他人の今までに絶頂した数字が見える〈絶頂カウンター〉。
その能力で校内ハーレムを築いた後、大学に進学した三条麗央。
入学式で出会った純粋無垢な新入生・花村ひなたと参加した
新歓コンパは、性の乱れたイベントサークルだった!
一年生の精を搾り取る、魔性の爆乳先輩女子・八重原夏姫。
一見無個性だが、謎の力で女を侍らすサークル長・黒咲蓮。
宴会中に姿を消した花村さんの処女を守るため、
ヤリチン、ヤリマンのはびこるサークルに潜入調査!?
大人気ノンストップ絶頂系ハーレム、「大学ヤリサー編」新章突入!
0 同棲から始まる新生活!
1 ヤリサーに出会いを求めるな!
2 サークル代表は地味な男?
3 消えた三人と課題
4 飛んだ精子の行き先は
5 無事に帰宅できた、はずだった
6 黒咲の力……
7 仕切り直しの新生活
9 星野が求める黒咲対策は当然……
10 初デートはセーラー服!?
11 星野の憧れの制服デート
12 愛の巣で二人目の処女喪失
13 パーティーの準備は下着から
14 セックスパーティーが始まる
15 セックスパーティーらしい余興
16 鷺宮の罠
17 黒咲の罠に堕ちる
本編の一部を立読み
0 同棲から始まる新生活!
大きな姿見の前でネクタイをギュッと締めた。
苦しくなるくらいキツく締めすぎていた。今日が門出の日だ、そんな大げさな気負いが無意識に出てしまったらしい。
不慣れな手つきで整えたネクタイはまだ少し曲がっているけど、鏡に映る俺はちゃんと大学生に見えている。馬子にも衣装とはこのことか。
これから入学式へ向かう。
明るめの紺色のスーツに、白のシャツ。ネクタイは薄い黄色。地味な俺には少し攻めすぎだと思ったけど、涼風《すずか》が選んでくれたスーツとネクタイだからこれに決めた。
「やっぱり麗央《れお》に似合ってる」
鏡越しに涼風が「麗央のことは私が一番わかってるよね」と満足げに微笑む。曲がったネクタイに気がつくと俺の前に回り込み、結び目を直してくれた。
「うん、いいね」
涼風の指が俺の胸元に触れている時間は必要以上に長い。直し終えてからも指を離さず、ネクタイを軽く引っ張って俺の顔を引き寄せた。
「……式に遅れるぞ」
同棲三日目。キスをして笑ったり、キスだと思わせて笑ったり、お互いにこんな時間が楽しくて仕方がない。
大学入学を機に涼風と同棲を始めた。大きな姿見は涼風に言わせると嫁入り道具だ。
涼風はベージュのジャケットとスカート。以前の涼風ならパンツスーツを選んでいたんだろうけど、迷うことなくスカートを選んだ。
俺と付き合うようになってから涼風ははっきりと変わった。
以前の王子様キャラの象徴のようなウルフカットから髪を伸ばし、ピンクに染めた。王子様以上に人目を引くけど、それでも涼風は自然にいられる。俺もそんな涼風が好きだ。
俺が求めているというより、涼風が本当にしたかったことなんだと思う。王子様キャラは涼風にとって生存戦略だったが、俺と付き合うようになり不要になった。
俺の存在がそうさせた、なんて考えるのは自惚れがすぎるかもしれないが、涼風が本当に着たい服を着て、試してみたい髪型になれるなら俺は満足だ。
「ほら、行くぞ。このまま始めたら遅れるだろ」
「じゃあさ、その代わりに帰ってから昨日の倍してくれる?」
昨日も三回したのに涼風はまだまだ足りないらしい。同棲したのはそれが目的なんだし、俺もまだまだやり足りない。
大学、同棲、新生活。何もかもが一新される春。不安がないとは言わないけど期待の方がずっと大きく膨らむ。
好きな女と同じ屋根の下で暮らし、同じ大学に通う。それだけで十分に満たされている。
「俺も我慢できないから」
「やった♡」
涼風が柔和な笑みを見せてキスをした。入学式に遅れない程度と思って舌を絡ませたが、結果走って駅へ向かうことになったのも仕方がない。
きっと同棲あるあるだ。
♡
入学式の会場は自治体のアリーナだった。大学内の施設では新入生が全員入れないのだろう。会場内の観客席は既に7割ほど埋まっていて、新入生だけでこんなにもいるのかと驚いてしまう。学生が多すぎて、まだ四月だというのに汗ばむほどだ。
二席続きの空席に座り、じゃれ合うこともなく行儀よく俺たちは式の進行を見守った。
なんとなく想像がついていたが、学長の挨拶は退屈で思わず周囲を見てしまう。
以前とは違う。ピアスをした男、金髪の女、スーツではなく古着の派手なシャツを着ているのもいる。
ついでに頭の上に浮かぶ数字、俺だけに見えている数字が気になってくる。その数字は、これまでに絶頂した回数を示している。
ある日、突然見えるようになった俺だけの能力、絶頂カウンター。
絶頂回数は人によって様々だ。
一桁のやつもいれば三桁のやつもいる。俺の隣の男は『146』。男にしては極端に少なすぎる。一つ前の席の女は『89』。女なら少なすぎではないけど多くもない。
さらにその前の女は『3』。
これが一番エロい。女の一桁は間違いなくセックスで絶頂した回数だろう。なぜかと言えば、オナニーをするなら『3』は少なすぎるからだ。
