この学園が催眠にかけられていると俺だけが知っている

著者: セラ

電子版配信日:2024/03/08

電子版定価:770円(税込)

――目が覚めたら、学園がエロハーレム催眠にかけられていた。
女子は下乳が見えるほどショート丈な制服、朝の挨拶はディープキス。
修学旅行のお風呂は混浴で、文化祭のメイド喫茶ではパイズリご奉仕……
淫らに歪んだこの世界を支配する催眠術師を探す俺の前に、
異変に気がついていたという不思議な黒髪美少女・長崎有紀が現れ……
WEBで大人気の常識改変×催眠ハーレム譚、書き下ろし追加で堂々開幕!

目次

1.この学園はあいつに支配されている

2.チート催眠術師を返り討ちにしたらハーレムに

3.超常現象研究会の天才少女

4.異常な日常の学園生活

5.催眠学園の時間割

6.湯けむりハーレム修学旅行

7. 長崎有紀の憂鬱

8.ご奉仕メイド喫茶のドキドキ王様ゲーム

9.恐怖の女体お化け屋敷

10.ヌード射的

11.美香の告白

12.ローター玉入れ競争

13.脱衣借り物競走、密着三人四脚

14.生徒会長選挙、乱れ公約バトル

15.さよなら、ハーレム学園

番外編1 サプライズプレゼント

番外編2 あぶない水着のプール開き

書き下ろしSS とある生徒の噂話

本編の一部を立読み

1.この学園はあいつに支配されている



 俺の名は渡辺一郎。桜南学園に通う三年生だ。
 俺のクラスは六組、出席番号は三一番だ。なぜわざわざクラスと出席番号も名乗ったのか?
 それは俺が巻き込まれてしまった不思議な出来事を語るうえで必要なことだからだ。本来クラスと出席番号なんて、学園側が生徒を管理するのに便利だから割り振っているだけの、特に意味のないものだ。
 しかし、今回はそれが大きな意味を持った。六組というのは桜南学園では最後のクラスだ。そして、出席番号三一番は六組で最後の出席番号。
 奴は一年一組の出席番号一番から桜南学園の生徒を消しているようだった。つまり、俺が消されるのは最後ということだ。

