中性的な美貌に浮かべる不敵な笑み、「九課」の狂犬・赤月沙里奈は、
構成員の性欲を解消する特殊任務「慰安係」に指名される。
相手は同じ部隊の屈強な同僚・火渡。最初は余裕を見せる赤月だが、
組み敷かれて貫かれ、理性とは裏腹に引き出されてしまう女の部分。
想いを通わせるもう一人の同僚・高木の顔を思い浮かべて堪えるも、
儚き抵抗すらも許さない、すべてを凌駕する圧倒的な愉悦が訪れ……
エース作家・懺悔にしか描けない、大好評「絶対NTR」シリーズ!
プロローグ 赤月沙里奈
第一話 慰安係
第二話 アフターピル
エピローグ 眠れない夜
本編の一部を立読み
プロローグ 赤月沙里奈
日本がスパイ大国と評されるようになって長い時が経った。各国の諜報員が大手を振って我が国で活動をしているというのだ。
しかしそれを呆けて見届けているだけの楽観主義者だけではない。水際対策として結成された組織が存在する。
しかしそれは表に出ることはなかった。
テレビやインターネットのニュースになることはなく、ただひたすらに影から日本を支える者達。
けして称えられることはない。時にはテロを未然に防ぎ、殉職したとしても事故死として処理される。
彼らを動かすことができるのは官房長官からの勅命のみ。
いつしか彼らは『九課』と呼ばれるようになった。
警察や自衛隊の上層部でもその存在を知る者は一握りである。
何名から為る組織なのか。どういった活動を行っているのか。それらは全て厚いベールに包まれている。
噂では幼少の頃から特殊な訓練を受け、さながら現代の忍びのような英才教育の結晶であるとも言われていた。
そんな九課の中でも異彩を放つ集団が存在する。
『特務部隊』。
要人警護やテロに対する鎮圧行動が主な活動。しかしそれらが一般国民に知られることは一切ない。そして時には暗殺も行っているという噂も絶えないが、その事実を知る者は九課の中でも、政府高官の中でも一握りだった。
赤月沙里奈(あかつきさりな)もその中の一員である。二十代半ばで特務部隊に抜擢された彼女は圧倒的な射撃スキルを有している。それは長距離の狙撃から、電撃作戦による制圧時の近距離戦まで幅広く適用される。
山中の古めかしい大きな別荘。
まるで昭和の時代に起きた有名な赤軍立てこもり事件を連想させるようなロケーション。
その屋内で今まさに、過激な活動家数名による会合が行われていた。彼らは決して国を揺るがすほどの大規模な集団ではないが、それでも環境の保護を名目に大企業の工場に対して爆発物を使用しようとしている情報が入っている。
日本でテロに類する事件が少ないのは特務部隊が未然に摘み取っているからに他ならない。
「生け捕りにしろ」
別荘の脇の茂みに身を潜める赤月の無線に隊長からそんな指示が入る。
それは彼女の両隣に居る高木亮(たかぎりょう)、火渡剛(ひわたりつよし)にも聞こえていた。まずは高木が率先して二人へ指示内容を復唱する。
「殺すなよ」
「わぁってるよ」
そう返す赤月は明らかにウズウズとしていた。今か今かと発走を心待ちにしている競走馬のようだ。
そんな彼女の様子を一際体躯が大きい火渡がくつくつと笑いながらからかう。
「お前ヤる気満々すぎるだろ」
「ヤらねぇよ。あたしのことを何だと思ってんだ」
火渡が即答する。
「特務部隊随一の狂犬野郎」
「野郎ってなんだ。女だあたしは」
軽口を叩き合う二人に対して、高木が諫めるように言う。
「そこまでにしとけ。突入の準備を行え」
その言葉で緊張感が共有された。
この三人で任務を行う際には高木が後方から指令を出し、赤月と火渡が前衛を務めることが常である。
赤月と火渡が身を屈めたまま、それでいて素早く別荘の壁面に張り付く。そしてハンドサインで突入を開始した。
まずは火渡が窓から催涙弾を投擲する。あっという間に別荘が煙幕で満たされた。
ほぼ同時にガスマスクを着用した赤月が窓を割って突入する。赤外線センサーで目標の位置も捕捉していた。
