隣人妻に溺れて

著者: 懺悔

本販売日:2024/09/24

電子版配信日:2024/10/04

本定価:825円(税込)

電子版定価:880円(税込)

ISBN:978-4-8296-4754-7

俺は隣の人妻・柳田香織さんについてほとんど何も知らない。
挨拶した際に気づかされた、驚くほど豊かな美乳や、
隣室からもれる夜の営みの声が凄く淫らなことくらいしか……
偶然が重なり夕飯にお呼ばれし酔いにまかせて結んだ過ち。
一夜の蜜戯のはずが年上の隣人の魅力に溺れてしまい……
官能小説の新エース・懺悔が贈る、決定版・隣人小説!

目次

プロローグ 美しすぎる隣人

第一話   初体験

第二話   身体の相性

第三話   生で入れて良いよ

最終話   祝福の瞬間

エピローグ 新しい隣人

本編の一部を立読み

プロローグ 美しすぎる隣人

『今月もノルマに乗っていないのはお前だけだぞ』
 夢の中で聞こえたその一言で俺は飛び起きた。やけに息苦しく、鼓動が乱れている。
 背中まで汗を掻いているのは熱帯夜の所為ではない。夜通しエアコンをかけた部屋はひんやりと涼しい。
 それにしても爪先が氷のように冷たい。今年で二十六歳にもなったが今まで冷え性に悩まされたことなどなかった。自律神経の乱れが血行を悪くすることもあると何かで見た。
 俺は呼吸を整える為に大きく深呼吸をすると、これからは就寝の時には靴下を穿こうかと思案する。
 心臓はまだ不穏なリズムを刻んでいた。
 まだ外は若干薄暗い。
 午前六時。
 もうこんな時間に目を覚ます必要なんてないのに、どうしても身体が勝手に起床してしまう。
 働いていた時は二度寝をしたくてたまらなかったのに、今はそんな気分には到底なれない。
 かといって何かをするつもりにもなれなかった。
 しばらく布団の上で呆然とする。
 何かを考えているようで、思考は全く纏まらない。
 何もしなくて良い。
 急いで身支度を整え朝食を摂る必要はないのだ。
 不安に駆られて会議の資料を見直すこともない。
 なのに俺は晴れやかな気持ちにはなれない。
 そのまま十分程虚無な時間を過ごす。
 ようやく心拍が落ち着いてくると思考回路も整ってきた。今日は燃えるゴミの日であることを思い出す。
 他にすることも無いのだからとっとと出してしまおう。そう思って立ち上がると寝巻であるジャージのまま、ゴミを用意してアパートの外に出る。
 真夏は過ぎたが昼間はまだまだ酷暑になることもある今日この頃。それでも朝焼けが眩しい早朝は清涼な空気に包まれていて心地良い。
 ゴミ捨て場は部屋から一分も経たない場所に在る。二階の自室から階段を降りてすぐだ。
 先客は居ない。俺が一番だった。少しだけ嬉しかったが、こんなことで喜んでいてどうすると自嘲する。
 ゴミ袋を指定の場所に放り投げると階段を昇り直した。すると上から降りてくる人影を確認する。
 見るまでもなく、隣の部屋の柳田さんの奥さんだろう。昔からここのゴミ捨てで一番を争うのは俺か柳田さんだった。といっても俺は出勤のついでだったのだが。それが今ではジャージ姿なので、職を失ったことが傍目からも丸わかりなのではないかと少しビクビクしてしまう。
「おはようございます」
 階段ですれ違う時に、互いに朝の挨拶と会釈を交わす。柳田さんも朝見る時はジャージにメガネ、そしてボリュームのある長い髪を後ろで括ったラフな格好をしている。
 それでも目が惹かれるくらいには可憐だったりする。とはいえマジマジと見たことなど無い。
 俺と柳田夫妻は丁度同じくらいにこのアパートに引っ越してきた。三年くらい前だ。丁度俺が新卒で働き出した頃である。
 その頃から柳田さんが結婚していたかどうかは知らない。最初はただの同棲だった可能性もある。