 事の始まりは、ある雨の日だ。
 傘を忘れていた俺は、急いで帰宅しようとしていた。それがよくなかった。雨で靴が滑り、階段で転んでしまったのだ。
 最悪なことに、階段を転がり落ちた俺は頭を打って大けがをしてしまった。あと数センチぶつける場所が違ったら危なかったと、後日医者が語った。
 しかし幸いなことに、特に後遺症もなく二日ほど入院しただけですぐに退院できた。で、再び学園に通い始めたのだが、そこで奇妙なことに気が付いた。
 うちの学園は、こんなに美人ばかりだったか……?
 桜南学園は、ごくごく普通の共学の学校だったはずだ。男女比は一対一。そのはずなんだが、やけに女子が多い気がする。それに、美人ばかりだ。
 なにか変だ。
 違和感を覚えた俺は、学園内を見回ることにした。すると、驚愕の事実にたどり着く。
 なんと、一年生と二年生がすべて女子生徒になっていた。それも美人ばかりだ。三年生もすでに半数が女子だけのクラスになっている。
 これは明らかにおかしい。桜南学園の生徒たちが消され、美人な女子生徒に入れ替えられているとしか考えられない。そして、それに誰も気が付いてない。
 クラスメイト達にさりげなく話を振ったのだが、誰もこの状況に違和感を覚えていないようだった。学園内だけじゃない。親も他校の友人も誰も気が付かない。
 洗脳、あるいは常識や認識を変える能力。催眠術かそれに類する特殊な能力を持つ者。俺はそいつをチート催眠術師と呼ぶことにする。
 そのチート催眠術師が、周りをだましながら桜南学園をハーレム学園にしようとしている。そうとしか考えられない。そして、俺は頭をぶつけた時にその催眠から解けたのではないだろうか?
 俺はこの事実を警察などに相談しようかとも思ったが、すでに警察も催眠術にかかっている可能性がある。話を聞いてくれないだけならまだいいが、もし相談したら催眠術師に伝わるようになっていたら、俺にかけたはずの催眠が解けていることに気が付かれてしまう。誰かに相談するわけにはいかない。
 催眠術が解けているとバレるわけにはいかないので、いつもと同じように学園に通う。通いながら、さりげなく情報を集めていく。どうやら催眠術師は、出席番号順に桜南学園の生徒を美人女子生徒に入れ替えているようだった。一日に五人ずつだ。一度に多くの人に催眠術をかけられないのか?
 いや、そんなこともないか。町中の人間が催眠術にかかっているように思える。数人ずつしかかけられないなら、これほどの人数にかけるのは不可能だったはずだ。両親や他の学校の友人にもかかっていたほどだし。
 おそらく広範囲に一律の催眠術をかけており、それとは別に個別の催眠術をかける必要があるのではないか? 例えば、それぞれの生徒を別の学園に転校させているなら、一律で同じ催眠術とはいかない。どこかへ引っ越しさせるなら、それも一律の催眠術では指示できないだろう。
 仮に催眠術に何らかの制約があるとしても、かなり強力な能力のように思える。
 問題は、どうやってその催眠術師に対抗するかだ。普通に考えたら勝ち目はない。町中の認識を変えてしまうようなチート能力者だからな。
 逃げるか?
 しかし、逃げたら催眠術に気が付きましたと言っているようなものだ。催眠術を複数の人間にかけて、人海戦術で探されたら逃げ切れないだろう。
 というか、逃げる必要があるか? 催眠術をかけられるだけで、別に殺されるわけではないだろう。殺すなら、催眠術をかける必要はないだろうし。おそらく、どこかの学校へ転校させられるだけだ。
 だが、あまりにも忌々しい。どうやって人を操る催眠術のような能力を手に入れたのか知らないが、それを使って美人女子生徒を学園に集めて侍らせようなど、許される行為ではない。みんな色々進路を悩み、受験勉強を頑張ってこの学園に来たのだ。それを、自分が可愛い女の子に囲まれたいからってだけで転校させるなんて。
 許せん。奴に一泡吹かせたい。
 そう思い俺は、催眠術師に対抗できる手段を探し始めた。
 だが、なかなか対抗手段は見つからない。しかも俺にはもうあまり時間が残されていないようだ。すでに隣のクラスも全員美人女子生徒に入れ替えられてしまった。残りは俺のクラスだけだ。
 だが、催眠術師を見つけることはできた。どうやって見つけたかというと、実に簡単だった。全員可愛い女の子に入れ替わっているのに、一人だけ入れ替わらずにそのクラスに居座っている奴がいたからだ。
 田中一郎。
 それが俺が探していたチート催眠術師の名のようだ。
 中肉中背のさえない奴で、ほとんど周りと会話もしない。しかも何度も学園から抜け出していて、それを誰もとがめない。
 かなり怪しく見える。これでもし催眠術師が俺の目をだます為にわざとそれらしい人間を残していたとしたら、それは俺では見破れない。
 まあ催眠が解けているとバレてはいないはずなので、そんなことをするはずもないとは思うのだが。
 とりあえず田中がチート催眠術師だと信じよう。他のやつを探す時間もない。
 それで、催眠術師に対抗するために催眠術について調べているのだが……。本当に催眠術か? 当たり前だが、催眠術というのはそこまで万能ではない。本当に嫌な事はさせられないし、かからない人も多い。普通の催眠術とは確実に違うだろう。奴の能力を詳しく知りたい。分からないと対抗しようがないからな。
 どうにかして、田中が人を洗脳する場面を観察したい。もし念じるだけで洗脳できるならどうしようもないが、そうではなくて、例えば口頭でなにかを暗示しているなら、盗聴かのぞき見でもすれば大きなヒントが得られるはずだ。
 どうやら田中は、生徒会室で洗脳を行っているようだ。毎日出席番号順に生徒が生徒会室に呼ばれている。そこで俺は、生徒会室に盗聴器か隠しカメラでも仕掛けようと思ったが……高ぇ!
 俺の財布には三千円とちょっとしか入っていない。盗聴器も隠しカメラも買えるわけがない。仕方ないので、録音状態にしたスマホを隠しておくことにした。これで何か聞けると良いのだが。
 人目につかないようにこっそりと生徒会室に入る。意外と簡単に入ることができた。生徒会室は校舎のはずれにあり、生徒会に用がなければだれも近づかない。だから田中も生徒会室を使っているのかもしれないな。
 スマホを生徒会室に隠す。もちろん着信が鳴らないように機内モードにするのも忘れない。機内モードなら電波が入らない。電波が入らなければ着信は鳴らない。これで安心だ。
 しばらくスマホが使えない不便な時間を過ごし、田中が学校から去ったのを確認した後、放課後にスマホを回収した。

