【安眠】がハズレスキルなわけがなかった。覚醒した睡眠チートで敵国の貴族を寝取っても国防行為だよね?

著者: イナリリュウ

電子版配信日:2024/05/10

電子版定価:880円(税込)

異世界転生者・ガトーの得た、【安眠】スキルの隠し能力――
「他人を催眠状態にする」で、王族最強の魔女・イザベラを調教!
眠らせたまま処女を奪い、触手バイブでマゾ墜ち絶頂させて言いなり王女に。
革命には成功したけど、敵国が戦争を仕掛けてきたので、大陸統一を目指します。
外交大使・コレント、百獣王・ケルン、黒エルフ女王・クロエ……
貴族令嬢を寝取りまくって、仲間に引き入れて、最強の国をつくろう!
魔力無し平民・ガトーの、生意気貴族女をわからせる反逆の大陸征服記!

目次

五章 最強の魔女イザベラ

第31話 最強の魔法使い

第32話 戦争の作法

第33話 少女イザベラ

第34話 弱体化開始

第35話 二穴責め

第36話 決戦開始

第37話 戦いの結末

第38話 顛末


六章 外交大使コレント

第39話 トゥイエ国からの使節

第40話 コレント・ホワイト外交官

第41話 戦争しかけられそうになってるので【安眠】チートで大陸統一します。他国の貴族を眠らせて犯しても国防行為だよね?

第42話 褐色少女子宮開発

第43話 あまりにも長い夜

第44話 お茶会と恥辱

第45話 決戦開始

第46話 勝敗の決定権は

第47話 『治療行為』


七章 百獣王ケルン

第48話 トゥイエ王国からの招待状

第49話 マッサージ(弱)

第50話 マッサージ(中)

第51話 マッサージ(強)

