スポーツブラでは収まりきらない豊かな乳房。
引き締まった下腹部と美しい曲線を描く魅力的な腰まわり。
端麗な容姿のボーイッシュ武道少女・安達蒼依は罠に嵌められ、
祖父の道場を守るため、年下の少年・幸哉に身を捧げることに……
一番に案じてくれる幼馴染の太一の声も彼女には届かず、
必死の抵抗とは裏腹に敏感に反応してしまう瑞々しい身体。
女の悦びを教え込まれた先に、蒼依を待つ運命とは……
舞条弦が放つ超人気シリーズ、待望の新章、堂々開幕!
プロローグ
第一章 淫夜の幕開け
第二章 乙女は雨夜にやぶれて
第三章 奴隷牝の日常
第四章 お姉ちゃんは共有オナホール
第五章 お姉ちゃんはオナペット
第六章 屈伏するマゾの身体
エピローグ
本編の一部を立読み
プロローグ
毒々しい青紫色に塗り潰された空の下、横転したバスの陰から男がぬぅッと姿を現す。ボロボロの服を纏う男は「ああ、ああ……」と呻き声をあげ、両腕をだらんと前に伸ばし、こちらへ近づいてくる。俺はライフルを構えて、銃口を男――ゾンビの頭部に向ける。残弾は少ない。外せば、次に迫るゾンビの群れに対処できないだろう。俺は慎重に引き金を引いた。
だが、銃弾がゾンビの頭部を貫くことはなかった。発砲の直前に激しい爆発音が響く。ガソリンの入ったタンクが爆ぜたのだ、俺が狙っていたゾンビも爆発に巻き込まれ、炎上しながら吹き飛ぶ。「やりぃッ」と、ベッドに座る幼馴染が歓喜の声をあげた。
「おい、蒼依。爆発ギミック打つの早ぇよ。ゾンビ二体しか巻きこめてないぞ。弾も、もっと節約しろって」
「ねちねちうるせーなぁ。お前は母ちゃんかよ。大丈夫だって。見てろよ」
「あ、おい。あんま一人でズンズン行くなって。――ったく、全然人の話聞かねーな、ほんと」
蒼依の操作するキャラが前に進んでいく。俺はコントローラを握りなおして、ライフルを構えた。高台に陣取っている敵ゾンビの頭を打ち抜き、幼馴染を支援する。刀を構えた蒼依のキャラが、ばっさばっさとゾンビを斬り捨てていく。だが、銃でゾンビを倒すゲームでそんな無茶が押し通るわけもない。
「あッ」
刀の耐久度が限界を迎え、ボキッと折れる。直後、蒼依のキャラがゾンビに噛みつかれた。バスが邪魔でライフルの弾が届かない。キャラの悲鳴がテレビから響きわたった。
「だー、負けた! くそ!」
蒼依はベッド上にごろんと転ぶ。ボスッと音がして、ふわりと甘い匂いが舞う。向かいの家に住む幼馴染は、風呂を済ませてから我が家へ遊びに来ている。その影響もあって、清潔感のある柔らかな香りを全身に纏っていた。女の子の香りが鼻を撫でて、俺はドキリとする。
「くそ、もう一回だ、もう一回。今度はマジモードでゾンビをボコす。集中しろよ、太一」
「お前こそ、今度はちゃんと計画的に戦えよ」
「へいへい、わーったよお母さま。仰せのままに」
「誰がお母さまだ」
コンティニューを押し、再開する。今度は余計な会話はなし。口を噤み、黙々と操作に集中する。蒼依も本気モードだ。柔道で培った集中力を発揮して、今度は丁寧にゾンビの群れを攻略する。先ほど死んだ場所も難なく突破した。
「おれが本気を出せば余裕だな。ちょろすぎ」
「さっき死んだやつがよく言うよ。俺の支援なかったら三回は死んでるぞ」
「後ろでチマチマ打ってるやつがエラそーに。もっとガンガン前に来いっての」
「お前はもっと役割分担を意識しろって。協調しろ、協調。柔道歴何年だよ。自他共栄の精神はどうした」
「うぜー。じいちゃんと同じこと言いやがる。いいんだよ、おれは団体戦出ねぇし」
