人類とエイリアン、両軍が衝突した途端──世界は撹拌した。
地球と異世界を繋ぐゲートが乱立し、異邦戦争は正念場を迎えた。
天変地異により強制転移され、仲間とはぐれたジェヴォーダン。
謎多き少年・ヤクモと共に、仲間を探してチキュウを放浪する。
道中で助けた現地人・ハルカや冒険者・キョウを案内人に、
改造ディーゼル車で異世界を往復する、ハードボイルドな旅が始まる!
SFダークファンタジー、ターニングポイントの第三部開幕!
第三部 約束の旅路
第一章 玉座
第二章 ブッチャービッチ・プロジェクト
第三章 ハルカ
第四章 救出ミッション
第五章 黒魔術
第六章 夢追い人
第七章 母想いの死体あさり
第八章 洞窟蹂躙
第九章 キョウ
第十章 お別れの夜
第十一章 出立
第十二章 鬼神のご縁
第十三章 貞操の危機
第十四章 スタンドバイブッチャー
第十五章 ファイア
第十六章 気のいい恐竜男
第十七章 犠牲の歌声
第十八章 フクロウの便り
第十九章 絶体絶命エルフ
第二十章 ふたつ目のお願い
第二十一章 やみのエルフ
第二十二章 亡びる街を背に
第二十三章 異世界方面軍フォーコム
特別書き下ろし 祠の怪異
本編の一部を立読み
第三部 約束の旅路
第一章 玉座
現ミフォーシスを束ねるエリジウム|君国《くんこく》。
その首都は〈メガラニカ〉大陸に置かれている。遠目に見た街並みが、雪をかぶったように白く見えることから〈純白郷アルバシア〉とも呼ばれる。アルバシアの建築物には、周辺の山々からよく産出する|真白《ましろ》の石材がふんだんに使われており、その起源は〈|上古《じょうこ》の時代〉にまでさかのぼるといわれ、世代を超えて拡張に拡張を重ねてきたことで、幾層にもなる城壁に囲まれている。
初めて足を踏み入れた者はまず、アルバシアの外周に広がる城下町の活気に驚くはずだ。もっとも外側にある、もっとも新しい街並みは整然として美しく、さまざまな人種が行き来する雑踏では世界中から集まった多彩な食材、嗜好品、衣服、武具、そして魔導器が賑やかに取り引きされている。
そんな人々の生活を通り過ぎて第一の門をくぐると、先ほどよりもやや古びた街が目の前に広がり、続いて第二の門へ。そうして門をくぐり抜けるたびに歴史を逆行する擬似的な時間旅行は、来訪者の心を躍らせると同時に、その重厚な時の流れをもってこの街の|主《あるじ》に対する畏敬を深く刻み込む。
いくつかの門を抜けるとやがて喧噪は遠ざかり、神秘的とも言える静けさの中で、もっとも古い中央区に到達する。
城壁に囲まれてぽっかりと広がる原生的な森――それが純白郷アルバシアの中枢だ。
もっとも老いた街は、もっとも力に満ちている。
無数のひねくれた古木が枝を張り巡らせる森に道といえる道はなく、見通せない|霞《かすみ》が近づく者を拒絶する。数え切れない敵意がひそむ不可侵の森だ。道を知らない者は、どこにもたどり着けず、もと来た道を戻ることすらできない。
だがしかし、もしも、そんな秘密主義の森を生きて抜けられたならば、姿を現すであろう。ぽつんと|聳《そび》える白亜の宮殿が。
それこそが、魔王城。
現エリジウム君主――魔王ナルス・イグジスタの居城である。
玉座の間は、中庭をいくつも抜けた城の最奥にある。
吸い込まれるような奥行きを持つ荘厳なホールだ。入り口から玉座に向かって、まっすぐに|臙脂《えんじ》色のカーペットが伸び、見上げるほど高い天井からは光のチェーンが垂れ下がって|数多《あまた》の光輝が降り注ぐ。光は磨き上げられた純白の内装に乱反射を繰り返し、あらゆる角度で行き渡ることから、大広間の中には|影《・》|が《・》|存《・》|在《・》|し《・》|な《・》|い《・》。
そんな中でも特に異彩を放つのが、左右の壁に並び立つ漆黒の甲冑群である。精巧で、力強く、重々しい。けしからぬ動きを見せたものは、即座に切り捨てると言わんばかりに威圧する虚ろな兵士たち。その視線が、玉座の間に踏み入った者の指先までを監視する。
それゆえに、玉座の間は普段ならば厳粛な静けさに包まれているのだが、今日は珍しく静かなざわめきに満ちていた。謁見を|請《こ》う者たちが、カーペットの左右に分かれて議論を交わしているからだ。現在のミフォーシスの混乱が、彼らの口を|逸《はや》らせていた。
「やかましい」
しわがれた響きが大広間を叱責した。
「魔王陛下の|尊前《そんぜん》であるぞ」
魔王という単語が、部屋に|集《つど》う謁見者たちから言葉を奪った。その目に小さな|畏《おそ》れが見え隠れする。なぜならば、彼らが姿勢を正して見上げる先。玉座の、その奥に、|忽然《こつぜん》と黄金の|帳《とばり》が広がっているからだ。
もっとも|力《ちから》ある王――力の王――魔力の王――すなわち、魔王。
恐るべきはナルス・イグジスタの|力《ちから》。
玉座の間に、入り口はたったひとつ。目立った調度品はない。これだけの大勢の視線をかいくぐり、誰の目にも留まらず壇上に登ることはできないし、物音ひとつ立てずに移動することも不可能だ。にもかかわらず、その場の誰ひとりとして|帳《とばり》が広がる瞬間を認識できなかったことになる。魔王が操る強大な力の一端を見せつけられ、|彼我《ひが》の力量差を思い知らされた謁見者らは、ただ膝を突くことで恭順を示すほかない。
「魔王ナルス・イグジスタ陛下に栄光あれ」
こうべを垂れた謁見者たちの肩を、圧倒的な静寂が押さえつけている。
玉座は無人だった。
あの玉座を初めて見た者の第一印象は古びた椅子、あるいは、ヒビだらけのアンティークだろう。肘掛けは丸みを帯びて塗装の地が見えてしまっており、座面は|腿《もも》の形がはっきりと分かるほどにすり減って、全体をあしらう金銀宝石もどこかくすんで見える。だがしかし、そんなぼろぼろの椅子こそが、起源も定かではないほど古き歴史を持つ魔王の玉座であると聞かされて信じるに足る証拠が、たったひとつだけある。
背もたれの上から対峙する者を見下ろす丸い|真鍮《しんちゅう》色の鏡。
この世のものとは思えないほど、なめらかな|凹面鏡《おうめんきょう》。
玉座の間を、謁見者ともども上下左右に反転して映し出すあの鏡は、歴代の魔王が身体を預け、足を組み、頭をもたれてきたせいでヘコんでいるのだと|噂《うわさ》好きはささやくが、その真偽を確かめる|術《すべ》はない。それほどまでに長い間、玉座はそこにあったのだ。もう誰もその椅子の製作者を覚えていないし、鏡が作られた経緯も記録に残っていない。ただ事実として、今代も、先代も、その前代もまた、魔王はそこに座してきた。ぼろぼろの椅子の頭上に、傷ひとつない真鍮色の凹面鏡。かくのごとき|異様《いよう》が放射する重圧が、冷厳な権力となって対峙する者の肩に落ちてくる。
今もなお、物言わぬ玉座に冠する鏡は、膝をつく臣下たちを静かに上下左右に反転して映し出している。
「|陳情《ちんじょう》を許す」