ほぼ間違いなくオナニーをしたことがない。オナニーはしたことがないのに絶頂している。つまりセックスで三回絶頂したと言える。
だからエロい。
うなされるほどの熱が冷めた日、突然見えるようになった絶頂カウンターの力はエロい妄想に使うだけだったけど、偶然涼風を助けることに繋がった。助けようとしたわけじゃなく、涼風をエロい目で見ていたら結果として助けることになった。
それは涼風にとって転機となり、俺を好くようになり、何度も交際を迫ってくれた。
俺はエロい目的だったから後ろめたさもあり断っていたが、最終的に付き合うことになった。そして、いまは同棲している。
涼風に迫られて同棲を始めたけど、同棲してよかった。毎日好きなだけ涼風とイチャイチャできるんだから。
無駄とも思えるほど長い式を終え会場の外へ出ると、偶然を装うような声色で女が声をかけてきた。
「なんだ、近くにいたんだ」
新入生でごった返していて待ち合わせだって難しそうなくらいなのに、偶然会えるはずがない。まあ、こいつのことだ、間違いなく待ち伏せしていたに違いない。
「ふふふ、長かったね」
こいつは入学式でも地雷系を隠していない。ねっとりと甘ったるい声は千波夢芽《せんなみゆめ》。俺のセフレだ。
「探したのにいないから、セックスに夢中で入学式は来ないのかと思っちゃった」
ハーフツインの黒髪に垂れ目をさらにメイクで垂れ目にして、入学式とは思えない黒いレースを重ねたワンピース。
以前と違いがあるとすれば、耳のピアスが増えていることか。
「ご入学おめでとうございます、王子様」
「聞いたんだけど、近くで一人暮らししているみたいだね」
「ほら、彼が部屋から追い出されたら一緒に住めるようにね」
「追い出すわけないでしょ」
「ふふふ、一緒に暮らしたら嫌なところが見えてくるんでしょ? 今日だって見えたんじゃない、朝からやって遅刻しそうとか」
「それはいいだろ。嫌なとこじゃないだろ」
「あたしは大丈夫だから。君がしてくれることは何でもあたしがしたいことだから」
相変わらず千波は面倒くさい女を隠そうともしない。
「そうだ、オリエンテーションはあたしと一緒に行ってくれるよね」
「聞いてはいたけど、本当に麗央と同じ学科なんだ」
涼風とは同じ大学でも学部が違う。けど千波とは学部どころか学科も一緒。正直に言えば、右も左もわからない大学生活で同じ学科に千波がいるのは心強い。
だからこそ涼風に心配させてしまう。
「ふふふ、怒らないで」
「怒ってるんじゃなくて、呆れてるの」
「こんなとこで言い合うなよ」
大学四年間で言い合うことなんて無限にあるだろうから、始まりの今日くらいは、なんて言えない。
「インカレテニスサークルです!」
「テニス未経験者も大歓迎です!」
アリーナの外階段を下ると大きな声が聞こえてきた。この人の多さは新入生だけでなく、サークルの勧誘もいるからか。
配っているチラシを受け取りたいのだろう、会場から離れようとする人の流れに逆行するのもいて前に進むのも難しい。
「広告研究会です!」
「業界で活躍する卒業生も沢山いるんで、是非説明会に来てください!」
テニスサークルのチラシを配っているのは男も女も日に焼けていない。広告研究会の方がずっと日に焼けていて、体も逞しく見える。
テニスサークルと広告研究会の印象はチグハグで、上手く頭の中に入ってこない。
「イベントサークルです!」
その点、イベントサークルはわかりやすい。
見える範囲でチラシを配っている三人、いや四人が全員女で、全員でかい。中でもミルクティー色のショートカットがひときわ大きい。
黄色のブラ紐が見えるほど緩い胸元のカットソーだが、前かがみになっても谷間しか見えないんじゃないかと思わせるくらいに大きい。
どんなイベントをするのかわからないが、大きなおっぱいが活きるイベントを期待できる。
「それで君はどのヤリサー入るの?」
「なんでヤリサー限定なんだよ。いまの俺にそういうのは必要ないんだよ」
「ふふふ。それって、あたしがいるから?」
「涼風がいるからに決まってるだろ」
「ほんとに?」
言葉だけじゃなく表情でも俺を疑っている。
「なんで涼風まで疑問形なんだよ。俺がヤリサーに入るわけないだろ」
「その割には、さっきから何度も見てるよね」
「いや、それは、はぐれそうだろ。人が多くて。だからキョロキョロと周りを見てるんだよ」
涼風は納得したのか「そっか」と言い、俺の腕を掴み体を寄せた。
「新歓やるからよかったら来てね」
俺たちの前にチラシを差し出した女の顔を見なくてもわかる。緩い胸元と黄色のブラ紐、そして視界全域を満たす大きな胸。イベントサークルのチラシだ。
「女の子二人も連れてるなんてモテるんだね。うちのサークルにピッタリだよ」
その言葉に思わずおっぱいから視線を逸らした。別にバカにするような声音じゃなかったが、意図がうかがい知れない。
仮に俺がモテるとして、モテる男をイベントサークルに誘ってどうする。サークルの女に手を出して空気を悪くするに決まってる。それなのにピッタリ? 怪しすぎるだろ。
