水泳女子、絶対零奴

著者: 舞条弦

電子版配信日:2023/09/22

電子版定価:880円(税込)

(い、や……熱くて硬いのが……入ってくる、あっ)
くり抜かれた競泳水着の股間から処女膜を貫く剛棒。
水泳部の孤高のエース・氷室綾瀬──唯一心を開く顧問を守るため、
悪魔教師に純潔を奪われ、綾瀬を妬む副部長・佐子の言いなりに……
潮吹き調教、露出マゾ犬散歩、輪姦ビーチ──すべてを喪う暴虐の一週間。
屈辱アクメの数だけ露わになる牝の顔──水泳女子、魔悦陥落。

目次

第一章 日常崩壊 わたしの大好きなせんせい

第二章 公開蹂躙 わたしの人権が消えた日

第三章 三孔屈服 わたしの孔は皆の玩具

第四章 露出調教 わたしの新しいご主人様

第五章 輪姦地獄 わたしの大嫌いなせんせい

第六章 幸福絶頂 わたしの最愛のともだち

エピローグ

登場人物

あやせ 女子学生

さこ 女子学生

本編の一部を立読み

第一章 日常崩壊 わたしの大好きなせんせい


 職員会議を終え、久保田将司は足早に廊下を歩いていた。生徒たちとすれ違うたび「また明日」「気をつけて帰るんだよ」と声を掛ける。部活動を終えた子供たちからは、青春の香りと言うべきか、どこか青臭い汗のにおいがした。
「あ、久保田センセ」
 廊下の曲がり角から少女が姿を見せる。久保田が受け持つ水泳部副部長の柴田佐子だ。久保田が「おつかれ」と微笑みを向けると、佐子は唇をキュッと結んで視線を逸らす。栗色をした髪から覗く耳朶が、ほのかに朱く染まった。
「え……えっと、あの。職員会議終わったんですか?」
「ああ、ようやくな。今から行こうとは思ってたんだが……部活に間に合わなくてすまん。柴田がここにいるということは、部活は終わったのかな」
「はい。……あ、でも……まだ綾瀬が残ってると思います。ちゃんと声は掛けたんですよ? でもあの子、我儘でジコチューだから。用事があるから残るって、その一点張りで。待っててもアレなんで、解散しました。間違っていますか」
 少女は口早に言う。眉間や肩に力が入って、その声には明らかに不快な感情が滲んでいた。久保田は迷わずに、佐子が望む言葉を与える。
「柴田は正しいよ。要領が良くてリーダーシップがあるからって、面倒な役ばかり押しつけて悪いな。いつもありがとう。氷室には俺から注意しておくよ」
 少女の口元がふっと緩む。佐子が部長の氷室綾瀬に抱いている感情は、あまり快くない類のものだ。だが生徒同士の問題へ必要以上に口を出す気はない。
「そういえば、栗原先生が呼んでおられたよ。放課後、教室に来なさいって。どこの教室か言ってなかったけど、場所は判っているのかい」
「栗原先生が……」
 少女の相貌が曇る。翳りを帯びた瞳が物憂げに揺れた。
「……判りました。それじゃあ、私はこれで」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
 そこまで言って、しかし佐子の様子が気がかりになった久保田は、言葉を足す。
「何かあったら、すぐ俺に相談するんだぞ。絶対、力になってやるからな」
 我ながら陳腐な台詞だ。複雑な時期にある少女には逆効果かもしれない。だが佐子は反感を抱く様子もなく「うん」と照れ臭そうに笑った。

