「すごいっ、生ハメ交尾っ、気持ち良すぎるっ」
クールな美貌を快楽に歪めて精子をねだる有坂響。
愛する人の牝堕ち姿をカメラ越しに見つめる岩城航。
特殊組織、通称「九課」で秘かに心を通わせる二人。
だが響の任務は、構成員の性欲を解消する「慰安係」。
組織の力で強制的に寝取られる響にざわめく航の心……
エース作家・懺悔にしか描けない「絶対NTR」!
プロローグ
第一話 有坂響
第二話 膣内射精
第三話 慰安任務
エピローグ
本編の一部を立読み
プロローグ
日本がスパイ大国と評されるようになって長い時が経った。各国の諜報員が大手を振って我が国で活動をしているというのだ。
しかしそれを呆けて見届けているだけの楽観主義者だけではない。水際対策として結成された組織が存在する。
しかしそれは表に出る事は無かった。
テレビやインターネットのニュースになる事は無く、ただひたすらに陰から日本を支える者達。
けして称えられる事は無い。時にはテロを未然に防ぎ、殉職したとしても事故死として処理される。
彼らを動かす事ができるのは官房長官からの勅命のみ。
いつしか彼らは『九課』と呼ばれるようになった。
警察や自衛隊の上層部でもその存在を知る者は一握りである。
何名から為る組織なのか。どういった活動を行っているのか。それらは全て厚いベールに包まれている。
噂では幼少の頃から特殊な訓練を受け、さながら現代の忍びのような英才教育の結晶であるとも言われていた。
岩城航(いわきわたる)はその一員である。
年齢は二十八歳。
ぱっと見は何処にでも居そうな青年であった。
現在は都内の大手総合商社に属している。企業スパイに対する防壁となることが彼に課せられた任務であった。社内では少し無愛想だがどこにでも居そうな青年を演じている。しかし裏では喜怒哀楽を全く表に出さない鉄面皮であり、そしてなによりネットワークに精通するエキスパートであった。
岩城は九課の仕事が自分にとって天職であると自覚している。
何者にもならなくて良い。
ただ一つの影となり、与えられた仕事をこなす。
来る日も来る日も、己を擬態して海外の諜報員からの情報を保護する。
それが彼にとっての平穏だった。
静かなること林の如く。動かざること山の如く。そんな言葉を体現したかのような精神は虚無ですらあったが、彼はそんな自分に満足していた。
しかしある日、彼は生まれて初めて心が波立つ感覚を覚える。
出会うべきではなかった。
九課の新人。有坂響。
彼女との初顔合わせの時から嫌な予感はあった。心がざわついた。長い黒髪に切れ長の瞳。細い顎。色白で透き通るような肌。黒い細身のスーツが似合うすらりとした痩身。
彼女はどう見ても美しかった。
それ以上に岩城は彼女の内面に自分と似通ったものを感じて惹かれてしまう。まるで空洞のような心。
鏡写しのような存在。初めてこの星で、同種の生き物に邂逅したとすら感じた。それからというもの、岩城は夜な夜な彼女のことを考えるようになる。
時には響を想ってマスターベーションをすることがあった。性欲など幼い頃から皆無だったはずの彼は、目を瞑ってその顔を思い浮かべて手淫するだけで射精まで至ることができる。
そんな自分の変化に不安を抱きながらも、崩れ始める平穏を食い止めるすべを彼は持たない。
第一話 有坂響
九課のメンバー同士で顔を合わせることはそう珍しいことでもない。スパイ同士にも横の繋がりがあるので、それらの情報を共有することが主な目的だ。とはいえ街に出て食事をとりながらなんて盗聴の危険性が高いことはしない。電話なども盗聴される可能性を排除できない。一番確実なのはアナログ極まりないが直接顔を合わせて安全な場所で会話することだ。