咳き込んでいる複数の目標に対して赤月はただ無言でテーザー銃を立て続けに撃ち込んでいく。その手際の正確さと速さは神業の域に達していた。電撃の針を喰らった活動家達が短い呻き声を上げながら倒れていった。
そんな彼女に背後から覆いかぶさろうとする巨漢が一人。その動きを感知できない赤月ではない。羽交い絞めにされたら投げ飛ばしてやろうとする。しかしその必要もなく、火渡が突進して巨漢を吹き飛ばした。
「オラァッ!」
同じく頑強な体躯である火渡のタックルは一撃で巨漢の肋骨を数本折り、そして気絶させる。
制圧が完了したかと思いきや、一人足りない。扉に近かった目標が外に出て逃げ出していた。
赤月と火渡が後を追おうとした刹那、別荘の外に出た目標は倒れ込むと脚を抑えて痛みを訴える。
何が起こったのかは赤月も火渡も承知している。外で待機していた高木が狙撃したのだ。サイレンサーを付けた発砲音は、山の中で静かに溶け込む。木々の鳥も飛び立つことすらしない。
催涙弾の煙が晴れ、目標全員に手錠が掛けられると赤月と火渡はガスマスクを外した。
そして火渡が赤月に言う。
「背中にも気を付けるんだな」
「あれくらいあたし一人で対処できた」
「礼くらい言えよ。可愛くねえ奴」
「お前に可愛げ見せて何の得があるんだ」
つっけんどんな態度を見せる赤月に、火渡は口端を歪めながら肩を竦めた。
そんな二人に高木が呆れるように口を開く。
「無駄口を叩いてる暇があったら周囲に気を配れ。回収班が来るまでが俺達の仕事だぞ」
高木に窘められて、赤月と火渡は顔を背け合いながらも「了解」と返答した。
表面上はウマが合っているとは言いがたい三人だが、同世代ということも影響してか現場でのチームワークは高い評価を得ている。
やがて回収班が仕事を始めると赤月達は撤収した。
まずは上司への報告を済ませると、その後はチーム内での反省会である。
小さな会議室での三人の座り方は三者三様だ。赤月はパイプ椅子の前脚が浮くくらいに体重を後ろに掛けて、後頭部に両手を添えて脚を長机に放り投げている。火渡は試合中のボクサーがインターバルの時に腰掛けるような、大股を開いた姿勢を取っている。高木だけが几帳面に背筋を伸ばして行儀よく座っていた。
開口一番に赤月がぶっきらぼうに言う。
「催涙弾を放り投げるタイミングが少し早かった」
それに対して火渡が反論する。
「お前の突入がトロくさいんだよ」
赤月の顔立ちはどこか中性的で美人の類ではあるが、その眉間に険しく皺が寄った。
「あ?」
火渡はあからさまに挑発するように言う。
「少し太ったんじゃねえの? その無駄にでかい乳を取っ払えばもっと俊敏に動けるだろうに」
赤月も負けてはいない。
「無駄にでかいのはお前の図体だろ。目障りだから常に猫背で歩けよ」
任務後のミーティングに限らず、赤月と火渡が会話を交わすといつもこの調子であった。
そしてそれを見守る高木はもう慣れっこである。売り言葉に買い言葉を繰り返す二人を無視して黙々と議事録を作成していく。
「突入時のタイミングに改善の余地有り……と」
そこに火渡が口を挟む。
「赤月にシェイプアップの必要有りとも記載しとけ」
赤月はその言葉に対して、火渡に視線を向けずに中指一本だけを突き出すと高木に提案した。
「なぁ高木。火渡だけチームから外そうぜ。要らねえよこいつ」
「俺が居なかったら今日もお前背後から襲われてたけどな」
「だからあんなもん気付いてたっつってんだろ」
高木は議事録を記録していた端末の電源を落とすと、赤月と火渡それぞれに目を向けた。
「いくら目標が小規模とはいえ、突入は最低二人は居る」
「それはわかってるけどこいつじゃなくても良いだろって話」
赤月は食い下がる。しかし高木は却下した。
「俺達三人の補完性は非常に優れていると査定されている」
その淡々とした言葉を受けて赤月は舌打ちをする。そんな彼女をからかうように火渡が口を開いた。
「そんなお前に朗報だ。俺は近々このチームから離れるかもしれない」
その言葉に真っ先に反応したのはやはり赤月で万歳をした。
「え、マジで? ラッキー」