玉座へと至るためには四十二段の階段を上らなければならない。その階段の下に立ち、進行を務めているのは背の低い男だ。|目深《まぶか》にかぶったフードの、その奥にのぞく薄暗い顔は白く無表情であり、さながら|能面《のうめん》のよう。
フードの男は、節くれ立った指でひと欠片の石を掴んでいた。一見してなんの変哲もないゴツゴツとした無骨な石だ。乳飲み子の頭ほどある石。それを、男は片手で掲げながら持ち運んでいる。まるで、その石の一挙手一投足を見逃すまいとでも言わんばかりに。
そんなフードの男に指を差され、謁見者の一人である獣人が立ち上がって前に出た。獣人の表情からは、隠しきれない自信がのぞいている。
「ダンジョンから新たな〈|胚珠《オヴュール》〉が掘り出されました」
「こちらへ」
獣人の男は袋を抱えて前に出ると、それをフードの男に手渡した。
包みから姿を現したのは、漆黒の塊だった。そこには黒曜石のごとき透明感と、深海よりも冷たい闇が凝縮されている。フードの男はオヴュールと呼ばれた塊をじろじろと検分してから、それをまた包みにしまい込むと、節くれ立った指を獣人に突きつけた。
「魔王陛下がお喜びになる」
「ははっ」
獣人は背筋を伸ばし、誇らしげな面持ちで一礼してから列に戻った。
入れ替わるようにして、太ったドワーフの男が前に出た。彼は濃いひげ面に緊張の色を浮かべて靴をそろえた。
「軍からの報告です。〈ダイアデム〉の対処に部隊運用が圧迫され、パトロールや魔獣狩りにまで手が回らないとのこと。アルバシア周辺のみならず、メガラニカ大陸全土でブッチャーの個体数が増加しており、商人たちが萎縮してしまいアルバシアの流通に支障をきたし始めているようです。特に、ブッチャーを始末するにするにはベテランの〈オーバーシア〉を派遣――」
「ブッチャーは捕らえよ」
太ったドワーフの報告をさえぎって、フードの男は続ける。
「いかに怪物とて、能無しは容易に罠にかかる。拘束し、処置を施したならば、かの星へと送り込め。ゴミにはゴミをぶつけるのだ。ダイアデムは包囲と封鎖を継続せよ。抵抗の意思を|挫《くじ》くまで、かの女を蒸し焼きにするのだ」
「しかし――」
「魔王陛下のご指示である」
「……はっ」
ドワーフの男は言葉の続きを呑み込むと、列へと戻った。
「定期報告、定期報告」
次に前に出たのは触手を生やした巨大な目玉の怪物だった。
「〈|孤裏宮《こりきゅう》〉付近のダンジョンがふたつ涸渇《こかつ》。新たなダンジョン|開坑《かいこう》の要求あり。〈|魔界《ソルヘル》〉からは、亜人の砦との異常接近が確認されたものの、睨み合いが続いているとの報。〈|結晶砂漠《タブラドュバル》〉との連絡は途絶したまま。〈|竜の高谷《ストレイタス》〉は安定運用中。しかし|浮島《うきしま》のコントロールを一部失い、ミフォーシスの流通が混乱。サンダーバードは機能不全が続き都市間の連絡は不通。〈|常夜の地《エバーナイト》〉は亜人勢力と激しい交戦状態。制圧は時間の問題なれども追加のダンジョン開坑の要請」
ぎょろぎょろと目玉を動かして報告書を読み上げた怪物に、フードの男が問いただす。
「孤裏宮のダンジョン消費が早すぎる。半年前にひとつ新設したばかりのはず。異常な消費ではないか」
「原因は調査中。例の|雷《・》|鳴《・》により地殻変動が起きた可能性。なお、弧裏宮からは殺生石に異常ありとの補足あり。孤裏宮にかぎらず、雷鳴により各地で異常現象が多発。結晶砂漠を始め、連絡がつかない都市多数。戦線は急速に拡大中。各地で局所戦が多発。戦闘は制御不可能」
「この混乱で〈|恐るべき爪痕《アスカーシャ》〉の監視がゆるむのは危険なのでは?」
豪華なローブを着たエルフが前に出て言った。
「あの一族は伝統的に魔王陛下の政策に反抗的。これを機に、何を企んでもおかしくはありませぬ」
するとフードの男は静かに手を振った。
「メルモースを派遣してある。やつに任せて、アスカーシャのことは泳がせておけ。それよりもパパメイヤンはどうした。早くミフォーシスに散っている|撃滅部隊《デストロイヤー》たちを呼び戻すのだ。喫緊の課題はレジスタンスの首謀者――」
そのとき、男が持つ|石《・》|が《・》叫んだ。
「ご|宣明《せんめい》ーーーー!!」
ほとんど同時に、どこからともなくポンッと|鼓《つつみ》の音がした。
その場の全員がピタリと動きを止めて、フードの男が持つ石の声に耳を傾ける。
「トーキョーに兆しあり!」
石はそれだけを言い残すと、また静かになった。
玉座の間がしんとなり、次にぽつぽつと困惑の声が上がり始める。
「…………トーキョー、とは?」
「どこだ?」
「聞き違いなのでは? もう一度〈|運命石《リアファル》〉の宣託を――」
「リアファルは同じことを二度と繰り返さぬ。確かにトーキョーと言った。皆が聞いたはずだ」
「それは、あれではないか――」
分厚い甲冑に身を包んだリザードマンの声に注目が集まった。
「また、例の……亜人の都市ではないのか。数年前にもあった。オルランドを送り込んだ、フェイムバウムの前身となった亜人の都市もリアファルが勇者の兆しを宣告したはずだ。確か……――そうだ。ハチキューとかいった」
周囲から納得のうなり声が上がる。
「そうだった、そうだった。しかし、あれは前線に近かったから、まだどうにかなったものの……これがもし亜人の星の奥地にある都市では手が出せないぞ。一刻も早くトーキョーとやらの場所を――」
「よい」
フードの男が議論を断ち切った。
「トーキョーとやらの件は私が直接対処する。スダマとミズハをここに……」
その言葉をさえぎって、大声を上げる者がいた。
「また幽鬼を送り込むのかっ――ゲヒルーンッ!!」
立派な甲冑に身を包む悪魔だった。
悪魔が前に出るのを止める者はいなかった。その悪魔は武勇で知られる将であり、同時に長年にわたり魔王城に仕える忠臣の一人だからだ。この玉座の間に集まった権力者たちの中でも、彼を力で押し止められる者はほとんどいない。
悪魔は肩を|怒《いか》らせて、フードの男――ゲヒルーンに詰め寄った。
「どれほど魔王の名を汚せば気が済むのかッ!! 挑戦の意思を示した者に幽鬼を送り込むのであればまだしも、その可能性だけで有無を言わさず暗殺するとは……」
悪魔は激昂して叫んだ。
「魔王とは、そのように安い名ではないぞッ!!」
「静かにせよ、魔王陛下の尊前である」
「黙れ、陛下の威光を笠に着る老いぼれめがッ!!」
悪魔が興奮した様子で前に出たが、ゲヒルーンは涼しい態度を保ったままだ。
「よし、いいだろう。この際だ、この場ではっきり言わせてもらうが……――我々は、こんなことをしてる場合なのか!?」
悪魔は、背後の謁見者たちにも聞こえるようにボリュームを上げて言った。
「|雷《・》|鳴《・》ののち、〈ムー=パシフィス〉を海上に見たという不確かな噂まで聞き及んでいるッ! これが意味するところは貴様も理解できるだろうに! |混《・》|じ《・》|っ《・》|た《・》可能性があるのだぞ!? あちらの〈|祖霊《エルダースピリット》〉たちが出てくれば、我々は両面作戦を強いられる恐れもあるというのに、のうのうとダンジョンなど掘っている場合かッ!!」
