本販売日:2024/08/09
電子版配信日:2024/08/16
本定価:1,584円(税込)
電子版定価:1,584円(税込)
ISBN:978-4-8296-7938-8
万引き犯の濡れ衣で隠し部屋に幽閉された市村弘子。
全裸で吊るされ、夫にも見せたことがない菊座を犯される。
抗う心とは裏腹に妖しい快美に惑う美臀が恨めしい。
地下研究所に連行された生贄妻をさらなる悪夢が襲い……
本編の一部を立読み
第一章 生贄幽閉
1
スーパーのなかを巡回しながら、銀次は昨夜のことを思いだしていた。飲み遊んで帰ってきたところを、黒岩と木島に待ちぶせされ、薄暗い路地に連れこまれたのだ。
「銀次、金はできただろうな」
木島がドスのきいた声で言った。黒のスーツに身をつつみ、サングラスをかけてすごみがあった。夜のネオンサインに襟の金バッジが光って、色を次々と変えた。
「待ってくれ。明日には必ず払うよ」
銀次はおびえた声で言った。黒岩や木島に較べれば、銀次はケチな小悪党でしかない。銀次の顔が蒼ざめ、すーっと酔いが消えた。
「うそじゃねえよ。もう一日だけ待ってくれ……明日の夜にはきっと払うからよ」
「いいかげんなことを言うなよ、銀次」
そう言うなり、木島の強烈なパンチが銀次の顔面を襲った。にぶい音がして銀次の体が吹っとんだ。木島はプロボクサーくずれである。そのパンチに歯が砕け、鼻血が噴きだす。
「やりすぎるなよ。木島、フフフ、金をかえす気にさえなりゃいいんだからな」
黒岩がニヤニヤと眺めながら笑った。爪やすりで爪をみがいている。黒のスーツに白い絹のマフラーをたらし、金ブチメガネがなんともキザっぽい。
「大丈夫ですよ、黒岩の兄貴。ちょいと痛めつけてやるだけで」
立ちあがろうともがく銀次の脇腹を、木島は尖ったくつの先で、つづけざまに蹴りあげた。
「や、やめてくれッ、金はつくるよ。明日にはきっとかえすからようッ」
銀次は転がりながら叫んだ。
バクチに手を出したのがいけなかったのだ。まんまと木島のイカサマにひっかかり、気づいた時には百三十万もの借金ができていた。スーパーのガードマンでしかない銀次に、そんな大金をかえせるはずもなかった。だからといって金をかえさなければどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。
「木島、そのくらいでいいだろう」
「へい……もう一日だけ待ってやるぜ。明日には金をつくれよ、へへへ、さもねえと、このくらいじゃすまねえぜ」
グッタリと動かなくなった銀次を、もう一度蹴りあげて木島は笑った。
その黒岩と木島が今夜やってくる……スーパーのなかを巡回する銀次の額に冷汗が滲んだ。なんとかしなくては……だが、百三十万もの大金を今夜までにつくるあてはない。そこら中を駆けずりまわって金を集めても、三十万がやっとだった。銀次はあせった。スーパーのなかで万引きを防止するのが銀次の仕事なのだが、もうそれどころではない。膝がガクガクしてきた。
「金がないとすりゃ、あとは女でカタをつけるしかないですねえ」
行きつけの店のバーテンの言葉を、銀次はふと思いだした。バーテンの話によると、黒岩は異常なまでの女好きで、これまでにも借金のカタに女房をとられた男が何人もいるというのだ。人妻を嬲る異常な性癖があるという。だが、銀次はまだ独り者だ。
金をつくれなければ、かわりに女を……追いつめられている銀次はそう思った。並みの女では駄目だ。黒岩好みの美女で、そのうえ、人妻でなくては……銀次の頭に一人の人妻が浮かんだ。
市村弘子……いつも決まった時間に来る美しい人妻だ。いたずら電話の趣味がある銀次は、こっそり弘子のあとをつけて、いろいろ調べてまわったのだが、思わぬことが役に立ちそうである。
銀次は時計を見た。弘子が買物に来てもいい時間だ。銀次はあわてて店内を見渡した。
弘子がいた。若妻らしいポニーテールのヘアスタイルが果物売り場に見える。ライトブルーのプリーツスカートにチューリップをあしらった白のカーディガン……見るからにさわやかである。
銀次はまっすぐ弘子へ向かって歩いた。心臓の鼓動がやけに激しくなる。これから自分がやろうとしていることを思うと、銀次は極度に緊張した。
銀次は弘子に近づくと、混雑を利用して素早く高級化粧品を弘子の買物バッグのなかへしのばせた。弘子が気づいた様子はなかった。そのまま弘子のあとをつけ、スーパーを出たところで銀次は声をかけた。