棘の生えたボールを投げ合うように軽口を叩きあう。幼馴染歴十余年ともなれば、やり取りや関係性は兄弟姉妹のようになる。これが、俺たち二人の日常的な会話だった。
「なあ蒼依、最近、どうなん?」
「んー、どうって?」
「柔道場のこととか。うまくいってるのか?」
「あー、道場ねぇ」
蒼依の整った横顔に苦々しい感情が浮かぶ。蒼依の祖父は柔道場を経営していた。両親が共働きなのも相まっておじいちゃんっ子の蒼依は、幼い頃から道場に通っている。今も、週に三、四回の頻度で足を運んでいるはずだ。ただ、その道場の経営が芳しくないらしい。
「おじいさん、身体の具合よくないんだろ。大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。代わりに、おれが稽古つけてるし。こう見えてガキどもに人気なんだぜ?」
「でもお前、子供嫌いじゃんか」
「嫌いじゃなくて、大嫌いだよ」
画面の中で新たなゾンビの群れが出現する。蒼依は先ほどよりも荒っぽくキャラを動かしていた。銃を構えず、近接武器だけでゾンビと相対する。
「あのクソガキども。ぎゃあぎゃあ喚くし、日本語通じねーし、おれの言うことちっとも聞きやしねぇ。あいつらが怪我したらこっちの責任になるっつうのに、好き放題道場を走り回ってよ」
語気が荒々しくなるのに合わせて、蒼依のキャラも動きが激しくなる。ダメージに構わずバットを振り回すさまを、俺はライフルのスコープ越しに眺めて、適宜援護する。
「あいつら、犬かよ。いや、犬のほうがまだ可愛げがあるね。親の躾が悪いんだ。甘やかしやがってよ。一度、痛い目見ないとダメなんだよ、ガキってのは。おれが子供の頃なんて、廊下を走っただけでじいちゃんにぶん投げられてたぞ」
蒼依のキャラが出血多量でふらつく。すぐに治療しなくてはいけない。俺は梯子を下りて支援に向かう。武器を拳銃に変え、接近する敵を倒しつつ、蒼依の元へ向かう。
「あと、アレだな。一番キモいのがよ、あいつら、おれのことエロい目で見やがるんだ」
「エロ……えっ、なんて?」
動揺して照準がずれる。弾丸が虚しく空を切った。飛行型のゾンビに喉を噛まれる。なんとか蒼依の下に辿りついて、治療薬を使用する。
「あのエロガキども、おれの身体じろじろ見てくるんだよ。胸とか、ケツとかな」
「いや、胸とか尻とか見てくるって……それ、大丈夫なのかよ」
「なんの心配してるんだよ。おれがガキにレイプされるとか思ってンのか?」
「レイプって……いや、そんな物騒な想像はしてないけどさ」
蒼依は年上の男三人と一人で喧嘩して勝ったことがある。だから、別に蒼依の心配はしていない。……ただ、少し、ムカつく。クソガキどもめ。人の幼馴染をエロい目で見るなよ。
……まあでも、気持ちはわかるけれど。
ゲーム画面から視線を外し、幼馴染の身体を盗み見る。発達した二房の果実が、白いスポーツブラに魅惑の傾斜を形作っていた。その下にはくびれた下腹部が覗いている。腹筋の陰影がちらちら見えるほど引き締まった腹は、しっとりと汗ばんで、官能的な照りを帯びていた。
「だー、くそ。コイツ攻撃モーション多すぎだろ。読めるかっての」
蒼依はぶつぶつと呟き、コントローラを操作する。その間も俺は幼馴染の輪郭を視線でなぞった。
蒼依の恰好はスポブラに赤い上着、それと黒いホットパンツだ。短い丈のパンツから伸びる脚に贅肉はない。それなのに、胸や腰周りは女性的な丸みがあって、強い色香を感じる。季節によって程度の差はあるが、蒼依の肌はスポブラとスパッツの形に沿ってほんのりと小麦色に焼けていた。その健康的な肌の色味が、やたら艶めかしく映った。
