大切な幼馴染・音野舞香と、「慰め」のセフレ関係にあった俺。
だが、彼女の親友のギャル・氷崎麻美とも一線を超えてしまった。
すべてがバレると、親友同士の二人が俺を取り合いギスギスしはじめた。
今の歪んだ関係を終わらせるため、俺は舞香に気持ちを伝えようと決意する。
舞香とのすれ違いの元凶だった「キス」を今度こそ交わそうとした瞬間、
俺の心に浮かんだのは──なぜか、麻美の顔だった。
いつの間にか、好きが増えていた。慰めックスノベル、煩悶の第3巻。
プロローグ
第一章 変化
第二章 二人の氷崎
第三章 世界で一番幸せなお遊戯
第四章 プールサイド
エピローグ 親友
本編の一部を立読み
プロローグ
『……で、結局それからどうなったんだよ?』
夕暮れの修羅場の後、私は友達の來花《らいか》に電話をしていた。
「それがね、その子ったら、何も言わずに帰っちゃったのよ」
『は、はぁっ!? そりゃないだろっ、そんなタイミングで帰るとかっ』
私の返答に対し、來花はガサツな口調で喚き散らす。
來花――彼女は私の中学時代のギャル友達である。
『けど、しばらく連絡取らねぇうちに麻美《あみ》がそんなことになってたなんてな』
來花は興味津々な様子で話の続きを催促する。
――それは先ほど、恭助《きょうすけ》君の家で起きた時の出来事。
学校のクラスメイト、私の一番の親友、音野舞香《おとのまいか》。
そして、そんな彼女の幼馴染である吾川《あがわ》恭助君を巡ってのことである。
恭助君は舞香に対し、淡い恋心を抱いていた。
そして、それはおそらく舞香の方も同様だろう。
私が見る限り、二人はまごうことなく両想いであった。
しかし、舞香はそんな恭助君の気持ちから目を逸らすように、恭助君ではない別の男子と手あたり次第に付き合うという悪癖を持っていたのだ。
(でも舞香の気持ち、分からないわけでもないのよね)
本命の彼に意識してほしい一心で別の人との関係を仄めかし、男性の嫉妬心を煽るのは恋愛の常套手段とも言える。
だけど、舞香達には一つ、深刻な問題があった。
恭助君と舞香は「とあるきっかけ」が原因で恋人同士になれるチャンスをふいにしてしまったのである。その末に、友人とも恋人とも言えない距離感を続けた結果、二人は――。
いわゆる『セフレ』の関係になってしまったのであった。
『っていうか麻美、元々付き合っていた男とはどうなったんだよ? 例のアイドルだか何だかやってるイケメンの彼氏。名前忘れたけど』
「ああ、もうとっくに別れたわよ、あんなフナ虫男」
しかし、問題はそれだけじゃ終わらない。
恭助君と舞香、二人の関係を知った私は、舞香に内緒で恭助君にとある協力をしてもらっていたのだ。
その結果、私はろくでなしの彼氏と無事に縁を切ることが出来たのである。その間、私は恭助君と共に過ごし、気付いた時には――。
私は、恭助君に真剣な恋をしてしまっていた。
彼への恋心を自覚して以降、私は舞香と同じく、様々な理由を付けて恭助君に性行為をねだるようになったのである。
『けどその男、マジでどうしようもねぇヤリチンだな? その女だけじゃなく、麻美とまでセフレ関係になっちまうだなんて』
「ちょっとっ! 彼のことは悪く言わないでよねっ」
一応、來花には二人の名前を伏せて会話を続ける。
恭助君に恋をし、気持ちが大きくなり過ぎた結果、私はついに彼と舞香の淫らな関係に自ら足を突っ込んでしまったのである。
──ウチ、恭助君のこと、絶対彼氏にするつもりだから。たとえ恭助君が舞香のことを好きだとしても、いつか絶対にウチの方に振り向かせるから……っ。
私は舞香に、宣戦布告するかのように言い放ってしまったのだ。
それが、ついさっきまでの出来事。
『はぁ、何か色々とめんどくせぇな』
來花はぶっきらぼうに言い捨て、あからさまにため息をつく。
「そうなのよ、めんどくさいのよ、恋って」
『うわきもっ、麻美ってそんなキャラだったっけ?』
そう言って、來花はケラケラと愉快そうに笑う。