「なんと騒がしきこと」
「勇者の卵など、放っておけばよい! ダイアデムとはさっさと和平交渉を進めればよいのだ! 各地で同胞たちが孤立し、苦戦を強いられている! この事態の原因を究明するとともに、各都市との連携を回復し、一刻も早く軍を再編して新たな戦線を構築するべきだ――――陛下ッ!」
悪魔はゲヒルーンを押しのけ、階段の真下で膝を突いた。彼の目は、玉座の奥に広がる黄金の帳をまっすぐに見据えている。
「この事態を放置すれば、あなた様の治世は危機的状況におちいりますぞ。亜人は弱くないのです。我々は……存亡の試練に直面しておりますッ!!」
「|不遜《ふそん》であるぞ、ブレリオン」
玉座へと続く短い階段の中ほどに、ゲヒルーンが立ち塞がった。
「そこをどけ、ゲヒルーン。俺を陛下に会わせろ」
「魔王陛下は膨大な数に上るダンジョンの維持管理でお疲れなのが分からぬのか。|汝《なんじ》らの豊かな生活を支えるダンジョンである」
「そうか、そうだな……さればこそ、今ここで俺が問おう。ゲヒルーンよ、なぜ我々はいまだにダンジョンを増やし続けているのか?」
魔王ナルス・イグジスタを前にして、悪魔ブレリオンの荒っぽい詰問を咎めるものは一向に現れない。彼の言葉は、臣下たちの内心にわだかまる疑念を代弁したものでもあったからだ。
「もはや食うに困る者も減り、エリジウム国民の大多数が|苦役《くえき》から解放されつつあるにもかかわらず、亜人の星でもダンジョンを創るのはなぜなのか!? 今となっては、むしろ亜人戦争の犠牲者の数がよほど現実的な脅威となっているではないか!! 亜人の星から兵を引き、ゲートを閉じればよい! 〈|運命石《リアファル》〉があれば、勇者の脅威は以前ほど致命的とはならぬであろう!」
そんなブレリオンと謁見者たちに、ゲヒルーンがうんざりと嘆息をついた。
「〈|運命石《リアファル》〉は都合のよい勇者発見器ではないぞ。あくまでも次代の覇者たる資格を持つ者を、気まぐれに言い当てるだけの石にすぎないのだ。万全とは言いがたい。ブレリオンよ、なぜゆえに魔王陛下のお心を乱すような真似をするのか。まさか貴様、レジスタンスのネズミどもに組みしてはおるまいな」
「馬鹿にしおって……この俺の忠誠に唾を吐くか、ゲヒルーンッ!!」
紫色の肌を紅潮させ、悪魔は叫んだ。
「陛下ッ!! どうか、この幼少よりお世話したブレリオンと会い、その心の内をお聞かせくだされ!! あなた様お一人で、なにもかもをお抱えになる必要はないのですぞッ!!」
「ミフォーシスに生きとし生けるものの子孫末代まで苦労なき未来を与えたいと願い、身を粉にして力を振るい続ける魔王陛下のご慈愛を信じられぬのか」
「その陛下のお言葉を、もう何十年と耳にしていないのだッ!!」
ブレリオンの声がわんわんと玉座の間にこだまする。
「列に戻れ、ブレリオン。陛下は誰にも会わぬ。会わぬ理由を、忠臣を称する汝がなぜ察せられぬのか。魔王陛下の御前ではたらいた無礼の数々、後日処遇を決定し使いを出す。それまでは魔界に戻って頭を冷やすがよい」
「ゲヒルーン、貴様らの|御託《ごたく》はもううんざりだ。どのような理由があれ、今日をもって陛下はこの俺が連れ戻す」
ブレリオンが階段に足をかけた。力ずくで|帳《とばり》を|暴《あば》く腹づもりである。
その決意に満ちた一歩を、ゲヒルーンが|咎《とが》めた。
「その足――――――魔王への挑戦とみなす」
直後、押し寄せる殺気にブレリオンの歩みが止まった。
ゲヒルーンのものではない。枯れ木のような老臣が、これほどのプレッシャーを出せるはずもない。予感めいて見上げると、玉座の裏から音もなく姿を現したのは、巨大なグレートメイスを肩に担いだ漆黒の甲冑騎士だった。
幽鬼と呼ばれる、魔王が操る中身のない甲冑騎士だ。魔王を守護する鉄壁の盾であり、魔王が送り込む無双の刃でもある。そして、今まさに凍てつく闘気とともに階段を下りてくる幽鬼こそ、その中でもっとも硬く、もっとも重く、そしてもっとも強いといわれる最強の幽鬼――。
「モービウス」
ブレリオンは獰猛なうなり声を上げて背中から剣を抜いた。
ほとんど同時に、階段の中腹で火花が散った。
先に打ち込んだのはブレリオンだった。その目にも留まらぬ一撃を、モービウスが悠々と受け止めて切り返す。ブレリオンの剣も|業物《わざもの》だったが、モービウスの巨大なグレートメイスを相手にしては大人と子供のように見えた。
二人は階段の中腹で何度も立ち位置を入れ替え、目の覚めるような|剣戟《けんげき》を交わしたが、しかし結末は呆気なく訪れた。
ブレリオンが甲冑の隙間を狙って渾身の突きを送ると、モービウスはその刃をひらりと|躱《かわ》してたたき落とし、片足で踏みつけることで刀身をへし折ってしまったのだ。
「ぐっ……!」
ブレリオンの表情がかげった。足を止めた彼の顔にはただ、深い無念がにじむばかり。
「ひと足先にゆくぞ、友よ……あとは任せた……」
黄金の帳を見上げて、ブレリオンは穏やかに語りかける。
「力およばず、許してくだされ……ナルスお嬢さ――」
モービウスの無機質な一撃で、ブレリオンの頭部がはじけ飛んだ。
飛び散った彼の血肉が、謁見者たちの顔に降りかかった。顔色を変えた者は一人もいなかった。始まったときから、この結末に覚悟ができていたからだ。
魔王ナルス・イグジスタに挑戦できた者は、いまだに一人として現れていない。
その理由は、このモービウスという怪物が常に|侍《はべ》っているからに他ならない。
この最強の幽鬼を|斃《たお》さねば、魔王に挑戦することすら叶わないのだ。
しばらくして、しんとなった玉座の間に忠臣ブレリオンの死を嘆く声が上がった。
ゲヒルーンは「やかましい……」とかぶりを振った。
「旧友を失った陛下のお気持ちを|慮《おもんばか》ることもできぬのか。耳ざわりである。者ども、下がるがよい」
ゲヒルーンが鬱陶しそうに手を払いのけると、謁見者たちはうな垂れるようにして一人、また一人ときびすを返していった。
そうして誰もいなくなった玉座の間で、ゲヒルーンはブレリオンの亡骸を踏み越えて階段の下に戻ると、玉座に向かって恭しく頭を下げた。
「|陛下《サイア》――」
青白い唇の奥から、しわがれた声が流れる。
「|幽寂《ゆうじゃく》の時は、あとわずか。あなた様の苦しみも、ようやく実を結ぶことになりましょうぞ。あとわずか。ここが正念場でございます。あとわずか。お気持ちを強く。あとわずか。見えております。祭りの終わりが。生きとし生けるものの、救いを求める声に応えられるのは、あなた様を置いて他におりましょうか」
どこか遠くを見つめて、乾ききった祈りを捧げるゲヒルーン。
「まことの平和。その成就まで、あとわずかでございます。世界をひとつに。どうか、どうか……」
節くれ立った指を震わせ、励ましの言葉を呪文のように繰り返されると、帳の向こうから――ゾロゾロと――湿ったものがこすれるような不吉な音が答えた。
