今夜、義母と

著者: 懺悔

本販売日:2026/08/21

電子版配信日:2026/09/04

本定価:935円(税込)

電子版定価:935円(税込)

ISBN:978-4-8296-4893-3

「こんなに硬くしたままじゃ眠れないでしょ?」
一人暮らしの幸樹の部屋、息子の股間に顔を埋める義母。
麗しい唇に導かれ、禁忌の白濁が口内に放たれていく。
亡き実母を想う幸樹、葛藤ごとすべてを受けとめる花織。
「私のこと、お義母さんとして認めてくれてるのかな?」
エース作家が描く危険すぎる初夜──義母小説の決定版!

目次

プロローグ 屈折

第一話 暴発

第二話 青い性

第三話 許し

第四話 浴室

第五話 わがまま 

最終話 義母さん

エピローグ 繋がり

本編の一部を立読み

プロローグ 屈折

 大学の前を通る県道の街路樹が、薄っすらと赤みを帯び始めていた。夏の気配が完全に消え去ろうとしている。
「幸樹は就活いつから始める?」
 隣を歩く学友の質問は先ほどまで行われていた六限目の講義の影響か気だるげだ。真っ暗な空には三日月が浮かんでいる。
「もう始めてる」
「早いな」
「そんなことは無いだろ。もう二回生の後半なんだから」
「しっかりしてるな。お前は。それに比べて俺は就職や大学よりも彼女との喧嘩をどう収めるかで頭が一杯だよ」
「良いんじゃないか。それも青春だろ」
「他人事だと思って」
 友人は肘で軽く小突いてきたが、俺としては茶化したつもりはない。結局のところ人生の楽しみ方は人それぞれだ。恋愛を重視することを馬鹿にしたりなどはしない。
「幸樹は彼女とか作んねーの?」
「出会いも無いしな」
「結構女子からの評判良いんだぞ。落ち着いてて頼もしいって。見た目も清潔感があるし」
「初めて聞いたよ」
「お前、無口だから近寄りがたい雰囲気あるんだよ。出会いが無いとか言ってないで、自分からがつがつ行けよ」
 異性や恋愛に全く興味が無いわけではない。しかし……。
「今はそういう気分じゃない」
「ふーん。俺はそういう気分じゃない時が無かったからよくわからんな」
「常に発情していられるのは生物として合理的だ」
 俺の冗談に友人が愉快そうに笑う。
「確かにその通りだ。でもやっぱり今の彼女との関係は疲れてきたな。お互いに幼稚すぎる」
「自分も?」
「そう。俺も。だから相手は大人な女性が良いと思うようになってきた。年上の社会人で、如何にも仕事のできそうなキャリアウーマンな美人」
「それこそどこで出会うんだよ」
「この星には何十億人も女が居るんだから、石を投げれば当たるだろ。大事なのは石を投げる熱意だよ」
 俺にはその熱意は無い。そう口にしようとすると、友人がまた俺を肘で突いてきた。
「ほら見ろ。言ってるそばからすぐに見つけた」
 彼の口調は高揚を増している。
 その視線を追うと道端に停まったスポーツ用多目的車、いわゆるSUVに背中を預けて立っているスーツ姿の女性が目に映った。
「ああいうのが今の俺の理想だな。しっかりと女性らしい、それでいて知的なショートカット。かっちりとしたスーツ。美しい目鼻立ち。最高じゃん」
 その言葉は全て俺の耳を通り過ぎていく。
 思わず足を止め、引き返したくなった。
 その前に、彼女は俺に気付いて手を振る。
「おーい。コウ君。お疲れ様」
 苦々しい表情を浮かべて舌打ちをした俺に、友人は訝しげに声を掛けた。
「……お前のこと呼んでるぞ」
 俺が黙って足を止めると、友人もそれに倣う。
「……幸樹の知り合い?」
「……一応」
 俺が微妙な反応を返した所為か、友人は変に勘ぐってしまった。
「まさか……彼女?」
 俺は早口で否定する。
「そんなわけあるか!」
「じゃあ、お姉さんとか?」
「……それも違う」
「じゃあ何だよ」
 そんな問答をしている内に、ショートカットでスーツ姿の女性が俺達の前に歩み寄っていた。
