交通事故を起こしてしまった夫を助けたい。
ただその一心で、夜のつとめに出た私……。
期限を課したとはいえ、夫以外の男に触れるとき、
言いようのない戦慄が私の体をはしっていく。
貞淑な妻でいたい――そう願う心に反して、
私が一度だけ行った不貞、それは……
あけみ その他
かずみ その他
もえこ(41歳)人妻
ひみこ(25歳)その他
本編の一部を立読み
わたしは全身が染まって行くのを覚えた。熱いものが体の奥でうずいている。そのうずきが船津の指の動きとともに、次第にたかまって行くのだった。
夫に愛撫されるときと似ている。
だが、夫にされるときは、わたし自身が愛の感覚に溺れていく意志を持っている。
今は愛とはまったく無縁に、わたしの全身の感覚の波がかけめぐっていた。
「北原さんにこれをやられたとき、男のおれが、体がふるえて来た。北原さんは言ったよ。男も女も同じだと……」
「船津さん、寝てみて!」
わたしは跳ね起きた。そのまま続けられていると、わたしのほうから船津にすがりついて行きそうだったからだ。
マッサージ台に寝た船津に、わたしは彼からされたように濡らした指を這わせた。
「もっとゆっくり、もっとソフトに」
船津は呪文のようにつぶやいた。
わたしは船津の言うままに、濡れた指と手のひらを這わせつづけた。
「感じる箇所は人によって、少しずつ違っているそうだ。だが、お灸やはりのツボとほぼ一致している。骨と筋肉の境目にポイントがある。おれも知らなかったが、膝のお皿の部分なんかが妙に感じるんだ」
「ここ?」
「こういうふうにやるんだよ」
船津はわたしと体を入れかえ、膝関節のお皿の部分に唇を当てがうと、お皿に沿って強く吸いながら舌を這わせた。
こむら返りをするような激しい感覚がわたしを襲う。しかも、その感覚は部分にとどまらず、わたしの体の奥を突き上げてくるのだった。
「やめて!」
わたしは夢中で叫んだ。
「女性がやめてと叫ぶときは、続けるのがエチケットなんだがね」
船津は冗談を言いながら、もう一度、マッサージ台に寝た。
わたしは言葉で言い表すことのできない感情が、胸の奥からこみあげてくるのを覚え、船津を口にふくんだ。
夫にもしたことのない行為だった。
その瞬間、わたしは船津を愛していたと思う。そして、同時に、そうしなければ体を開いてしまいそうな危険を感じていた。
わたしは夢中で舌を動かした。
わたしの目は血走り、体は熱く煮えたぎっていた。
体を開くのと、口で愛撫するのと、どっちが夫へのより強い背信なのだろうか。
トルコ『浦島』で働いた三年間に、わたしはただの一度も体を開かなかった。だが、たった一度、夫に不貞を行ったとすれば、それはこの時だったと思う。