続いて高木が尋ねる。
「初耳だが。異動願いでも出してたのか?」
「前から教官コースに進もうと思っててな。それが叶いそうなんだ。いつまでも命賭けて最前線でドンパチなんてやってられねぇ」
赤月が鼻で笑う。
「はっ。要はビビったわけだ」
「お前のように頭のネジを失くしてねーんだよ」
過熱しそうな二人の言い争いに高木が割って入る。
「待て待て。喧嘩は後でしてくれ。火渡。それはもう確定事項なのか?」
「ほぼな」
「そうか。残念だが仕方ない。応援してるよ」
火渡が毒気を抜かれたように笑う。
「お前みたいな根っからの良い子ちゃんがどこでどう間違って九課のこんなチームに配属されたんだろうな」
その言葉に赤月が横槍を入れた。
「お前が群を抜いて性格悪いだけだろうが」
火渡はもうお前は喋るなと言いたげにハエを追い払うような手を振る仕草を見せる。そして高木に言葉を続けた。
「と言っても今すぐどうこうってわけじゃねえ。後釜が見つかるまではこのチームの任務に参加すると思う」
「そうか。助かるよ」
あくまで紳士的な高木に対して、赤月は辛辣だ。
「なんだよ。さっさと消えてくれると思ったのに」
火渡が赤月を睨む。
「赤月ぃ。やっぱりお前とは一回決着つけとかなきゃならねえか?」
「上等だよ。いつでもかかってこい」
赤月の挑発に対して火渡が腰を上げると指を鳴らした。
「喜べ。俺が指導する第一号はお前だ」
赤月も立ち上がる。
「泣きべそかくなよ。教官殿」
高木は深いため息を吐くと懇願するように言った。
「お願いだからやめてくれ」
赤月と火渡はしばらく睨み合っていた。その身長差は二〇センチ以上ある。赤月の身長百六十五センチに対して、火渡は百九十センチ近かった。しかし赤月は一向に怯んだ様子はない。むしろ愉快そうに笑みを浮かべている。
身を引いたのは火渡の方からだ。踵を返して退室しようとする。そんな彼の背中に赤月はつまらなさそうに声を掛けた。
「おいおい。逃げんのか」
「お前相手に問題起こして転属がオシャカになっても馬鹿らしい。そうやってキャンキャン吠えてるんだな」
火渡の姿が会議室から消えると赤月は座り直す。そして退屈そうに言った。
「なんだよ。腑抜けやがって」
高木が諫める。
「仲良くしろとは言わないが、私情で任務に支障をきたすようなことがないようにな」
「あたしもあいつも一応プロだ。そんなダサい真似するかよ」
赤月はそう断言すると、身を乗り出して高木に問う。その表情は少年のように無邪気だ。大きな瞳が宝石のように煌めいている。
「なぁ? 実際あいつとあたし、どっちが強いと思う?」
「射撃か? 格闘か?」
「射撃だと高木が一番だろ。そこは認めてる。今日も見せた足だけ狙う狙撃はあたしにはできない」
「銃撃戦でも近距離や屋内での立ち回りなら赤月の方が俺よりも優れている」
「そんで? 格闘なら?」
「俺は赤月にも火渡にも一歩劣るだろうな。赤月と火渡なら……良い勝負なんじゃないか」
そう言うと高木は力なく笑った。
「何がおかしい?」
「いや。どう考えても体格差で火渡の方が強いに決まっている。それなのに赤月のセンスならどうにかしてしまいそうな異常性が改めて頼もしい」
赤月は得意気な笑みを浮かべる。
「重心を崩して投げれば男も女も関係ない。でかけりゃでかいほど、その自重が跳ね返ってくる。あとは急所を狙えば体格差もへったくれもない」
「赤月は中高一本拳で人中を狙うのが得意だからな。あとは鳩尾に膝蹴りを入れるのもよく見る。乱雑な実戦であれほど綺麗に決めていくのはまるで映画のようだ」
「あとは何といっても金的だな。男にはこれが一番さ」
そう言って豪快に笑う彼女の顔立ちは美しい。日本人離れをした彫りの深い目鼻立ちをしている。体型は言うまでもなく鍛錬により引き締まっていた。見た目だけで判断するならそこらのモデルが裸足で逃げるような麗しい容姿である。しかしその中身は虎であった。
高木が立ち上がると赤月に声を掛ける。
「さて。ともかく反省会もこれで終わりだ。たまには打ち上げでもどうだ?」