「す……好きです。付き合ってください。お願いしますッ」
 上擦った声が聞こえて、久保田はプールの入り口でピタッと足を止める。随分と傾いた太陽に照らされて、プールサイドに二人ぶんの人影が伸びていた。声の主は男子水泳部の部員で、その告白を受けるのは――女子水泳部部長・氷室綾瀬だ。
「僕、ずっと氷室さんのことが気になってたんだ。そ、それで、想いを伝えたくて。……あっ、も、もちろん、返事は今すぐじゃなくても、いいんだ。でもとにかくその、好きってことだけは、言っておきたくて」
「そう」
 綾瀬の声が短く響く。静かで抑揚がなくて、名前の通り氷のような、感情のない声色だった。そこから少女の胸裏を汲むのは極めて困難であろう。
「そう……って。え……それだけ? ほ、ほかに何か……ないの?」
「だってわたし、あなたのことよく知らない。あまり喋ったこともない」
「そりゃそうだけど……でも、そもそも氷室さんは誰とも喋らないじゃないか」
「誰とも喋らないわけじゃない」
 聞いている側が悶々とするような、ぎこちない会話に、久保田は顔をしかめる。今すぐ飛びだして仲裁してやりたいが、生徒の告白に割りこむ教師など最悪だ。
「話は終わりでいい?」
「そ、そんな。せめて何か感想を……い、いや、それも変な話だけど。でも、こんなのあんまりだ。ゆ、勇気を出したのに……これで、終わりなんて」
「わたし、あなたのこと好きじゃない」
 決定的な一言が少女の口から紡がれる。しん……と辺りを静寂が満たした。「そ、そっか」と搾りだされた少年の声は、教師が泣きたくなるほど震えていた。頼りない足音が聞こえてきて、久保田は物陰に身を隠す。周囲を気に掛ける様子もないのか、教師に気づく気配は少しもなく、少年は背中を丸めて去っていった。
「……氷室」
 やや間をおいて、久保田は少女の名を呼びながら姿を見せる。何を思うのか、告白を断った少女は、プールの中央でぷかぷかと浮いている。首に掛かる程度の黒髪が、水面で放射状になって揺れていた。その瞳が久保田の姿を捉える。
「なんでまた、水の中に入ってるんだ。部活は終わりだぞ」
「身体を冷やしたくて。人に告白されて、緊張して、火照ったから」
 その表情は緊張とは無縁に見えるが、綾瀬は冗談など言えない。そんな器用さがあるならば、あれほどぎこちない会話にはならないだろう。
 滑らかに泳ぎ、少女はプールサイドに上がる。競泳水着を纏う肢体は細くしなやかで、川で沐浴していた猫が陸に上がるような光景にも見えた。綾瀬は「来て」と呟いて、ひたひたと足音を鳴らして隣を通り過ぎていく。
 何を求められているのか理解して、久保田はごくりと喉を鳴らす。競泳水着の食いこんだ桃尻に視線を遣りながら、少女の後を追って部室に入った。
「せんせい」
 扉が閉まってすぐ、綾瀬は瞼を伏せて、無防備な顔を晒した。朱唇が紡ぐ短い一言が、大して抑揚もないというのに、やけに蠱惑的に響く。
「は……早く、身体を拭かないと風邪引くぞ。体調を崩したらどうするんだ。試験も近いし、夏には最後の大会もあるのに。というかもう、下校時刻が」
「してくれれば、すぐに帰るから」
 更衣室も兼ねているために、窓は遮光カーテンで遮られ、外から目撃されることはないだろう。教師は諦め、ベンチに置いてある綾瀬のタオルを手に取る。早くしないと風邪を引くかもしれないから、仕方がない。そう自分に言い聞かせて――久保田は綾瀬の首にタオルを掛けながら、そのまま唇を重ねた。