次の瞬間には、すべてが何事もなかったかのように元通りとなっていた。
誰もいなくなった玉座の間には、真鍮色の凹面鏡だけが、空っぽの甲冑に見守られて静かにたたずんでいる。
【魔王と勇者】
ジェヴォーダンはタイターニアの口から正しい説明を受けた。魔王とは、もっとも力ある者という意味であり、その玉座に腰を下ろした瞬間からさらなる魔力のブーストを受けてミフォーシスをひとつにまとめ、平和な統治をもたらす。一方で勇者とは、その魔王を打ち倒し一極支配を終わらせる者であり、その交代は現代になってから幾度となく繰り返されてきた。勇者は主に亜人から現れるという。
第二章 ブッチャービッチ・プロジェクト
そのビデオメッセージは女の自撮りシーンから始まった。
「こわい」
灰色のニット帽をかぶった女が、目に涙を溜めて震える唇を押さえている。周囲は真っ暗だ。彼女は深夜の森をひとり、忍び歩きしてカメラに語りかけ続けた。
「目を閉じるのも怖い……」
泣き叫びそうになるたびに、周囲をビクビクと見回して、大声を出さないように息をひそめた。
「謝りたいの……みんなに……」
鼻水を垂らし、涙ぐんで謝罪を繰り返す。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。こんなことになるなんて…………っ!?」
森の奥から届いた物音に身をすくめた。
音は、人間の原始的な悲鳴のようにも聞こえたが、その真偽については考えたくなかった。膝が震えて、今にもその場で座り込んでしまいそうになる自分を|叱咤《しった》する。
気力だけで足を前に送り続けた。走ることはできない。片方の靴をなくしてしまったからだ。走れば、足がズタズタになって動けなくなる。だから次に彼女が走るときは、それは文字どおり最後の足掻きとなるだろう。
「カトリーヌ、ドーラ、アレックス、みんな、私だけ……ごめんなさい……」
仲間の名前を次々と挙げていく。
「フェザー、ハルカ……お願い、絶対に助けを呼んできてね……私はもう、だめ……だめなのぉ……! だって、ぁ――」
前ぶれもなく画面が大きく流れた。映像が上下左右に振られる中、ガサガサと枯れ葉を蹴る音と、女の荒い息づかいだけが加速する。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ――――ぅ」
やがて小さな悲鳴をきっかけに映像は静止した。
女がカメラを取り落としたのだろう。そうして大きく傾いて止まった映像には、立ち尽くしたまま、すくみ上がる女と、彼女の前に立ちはだかる怪物たちの姿が映されていた。
緑色の肌をした、背の小さな怪物たちだ。粗末な腰巻きに、棍棒やら木の枝やらを握っているのだが、一部は文明的なナイフや、アウトドア用の薪割り斧などを手にしている。その本来の持ち主を彼女は知っていた。つい半日ほど前までは、みんなで薪割りをしながら、家よりも大きなキャンプファイヤーを作ろう、などと笑っていた仲間たち。奪われたナイフも斧も、べっとりと血まみれだった。ゲッゲッゲッと不快な声を上げて女ににじり寄る怪物ども。威嚇しているのか、あざ笑っているのか。
女は後じさりした。靴を失った彼女に残された選択肢は多くない。
諦めるか、あるいは神に祈るか。
無抵抗の者は連れ去られた。逃げたり武器を手に取ったりした者は、その場で豚のようにひき殺されるか、寄ってたかって|嬲《なぶ》られることになった。人が解体されるシーンを、彼女は生まれて初めて見た。知り合いだった肉が、生き物の口に消えていくのも初めて見たし、女性が入れ替わり立ち替わり犯される場面も初めて見た。地下室に連れていかれた人たちの顔が頭から離れない。ゼミの合宿で宿泊予定だったコテージの中では、今も吐き気を|催《もよお》す|宴《うたげ》の真っ最中だろう。自分はいったいどのような運命を辿るのか。女は考えた。考えなくてもいいことを考えてしまう。人間の悪い癖だ。
仲間を放って逃げた自分には、より一層、残酷な運命が待っているのかも。それだけは嫌です。神さま、どうか助けてください。女はこれほど深く神の慈悲を請うたことはなかった。
「たすけて……かみさま、どうか……!」
彼女は目の前の木に祈った。ただの木を神に見立てたのだ。今の彼女にはそれで精いっぱいだった。助けを呼ぶために、果敢にも車で脱出した仲間の無事と成功。それだけが、彼女が生き残るための最後の希望だった。今でも、彼らが助けを連れて戻ってきてくれることを心のすみで祈っている。そんな幸運が起こりうるはずもないことは、分かりきっているというのに、縋りつく。これもまた人間の悪い癖だ。
「――?」
ふと、様子がおかしいことに気がついた。来るべき痛みが、一向に襲いかかってこなかったからだ。
恐る恐るまぶたを上げ、視線を泳がせた。
緑の怪物たちは武器を構えたまま、彼女から少しずつ距離を取り始めていた。
それはなぜか。
ビデオはその答えを|捉《とら》えていた。
女の背後に一人の巨漢が立っていたのだ。
その姿は一見して灰色のクマにも見えた。
緑の怪物たちは、その巨漢を恐れて及び腰になっていた。
女が肩越しに振り向いた。
巨漢と目が合った。次の瞬間にはもう、彼女は白目を剥いて卒倒していた。
映像は、おぞましい巨漢が女に手を伸ばしたシーンを最後にして暗転した。
【破壊のろうそく】
かつてアビゲイルが開発に関わっていた超兵器。射程1000㎞を誇る大砲である。宇宙空間に撃ち出して長距離を飛ばすことから、砲身はほとんど真上を向いており、発射時に吹き上げる炎がまるでろうそくのように見える。ジェヴォーダンはこれに巻き込まれかけた直後に仲間たちとはぐれ、ヤクモと一緒に見知らぬ森を彷徨う羽目になったばかりだ。
第三章 ハルカ
茶髪にメッシュの女の子は、ハルカと名乗った。
「焼けたけど、食べる?」
「結構です……」
焼きたてほかほかのゴブリンを差し出すと、彼女はそれを|一瞥《いちべつ》してから愛想なく断った。
僕がブッチャーだから怖いとか、エイリアンとは口も聞きたくないとか、そういう感情的な|し《・》|こ《・》|り《・》の問題ではないと思う。今の彼女は茫然自失に近い状態だから。たとえこれが高級チーズケーキであったとしても、食事が喉を通らなくたって不思議じゃない。ただ単にゴブリンを食べたくないだけかも。仕方がないから僕が食べてしまおう。バリボリ。ちょっとガソリン臭い。
ハルカは膝を抱えた姿勢のまま、魂が抜けたように炎を見つめている。その視線の先には墓標がみっつ。燃え上がるゴブリンの山。お湯が沸いてきたヤカン。僕の隣に座って絵を描くヤクモ。この場面でお絵かきとは、すごい神経してる。そして、そんな彼のためにカップラーメンの準備をするブッチャー。ここはそんな空間だった。
僕は自分の鋭い爪に四苦八苦しつつ、ラーメンのフタをなんとかオープン。ヤカンのお湯をトクトクトク。湯気とともに立ちのぼるしょっぱい匂いを、もう一度フタで閉じ込める。やったよ! ブッチャーでもカップラーメン作れたッ!
