顔を覗かせる。それが誰だか、すぐにはわからなかった。つばの大きな帽子とサングラスが、顔の半分を覆っていた。
「あ、もしかして誰かわからない? 私だよ、私。亜矢だよ」
「え――亜矢先輩ッ?」
「そうそう。愛しの亜矢先輩でーす」
 亜矢はサングラスと帽子を外す。見覚えのある美貌が姿を見せた。いや、覚えのある顔とは少し違うだろうか。化粧を施した顔は、一年前より数段大人びて見える。艶やかだった黒髪は茶髪に変わっている。それがなんだか、陽菜には寂しく感じた。
「亜矢先輩が、どうして学校に……」
「可愛い後輩に頼まれてさ。萌香ちゃんが、説得を手伝ってほしいって言うから」
 亜矢は自販機でジュースを買う。「何かいる?」と言われて、陽菜は首を横に振った。
「で、本題だけど」亜矢が隣に座る。香水の匂いが、ふわりと鼻先で躍った。「試合、あれから出てないんだってね。あのときのこと、まだ気にしてるの?」
「……気にしないわけ、ないです。先輩たちの努力を、私が台無しにしたじゃないですか」
 脳裏に苦い記憶が蘇る。それは、まだ陽菜が一年生の頃の話だ。決して強豪校とは呼べないものの、女子バスケ部は順調に大会を勝ち進んでいた。陽菜は運動能力と体格の良さを買われて、新入部員ながらベンチに入っていた。
(……でも、私はあくまでサブのサブ。試合に出る可能性なんて、ほとんどなかった)
 だが、試合が終盤に差し掛かったあたりで事故は起きた。当時のセンター――亜矢が、相手と交錯して怪我をしたのだ。加えて、本来代役を務めるはずの先輩も体調を崩してベンチに入っていなかった。そこで白羽の矢を立てられたのが、陽菜だった。
『陽菜、残り五分、いける?』
 当時の部長の声は今でもはっきりと脳裏で再生できる。『無理です』なんて言えるわけがなかった。『他にも三年生がいるのに、どうして私なんですか』とも言えなかった。陽菜はナルシストではないが、客観的に見て、自分が他の三年生よりうまいのを知っていた。
『は、はい。いけます』
 ベンチから立ちあがる。大丈夫、大丈夫……。自分に言い聞かせて、コートに出る。点差は少ないけれど、チームは優位な状況だった。焦ることはない。確実にリバウンドを拾い、先輩にボールを回す。細かいことは考えず、その一点に集中した。
(緊張はしていたけれど……脚はちゃんと動いてた。何も、問題はなかった……)
 問題は最後、残り数秒の場面で起きた。チームは一点差で負けていた。シュートのチャンスはラスト一本。リバウンドを取った陽菜は、思いきって自分でシュートを放った。結果は外れたものの、敵選手のファウルが認められて、二本のフリースロー権が与えられた。
(一点差……一本決めても同点。二本決めれば勝ち……難しい場面じゃ、なかった)
 心理状態も悪くなかった。一種の昂揚感さえあったと思う。二本決めきる必要はない。一本でもいい。それで役目は果たせる。先輩たちの青春を、後に繋ぐことができる。
 ――その、はずだったのに。
『おお、一年生なのにデカいな、あの子』『身長の話? それとも胸?』『いやいや、ケツの話だろ。あれ、すげーわ』『アレ、九十センチ超えてるだろ』『おっぱいのほうなんて、百センチくらいあるんじゃね?』『うわ、揉みてー!』『俺は挟んでほしいわ、ひひッ』
『ッ――』
 シュートに向かう直前に客席から声がした。別に、容姿をからかわれるのは初めてでもない。自分がそういう目で見られている自覚もあった。
(……気にする必要なんてなかった。実際、気にしていない……つもりだった)
 だが、跳躍で胸が揺れることに僅かな抵抗を覚えた。両手を伸ばし、腋が見えるのを嫌がってしまった。それが強張りを生んだ。シュートモーションがぎこちなくなった。ボールの回転が悪くなった。結果、二本とも外れて、そのまま敗退してしまった。
(あの場面で私が決めていれば……先輩たちは、まだ引退せずに済んだのに……)
「――陽菜ちゃん」
