魔獄の幕が開くとき

著者: 輪堂昌也

本販売日:2023/07/21

電子版配信日:2023/08/04

本定価:825円(税込)

電子版定価:880円(税込)

ISBN:978-4-8296-4674-8

「とうとうやった! あの神藤若葉をハメてやったぞ」
カリスマ的な人気を誇る美人女優の牝穴に埋まる剛直。
ブラック事務所からの移籍を訴えるタレントの卵たち。
淫獣の標的は、後ろ盾になっていた29歳の国民的女優へ!
従順な牝にされ、命じられる枕営業と肉弾接待。
煌びやかな芸能界の裏に潜む、暗黒の性地獄!

目次

第一章 新人女優を襲う肉の洗礼


第二章 美畜アイドルの性奉仕


第三章 国民的女優に伸びる魔の手


第四章 結ばされた奴隷契約


第五章 日常に侵食する悪夢


第六章 終わりなき乱交の狂宴


エピローグ

登場人物

わかば(29歳)女優・アイドル

りお 女優・アイドル

れいな 女優・アイドル

本編の一部を立読み

「これが次の仕事だから。確認しといてね」
 マネージャーが右手でハンドルを握りながら、左手で企画書を渡してきた。
 湊莉緒は、それを受け取りさっとタイトルに目を通す。
 そこには『サタデーラフアップ──お笑いバトル!』と書かれていた。パラパラとめくって内容を確認すると、深夜帯のローカルお笑い番組らしい。莉緒はそこでひな壇に座ってコメントをする役とのことだ。
「ふう……」
 マネージャーに聞こえない程度に、莉緒は小さくため息をついた。
(またバラエティの仕事かあ……)
 女優志望である彼女にとって、こうしたバラエティの仕事は決して強く望んでいるものではなかった。
 涼しげな二重まぶたの目元も、今は憂いに翳ってしまっている。
 もちろん、この世界では希望する仕事を簡単に取れることはほとんどない。全く仕事がないタレントもザラだ。
(仕事を貰えるだけありがたいことなのは、分かっているつもりだけど……)
 事務所にもはっきり女優になりたいと希望している中、回ってくる仕事はバラエティやグラビアの仕事ばかり。本当に事務所は自分の将来を考えてくれているのだろうかと、不安になってくる。
 今回の仕事にしてもコメントというより、見目いい華としてただそこにいることが求められているのだ。何をしても評価は上がらない、むしろ余計なことをしないのが仕事というのではモチベーションも上がらない。
(ううん、だめだよね。こんな考えじゃ)
 莉緒は首を小さく振ってネガティブな考えを振り払った。
 第一希望ではないにしても、自分のために仕事を貰ってきてくれて、キャスティングをした側も莉緒が与えられた役割をこなせると期待してくれているのだ。
(いつか、本当にやりたい仕事に繋がると信じて頑張ろう)

