07/24 電子版発売

学生時代クラスの男子全員を勘違いさせてたあの子と、同窓会で十年振りに再会した夜

著者: 高科祐介

電子版配信日:2026/07/24

電子版定価:880円(税込)

クラスの男子全員を勘違いさせていた渚央と、同窓会で再会した貴秋。
帰りの車内、彼女の話に寄り添ううちになぜか距離は急接近。
ずっと憧れていた彼女に長年の童貞を捧げることに!
渚央の豊満な身体と予想外の大胆さに翻弄されながら、
十年来の「勘違い」は甘く淫らな現実へと変わっていく。
フランス書院eブックス賞受賞作。極上の純愛官能、開幕!

目次

1 十年ぶりに再会したあの子は今も美しすぎて

2 彼女が助手席でこぼした涙に時の流れを感じて

3 ずっと憧れていた唇に癒やされる時が来るなんて

4 初めての夜は最高の興奮とともに唐突に訪れて

5 ラブホのバスルームはまるで楽園のようで

6 制服をまとった彼女は記憶の中よりも淫らで

7 背徳の立ちバックで結ばれた俺たちはそして…

エピローグ 裸エプロンで愛したその後に

本編の一部を立読み


1 十年ぶりに再会したあの子は今も美しすぎて



「――渚央(なお)はどうなの? 彼氏とか」
(え――)
 隣のテーブルからそんな会話の断片が聞こえてきて、藤川貴秋はジョッキを口に運ぶ手をとめ、おもわず耳をそばだてた。
 高校卒業から十年の節目を機にクラスの有志によって企画された同窓会も、開会からそろそろ二時間が経とうとしていた。会場は、貴秋たちの地元にある国道沿いの大衆居酒屋。お盆休みとあって店内はほぼ満席だったが、運よく半個室の座敷席の予約をとることができた。今回の参加者は、クラスメイトの約半数となる二十名弱。横長のテーブルふたつに分かれて座った同級生たちは、近くの者どうしで数人ずつのグループを作り、昔話や近況報告に花を咲かせていた。
 元クラスメイトたちの賑やかな声が飛び交うなか、貴秋は隣のテーブルの端の席に座る彼女をうかがった。
(宮下さん……)
 宮下渚央――貴秋が彼女に会うのは、高校卒業以来、じつに十年振りだった。
 アーモンド形のぱっちりとした瞳や、すっと通った小さな鼻は、高校生の頃の面影をたしかに残している。いっぽうで顎の下あたりで切りそろえたショートボブヘアは、長さこそ当時と変わらないものの、毛先が梳かれた感じになっていて、都会的で洗練された印象も受けた。艶やかな紅が引かれた唇も大人の色気を感じさせる。
 オレンジ色の上品なサマーニットも目を引いた。透かし編みの半袖ニットの下に黒のキャミソールをあわせた着こなしは夏らしさもあり、服に疎い貴秋でも一目でおしゃれだとわかる。渚央は大学進学を機に上京し、今も都内の会社に勤めているというから、ファッションセンスも自然と磨かれていったのだろう。
 高校を卒業してから今年で十年。貴秋たちはみな二十七、八歳になる。すでに生涯の伴侶を得て家庭を築いている者もいるようだし、他の者にしても恋人がいて不思議ではない。もちろん渚央だって……。
「えっ、彼氏? いやぁ、いないよ……今は」
 クラスメイトからの追及にはにかみながら答える渚央を見て、貴秋はひそかに胸を撫でおろした。だが渚央のまわりにいた同級生たちは、返答の最後にあった一言を耳ざとく聞きとがめたようだ。
「えっ、『今は』ってことは、別れちゃったってこと?」
「ウソ、そうなの?」
 渚央の両隣にいた二人が興味津々といった様子で渚央を問いつめる。同級生の色恋沙汰となると、やはり気分も女子高生の頃に戻るのだろうか。
「うん、まあ……、そんな感じかな」
 渚央はあいまいな笑みを作ってはぐらかし、タンブラーでさりげなく口を塞いだ。そこまで嫌がっている様子ではないが、酒の席で別れ話を語るのはやはり気持ちがいいものではないのだろう。
