【安眠】がハズレスキルなわけがなかった。殺されそうになったので強制睡眠で逆襲しても正当防衛ですよね?

著者: イナリリュウ

電子版配信日:2024/02/09

電子版定価:880円(税込)

魔法のある異世界に転移したガトー。神様に貰ったスキルは【安眠】。
効果:気持ちよく眠れる。体力が全回復する。……ゴミスキルかと思ったが、
「自分以外を眠らせる。催眠状態にする」隠し効果が見つかった!
魔力なしの異端者だと拷問してくる公爵令嬢アルセリアに逆襲だ!
眠りに落として純潔強奪、「絶頂するほど好きになる」催眠が効きすぎて、
気の向くままにエッチするうちに、彼女の婚約者になって公爵家がいいなりに。
俺を狙う美少女アサシン、やさぐれ金髪シスター、もう一人の高慢令嬢も俺のものに!
魔力至上主義の世界を、平民の俺がハズレスキルでチート無双!

目次

一章 公爵令嬢アルセリア

第1話 ガトーは異世界転移者である

第2話 【安眠】は対象を自分に限定しない

第3話 睡眠学習の成果

第4話 【安眠】が人にもたらすもの

第5話 愛の学習

第6話 逢い引きの約束

第7話 そういえば処女喪失

第8話 夢叶う

第9話 そしてガトーは生き方を決めた


二章 暗殺者オル

第10話 満ち足りた生活

第11話 暗殺者

第12話 尋問方針

第13話 放置プレイ

第14話 相棒

第15話 『お兄ちゃん』

第16話 処女をもらう

第17話 暗殺依頼者は


三章 不良少女エト

第18話 侯爵令嬢リュディヴィーヌ

第19話 リューの妹

第20話 エトワール・グレイフォックス

第21話 姉妹

第22話 エトの告白

第23話 勝負

第24話 召喚


四章 ヴィヴィアンヌ・バインとぬいぐるみ

第25話 謁見対策

第26話 ヴィヴィアンヌ・バイン

第27話 ぬいぐるみ

第28話 茶巾縛りで開発

第29話 『パパ』

第30話 まったりセックス


書き下ろしSS ダンジョンマスターガトーと夢の迷宮

本編の一部を立読み

一章 公爵令嬢アルセリア


第1話 ガトーは異世界転移者である



スキル:安眠
効果:気持ちよく眠れる。
   目覚めたあと体力、魔力が必ず全快になる。
   事前に設定した時間のあいだは目覚めず眠れる。

 ──ああ、どうしてもっと早く、このスキルを他人にも使えると気づけなかったんだろう!