「お。良いねぇ。一仕事終えた後のビールはたまんねぇからな」
「火渡も誘おうと思っていたんだが……」
既に火渡は会議室を去ってしまっていた。
「良いよ良いよ。あいつが居ると酒が不味くなる」
その言い草に高木が苦笑いを浮かべた。
「別に嫌ってるわけではないだろう?」
「いや? どっちかっていうと嫌いだぜ。いちいち癪に障る野郎だからな。でもまぁ……仲間としてその技量は信頼してるけど」
「チームを預かる者としてその言葉が聞けて嬉しいよ」
そして二人は身支度を済ませてから居酒屋へと向かった。
赤月のペースは早い。どんどんと大ジョッキのビールが運び込まれてきては、それが空になっていく。
高木はそれをマイペースで呑みながら見届けていた。
そんな折に高木は尋ねる。
「赤月はいつまでこの仕事を続けるつもりだ?」
「あ? 考えたこともねぇな」
「例えば結婚して、普通の人間として別の人生を歩みたいなんて思ったことは?」
その問いに赤月は手を叩いて爆笑する。
「あっはっは。あたしが? お嫁さんってか。馬鹿言うなよ。こんなガサツで気性の荒い女を手籠めにしたい奴なんて居るかよ」
そんなことはない。君は十分すぎるほどに魅力的な女性だ、と高木は酔いに任せて言いたかったが何とか堪えた。
高木が赤月に対して、チームメイトとしての信頼や敬意以上の感情を抱くようになったのはいつ頃だろうか。彼自身もその境界線は曖昧だ。いつの間にか女性として赤月に好意を向けるようになっていた。
生真面目な彼はそんな雑念を持ったまま任務に向き合えないと、チームから離れようとしたことが一度あった。
しかしそれを引き留めたのは他でもない赤月である。
『高木のサポートがあたしには必要だ』
惚れた女がそう言ってくれた。高木にとってすぐ傍で彼女を守ることを決意するには十分すぎるほどの言葉だ。
しかし想いは伝えずに今に至る。
勿論彼にとってこのままで良いとは思っていない。
いつかはこの関係性に変化を加えたいとは思っている。しかし中々そのタイミングが掴めないでいた。
「一般的に見て……」
高木は自分の気持ちを悟られない為に、その前置きを殊更に強調する。
「……赤月は十分に美人だし、竹を割ったような性格を好む男も多いと思うぞ」
赤月は笑いながら座敷に寝転ぶとお腹を抱えて転げ回った。
そして笑いが収まると、目尻に浮かんだ涙を拭いながらもう片方の手で高木の背中を気さくに叩く。
「おいおいどうした。あたしを口説いてんのか」
「……そういうわけじゃない」
そういうわけだったのだが、百発百中のスナイパーもプライベートではイマイチ押しが弱かった。彼の放つ恋慕の銃弾は多少弱々しく、赤月の胸を撃ち抜くには至らない。
「あたしを心配してくれてんのか?」
「……まぁ、そういう一面もある」
「確かにあたしもいつかは前線を退く時が来るかもしれないな」
「そうだろう。その時にパートナーは居た方が良い」
「どうしてそう思う?」
「物事を上手く遂行するには補完性が重要だということを赤月も実感しているはずだ」
「確かにな」
彼女は自分のビールが空になっていたので、高木のジョッキに手を伸ばすとそれを一気に飲み干した。そして口元についた泡を手の甲でふき取る。薄くも血色の良い唇が高木をドギマギさせた。
そんな彼の動揺など知る由もなく、赤月が満面の笑顔を浮かべる。
「じゃあさ。お前が貰ってくれよ」
「……は?」
「あたしがこの仕事を辞める時、高木があたしを嫁に貰ってくれっつってんの」
「……酔ってるのか?」
赤月は目を瞑って人差し指を振る。
「ちっちっちっ。良いか。よく聞け。あたしが男に求める条件だ。まず足が臭くない」
「酔ってるな」
「あとは……あたしの背中を守ってくれる奴かな」
「……なるほど。赤月らしい」
「その点高木なら安心だろ。足が臭いかどうかは知らないが」
「今日の現場で赤月の背中を守ったのは火渡だけどな」
「あいつは絶対に足が臭いから嫌だ。ていうかそれ以前の問題だな。あいつ絶対セックス自分勝手だぜ」