俺じゃなくて涼風と千波目当てに声をかけたとしたら論外だ。無視した方がいい。
ただ涼風の反応は違った。反射的になのか、それとも興味があるのかチラシを受け取った。
「ありがと。新歓で待ってるからね♡」
男を惑わすような媚びるような、くぐもった甘え声で言うと、パイパイデカ女は別の新入生へと向かっていく。
「イベントサークルなんて興味あるのか?」
「どうだろ。いまはまだどんなサークルってわけじゃないけど、せっかくだし入ってみたいとは思ってるよ。もちろん、ちゃんとしたとこ。でも、麗央が心配するなら入らない」
心配といえば心配だけど、サークルに入るなって言うのもおかしいよな。ヤリサーでもなければ別に。
「王子様、サークルでモテるんじゃない」
「私はモテなくても構わないし。それに、ヤリサーなら千波さんの方がモテると思うんだけど、麗央はどう思う?」
「千波もモテなくていいだろ」
「ふふふ、嫉妬してくれるんだ」
いつの間にか千波が手にしていたチラシを俺は取り上げた。
「ふふふ、心配もしてくれるんだ」
なんで千波はそんなにポジティブに捉えるんだよ。
「ヤリサーって言うからだよ。ヤリサーなら誰だって心配するに決まってるだろ」
千波がヤリサーに入ったら俺に付きまとうことはなくなるだろうけど、正直いい気はしないだろうな。
まあ千波のことだから、俺がサークルに入れば同じサークルに入るだろうし、俺が入らなければ千波も入らない。つまり、心配は無用だ。
「まあ、俺はサークルに入るつもりがないけどな」
「ヤリサーだってわかっていても入らない?」
「当然だろ。だいたい、ヤリサーにいるような怪しい人間に近づきたくないだろ」
女だけでチラシを配っていたサークルがあったけど、ヤリサーにいる女ってなんなんだよ。男にやられるためにサークルに入るとか意味がわからない。
「ふふふ、君にだけは言われたくないんじゃない。さっきの巨乳ちゃんだって」
「そうかもね」
なんで、こんな時だけ涼風と千波は同調するんだよ。
1 ヤリサーに出会いを求めるな!
入学から間もないが、新歓コンパに参加する前に顔合わせをしておこうと広々とした学生食堂に集まったのは俺と涼風、千波、さらにもう一人の女子大生。
その彼女は今日がはじめましての俺の顔をまじまじと見上げ口を半開きにして、驚きを隠そうともしない。
「え!? じゃあ涼風さんが同棲しているのって本当に……」
俺では涼風に見合わないと言わんばかりに目を見開く彼女は、涼風と同じ学科の花村《はなむら》ひなたさんだ。
「はじめまして。三条麗央です」
初対面だけど涼風から聞いていたイメージとは少し違う。いわゆる大学デビューと呼ぶのかもしれない。大胆に足を出した黒のワンピースは、小柄であどけない顔つきの彼女に似合っているとは言いがたい。
昼の大混雑から一転して夕方の学食はガラガラだけど、それでも遅い昼食なのか早い夕食なのか、間食なのか食べている学生もいる。
でも俺たちは無料のお茶だけだ。これから新歓コンパに参加するから。
涼風によれば、花村さんは中高と女子校だったらしく、付き合ったことはもちろん、男との会話すらほとんどなかったらしい。その反動なのか、大学ではサークルに出会いを求めているという。
いかにも浮かれた理由だ。
「この方が涼風さんと同棲……」
大学に入学して浮ついているのは花村さんだけでなく俺も似たようなものか。涼風と同じ大学に進学し、入学を機に俺たちは同棲を始めたんだから。
「同棲してるのにセフレがいるんですか?」
俺たちは当たり前になっているけど、普通はそっちも驚くよな。
涼風みたいな美人と冴えない男が同棲しているだけでも驚愕だっていうのに、さらにセフレがいると知れば目を丸くする。
しかも、セフレを隠すわけでもなく涼風に認められた関係ならなおさらだ。
「王子様があたしたちのこと話してたの? よろしくね、無垢ちゃん。それと、自称本命の王子様も」
同棲している涼風だけでなく、セフレの千波まで同じ大学なのはまあ驚くよな。しかも涼風とは学部が違うけど千波と俺は学科も同じだし。
今日だって俺の隣で授業を受けてきた。集合場所の学食にも、まるで一緒にいたかのように俺と同じタイミングで現れた。完全につきまといだ。
「同棲してる彼女の前でセフレがこんなに堂々としていられるって、それってもう、あたしが本命ってことだよね」
相変わらず涼風に対して強気に出る千波は、嫌味っぽくねっとりと言った。
「涼風さんにセフレを見せつけているんですものね。確かにそういう理由があるのかもしれません」
花村さんの顔つきは純粋な子供みたいだけど、心も純粋で素直なんだろう。千波にすら言いくるめられるんだから。
「そんなことないからね。全く」
涼風に言わせたくなくて俺がツッコんだ。しかし、ここまで言われても涼風は怒るどころか口を挟むこともない。まさしく正妻の余裕。
「無垢ちゃんは知らないと思うけど、男に騙されないように覚えておいた方がいいよ」
「なんですか、教えてください!」