 俺は家に帰り、早速録音データを聞いてみることにした。うまく録音できていると良いが……。そう思いながら再生ボタンを押す。

 ガシャン!
 はっ!
 俺はびくりとした。まるで、授業中にうとうとしていたら、急に先生に指名されたときのように。
 意識が数秒飛んでいた。
 飛んでいた意識が戻ってきたのは、地面にスマホを落としてびっくりしたからだ。スマホを拾う。画面の端が少し割れている。
 最悪だ。録音したデータは俺が意識を飛ばす前から数秒進んだ状態で止まっていた。落とした時に再生が止まったようだ。
 ぼんやりした頭で、何故数秒間意識がなかったのか考える。まさか、録音データでも催眠状態になってしまうのでは……?
 俺は危険だと感じ、すぐに録音してあったデータを削除した。

 数日後、ついに俺の番が来てしまった。もはや桜南学園に男子は俺と田中しかいない。いつの間にか、教師も若くて美人な女教師と入れ替わっていた。
 昨日、俺まで催眠術をかけてしまうのかと思ったが、きっちり五人までしか催眠をかけなかったので、端数の俺が最後の一人となって今日まで学園に残った。
 田中が俺を生徒会室に連れ出す。俺は催眠術にかかっているふりをして田中とともに生徒会室に入る。
 一応、催眠術への対策は用意した。録音データで催眠術にかかるということは、奴は声、あるいは何らかの音を使って催眠状態にしていると考えられる。つまり、何も聞かなければ問題ないということだ。
 なので俺は、ノイズキャンセル機能つきのワイヤレスイヤホンを今日一日ずっとつけていた。最近髪を切っていなかったので、髪で隠れてイヤホンは見えないはず。音楽でもかければ、周囲の音は全く聞こえなくなる。これで俺が催眠術にかかることはない。奴が催眠術をかけようとしたら、すぐに音楽を流す。これで防げる。
 問題は、催眠術を防いだところであまり意味がないということだ。催眠術を防いで、そのあとどうする? 学園に来てしまったら、催眠術がかかっていないことがばれてしまう。催眠術を防いでも、結局学園を去るしかない。
 やはり、どうにかして田中を倒す必要がある。なにか方法はないだろうか?考えていると、田中がいやらしい笑みを浮かべながら語りだす。
「くっくっく、ようやく、ようやくだ。やっと俺だけのハーレムが完成する。俺がこの最強の催眠術を手に入れてから、ずいぶんと時間がかかってしまった。しかし、明日から最高の学校生活が始まる。楽しみだ」
 俺は催眠術をかけられないように、それ以上話を聞かずにポケットの中でスマホを操作した。
2.チート催眠術師を返り討ちにしたらハーレムに