 亜矢の声で我に返る。いつの間にか握りしめていたペットボトルをハッと手放す。先輩は転がったペットボトルを拾うと、優しい声で囁いた。
「フリースロー二本外すなんて普通にあることだよ。わかってるでしょう。寧ろ陽菜ちゃんがいなかったら、あの場面すら作れず負けてた。皆、感謝してたんだから」
「それは……わかってます。だけど私、あのときから人に見られるのが怖くて」
「怖い?」
「プレイの最中……その、胸とかお尻とか腋とか……そういうところに視線を感じると、失敗したときのこと思いだして。身体が強張っちゃうんです。ユニフォームとか、無理なんです」
 ジャージに覆われた手首をぎゅっと握る。発育のよすぎる身体が原因で、昔から人に見られることは多かった。だから、慣れているつもりでいたのに。
「じゃあ、人に見られる特訓をすれば試合にも出られるってこと? ねえ、いきなり変なこと訊くけれど……彼氏はいる?」
「あ……い、います……」
「ちょっと下品な質問だけど、セックスはしてる? 彼氏に見られるぶんには平気なの?」
「あ、ぅ……えっと」頬を赤らめながら、陽菜は曖昧に頷く。「平気……ではない、ですけど。エッチの最中は、部屋を暗くして、タオルで身体を覆って、見ないようにしてもらってます」
 赤裸々に告白すると、亜矢は「なるほどねぇ」と神妙な表情で頷く。
「わかった。まとめよう。陽菜ちゃんに必要なのは自尊心の回復と羞恥心の克服だね。要は、自信をもって溌剌と試合に出られるよう、メンタルを整えること」
「それはわかってますけど……」
「私なら、なんとかしてあげられるけど、どうする?」
「え……ほ、本当ですか」
「本当にマジで」
「……それ、流行ってるんですか」
 亜矢は「ふふッ」と愉快げに笑う。髪の色も睫毛の長さも変わったけれど、そのからりとした笑顔は一年前と同じだった。それがなんだか、うれしく思う。
「もし陽菜ちゃんにその気があるなら、コーチつけてあげる」
「でも……悪いですよ、そんな」
「さっき、先輩たちの努力を台無しにしたって言ったわよね。でも陽菜ちゃん、それは私も同じ気持ちなの。私の所為で、後輩の人生が狂ってしまった。私が、あなたの努力を台無しにしてしまった。そうでしょう?」
「そんな……せ、先輩は悪くないです!」
「そう言われて、納得できると思う? 逆の立場なら、納得できる?」
「それは……」
 無理だった。「悪くない」「気にしないで」「お前の所為じゃない」……先輩や友人、顧問に何度もそう言われたが、罪悪感は少しも薄れてくれなかった。
「私もずっと心残りだったの。私が怪我しなかったら、陽菜ちゃんが傷つくこともなかったのに……って。その罪滅ぼしがしたい。どうか、私に先輩面させて?」
 亜矢はそう言って、先ほど陽菜が落としたペットボトルを渡してくる。陽菜は舌に溜まった唾を飲んだ。脳裏に、萌香の真剣な声が蘇る。
 ――そのためには何でもする。裸で土下座しろって言うなら、そうする。
 親友はそれほどの覚悟で臨んでいるのだ。その想いに応えたかった。
「……お願いします。私、変わりたいです……どうか、コーチをつけてください」
 覚悟を決めて、先輩からペットボトルを受けとる。言葉にすると、より決意が固くなる。自分のためにも、先輩のためにも、萌香のためにも、これが最善最良の選択に違いない。少女はそう信じて、生温くなったペットボトルを握りしめた。

       *

「う……ッ、出るッ……はぁはぁ、イクッ、イクッ」
 正常位で恋人と結合する晋太は、股から迸る愉悦に身を委ねた。腰が引き攣り、肉管の中をドクンドクンと欲望液が通過する。視界に光が瞬いた。
(気持ちいい……ああ、たまらないよ)
 晋太はぼうっと息を吐いて、眼下の恋人に視線を遣る。カーテンの隙間から差しこむ月光を吸って、しっとり汗ばむ雪肌が輝いていた。彼女の身体が発光しているわけではないのに、夜空に浮かぶ月や星々のように、輪郭が淡く光って見えた。