岩城にとって幸運だったのか、それとも不運だったのかはわからないが、有坂響とは情報を共有すべきメンバー同士であり頻繁に接触していた。それも恋人としての関係に成りすまして。
二人は同じ趣味を介して出会って交際を始めた男女という設定が与えられている。なので互いの部屋に行き来することは何ら不自然ではない。とはいえもちろんフリをしているだけなので、実際に肌を触れ合わせるようなことはしない。それでも岩城は彼女が家に来る前は普段よりも熱心に掃除をした。元々必要最低限の家具しか置いていない殺風景な部屋なので埃一つ見逃さない。
土曜の昼過ぎ。予定通りの時間にインターホンが鳴り、そして有坂響を迎え入れる。彼女は派手過ぎず地味過ぎず、年頃の女性がするような流行りの出で立ちを装い街に溶け込んでいた。そんな毒にも薬にもならない服装だが、それでも岩城にとっては眩しく思える。
「お邪魔します」
有坂響が愛想良く笑顔を振りまくのは玄関を通るまでだ。扉が閉まるとその顔からは表情が消える。それは岩城も同じだった。
テーブルに向かい合い座る。互いの前に置かれたコーヒーカップからは湯気が立ち昇っている。どちらも手をつけずに淡々と互いの進捗を報告しあった。
「そちらの監視対象は何か動きを見せたか」
岩城の問いに有坂響は首を横に振る。
「いいえ。静かなものです」
彼女が潜入捜査しているのはとあるテレビ局。メディアを通じて情報を抜いたり操作したりするのは定石である。
「そうか」
続いて有坂響が問い返す。
「そちらは?」
「特に何も無い」
映画や小説と違って、相手も慎重なので迂闊に尻尾を出すことは無い。ましては派手なカーチェイスや銃撃戦などあるはずもない。
九課の仕事はひたすら息を殺しての忍耐。それを岩城と有坂響は十分理解している。そしてそれに対応し続けられる精神力を二人は有していた。
二人の細々とした情報交換はすぐに終わる。しかしそれですぐに解散となれば、もし二人に見張りがついていた場合に不自然に思われる可能性がある。なので少なくとも夜までは有坂響は岩城の部屋に滞在する。
とはいえ岩城は何を話して良いのかわからない。
彼女のことを知りたい。
しかし互いの詮索はしないという暗黙の了解が九課にはあった。
そのラインを慎重に見定めながらも岩城は彼女のことを知ろうとする。
「有坂はこれが初任務と聞いていたがどうだ?」
あくまで先輩として後輩の仕事ぶりを気にするスタンスを取った。
有坂響は背筋を伸ばしたまま答える。
「今のところは問題無くやれていると思っています」
「君は優秀で適正が有る人材だと上からも聞いている」
「期待に応えられるように頑張ります」
「うん。ただ……」
岩城は一つ提案をしようとした。それは何の雑念も無い純然たる任務を円滑に進める為の助言だったのだが、相手が有坂響なので少し躊躇ってしまう。
口を噤んだ岩城に対して彼女が不思議そうに尋ねた。
「どうしたのですか?」
「いや、敬語は無しで良いと提案しようとした。俺達はあくまで表向きは恋人だ。普段のやり取りからいざという時にボロが出てしまうこともある」
そこまで口にすると、岩城は間髪置かずに言葉を付け加えた。
まるで言い訳するように。
「以前も九課の人間と偽りの恋人関係を演じたことがあるが、やはり普段から砕けた様子で話していたんだ」
有坂響は真面目な顔で頷く。
「了解。それでは念の為お互い下の名前で呼ぼう」
「わかった。これからもよろしく頼む。響」
「こちらこそ。航」
じっと視線を合わせた。まるで互いの真意を覗きこもうとしているかのよう。しばしの無言の後、響が言う。
「航が初めてのパートナーで良かった」
「どうして?」
「やりやすい」
「そうか」
「自分と似通っている部分を感じる」
響がそう言ってくれたのは岩城も嬉しかった。彼も同じような印象を響に抱いていたから。