 だがクラスでも人気者だった渚央の恋愛話となれば、周囲の者も興味は尽きない。今度は向こう隣にいた別の同級生たちも加わって、「いつまで付き合ってたの?」「結婚とかは考えてるの?」などと渚央を質問攻めにしはじめた。
「じゃあさ、高校のときに好きだった人とかは?」
 とうとうそんな話題も飛びだし、ひそかに聞き耳をたてていた貴秋もどきりと心臓を跳ねさせた。
(み、宮下さんの好きな人だって……?)
 高校時代の渚央は、学内でも一、二を争うほどの美少女だった。当時も彼女が誰かと付き合っているという噂は聞かなかったが、真相はわからない。
「高校のときかぁ、そうだなぁ……。気になっている人とかは――」
 そのとき、同じテーブルにいた別のグループの大きな笑い声があがり、渚央の声がとぎれてしまった。
(ちょ、ちょっと……、肝心なところで……!)
 高校時代、渚央に好きな人はいたのか。その答えをどうしても知りたくなった貴秋は、無意識のうちにテーブルに身を乗りだした。そのときだった。
「――そうそう、あのときは貴秋も……って、おい、聴いてるか、貴秋?」
「う、うわっ」
 ふいに横から腕を引っ張られ、貴秋はおもわず素っ頓狂な声をあげて振り向いた。
 視界に飛びこんできたのは、怪訝そうな表情を浮かべる小太りの男。同級生の中津雅也である。
「なんだよ、変な声出して……おまえ、まさか飲んでるんじゃないだろうな?」
 あきらかに挙動不審な貴秋の顔を、雅也が疑うような目つきで覗きこんでくる。貴秋はこの居酒屋まで自分の車で来ていたから、飲酒運転を心配しているのだろう。高校時代は貴秋とバカな話ばかりしていた雅也も、今では地元で警察官として働いている。
「い、いや、飲んでないって」
 貴秋は自分が注文した飲み物をテーブルから取って掲げてみせる。中ジョッキの中身は間違いなくノンアルコールのウーロン茶だ。
「だったらいいけど、それにしてもおまえ、さっきからなんだって向こうのテーブルをちらちらと……ははぁ、なるほど」
 首を伸ばして隣のテーブルをうかがった雅也が、にやりと口元を歪める。
「な、なんだよ?」
 貴秋がおもわず身構えると、雅也は内緒話でもするみたいに口元を手で隠して貴秋に顔を寄せてきた。
「……お目当ては、宮下渚央だろ?」
「なっ……!」
 おもいきり図星を突かれ、貴秋は両目を大きく見開いた。
 わかりやすくうろたえる貴秋の肩を抱いて、雅也はニヤニヤと口の端を上げる。
「いや、気持ちはわかるぜ。宮下さん、高校の頃から男子に人気あったもんなあ」
 雅也は向かいの席で話を聴いていた男の同級生二人に目顔で同意を求める。すると彼らもコクコクとうなずいて懐かしそうに目を細めた。
「宮下さん、明るくて人当たりがよかったし、男女問わず誰からも好かれるタイプだったもんな。俺らみたいな地味な男子にも分け隔てなく接してくれたし」
「わかる! 朝、顔をあわせたときとかさ、絶対、笑顔で挨拶してくれたもんな」
「そうそう。ハキハキしてるけど、なんか人懐こくてな。正直、『勘違い』したことあったもん。宮下さん、俺に気があるんじゃないか、って」
「えっ……」
 高校の頃はわりと硬派なイメージもあった雅也までが渚央を意識していたなどと言いだしたことに、貴秋は愕然とする。
 ……いや、雅也だけではないのか。貴秋も含め、おそらくはクラスの男子はほとんど全員、少なからず渚央に好意を抱いていたのではないか。
 渚央は高校の頃からクラスの人気者だった。学級委員長を務めていたこともあって面倒見もよく、貴秋のような目立たない生徒にも積極的に話しかけてくれた。
 だからこそ男子は「勘違い」をしてしまうのだ。ただでさえ愛らしい顔立ちの彼女に屈託なく笑いかけられたら、恋愛経験の少ないウブな高校生など、イチコロになってしまって当然だろう。