「んっ……」
 綾瀬の鼻から漏れた吐息が、頬をふわりと撫でてくる。唇の表面を触れさせる程度の軽い口づけだ。しかし教師の立場が余計にそう思わせるのか、生徒と及ぶ未成熟なキスは、やたらに牡の欲望を疼かせるのだった。
(こんな現場を見られたら……綾瀬と付き合っていることがバレたら、二人とも終わるのに。綾瀬に誘われると、どうしても我慢ができない……)
 競泳水着と塩素の匂いが、少女の甘い匂いに混じって鼻先を掠める。それは久保田にとっては魅惑の淫香で、股間を滾らせてくる。せめて勃つな。お願いだから勃つな。頼むから勃つな……念じながら、綾瀬が満足するのを待った。
 やがて唇が離れる。薄く細い唾の糸が、名残惜しむように伸びたあと、ぷつりと途切れる。色っぽく濡れた綾瀬の瞳が、じぃっと久保田の目を見つめる。このままでは、これ以上先に進んでしまう――久保田は咄嗟に話題を切りだした。
「さっき告白されていたが……あの対応は、ちょっと酷くないか。彼は悪い子じゃないし、凄く勇気を出して、想いを伝えてくれたんだぞ」
「……いきなり告白されても困る。わたしには先生もいるし。でも教師と付き合っているって言えない。だから余計に、どう反応すればいいか判らなくて」
 綾瀬は居心地悪そうに視線を逸らした。身体を離し、少女はベンチに腰掛ける。久保田も隣に座り、唇に残る少女の弾力から意識を背けて、教師として言う。
「告白されて嫌だったのか? 不快に感じたのか? 彼のことは、嫌いか?」
「嫌じゃない。不快でもない。彼のことは嫌いじゃない。いつも練習頑張っているのは知っている。真面目に取り組んでいるし、たぶん、善い人だと思う」
「だったら、そう言えばよかっただろう。よく知らない――好きじゃない――なんて、あんな風に冷たく返事をしたら、彼も凄く落ちこんじゃうぞ」
「恋愛感情がないのは事実で、余計な期待をさせると申し訳ないから」
 少女は長い睫毛を伏せる。他の誰にも見せないであろう物憂げな横顔に、久保田は鎮まりつつあった心臓がドキッと跳ねるのを感じた。
(そういう表情や仕草を、俺以外の人にも見せればいいのに)
 不愛想、無表情、高慢、人付き合いが悪い、冷徹、一匹狼、クール、……。それらが、氷室綾瀬という少女の世間的な印象だ。
 男目線で見れば、大人びた寡黙な美少女、といったところか。意図せず冷たく尖った言葉遣いは、どこかサディスティックにも感じて一部に人気らしい。だが女子生徒からすれば、その振る舞いは傲慢で我儘に見えるようだ。
「……柴田が怒っていたよ。綾瀬が、部活の時間を破って居残りしてるって。本当は彼に残るよう言われて、そのために部活が終わってもプールにいたんだろ?」
「そう。でも、告白されるから残る、なんて言えない」
「やっぱり……だったら、嘘でもいいから柴田が納得する理由を伝えないと。また誤解されるじゃないか。我儘で他人の気持ちを考えないって思われるぞ」
 綾瀬は応えず、パチ……パチ……と長い睫毛を静かに上下させる。言い過ぎただろうか。「悪い、綾瀬は頑張ってるのに」と気持ちをフォローしておく。
(まさか誰も、想像すらしていないだろうな。綾瀬が本当は、寂しがりだなんて。この子は孤高の狼なんかじゃない。孤独に怯えるウサギなんだって……)