しかし岩城は照れ隠しもあるが、九課としてそんな素直な感想を口にすることはできない。
「俺達みたいな人間は皆こんなもんだ」
「そうかもしれない」
一度は岩城の言葉に納得した響だったが、少し考え込むと口を開く。
「いや、やはり航と私の間には共通点があるように思える」
「例えば?」
「言語化が難しい」
「そうか……」
岩城は薄々とその共通点に気付いていた。しかし答え合わせはしない。この関係に先は無いのだから。
進捗報告は終わったが、まだ解散するまでの時間はある。とはいえ何もすることは無い。
響が質問を投げかける。
「航は今まで私のような仮初のパートナーが居たの?」
「何人かは」
「それではこういった空白の時間はどうしていたの?」
「人によってそれぞれだ。事務仕事を始める奴も居たし、映画を一緒に見たりもした。前任者はゲームが好きで二人でよくやっていたな」
岩城が顔をテレビに向ける。殆どモノが置いていない部屋にゲーム機が所在無さげに佇んでいる。
「航もゲームをするの?」
「いや、一人ではしない」
「そうか」
「響は?」
「やったことが無い。でも興味はある。世間ずれしないように少しでも見聞を広げたい」
「わかった。じゃあそれで時間を潰そう」
岩城の提案に響は無表情のまま頷いた。
そして二人はソファに腰を掛け直して、ゲームパッドを握る。岩城が選んだゲームは初心者でも楽しめる有名な対戦型のレースゲームだった。
「このゲームは名前だけなら知っている」
「ならやっておいて損は無い。先程君も自分で言っていたが、一般社会に溶け込むには趣味や娯楽も必要だ」
「私もそう思う」
ゲームを開始する。響は筋が良いのかすぐにコツを掴んだ。とても初めてのゲームとは思えない程に卓越した指さばきでキャラクターを操る。
「やるじゃあないか」
「これくらいの器用さは九課に必須なのでは」
岩城も響もずっと真顔でゲームを続ける。しかし少なくとも岩城は楽しんでいた。そしてそんな自身に驚きを感じている。
時々ちらりと響の様子をうかがう。真剣な表情。その横顔が妙に鼓動を不穏にさせた。
岩城は確信した。
自分はこの娘に特殊な感情を抱いている。
そしてそれは良くないことだ。
自分が単なる影ではなくなってしまう。
そんな危機感を覚え始めた矢先に、岩城はあることに気付く。響はゲーム内のキャラクターでカーブを曲がる時、上半身が左右に揺れている。
岩城は思わず笑ってしまった。
「くくっ……」
そしてやはりそんな自分に驚愕する。
仕事上ではいくらでも自然に作り笑いをする。そう訓練されたからだ。きっと響も職場では愛想が良いに違いない。
しかし心の底から笑ったのなんていつ振りだろうか。まるで記憶に無い。
そして響は不思議そうに尋ねた。
「……何かおかしかった?」
「いや。何でもない」
「何でもないわけがない。変なところがあったなら指摘してほしい。今後の活動に支障が出るかもしれない」
「カーブを曲がる時に身体が揺れているのがおかしかっただけだ」
二人はゲームを続けながらも言葉を紡ぐ。
「……それは直した方が良いの?」
「いや。一般的にはよくあることだ。そのままで良い」
「わかった」
それからも響はカーブを曲がる度に身体を揺らした。その度に岩城は頬を緩め、そして胸が温かくなるのを感じる。
その感情を、彼は何と呼ぶのかを知っている。
愛らしい。
そう思ってしまっていた。
良くない傾向だ。
彼女の何がこうまで自分の心を揺さぶるのだろう。岩城は不可解にそう思いながらも、響との時間が過ぎていく。
そしてあっという間に解散時刻となった。
「そろそろ終わろうか」
「うん」
名残惜しいと思いながらも、九課としてのスケジュールを破ることはできない。彼は背骨の髄まで機関の人間だった。