「なぁ、おい。ゲームオーバーだぞ。……太一?」
「あ、ああ、すまん。ぼうっとしてた。えっと、どうする?」
「そうだな。そろそろ違うゲームすっか。漁るぞー。エロ本とか隠してねーよな?」
「隠してねーよ。だいたいお前、いつも俺の部屋好き勝手に漁ってるだろうが」
幼馴染はベッドを下りて四つん這いになると、テレビの下にあるゲーム棚を物色し始めた。目の前で、悩ましいヒップが右に左に揺れる。尻に持ちあげられたホットパンツの先から、日焼け跡の境目がちらりと覗く。穢れのない雪肌と、薄褐色の肌が生む白黒のコントラストが、酷く煽情的に感じた。
「なぁ、太一。さっき、ガキどもにエロい目で見られてるって言ったよな。それ、どういう目か教えてやろうか?」
牝豹が牡を誘うようなポーズを維持したまま、蒼依は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「今のお前みたいな目だよ」
「な……ッ」
「お前、さっきからエロい目で見てるのバレバレだからな? なに発情してんだよ、ばーか」
「い、いや……発情とか、してねーし。てか、お前をエロい目で見るとか、ありえないっての。男だか女だかわからねぇ幼馴染に欲情するかよ。自意識過剰なんじゃねーの?」
焦って早口で言う。嘘丸出しだ。俺は熱くなった顔を背けた。
「くくッ、お前ってほんと嘘が下手だよなぁ。別にいーって。おれは最高に可愛くてエロいからな。思春期くんが欲情するのも当然だよ、うん。思う存分、おれでシコッていいぞ」
「シコ――ッ、し、しねーよ、ンなこと」
これも嘘だ。俺は蒼依の写真を何枚も所持していて、それで夜な夜な自分を慰めている。両手足の指ではとても足りないほどに、幼馴染でオナニーしていた。
「お前、そういうからかい方、やめろって。なんか、気まずくなるだろーが」
「気まずい? 今更何を言ってんだよ。別に気にならねーだろ。それともアレか? お前、おれのことが好きなのかよ。だから、シコるとか言われて照れ臭くなってんのか?」
「そ――」そうだよ。俺はお前のことが好きだよ。だから、冗談でもシコるとか欲情とか、言わないでくれよ。誘われてると勘違いして、襲いそうになるんだよ。今だって、尻を向けるのやめろよ。俺が脳内で何回、お前の尻に腰を打ちつける妄想をしたと思ってるんだよ。
……なんて、言えるはずもなくて。
「そんなわけ、ないだろ。誰が、お前みたいなオトコオンナ好きになるかっての」
俺はまた、心にもない言葉を吐く。やはり、この嘘もバレているのだろうか。恐る恐る蒼依の様子をうかがう。
「……あ、そ」
幼馴染は、ただそれだけ、ぼそっと呟いた。笑うでもなく、馬鹿にするでもなく。それが何を意味するのか、俺は少し考える。もしかして、蒼依も俺のことが好きなんじゃないか。それで、わざと煽っているんじゃないか。押し倒されるのを、待っているんじゃないか。……なんて。
「じゃ、おれ、そろそろ帰るわ」
「え……なんだよ、急に。ここで解散したら、変な空気になるだろ」
「変な空気ってなんだよ。ただ帰るだけだって。今日は母さん、早く帰ってくるらしいし」
蒼依は立ちあがり、荷物を手早くまとめて肩に掛ける。上着のファスナーを閉じた幼馴染は、入り口のドアノブに手を掛けた。それから「あ、そうだ」と振り向く。その表情は悪戯っぽい笑みに戻っていた。
「おれでシコるのはいいけど、ティッシュは処理しろよー。イカ臭いのとか勘弁だからな」
「シコらねーっての。お前だって、俺のことを考えながら寂しく慰めてるんじゃねえの?」