 綾瀬は天才タイプだ。努力をせず、運動も勉強も大抵のことができる。だがその手の人間は往々にして敵を作りやすく、孤独に陥りやすい。他人の考えをうまく理解できず、彼女がいくら友人を欲しても、それは難しくなりがちだ。
 そして孤独になれば、より他人との接し方が判らなくなる。薄暗い悪循環だ。同じような青春時代を送ったから判る。そして似たような境遇を経験したがゆえに、こうして綾瀬を深く理解することができた。かといって――まさかここまで懐かれて、恋人にまで発展することになるとは思わなかったが。
「謝ったほうがいい? 先生が命令するなら、わたし、謝罪してくる」
「命令って……」
 久保田の眉間に皺が寄る。その発言から汲みとれる事実は、綾瀬が思考や選択を久保田一人に委ねてしまっているということだ。意思なきロボットが、プログラムでの実行指示を待つように。
(この子は……本当に危うい……。完全に俺に依存して……俺の言葉なら、なんでも聞いて、従ってしまう。俺が言えば、命すら絶ってしまうんじゃないか)
 長年の孤独が原因だろう。他者との適切な距離感が判らぬ少女は、極端な関係しか築けない。一度心を許した相手には、病的なほどに信頼を置いてしまう。再び孤独になることを恐れているのだ。
 それはゾッとするほど危険だ。典型的な、洗脳や詐欺に遭いやすいタイプだろう。もしも将来、変な男に引っかかったら――きっと綾瀬は、男の望むまま振る舞い、自らすべてを差しだし、身体も心も貪られるだろう。
「俺は何も強制しないよ。大事なのは、綾瀬がどうしたいかだ。本当は皆と仲良くしたい――それは君の気持ちであって、俺の気持ちではない。判るよな?」
「でも、今更どう、皆と向き合えばいいのか判らない」
「……よし、なら練習をしよう。言葉に出してみるんだ。自分の気持ちを、望みを、理想を。まずは自分自身と向き合うんだ。いいね?」
 こくん……と綾瀬は小さく頷く。左耳に掛けていた髪が、先ほどまでより少しだけ乾いて、はらりと頬に垂れた。
「友達は、ほしい。部員の皆と仲良くもしたい。副部長の柴田さんに色々と、部のことを押しつけてる自覚もあるし、悪いと思ってる。どこかで皆との関係を、やり直せたら嬉しい。できるなら、もっと感情豊かに、素直になりたい」
 それくらい饒舌に、己の心情を吐露すればいいのに。だが人の心とは厄介で、特に多感な時期に抱いた苦痛やトラウマは、簡単に払拭できるものではない。
「……よし。何事も遅いなんてことないんだ。すぐに変われなくたっていい。大事なのは、ここぞってときに勇気を出すことだ。その準備をしておこう」
「ここぞって、どういうとき?」
「そのときになれば判る。心がざわついて、苦悩に満ちた選択を迫られるときがくる。そのときに、迷いを振り払って、思いきって決断するんだ」
 綾瀬はもう一度、首を縦に振る。その姿を見て微笑みつつも、久保田は思う。
 このまま綾瀬を孤立させ続ければ、彼女は増々自分への依存を深めるだろう。この美しい少女が、世界でたった一人、自分だけを愛して、尽くすのだ。それは一匹の牡にとって、どれほどの愉悦であろうか――なんて。
「先生」
「ん? どうかしたか?」
「わたしを見捨てないで」
 相変わらず抑揚のない、しかしどこか切羽詰まったような、寂寥感の滲む一言に久保田は息を詰める。もしかして、依存しているのは自分のほうかもしれない。教師は生唾を飲んで「もちろん」と言葉を返す。その声は情けなく震えていた。

