転生女勇者の復讐の手を逃れ、国外脱出した盗賊・クロック。
道中で拾った無口な奴隷少女・アデリーナと共に大陸外を目指す。
クロックを付け狙う勇者パーティの女聖騎士・ティートを
身体でわからせた──はずが、なぜか旅のお供になり肉棒を求め始めた!?
一方、その裏ではいつのまにか帝国から国際指名手配され……
女たらしのカスの盗賊の逃亡劇、生意気な聖騎士調教の第2巻!
第一話 見知らぬ町
第二話 獣の少女の春売り
第三話 夢見る過去と勇者対策
第四話 疾風のエイダ
第五話 再会と再会
第六話 十五年前の殺人
第七話 壁尻のエイダ
第八話 旅は道連れ
第九話 集落の別荘
第十話 何してんの?
第十一話 おしおき
第十二話 天衣無縫のホーリーナイトガール
第十三話 弱みを握られる(物理)
第十四話 ご奉仕(する方)
第十五話 生き延びる条件
第十六話 きっかけは自爆でした
第十七話 ティートの本音
第十八話 最後に勝利を持っていくのは
第十九話 交錯する目的
第二十話 昔の女と今の女
第二十一話 驚天動地のマジシャンガール
第二十二話 ジャンプスクロール
書き下ろし番外編
本編の一部を立読み
第一話 見知らぬ町
「…………どこだよ、ここ」
目の前に広がる堅牢そうな外壁。
巨木の森を抜けて数刻。特に危険な生物と出会うこともなく、黙々と歩き続けて辿り着いたのはクロックの知らない町。
高い外壁をぐるりと回り、門に辿り着く。
外壁の上に立っていた門番がこちらに気付く。手を大きく振って合図のようなものを送った。
それは門を開けろという仲間へのサインだったらしい。丸太の杭を連結させたような落とし格子が、軋む音を立ててゆっくりと浮かび上がっていく。二枚ではなく一枚だけしかない構造のようだ。
いきなり開門してくれるということは、見ず知らずの人間を入れてくれる気があるということだろうか。せっかく門があるのなら検分くらいすべきだと思うのだが、何のための門番なのか。
「お疲れ様です。医者の手配は要りますか?」
「……いや、必要ない」
出迎えた門番は、クロックを狩りから戻ったハンターのように接した。
咄嗟に嘘をつくことに慣れているクロック。即座にそれっぽい反応を示して門番に合わせる。何やら、思ったのと違う場所に来たのかもしれない。
「怪我は大丈夫そうですね。……あの、武器は……?」
「あぁ……ちっと落としちまってな」
落としたというか、没収されたというか。
彼らの言う武器とはナイフ程度のものを指しているわけではないだろう。
クロックの言い分を聞いた門番は「そうですか……残念でしたね……」と気遣う姿勢を見せ、お疲れ様でしたと労いの言葉までかけてくれた。
ここはあれか。冒険者やらが集まる類の場所か。俺のことを冒険者だと思った口か。
ってことは、今通ってきたこの森は狩場……いや、特に魔獣や冒険者とは出くわしてねぇよな。近場に稼ぐ場所があんのかもな。
狩りから戻った冒険者を装い、門を抜けて町に足を踏み入れた。
後ろからパタパタとついていく小さな少女は、鞄を背負っているために荷物持ちに見えたことだろう。堂々とした態度のクロックを見て、門番は疑問に思うことなく見張りに戻った。
あー、いるいる。如何にも冒険者の町って感じだな。
真っすぐ大きな通りに入ると、すぐに喧噪広がる賑やかな空気がクロックたちを出迎えた。
武装した若い男女。古めかしい装備の中年男性に、引退しろよと言いたくなるような重装備の老人にいたるまで。より取り見取りだ。獣耳が生えた戦士までいる。
獣人か。王国ではめっきり見かけねぇが。ならここは連邦で間違いねぇな。
リーリット連邦。
他国と比べて他人種に特に寛大な姿勢をもっていることから、大陸内で人族以外の人種がもっとも在国している国家の連合だ。構成国が民主制という不思議な制度で統治されるようになったのが要因かもしれない。
ここが獣大陸かってくれぇにあっちこっちいやがるな。
ここらが王国との国境だとしたら、取り敢えず真っすぐ東に向かうのが当面の目標か。
連邦の最東端から獣大陸に渡ればいい。取り敢えず王国を脱出できたんだから一先ずは安心ってところか。
いつの間にか国外に脱出できていたことにホッと息を吐くクロック。
