実母・淫溺の軌跡

著者: 中野香織

本販売日:1992/06/23

電子版配信日:2011/07/29

本定価:535円(税込)

電子版定価:660円(税込)

ISBN:978-4-8296-0439-7

シチュエーション

余命いくばくもない我が子に、

性の悦びを教えてあげたい……。

美奈子の母としての悲愴な決意は、

息子の目に濡れそぼった花芯を晒すうちに、

肉悦を求める熟れた女の欲望に変わった。

背徳に淫溺する実母、その愛と哀しみの軌跡。

登場人物

みなこ(36歳)実母

りよこ(28歳)看護婦

まゆ その他

本編の一部を立読み

やがて見ることに飽き足らなくなったのか、貴広は指でいじりはじめた。それがあまりにも繊細なタッチなので、かえって美奈子はつらかった。

どこを触るにしても、指先が軽く触れる程度だ。

「あっ!」

いきなり腰がブルッと震えて、跳ねあがった。貴広がびっくりして指を引っこめた。

「痛かったの?」

美奈子は何も答えず、じっとしていた。

ぼくにはいつもやさしくしてくれるママ……。

美奈子は、貴広にとって常にそう思われている存在だった。

事実、放恣に体を開いている母は、貴広にはなんでも与えてくれる万能の女神のように思えた。性的関心のもっとも強い年頃の少年にとって、女体こそ女神像にふさわしいものであった。

貴広は、眺め、触っているうちに、母に少しずつ変化が起こることに気づいた。初めのうちこそ、ただ体を投げだしているかに見えたが、よく観察すると、それだけでないことがわかる。

下腹の皮膚が時折りピクッと跳ねる。腰全体が妖しくうねる。そして、少年の視線が絶えず注がれている深紅色の肉の裂け目に、いつしか美しく透明な汁が大量に宿っていた。

貴広は溶液の湧出が何を意味するのか、おおよその判断はついた。自分の体に置き換えて考えると、容易にわかる。あの白濁した液体が噴出する直前に、いつしか滲みでる滑らかな露と同じだ。

指先ですくうと、まさしくそっくりな感じである。試しにぬるついた指先で秘肉を静かに撫でてみる。うねっている腰に、ピリッとした緊張感が走る。それは、ときとして小刻みな痙攣となった。

母の表情を盗み見る。さっきまで穏やかに天井を見つめていたのに、今は下唇を噛み、固く目を閉じ、細く白い喉をのけぞらせて、ある種の束縛から逃れようとしているかに見える。

ある種の束縛とは、苦痛であり、苦痛は決して肉体的なものでなく、むしろ精神的なものだった。逆に肉体は、美奈子の立場としては忌避しなければならない甘美な感覚に包まれていった。つまり美奈子は、矛盾する立場に立たされ、葛藤のさなかにあった。

しかし、そんな心の内を、貴広が知る由もない。ただ単純に、美奈子が気持ちいいんだと受けとめ、触り方にも工夫を凝らした。

「あううう……」

美奈子は自分の発した声に驚いた。けれども、快楽の淵をのぞいてしまった三十女の肉体は、もう後戻りができなかった。

貪欲に肉の快楽を求めて血が騒ぎはじめ、どうにもとまらない疼きが、切なく全身に波及していった。

欲望が、美奈子の願いを遠くに追いやり、火照る肉体を駆りたてた。

ああ、いっそのこと、私のほうから手を出してしまいたい……。

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