「笑い事じゃないわよもうっ、ああどうしよう、明日からどんな顔して二人に会えばいいのかしら……」
これからのことを想うと少し憂鬱だった。
舞香に……親友にあんな啖呵を切ったのだ。もう今まで通りの関係を続けることは不可能だろう。
(舞香、きっと私のこと、怨んでるでしょうね)
途端に胸がずーんと重くなり、じくじくと痛みだす。
『まぁ、そんなに難しく考えなくてもいいじゃね?』
すると、電話の向こうで來花が軽く呟いた。
『私、バカだからよく分かんねぇけどよ、要はその野郎のこと、自分のものにしたいんだろ? だったらもう、そいつがその気になるまでひたすらアタックしまくればいいだけの話じゃねぇか。知らんけど』
「知らんけどって、あ、あのねぇ來花」
バカだからよく分かんねぇけどよーみたいな語り口で本当にバカみたいなこと言われると軽く困惑してしまう。私は頭を抱えながら小さく笑いを漏らした。
『恋愛の駆け引きなんて私には分かんないけどさ、とりあえず、野郎のことが本気で好きなら、他の女に気を遣ってる場合じゃねぇだろ?』
「そ、それは、そうだけど」
來花が言うほど、簡単には割り切れない。
宣戦布告したとはいえ、舞香は私の親友だ。
恭助君を好きになるということは、彼女と対立するということ。
舞香と、親友ではいられなくなるということだ――。
(覚悟してたことだけど、やっぱり辛いよ、これ)
『ガチで好きなんだろ? その男のこと』
そこで、來花は念を押すように問いかける。
「……うん、好き」
『だからその女に、面と向かって啖呵切ったんだろ?』
來花は私の気持ちを再確認させるかのように一つ一つ丁寧に問いかけ続ける。それに対し、私もまた一つ一つ小さく頷いて返した。
そう、本気で好きだからこそ、私は舞香に言い放ったのだ。
恭助君のことを、舞香から奪うって。
『じゃあ、もう迷うんじゃねぇよ』
この時の來花の声は、普段のぶっきらぼうで能天気な彼女からは想像もつかないほどに真剣であった。私は電話越しに思わず背筋を正してしまう。
『まぁ、私は麻美と違って頭悪ぃから、ろくにアドバイスも出来ねぇけどな』
すると、來花はそれまでの凛とした口調を崩し、いつものようにガサツな笑い声を上げた。その気さくな声に、私は小さく首を振って答える。
「そんなことないよ、來花」
こういう時、來花のような友人が身近にいるのはとてもありがたい。
ごちゃごちゃと余計なことを考えずに、ただ一つのシンプルな答えを教えてくれるから。
『まぁ、また進展あったら連絡してくれ。麻美のこと応援してやっからさ』
「ええ、ありがとう、來花」
來花との通話を終え、私は静かに息をつく。
「迷うな、かぁ」
ソファーに顔をうずめ、來花に言われた言葉を反芻する。
それと同時に、楽しそうに笑う舞香の顔を脳裏に思い描いてしまい、再び胸がズキズキと痛むのを感じた。
(恋をするって、何でこんなに辛いんだろう)
だけど、この胸の痛みに背くことだけはしてはならない。
「だって私、本気で恭助君のこと、好きだもん」
私はこれから、舞香から恭助君を奪うのだから――。
來花の言う通り、決して迷ってはいけない。
たとえ大親友である舞香の笑みを曇らせることになろうとも。
これだけは譲れない。譲ってはいけない。
しんと静まり返った部屋で、私は何度もそう自分に言い聞かせ続けた。
第一章 変化
その日、事件が起きた。
早朝、舞香が学校に登校する最中、男子生徒がお遊びのつもりで舞香に「俺と付き合わない?」と声をかけてきたのだ。
舞香には、告白されたら誰とでも付き合うという悪い癖があった。
それは他の生徒達の間でも有名な話であり、それを面白がった連中が毎度の如くゲーム感覚で舞香に告白をしてからかうという、何とも嫌な流れが出来てしまっていたのだ。
だが、そんな野郎の告白に対し、舞香は――。
「ごめん、今はちょっと無理」
「……へ?」
なんとその日、ついに舞香が男子からの告白を拒否したのである。