第52話 この行為の名は

第53話 幼なじみの友情


八章 ダークエルフのクロエ

第54話 トゥイエ国での日々

第55話 紋様

第56話 十倍希釈推奨媚薬

第57話 食事

第58話 魔力増幅陣

第59話 下の口

第60話 いらだち


書き下ろし特別番外編 悪の女幹部イザベラvs安眠魔法おじさん

本編の一部を立読み

五章 最強の魔女イザベラ


第31話 最強の魔法使い



「アルセリア・ターナー。今ならまだ間に合う。僕から父へ君を許してもらえるように上奏しよう。だから馬鹿なことはやめて、僕の婚約者に戻るんだ」
 ホーリーウッド王国の王城は白いレンガでできた美しい建造物だ。
 白亜の城はしかしただの観光名所ではなかった。堅牢な城門、張り巡らされた堀。跳ね橋を上げてしまえば難攻不落と化す戦闘用の城らしい。へー。
 そんな王城の正門前にたくさんの兵隊を並べて、その先頭にガトーとアルセリアが立っていた。
 相対するのはこの国の第一王子。異世界転移してきた安眠おじさんに婚約者を|NTR《寝取られ》されたエリオット・ホーリーウッドだった。
 アルセリアとは幼いころからの付き合いで、姉弟のように過ごした。
 二人は遊んでいくうちに互いに夢中になり、そして婚約……将来は仲睦まじい王と王妃として国家運営をしていくはずだったのだ。
 アルセリアの婚約者のくわしいディティールについては知らなかった異世界転移おじさんことガトーだが、あとから聞かされると今ごろ背徳感がわいてくる。
 でもこんな巨乳美少女にさっさと手をつけなかった王子側にも責任があると思います。
「アルセリア、君は騙されているんだ! この男は稀代の詐欺師だ! 国を傾けるために外国が差し向けた工作員だ!」
 でもそれってあなたが勝手に言ってるだけですよね?
 ガトーは詐欺師でも工作員でもない。なんか急に来たチート転移者だ。近縁種はブルーギルとかアメリカザリガニだろう。
 ガトーとしては王子様を見て『かわいそうだなあ』という気持ちもわく。
 もちろんアルセリアを手放したりはしないし、今まで抱いてきた子たちを捨てることもしないし、責任をとって処刑されてやろうということもないけれど、『かわいそう』と思うぐらいの良心はあるのだ。
 しかしアルセリアはぎゅっとガトーに抱きついてこんなふうに言う。
「わたくしは真実の愛に目覚めたのです。あなたとの婚約を破棄したこと、後悔などしておりません」
「アルセリアっ……!?」
「それよりも、わたくしの愛するこのお方を処刑しようなどと、エリオット様がそんな乱暴な手段に出るお方だとは思いませんでした」
「それは……しかし、平民だぞ!?」
 ちなみに王様からの呼び出しにはあくまで『謁見せよ』ぐらいのことしか書かれていなかったのだが、ここで王子様が『処刑しようなどと』をまったく否定しなかったので処刑内定が確定してしまった。
 ごまかすとかしろ。それとも『呼ぶ』という言葉を平民に使うと『殺す』という意味になる世界観なのだろうか。異世界ヤバい。
 そしてどんな理不尽なことをしようとしても『平民だぞ』でだいたい説明になるという。
 しかし今のアルセリアはそれでは退かない。ガトーのことに限っては、だけれど。
「平民である前に、わたくしの旦那様なのです」
 その姿は真実の愛に目覚めながらその身を挺して愛しい人を守ろうという気概にあふれており、腕をバッと振ってポーズを決めることによって、ドレスで隠しきれない巨乳がばるんっと揺れて、エリオット王子の視線が一瞬そちらに吸い寄せられた。
 これにはアルセリアが『このスケベ!』みたいな顔でエリオットを見るのだが、そんなミニスカートでおっぱいの谷間が出た薄いピンクのえっちすぎるドレスを着ているのが悪いと思うんですけど。
 おっぱいに視線を吸い寄せられるという男として自然なことを責めるようににらまれたエリオット王子は、バツが悪そうにしながら、空気を変えるように言葉を絞り出す。
「だからそれは騙されていて……!」
「らちがあきません。……将来の公爵家当主の伴侶を処刑しようというのは、我が家への、ひいては三大公爵家への侮辱です。殿下、先にわたくしどもに仕掛けたのは、あなたのほうなのですよ。旦那様は平民である前に、わたくしのものなのですから」
 そういえばリューには『平民と貴族を平等にしましょう』みたいにクーデターの理由を説明したが、そもそも『ガトーを守りたい』という動機で始まったこのクーデター、別に平民の身分を保証しない。
 ガトーは『平民である前にアルセリアの旦那』なのである。
 つまりここに集まった人たちに平民の身分や教育をどうにかしようという気概はまったくない。
 盛り上がっているのはリューだけだ。あとでどう説明しよう?
 王子様はしばらくショックを受けたように口をパクパクしていたが、強い憎悪のこもった目でガトーをにらんだ。
 貴族の共通認識、『なにか困ったことがあったら平民が全部悪い』の発動だ。
「なにか怪しげな術でアルセリアやターナー家を操っているのだな!」
 正解。
「私が必ずやアルセリアを救ってみせる……! 貴様は貴族統治を乱した極悪人として、世界中に轟くような残酷な方法で処刑してやるからな!」
 今なら睡眠学習入りそうだなどうすっかなーと思っていたら、王子様はマントをひるがえしてさっさと城へ戻っていってしまった。
 目の前で跳ね橋が上げられ、王城とガトー助命軍とのあいだに堀が立ち塞がる。
 まさか異世界転移して王様にケンカ売るはめになるとはなあ、とガトーが感慨深く真っ白な城を見上げていると、アルセリアがちょいちょいと袖を引いてきた。
「旦那様、誤解なさらないでくださいね? アルセリアの心に、もう、あんな男はおりません。そもそも、あの男との婚約は家が決めたことなのです。ですから、その……」
 ピンク色の瞳を揺らして言い訳めいたことを並べるアルセリアがとてもかわいくて、ガトーは少女のピンクの髪を撫でながら、おでこに口づけをした。
 アルセリアは頬の色まで髪と目と同じ色に染めて、それからとても嬉しそうに微笑んだ。
「勝ちましょう。王族を全員殺して、旦那様に玉座を差し上げます」
「玉座はいいよ。君が座りなさい」
 面倒くさそうだからね、王様。
 革命の始まりはこのように静かなものだった。