 田中は何かを俺に語っている。しかし俺には何を言っているのか全く聞こえない。催眠術対策でつけていたワイヤレスイヤホンで、流行りの音楽を流し始めたからだ。
 それからどのくらいの時間が流れただろうか? 五分か? 一〇分か? ぼんやり田中が何かを語っているのを眺めているだけなので、非常に時間の流れが遅く感じる。
 そしてようやく田中は語るのをやめた。口を閉じたのでそれが分かる。そして一呼吸置いた後、両の手のひらをパチンと打つ。催眠術は終わったようだ。
 しかし俺は、まだ音楽を止めない。そしてポケットからスマホを取り出し、さっきまで録音していた田中の音声の再生ボタンを押した。
 すると、田中の腕の力が突然抜け、手をだらんと下げたままぼんやりとこちらを見つめてくる。もしかして成功か……?
 録音でも催眠術にかかってしまうなら、もしかしたら術者本人にも音声さえ聞かせれば催眠術をかけられる可能性があるんじゃないか? と、急に思いついたのだ。ダメで元々、そのつもりで試してみたんだがまさか成功するとは。
 ぼんやりとした田中をしばらく見つめる。ちゃんと催眠術にかかっているのだろうか? かかっていないなら、俺に何もしてこないのはおかしい。なので恐らくかかっていると思うのだが。そういえば、こいつは俺にどんな催眠をかけようとしていたのだろうか?

 数分後、催眠音声の再生は終わった。すると、田中は生徒会室から出ていく。俺はそのあとをつけることにした。催眠術の内容が気になったからだ。
 催眠音声を直接聞くと俺も催眠状態になってしまうので聞けないが、催眠がかかった人物の行動を確認することで、ある程度催眠術の内容が推測できると考えた。
 田中は学園を出ていく。帰宅か? 距離を取りながらついていく。田中は周囲を見渡し、道を確認しながら歩いていく。あれ? この道は俺の通学路だ。
 もしかして、田中の家は俺の家と近いのだろうか? 俺はこんな奴が近くに住んでいるなんて今まで知らなかったが……。あるいは、俺の近所に何か用があるのか?
 田中はどんどん俺の家へ向かっていく。そして、ついに俺の家の前で足を止める。俺の家の前にはなぜかトラックがとまっており、そこに俺の両親が荷物を積み込んでいる。
 ……うん? なんで荷物を運び出しているんだ? まるで、引っ越しでもするかのように。そこに田中が合流し、両親と共にトラックに乗って走り去っていく。
 え? どういうこと?
 と、思ったらトラックが戻ってきた。びっくりした。両親が俺を置いて田中とどこかへ夜逃げでもしたのかと思った。そう思ったのだが、戻ってきたトラックには全くの別の家族が乗っていた。とても可愛い美少女とその両親だ。彼女たちは俺の家に荷物を運び入れていく。
 ……なるほど、田中はこうやって桜南学園の生徒を入れ替えていたのか。で、俺はどうすればいいんだ?
 両親が田中と共にどこかへ消え、家も知らない家族にとられた俺は途方に暮れた。

 とりあえずその日の夜を漫画喫茶で過ごした俺は、翌朝学園へ行ってみることにした。田中が居なくなって学園はどうなっただろうか? もとに戻っていると良いのだが。
 淡い期待を胸に通学する。しかし、何も変わっていなかった。学園に向かう桜南学園の生徒は皆美人ばかりだ。これをどうやって元に戻せばいいんだろう……? 全員を階段から突き落とすわけにもいかないだろうし。
 教室に入ると、クラスメイトたちが俺を見る。
 な、なんだ? その中から一人の少女が俺に近づいてくる。メガネをかけた真面目で清楚そうな美人だ。名前は分からない。まだ数日前に会ったばかりだからだ。
 どんどん近づいてくるので、俺は思わず後ずさりした。後ずさりする俺をメガネの女子生徒が壁際まで追い詰めてくる。
「ちょっと! 逃げないでよ、挨拶できないじゃない」
「挨拶? おはよ、んっうんんっ」
 挨拶しようとした俺の口を、目の前の少女が口でふさいでくる。要するにキスだ。しかも結構激しいやつ。えっ? なぜ急にキスされたんだ?
「い、いきなり何をするんだ!?」
「なにって、挨拶じゃない。学校でみんなに会ったら挨拶する。常識でしょ?」
 あ、挨拶!? 教室を見ると、そこでは女子生徒同士でも激しくキスをしていた。もしかして、田中の催眠術の影響か? 桜南学園の挨拶はキスですと催眠をかけてあるのだろうか? しかし昨日までそんなルールはなかったはずだ。自分以外の男子とキスしてほしくないから、男子全員を追い出してから催眠が発動するようにしていたのだろうか?
 今日から発動した催眠術はこれだけではなかった。とりあえず俺が見つけた催眠はこれだ。