「ちょっと待ってください、奥さん」
声が妙にうわずった。
弘子が振りかえる。銀次は思わずドキッとした。深い湖のような黒い瞳でまっすぐ見つめられれば、どぎまぎしない男はいまい。
銀次は手のひらが汗でジットリしてくるのを感じた。その汗をズボンで拭うと、銀次は度胸をきめて弘子を見つめた。
「そのバッグのなかの化粧品、まだ料金をもらってないんですがねえ、奥さん」
スーパーのガードマンであることを示す証明カードをかざして、銀次は言った。
弘子はなにを言われたのかわからない顔をしている。
「なんのことでしょうか……」
「とぼけても駄目ですよ、奥さん。この化粧品はなんですか」
銀次は弘子の買物バッグのなかから化粧品を取りだして見せた。
綺麗に薄化粧してある弘子の頬が、驚きに蒼ざめる。弘子にしてみれば、まったく身に覚えがないのだ。
「そ、そんな……こんな化粧品なんて知りません」
「なに言ってんだよ。現に化粧品は奥さんのバッグのなかにあるじゃないか」
銀次は弘子の手首をつかんですごんだ。
「待ってください。なにかの、なにかの間違いです。本当に化粧品のことは知らないんです」
「万引きする女は、みんなそう言うんだよ。さあ、事務所のほうへ来てもらいますか」
銀次はわざと大きな声で言った。強引に手を引っぱった。
「変な言いがかりはやめてください。あ、ああ、手を離してッ」
銀次の手を振り払おうとした弘子も、人だかりができてくると人目を気にして、
「わ、わかりました。事務所のほうではっきりさせますわ」
と、それ以上逆らおうとはしない。弘子がプライドの高い女であることは、その気の強そうな顔を見た時からわかっている。
ガードマンの事務所は、スーパーの一番奥の倉庫の隅にあった。事務所といっても机ひとつの宿直室のようなもので、銀次が寝泊りしているところだ。
「濡れ衣です。私を犯人あつかいするのはやめてください」
まるで罪人のように机の前へ立たされ、弘子は銀次を睨んだ。身に覚えのない万引き犯あつかいされ、怒りと屈辱に唇が震えている。
その顔もイカスぜ……銀次はそう思った。
「ふざけるな。この化粧品をどう説明すんだよ。綺麗な顔して万引きとは、たいした女だぜ」
銀次は弘子の顔を見つめながら、わざとらしくすごんで見せた。少しでも気を抜くと、弘子の美しさに圧倒されそうになる。
「だ、だから知らないと言っているんです。私、万引きなんかしませんわッ」
「なんと言おうと、ここに三万円相当の証拠の品があるんだぜ、奥さん。警察ざたにすりゃ、マスコミが飛びついてくるぜ。知ってんだろ、奥さん。大学教授やエリート部長の万引きが連日新聞をにぎわせているのをよ」
新聞の切り抜きを見せつけながら、銀次はジワジワと弘子に心理的圧力をかけた。
弘子の顔色が変わった。たとえ身に覚えはなくとも、無実を示す証しはない。弘子の夫が一流会社のエリートの、なかでも飛び抜けた出世頭と知ったら、マスコミはこぞって書きたてるに違いない。弘子の狼狽が、手にとるように銀次にはわかった。
もう銀次のペースだ。余裕が出てきた。
「奥さんだって、そんな思いをするのはいやだろ、フフフ、おとなしく他に隠している物を出しな」
「なにも隠してなんかいません……本当になにもしていないわ」
弘子の声が震え、心の動揺が表われている。他に隠している物を出せと言われても、出しようのない弘子なのだ。そのことを知っていて、わざと銀次は言っているのである。まさか、眼の前のガードマンが自分を万引き犯にデッチあげたなど、知るはずもない弘子だ。
「化粧品の他はなにも隠していないと言いはるんだな、奥さん」
銀次はゆっくりと弘子のまわりをまわった。まわりながら弘子の身体に淫らな視線を這わせる。
チューリップをあしらった白いカーディガンの上からも乳房の豊かさがわかった。ブラジャーをしていない……銀次はそう思った。引き締まった腰からムッチリと盛りあがった双臀へのカーブ、スカートから伸びたふくらはぎへと視線を這わせた。ストッキングをつけぬ素脚は、白く肌理が細やかで欲情をさそう。スカートの下に隠されたムッチリとした弘子の双臀を想像して、銀次はゾクゾクする興奮を覚えた。
銀次は視線を這わせながら、スーツの上着を脱ぐと、ネクタイの結び目をゆるめた。
弘子は銀次の視線に気づく余裕はない様子である。
「一応、身体検査をさせてもらうぜ」
銀次はうわずった声で言った。