もうすっかり夜だ。あれから短い時間に、いろいろあった。ラーメンの仕上がりを待つ三分間に、これまでの出来事を振り返ってみる。
見知らぬ森に放り出され、当てもなく|彷徨《さまよ》っているうちに偶然出会った女の子。それがハルカだった。茶髪にメッシュで、おへそを出した健康的な体つきがそそる。彼女に対する第一印象はそんな感じだった。
そんな彼女から、出会って五秒で助けを求められた僕。
話しかけられて無視するのも悪いなと思って、それから少し立ち話をすることにした。こんにちは。何してるの。僕、元人間なんだけど道に迷っちゃって困ってるんだ。ここ、どこか教えてくれない? それから、食料があったら少しだけ融通してほしいんだけど。こうして可能なかぎり、ブッチャーを感じさせない軽快なトークを演出。
すると、わずかな間だけ茫然となった彼女は次に必死の形相で叫んだんだ。助けてください。なんでもします。友人が襲われているんです――って。
何度も、何度も。彼女はそうやって、あまつさえ僕のエプロンに縋りつくという錯乱まで見せて懇願してきた。|溺《おぼ》れる者は|藁《わら》をも掴むというけれど、ゴブリンに襲われてる者はブッチャーのエプロンをも掴むということか。
あとから聞いた話によると、彼女が当初、助けを求めて声をかけたのはヤクモの方だったらしい。ヤクモが主人で、僕という怪物を従えているように見えたから。話の通じそうなヤクモさえ懐柔できれば助かる。そう考えて咄嗟に口を突いて出た言葉だったそうなんだけど、むしろ怪物の方がフレンドリーに応対を始めたのだから、そのときの彼女の混乱は想像に難くない。それにもかかわらず、パニックを起こさず、すかさずターゲットを僕に切り替えて助けを求めたとは、したたかな子だ。
こうして、女の子かゴブリンか、という究極の二択を突きつけられた僕は、当然というか、女の子を選んだ。男は煮てもよし、焼いてもよしだけど、女の子はそこに犯してよしも加わるわけだから、やっぱり三方良しで女の子が有利。選択の余地はなかったのである。
と、まぁそれは冗談として。真面目な話、助ける義理もなかったけど、情報が欲しかったし、何よりもヤクモのために文明的な物資が欲しかったから。どっちに味方するかと問われれば、話の通じる方を選ぶ。とりあえず綺麗なお水をください。この子はもう半日、何も飲んでいません。頭を下げるべきなのは、いっそ僕の方だったのかも知れない。
ゴブリンは弱かった。
そこから僕は救出という名の弱い者いじめを敢行。ハルカを追ってきたゴブリンを数匹始末したのち、SUVの近くでもう一人の女の子を犯したり、男の肉を食って油断していたゴブリンどもにも襲いかかって二十匹ほど虐殺した。
一応、念のためゴブリンにもエイリアン語で話しかけてみたんだけど、正常な反応はまるで返ってこなかった。ゴブリンは頭が悪いらしい。僕の発音がおかしいという可能性もある。エイリアン語、ちょっと使いこなせるようにはなってきたけど、まだまだ|覚束《おぼつか》ないんだ。いや、ブッチャーに不意打ちを食らったんだからパニックになっていた可能性もあるな。話しかけるタイミング、ミスったかもね。
僕があっさりとゴブリンを片付けると、ハルカは慌てた様子で倒れている女の子に駆け寄った。ぐったりとしていたその子はフェザーと呼ばれていた。彼女は大勢のゴブリンに|犯《や》られてる最中にさんざんされたらしく、首の骨が折れていたり、ヘソの穴をほじくり回されたり、尻穴に鋭い棒を突っ込まれて内臓をめちゃくちゃにされた形跡があったりと、ほとんどしゃべることもできないような状態だった。
エイリアンは人類の女を犯したりはするけど、いたずらに痛めつけたりはしなかった。遊んでいるときは殺さないように配慮するし、殺すと決めたらあっさり殺す。その点で、ゴブリンというエイリアンは僕が見たことがあるエイリアンとはちょっと違っていて、|嗜虐《しぎゃく》性が極端に強いと感じた。どちらかというとチキュウ人の性質に近い。
それからしばらく、死にかけたフェザーと、オロオロするばかりのハルカのやり取りを見ていたんだけど、なんというか、乗りかかった船だし。そう思って、僕は崖から落っこちかけていたSUVを引っ張り上げ、中から|救急医療品《メディキット》を取り出してフェザーを処置してあげることにしたんだ。
しかし、そんな努力もむなしく。とてもじゃないけれども、僕では手の施しようがなく。ここにフェリスがいてくれればなと、彼女の無垢な笑顔が思い浮かんだけれども、最終的に、僕は泣きじゃくるハルカをなだめて、フェザーにとどめを刺すことにした。
結局、ハルカだけが残った。生存者は彼女だけだ。
ここはエイリアンの領地だと思われた。このまま大量のゴブリンの死体と一緒に、ハルカの友人ら三名の遺体を放置しておくと、魔獣が寄ってくることは容易に想像がついた。ゴブリンは燃やすけど、君の知り合いはどうする。僕がそう聞くと、彼女は残りの男たちを含めて遺体を持ち帰りたいと言った。この状況下で遺体搬送はおすすめしないんだけど、彼女の|悄然《しょうぜん》とした様子を見ると、その希望を|無下《むげ》にするわけにもいかなかった。
そこで|折衷《せっちゅう》案として、野犬などに荒らされる可能性なども考慮し、今は簡易的に埋葬しておいて、あとで回収班を連れて戻ってくる他に手はないという話をした。彼女はごねることなく、それで納得してくれたから助かった。
三人分の埋葬というと、本来であればかなりの重労働だけど、歩く重機ことブッチャーである僕の手にかかれば、ものの十分程度で穴掘りは完了した。僕は三人を地中深く埋め、戦場で遺体の回収が難しいときにやる軍隊式の簡易的な墓標――いわゆるバトルフィールド・クロスを人数分ほど立てて並べてやった。
この辺りで、ようやく僕らは名乗り合うことになる。
「なにもかも、ありがとうございました。私はハルカといいます」
「僕はジェヴォーダン。こっちの子はヤクモ。よろしくね」
極限状態での出会いと、僕の協力姿勢がよかったのか、僕らとハルカの距離は種族を超えて一気に縮まったようだった。彼女はいたずらに怯えることもなく、意固地にもならず、僕との会話に応じてくれるようになっていた。
その時点で日は暮れて、周囲は真っ暗になりつつあった。僕はとりあえず、散らばったゴブリンの死体を積み上げ、その山にガソリンをぶっかけて火をつけることで周囲を明るく照らす見事なゴブリンファイアーを作った。火の勢いはゴーゴーとすさまじい。しばらく近くで休息を取るかたわら、焼けたゴブリン肉を食べれば一石二鳥なんじゃないかと思って、ハルカにも勧めてみたところ、断られてしまったというわけ。それがついさっきの出来事だ。
ちなみにゴブリン肉のガソリン焼きのお味は、ちょっと独特の匂いがするけど、そういう|燻製《くんせい》だと思って食べれば悪くなかった。ガソリン焼きといえば貝が鉄板だけどね。貝なら、殻で蒸し焼きになるから匂いもそんなに気にならない。生肉をガソリンで焼くと、表面が焦げるし、あとはやっぱり匂いがね。
ヤクモにもゴブリン肉を食べさせたらどうかって?