涼風が何も言わないから千波の妄想を真に受けてしまいそうだな。
「本命じゃないから同棲できるってこと。だって本命なら結婚するでしょ。結婚できないって本命じゃないってことでしょ」
「適当なことばっかり言うなよな、千波」
それでも花村さんの顔つきは千波の言葉を真に受けているように見える。花村さんを心配した涼風が今日の新歓に俺と千波を呼んだ理由がわかる。
「適当じゃないし。セフレの他にも彼のこと『運命の男』だと思ってる女の子もいるからね」
また余計なこと言いやがって。
「『運命の男』ですか、素敵です。でも、どうしてこの男のことを」
こっちはこっちで、俺とは今日が初対面なのに〝この男〟呼ばわりかよ。
まあ、俺のことは多少蔑むくらいがちょうどいい気はするけど。涼風と付き合ってから一年以上経つのに、未だに千波とは蔑まれる関係を持っているんだから。
「初めてイカせた男が『運命の男』なんだって。未だに彼を『運命の男』だと思い込んでる女がいるの。ねえ王子様、何人いるんだっけ?」
千波、頼むからそれ以上言うなよ。
俺を運命の男だと思っているのは実の妹とその友人のモモ。セフレはともかく妹のことは言わないでくれ。
実の妹を絶頂させた初めての男だと知られたら、引かれるだけじゃ済まない。
「何人もいるんですか! そんなにあっちこっちに手を出しているなんて。悪い男には見えませんが……。あ、容姿が悪くないってことじゃなくて、見た目に反して性格が悪いってことです」
「そこまで正確に言わなくても、俺だってわかるよ」
「でも、絵に描いたような悪い男がいるのですね」
「ふふふ、彼って女の敵だよね」
「わかりました!」
早押しボタンが光るかのように、花村さんの瞳が輝いた。
「もしかして、私に男は危険だって教えようと芝居を打ったんじゃないですか? そうですよね、こんな男がチヤホヤされるなんておかしいと思ったんです」
出会って一分も経たずに〝この男〟からさらに格下げされて〝こんな男〟になってしまった。
「残念だけど、本当だよ」
「いやいやいや、その顔で言われても信じるわけありません」
まあ、俺じゃあ説得力ないよな。
「花村さん、全部本当だよ。私は麗央と同棲してるし、千波さんはセフレだし。他にもセフレがいるのも。こんな男だけど」
涼風まで〝こんな男〟呼ばわりなんだけど。
でも俺は知っているから全然平気だ。部屋に戻れば涼風はべったりと俺に甘えることを知っているから平気だ。
部屋の外だと王子様時代の名残なのかシャキッとしてるけど、二人の時はデレデレだ。
「じゃあ、お芝居じゃなくて本当に」
花村さんはあからさまに肩を落として、侮蔑の目で俺を見た。涼風と同棲している男だって聞いて、見合うようないい男を想像したんだろうな。
「だから私たちがついてきたんだよ。花村さん、男のことなんにも知らないみたいだから。よりによってイベントサークルの新歓に参加するって言うから心配で」
俺たちが集まった理由は花村さんが参加する新歓の付き添いだ。しかも参加するのはヤリサーと噂されているイベントサークルの新歓。
男の性欲を知らず簡単にヤられそうな花村さんを心配して、貞操を守るために俺たちがガードするため涼風に呼ばれた。
俺だけでなく千波も呼んだのは、いざとなったら女に飢えた男の群れに千波を置いて逃げるつもりなんだろう。
「まるで王子様は男を見る目があるみたいじゃん。セフレを一人も切り捨てられない男と同棲してるくせに」
「私に男を見る目なんてなくたっていいの。私の男は一人だけだから。麗央が側にいてくれるなら、私に男を見る目がなくたって問題ないから」
俺が女なら涼風に惚れてしまうだろ、こんなこと言われたら。
いや、いまだって涼風のことは好きだから、惚れ直すって言うのが正しいか。
「やっぱり王子様だよね」
千波に言われなくても、確かにその名残はある。
でも俺はそれでいいと思っている。
涼風は女になると、とたんに弱気になって自己肯定感が低くなるから。それに俺は王子様の涼風も好きだし。
「あの、なんで涼風さんは王子様って呼ばれているんですか?」
「前は髪を短くしてたの。千波さんはその頃を知ってるから、いまでも王子様って呼ぶんだよ」
俺と付き合うことになり髪を伸ばし始めたけど、結局卒業するまで涼風はずっと女子に囲まれていた。
「その頃は女子に囲まれてさ、顎をクイってやって王子様やってたんだよ」
その顎クイも付き合ってからは止めたらしい。それでも女子に告白されることもあったみたいで、そういう気がないことを示したいのもあって、髪をピンク色に染めたし、俺と同棲することにした。
「王子様もいまはすっかりメスの顔だけど」
「メス? ですか。メスってどういうことですか?」
嫌味ではなく花村さんは朗らかな笑みで聞いた。純真無垢すぎてメスに込められた侮蔑的な意味すら知らないらしい。
「毎日愛してもらってるからね。好きな男に愛されると髪型だけじゃなくて、顔つきも変わっちゃうよ」
以前なら千波と張り合っていた涼風だが、同棲というマウントが取れるおかげで最近は張り合うこともなくなった。