国家の位置を雑に言えば、大陸の南中央がクロトポーネ王国、その東にリーリット連邦だ。
ここからさらに東に向かい、ライゼ海峡を渡って獣国まで逃げてしまえばもう勇者はクロックを見つけることなど叶わないだろう。
「いーじゃねぇか! ちょっとくらいマケてくれよ!」
「いやいや、勘弁してくれよ! どっか違うとこ行ってくれよ!」
何処へともなく歩いている道中、一際騒がしい連中を見つけた。
どうやら店で値段交渉をしているらしい。迷惑そうな顔をしている中年の従業員と、チンピラっぽい若い女冒険者。
様子からして冒険者の女がしつこく値切っているんだろう。ああいうことをしていると何も売ってくれなくなることもある。引き際は心得ておくべきだ。
「ケチくせぇなぁ。こんなか弱い女にくらい融通利かせてくれてもいいじゃねぇか!」
「か弱いってアンタ、疾風の──」
「あー、あー、聞こえない聞こえない。ほらオッサン、こんな若い女と話せる機会なんてないだろ? 今だったらちょっとくら──」
ドンッ、と会話を遮る衝撃。
交渉に夢中だった冒険者の女と、偶然通行中だったクロックの肩が運悪く《・・・》ぶつかってしまう。
「おっと、ごめんよ」
「……チッ、気ィつけやがれ!」
機嫌を損ねた冒険者の女が睨んで叱責を飛ばしてくる。
冒険者は女といえども気性が荒い者ばかりだ。クロックはすぐに平謝りすると、絡まれても面倒なので足を止めずにその場から距離を取ることにした。
その後も背後から騒がしく交渉を続けているのが聞こえてくる。
どうやらクロックへの関心は持たなかったようだ。
少し離れてから、クロックは財布を取り出して中身を確認する。
……銀貨が五……六枚。結構あるな。お、金貨もあるぞ。
二人で宿を取るのには十分すぎる手持ちだ。財布を懐にしまってから大通りを出た。
クロック小道に足を踏み入れた直後に「無いっ!! 無いっ?!」と誰かが叫ぶ声が響いた。どうやら誰かが何かで困ったことになったらしいが、この町に来たばかりのクロックでは力になることは難しいだろう。
クロックはさらに暗がりに身を投じて逃げるように離れていった。
暫く歩き詰め、道中で住人に泊まれる場所を聞き出し、喧噪から離れた静かな場所で宿を取った。
悪くない旅亭だ。ナンパしたディーナの家以来のベッド。夜と朝に食事が出るので外で食いに行く必要もない。暫く歩き詰めだったので、今日は一日ここで休んでいいかもしれない。
「やっと人心地つけるな」
「んっ」
宿の私室でソファーにドカッと座り込むと、当然のように隣にチョコンと相席したアデリーナ。
最初の頃と比べて明白に距離感が変わった。どういう心境の変化なのかはよく分からないが、別に好かれている分には困らないので気にする必要はない。
ふぅ、と深く息を吐く。
ソファーの柔らかさがいい感じに疲れを癒して気持ちいい。このまま眠ってしまいそうだ。
ぼんやりしていると、アデリーナが手を伸ばしてきた。
「いや、しなくていいぞ」
すかさず止めるクロック。その言葉を聞いてアデリーナは手を下げる。
最近の彼女は様子を見計らって奉仕しようとするようになった。自分なりに男に尽くそうと考えているらしい。
奴隷の時は命令しない限りこんなことはしなかったが。時間経過で慣れてきて、自分なりに頑張ることに楽しさを見出したのか。
案外奉仕すること自体が好きなのかもしれない。
「アデリーナ。もし俺が他の女を抱くって言ったら怒るか?」
なんとなく、聞いておいた方がいいような気がして質問する。
彼女は奴隷ではないのに旅のお供をしている。何のつもりか。どういう理由なのか。彼女は、自身をどういう位置付けで捉えているのか。
少なくとも、クロックが男で彼女が女であることは大きく関係しているだろう。
質問に対してアデリーナは、間髪入れずにいつも通りの無言で応答した。
返答の所作は首を横振り。つまり、クロックの恋人を望んでいるわけではないらしい。
「俺はやりたいようにやって生きていくって決めてるんだ。だから別にお前が離れたいって思ったならいつでも自由にしていい。俺も勝手にする。抱きたい女がいたら、たとえお前の前でもヤるかもしんねぇぜ。それでもいいのか?」
別にそこまでしようと決めているわけではないのだが、わざとイヤらしいことを言った。