「うっ、嘘だろっ!? 音野さんが、男を振ったぞっ!?」
「これまでどんな奴から告白されても二つ返事でOKしてたのにっ!」
舞香は誰の告白も断らない。嫌な言い方になるが、男子連中にとって舞香は「誰とでも付き合う軽い女」として周りから目されていたのである。
そんな舞香が、本日、初めて「NO」を宣言したのだ。
――確実に、俺達の日常が変わろうとしている。
『舞香から、吾川君のこと、絶対に奪ってみせるから』
氷崎《ひょうざき》に略奪宣言をされたあの瞬間から、俺達の停滞しきっていた『セフレ関係』という名の物語が、音を立てて進みだしたのだ。
・・・
早朝、俺は一足先に登校していた舞香と目が合った。
「……」
だが、舞香は何も言わず、自分の席に座ったまま無言で携帯を弄っていた。いつもならここで「ちょっと恭助っ」と溌溂とした声を上げて俺に抱き着いてくるはずだが――。
『わ、私はっ、恭助のことが……っ!!』
あんなことがあった以上、何もかもこれまで通りというわけにはいかないだろう。俺はすれ違いざまに「お、おはよう」とぎこちなく声をかけたが、舞香は無言のまま、静かにこくっと頷いて返すのみであった。
(ああ、舞香になんて声をかければいいか分からねぇ)
気まずい空気が二人の間に流れ続けている。そのせいか、中学時代、お互いに疎遠になった時期を思い出してしまう。
舞香は時折、俺の顔を窺うようにちらちらと視線を向けてくるが、声は一切かけてこない。どうにも息苦しい時間が続いた。
だが、そんな時であった。
「おはよー恭助君っ♡」
「う、うぇっ?」
唐突に、可愛らしい猫なで声が教室内に響き渡ったのだ。
声の主の方に振り返ろうとした途端、俺の背に、ふんわりと身悶えするほどに心地良い感触が広がった。
「ちょ、ひょ、氷崎っ!?」
なんと氷崎が、登校一番に俺の背にハグをしてきたのである。その様子を見て、これまで微動だにしなかった舞香がぎょっとしたような表情を浮かべた。
「ど、どうしたんだよ氷崎?」
明らかに様子がおかしい。氷崎は何処までも甘えん坊な表情で抱き着き、俺の首筋にすりすりと頬ずりをしてみせたのである。
しかも、公然と俺のことを名前呼びして――。
「んふふっ♡ 何よ恭助君ったら、恥ずかしがっちゃって♡ ウチと恭助君の仲じゃんっ♡ ほら、おはようのハグっ♡ むぎゅーっ♡」
(うっ、うわわわっ、ああ氷崎のおっぱいが、俺の背中にっ)
弾力のある二つの膨らみが背中にむぎゅっと押し付けられる。氷崎の甘い色香に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
周りの生徒達が唖然とした表情で俺達の方を凝視する。
元々、俺と舞香、そして氷崎の三人はクラス内でも仲の良い三人として見られていたが、それはあくまでもクラスの美人ギャルが教室の隅にいる陰キャをからかって楽しんでいるという形で目されているに過ぎなかった。
……だが、氷崎のこれは明らかに違う。クラス内の友達同士という説明だけで済むような態度ではない。
彼女はクラスのカースト上位、誰もが羨む一軍ギャルなのだ。
そんな彼女が、朝っぱらから俺の背におっぱいを押し当て、まるで恋人と接するような声で甘えてきたのだ。これは、ある意味「事件」である。
しかしそこで、氷崎は更に蠱惑的に微笑み、周りの皆にも聞こえるほどの声で言葉を続けた。
「ねぇ恭助君っ♡ 今日、学校終わったら恭助君の家に行っていい? 一緒にお家デートしようよ♡」
「ちょ、あ、あばばっ、ひょ、氷崎っ!」
その大胆過ぎる発言に、いよいよ生徒達が困惑、というより悲鳴に近い声を上げてしまう。氷崎は舞香と並び、学園内でも一、二を争うほどの美人なのだ。当然、男子連中からの人気もかなり高い。
「きゃーっ、麻美ちゃんと吾川君ってそういう仲だったのっ!?」
「嘘だろ、氷崎さん、吾川と付き合ってたのかっ?」
「ま、マジかよ氷崎さん、どうしてよりにもよって吾川なんだっ」