 なんの取り柄もなく伸び代もなく、戸籍もなかった|我東《がとう》|去秋《さるあき》は冒険者になるしかなかった。
 いわゆる異世界転移者というやつで、神様と話してこの世界に飛ばされたような気がする。
 ものすごくいいスキルをくれるチート転移というやつだ。ガトーの望みを叶えてくれるというそのスキルの名前は【安眠】で、効果は『気持ちよく眠れる』というものだった。
 ハズレ?
 いや、ガトーは大当たりだと思っていた。
 転移前のガトーは睡眠不足だった。眠ろうとしても眠れなかった。疲れ果ててふらふらしていたら駅の階段で足を踏み外して落ちて、そのまま異世界転移になった。
 ガトーにとって質のいい睡眠は本当に大事に思えたから、神様は自分の願いをちゃんと叶えてくれたのだと喜んだ。
 そしてすぐ後悔した。
 中世ヨーロッパ風異世界だから。
 ようこそ剣と魔法のファンタジー世界! ここは魔力が多ければだいたいなんだってできる理想の世界。だからみんな魔力を使っていて、ガトーには魔力なんてなかった。
 ブラック企業勤めのおじさんは魔法使いだったはずなのに異世界で魔法を使えなかったのだ。
 ふらつきながらどうにか人里にたどり着いたガトーは、服装と風体からたいそう目立ってしまい、そうして当たり前のように衛兵に連行された。
 取り調べは苛烈を極めた。ガトーはそこで自分のスキルのすさまじさだけは知った。
 剥がれた爪もむしられた髪も、なくなった片目さえも眠れば綺麗に治る。
 さすが神様からもらったチートスキル。
 ガトーは神に感謝して、すぐに神を恨んだ。
 神の名も知らないガトーが欠損修復レベルの治癒術を扱えると思われて、それはここの世界の宗教の人からすればひどい|冒涜《ぼうとく》だったからだ。
 しかもその技術を他者には使えない。
『治せ』と目の前に差し出されたボロボロの人に、ガトーは馬鹿正直に『治癒術』をかけようとしたから。
 もちろん治癒術なんて使えない。でも、ガトーはなにかしらの努力姿勢を見せれば勘弁してもらえると思っていた。
『自分は異世界転移をしてきた人で、神様からよく眠れるだけのチートスキルをもらっただけなんですよ』なんて素直に言ったら拷問を受けると思ったから。
 だから「治りませんねぇハハハハなんでなんでしょうねぇ」とごまかそうと思った。
 ごまかせるはずはなく、ガトーは『謎の治癒術を秘匿している』と思われてより苛烈な取り調べを受けることになった。
 そんな時に誰かがガトーの噂を外に流したようで、彼を救う人が現れた。
 まだ子供と言ってもいいその少女は、おびえるガトーに優しく手を差し伸べて、「ここから出してあげます。うちにいらっしゃい」と微笑んだ。
 女神に見えた。
 ガトーは断る選択肢なんか思いつかないまま、少女の誘いに乗って彼女について行くことにした。
 アルセリア・ターナー公爵令嬢。
 彼女を女神だと思っているのはガトーだけではなかった。世間でも彼女は神の遣い、いや神そのものだとかいう噂がある、いわゆる『聖女』なのだった。
 困っている人を放っておかず、孤児たちにパンを与え、社交界でもたくさんの花を贈られ、女性たちからも人気があり、歳上も歳下も憧れ、将来は国の第一王子と結婚して王妃になるだろうと言われていた。
 みんなそれを望んでいた。こんなに優しく、可憐で、気高い少女が王妃になれば、きっと国は安泰だろうと口々に噂した。
 ガトーはしばらくアルセリアのそばに仕えてこの世界の常識を学び、そうして優しいアルセリアに微笑みを向けられるたび、『きっと、この子の役に立とう』という誓いを新たにした。
 アルセリアはきらびやかなピンクブロンドの髪を持つとても美しい少女なのだった。
 まだ背は低いけれどドレスの胸元をおしあげるふくらみはこの時点でもう相当なものだったし、顔の前で手を合わせて小首をかしげながら上品に微笑むと背景にキラキラした効果が見えるような気さえした。
 はっきり言って、ガトーはこの少女を抱きたかった。
『旦那様』なんて呼ばれていちゃらぶセックスをしたかった。
 身元不明の異世界おじさんと聖女と名高い公爵令嬢が釣り合うわけがないのはわかっていた。
 なによりアルセリアには婚約者がいて、そいつは第一王子だ。
 一ミリも芽がない。
 わかっているけれど、『夢を見るぐらいは許されたっていいじゃないか』とガトーは罪深さを覚えながらアルセリアで何度か抜いた。
 この歳下の美しい少女を幼妻にする妄想はとてもよかった。
 そんな日々が半年ほど続いたある日、真夜中にアルセリアから呼び出された。