アデリーナは、当然のように首を縦に振った。
あくまで従順さを示すってわけか。
何故そこまで献身的であろうとするのか。彼女の拠り所はどこにあるのか。
都合が良すぎるというか、不思議すぎるというか。
一体お前は何をどう見てそういう結論に至ったのか、と不可思議なものを見る目でみていると、再び少女はクロックに手を伸ばして股の辺りをさすってきた。
どうやらご奉仕せずにはいられないらしい。
別に言うほど気分ではないが、そうまでするのなら彼女に任せてしまおうか。
いつも一緒にいる必要もない。たまには一人を満喫する時間があっていいはずだ。
「アデリーナ。ちょいとそこら辺りを散策してくっから留守番してろ。外出はするなよ。お前の体格じゃすぐ連れ去られっから」
外出はさせたくない。だがそれはそれとして財布から銀貨を取り出し彼女に渡した。
いつ何があってもいいように、だ。
彼女が見送る中、宿を出た。
振り返るがついてきてない。なんだか悪いことをした気になってきて、別に連れてきてもよかったかもしれないと思った。
少し気だるげに歩いていく。
今日のところは大通りに行きたくないので、何かあってもすぐに反応できそうな小道ばかりを歩いて回る。
通行人に聞いたところ、ここはユーバというらしい。いわゆる冒険者の町だ。
気の荒い連中が闊歩する町なだけあり、少々治安が乱れている。
ところどころに佇む浮浪者やらが景観をぶち壊していて、散歩としてはあまり面白味がない町の光景だった。
足に傷を負っている者。老人。包帯だらけの男など、道半ばで冒険者から崩れたような連中が鬱陶しいほどそこら辺りに散見される。
表は戦える連中で賑わってんのに、ちょっと外れたらこれか。巡回兵とかいねぇのか? こんなんじゃ発展しねぇだろ、この町。
治安を守る気がないのか、放置せざるを得ないのか。
兎にも角にもあまり良い町ではない。クロックとしては王国の港町のような整えられた環境の方が色々な面で好みだ。自身が治安を乱す側であることは考慮しないものとする。
「おじ……お兄さん!」
トボトボ歩き、散歩という名の逃走経路確認を行っていると、脇道から現れた女が声をかけてきた。
かなり若い。年齢はまだ少女くらいだろうか。歳の差を鑑みて、このくらいの若さなら一瞬おじさんと言いかけたことは流してやるしかない。
パタパタと小走りで寄ってきた少女。
その頭上には特徴的な長い犬のような耳がついており、彼女が獣の血が混じったものであることが窺える。
「んっ!」
少女はクロックの前に立つと、その細く白い手のひらを見せてきた。金をくれ、というサインだ。そしてもう片方でクロックの股に手を伸ばし、下衣の上から擦りながらニコりと笑って春を売り込んできた。
あー。まあいるよな、こういうのも。
どうすっかな。顔はいいが、獣人か。
獣娘の見目は悪くない。普通の人間ならすぐに貰い手がつくであろうことが予想できる。しかしそれは人族の話。獣人の場合、人族から見れば可愛いと思える見た目が多いため、彼女程度の見目は別に珍しくもなんともない。
そして彼女たち獣人は、人族から見て毛嫌いされがちな強い特徴があった。
この距離でも臭うな、獣臭。
目の前で野生動物を嗅いだような臭いだ。
これが人族から嫌われがちな最大の要因だ。家で一緒にいるだけで室内に臭いが染みついてしまう。中には徹底して清潔に管理をして可愛がる者もいるだろうが、多くの人間は敢えて獣人を選んだりはしない。
彼女たち獣人は、どれほど人となりを気に入られても同じ家に住むにまでは至らない。
売り買いも、一夜だけが基本的な関係だ。
「どこまでいけるんだ?」
「口と手だけだよ!」
どうやら本番まではしないらしい。
まぁ失敗したら売れる春がなくなってしまうので、予防線を張るのは賢明な判断かもしれない。獣人の身体能力は一般の人族よりかは強い傾向にあるため、いざという時も逃げられる自信はあるだろう。
「ほらよ」
獣の少女に銅貨を三枚渡した。
本番なしでこの金額ならかなり奮発しているだろう。少女は一瞬驚くが、サッとポケットにしまって「サービスするから」とクロックの腕を掴んだ。
路地裏の先へと連れていかれる。
アデリーナがいるのに見知らぬ獣娘の世話になどなる必要はないのだが、まぁこの町に来た記念にということで。