「やはり酔ってるな」
「こう見えてあたしはなぁ……お姫様みたいに丁重に扱われたい時もあんだよ」
「そうか」
「なんだよ。笑わないのか」
「赤月も女性だ」
「何だよ何だよ。やっぱあたしのことを口説いてんじゃねえの?」
「客観的事実を述べただけだ」
「客観的事実だ~?」
赤月が高木の肩を組んで密着する。彼女の胸部が豊かに盛り上がっているのは周知の事実だ。特に夏場はタンクトップを好んで着るので、その膨らみは嫌でも視界に入る。
身体が密着した為、高木の肩や背中に赤月の乳房が押し付けられる。いくら鍛えこまれた赤月の身体でも、そこだけはどうしようもなく柔らかい。高木は己が得意とする平常心の維持が困難になるが、何とか表情を引き締める。
赤月は串に刺さった焼き鳥を豪快に噛み取った。そして咀嚼して嚥下すると無邪気な笑顔を浮かべる。
「じゃああたしも客観的事実ってやつを教えてやるよ」
「ありがたいね」
赤月は腕を真っすぐ伸ばして人差し指を高木に突き立てた。
「高木。お前はあたしみたいな女の尻に敷かれてた方が良い!」
「根拠は?」
「女の……いや、違うな。兵士としての勘だ」
「なら信用できるな。赤月は優秀な兵士だ」
「だろ?」
「なら三十歳までお互い独身ならその時は結婚しよう」
冗談めかした言葉だが、高木にとっては多大な勇気を要した。
赤月は勢い良くサムズアップする。
「よしきた! 了解!」
そんな会話の後、飲み会は終了した。
帰り道、赤月は夜空の下でくるくると踊るように両手を広げて回る。
「あー。世界が回ってる。地球の自転を感じるー」
「赤月にしては珍しく結構酔ったな」
赤月は高木の数歩前でぴたりと止まる。酔いを感じさせない平衡感覚は普段のトレーニングの賜物だ。
そして高木に向いてニヤニヤと笑った。
「高木が珍しくグイグイと押してきてくれたからな」
その口調からは、赤月が高木の好意に薄々感づいていたのがわかる。
高木は思わず視線を逸らした。
「酒の席のことだ。忘れろ」
「忘れてやんねー」
そして赤月が夜空に向かって声を張り上げた。
「皆さーん。あたしはさっき、この男に遠回しなプロポーズを受けました!」
高木は額に手を当てて俯く。
「勘弁してくれ」
赤月はケラケラと笑いながらも、愛らしい笑顔を浮かべた。
「おいおい。あたしと結婚するんだから、これくらいで参ってちゃ困るぜ。王子様」
そして赤月から手を差し出すと、高木はそれを握った。
手を結んで歩く二人は恋人にしか見えない。
高木が言う。
「公私混同はしないからな」
「わかってるよ」
「現場で人質の救助とお前のサポートなら、前者を優先する」
「舐めんなよ。一人でも何とかしてやるさ。でも……」
「でも?」
「プライベートであたしが寂しいって言った時は速攻で駆け付けろよ」
「善処する」
「ちぇー。そこは断言しとけよ」
「足は臭くないから良いだろ」
「違いない」
夜の街に、赤月の愉快そうな笑い声が溶けていく。
第一話 慰安係
山中の鎮圧任務から一週間、特に新たな任務はなく三人のチームが顔を合わせることはなかった。そんな中、赤月の元に九課特務部隊の上官からのメールが届く。それを目にした赤月は面倒くさそうにため息を吐いた。一瞬頭には上官の部屋に怒鳴り込んでやろうかとも思っていたが、それをしたところで何も結果は変わらないことは分かりきっているので止めた。赤月はその粗暴な言動に反して非情に合理的な思考回路を有している。だからこそテロリストを相手にした乱戦の中でも常に最適の行動を取れる。
そんな彼女でもメールの内容が上手く頭に入ってこずに、何度も何度も読み返した。
しかし記載されている文面が変わることはない。
赤月はふてくされるように呟く。
「あの馬鹿、とち狂ったのか?」
そして更に数日後の夜、彼女はキツネに化かされているのではないかと思いながらも指定されたホテルの一室へと向かう。
都内でも有数の高級ホテルで、入るなりその絢爛な内装に赤月は眉をひそめた。彼女はその煌びやかな空間を気に入らなかったようだ。