「はぁ、あっ……あ、ンッ……あ、あんッ……」
 橙色の光に満たされた部屋の中に、艶めかしい喘ぎが響いていた。騎乗位で結合する少女は、栗色の髪を揺らし、汗と一緒に甘い匂いを散らして腰を振る。
「あああんッ」
 毛深い手が上下に躍る肉鞠をむにゅっと掴んだ。無骨な指が勃起した乳首を抓む。一縷の愛情もない、愛撫と呼ぶのもおこがましい乱暴な手淫だ。しかし少女の肉孔はキュッと締めつけを強くして、膣祠を埋め尽くす剛直を噛みしめる。
「相変わらず乳首を捏ねると具合がよくなるなァ! おッ……そろそろ出そうだ。ザーメンが上がってきたぞ。おほッ、出るッ、出る出る出るうッ!」
 醜く太った男は、口角から泡状の涎を噴き、ケダモノの奇声を発して腰を遣る。スプリングを利用した暴力的な抽送に、少女は血管を首に浮かせて咆哮した。
「あっ、やッ、イクッ! あ、イクぅううッ!」
 膨張しきった亀頭が爆発を起こす。ゴムが破れそうなほどの凄まじい射精を受けながら、少女は肩をビクッ、ビクッと何度も跳ねさせた。
 薄く競泳水着の形に日焼けした肌が、ぬらぬらと光沢を放って波を打つ。二人は言葉を発することなく、腰を震わせて悦楽の果てを漂う。だが長々と余韻に浸ることはない。ムードも何も考えない男は、少女の乳房をペチペチと叩いた。
「ぼーっとしてないで掃除しろ。ち×ぽの奥のザーメンも吸いだせよ?」
「ッ……わ、判ってる、から。毎回毎回、同じこと言わないで」
「もう何十回もハメてるわけだしな。くく、流石のお前でも覚えられるか」
 小馬鹿にされて少女はムッと唇を尖らせる。だが反論するのも馬鹿らしくて、結合を解き、ベッドに腰掛けた男の股間に顔を埋めた。
「おお、いいぞ。成績はよくないくせに、ち×ぽの扱いだけは達者だな」
「ちゅ、ンれろ……あまりあたしのこと下に見てると、痛い目見るよ。あんたのやってること、学校に言いつけてもいいんだよ。女子校生脅迫してラブホに連れこんでるってさ」
「そんなことすりゃ、お前が援交してたことも学校と親にバレちまうぞ?」
 男は余裕を崩さない。社会的に終わるのは間違いなく彼のほうだ。援助交際した女子校生と、その援助交際の証拠をゆすりのネタに使って脅す教職者ならば――考えるまでもなく、受ける制裁は後者が大きいに決まっているのに。
「……栗原先生……あんた、本当に最低だよ。前から判ってたけど」
「その最低な男の前で跪いて、ち×ぽしゃぶってるのがお前だぞ、柴田」
 ニヤッと男は笑い、ペニスを脈打たせる。残っていた汁が散って、少女――柴田佐子の鼻先を汚汁で濡らした。濁液の獰猛な熱量に、ぞわっと鳥肌が立つ。
「っ……もういいでしょ。あたし、シャワー浴びてくるから」
「おいおい、もっと丁寧に舐めろよ。まだザーメン残ってるぞ」
 背中を追う栗原の声を無視して、佐子はシャワールームに入った。
 程良い加減の湯を浴びるなかで、ガラス張りの壁越しに、ちらりと教師の様子を窺う。タブレットの画面を観ながら、男はニタニタと分厚い唇を歪めていた。その脂ぎった醜い横顔は、いつ見ても怖気がする。
(……なんで、この男に見つかっちゃたかな……)
 もし、と思わずにはいられない。もし、あの日、援助交際の現場を目撃してくれたのが久保田だったら、きっと親身になって寄り添ってくれただろう。ジュースを奢ってくれて、頼りない外灯の下、公園のベンチに座って優しく話を聞いてくれたに違いない。そんな妄想を何度繰り返してきたことだろう。
 ――何かあったら、すぐ俺に相談するんだぞ。絶対、力になってやるからな。
 教師の言葉が頭に蘇って頬が緩む。同時に耳の辺りが熱を帯びて、幸せな気持ちが空っぽの胸を満たす。だが直後には「いいぞォッ!」という気持ちの悪い歓声が部屋から聞こえてきて、佐子は現実に引き戻された。
(それもこれも……綾瀬の所為じゃん。あいつさえいなかったら。私は部長にもなれたし、水泳部で一番になれたし、援交しようなんてきっと考えなかったし……)
 握り拳を鏡に置いて、下唇を噛む。伏せた瞼の内側に忌々しい記憶が蘇る。
『ねえ、佐子。団体戦なんだけど……今回は氷室入れるのって無理かなぁ』
 部活終わり、水泳部の友人が佐子に言った。いつも通り、佐子は苦笑して返す。
『あたしに言われてもなぁ。綾瀬、どうせ出ないよ。誘っても無駄だって』
『でもやっぱり、一番速い選手入れたくない? 勝ちたいじゃんか』
 ズキズキと胸に痛みが奔る。一番。それは佐子に縁遠い言葉で、氷室綾瀬にこそ相応しい称号だった。自分で綾瀬を誘えばいいじゃん、とは口にしない。
 皆、綾瀬と距離を置いている。そして皆、綾瀬とのパイプ役として副部長の佐子に期待し、頼る。そしてそれが、副部長である佐子の価値なのだ。