(綺麗……だな。相変らず、肌はあまり見せてくれないけれど……)
 バスタオルで裸体の大半は隠れている。それでも、ちらりと覗く柔肌が十二分に下腹部を熱くさせてくれる。それに、爆乳の存在感はタオル一枚程度では薄れていない。百センチ近いと思しき媚乳は、二つの巨大なドームを形作って、欲望を焚きつけた。
(陽菜ちゃんのおっぱい、絶対に綺麗だよ。乳首……どんな色なんだろう)
 未だに陽菜の乳首を見たことはない。いつもタオルやインナーで隠していた。股間も同じだ。彼女の陰部を直接まじまじと見たことはない。肉唇の色も形も、晋太は知らないでいる。
(でも……いいんだ。こうやって繋がれているんだもの。それだけで充分だよ。僕なんかが陽菜ちゃんと付き合えてるだけで奇蹟なんだから……)
 本人に自覚はないだろうが、陽菜は恐ろしいくらい人気がある。整った顔立ちも、ともに九十センチを超えると噂されるバストとヒップも、男の欲求をくすぐる魅力を備えていた。太って見えそうな安産型の体型だが、バスケで鍛えた身体は見事に引き締まっている。グラビアモデルのような美しいボディラインは、男女問わず羨望を向けずにはいられない。
(……それに比べて僕は……)
 ペニスを抜き、息を吐く。垂れた肉棒から避妊膜が滑り落ちた。小さな陰茎を目に映すと気分が落ちこむ。勃起時でも十センチほどの肉棒は、萎えるとドングリのようなサイズ感になる。彼女を満足させてやれているか不安だった。
「シンくん……終わったの?」
「え……あ、う、うん。お、終わり。えっと……気持ちよかった?」
「……うん。ありがとう」
 陽菜は汗で髪の張りついた頬を緩めた。彼女は絶頂できたのだろうか。頬はあまり上気していない……気がする。部屋が暗すぎて、よくわからなかった。
(考えても仕方ない……陽菜ちゃんとするまで童貞だったし、わからないよ)
 体位を崩す。ゴムを外し、ティッシュで股間を軽く拭う。陽菜の陰部も拭こうとしたけれど、止められる。「自分でやるから」という彼女の口調は、普段に比べて強い。股間を触らせてくれないのだ。仕方ないことではあるが、少し……ほんの少しだけ、モヤッとする。
「ねえ、陽菜ちゃん。今年の夏休みの予定なんだけど」
 セックスから頭を切り替える。下着を穿いた晋太は、恋人のほうを見ないようにしながら言った。海やプールは無理でも、水族館や遊園地なら誘えるだろうと思っていた。
「あ……そうだ。私も、夏休みについて話があったの。夏休みね、合宿に行くことになって」
「合宿? バスケ部の?」
「まあ……ちょっと違うんだけど。先輩がね、私に特訓つけてくれるんだって。その間、スマホは使用禁止らしいから、電話とかできないと思う」
「先輩……えっと、こういうこと聞くと、面倒くさいって思われるかもだけど」
「女の先輩だよ?」
 陽菜がくすっと笑う。少女は既に上着を羽織っていた。
「そ、そうなんだ。合宿って、どこに行くの?」
「ええと……海」
「海!」晋太は思わず声をあげる。「だ、大丈夫なの? 水着とか……着るんだよね? 耐えられるの?」
「……わかんない。でも、海で肌を晒すのに慣れれば、ユニフォーム姿でバスケするくらい平気になるはずだからって……。……私、変わりたいの……」
 陽菜は自信なさげに言う。震える声にはたっぷりと不安が滲んでいた。
(恋人として背中を押してあげたい……。でも、海って……他の男に水着を見せるの? 彼氏である僕にも見せてくれないのに)
 負の感情が悶々と巡る。そんな自分に嫌気がさした。彼女が過去のトラウマを乗り越え、前に進もうとしているのに。自分は、自分の欲望に頭を悩ませているなんて。
「……あ、あのね、シンくん。もしも私が、今回の特訓で前向きな気持ちになれたら……。そのときは、その……わ、私の裸、見てほしいの。おっぱいも、ア、アソコも、お尻も……」
「え……あ、明るい部屋で、タオルもかけずに、裸を見てもいいってこと?」