 ホーリーウッド王城内──
 国王派に属する貴族たちと兵たちがひしめく城内で、人の間を縫うようにエリオット王子は『ある部屋』を目指す。
 扉の前にいる使用人に「入るぞ」と告げると、使用人は符丁のノック音で中にいる者とやりとりをしたあと、分厚い扉を開いた。
 これは貴人を待たせておく部屋であり、そのまま狼藉を働いた貴人を閉じ込めるのにも使える場所だ。
 その中に厳重に入れられているのは、エリオットより二つ歳下の妹である。
 エリオットは将来、王となることが確定している。
 ホーリーウッド王国は国王が世継ぎを指名する制度だからだ。
 王に指名された王子はよほどのことがない限り国を継ぐことになる。だから、基本的に王太子殿下というのはなにをしても将来は王様で、そのぶん増長しやすくなるものだった。
 ところがエリオットは部屋の中にいた妹の前に来ると、床に膝をついて、おどおどした目で妹を見上げた。
 妹は靴を脱いでぶらぶらさせていた足を振りかぶると、兄の顔を蹴った。
「無能」
「う、ぐ……」
「役立たず。婚約者を奪われて、交渉にも失敗して、本当にいいところないのね。雑魚王子。ほんっと、こんなのが兄だなんて不幸だわ」
「し、しかし、アルセリアは邪法で操られて……」
「またそれ? 好きよね、『邪法』。理解できないことを『邪法』とか『不思議な力』とか呼んで思考停止してるからアルセリアお姉様に愛想つかされるのよ。イザベラが男だったらこんなことにはならなかったのに。ほんっと、使えない雑魚なんだから、お兄様は」
「おっ、お前なあ! 僕は将来、王に──」
「クーデター起こされてなに言ってんの? このままじゃ玉座どころか処刑台よ。わかってないの? ここまで来て危機感もないの?」
「そりゃあ、お前は罪人だから、革命が成功したら恩赦が与えられると思って気楽かもしれないけどさあ……!」
 エリオットの妹。
 第一王女のイザベラは『罪人』だ。
 さらさらした艶やかな真っ黒いストレートヘアの、人形めいたこの少女は、生まれた時に『ある罪』を犯している。
 その罪のせいでずっと軟禁状態なのだ。
 けれど、イザベラは罪人と呼ばれるのが好きではない。
 漆黒の瞳が鋭く細められ、ゴミでも見るように兄エリオットへと向けられる。
 エリオットはひるんで言葉を止めた。
 イザベラは嗜虐的に目を細める。
「あら? じゃあ、お兄様はこの国難を、イザベラの力抜きでどうにかできるのね? 生まれついて王族さえ殺すほどの魔法を持っていたこのイザベラ抜きで暴徒を鎮圧するのね? その空っぽな頭の中にはさぞかし素晴らしい策略があるんでしょうね。楽しみだわ」
 基本的に血統が優れているほど魔力も多く、魔法使いとして強い。
 王族は当然、最強クラスに強いし、教育もしっかり受けるからたいていの王族が優れた魔法使いとして成長する。
 その王族を、産声でうっかり発動させてしまった魔法によって殺したのが、イザベラ・ホーリーウッド。
 王弟殺しの大罪姫イザベラ。
 間違いなく王国最強の魔法使い。
 その魔法使いが殺意をこめた目で自分を見ているものだから、エリオットはおびえた。
「そっ、そんなことは……」
「だったら言うことあるんじゃないの?」
「……すまない」
「聞こえないわ」
「ごめんなさい、イザベラ様……! 罪人呼ばわりしたこと、お詫び申し上げます! どうか、暴徒を鎮圧するためにお力をお貸しください!」
「……まあまあね。ふん、雑魚なんだからそうやって最初からイザベラの機嫌を損ねないように気をつければいいのよ。じゃ、ここから出しなさい。ガトーだっけ? そいつを消せば終わるんでしょ? アルセリアお姉様を取り戻したら、今度こそ他の男にとられないようにしなさいよ」
「…………わかった。手続きをしてくる」
「はぁ? 先にしてから来なさいよ。なんなの? 王家存亡の危機なんでしょ? ずいぶん無駄な行動してる時間があるのね?」
「……っうう……! この、罪──」
「……」
「……手続きをしてくる!」
 エリオットは立ち上がり、苛立った様子で部屋を出ていく。
 残されたイザベラは、高い椅子に腰掛けて足をぶらぶらさせながら、ぽつりとつぶやいた。
「……そんな覚えてもないことで罪人扱いされちゃ、たまらないわよ」
 イザベラは無能で愚鈍な雑魚兄が嫌いだ。
 というか、弱者が嫌いだ。
 弱いから死ぬくせに、強い者のせいにする。
「平民のガトーね」
 平民は嫌いだ。弱いから。
 けれどアルセリアのそばにいるということは、もしかしてたまに生まれるという魔力持ちの平民だろうか?
「簡単に死ななきゃいいけど」
 イザベラはくすりと笑った。
第32話 戦争の作法