『わたし、団体戦、向いてないから。わたし抜きで決めて。そのほうがいい。結果とか、どうでもいいから。好きな選手でチームを組んだら?』
 記憶の中で場面が変わる。プールサイドの端、綾瀬は無感動な表情で佐子の勧誘を蹴った。陽光を浴びた綾瀬の白い柔肌は、痛いほど眩しく映った。
『ッ……あのさァッ……!』
『なに? 問題があるなら、言って』
 真っ直ぐに目を向けて尋ねてくる。喉から出かかった数々の言葉が、食道を逆流していく気がした。この瞳だ。この綺麗な瞳が大嫌いだった。
 綾瀬と会話すると、海の底から太陽を眺めている気分になる。自分は遥か格下の存在で、どれほど必死に手を伸ばしても彼女には決して及ばない。その事実を――ただ視線を交わすだけで、実感してしまう。
 忌々しい記憶を、顔に付着した精液と一緒に洗い流して――と言えるほど頭の中はスッキリしていないが、とにかく佐子はシャワールームを出た。
「おい、おい。今日もなかなか良いモンが撮れたぞ。お前にも見せてやるよ」
 下着姿の生徒を見て、中年教師は待ってましたとばかりに声を掛ける。要領を得ない言葉に苛立ちつつも、佐子は促されるがままベッドに膝をついた。男が何を見ているのか判って「げっ」と声が漏れた。
「まだ女子が着替えてる姿盗撮してんの? やめてって言ったじゃん」
「学校の教師してるんだぞ。生徒を盗撮しないのは失礼だろうが」
「どういう倫理観してンの。ほんとクズだね、あんた」
「そう言うなよ。お前にもいくつか面白い動画見せてやったろ? あの生真面目な生徒会長が外で小便してる動画とか、男嫌いの風紀委員長と陸上部のエースが体育倉庫でレズセしてる動画とかよ。ひひ、あの動画は高く売れたなぁ」
 この男は学校中にカメラを設置し、女子生徒を盗撮しているのだ。そして、盗撮・盗聴で得た情報――つまり生徒の個人情報を誰かに売り捌いているらしい。
「女子校生をヤるのなんて余裕だぜ? 弱みを握り、脅迫する。これでおしまいよ。ありきたりだが、王道だよな。凝った作戦を考える必要はねーんだ。気の弱い女なら、裸や小便する姿を撮影するだけでヤれちまう。この動画をばら撒かれたくなけりゃ――って、そう脅せばイチコロよ。――ていうか、おい。そういう話をしたいんじゃねえ。これだよ、これ。これを見てくれよ」
 よほど興奮しているのか、口角に涎を浮かせ、栗原はぶつぶつと呟いて佐子の肩を揺する。酷い口臭に顔をしかめながら、佐子は画面に視線を落とす。その瞬間、少女は目を見開いて、「え」と声を漏らした。
「……なに、これ」
「な、凄いだろ。こりゃ大スクープだぞ。まさか、うちのエースとイケメン顧問がデキてるとはなぁ。全然気づかなかったぜ。撮影できたのはラッキーだな」
 栗原が満足気に笑うなか、佐子は何も言えず呆然としていた。大好きな憧れの久保田が、大嫌いな氷室綾瀬と、部室でキスをしているのだから。
(な……んで。二人は……付き合って、いるの……? どう……して)
 栗原が動画を早送りする。性行為のシーンを見ようとしているのだろう。だが結局、二人はキス以上のことをしなかった。中年教師は「ちっ」と舌打ちをするも、すぐに醜悪な笑みを取り戻し、瞳をぎらつかせる。
「ちょいとインパクトは薄いが、教師と生徒の不純異性交遊だ。この動画も高く買い取ってもらえるだろうな」
「ま、待ってよ……それで、終わり? これ見ても……何も思わないの?」
 佐子は意識するよりも早く喋っていた。ややあって、自分の発言に思考が追いつく。動画を売る? どこの誰が買うのかは知らないが、それだけで済ますなんてもったいないではないか――と、佐子の思考は展開する。
「何を思うんだよ。別に教師と生徒がキスしていようが、興奮しねぇよ。フェラかセックスでもしてくれりゃ、オカズにはなったけどさ。期待外れだな」
「い、いや、でもさ。充分じゃない? 氷室綾瀬の脅迫に使えるじゃん。これであいつ、無茶苦茶にできるじゃん。脅そうよ、ね?」
「いやいや、やらねーよ。そんなリスク取りたくねーって。俺は盗撮して、情報を売るだけ。脅迫やら何やらは、買った相手がすりゃいい。俺は関係ねぇよ」
 栗原の反応に腹が立った。女子校生をヤるのなんて余裕だぜ、と言ったではないか。佐子のことはキッチリ脅しているくせに。まるで意気地も一貫性もない。
「そう言わずにさ、やろうよ。こいつらの人生……底辺まで落としてやろうよ。ありきたりで王道ってヤツ、やろうよ。脅して、犯して、堕とそうよ。ね?」

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