「メスって、つまり……」
「毎日発情してヤりまくる女ってこと。だって同棲ってそういうことでしょ。無垢ちゃんにはまだ早い?」
千波のニヤニヤ笑いに花村さんは顔を赤らめた。
「で、でも千波さんをセフレにして、しかも運命の男だと勘違いしている方までいるんですよね、この男には」
千波のからかいを誤魔化すように、まるで汚物を見るような視線を俺に向けた。
俺はゴミじゃないけど、その反応は正しいと思う。いまから向かう新歓では、見知らぬ男には軽蔑から入るのがちょうどいい。
純真無垢は変えられなくても男を警戒するようになったんじゃないのか。俺のおかげで。
「ねえ、なんで嬉しそうにしてるの」
千波に煽られても流していた涼風の声が尖った。
「いや、嬉しいんじゃなくて、安心したんだよ。ほら男って頭おかしいと思ってくれたらさ。イベントサークルの新歓とか、絶対にやられると思ってたから。イベントサークルって結局ヤリサーだろ。でもこれなら、俺みたいな男に気をつけて信用しない。だから安心したんだ」
思いがけず饒舌になっていた。決してなじられるのも悪くないかもしれない、そんな邪な気持ちは俺にはない。
「でも、なんでイベントサークルなの?」
だいたい、花村さんはなんでイベントサークルなんだ。
男と話したことは少ないし、見た目も少し子供っぽく感じるし、純粋ですぐに他人を信じる。
まさに飛んで火に入る夏の虫。イベントサークルの男たちに狙われるのは間違いない。
「勧誘してくれた先輩の女性が、ヤリサーじゃないから安心してって言ってくれたんです。だからヤリサーじゃない、ちゃんとしたイベントサークルなんです」
女の子にヤリサーなんて言ったら避けられるから否定するのは当然だけど、花村さんはそれを疑うこともないらしい。
ただ、サークルの女性がヤリサーじゃないって言うならそうなのかもしれないよな。
「あたしはヤリサーだって聞いてむしろ興味持ったけど、無垢ちゃんはどうせ処女でしょ。もしかしてヤリマンになりたいの?」
「ストレートに言うなよな。もっと言い方があるだろ」
初対面の千波から無垢ちゃんと呼ばれるように、花村さんは浮世離れしているというか、世間擦れしていないというか。ヤリサーじゃなくても真っ先に狙われるだろう。
それどころか、ヤリサーだと言われているイベントサークルの新歓に自ら飛び込もうとしているんだ。
「いいんです、別に隠しているわけじゃないので。大学に入るまで女子校で、男の子と遊ぶどころかおしゃべりすることもなかったので、今は男の子と仲良くなりたくて」
千波が無垢ちゃんと呼ぶのは雰囲気や考え方だけじゃない。花村さんの頭の上に浮かんでいる俺だけが見える数字からも男との関わりが薄いのがよくわかる。
花村さんの頭の上に浮かぶのは『14』。絶頂したのは14回だけ。女子大学生としては少ない。何度かオナニーを試しただけだろう。
「じゃあ、彼はどう? 王子様から寝取ろうとか思わないの?」
「この男ですか!? 涼風さんには申し訳ないですが、セフレがいる男なんて絶対に嫌です」
「私だって千波さんのことは切って欲しいんだけどね。大学までついてくるなんてストーカーみたいで怖いから」
正妻の余裕もなくなってきたのか涼風の声音が荒れてきたものだから、俺は慌てて話題を変えた。
「怖いっていえばさ、イベントサークルは怖いとは思わなかったの? ほら、イベントサークルってヤリサーって言われるし」
というか、これが本題だ。
花村さんがイベントサークルの新歓に行かないと言ってくれれば今日は解散。俺も涼風もイベントサークルなんか興味がないから、新歓に行かないと言って欲しい。
「勧誘してた方は親切そうでしたし、聞いたらサークル仲間はみんな仲がいいって言われたので。だから、あなたの方がずっと怖いですよ」
ヤリサーから守ろうとしているのに俺は逆効果か。
「ヤリサーで仲がいいってのは穴兄弟ってことだけどいいの?」
珍しく千波が新歓に行きたくない俺の気持ちを汲んでくれた。
「穴兄弟ってなんですか?」
「あたしと王子様の関係のこと」
千波はニヤニヤと自信ありげに言ったが、正確には、それは竿姉妹か棒姉妹だ。
「つまり同じ女とやったことがある男たちを穴兄弟って呼ぶのよ」
そこまで言われても花村さんは全く心当たりがないって顔だ。
「兄弟はわかるのですが、どうして穴をつけるんですか?」
「女を穴って呼んでいるのよ。ほんと失礼な呼び方」
「女が穴ですか……」
「あたしも王子様も無垢ちゃんもついてるでしょ、男を挿れる穴がさ」
花村さんは「あっ」と小さな声を漏らして一気に顔を赤らめた。
「花村さんも穴扱いされるかもしれないんだよ、イベントサークルでは」
「そ、そんなことありません。勧誘された方は私を穴とは呼んでいませんでした」
そりゃそうだ。
「もうそろそろ時間です。遅刻しないように早く行きましょう」
穴と呼ぶ男がいることも知らない無垢で純粋な花村さんの意思は、淫らな俺たちの言葉では揺らぐことがなかった。まあ、説得力に欠けるよな。
2 サークル代表は地味な男?