 雅也が遠い目をしてしみじみと語る。
「いつだったかな、宮下さんが落とした消しゴムを俺が拾ってあげたら、『ありがとう、助かったぁ』なんて笑顔でお礼言ってくれてさ。それがめちゃくちゃかわいくて、それからしばらく教室で彼女のことを目で追ったりしてたな」
「へ、へえ……」
 ぎこちなくジョッキを傾けながら、貴秋は心を波立たせた。高校時代は雅也だって女子からモテるタイプじゃなかったのに、貴秋の知らないところで渚央と親しげに言葉をかわしていたとは。……うらやましくて仕方ない。
「まっ、俺はもう嫁さん一筋だから、他の女に興味はないけどな」
 雅也が唐突にそんなことを言い、ジョッキに残っていたビールをおいしそうに飲み干す。
「なんだ、雅也。また惚気話か?」
「今日だけで何回目だよ。もう勘弁してくれって」
 他の二人があきれ顔で雅也を皮肉る。だが雅也のほうはまったく気にする様子もなく、自分の奥さんがいかに魅力的かを貴秋たちに力説しはじめた。
 雅也は合コンで知り合ったという同い年の女性と昨年結婚したばかりだ。新婚ほやほやでよほど浮かれているらしく、貴秋たちは今日も事あるごとに結婚生活の自慢話を聴かされていた。
 ちなみに苦笑を浮かべながら雅也の幸せ自慢を聴いている他の二人も、それぞれ付き合っている彼女がいるという。
(高校の頃はみんな女っ気なんてなかったのに、変われば変わるもんだな……)
 あの頃は縁遠かったリアルな恋愛話で盛り上がる友人たちを見て、貴秋は一人置いてけぼりをくったような気分になる。
 貴秋は今年で二十八歳になるが、女性と交際した経験が一度もない。もちろん女性経験も皆無で、二十八歳にしていまだ童貞だった。
 貴秋は学生時代から地味なタイプだった。極端に太っても痩せてもいないかわりに背もたいして高くなく、服装もパッとしない。冴えない見た目で運動神経も平凡、おまけに口下手で奥手となれば、学生時代にモテる要素はないに等しい。当然のごとく中高六年間、彼女の一人もできなかった。
 高校卒業後は地元を出て名古屋市内にある大学に進学した。サークルにも入っていたもののやはり浮いた話はなく、オフィス機器を扱う会社に就職してからも女性との縁には恵まれなかった。会社の同僚にはもちろん女性もいるのだが、仕事の会話以外でなにを話せばいいのかすら見当もつかず、誰かと恋愛に発展するなど夢のまた夢という状況だ。
 学生時代から合コンのような場は苦手だったし、マッチングアプリの類もなんだか怖くて利用したことがない。自業自得だが、出会いがないのも当然だった。
 大学の頃から名古屋で一人暮らしをしているが、本当に恋愛とは程遠い生活を続けている。風俗を利用することも考えたが、初体験はやはり好きだった女性としたい、という思いもある。誠実で清らか、と言えば聞こえはよいが、オナニーはほぼ毎日欠かさずしているわけで、聖人君子かと言われれば怪しいところだ。
 二十八歳なんてまだまだ若い。恋愛や結婚のチャンスなんていくらでもある。そんなふうに慰められることもある。でも、もう二十八歳だ。このさきもずっと童貞なのかと思うと、さすがにぞっとする。
(こんなことになるなら、高校時代からもっと積極的に女の子にアプローチしておくべきだった……。それでもしも宮下さんと付き合えていたら、彼女に童貞を捧げられていたかも……)
 ありえない話だとわかっていても、高校生の渚央と裸で抱きあう光景が脳裏をよぎってしまう。ふしだらな想像が膨らみ、貴秋の下半身にどくんと血が流れこんだ。
 横目で渚央の姿を盗み見ると、サマーニットを盛りあげる見事な双丘が視界に飛びこんでくる。カップサイズでいえばF、いやGくらいあるのではないか。どう見ても高校時代よりさらに成長している。