そんな氷崎が、あろうことか皆の前で俺に熱烈なアプローチを仕掛けているのである。途端、俺はクラス内の男子生徒に無言の敵意を向けられてしまう。
「ど、どうしたんだよ氷崎、急にそんな」
俺はざわざわと立ち込めるクラス内の雰囲気に動揺しつつ、氷崎に問いかける。しかし、氷崎は俺の身体にギュッと抱き着いたまま、ぽっと頬を赤らめた。
「別に普通のことでしょ♡ だってウチら、ラブラブなんだし♡」
再び、教室内に黄色い声と悲鳴が交差する。氷崎は決して冗談で言っている様子はない。にんまりと可愛らしい笑顔ではあったが、その目の奥は何一つとして笑ってなどいなかった。
だが、そこで流石に我慢出来なくなったのか――。
「はっ、はああーっ!? ちょっと麻美ちゃんっ、何言ってんのよっ!?」
これまで沈黙を貫いていた舞香が、鼻息荒く声を上げた。
その途端、氷崎はデレデレとした表情を改め、すんっと不機嫌そうな顔を浮かべてしまう。
「あーん? 何よ舞香、いたの?」
「ぐぐぐっ、わ、わざとらしい」
舞香はずんずんと氷崎の方へにじり寄り、氷崎の豊満なおっぱいに向かって自分の乳房をぶるんっと押し付ける。完全に一触即発の雰囲気であった。
「ちょっと麻美ちゃん、い、いくら何でも露骨過ぎないかしらっ? こんな朝っぱらから、恭助の家に行きたいだなんて、破廉恥よ破廉恥っ!」
突然の氷崎の変貌、そこに舞香が加わったことにより、いよいよ教室内が混沌とした喧騒によって包まれた。その騒ぎの中心で、俺はどうすることも出来ず、ひたすら二人の顔を交互に見つめ続ける。
しかし、舞香に詰め寄られながらも氷崎は余裕の表情で言い返す。
「別に普通のことでしょ? だってウチ、恭助君にガチラブだもん♡ んふっ♡」
「何その『んふっ♡』って笑い方っ! は、腹立つ~っ!」
ピリピリとした空気の中、舞香はそこで俺の方をキッと睨みつけてきた。
「ちょっと恭助っ、黙ってないでアンタも何か言いなさいよっ」
「……んふっ♡」
俺は無理やり場を和ませるつもりで氷崎の笑い方を真似てみる。途端、舞香は更にヒートアップしたかのように顔を赤く染め上げた。
「恭助まで何よその笑い方っ!! キモいから金輪際しないでっ!」
「ふははっ、ちょっ、恭助君、それやめて……っ」
このままここで喧嘩をされるなんて御免だ。
「と、とりあえず二人とも、落ち着いてくれっ」
俺はふざけた態度を改め、どうにか二人を宥めようとする。
「うるさいバカ恭助っ! 誰のせいでこうなってると思ってんのよっ!」
「そうよそうよっ、恭助君は黙っててっ!」
だが、なおも二人は睨み合う。ギスギスとした雰囲気の中、俺はこれまでの平和だった学園生活を思い出し、途端に苦しくなってしまう。
(ぜ、全部俺のせいだ。俺のせいで、舞香と氷崎が……っ)
全部、俺の意気地のなさが原因である。
舞香に自分の想いを伝えず、彼女を慰めるという名目で性行為をする、いわゆる『セフレ』の関係になってしまったことが全ての始まりだ。
しかもそれだけじゃなく、性格最悪なクソ彼氏から助けるためとはいえ、俺は彼女の親友である氷崎とも関係を作ってしまったのだ。
こんなの、いくら何でも許されるわけがない。
「舞香、氷崎、お、俺は」
もういい加減、この歪な関係に対し、落とし前をつけなくては――。
だが、そこで。
「……ごめん、ちょっと待って」
そのタイミングで、氷崎の携帯に着信が入ったのである。舞香との言い合いの途中、氷崎は俺らに背を向け、そのまま通話に出る。
「お世話になっております、はい、先日はありがとうございました」
通話に応じる氷崎はいつもより畏まった口調をしていた。その様子に、先ほどまで怒り心頭であった舞香も思わず困惑してしまう。
やがて、数回ほど相槌を打った後、氷崎は慎ましく通話を切る。
「氷崎、誰からだったんだ?」
「ああ、ちょっとバイト先からね」
初耳だった。氷崎、一体いつの間にバイトなんて始めたんだ?