とんでもない! こんな得体の知れないものを口に入れさせるわけにはいかない。ガソリンなんて添加物まみれで身体に悪いんだ。彼は、その辺に|掃《は》いて捨てるほどいる女の子とは違って大切な預かりものなのである。
そこでカップラーメンの登場だ。信頼の工業製品。一定の品質管理。ペットボトルの水で作る安心安全の食事。おなかにやさしい。ただし塩分過多。栄養バランスは最悪――あっ、三分が経ったね。
カップラーメンをヤクモに手渡した。はい、どうぞ。差し出されたラーメンを、ジト目を輝かせて両手ですんっと受け取る姿が癖になる。どうしよう。彼のファンになりそうだ。
「そら、君も食べた方がいい」
「ありがとうございます」
カップラーメンは受け取ってくれた。幾分かホッとした表情だ。そんなにゴブリン肉が嫌か。嫌だよね。でも僕は食べちゃう。ボリボリ。ガソリンの味。そうして腹ごしらえをし、ひと息ついたところで改めて尋ねてみる。
「そろそろ、何があったのか話してくれる?」
「はい……そうですね……」
ハルカは口元に手を当てて、吐き気に耐えるような仕草を見せた。次に重苦しい息をつくと、彼女はゴブリンファイアーを恨めしそうに見つめながら、ぽつぽつと事情を語ってくれた。
「私たち、大学のゼミ仲間だったんです」
「大学?」
「はい。オーストラリア南東にある大学です。それで、夏にみんなで近郊の山に合宿をすることになって――」
「え、今なんて?」
オーストラリアという単語に一瞬だけ唖然となり、思考回路がフリーズしてしまう。
続く彼女の話は驚くべきものだった。
ストーリーを要約すると、彼女たちは二十人くらいのグループで山小屋を貸し切り、合宿という名の若気の至りパーティーでどんちゃんギャングバングまであと一時間というところで、緑の怪物どもに襲われてしまったということだ。グループには男性も多くいた。持ち込んだキャンプ用品には、武器としてそれなりに使えそうなものがそろっていたこともあり、初めこそ彼女たちは強気に山小屋に立て籠もって抵抗したそうなんだけど、ゴブリンの数が多すぎて、すぐに劣勢となってしまったそうだ。やがて裏手の窓を破られたところから、蹂躙が始まったと。そこでハルカを含む四人が機転を利かせて、近くの街まで助けを呼ぼうとSUVで包囲を強行突破したところまではよかったのだけれども、あえなく追いつかれてこういう形になったというわけだ。
その山小屋というのが、大学からそう遠くない場所だという。
つまり、ここはオーストラリアの南東部ということになる。
ありえないでしょ。
だって、ハチハチって中央アジアにあるんだ。彼女の話を信じるならば、僕は午前中はユーラシア大陸のど真ん中にいたのに、わずか半日でオーストラリアまで徒歩でたどり着いたことになる。
タイターニアが呼び出した、SF映画にでも出てきそうなスケールの蛾。あれが墜落したことによって、彼女たちが先にミフォーシスへ飛んじゃったと思っていたけれど、実は飛ばされたのは僕の方だったりするのだろうか……。
「ターミナルの電波は?」
僕が聞くと、ハルカは「ターミナル、ですか……?」と首をひねった。
そうか。ターミナルはフォート民の用語だった。知らないということは、彼女はやっぱりフォート関係の人ではない。そして、内地の人たちの通信端末といえば――。
「スマホ、だっけ?」
「あっ、スマホ……それが、お昼くらいに大きな音があってから、電波がぜんぜんつながらなくって。だから警察を呼ぶこともできなくて、それで、私たちが車で呼びに……」
そう言って、彼女はポケットから通信端末を取り出して画面を見せてくれた。圏外。
「あの、ところで……」
スマホを受け取って、あれこれといじくっていた僕に、ハルカが恐る恐る尋ねてきた。
「その子は、いったい……?」
彼女の視線はヤクモに注がれている。アウトドアチェアに座って足をプラプラ。ちょっと眠たそう。
「ヤクモ。人間だよ」
「……」
ハルカの考えていることは表情から明らかだ。ヤクモは人間であるという僕の言葉を|疑《うたぐ》っている。しかし、それも仕方があるまい。だって、ヤクモの|額《ひたい》には第三の目があるんだもの。怪しさ満点なのだった。ぎょろぎょろしてる。
「それね……実は僕も困ってるんだ。例の|雷《・》|鳴《・》のせいでこうなったんじゃないかと疑ってる」
「はぁ……」
「彼にはナツキっていうお姉さんがいるんだ。今は離ればなれになっちゃったけど。それで僕は、ヤクモを彼女の元まで送り届けたい。あと、その前に、この病気を治したいと思ってる」
「目がみっつになる、なんていう病気があるんですか……?」
「いや……そう言われると……」
思わず夜空を仰いでしまう。あるわけがない。
「でも……ナツキにはこの目、ないし。遺伝じゃないと思うんだけどなぁ」
「ナツキ……」
「アジア系の子だよ。そういえば君と顔つきが少し似てるのかも?」
ジト目の印象がすごすぎて、あんまりアジア系だとか意識してなかった。改めて見ると、ハルカも顔の作りが幼い系かも知れない。健康的に日焼けしているから、ナツキとはちょっと系統が違うけど美人だし、よく見ると知的な目をしている。
「私、ニッポンから留学でオーストラリアに来ているんです。ナツキって、ニッポンでは一般的な名前だから。ひょっとしたら出身は一緒なのかも。ヤクモくん、●▲#〆▽△※▼★◎○?」
「今のは?」
「ニッポン語で話しかけてみたんです。言葉が分からないのかと思って」
「あぁ、そういうこと」
ヤクモがまったく話さないのは、僕らの言語が理解できないからだと考えたらしい。
「いや、ヤクモは共通語分かるよ。ただその子、超の上に超がつくほど無口なだけ」
「そ、そうなんですか……?」
「むしろニッポン語なんて分からないと思う」
そして僕もニッポン語分からない。フォートは世界中から徴兵される関係で共通語が使われている。フォートを新造する際に、各国に徴兵ノルマがあるんだ。
「ヤクモもナツキも、フォート生まれでフォート育ちだからね」
「フォート……って、異邦戦争の要塞都市ですか?」
「そうそう」
「じゃあ、あなたは……」
「僕も、まぁ一緒かな」
「元人間だって」
「いろいろあってね。今はこのとおり」
頭にかぶった紙袋を持ち上げてみせると、ハルカはブッチャーの素顔に少しだけ、たじろいだ。
「エイリアン、なんですか……?」
「いや。これ、今朝がた発覚したばかりの新情報なんだけど。僕はエイリアンじゃないみたい」