・キスは挨拶
・学園内に入ったら制服を着替える
・授業内容激変
・催眠術の内容は不明だが、女子生徒からのボディタッチが多い。やたらと胸を押し付けてくる。なんなら胸を触らせようとしてくる。

 まずは制服についてだ。クラスメイト達は一通り挨拶をしたあと、突然教室で着替え始めた。見ていても全然怒られなさそうだったが、もちろん俺は一旦教室から出た。今はいいが催眠が解けたらどうなるか、あとが怖いからな。で、しばらくして教室に戻ったらクラスメイト達はとんでもない制服を着ていた。
 スカートについてだが、かなり短い。階段を上ればもちろん、ちょっとお辞儀するだけでもパンツが見えてしまうほどの短さだ。一応普通に立っていれば見えないが……。
 スカートよりもやばいのがシャツだ。丈がとんでもなく短い。どのくらい短いかといえば、へそどころか下乳が見えるほど短い。このとんでもないエロい制服に皆着替えていた。田中はこの制服をどうやって用意したんだ……?
 授業内容についてだが、普通の授業がエッチな授業に変わっていた。美術はヌードデッサン、国語は官能小説朗読、理科は生物の授業と称してAV観賞。体育にいたっては、どこから連れてきたのかAV女優が教師として現れ、エッチなテクニックを教えるというとんでもないものだった。
 もちろん俺は、それらの授業から抜け出してサボった。ちなみに数学の授業はなくなっていた。多分田中は数学が嫌いだったのだろう。
 チート催眠術師を追い出すことには成功したが、この残ってしまったエロエロなハーレム学園をどうしたらいいのか、俺は頭を抱えた。