 そういえばここからどうやって戦うのかをガトーは全然知らない。
 数と配置だけ見るならガトー助命軍はもう勝っている。
 なにせ国王派は王城にしかおらず、その王城を助命軍は包囲していた。
 これではどこからも兵糧を入れることができない。つまりこのまま囲んでいるだけで王城内部にいる人員はすっかり飢え死にするのだ。
 まあ、たぶん外部から援軍が来るからそれを蹴散らさないといけないとか、そういうことがあるのだろうけれど……
「いえ、これで全軍集結ですよ。お互いに。援軍もありえません。この場合、それは『遅参』といって、この戦いに参加する資格なしと判断されます」
「じゃあ相手の餓死を待つってこと?」
「そんな、平民への仕打ちじゃあるまいし……」
 本陣はターナー公爵邸で、そこには今、助命軍の首脳が集っている。
 ガトー・ターナーが今回の盟主というのと、あとは立地が理由だ。王都の公爵邸は王城に程近い場所にある。三大公爵の家はそれぞれ王城を北、南東、南西から囲むように存在するのだ。
 なので首脳会議が行われているのはいつもの公爵執務室で、実家のような安心感というか、ガトーにとってはすっかり実家だ。
 そんな中で餓死の可能性を示唆したらアルセリアにはドン引きされた。どうにも平民にするようなことを貴族にするのはありえないほど残酷だと見なされるらしい。貴族くんさぁ……
 まあ今さら言っても仕方ないことではある。
 ここはそういう情勢で、だからこそリューは今回の革命のあとに平民の権利が認められるだろうと夢を見ているわけだ。
 全部リューにいい顔したくてその場その場でありもしないこと言ったガトーのせい。嘘はついてない。そういう可能性もありうるでしょうね(予想)と言っただけだ。
「えーっとですね、旦那様に貴族の戦いをご説明いたします。まず、我らは互いに軍勢を示しました。ここで数の差が圧倒的なようでしたら、そのまま魔法の撃ち合いになります。まあ、その前に降伏するのが作法ですけれど……」
「ああ、魔法の撃ち合い自体はやる可能性あったのね」
「はい。『動員』の段階で差がつくようなら、そのまま押し潰してしまえばいいですからね。しかし、バイン公爵が味方についてくださったことで、我らは『動員』の勝負を乗り越えました。今行われているのは『維持』の勝負です」
「意地(維持)の張り合いというわけか……」
「そうですね。張り合った陣を維持する比べ合いとなります。ようするに兵站や場所の確保の力を競っているわけです」
 翻訳チートも万能ではないのか、ダジャレは伝わらなかった。
 あるいはつまらなさすぎてスルーされた。
「『動員』するだけならいくらでも動員できますけれど、それでは軍として機能しませんからね。しっかり維持できないといけません。これは、十日ほどにらみあって行われます」
「まあ、たしかにそうだな。ここまでが戦略の比べ合いになるのか」
「そうですね。このあとが、貴族の戦いの本領……『質』の戦いとなります。互いに『動員』の力と『維持』の力が拮抗しているのを認め合い、最後には強さを示そうと、そういうことです」
「いよいよ軍がぶつかるんだな」
「……いえ、軍はぶつかりません。特にこういった国内での内戦の場合は。代表者を選出して、一対一の決闘を行います」
「え? そうなの?」
「貴族の軍が本気で魔法を放ち合ったら土地が滅びるので」
 平民主導の革命が起きない理由がわかった。
 魔法がずるい。
「原則的には軍の代表者が出ることになっています。あちらはエリオット第一王子で、こちらは旦那様ですね」
「死ぬが?」
「そうですね。勝負になりません。なので代理を立てることになります。旦那様の代わりにはわたくしが立ちます。家格も強さも関係性も、わたくしをおいて他にいないでしょう」
「……」
 ガトーは魔力がないし魔法を使えないから、弱い。
 なのでまともにやれば死ぬ。
 チートありならわからないけれど、どうにも全軍の見ている前でやる気配なので(じゃなきゃどうやって勝敗を証明するんだって話だ)、目立つところでチートは使いたくない。
 だからアルセリアに任せることにはなるが……
「……王族って強いんだよな? アルセリアは無事に勝てるのか?」