部屋を出ていこうとする響を見送りする。
玄関先で彼女は岩城を見上げた。
「すごく楽しかった」
無感情に見えるその表情は、最早無垢にすら見える。
「それは良かった」
「次も時間が余ったら航とゲームをしたい」
「構わない」
会話が途切れると、響はじっと岩城の目を見つめた。頭の中まで覗かれていそうな真っすぐな視線。
なんて美しい瞳だろうと、岩城は吸い込まれるように彼女から目を離すことができない。
響もそのまま動かない。
心拍数が平常時よりも上がっているのを確認する。もう誤魔化すことはできない。自分は響に惹かれている。岩城はそう確信した。
このまま別れたくない。もっと一緒に居たい。そんな感情が彼の胸の中で渦巻く。
「どうかしたのか?」
その問いは同僚としてではなく、一人の男性として発せられていた。
「……別に。貴方だったら良かったのに。と思っただけ」
「何が?」
響は眉根一つ動かさずに言う。
「慰安係の相手が」
岩城の胸に甘酸っぱく広がっていた恋慕の情念に、あまりに苦い毒が放り込まれた。
「……そうか」
彼にはそれだけしか言えない。
男である前に、九課の人間だから。
「それじゃ。次のミーティングで」
響のか細い背中が消え、玄関が閉められる。
岩城は暫くそのまま棒立ちのまま、もう動かないドアノブをずっと眺めていた。そんな彼の胸中は氾濫した濁流のようだ。
早くもう一度響に会いたいという焦がれた想い。
そして彼女が慰安係という現実。
その場でうずくまりたくなる。
しかし幸か不幸か、鍛え上げられた精神がそれを許さない。
涙を流すことも心が許さない。
モノに当たることも、絶叫することもできない。
ただ岩城はしばらく佇んでいた。
慰安係。
九課に在籍する男性構成員をハニートラップから守る為の措置。重要な職務についている男性構成員は、迂闊に女を抱くことができない。
性欲を発散させる時が最も情報漏洩の危険性が高い瞬間である。
それを未然に防ぐ為に、課内に於いて指名制でのフリーセックスが認められる場合がある。
上位の男性構成員から指名された女性構成員に拒否権は無い。
それに響が選ばれたのだ。
当然岩城の心中は穏やかではない。
名状しがたい混迷と苦痛が彼の胸を蝕む。
しばらく立ち尽くしていたが、彼は無意識にパソコンデスクへと向かい九課のデータサーバを探る。
彼はけして上位の構成員ではないが、それでも慰安係の情報はそこまでの機密ではない為に閲覧することができた。
響を指名している男性の名前を確認すると、岩城の胸は余計に息苦しさを覚える。
それは彼に仕事のイロハを教えた先輩だった。
野々村修司。
岩城は他人に対して基本的に好感や嫌悪を持たない。そういう風に訓練され続けた賜物である。自身を含めた人間の全ては機械仕掛けの人形だと思っていた。そんな岩城にさえ心の奥で苦手意識を植え付けた男。
齢は四十を超えた辺りだろうか。
見るからに頑強そうな体躯に、いつもニコニコと笑顔を絶やさない。オールバックの黒髪に角ばった輪郭は大企業の重役めいた風格がある。
その穏やかで懐の深そうな印象を持たせる外見とは裏腹に、蛇のような執着と冷徹さが際立つ仕事ぶり。
彼を一言で表すなら捕食者、だろう。
九課に於いて信頼は厚いのだろうが、岩城は野々村に見つめられると心胆が寒々しく感じてしまう。
よりによって生まれて初めて恋情を募らせた響と、苦手意識を持つ野々村が肌を重ねる。
その事実に岩城は喉元が焼けるような不快感を覚えた。
そのまま椅子に座ったまま岩城は考え込む。常に冷静沈着なはずの思考回路はただ空回りを続けた。
何も思い浮かばない。
気が付けば頭を抱え込んでいた。
背筋が冷たい。
先程まで温もりに包まれていた部屋が嘘のように冷え込んでいる。
岩城は立ち上がり、そして部屋を飛び出た。