「???」
ふっふっふっ、戸惑ってる戸惑ってる。ちょっとだけ知識をひけらかしてみよう。
「この世界にはチキュウとミフォーシス――エイリアンの星ね。あと、もうひとつ別の星? みたいのがあって。僕はその第三勢力であるアガルタの一員と考えるのが自然なんだって」
「つまり……?」
「アガルタは、タイターニアの話によると、あぁ、タイターニアは僕の元妻で、どうにかしてよりを戻そうとしている女性なんだけど。超美人なんだ。すごくない?」
「???」
この子、目を丸くした表情がなんだか幼くてかわいいぞ。黙ってるとお姉さん系なのに。
「アガルタは、チキュウもミフォーシスも|見限《みかぎ》っていて、もうどうでもいいと思ってるらしいから、まぁ、僕は君らの味方じゃないけど、敵でもないってところかな」
「とても、詳しいんですね……?」
「まぁね」
ちょっと気分いいね。だってこの情報、チキュウ人で知っているのは僕とアビゲイルとナツキくらいだろう。僕って事情通だぜ、えっへん!
「ひょっとして、ここで何が起こっているのかご存じなんですか?」
「それがね……」
ハルカに問われ、思わず腕を組んでしまう。
「僕も、何が起こっているのかまでは分からないんだ。それで君に情報をもらおうと思ったんだけど……ま、ここがオーストラリア近辺だってことが分かっただけでも一歩前進かな」
にわかに信じがたいけど。それはともかく、水と食料がゲットできたのはありがたい。彼女を助けた甲斐はあったというものだ。サバイバル環境で綺麗な水は特に貴重だ。
ペットボトルの水を飲ませてやると、ヤクモが船をこぎ始めた。そんな彼のキューティクルを撫でていると、ハルカが決然と立ち上がった。
「あの……!」
「ん?」
「それなら協力しませんか」
「協力」
「ジェヴォーダンは、もっと情報が欲しいということなんですよね」
「そう。ナツキの他にも、はぐれちゃった人たちがいるし。まずは何が起こってるのか把握しないといけないから。もっと情報が欲しい」
「ヤクモくんも保護したいんですよね」
「そうそう。僕はどこに行ってもサバイバル平気だけど、この子を連れ回すのは不安がある。特に水がね。ヤクモの病気についてもヒントが欲しい」
壊れかけたSUVが目に入った。ハルカたちは慌てて山小屋を出てきたらしく、車にはわずかな物資しか積まれていなかった。これじゃあ、あと二日ともたない。
「助けてほしいんです」
ハルカは言った。
「まだ山小屋にみんなが捕まっていて――」
「僕に救出してほしいと」
唾を飲み込むようにして、うなずく。
「はい……すごく、お強いみたいなので」
「君は、何をしてくれるの?」
「もし助けてくれたら、ジェヴォーダンとヤクモくんを街に案内できますし、口添えもします。街なら有線のネットワークがあります。そうすれば、調べたいことが調べられるはず。ヤクモくんの食事も、寝床も準備できます」
やるねぇ。
僕の姿では街に近づきにくいと見抜いてきた。大学生って頭いいな。
――ところがだ。
ゴブリンを頭からかじり、彼女を突き放す。
「さっきも言ったけど、僕は君の敵じゃないけど、味方でもない。街の施設を使うにあたって、君たちの許可は求めていないんだ。物資が欲しければ勝手に持っていくし、ネットワークだって好きに使わせてもらう。僕の邪魔をするなら、誰であろうと排除する」
「そんな……」
僕の言わんとすることを理解して、ハルカは口ごもった。これで諦めるかと思ったんだけど、しかし彼女は泳がせていた視線をヤクモに固定して「でも――」と続けた。
「ヤクモくんがもっと深刻な病気にかかったら、どうするつもりなんですか」
「……」
「ジェヴォーダンは医者じゃないですよね」
「それは、まぁ」
「その爪だと、細かな作業も難しいと思うんです」
そう言ってから、彼女は僕に見せつけるようにして、ヤクモの服についたカップラーメンの食べかすを取り除いてみせた。
そうなんだよね。この爪、誰かを世話しようと思うと、ほんと厄介。女の子の夜のお世話にも気を使う。〈|切り苛む爪《ジャギュレイター》〉で爪を伸ばしたあとに、短くもできるんだけど、ある長さからそれ以上は短くならないんだ。切りたい。深爪にしたいぞ。この点に関しては、僕は一貫して主張し続けている。彼女は先ほど僕がカップラーメンのフタと格闘していた姿をしっかりと見ていたようだ。
「いくら強くても、一人じゃあ、限界があると思うんです。こういうときだからこそ、私たち、協力し合わないと。人間って、そういうものじゃないですか。こうして私たちが出会ったのも、きっと何か意味があるはずなんです。お願いです。ジェヴォーダンの力を貸してください。私も、絶対にあなたの役に立ちますから」
彼女、いい育ちって感じだ。ヘソ出しのくせに。むず痒いセリフも真顔で言われると迫力あるな……。
――まぁいいか。
当面、行く当てもない以上、協力することにデメリットはない。なにせ、その街まで行く道のりさえも分からない有様だ。意地を張って森を|彷徨《さまよ》うくらいなら、その手間でハルカの仲間を助けてしまえばいい。山小屋って場所には、もっとたくさんの物資があるだろう。それを頂戴する。
「分かった。君の言うとおりだ、協力しよう」
「よかった……」
僕が大きくうなずいて同意を示すと、張り詰めていたハルカの顔が脱力した。
「ここから山小屋の位置は分かる?」
「それが……無我夢中に車を走らせたから、よく分からないんです。車に乗っていたのは三十分くらいだったとは思うんですけど……」
「そっか。まぁ、それはタイヤ|痕《こん》を追跡すればいいだろう。雨は降ってないし、なんとかなるよ。あとさ、ついでにちょっと気になってたこと聞いてもいい?」
「なんですか」
「君ら、車で逃げてたのにゴブリンに追いつかれたの?」
「ゴブリン……」
言われて、彼女は山盛りのゴブリンファイアーを見やってから小さくうなずいた。
「そうですね、いわゆるゴブリンに似てますね」
「ゴブリン、足速くない?」
いくら山中とはいえ、車に追いつけるとは。ゴブリン足速すぎなのだった。山犬よりも速く走る姿を想像するとちょっと怖い。すると彼女は興味深いことを言った。
「たぶん……私たちが途中で道を見失って、何度も同じ場所をぐるぐるしたからだと思います」
「ふうん?」
――いくら焦っていたからって、同じ場所を何度もぐるぐるするなんてことある……?