「うわ、女子に向かって言う台詞じゃねーな。変態だ、変態。サイテー」
「都合の好いときだけ女子かよ」
「……おれはずっと、女子だよ」
蒼依は意味深に呟き、部屋を出ていく。扉がパタンと閉じる音が、静かになった部屋でやたら大きく響いた。追いかけるべきだろうか。でも、追いかけてどうするのだ。
「……やっぱり、変な空気になってるじゃねーかよ」
はぁと溜息を吐く。二、三年ほど前から、時々こういうことが起きていた。いつものように軽口を言い合っているはずなのに、途中から妙な雰囲気になって、解散する。これは思春期特有の、一過性のモノなのだろうか。それとも、俺たちは今後もずっと、こうして複雑な想いと付き合っていくのだろうか。解決策? そんなものはわかっている。
「……好きだ、蒼依」
ぽつりと呟く。この台詞を、蒼依に言えばいい。蒼依はきっと、受け入れてくれる。きっと。たぶん。おそらく。九割九分くらいの確率で。だけど、俺は言えない。残り一分の可能性が怖いのだ。この居心地の好い日常と関係が崩れるのが、不安でたまらない。
「だめだな、俺は。いつまでもナヨナヨして」
ベッドに顔を伏せる。寝具には人肌の温もりが残っていた。甘い匂いつきだ。昔とは違う香りに心臓がドキドキする。腹の奥が熱を帯びるのを感じた。性欲という名の炎が、蛇のように、ぐるりぐるりととぐろを巻いている。蒼依の言う通り、今から俺は、蒼依でシコるのだろう。
「はぁ……はぁ……蒼依……蒼依……」
スポブラの形に沿って生じた日焼け跡。ブラから覗く艶やかな乳肌。引き締まった腹筋。ツンと上向いた尻臀。蒼依の姿を脳裏に浮かべながら、俺は探るように股間の膨らみを撫でる。下半身から滲む快感が、思考も苦悩も融かしていった。
第一章 淫夜の幕開け
パァンッと小気味好い音が響く。柔道畳に男を投げつけた衝撃が、襟を掴む手にビリリと伝わる。この瞬間に抱く爽快感に勝るものはない。蒼依はぶるりと身震いを起こして、恍惚感の滲んだ息を吐く。その様子を見ていた男子部員たちが、「おお……」と感嘆の声を吐いた。
「やっぱすげーな。部長に圧勝だぞ、圧勝」「あんな細い腕でどうやって男投げてるんだ」「男だけど、勝てる気がしねーわ」
放課後。傾いた太陽の光が差しこむ学校の柔道場で、蒼依は男子柔道部と乱取りに及んでいた。女子の柔道部員は蒼依一人しかおらず、こうして男子の練習に混じるのが常だ。
「あ、安達先輩、次は僕とお願いします!」
「おう、かかってこいよ。ぶん投げてやる」
一年生と向かい合う。右手で襟を掴み、左手で袖を握った。少年もまた、おずおずと道着を掴んでくる。はだけた道着から、薄く日焼けした蒼依の肌が覗いた。蒼依はシャツを身に着けていない。汗を吸い、黒く変色した鈍色のスポーツブラが、健全な男子生徒の視界に映りこむ。
(めっちゃ見てくるなぁ、コイツ。ったく、男子ってのはどいつもこいつも……)
だが、思春期の少年が劣情を催すのも無理はない。スポブラに圧迫され、ぎゅッと密着した豊かな媚乳は、その量感に比例した深淵を形作っている。じっとりと汗ばみ、てらてらと光沢を帯びた乳肌は、蒼依が思うよりもずっと艶めかしい。蒸れた谷間は匂いも濃厚だ。曲げた腕一本ぶんの距離にいる少年の嗅覚と視覚を、これでもかと刺激し、情欲を煽っていた。
「ほら、始めるぞ」
「は、はい」
まずは出方をうかがった。ぎこちない動きだ。手足の連動がうまくいっていない。恐らく、練習した技を出したいという意欲が強すぎるのだ。その所為で柔軟な動きができなくなっている。