イベントサークルの新歓コンパの会場は大学近くの商店街にある居酒屋だった。チェーン店ではなく個人経営の居酒屋。
「外にいると邪魔になるから中入っちゃって」
「一年生は二階の一番大きい部屋だからね」
店の外ではイベントサークルの学生が不慣れで戸惑う新入生を捌いていた。花村さんが言った通り、それらの学生からはヤリサーの匂いなんて全く感じない。
サッカーをやっていそうなタイプの男だったり、生徒会にいそうな女だったり、全体的に陽キャ感はあるけれど。
ただ絶頂回数は多い。
女でも毎日オナニーをする委員長のようにオナニーで絶頂回数を稼いでいるのかもしれないから、ヤリサーと判断するのは早いかもしれないが、警戒はしておこう。
「ほら、皆さん悪い人ではありませんよね。この男の方がずっと極悪です」
「君、珍しく嫌われちゃったね。せっかくセフレ増やすチャンスだったのに」
千波がニヤニヤと茶化すが、そんなこと言っていると花村さんが本気にするだろ。
「私のことは諦めてナンパしてください」
「俺はそんなつもりで来たわけじゃないから」
店内には体育会の記念写真や大学出身の有名人のサイン色紙が飾ってあり、昔から学生を相手に商売をしていた雰囲気がうかがえる。
今日はこのサークルが居酒屋の二階にある宴会部屋を全部借り切っているらしい。畳敷きの宴会部屋は四つもあるのに学生で埋まっていく。
一年は四つの中でも一番広い部屋に集めるらしい。席はどこでもいいみたいなので花村さんを守るように涼風が隣に、向かいに俺と千波が座った。
「花村さん、このサークルって何人くらいいるの?」
「300人くらいだって聞きました」
「「300人!」」
思わず涼風と声が重なった。
「イベントは100人くらいでやることが多いみたいです。今日の新歓は一年を合わせると200人くらいになるみたいです」
普段はこんな大人数を入れる宴会場じゃないんだろう、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていく。
一年の男で女連れは珍しいらしい。やたらと視線を集めているような気がする。
イベントサークルなんて聞いたらヤリチンになりたい男ばかりかと思ったけど、周りを見ると案外女も多い。
だいたいは1.5軍の無理にでもキラキラさせた感じの女だけど、中には一人で来たのかキョロキョロと挙動不審の女もいる。
大根ばっかりのサラダとか、ピンク色のえびせんとか、安そうな料理がテーブルに置かれて、そろそろ始まるのだとわかった。飲み物は問答無用で烏龍茶らしい。
「『ベーシック』の新歓コンパに来てくれてありがとう!」
マイクなしでも部屋中に聞こえる大きな声だった。乾杯をするのだろう。声の大きな女性が大部屋の真ん中でビールが入ったグラスを掲げている。
「私は今日の幹事を務める八重原夏姫《やえはらなつき》です」
極端に大きな胸。胸元の緩さを気にしないオーバーサイズのカットソー。お尻のラインを強調するピタッとフィットするミニスカート。ミルクティー色のショートカット。
そして胡散臭い作り笑顔。声は大きいのに媚びるような声音。
全てがヤリサーを具現化したような女だ。
「入学式の日にチラシ配ってたから話したことある人もいると思うけど、改めて新入生のみんな入学おめでとう!」
そうか、入学式のあとに勧誘のビラ配りをしていたおっぱい女だ!
「受験大変だったと思うし、大学四年間は遊べる最後の時間なんで、うちらと一緒にたっくさん遊んでね!」
でも、この女には大きな胸よりもずっと強烈な特徴がある。頭の上に浮かぶ数字、絶頂カウンターだ。
その数字は『0』。
入学式の日は、大きなおっぱいに目が釘付けになり頭の上の数字にまで気が回らなかったのか。こんなにも目立つというのに。
一度も絶頂したことがないなんて、この部屋には他にいない。
この部屋だけじゃない。大学には色々な人がいるが絶頂0回は見たことがない。純粋無垢な花村さんだって14あるのに、0は少なすぎる。
「あと、二十歳未満の新入生はお酒飲んじゃダメだからね。周りも飲ませないようにしてよ」
視線を集めて注意喚起をしたいのか、女は左右に腰をくねらせると大きな胸は弾むように上下に揺れた。
視線を集めるためだけに大きな胸を揺さぶるビッチの絶頂が0回だなんて、にわかには信じがたい。
絶頂できない体質があるらしいけど、もしかしたらそれかもしれない。絶頂できないのにヤリサーで新歓の幹事をするものなのかわからないが、それでも賽は投げられる。
「乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
根っからの陽キャも、大学デビューを試みようという男も、俺みたいにキョドっているのも、一斉に声を上げた。
乾杯の一体感がそうさせるのか、堰を切ったかのように周りの声が大きくなる。
この時期の大学一年生にとってコンパほど嬉しいものはないかもしれない。
受験勉強に耐えるために、頑張るために、思い描いたバラ色の大学生活の一つはコンパだろう。理想の大学生活が大人数の乾杯と共に始まったのだから、声は大きくなるし気も大きくなる。
順番に自己紹介が始まると、周りに座る見知らぬ一年と話してみたり、席を移動したりとお酒も飲んでいないのに騒がしくなっていく。
「ねえねえ、無垢ちゃんはどんな男がタイプなの? あたしの彼以外で教えて」
「あまり男性を知らないので、タイプと言われてもよくわかりません。でも、この男はタイプじゃないです」
まあ、そうだろうな。なぜか涼風は嬉しそうな顔をしているけど、彼氏がゲス野郎だと思われても平気なのかよ。
「こんばんは」
俺たちに初めて声をかけてきたのは、あまりにも特徴のない男だった。
「『ベーシック』代表の黒咲《くろざき》蓮《れん》です。今日の新歓はどう? 楽しい?」
こいつがヤリサーの代表? あまりにも特徴がない。
髪は派手髪でも金髪メッシュでもない。地味な黒髪は今すぐサラリーマンになれそうなくらい短い。
女を手玉に取るホストや、強引さを隠さない体育会系、甘い顔のアイドルのような雰囲気でもない。
しいて言うのなら、優等生タイプか。
髪型だけでなく服にも清潔感があり、サークルの代表を務めるだけあって信頼されそうな風貌ではある。
乾杯の挨拶をした、いかにも遊んでそうな副代表の女とは正反対だ。