 ガトーはすっかりアルセリアの側仕え従者みたいな立ち位置になっていたけれど、それでももちろん寝床は別だし、勤務時間外に呼び出されるなんていうことは今までなかった。
 そしてそろそろこの世界のことをわかりつつあったガトーは、『貴族の女の子が夜に男性を呼び出す』ことの意味を想像できた。
 セックスだ。
 秘密の逢い引きという言い方があるけれど、まあつまり、セックスだ。
 もしかしてアルセリア様も俺のことを……と喜び、挙動不審になりながら、ガトーは呼び出された場所に行った。
 そして、公爵の私兵に取り押さえられた。
「無能」
 引き倒されているガトーに、アルセリアはそう言った。
 でも最初、ガトーにはその声が誰のものかわからない。だってアルセリアの声はもっと優しくて、あたたかくて、ふわふわしていて、それで……
「あなた、本当に魔力がありませんのね。欠損さえ一夜で治すというから、どんな力を秘めているかと思ったのに……まさか、いくら調べても本当に魔力なしだとは思いませんでしたわ」
「え、あの」
「汚らわしい」
 アルセリアの顔は醜くゆがんでいた。
 見間違いだと思いたかった。公爵邸とはいえ夜は暗いし、ここらは邸宅から離れているから明かりもあまり届かない。だから影がこう、変な感じになって、それで……
「魔力なしのゴミが、よくもわたくしに手間をとらせてくれましたわね。……あなた、わたくしの胸をじっと見て、おかしなことを考えていたでしょう? 気づかれていないとでも思いました? 本当に気持ち悪い……」
「え、あ、その、で、でも……」
「あなたの使い道を考えましたの。けれど、一つしか思いつきませんでしたわ。あなたは、わたくしの『的』にすることにします。将来は殿下について戦場に立つこともあるかもしれませんからね。今のうちに、人の傷つけ方を練習しておくのは、良妻として必要な花嫁修業でしょう?」
「う、あ、あの……」
「あなたみたいな魔力も知識もない下民に使い道を見出して差し上げたというのに、なにか不満なのかしら?」
「それは、えっと」
「【フレア・ボム】」
 アルセリアがガトーを指差してつぶやくと、ガトーの左半身が爆ぜた。
 生存本能がガトーに【安眠】を使わせ、五秒後、覚醒させる。
 するとすぐ目の前に、哄笑するアルセリアがいた。
「アッハハハハハハ! 気持ち悪っ! 本当に治るんですのね! ああ、いい的ができましたわ! ……ほら、こいつに首輪をつけなさい。奴隷の首輪をね」
 冷たい感触がガチンと首にはまって、ガトーはとっさにその輪をおさえた。
 すると全身に痛みが走り、ガトーはビクビク跳ねながら泡を吹き、失禁する。
 いつのまにか仰向けに寝転んだ状態でいたガトーを、ピンクブロンドの髪を垂らしながらアルセリアがのぞきこんでいた。
 口が三日月のようにゆがみ、こんな言葉をつむいだ。
「お・し・お・き」
 その瞬間、またガトーの全身に痛みが走る。
 アルセリアはそれを見てお腹を抱えて笑った。
「理解できましたぁ? 首輪を外そうとすること、そしてわたくしがキーワードを告げること。この二つが『おしおき』の条件ですわよ」
 そのワードに従ってまたガトーの全身を痛みが襲う。
 気絶すると【安眠】が発動し、ガトーの体に残った痛みをすっかり取り去った。
 そして、恐怖して、ガトーはうわずった声で秘密を話した。
「お、俺は異世界転移者でっ……! こうやって傷が治るのは、【安眠】っていうスキルのおかげなんだ! だから、その、それだけ、だから……!」
 とにかくやめてほしいという気持ちが先行して、なにを要求するのかもまとまりきらないまま、衛兵に拷問されても漏らさなかったことを漏らしてしまった。
 正しくは、『漏らしたらおかしいヤツと思われそうだから言わなかったこと』を言ってしまった。
 案の定、アルセリアは桃色の瞳を半顔にして、眉を寄せた。
「……スキル? あなた、なにを言っているんですの?」
 この世界の人は、スキルという概念を知覚していなかった。
「ああ、でも、異世界転移でしたかしら? たまにそういう戯言をほざく貧民の魔無しがいるようですわね。まあ、身元の怪しい妄言を吐く貧民なんて、衛兵が捕まえて処理するでしょうけれど」
「いや、あの、本当に、俺は……!」
「明日から、あなたにふさわしいお仕事が始まりますわ。どうか、わたくしの魔法の練習台になってくださいまし? 『おしおき』が怖いのでしたらね!」
 また、痛みが走る。
 薄れゆく意識の中で、ガトーはアルセリアの哄笑を聞いた。
 悪い夢だと思いたかった。
 目が覚めたらきっと、アルセリアはいつもみたいに微笑んでくれて、それで……