「頭が固くなってンぞ。掛けたい技が視線と足運びでバレバレだ。重心もブレすぎ。まだおれは何もしてねーのに、一人で馬鹿みたいに動いて体勢が崩れかかってるじゃねーかよ」
「あ……す、すみません。あッ、う、うわッ」
「ほらな。重心がぐらぐらだから、すぐよろけるだろ。相手のペースに乗せられるな。大事なのは重心だ、重心。自分を保て。相手を崩せ。恋の駆け引きってヤツと一緒だよ。相手を動揺させろ。お前にも、ち×こはついてるんだろ?」
「な……ッ、せ、先輩……ッ、わわわッ」
「ほぅら、動揺した。こけるなよー」
軽く身体を揺すり、つんのめったところで足を引っ掛ける。倒れそうになった身体を引っ張りあげ、ぐるりと回す。主導権は完全に蒼依のモノだ。手と足を使って、少年を揺さぶり続ける。後輩は体勢を立て直すのにいっぱいいっぱいの様子だった。
(恋の駆け引き……ね。ンだよそれ。偉そうに言える立場じゃないだろ、おれも)
寧ろ自分が教えてほしいくらいだ。どうすれば、幼馴染の気を惹けるのだろう。湯上りの身体で、脚も谷間も露出した恰好をして、わざとらしく誘っているつもりなのに。一向に襲ってくれる気配はない。自分のアピールに気づいていないのだろうか。
(……ったく、あのヘタレめ。さっさと押し倒してくれりゃいいのに。おれがお前のこと好きだって、流石に気づいてるんだろ? お前だって、おれのこと、好きなんだろ?)
自分の股に意識を向ける。激しい運動にも耐えて、処女膜は健在だ。早く、大好きな人と一つになり、初めてを捧げたい。その想いは日に日に強くなっている。太一もきっと同じ気持ちだろうと思う。……思いたい。彼も、自分と繋がりたいと、そう思ってくれているはずだ。
「……はぁ、ぐだぐだ考えるって面倒くせーな」
「え?」
「なんでもねーよ。受け身、取れよ?」
「え――うぎッ」
襟を掴む手にグンッと力を込め、後輩の華奢な身体を思いきり引き寄せる。緩衝材となった豊満な乳房がムニュッと潰れる。少年の顔がボッと紅く燃えるのがわかった。
(投げられる直前だってのに、おっぱい押しつけられて照れてやがる。ったく、馬鹿だな)
苦笑しながら、蒼依は瞬時に少年の身体を観察する。重心は完全に崩れ、左脚は宙に浮きあがっていた。右脚も安定感のない爪先立ちだ。あとは刈りあげるだけ。蒼依は右脚を振りあげ、勢いよく後ろへと振り抜いた。目論見通りに、少年の身体はふわっと舞いあがった。
「ぐぇッ!」
バンッという音とともに、鈍い悲鳴があがる。畳に後輩を叩きつけて、蒼依はフーッと息を吐いた。
「どうだ、わかったか? 崩して、寄せて、払う。大事なのは重心だ、ジューシン。お前の場合は、まず自分の重心を保つのを優先しろ。筋トレだ、筋トレ」
「は、はい。ご指導、ありがとうございました」
手を差しだし、握手する。そのまま後輩の身体を引っ張りあげてやった。立ちあがった少年は、蒼依を見て再びポッと頬を赤らめる。柔道衣が乱れて、腹が露出しているのだ。
「なんだ、おれのお腹がそんなに好きか?」
「す、好きっていうか……凄い、ですね」
「硬そうで、可愛くねーだろ」
別に見られて困るものではない。蒼依は帯を解いた。柔道着がふわりと左右に広がり、引き締まった下腹部が露わになる。稽古中の男子が手を止め、均整の取れた女体に目を見張る。見守っていた女子柔道部のマネージャーもまた、蒼依の身体に憧憬の視線を向けた。
「触ってみるか?」
ニヤリと笑い、蒼依は後輩に腹を差しだす。美しい薄褐色の肌に腹筋のシルエットが浮かんでいた。息遣いに合わせて緊縮と弛緩を繰り返す筋肉は、淫猥な光沢を撒いている。白磁色の柔肌とはまた違う、健康的な色気を纏っていた。特に、運動部の少年からすれば垂涎ものの艶めかしさだろう。後輩はごくりと唾を飲み、息づく腹筋を凝視する。