「今日はまだ知らない連中ばっかりだと思うけど、少しずつサークルに顔見知り増やしていけばいいし、そのために毎月いろんなイベントやってるから。半年もすればみんな仲良しになってるよ」
イベントサークルの代表のくせに、女だけに声をかけるわけでもなく、俺にも誠実そうな笑顔を見せて別のテーブルへと行ってしまった。
「やっぱり、このサークルは健全な出会いが期待できます」
代表の男が行くとすぐに、花村さんは確信を主張するように言った。
あの代表を見てしまえば、そう思うのも当然だし、無闇に否定しにくい。花村さんに自信を持たせてしまった。
花村さんをこのサークルから遠ざけるためにも、もうちょっとくらいチャラかったらと思ったくらいだ。
「出会いが欲しいなら、無垢ちゃんはナンパしてきたらいいんじゃない? あたしがついていってあげるからさ」
「そうですね!」
千波に突っ込む前に前のめりで花村さんが言う。しかも目を輝かせてるし。
「向こうから声をかけてくる男よりも安心かもね」
「涼風!」
「私はナンパなんてしないって」
「そんな心配はしてない。涼風じゃなくて花村さんだよ」
「花村さんに素敵な出会いがあれば、今後はイベントに参加しなくなるかもしれないでしょ」
「それもそうだけど。でも出会いは他にだってあるだろ、バイトとかさ」
「アルバイトは出会いの場ではありません。将来の夢を実現させるため、私は真剣に取り組んでいます。この男は邪な気持ちでバイトをするのかもしれませんが、私は違います」
確かにそうだな。仕事に出会いを求めるのは違うな。
いや違う。なんで簡単に言いくるめられてるんだよ、俺は。
「でも、ああいう男が首絞めセックスするんだよ。無垢ちゃんは知らないでしょ、首絞め」
「……知りません」
いいぞ千波! もっと言ってやれ。ああいうのが実は一番悪い男だったってパターン、知ってるんだろ。
「凄く気持ちいいんだって。宮ちゃんが言ってた。彼はしてくれないけどね」
「宮ちゃん?」
千波が出した余計な名前に花村さんは首を傾げた。
「あたしらの担任だった、彼のセフレの宮ちゃん」
「!?」
花村さん、めちゃくちゃ睨んでる。もう、俺の話なんて絶対に聞いてくれないじゃん。もうリカバリーは無理だろう。
「ちょっとトイレ行くわ」
侮蔑の視線に耐えられなくなり、思わず逃げてしまった。
3 消えた三人と課題
トイレから戻ると三人がいなかった。
割り箸は取り皿の上に置かれ、周りの一年もスペースを空けて、さっきまで三人が座っていた痕跡は残っているのに誰もいない。
まさか本気でナンパしに行ったんじゃないだろうな。千波はともかく、涼風がそんなことするわけがない。
じゃあ、三人揃ってトイレに行ったんだろうか。
俺はトイレから戻ってきたんだ。おかしいだろ。トイレは男女共用で二つだけ、もう一つのトイレに入ったとしても二人は待つことになる。でも、トイレの外には誰も待っていなかった。
だったらトイレじゃない。席を変えたんだ。どこに? この部屋のどこかか。
一年が集められたこの部屋で誰かと意気投合したのかもしれない。それとも同じ学科の知り合いがいたのかもしれない。
王子様を辞めようとして髪を伸ばしてピンクにした涼風は目立つはずなのに見つからない。ぐるりと見てもいないものだから狭い部屋の中を一周したが見当たらない。
涼風だけじゃない。地雷系丸出しの千波も見つからないし、花村さんもいない。
じゃあ別の部屋に行ったのか?
居酒屋の二階にある四部屋全部を貸し切っていると言っていた。一年が中心の部屋から、二年、三年が多くいる他の三つの部屋に移った?
どうして。
そんなの、ここがヤリサーだからに決まっている。女三人が集まっているのを見てちょうどいいと狙われたに違いない。
一年が詰め込まれた大部屋の通路を挟んだ向かいに三つの部屋があり、閉じられた襖の向こうから盛り上がる男女の声が漏れ聞こえる。
大部屋にいないってことは、向かい側の部屋のどこかにいるはずだ。
中の様子を見ようと一番手前の部屋の襖戸を少し引いてみると、中から酒の匂いが漏れ出してきた。
中ではゲームか余興だろう、ポッキーゲームのように一切れのだし巻き卵を両端から少しずつ食べている。戸惑う男とは対照的に女の方は顔が近づいても止まらない。ついに唇が触れ、だし巻き卵を落とさずに食べきった。それでも女は唇を離さず、蕩けた目でキスを続ける。
ゲームの盛り上がりをよそに部屋の真ん中でキスをしているのもいる。軽いキスではなく、舌と舌を絡めた挿入前にする愛撫のようなキスをだ。
いや、愛撫だ。
舌を絡めたまま伸ばした手をお互いの陰部へ伸ばして刺激し合っている。酔ったくらいで、ここまで人前でできるものだろうか。
よく見れば他にも手を使う女がいる。ズボンの上からだが、女の方が積極的に勃起させようと手を使っている。その女と目が合ったが、恥ずかしがることも手を止めることもなく、まるで俺を誘うかのように微笑んだ。
男より女の方が積極的なのが気になる。このサークルの女はそんなに男が好きなのか。それとも雰囲気に流されてそうなるのか。
ただ幸いなことに、この部屋には涼風も千波も花村さんもいない。
ファミレスとさして変わらない雰囲気の一年の大部屋とはまるで違う。このサークルは間違いなくヤリサーだ。早く三人を探さなきゃ手遅れになる。
残った二つの部屋にいるはずだと襖に手をかけるが全く開かない。もう一つの部屋もそう。まるで鍵をかけているかのようにしっかりと閉じられてビクともしない。
古い建物に見えるが立て付けが悪いからじゃない。ピタリと閉まった襖戸は一ミリも動かない。襖というよりまるでサッシだ。
鍵をかけたように閉まっているんじゃない。部屋の内側から鍵をかけているから開かないんだ。
どうして内側から鍵をかけられるんだ。どうして内側から鍵をかけているんだ。部屋に鍵をかけるなんて、そんなの居酒屋じゃないだろ。ホテルだ。
新歓コンパなのに一年との交流を拒絶するかのような鍵は明らかに不審だけど、不審よりも速いスピードで俺の中に恐怖心が湧き起こる。
この中で三人が何をされているのか想像もしたくない。
その拒否感はさらに恐怖を生む。
電話をかけてみるが涼風も千波も出ない。大部屋から聞こえる騒がしい声が苛立たせ、焦らせる。
二年か三年の誰かに声をかけるか。ただ、誰が一年で誰が二年で三年なのかわからない。俺がわかるのは黒咲っていう、特徴がなさすぎて胡散臭いサークルの代表くらいだ。ヤリサーの男にかけあって涼風たちを解放してくれるのか?