 某テレビ局の楽屋、莉緒は自分の出番を待っていた。
 今日は朝から緊張で落ち着かず、気分が高揚しっぱなしだ。楽屋に置いてあるお茶を飲んでも緊張は解けない。
 といっても、今日の仕事もバラエティ番組で、彼女の希望するドラマの撮影ではない。それなのに浮ついた気持ちになっているのは、共演者が原因だった。
 神藤若葉。莉緒が憧れる、今もっとも売れていると言っても過言ではない国民的女優だ。まだ幼いうちにデビューして、莉緒より年下の頃に深夜ドラマに出演して人気が上昇。そこからあっという間にスターダムに上り詰め、その翌年にはゴールデンのドラマの主演を務め、映画の主演にも抜擢された。その映画は興行収入年間トップテンに入り、彼女の地位を不動のものとしたのだった。
 何を隠そう、その映画をテレビの再放送で見たことが莉緒が女優を志すようになったきっかけだった。
 そんな若葉と顔を合わせる機会があったのはつい最近のこと。といっても仕事で一緒になったわけではなく、局ですれ違っただけだったのだが。
 こちらは端役での出演もろくにない新人に対して相手は超有名女優、この機会を逃したら次はないかもと勇気を振り絞って話しかけた。
(実物は、テレビで見るより素敵だったなあ……)
 突然話しかけてきた、どこの誰とも知らぬ小娘にも偉ぶる所が一切なく、気さくに応じてくれたのだ。
 若葉に憧れてこの世界に入ったと話すと素直に喜んでくれ、若葉と下の名前で呼んでとまで言われたのだ。莉緒は大いに感激して、もっと頑張ろうと思った。
 ただ、実を言うと莉緒が現状に焦りを感じているのは彼女と自分を比べてのことでもあった。
(私と同じ歳の時にはもう主演映画に出ていたんだもんね……)
 伝手もなく事務所に入っていくらも経たない自分が、小さい頃から女優を目指して努力を重ねてきた若葉のようにはいかないのは当たり前。自分が未熟なことも分かっているが、どうしても自分が大きく出遅れているように感じられてしまうのだった。
 このまま鳴かず飛ばずで芸能人生を終えるかもしれないという不安が胸をかすめる。
(だめだめ、こんなんじゃ。スタッフさんにも、共演する若葉さんにも失礼だよ)
 莉緒は頬を軽く叩いて、本番に向けて気合を入れた。
 スタッフに呼ばれスタジオへ向かう途中、廊下で偶然若葉と一緒になった。
「若葉さん、おはようございます! 今日はご一緒できて嬉しいです!」
 莉緒は精一杯、元気よく挨拶した。
「莉緒ちゃん、おはよう。こちらこそよろしくね」
 相変わらず、同性の莉緒から見ても見惚れる美しさだ。キリッとした双眸は意志の強さを感じさせ、セミロングの黒髪がよく似合っている。十代の頃は幼い印象だったが、今は若さと円熟した大人の色気が絶妙に調和していた。
 ただ、それ以上に憧れの人が一度会話しただけ、それも無名タレントの自分の名前を覚えていてくれたという事実に莉緒は感激して喜びを露わにした。
「私の名前、覚えててくれたんですか……!?」
「もちろん。こんなに可愛い子だもの」
 それはあながち世辞でもなく、若葉は自分を慕ってくれる同じ業界の後輩に好感を抱いていたのだった。
「じゃあ、現場まで一緒に行きましょうか」
「はいっ」
 若葉の問いに莉緒は元気よく返事を返す。スタジオまでの道すがら、莉緒は若葉から最近のスケジュールや演技について色々話を聞かせてもらった。ごく短い時間ではあったが、莉緒にとってとても充実した一時だった。
 スタジオに着く頃には、先ほどまでの陰鬱な気持ちが嘘のように晴れやかな気分になっていた。
 本番にも身が入り、楽しんで参加することができた。
 しかし、そんな気分も長くは続かなかった。
 本番を終えて戻った楽屋での、マネージャーとのやりとりが原因だった。
「えっ、水着……ですか……?」
「そう、漫画雑誌のグラビアね。読者の反応が良ければ写真集も出せるかもよ」
 マネージャーが勧めてきた仕事はグラビア写真の撮影だった。
 それほど過激な内容ではないというものの、莉緒には抵抗があった。グラビア撮影自体は経験があるが、いずれも普通の服を着てのものだった。
「私は写真集とかはあまり……」
「まあそう言わないで。これも一つの経験だと思って。この世界、色々やっといて損はないからさ」