「エリオット王子はお強いですが、わたくしが勝つでしょう。あのお方には覚悟がありません。昔から弱腰なのです」
 まあそれでもアルセリアが傷ついたら【安眠】で回復はさせよう。
 五秒の意識喪失が負けと見なされるかは確認すべきだろう。
「ですので、きっとエリオット王子は代理を立てます」
「王子より強いやついるの? 近衛騎士みたいな?」
「いえ、きっとイザベラ様です。『大罪姫』イザベラ……我が国で最強の魔法使いを挙げるなら、彼女の名前が挙がるでしょう。そういうお方です。なにせ、産声で魔法を使ったとされておりますから」
「詠唱しなくていいんだ」
「魔力が強すぎると、感情の発散で魔法のようになる場合があるのです。イザベラ王女殿下は産声で魔法を放ち、出産の場にいらした王弟様を殺してしまったのだとか……生まれつき、罪を背負ってしまったのです」
「罪に問われるのか」
「亡くなったお方が王族なので」
 いつものやつだ。
 たぶん産婆とかも亡くなっている気がするんですけど。それとも王弟にだけピンポイントに魔法が飛んでいったのか? 『その場で一番偉い人』しか命の勘定に入れないっぽい文化のせいでディティールがわからん。
「……それで、アルセリアはイザベラ王女には勝てそうなの?」
「勝つ覚悟でここにおります」
 言い回しが負けを覚悟している人のそれだった。
 そのイザベラというのはよほど強いらしい。
 ガトーは悩んだ。
 たぶんこの戦争作法は貴族なら知ってるやつだ。
 その上で助命軍にこれだけの数が集まったということは、イザベラとアルセリアの戦いはそこそこの勝率があると貴族たちは見ているということだろう。
 それか『まさかイザベラは来ないだろう』とか『イザベラが来ないように根回しが済んでいるのだろう』とか、あるいは『イザベラって誰?』みたいな貴族ばっかりの可能性。
 ないとは言いきれないのがこの世界の貴族だ。たいていあらゆるものを舐め腐ってるからね、貴族。
 全員がちゃんとものを考えた上で決断しているという前提で考えるのはまずい。
 まあそれはこの世界に限らず前の世界でもそうだった。ガトーはブラックな企業にいたから上司や営業がものを知らないアホみたいなことをやってその尻拭いがまるごと来た思い出には事欠かない。
 今回、もしかしたらアルセリアがその尻拭い役を請け負っているのかもしれない。
 そして誰の尻を拭っているかといえば、根本的にはガトーの尻だ。いやクーデターの流れになってたのは本気でわからないんだけども。
 責任。
 捨て去ったそれが後ろから肩を叩いてくる感触がある。さすがに無視して振り切るのは気持ち良くない。
『責任をとらない』ではなく『気持ちよくないことをしない』というのがガトーの現在の指針だ。なので気持ちよくしよう。
 イザベラ。
 名前からして女性だ。
 だったらどうにかなるかもしれない。接触さえできれば。
「そのイザベラって人と一回顔合わせしたいんだけど、できるかな」
「難しいとは思いますが……いちおう、手紙を書いておきましょう。旦那様が一対一で会うとおっしゃるなら可能性はあるかもしれません……」
 ようするに魔力なしだから危険がないという話だ。
 その代わりこっちは危険。まあ別にいいかという気持ちなのでガトーはうなずいた。
 チートがある。
 チートが効かなかったら? 使う前に殺されたら?
 そういった可能性については当然考える。考えた上で『まあいいか』だ。
 ガトーの力はチートだけ。人から与えられた不思議なパワーが今のガトーのすべてだ。
 もしそれが効かないならその時は『運命だった』で済ませればいい。
 気楽にやろう。
 どうせガトーはこの世界にとって、生態系を乱す外来種。死んだところで誰も困らないし、モヤモヤしたまま生きるよりは死ぬほうがずっといい。
 我慢をしないのがこの世界での生き方だ。
 短絡的に刹那的に、この世界でチート無双する。それがブラック勤めの中で一生懸命働いた末に死んだガトーのゆるぎない方針だ。小賢しく生きるの面倒だしね。

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