 薄暗い部屋でもわかるほど頬を赤らめ、陽菜はこくりと頷く。「あ、お尻って言っても、穴を見るのはだめだからね?」と、恋人は慌てて付け足す。そんなものは構わなかった。
「ぼ、僕も、頑張るよ。だから、陽菜ちゃんも頑張って」
 いったい何を頑張るのか自分でもわからないけれど、そんなことを言う。
「ありがとう。シンくんのそういう優しいところ、本当に好きだよ」
「陽菜ちゃん……」
「あ……。本当にマジで、好きだよ」
 陽菜は何かを思いだしたように、わざわざ言い直す。晋太は首を傾げた。
「何それ、流行ってるの?」
「うちの部で、じわじわきてるの」
 陽菜はくすぐったそうに微笑む。晋太もまた、つられるように笑う。自分が彼女のために何をすべきか、何ができるかはわからない。だけど、もっと彼女に相応しい男になろう。晋太はそっと、胸の奥で決意を固めるのだった。

       *

 夏休みに入って幾日か過ぎたころ。予定通り、陽菜は亜矢と海に来ていた。真夏の海は酷い混みようだ。大勢の前で素肌を晒すと思うとゾッとするが――今更、後戻りはできない。
(うう……恥ずかしい……こんなに脚が出てる……)
 更衣室の鏡を見て陽菜は頬を赤らめる。少女の格好は白いラッシュガードと、それから三分丈ほどのショートパンツだった。半分以上も生足を晒すのは陽菜にとって大冒険だ。
「……ね、見て」「わ……すご。モデルかな?」「ね、脚長ぁ……」
「ッ……」
 更衣室にいる女性らがヒソヒソと囁く。視線を感じた陽菜は頬の紅潮を強め、帽子を深くかぶって小屋を出る。瞬間、真夏の陽射しが視界を焼いた。
「わあ、似合ってるじゃない! さっすが、私の後輩!」
 入り口で待っていた亜矢がはしゃいだ声をあげる。近くを通りかかった男性が視線を寄越してくるのがわかって、陽菜は身を縮める。背中を丸め、肩を強張らせた。
「ねえねえ、パーカの中、水着着てきたんでしょ。私があげたやつ。見せて、見せて」
「む、無理です。あんな露出が多いの……」
「えー、もったいなーい。慣れたら気にならないって。ほら」
「ぇ……わッ」
 自ら上着を拡げ、亜矢はビキニ姿を見せてくる。小さな三角形の布からは今にも媚乳が零れそうだ。腰に結んだパレオからは脚がすらりと伸びていた。
「せ、先輩、だめですよ、そんなに肌を見せちゃ」
「いやいや、皆こんな格好してるから。ほら、見てみなよ。こんなの普通だって」
 亜矢はけらけらと笑う。促されて辺りに視線を遣る。当然だが、どこを見ても水着姿をした男女がいた。水着なんて下着と大差ないのに。なぜ平然とできるのだろう。
「お、その子が後輩ちゃん?」
 男の声にビクッと肩が跳ねる。色黒で金髪の、見るからに柄の悪い大男が立っていた。ゴツゴツとした筋肉質な身体をしている。その後ろにも、同じような体格の男が五人立っていた。
「え、え……な、なに……だ、誰ですか……」
「ちょっとォ、いきなりヌッと出てこないでよ。陽菜ちゃんビックリしてるじゃん。ね、安心して。この人たち、バスケサークルの人たちなの。今回、手伝ってくれるんだって」
「バ、バスケ……サークル……あ、亜矢先輩と二人きりなんじゃ……」
「二人きりなんて言ったっけ? ま、そんな警戒しなくていーよ。大丈夫だから。ね?」
 肩に手を置き、あやすように亜矢は言う。信頼する先輩の言葉だ。疑いたくはない。だが、同級生とも恋人とも違う牡の存在を前にして、陽菜は狼狽せずにはいられなかった。
(男の人がいるなんて、聞いてないよ……)
 晋太の顔が脳裏にちらつく。彼氏がいる身で、他の男と過ごしていいのだろうか。だが、今更やめますとも言えない。合宿用の宿も既に抑えてある。
「ここにいても邪魔だし、移動しようぜ。スケジュールは聞いてるんだろ?」
「は……はい。海の家でバイトするん……ですよね」
「そうそう。余った時間は体力作りね。早速案内するよ、こっち」