 俺は隣人について何も知らない。職業も、年齢すら知らない。柳田さんの奥さんは精々俺と同い年かもしくは年下だろう。とにかく雰囲気が若々しい。旦那さんもスマートな見た目で背広が似合う人だ。きっと優秀なサラリーマンなんだろうなと勝手に予想している。
 階段の中腹で柳田さんとすれ違う時に、何やらすごくいい匂いがした。早朝のゴミ出しに香水なんてつけないだろうから、きっと彼女本来の香りなのだろう。
 俺は部屋に戻ると、何もすることが無くて愕然とする。
 もうあの会社には行かなくて良い。
 やけに冷房がきつくて、緊張感で張り詰めた職場。
 さてどうしたものか。
 食欲は無い。しかし何も食べないわけにもいかない。俺は何とかヨーグルトだけを腹に流し込んだ。
 習慣だったコーヒーは止めた。胃が荒れるような気がしてならない。働いていた時は中毒のようにガバガバと飲んでいたのに。
 簡単な食事を済ますと手持ち無沙汰となる。何とはなしにテレビをつけた。今日は快晴らしい。一通り全国の天気を紹介すると、スポーツのニュースに移る。海外で活躍している日本人野球選手を紹介した後に、サッカーの話題にも触れていた。
 そういえば自分はサッカーが好きで、よくスタジアムに観戦にも行っていた。離職したら行き放題だと思っていたが、そもそも外出する気分にもなれない。勿体ないなとは思いつつも足が鉛のように重い。
 何かやらないといけないという焦燥感だけが募る。
 とりあえず洗濯をすることにした。
 洗濯機を回している間、ラジオ体操やストレッチをする。なるべく運動不足にはならないようにしたいとは思っているのだが、ジョギングやジム通いをする程の気力は無かった。
 洗濯を終えた衣料を持ってベランダに出る。もうすっかりと太陽が高く昇っており、街を照らしている。
 下を見下ろすと小学生が列を為して登校していた。微笑ましく思う反面、子どもでも行き先があるのに自分は何をしているんだろうという劣等感がちくりと胸を刺す。
 物干し竿に洗濯物を掛けていくと、お隣のベランダも戸が開く音がした。同時に会話も聞こえる。当然パーテーションが設置されているので、隣の様子を窺うことはできない。
「もう。くっついてこないでよ」
「いいだろ」
 きゃっきゃと楽しそうな柳田夫妻が言葉を交わしている。家事をする奥さんに、旦那さんがちょっかいを出しているのだろうか。
 素直に羨ましいと思った。
 俺は生まれてこの方恋人というものができたことが無い。中学高校と男子校でそもそも異性と縁が無く、大学ではそれなりに女友達もできてその中で好きになった人も居る。
 しかし俺が好きになる人は大抵既に彼氏が居た。そういう運命を背負っているのかもしれない。そんな中で一度だけ告白した経験もあるが見事に振られた。
 会社では恋愛どころではなかった。同世代の女性社員も居たが、それらの殆どは競争相手だった。
 隣からは柳田夫妻の楽しそうな会話がずっと続いている。旦那さんも洗濯を手伝っているらしい。
「ねぇ。今晩はグラタンにするつもりなんだけど」
「え・。俺は魚が良いなぁ」
「昨日焼き鮭だったでしょ。とにかくグラタンなんだけど、ブロッコリー入れるけど良いよね?」
「……香織。俺がブロッコリー苦手なの知ってるよな? 嫌がらせ?」
「子どもができた時の食育でパパに好き嫌いがあったら示しがつかないでしょ」
「はいはい。わかりましたよ。頑張ります」
 柳田夫妻の口調はとてもフランクで、どちらも明朗な性格なんだろうなというのがありありと伝わる。
 そんなお隣さんの日常を盗み聞きしながらも、俺は雲一つ無い空を見上げると一人呟くのだった。
「今日も暑くなりそうだ」

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