「まったく、お前も災難だったな。慈善家を装う貴族にまともなやつなんかいるわけねぇだろ」
 ガトーは目覚めたら粗末なボロ小屋にいて、世話役の公爵私兵がすぐにパンと水を持って入ってきた。
 私兵は語りたくてたまらなかったようにアルセリアのことを話す。
 そこで語られるのは信じられない話だった。
 孤児院への支援はたまに魔力の高い平民がいるのを見逃さないためで、そうやって見つけ出した魔力の高い平民をどうするのかといえば、いじめ殺すそうだ。
 私兵たちへの八つ当たりもひどく、何人か死んでいるけれど、アルセリアは平民私兵ばかり選んで殺すから、なんの罪にも問われない。
「なんで、そんなことをするんだ?」
 ガトーは純粋に疑問だった。そこまで残酷に平民を嫌うのだから、きっとアルセリアにはひどいトラウマがあるのかもしれないと、そういう夢を見たのだ。
 ところが私兵は「さぁな」と答えた。
「理由なんかあるか? 貴族なんてどこも、こんなもんだろ」
 ここは、中世ヨーロッパ風異世界。
 剣と魔法の世界だ。
 だから魔法の強い貴族は偉いし、平民と魔力に差があるから、貴族が平民を殺してもだいたいおとがめなんかないらしい。
「お前も逆らおうと思うなよ。ちょっとでも長生きしたけりゃな。まあ、死んだほうがマシかもしれんが、やめてくれよ。お前に自殺されると、今度は俺が管理責任を問われるんだ。死にそうになったら全力で止めるからな」
「……」
「ああ、舌を噛むのはおすすめしない。ありゃあ、死ぬのに時間がかかる。そのあいだに見つかるし、そうなるともう、歯を全部抜かれる。まあ、お前は生えるんだったか? じゃあ、毎日抜かれるな。どうか、面倒なことはしないでくれよ」
 衛兵は去っていった。
 ガトーの目の前にはパンと水だけがある。この狭い小屋には毛布もない。小窓もないから、入り口を閉められるともう、なにも外の光景がわからない。
 ガトーを拘束するものは首輪しかなかった。
 手枷も足枷もないのが逆に、『逃げても無駄』というのを暗に伝えられているようだった。
「ごきげんよう。お元気でしたかしら?」
 アルセリアが微笑みながら登場して、すぐにガトーの足を爆ぜさせた。
 高笑いをして警備の兵を小屋の外へ出すと、【防音】とつぶやき、そして手のひらを上に向けて炎をくゆらせながら近寄ってくる。
「あくまでも『魔法の練習』ですからね。……それ以外のお楽しみをしていると外に漏れないように配慮する必要がありますのよ」
『魔法の練習』が始まった。
 ガトーは全身を炭化するまでじっくり炙られた。
 生きてさえいれば全快できる。そしてアルセリアは『どうすれば人がギリギリ死なないか』をとてもよくわかっているようだった。
 手慣れた拷問はガトーを限界まで追い詰め、そのたびアルセリアがうっとりとほおを染める。
 本当に心から楽しくてやっているのだと、理解させられてしまった。
 アルセリアにはトラウマはないのだろう。この拷問行為に意味もないし、メッセージもない。
 ただ癖になっているように、悦びになっているように、平民をいじめるのだ。
 その日、ガトーは合計七回、四肢を失った。
 目覚めたらアルセリアはおらず、ガトーの体はこれまであったことが幻であるように綺麗になっていた。
 その日からガトーはアルセリアのお気に入りのおもちゃになって、アルセリアは長い時間をガトーといっしょに小屋ですごすようになった。
 反撃を試みたりもしたけれど、貴族というのは本当に強い。魔法はなんでもできて、ガトーはまだ子供と言えるような少女に手も足も出ずに弄ばれて、いじめられ、いたぶられた。
 ──これが、一生続くのか?
 ガトーは壊れたかった。
 けれど気絶しただけで【安眠】は発動し、心身の状態は全快に戻った。
 もともとない魔力が回復することはなかったけれど、精神のほうは健全になり、苦痛への耐性を得られない。
 だからその日もアルセリアがさまざまな道具を持って入ってきて、紅潮した微笑みを向けてきた時に、ふと、試せる手段の一つとして、こんなことを告げてみたのだ。
「【眠れ】!」
 防音された小屋の中で、アルセリアが糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
 ガトーはようやく、自分のスキルが自分だけを対象にできることを知って……
 この、剣と魔法の世界の人が、自分のスキルになんの抵抗もできないことを理解した。
 逆転の始まりだった。

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