 将来、例えば芝居の仕事でもラブシーンを演じることもあるかもしれない。作品の内容に納得がいきさえすれば、いずれそうした仕事を受けるのも厭わないつもりだ。しかし、それはあくまで演技を通して作品をよりよくするためだ。
 水着のグラビア写真は男性の性欲の対象というイメージが強く、莉緒にとってできれば避けたい類の仕事だった。
「あのう、やっぱり私、お芝居の仕事がやりたいんですけど……」
 莉緒はマネージャーに度々仕事の希望を伝えてきた。莉緒の想いは重々分かっているはずなのに、持ってくる仕事は演技と関係ないものばかり。本当に莉緒の夢をサポートしてくれるのか、信じていいものか分からなくなってくる。
「分かってるって。でも、女優の仕事なんて皆やりたがるからね。そういう仕事の枠はそうそう回ってこないんだよ」
 そうはいっても、莉緒はろくにオーディションすら受けられていないのが現状だ。彼女が不満を持つのも仕方のないことだと言えた。
「グラビアでもなんでも、お偉いさんの目に留まれば莉緒ちゃんのやりたい仕事が回ってくるかもしれないよ?」
 マネージャーの言っていることは分かる。この世界、まずは露出を上げなければ何も始まらない。有名女優でも過去に水着写真の一度や二度撮っていることは珍しくない。
 肌を露出するのは抵抗があるが、本当にやりたい仕事に繋がるのなら我慢はできる。しかし、これまでも事務所の言う通りに仕事をこなしてきて、自分の夢に近付いているという実感が持てていないのが正直なところだ。
(うちの事務所、あまりタレントの意見は聞かなくて事後報告で仕事が決まることも多いし……)
「すみません、ちょっと考えさせてもらってもいいですか」
 即決することができず、莉緒は決断を先延ばしにした。
「いいよ。でも先方に返事しなきゃいけないし、今週中には答えを出してね」
「はい、できるだけ早く決められるようにします」
 自分の気持ちだけで言えば嫌に決まっているのだが、希望だけを押し通せる立場ではないことも理解していた。莉緒はまたため息をついた。
(あーあ、せっかく若葉さんとお仕事できていい気分だったのに……)
 ため息をつきながら楽屋を出ると、丁度若葉と出くわした。
「あっ、若葉さん。今日はお世話になりました」
 莉緒は慌てて頭を下げたが、若葉の方はいつも元気いっぱいで挨拶をする莉緒の、珍しく元気のない様子が気になったようだ。
「大丈夫、莉緒ちゃん? なんだか元気がなさそうだけど」
「いえ、そんな……」
 ちょうど水着の仕事、ひいてはキャリアの今後について悩んでいた所だったので、言い当てられて返事に困った。
「あの……若葉さん、ちょっと相談に乗って貰いたいことがあって……」
 躊躇の末、莉緒は切り出した。なにかあったら遠慮せず言ってと言われたのも社交辞令かもしれないとも思ったが、若葉以上に相談したい相手はいなかった。
 図々しいかもしれないが、同じ世界のトップ女優の意見を聞いてみたかった。
「いいわよ。ならこれから一緒に外へ出ましょうか」
「本当ですか。ありがとうございます」
 突然の頼みにも、若葉は嫌な顔一つ見せず聞き入れてくれた。莉緒は感謝の念を抱きつつ若葉についていく。
 二人は一緒に局を出て、お洒落な飲食店の建ち並ぶエリアへと赴いた。
「そこのカフェで話しましょう。ケーキがすごく美味しいのよ」
 若葉が選んだのは作りは小さいが一見して趣味のいい店で、テラス席は石畳の道と相まってまるでヨーロッパの都市のようだ。
 憧れの若葉と共にお茶をする。本来ならこれ以上ないほど嬉しいことのはずなのだが、今の莉緒にとっては嬉しさ半分、不安半分でもあった。
 恐縮しつつ注文を終え、莉緒は若葉と共に席に着く。世間話もそこそこに、莉緒は本題を切り出した。最近悩んでいることについて若葉に全てを話した。
 若葉と自分を比べて焦っていること。役者としての仕事が増えないままにバラエティやグラビアの仕事ばかりで、今度は水着写真を撮ることになりそうなこと。
 その仕事を受けるべきか、今後どうすれば夢に近づけるか悩んでいること。
「そう……」
 莉緒の話を聞き終えて、若葉は考え込んだ。