 金がない。家もない。
 両親と田中はどこへ行ってしまったのか? このハーレム学園をどうすればいいのか? 考えなければならないことはいろいろあるのだが、それより前に俺はどうやって生きていけばいいのかを考えなければならない。
 もう漫画喫茶に泊まる金も、カラオケで一晩過ごす金もない。仲の良かった友人の家に泊まろうにも、その友人は美人女子生徒に入れ替わってしまった。野宿でもするしかないか……? 飯はどうする……?
 学園から出ても行く当てもないので、校舎内をふらふらしながら時間をつぶす。すると、可愛らしくて背の低い少女が、大きな胸を揺らしながら走って俺の方にやってくる。
 おい、丈の短いその制服で走ると胸が下に零れ落ちてしまいそうだから、走るのはやめなさい。そう思いつつも、俺の視線は揺れる胸と、めくりあがってしまいそうな短いスカートにくぎ付けになってしまう。
 幼い顔立ちでありながら、不釣り合いなほど大きな胸の少女が俺に抱き着いてくる。大きな胸が、俺のお腹のあたりに押し付けられ潰れる。
「お兄ちゃん! 昨日はどこに行ってたの! 探したんだから!」
 お、お兄ちゃん!? こんなに可愛くて胸の大きなロリ巨乳の妹なんて、俺にはいないぞ!? というか、妹が居ない。
 まあどうせこの学園内で起こる不思議な出来事は大体は田中のせいだ。この少女もきっと、田中に何らかの催眠術をかけられてしまっているのだろう。
「え、えーと、妹? 離してくれない?」
「美香」
「えっ?」
「美香って呼んで」
「えっと、美香ちゃん、離してくれるかな?」
「ちゃんは要らない!」
「……美香、離して」
「やだ!」
 ええー、名前を呼んだら離してくれる流れではないのか。
「離したらお兄ちゃんどっか行っちゃいそうなんだもん! 今日は一緒に帰ろ?」
「帰るって、どこへ?」
「もう! 私たちのお家に決まってるでしょ!」
 そう言って、俺の妹を名乗る少女が俺を引っ張ってどこかへ歩いていく。帰る場所もなかった俺は、ついていくことにした。
 美香と一緒にやってきたのは、とあるタワーマンションだった。美香が入り口で暗証番号を打ち込み、中に入っていく。中に入ってすぐのエントランスでは、シャンデリアがきらびやかな光を放っている。コンシェルジュらしき人物もおり、明らかに高級なマンションだ。
 美香はエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。そこで押したのは最上階のボタンだった。
 どうやら美香はこのタワーマンションの最上階に住んでいるようだ。鍵も持っているし間違いないだろう。自分の家なのだから当然かもしれないが、美香は堂々と家に入っていく。俺はそのあとを恐る恐るついていく。こんなにすごい豪邸に上がるのはかなり緊張する。
「お、お邪魔します」
「お兄ちゃん! 違うでしょ、ただいまだよ」
「た、ただいま」
 美香に言われ、俺は言い直す。それにしても、美香はここが俺と美香の家であると勘違いしているようだが何故だろう? 間違いなく田中の催眠術による影響だとは思うが。
 たぶん田中は、ここを自分と美香の家にしようと催眠術を使ったのだろう。しかし、それがなぜか俺と美香の家という認識に変わってしまった。おそらくそういうことではないだろうか?
 田中は美香にどんな催眠術をかけたのだろうか?
 もしあなたは田中一郎の妹だと催眠術をかけたのならば、俺の妹であると思い込むわけがない。今でも田中の妹だと思い込んでなければおかしい。
 桜南学園に通う男子の妹だと催眠術をかけた? なんでそんな変な催眠術を? それともフルネームを使わず、一郎の妹と催眠術をかけたとか? 偶然にも俺の名前も一郎だ。
 わからんな。田中がお前は俺の妹だと美香に催眠術をかけていれば、俺が兄だと間違われることはなかったはずだが……。
 田中の催眠術にはなにかルールがあるのだろうか? それとも単にあまり深く考えずに催眠術をかけていたから、偶然にも俺も条件に当てはまってしまったとか? 分からないが、ありがたくこの豪邸に美香と住まわせてもらおう。お金もないし、ずっと野宿は厳しい。
 少々後ろめたく感じたが、催眠術が解けるまではこの家に住まわせてもらおうと決めた俺は、家の中を見て回る。リビングにある大きな窓からは、俺たちの住む町が一望できる。さすが高級タワーマンションの最上階、眺めは最高だ。
 家の中を歩いていると、気になる部屋を見つけた。大きな本棚がある部屋だ。田中が自分の部屋として使おうとしていたのだろうか? 本棚の中には催眠術に関する本が大量に置かれていた。
 田中が集めた本か? ここに置かれている本を読み漁って、あのチートとも思える催眠術を身につけたのだろうか? もしかしたらここに、催眠術を解くヒントがあるかもしれない。時間があればできるだけ読んだ方がいいかもしれないな。
 置かれている催眠術の本は、単に催眠術の解説だけではないようだ。催眠術を題材にした官能小説、エロ漫画、同人誌等、催眠術に関係あれば何でも集めたようだ。
 ……。
 自身の能力をどう悪用するか、アイディアを得るために本を集めていた可能性もあるな……。

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