「三条くんだよね。このお店は気に入ってくれたかな」
焦りのせいで気がつかなかった。声をかけた女はすぐ横で微笑んでいた。
頭の上に浮かぶ『0』ですぐにわかる。乾杯の挨拶をしたサークルの幹部、確か八重原って三年だ。
口角を上げて愛想よさそうな笑みを見せているが、直感で世間話が目的じゃないとわかる。八重原はミルクティー色の髪を掻き上げてから言った。
「ここって普通の居酒屋に見えるでしょ? でもね、VIPルームがあるの」
いきなり話しかけられ、VIPルームとか俺にはどうでもいいし、なんの話なのか何が目的なのかさっぱり掴めない。
胸元の緩い服は大きな胸を隠しきれずに谷間が見えているが、俺を誘惑してVIPルームに誘うなんて雰囲気でもない。
「変な家って知ってる? さしずめこの店は変な居酒屋ね。VIPルームは隠し部屋になっているから」
隠し部屋とか、いかにもヤリサーが好みそうだな。
「人目につかないし証拠とか残らなくて便利なのよ。だから『ベーシック』ではこの店をよく利用しているの」
証拠が残らなくて便利ってなんだよ? もしかして涼風を隠し部屋に連れて行ったと言いたいのか。
じゃあ、三人を犯罪に巻き込むって言いたいのか!?
「まあ、黒咲さんがVIPルームを作らせたんだから私たちが使うのは当然よね」
VIPルームを作らせた? なんでそんなことができる。
「何が言いたい」
思わず語気が強くなる。
「君が連れてきた女の子は他の部屋に連れて行ったわ。『ベーシック』に三人も連れて来るなんて、君ってモテるのね」
最悪だ。
「じゃあ涼風をVIPルームに連れて行ったのか?」
「さあね。私は代表に渡しただけだから、その後どうなっているのかは知らない。VIPルームかもしれないし、別の部屋でゲームしているだけかもしれないし」
「どこだ、言えよ。他の部屋の戸を開けさせろよ」
「協力してあげたいけど、その前に三条くんを試したいの。私たち『ベーシック』にとって君が使える男かどうか試したい。もちろん合格ならすぐに女の子を全員あなたに戻してあげる」
「もったいぶらずに、さっさと言え」
「そんなに焦らないでよ。焦る男の子はモテないよ。あれ、君はモテるんだっけ?」
「いいから、早く言え」
女は「あぁ怖っ」とおどけながら言った。
「セックスでもいいし、フェラでもいいし、新歓にいる女の子とやってその証拠の写真を私に送って。三条くんには簡単なことでしょ?」
「なんだよそれ」
「三条くんが特別にモテるって私たちに示して欲しいの。他の一年とは違う男だって示して欲しいの。そうしたら女の子は返してあげる」
つまり、俺がヤリサーに女を呼べる男かどうか証明しろって言っているのか。クソだな。
「心配しないで。今日の幹事は私だから、私が言えばみんな従うから。それだけは約束する」
そう言った女の表情に俺をからかう様子は一切ない。
本気なんだろう。涼風たちを返すという言葉は。もちろん証拠を隠すのに都合がいいVIPルームの存在も。
ただのイベントサークルが居酒屋にVIPルームを作らせるなんて、間違いなく異常だ。
「急いだ方がいいんじゃないかな。このサークルはヤリサーだよ」
言われなくたってわかっている。女は「がんばって」と言うと、ニヤニヤと微笑みながら一年が集められた大部屋へ入っていった。
俺を試すため、俺と一緒にいたって理由で三人が狙われた。
三人も女を侍らせているからヤリサーにとって俺は使えるかもしれないと思われ、三人が狙われた。花村さんを心配して一緒にきたのに、かえって花村さんを怖い目に遭わせるなんて。
でも、いますることは後悔じゃない。あの女が出した試験だ。
ここにいる女とヤレって言ったよな。できるのか、そんなこと。
いや、やらなきゃ涼風がどうなるのかわからない。ヤリサーが隠し部屋ですることなんて決まっている。
そんなことになれば、涼風はまた元に戻ってしまうかもしれない。昔みたいに、自然と男を誘惑しているから犯されるんだと、そんなバカな考えに戻ってしまう。
それだけは絶対にダメだ。