「冗談だっての。なんて目で見てるんだよ」
「あ……す、すみません。き、綺麗なお腹で、つい見惚れちゃって……。あ、あの、先輩。もう一回、お願いできますか。僕、もっと柔道うまくなりたくて。先輩に、教えてほしくて」
「ああ、もちろん――」
ちらりと壁掛け時計に視線を遣る。短針が五時を指していた。
「悪い、もう帰らないと。また今度、練習に付き合ってやるよ」
ぽんぽんと頭を軽く叩き、汗ばんで硬くなった髪を指で梳く。後輩は照れ臭そうに目を細めた。聞き分けのない生意気な子供は嫌いだが、真面目で努力家の後輩は嫌いじゃない。
「それじゃあ、桜子。おれ、帰るから。今日も付き合ってくれてありがとな」
マネージャーに声をかける。佐伯桜子。たった一人の女子柔道部を支えてくれる、献身的な同級生だ。
「はい。おつかれさまでした。私はもう少し時間があるので、男子の見学をしていきますね」
「ああ、また明日。男子柔道部の皆も、練習に付き合ってくれてありがとな」
部員たちにも挨拶を済ませ、蒼依は帰宅した。
家に帰った蒼依は、一人で早めの夕食を摂る。共働きの両親は基本的に家にはいない。用事がない日は太一の家で食事を共にすることも多いが、今日はまだ、一仕事残っている。しんと静まり返った家で食事を済ませたあと、自転車に乗って柔道場へと向かった。
柔道場があるのは町の外れだった。田舎の町の、その外れ、だ。周囲に、他に目立った建築物はない。人の気配もない。ぽつんと、古びた道場が佇んでいるだけだ。林というのか森というのか、道場の傍で生い茂った木々の群れが、さわさわと不気味な音を奏でて揺れていた。
「……」
看板の傾いた柔道場をぼんやりと眺める。昔は随分と大きく感じたのに、今ではちっぽけに見える。それが酷く寂しくて、気を抜くと目頭に熱い感情が込みあげてきそうになった。
(……何を感傷に浸ってるんだよ、おれは。寂しがってる場合か? この道場を守るって、そう決めただろうが。おれが、たてなおす。経営も、建物も。ずっと、残してみせる)
開錠し、建付けの悪い引き戸を開ける。室内には淀んだ空気が漂っていた。蒼依は片端から窓を開け、柔道着に着替える。それから畳に座り、紙を並べた。中学生相手の指導スケジュールが祖父の字で記されている。ミミズが這ったような字だ。昔は達筆だったが、身体を壊して以降、握力が落ちてうまく文字が書けないらしい。
(じいちゃん、元気にしてるかな)
祖父は今、実家で療養している。ただ、最近はあまり会ってはいない。弱った祖父を見るのがつらいのだ。昔の壮健だった祖父を知っているぶん、余計に哀しくなってしまう。
「さて……準備すっか」
頭を切り替えようと呟く。どんよりとした気分を抱えていると、部屋に充満する湿気に心の芯まで蝕まれて、カビが生えるような気がする。今から来る中学生の姿と名前を脳裏に浮かべながら、今日はどこまで指導を進めようかと、祖父の文字に視線を這わせた。
「よーし、そろそろ休憩にするか。あまり汗かいてなくても、ちゃんと水分補給しろよ」
柔道場に蒼依の声が響く。五人の中学生が指示通りに水分補給を始めるのを見届けて、蒼依もペットボトルに入った水を飲む。稽古が始まってから三十分が経過した頃合いだ。すっかり日も落ちて、道場の外は暗闇に染まっている。開いた窓から吹きこむ風は、少し冷たかった。
「おつかれさまです。蒼依さんも大変ですね。一人で、僕たちの面倒を見て」