 男たちと移動する。その道中で軽く自己紹介した。男たちはバスケサークルに所属する大学生で、趣味の延長でバスケをやっているらしい。部長の名前は幸平孝輔。亜矢曰く、「私の人生を変えてくれた恩人」らしい。
「うす、テツさん。手伝いにきました。今年もよろしくお願いします」
 海の家に到着する。流石の盛況ぶりだ。満席の店内は、活気とソースの匂いで満ちていた。
「おう、来たかコースケちゃん。待ってたぜ。早速手伝ってくれや」
 カウンターの奥、店主と思しき男が顔を覗かせた。タオルを巻いた中年の男は、二本のヘラを器用に操りながら話す。鉄板の上で焼きそばが躍っていた。
「その前に……この子、新しいバイトの子っす。ほら、例の」
「例の……。ほお……これはまた……今年のもかなりの……」
 中年はぶつぶつと呟き、陽菜の身体に視線を這わせる。品定めするような目つきだった。そこに何か……邪な感情が混じっている気がして、陽菜は反射的に亜矢の背中に隠れた。
「あー、そうだ。上着は脱いでくれるかい? うちは水着姿で接客するって決まりなんだ。事情は聞いてるけど、せめて上か下、どっちかは出してほしいなあ」
「そ、そんな、待ってください、私――」
「テツさん、そこをなんとか」孝輔が前に出る。「彼女、自分を変えたい、前に進みたいと思って、勇気を振り絞って来てるんです。最初は、勘弁してやってくださいよ」
「そうは言ってもなァ……伝統とか文化とか、そういうのも大事だろ?」
「それはわかってます。でもどうか、未来ある若者を救うと思って。――お願いします」
 孝輔が頭を下げる。他の面々も一緒に首を垂れた。思いがけない光景に一瞬目を丸くするも、陽菜も慌てて頭を下げた。店主はぽりぽりとこめかみを掻く。それから一つ息を吐いた。
「わかった、わかった。じゃあ、とりあえずいいよ。その代わり――」
「はーい、その代わり、私が脱ぎまーす」
 威勢よく言って亜矢が上着を脱ぐ。更には、腰に巻いていたパレオまで外した。見事なビキニ姿を前に、様子を見ていた客が「おおーッ」と歓声をあげる。深く食いこむ水着から大胆にヒップが覗いていた。股間には縦筋のシルエットまで浮いていてギョッとする。
「あ……あの、亜矢先輩。恥ずかしくないんですか」
「大丈夫だってば。私、脱ぐの好きなんだよね。昔は陽菜ちゃんと一緒で人に見られるの苦手だったけど、孝輔さんたちに特訓してもらってさ」
「同じようなこと、先輩もしたんですか?」
「そうそう。だから陽菜ちゃんの気持ちもわかってる。不安でしょう。でも大丈夫。私たちを信じて? この合宿が終わるころには、陽菜ちゃんは生まれ変わってるよ」
 真剣な表情で言う亜矢を前にして、陽菜は言葉を詰まらせる。強い罪悪感が胸を衝いた。先輩は、こんなにも真摯に自分と向き合ってくれているのに。バスケサークルの人たちも、自分のために頭を下げてくれているのに。何をぐだぐだと懊悩しているのだろう。
「おーい、喋ってないで早く手伝ってくれよォ。これ三番さんに運んで! それから五番さんオーダー! 陽菜ちゃんは亜矢ちゃんと一緒に行動して、動き覚えて!」
「は――はいっ」
(……頑張ろう。先輩たちを信じて、私にやれることをやるんだ……)
 腰にエプロンを巻き、気合いを入れるようにギュッと紐を締める。それから、少しだけラッシュガードのファスナーを緩めた。じっとりと湿り気を帯びた深い胸谷間は、自分から見ても酷く淫猥に映る。だけど、大丈夫。見られても、死ぬわけじゃない。自分に言い聞かせ、陽菜は一つ深呼吸したあとで、亜矢の後を追った。

       *

「あー、今日も疲れたぁ」
 浴衣姿の亜矢が布団に身体を放る。寝具が沈み、ぼすんっと音がした。柔軟剤とシャンプーの香りが、部屋に充満する藺草の匂いに融けた。
「陽菜ちゃんの調子はどーお? 結構慣れてきた?」
「は、はい。バイト自体は問題ないです。先輩がたも店長も皆優しくて、助かってます。でも」
「やっぱり肌を見せるのは抵抗ある?」