 そして彼女は友人に向かって、澄ました微笑みで会釈をしながら言う。
「どうも。幸樹の母です」
 友人はまるで雷に打たれたかのような驚愕を見せた。
 しばらく硬直した後に、信じられないといった様子で俺に囁く。
「……いやいや。冗談だよな? 若すぎだろ」
 その声が聞こえていたのか彼女は落ち着き払った様子で弁明した。
「ああ、いえ。私は義理の母なので」
 友人が気まずそうに俺の横顔をうかがっている。彼は俺の家庭事情までは知らない。そして一瞬の間を置いて、場を取り繕うように言った。
「な、成程。いやぁ、驚きました。おい。幸樹。こんな綺麗なお義母さんが居るなら言ってくれよ」
 言ってどうなる。その指摘は口に出さない。その代わり、俺は淡々と言葉を紡いだ。
「ただの親父の再婚相手ってだけだ」
 平坦な口調に、露骨な俺の感情を乗せる。それは友人には伝わっておらず、彼女にだけ敵意を以ってぶつけられた。
 しかし彼女も平然としている。
 外面向けの品が良い微笑みを浮かべると、改めて友人に向かって軽く頭を下げた。
「火浦花織と申します。いつもうちの幸樹がお世話になっております」
 友人も慌てて頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ」
 彼女は俺に顔を向けた。
「それじゃコウ君、帰ろうか」
 俺は視線を合わさずに即答する。
「コウ君って言うな。あとどこに帰らせようとしてるんだ」
 俺は大学への進学を機に一人暮らしをしていた。
「コウ君のアパートだよ」
「ついてくるな」
「前から言ってるじゃない。ちゃんと生活できているか様子を見に行きたいって。修司さんも心配してるわよ」
 修司とは俺の父親である。
「なら自分で見に来いクソ親父って言っておけ」
「修司さんは家事ができないから。部屋が散らかってたり、不摂生な食事をしているようなら私が適任でしょ?」
「要らんお世話だ」
「お盆も実家に顔を出さないじゃない」
「母さんの墓参りには行ってる」
 花織さんは常に理知的である。逆に俺はどんどんと感情的になっていった。
「そうじゃなくて、元気な顔を修司さんに……」
 俺は言葉を遮り、歩き出しながら冷たく吐き捨てる。
「何度も言ってる。母親面するな」
 苛立ちを隠せない早足でその場を去ろうとする俺の腕を彼女が掴んだ。
「いいえ。させてもらうわ」
 思わず振り返ると、花織さんと視線が合う。
 力強い瞳。勤めている大手商社にて三十五歳で課長に昇りつめた彼女には、頑強な精神も備わっていた。
 その不敵な笑みの前では、俺はまだ二十歳そこそこの子どもだと思い知らされてしまう。
 思わず気圧された。
 そんな自分に舌打ちをしながらも、その腕を振り払うことができない。
 友人が気を使うようにおずおずと口を挟んで来た。
「あの~。じゃあ俺はここで失礼するんで……じゃあ幸樹、またな」
 俺の返事を待たず、友人はさっさと駆け去っていく。
 その場に残された俺と花織さん二人を街灯が照らしていた。
 ため息をつくと渋々と俺の方から折れる。
「……分かったよ。部屋を覗いたら帰れよ」
 花織さんはにこやかな笑顔を浮かべながら俺の腕を離した。
「約束はしかねるわ」
「……ふざけるなよ」
「大人は軽率な約束はしないの。これ、母親の教えその壱ね」
「……だから母親面するなって」
「何と言われようとも、させてもらうわ」
 彼女は普段通りのぴんと背筋を伸ばした姿勢で、どこか愉快そうに言った。
 この人には何を言っても無駄なのは短い付き合いながらも重々承知している。それでも言いたくなるのだ。
「コウ君が独り立ちできないと、梨花さんに申し訳ないもの」
 その言葉は多少なりとも俺を苛立たせる。俺の本当の母親の名前をよりにもよって彼女から聞くのは胸がざわついた。

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