まぁ、いいだろう。車で三十分程度の距離なら、明日中には山小屋までたどり着けそうだ。
「ハルカ。協力ついでにお願いがあるんだけどさ、ヤクモを寝かせてくれるかな」
「えっ」彼女は何かを言いたげな顔つきになって僕を見た。
「中の物は外に出してさ、今夜は二人でその車で寝てよ。夜明けを待って移動しよう」
「あの……今から行くんじゃないんですか?」
「すぐにでも助けに行きたい気持ちは分かるんだけど……うーん……」
周囲をぐるっと見渡す。真っ暗だ。月も出ていない。SUVは車軸が折れていて、もう使い物にならない。徒歩しかない。ヤクモはお|眠《ねむ》。ハルカも疲労の色が濃い。
僕が抱えて走れるのは一人までだ。20㎜機関砲があるから、それとヤクモとで両手が塞がってしまう。山小屋までは、ハルカには徒歩で移動してもらうことになるんだけど、彼女は一般人だ。服装も生足で、ヘソ出し。プロの軍人でも避けるような夜の森の強行軍なんて。
「――無理かな。慌てて今すぐ出発しても、君は一時間で動けなくなる。だから、しっかり休んで明日に備えて。不寝番は僕がやるから」
「…………はい」
|不承不承《ふしょうぶしょう》といった感じだけど、ハルカは僕の判断に異を唱えることはしなかった。
こうしてヤクモを彼女に託し、二人で車中泊してもらった。
車の中で、二人が毛布にくるまって静かになったのを見届けた。僕は鎮火しつつあるゴブリンファイアーの前に腰を下ろして、今後のことについて考えを巡らせた。
――タイターニアたちは、いずこ?
最悪なのが、彼女たちだけで魔王のお膝元まで殴り込みしちゃったというケースなんだけど、なんとなく、それはないんじゃないかという気がしてきている。僕がオーストラリアにいるのがその証拠だ。僕が置いてけぼりを食らって、彼女たちが先に行ってしまった、というパターンじゃないんだろう。僕も、みんなも、仲良くどっかに飛ばされた。そういうことではなかろうか。
すると次に心配になってくるのがアビゲイルとナツキだ。
四人娘はいい。あの子たちは、なんだかんだで強い。タイターニアもかなりのものだ。どこに飛ばされても平気だろう。でも、アビゲイルとナツキはマズい。いきなりエイリアンの領地に飛ばされたらひとたまりもない。願わくば、みんな一緒に飛ばされていますように。もっとも、こうして悩んだところで僕にはどうしようもない。今の僕にできることは、情報収集とヤクモの保護くらいだ。
しばらくはヤクモ第一にならざるを得ない。普通の子供ならまだしも、無口かつ行動が読めない、そもそも生まれつき生存を諦めているかのごとき生活力ゼロの彼を連れて、ろくな準備もなくエイリアンの領地でサバイバルは無理だ。ハルカにも指摘されたけど、僕では細かなお世話ができない。とりあえず彼女の仲間を助けて、穏便に街へ入れてもらって、当面の物資をゲットして、そして、場合によっては、ヤクモを街に預けることも選択肢に入れなくてはならない。
だからこそ、僕はハルカを脅迫しないんだ。ひょっとしたら彼女はヤクモの生命線になる可能性だってある。今だけは、敵を増やしたくない。
――それで、僕はその先で何をするべきなのか。
タイターニアたちを探すべきだろうか。それとも、彼女との約束を果たすための最短ルートを行くべきなのだろうか。
このブッチャーという肉体の、本来の持ち主であるオーベロンの霊魂を大迷宮タルタロスから回収する。それが今の僕に課された最重要ミッション。これまでの情報の整理。これからの行動方針。そんなことを考えたりしつつ、車に積んであった物資のチェックをしたり、四次元ズダ袋の中身をチェックしたり、少し歩き回って周囲の様子をチェックしたり、星座をチェックしたり、植生をチェックしたり、朝ご飯になりそうなものを物色したり。忙しく夜を過ごした。
僕の持ち物はズダ袋ですべてだ。中にはブッチャーナイフ、それからブッチャーハンマー。エプロンと紙袋の替え。トロピカルな服。小火器類。弾薬。爆薬。そんなものかな。
――おや……?
ズダ袋をゴソゴソしていると、ふと指先に妙な感触があった。取り出してみる。ひょいっと。草の束だった。店長にもらった、例の草の束。あぁ店長、元気かな。あの落ち着くブモー顔を思い浮かべながら草を|食《は》む。もぐもぐ――ゴリッ。
「?」
歯に、金属質の何かが引っかかった。
つまんでみると、それはU字型の金属だった。なにこれ?
――んあー……。
そういえば、あのとき「俺のピアスが入っているから、なんとか、かんとか」言ってたな店長。これのことか。ピアス……っていうかこれ、鼻輪じゃないかな。牛さんが鼻につけてる例のあれ。そうか。これも言われてみればピアスか。鼻ピアス。ありがてぇ――とはならない。どうすれば? 僕も鼻ピアスしてみる? 鼻|削《そ》げちゃってるけど? まぁでも、御利益がありそうだから取っておこう。ペンダント風にして、首からかけておくことにする。
一時期、同じようにして首からさげていたガルニエのツノは、今はヤクモのポケットの中にある。なんだか気に入った様子だったから、あっちはしばらく預けておくことにした。ちょっと愚痴っぽくなるけど、そもそもの話、ヤクモがガルニエのツノを拾いに行ったから、こんなことになっている。まったくもう。
それにしても、あの距離からよく僕がツノを落としたことに気づいたよね。そのジト目、目ざとい。
そんなことをしている内に、いつの間にか空が|白《しら》む時間となっていた。ひと晩かけて清められた夜の闇が、綺麗な朝露となって車のウィンドウを曇らせている。その奥からは二人分の寝息。
よし、それじゃあ出発の準備に取りかかろう。とりあえず朝食を作ることにするか。
悩むよりは行動するのが一番さ。
それにしても、冬なのになんだか暖かいな。