 布団の上、同じく浴衣姿の陽菜はこくりと頷く。海に来て三日目の夜を迎えたが、相変わらず羞恥心は強い。上半身はラッシュガードで、下半身はショートパンツで隠さなければ落ち着かなかった。
(以前よりはマシになってる……気はするけど。それでもやっぱり、恥ずかしいよ)
 接客の最中、客の視線を胸や尻に感じると、酷く息が詰まった。身体が強張り、動悸が激しくなって汗が噴きだす。持っているジョッキや皿を落としかけたのは一度や二度じゃない。
(……早く、前に進まないと。これじゃあ、いつになっても変われないよ……)
 はあ、と一つ溜息を零す。ちょっとしたきっかけで変われる予感はあるのだが、どうにも一歩が踏みだせない。もどかしくてたまらなかった。
「やっぱり、少し荒療治するしかないわね。次の段階に進んでみましょうか」
「荒療治……」
「明日から、水着姿で接客しましょう」
「っ……で、でも」
「でも?」亜矢がじぃっと顔を見つめてくる。「でも、だけど、やっぱり……。そういう言い訳と諦めの台詞、何度口にするの? 本気で変わりたいと思ってる? 皆、あなたが一歩前に踏みだすのを待っているの。時間は有限なのよ?」
 咎めるような口調だった。広いとは言えない客室の中で、空気が張り詰めるのを感じる。言葉を返せない。自分に期待してくれている人々のことを想うと罪悪感を抱いてしまう。
「そうだ。なら、今から孝輔さんたちの部屋に行きましょう。そこで水着姿を披露するの。知らない客の前でいきなり脱ぐより、ずっとマシでしょう。私も一緒に脱ぐから。ね?」
「え……えっ? で、でも……私、彼氏いるんですよ」
「だからなんなのよ」亜矢が苦笑する。「なーに? 変な想像でもしたの? まさか陽菜ちゃん、襲われると思ってる? なに? ヤリサーだと疑ってるの? やだわぁ」
「ち、違……ッ、私、そんなこと疑ってません。皆さんいい人ですし……」
 慌てて否定する。彼らはバイト中、ナンパされそうになった陽菜を何度も助けてくれた。陽菜が羞恥で動けなくなったとき、すぐに駆け寄って、身体を隠してくれた。
「それとね、陽菜ちゃん。少しは彼らにサービスしてあげましょうよ。大学生の夏休み、貴重な時間とお金を使って、指導してくれているのよ。この旅館だって安くないんだから。あなた一人に、何人の時間と、何円のお金がかかっているか、ちゃんと理解してる?」
「そ、それは……」
「水着姿、披露しましょうよ。あなたにとっても、皆にとっても、悪いことじゃないわ。――さあ、ほら。立って? まずは私の前で脱いでみましょう。ね?」
 でも、と言いかけて、寸前でやめる。荒療治が必要だ。自分でも、そう思う。
(変わりたい……変わらないと……)
 そっと息を整えたあと、決意を胸に立ちあがり、帯に手を掛ける。陽菜は浴衣を脱ぎ落とし、下着姿になった。他人にこれだけ肌を見せるのは久しぶりだ。緊張はある。亜矢の視線を感じて膝が震えた。だが、大丈夫だ。思っていたよりずっと、平静を保てている。
「その調子よ、陽菜ちゃん。さあ、次は水着に着替えて」
「は……はい」
 亜矢から水着を受けとる。流石に全裸姿を見られるのは恥ずかしくて、脱衣所で水着に着替えた。シンプルな白の水着だ。飾り気がないぶん、余計に下着のような錯覚を抱く。だが、これは水着だ。人に見せる衣装であり、恥ずかしがる格好ではない。何度も自分に言い聞かせた。
(……ごめんね、シンくん。お腹とか、見せちゃうけど……裏切るわけじゃ、ないからね)
 無事にトラウマを克服できれば、晋太にうんとサービスをしよう。胸やアソコも惜しみなく見せて、正常位だけではない体位にも挑戦しよう。
「……よし」
 気合いを入れるように頬をペチペチと叩く。親友のため。恋人のため。自分のため。先輩のため。孝輔たちのため。これが正しいことだと信じて、陽菜は部屋を出た。

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