生徒の一人――幸哉が声を掛けてくる。人当たりのいい笑みを浮かべた少年は、蒼依の隣に立った。柔道場の壁に背中を預けて、上目遣いにこちらを見つめてくる。二重瞼に縁取られた瞳は、腹が立つくらい綺麗な色合いをしていた。
「つまらないだろ。受け身とか、基礎練習ばっかでよ。今時の子供には刺激が足りないんじゃないのか? 寝技とか投げ技とか、派手な練習がしたいだろ?」
「いえ、そんな。どんな分野でも基礎は大事ですよ。特にスポーツではね。派手な技は魅力的ですけど、相応のリスクがありますし。怪我をしたら大変だ。蒼依さんは間違っていませんよ」
「間違っていませんよ、ねぇ?」
「少し偉そうでしたかね。すみません」
「偉そうっていうか。大人っぽいというか。お前、ほんとに年下か?」
蒼依は怪訝の目を向ける。幸哉は肩を竦めた。芝居がかった仕草も、年齢に不相応だ。
「正真正銘の年下ですよ。やっぱり僕、ませてますかね」
「ませてる、なんて言葉を使うようなガキは、漏れなくませてるだろうな」
「マセガキってやつですね」
幸哉は「ふふ」と微笑む。青々と色づいた草を揺らす春風のような、落ち着いた笑い方だ。
(……こいつ、マジで年下なのか? いや、年下なのは、間違いないんだけど)
少年の様子を観察する。丁寧に整えられた柔らかな髪の下、色白の小さな顔に、整った目鼻や口がバランスよく配置されていた。唇から覗く歯も、嫌味なほど綺麗だ。外見や所作から育ちの良さが滲みでていた。金と時間と愛を注がれて育ったのだろう。
(そんなやつが、なんでこんなオンボロ道場に来てるんだ?)
彼が道場に来て以来、その疑念はずっと拭えない。不可解だった。そもそも、幸哉が柔道に関心があるとも思えない。なら、彼は何が目的でここにいるのか。
(……おれ、とか? まさかな……)
馬鹿馬鹿しいとは思う。だが、時折、彼から妙に熱っぽい視線を感じるのだ。恋愛感情とは違う。身体の輪郭を舐めるような粘っこい視線だ。品定めするような視線、と言ってもいい。下品で、卑しくて、執拗で陰湿な、視線だ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫? なにが」
「道場の経営です。大変なんでしょう。おじいさまが倒れて、お孫さんである蒼依さんが代わりを務めているとか。毎日、学校が終わったあと、こうして僕たちに教えてくれてるんですよね。でも、経営は芳しくない。不安じゃないですか? 身体も心も、壊れちゃいますよ」
「そんなの、子供が心配することじゃないだろ」
「蒼依さんも子供ですよ」
「お前よりは大人だ。お前、可愛げがないぞ。もう少し、ガキっぽくしとけ」
「辛辣で、容赦ないな。でも、蒼依さんのそういうところ、大好きですよ」
「はあ?」
飲んでいた水を吹きそうになる。太一との件で「好き」という言葉に対し過敏になっているのだ。自分が言えない台詞をしれっと口にされて、蒼依は酷く動揺してしまう。
「僕、この道場のことも好きですよ。年季があって、趣深い」
幸哉は傷だらけの柱に手を置いて、ゆったりと撫でる。まるで柱を愛撫しているような、艶めかしさを感じる指遣いだった。
「でも、もうすぐ、この道場も消えちゃうんですよね。寂しいな」
「……消えねーよ。誰がそんなこと言ってるんだ」
「僕、見ちゃったんですよ」怪談話を語るかのように、幸哉は声を潜める。「祖父の事務所に、蒼依さんのおじいさんが来ているところを、目撃したんです」
「祖父の事務所?」