そんな赤月を出迎えたのは火渡である。
「よう。ご苦労さん」
そう声を掛けられた赤月はふんぞり返りながら、憮然とした様子で言葉を返す。
「お前にそんな趣味があったなんて驚きだよ」
「悪趣味だと思うか?」
「いいや? あたしはわりと結構イイ女だからな」
「黙ってればな」
「それにしても教官コースに入って権限を得た途端に慰安係を指名するとはな。それもチームメイトを。どんな面の皮の厚さしてんだテメェは」
慰安係。
九課に在籍する男性構成員をハニートラップから守る為の措置。重要な職務についている男性構成員は、迂闊に女を抱くことができない。
性欲を発散させる時が最も情報漏洩の危険性が高い瞬間である。
それを未然に防ぐ為に、課内に於いて指名制でのフリーセックスが認められる場合がある。
上位の男性構成員から指名された女性構成員に拒否権はない。
「お前の口ぶりには時々本気で苛つかされてたからな。女のくせに前線ででかい顔しやがって」
女のくせに。赤月が散々言われてきた誹謗中傷で、もう怒りはおろか呆れすら浮かばない。
「要するにあれか? 戦績であたしに敵わないもんだから、せめてベッドの上でくらいヒィヒィ言わせてやりたいって感じか? あ?」
「見てくれと身体だけは悪くねえからな。あと勘違いするなよ。任務では俺が猪突猛進なお前のサポートをしてやってんだ」
「はいはい。教官候補生殿。逆らいませんよ」
赤月は皮肉を交えて言うと自ら服を脱いでいった。
すぐさま赤月は下着だけになる。
「色気も情緒もねえ奴だな」
「そんなもんあたしに期待する奴が悪い」
「それもそうだ」
赤月の下着は上下共にスポーティな布地とデザインによるものだった。色はグレーである。
「もっと洒落たもんを着てこいよ」
「動きやすくないと気持ち悪いんだよ」
「ったく。それにしても無駄に良いスタイルだな」
「鍛え抜かれたって言え」
うっすらと腹筋が浮いた腰回りは余計なぜい肉が一切ついていない。四肢に至っても引き締まっている。その中でも胸部だけは女性らしさを強調する圧倒的な膨らみがある。スポーツブラに押し込められているそれは、少なく見積もってもメロンほどの質量を予感させた。
「鍛えてると言っても所詮は女の身体だな」
遅れて火渡が服を脱いだ。
筋骨隆々とした鋼の肉体。
それに比べれば赤月の身体はところどころが丸みを帯びており、スレンダーな女性の域を出ない。
しかし赤月は臆する様子もなかった。
「頭まで筋肉になったら困るからな。あと前線で必要なのは馬鹿みたいにバルクアップさせた筋肉じゃない。大切なのは判断力と俊敏性だ」
「その判断力と俊敏性とやらがベッドの上でも発揮できるかテストしてやるよ」
そう言いながら火渡はボクサーパンツも脱いで全裸になる。
火渡の男性器は既に勃起していた。そしてその肉槍は恵まれた体躯に見合った強大さを有している。厳めしいほどに反り返り、青筋を立てて怒張する男根はあまりに獰猛だった。
それでもやはり赤月の態度は崩れない。
「ち×こまで筋肉の塊かよ。ていうか下着姿見ただけでギンギンにしすぎだ。そんなにあたしを抱きたかったのか?」
火渡はくつくつと笑う。
「そうじゃない。男の職場でちょこまかと鬱陶しいお前を蹂躙したかった」
「ケダモノだな」
「そのケダモノに今から好き勝手犯される心境はどうだ?」
「あたしがてめぇのち×こ如きに屈すると思ってんのか? せいぜい興奮しすぎて早々に暴発して涙目にならないよう気を付けるんだな」
「はっ。こんな時でも口の減らねえ奴だな」
火渡は赤月に近づくと、彼女のスポーツブラを剥ぎ取った。メロンほどはありそうな乳房が激しく揺れながらまろび出る。揺れが収まった胸は綺麗なお椀型で収まった。ツンと上を向いた美爆乳は赤月の気質を表したかのようだ。乳輪の色素は非常に薄い。
「ひっでぇ脱がし方しやがるな。もっと紳士的にできねえのか」
赤月の文句に耳を貸すこともなく、火渡は高圧的に言う。
「ショーツは自分で脱げ」
「へいへい」