 スレンダーな体型のわりに大きな渚央のバストは、高校時代から男子にとって垂涎の的だった。セーラー服や体操着をこんもりと押しあげ、歩くたびにリズミカルに弾む双乳……そんな極上のお宝が事あるごとに目に入るのだからたまらない。しかも渚央はしゃべる相手に体を近づける癖があるのか、うまくすれば大迫力の胸元を至近距離で拝めることさえあった。高校生にとってはあまりに煽情的なその光景を瞼に焼きつけて、貴秋も当時、夜な夜な自慰にふけったものだ。
 いや、もっと言えば、今でもアダルト動画などを観て自分で慰めるときに、渚央の肢体が頭にチラつくことがある。なにせ人生でこれまで女性の裸をじかに見た経験がないから、なおさら思春期の妄想が頭に残っているのだ。
 高校卒業以来、十年振りの同窓会。貴秋は渚央に再会できることを、ひそかに楽しみにしていた。
(まあ、宮下さんとはまだ一言もしゃべれてないんだけど……)
 同窓会が始まってかれこれ二時間以上経つが、クラスの人気者だった渚央はずっと他の同級生たちに取り囲まれていた。彼女のまわりにいるのはみな、当時からクラスでも目立つ存在だった男女ばかりで、貴秋ごときが割りこむ隙はまったくない。だからこそ必死に耳をそばだてて、漏れてくる会話を盗み聞きするくらいしかなかったわけだが――。
 ふいに渚央と目が合った気がしたのは、貴秋が隣のテーブルの様子をチラチラと覗いていた、そのときだった。
(えっ――)
 驚いた貴秋はとっさに視線を逸らしてしまう。まさか、ずっと盗み見していたのを気づかれてしまったのだろうか。貴秋はおそるおそる視線を戻し、再度、渚央をうかがった。
 渚央はこちらを見ていなかった。しかし、彼女は両隣の同級生になにやら声をかけると、すっと腰を上げて席を離れた。そしてなんと、その足で貴秋がいるテーブルに近づいてくるではないか。
(ま、まさか、本当に覗き見がバレていたのか?)
 怒った渚央に気持ち悪いとひっぱたかれる場面まで想像し、貴秋は顔面蒼白になりかける。
 ところが渚央はすこしはにかみながら会釈をすると、ちょうど空席だった貴秋の隣に腰を下ろした。
「藤川君、ひさしぶり。ごめんね、突然」
 渚央はこぼれた髪の毛を耳にかけながら、貴秋に微笑みかけてくる。まるで美しい花が咲いたかのような甘美な香りがふわりとただよい、貴秋はそれだけでとくんと胸が高鳴った。
「い、いや、全然、大丈夫だけど……ど、どうしたの?」
 高校卒業以来、これが渚央との十年振りの会話だった。貴秋は緊張のあまり渚央をまともに見ることもできず、横目で雅也たちに助けを求める。だが彼らもまさか渚央が自分たちの元にやってくるとは思っていなかったらしく、一様にぽかんと口を開けて固まってしまっていた。
「あのね……藤川君にお願いがしたいことがあって」
 渚央も雅也たちには一瞥をくれただけで、なぜか貴秋の顔を覗きこんでくる。
(お、お願いって……宮下さんが、俺に?)
 いきなりのことで混乱し、うろたえることしかできない。渚央とはようやく言葉をかわせたところだ。高校生の頃だって貴秋が一方的に憧れるばかりで、渚央とはろくに話も――。
(いや、待て。これってあのときと……)
 上目遣いでこちらを見上げる渚央に、ふいに高校時代の彼女の面影が重なった。
『藤川君』
 渚央はあの日も、こんなふうに貴秋を見つめてきた。そして、すこし照れたような表情を浮かべて、こう言ったのだ。
「もしよかったらさ、今日、一緒に帰らない?」
 大人になった渚央が口にした台詞は、くしくもあのときとまったく同じものだった。

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