「祖父、金貸しなんです。そこで、二人が会話してて。蒼依さんのおじいさん、凄く切羽詰まった様子で祖父に訴えてました。お金を貸してほしい。道場が潰れてしまう。って」
「いつのことだよ」
「つい最近ですよ」
「嘘だな」蒼依はきっぱりと言う。「じいちゃんは身体を痛めてるんだ。内側も外側も、ボロボロなんだよ。そんな状態でウロウロできるわけないだろ」
「ええ、つらそうでした。痛々しかったです。それでも、祖父へ必死に頭を下げていました。まあ、祖父は取り付く島もない様子で。すぐに断っていましたが。……映像、ありますよ」
幸哉がスマホを見せてくる。再生された動画を観てギョッとした。事務所の一室と思しき場所で、祖父が土下座をしている。薄くなった頭頂部を目一杯下げ、額を床に擦りつけていた。
『お願いします……どうか、お金を貸してください……。孫娘が継ぎたいと言ってくれとるんです。あの子に、道場を遺してやりたいんです。どうか……どうか、後生ですから……』
どうか、どうか、どうか。祖父の悲痛な哀訴を聴くたび、心臓がギュッと鷲掴みにされているような苦悶を抱く。祖父がやせ細った背中を丸め、頭を下げる姿を観るのは、気分の好いものではなかった。手を伸ばし、動画の停止ボタンを押す。
「僕からお願いしましょうか。祖父は僕たち孫に甘いんです。僕が言えば考え直してくれると思いますよ。もちろん、タダで、とは言いませんが。相応の条件を引き受けてくだされば」
「……馬鹿馬鹿しいけど、一応訊いてやるよ。条件ってなんだ」
「僕のオンナになってください。僕に絶対服従の、性奴隷になるんです」
「は?」と声が漏れる。「セイドレイ?」と訊き返す。聞き馴染みの薄い言葉が、甘い飲料を飲んだ後の唾のように、不快に喉に絡みついた。
「お前、何言ってんだ。頭、おかしいのか?」
祖父と自分を辱められたことへの怒りが、蒼依の口調を荒々しいものに変える。目の前の少年に対して憎悪すら抱いていた。叶うなら、今すぐ襟を掴み、投げ飛ばしてやりたいと思う。
「お前、何が目的なんだよ。じいちゃんの動画見せて、おれに何をしたいんだ」
「先ほど言った通りです。あなたを奴隷として飼いたい。一目惚れなんですよ。蒼依さんを初めて見た瞬間からずっと、犯したくてたまらない。今にも想いが溢れそうなんです。――ほら」
「え……なッ」
少年に手首を引かれる。反射的に払おうとするも、蒼依は硬直してしまう。誘導されて触れた幸哉の股間は、こんもりと隆起していた。硬い膨らみが放つ熱が指腹を炙る。指紋が溶けるのでは――そう思うほどの淫熱が、道着の繊維から染みだしていた。
「ね、凄いでしょ。柔道の間、勃起を抑えるのが大変だったんですよ」
「ざ……けんな……ッ。お前、ほんとに頭おかしいんじゃ――」
「蒼依お姉ちゃん、続きまだー?」
生徒の声がする。蒼依は慌てて手を引っこめる。幸哉が、ぼそっと囁いた。
「返事は三日後、この時間に、この場所で聞きます。いいですね?」
頷くことも、首を横に振ることもできなかった。中学生たちの下に戻っていく幸哉の後ろ姿を眺めながら、蒼依は皮が破れそうなほど唇を噛み、拳を握りしめる。
(ふざけるなよ。金のために、あいつの奴隷になれって?)
考えるまでもない。絶対に無理だ。そもそも、幸哉の奴隷になれば本当に金を借りることができるのかも怪しい。所詮は子供の戯言だ。動画がフェイクという可能性だってある。
(……馬鹿馬鹿しい。おれ一人の力で、道場を再建させてやる)
だが、どうやって? 答えなんて出ない。そんな方法があるなら、とっくに実行に移している。妙案は浮かばない。無力感と焦燥感ばかりが、胸に募り続けていた。