すると、氷崎は申し訳なさそうにじっと俺の方を見やってきた。
「ごめんね恭助君、今日はちょっと外せない用事が出来ちゃった」
お家デートは、また今度ね♡ 氷崎は名残惜しそうに小さく耳打ちをする。流れからして、おそらくそのバイト先から出勤するように言われたのだろう。
だが、氷崎は続けて舞香に釘を刺すように言い放つ。
「舞香、私がいない間に恭助君に変なことしないでよね?」
まるで自分の所有権を主張するかのような物言いだった。その言葉に、舞香は再度わなわなと憤慨したように唇を震わせてしまう。
「へ、変なことって何よっ、あ、麻美ちゃんのスケベっ!」
縄張り争いをする猫のように舞香と氷崎はシャーシャーと威嚇し合う。
――そのタイミングで、ようやくホームルームの予鈴が鳴り響いた。
「ぐぐぐっ」
「むぅーっ」
それきり、舞香と氷崎はむすっとしたまま離れてしまう。二人の不和に、俺は顔を真っ青にして頭を抱え込んだ。
「吾川っ、てめーどういうことだっ!? 学校の美人ツートップに取り合いされるなんてっ! この野郎ぶっ飛ばしてやるッ!!」
剣呑な雰囲気が漂う中、俺はクラスの男子連中にボコボコにされつつも、頭の中では全く別のことを考えてしまっていた。
(ど、どうすればいいんだ)
全部、俺のせいである。俺が意気地なしで、優柔不断だから。
このままではまずい。俺のせいで二人の友好関係が決裂するなんて――。
ホームルームの時間になり、担任が教室内に入ってきたところでようやく俺は男子連中からの詰問から解放される。
だがそのタイミングで、唐突に携帯にメッセージ通知が届いた。
メッセージの相手は、舞香からであった。
『恭助、放課後、ちょっと付き合って』
氷崎から釘を刺された直後だというのに、舞香は意にも介さず、速攻で俺に予定を取り付けようとしていたのだ。俺は静かに舞香の方に視線を移す。
「むぅ……っ」
舞香は頬を膨らませ、恨めしそうにじっと俺の方を見つめていた。いたたまれない気分になりながらも、俺は無言のまま舞香に返信を送る。
『ああ、分かった』
簡潔に返し、そのまま何食わぬ顔で教師の話に耳を傾け続ける。
……これ以上、舞香と氷崎がいがみ合う姿など見たくない。
一度、舞香とじっくり話し合う必要がある。
そろそろ、自分の気持ちをはっきりさせなくては。
――俺は、舞香が好きだ。
幼少期の頃からずっと、俺は彼女に惚れていた。
(俺自身、ケジメをつけないとな……)
これ以上、俺の不義理で舞香と氷崎を傷付けるわけにはいかない。
放課後に控えている舞香との逢瀬に備え、授業を受ける間、俺はゆっくりと自分の中で気持ちを整理し続けたのであった。