赤月は言われた通りにショーツを脱ぐ。その所作に躊躇はなく恥じらいもない。全裸となった彼女は一切の気後れもなく、胸を張って立った。その陰部には一切の毛が見られない。真正面からでも割れ目がうかがえる。
「脱毛してんのか?」
「ムダ毛が生えてんの嫌いなんだよ。なんか邪魔になるっつうか」
「胸もお前らしい生意気な形をしてるな」
「綺麗な形してるだろ? 大胸筋もしっかり鍛えてるからな」
そんな彼女の乳房を、火渡の大きな手が不意に鷲掴みにする。
「その割にはちゃんと柔らかいな」
「当たり前だろ。所詮おっぱいは脂肪の塊なんだから」
赤月の肢体は惚れ惚れとするようなメリハリを有していた。全体的に引き締まっており、それでいてバストとヒップ、腰回りは女性らしさを強く強調している。
火渡はそんな赤月の乳房を無造作にこねくり回しながら尋ねた。
「高木はこのこと知ってんのか? お前が俺に抱かれることを」
赤月は一瞬の逡巡を見せる。
「……なんで高木の名前が出てくるんだよ」
「あいつお前に惚れてるぜ」
勿論先日の飲み会で、赤月と高木はある程度互いの想いを打ち明け合っていた。それでも赤月は知らない振りをする。
「思い過ごしだろ」
「そうかね。お前もあいつにそう思われてたら悪い気はしないんじゃないか?」
赤月は心の中で舌打ちをする。
(デリカシーの欠片もない癖に、変なところで観察力があるな。面倒だから高木とのことは知られないようにしとこ)
特に赤月と高木は正式に交際を開始したわけではない。しかしお互いによく想っているということを確認し合い、これからそういう関係になるのではないかと赤月も確信に近い予感をしていた。
まだ同僚以上恋人未満の関係。それでも赤月は本気で高木なら結婚しても良いと思っている。とはいえ現時点で操を立てるのも自意識過剰な気がしていた。そもそも赤月にとってこの慰安はあくまで任務であり、更に言えば相手が火渡ということで野良犬に噛まれた程度にしか今は思っていない。
そんな赤月の乳首を火渡がこねくり回す。
「んっ」
赤月の肩が微かに震えた。
「お前も愛撫をされて声を出すんだな」
ここで誤魔化すのは癪に障るのが赤月の性分である。
「当然だろ」
「意外と敏感なのか?」
「意外ってなんだ。気配や殺気を察知するには当然の資質だろ」
そう言って厳めしい表情を浮かべる。
火渡はそんな彼女の胸を揉み回したり、時には乳首を弄ったりもした。ごつごつした指が乳首に触れる度に赤月の身体は反応を見せるが、彼女は知らん顔をしてやり過ごす。
そして火渡の手が彼女の陰部へと伸びた。
指がツルツルの割れ目に触れると同時に、くちゅ、と音が鳴る。赤月の性器は既に濡れていた。
火渡がそんな彼女を嘲るような笑みを浮かべた。
「特務部隊でも名の知れた狂犬がこんなに濡れやすいとはな」
「黙ってま×こ擦ってろ」
「お前も俺のを触れよ」
その指示に躊躇するのはやはり赤月にとっては忌々しい。
彼女は何てことはないといった顔つきで火渡のいきり立った巨根を握ると、ぞんざいな手つきで扱きだす。そんな赤月の粗雑な愛撫を火渡は鼻で笑った。
「お前に男への丁寧な奉仕なんか期待してはなかったがな」
「シコらせておいて文句言うんじゃねえよ」
「それにしてもどうだ? 俺の銃は中々の口径だろう」
「しょうもねぇ」
赤月は馬鹿馬鹿しいと一笑に付した。しかし胸中は若干ざわつきを覚えていた。火渡の男根は確かに人並みではない。銃どころか戦車のような威圧感。そして握ったその感触は見た目よりも遥かに雄々しい。熱く、硬い。その厳つさに身体の芯が火照るのを赤月は感じた。
(こんな奴のち×こなんかで……何をドキドキしてんだあたしは)
やがて陰茎からは我慢汁が垂れ始め、それが赤月の手に馴染む。扱く度にクチュクチュと音が鳴る。そんな淫らな音を奏でるのは火渡の性器だけではない。赤月の陰唇もすっかりほぐれ、そして濡れていた。愛液が内腿を垂れていく。
そんな折、火渡の中指が不意に膣へと挿入された。じっとりと濡れた女性器とそれを触っていた指はぬるりと滑り込んでいく。