 希望する仕事がなかなか来ないというのは芸能界においては当たり前のことではあるが、気になることがある。莉緒の所属するOKAプロダクションは近年力を付けている気鋭の芸能事務所だが、それだけではない。
(全部が事実とは限らないけど、悪い話ばかり聞くのよね……)
 曰く、タレントを長期的な視点で育てることなど頭になく、安売りして短期で儲けることしか考えていない。所属タレントに半ば無理矢理枕営業をさせて仕事を取っている。価値が落ちると女性タレントをグループのAVに回してデビューさせる、など。
(設立からそれほど経ってないのに凄い勢いで伸びてるし、まさかとは思うけど)
 芸能界は色々と黒い部分がある業界には違いなく、その中でも評判が悪い事務所に莉緒がいるのは若葉としても心配ではあった。
「それなら、うちの事務所に移籍してみない?」
 話を聞き終えた若葉から出た言葉は、莉緒の予想していないものだった。
「私が、若葉さんの事務所に……?」
 莉緒は口に手を当て驚いた。
 もちろん事務所は若手タレントに対して売れる前から投資をしているわけだから、投資を回収する前に移籍するとなると揉めやすい。
「場合によっては数億円の違約金を請求されることもあるみたいだけど……」
 ただ、話を聞く限り、莉緒の事務所は彼女に対してそこまで期待をしていないように見える。演技のレッスンも自費で受けているというし、教育等の投資額もそれほど大きな物ではないだろう。
 ならば誠意を示して交渉すれば、トラブルもなく移籍が成立するかもしれない。
「私の一存で決められることじゃないけど、それほど大きな額じゃなければうちの事務所が違約金を肩代わりすることもできるかもしれないし。うちの事務所はタレントの希望第一だから。その分仕事が取れるかは本人の頑張り次第だけどね」
 若葉と同じ事務所で働けるなど、莉緒としては願ってもない申し出だった。
「でも、どうして、そこまでしてくれるんですか……?」
 いくら慕っているとはいえ、まだ数回しか会っていない莉緒に若葉がそこまで親切にしてくれる理由が分からなかった。
「それはもちろん、貴方に期待しているからよ」
「えっ……?」
「ルックスもいいと思うし、貴方の出演してたネットドラマも見てみたわ。まだ表現の幅が足りないところもあるけど、磨けば光ると思う」
「本当、ですか……?」
「ええ。それに、私の演技を見てこの世界に入ったなんて言われたら放っておけないもの」
 彼女の言葉を聞くうちに、莉緒の目からは涙が溢れていた。
 実を言うと、莉緒は入る仕事や事務所との関係だけではなく自身の才能にも不安を抱いていた。望む仕事が来ないのは自分に才能がないからではないか、いくら努力をしても報われないのではないか。そんな風に思うようになっていた。
 それを他の誰でもない、目標としている若葉に才能を認められて嬉しくないわけがなかった。
「若葉さん、私っ……」
 気付けば、莉緒は若葉に深く頭を下げていた。
「莉緒ちゃん……」
「ありがとうございます、私、私……!」
「もう、おおげさね。私は思っていることを言っただけよ?」
「でも、私嬉しくて……。若葉さんが私の出ていたドラマまで見ていてくれたなんて……」
 感動のあまり、最後の方ははっきり聞き取れないほどの震え声になっていた。
「とにかく、分かってくれた? 私があなたに期待していて、うちの事務所に来てくれたらもっと輝かせられると思ってるってこと」
「はいっ!」
 ここ数ヶ月出していないような元気に満ちた声で莉緒は答えた。
「じゃあ、莉緒ちゃんがそれでよければまた改めて私の方から連絡するね。うちの社長にもお伺いを立てなきゃいけないし、そっちの社長さんにも話を通さなきゃいけないから」
 まず若葉が動いて、その結果を莉緒は待つということで話はまとまった。その後は二人とも今日は仕事がないので、他愛もない雑談をして過ごした。
(やっぱり若葉さんに相談してよかった。きっと、これで全部上手くいくよね)
 久方ぶりに悩みから解放され、心から楽しい時間を過ごすことができた。

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