確率の見える世界

著者: 名和朋樹

電子版配信日:2024/10/25

電子版定価:880円(税込)

「私と付き合える確率は0%だから──」
仲が良かったはずの幼馴染・さやかにフラれた惇志。
失意に沈む彼の前に突然、ラプラスという悪魔が現れた。
ラプラスから「確率が見える能力」を授けられ平凡な少年の運命は激変!
少年のただ一つの目的は「幼馴染と付き合える確率」を100%にすること。
そのためには中出し100回が必要で!? 妹の麻里奈、Fカップの千春を相手に力を……
投稿サイトナンバー1ノベル、全編加筆&再構成で電子書籍化!

目次

1話 0% 【2023年6月19日】

2話 1% 【2023年6月20日】

特別編 紫門麻里奈①

3話 2% 【2023年6月21日】 

4話 3% 【2023年6月22日】 

特別編 園田千春①

5話 5% 【2023年6月23日】 

6話 7% 【2023年6月25日】

エピローグ

本編の一部を立読み


1話 0% 【2023年6月19日】



「ほらコウ君、おいで」
 画面全体に映し出された巨乳美少女が、男の方に向けて手を広げて迎え入れる。支えが無くとも形の崩れない絶妙な膨らみに、惇志は思わず顔を近づける。
「俺たちただの幼馴染だよな。幼馴染でこんなことしていいはずがない」
「それでもいいの。それにほら。もうこんなに大きくしちゃって我慢できないんでしょ」
「ごめん。さくらは俺の大切な幼馴染なのに、こんなの駄目だとわかっているのに我慢できない」
「それでいいの……。コウ君で私のこと、いっぱい満たして……」
 男は甘い誘惑に誘われるように、薄くかかったモザイクの先の、ピンクのまだ見ぬ秘境へと硬く反り立つ肉棒を突き刺す。
「あぁん、っや……、やぁん。コウ君のおっきいおちん×ん入ってきたぁ!」
 男は幼馴染の女の魅力に憑りつかれるように荒々しく腰を打ちつけ、はっきりと責め立てているのがわかるように大きく抜き差しを繰り返す。
「そこ。敏感なところ……、コウ君のおちん×んきもちいぃ。いいところあたって……んっ!」
 男の腰の動きに倣うように、卑猥な声を上げ、前髪を左右に散らす。黒髪清楚系美少女と書かれたパッケージに映る彼女の印象からは程遠い、赤く燃え上がる頬。見てはいけない雌の乱れ顔に、画面の前の右手は無意識にその動きを加速させる。
「あぁっ……なにかきそうっ……。くる、きちゃう、いくぅぅ……」
 女体は大きく弾け飛び、その余波で画面が少しぼやけて見える。
「さくら、エロすぎだ。こんなの見せられたら我慢できない」
「はぁ、はぁ、いいよ。私、コウ君になら、なんでもされたい……」
「ああぁ。くそっ。幼馴染なのわかっているのに、手加減なんてできるわけない」
 膝程の高さの机に両肘をつけ、腰だけを突き出す女。腰からお尻にかけての欲情的な曲線が、男によって変形するほどに何度も何度も力強く衝突している。その度に奏でる小気味よい破裂音が耳に響き、視覚と聴覚を同時に刺激され、射精欲を掻き立てられる。
「さくら、少しは喘ぎ声抑えろって」
「むりっ、気持ちよさ過ぎてそんなことできない……。勝手に声出ちゃうのぉっ」
 喘ぎ声は小さくなるどころか、腰の動きが加速するに従ってむしろ大きくなり続けている。
「あっっ、ぅう。だめぇ、これだめぇ。おま×この奥好きっ……コウ君も好きっ……」
「今まで恥ずかしくて隠してたけど、さくらのこと俺も好きだっ」
「それっ、ホントに?」
「ホントの、ほんきだっ!」
 男の告白と共に、腰の動きは更にせわしなく、荒々しさを増す。今にも溜め込んだ欲望を爆発させそうな限界の中で、幼馴染の男女は本心を語り合う。
「じゃあ、私のおま×こにコウ君のを注いで! 大好きなの証明して!」
「さくら! 中に出すぞっ……!」
「んんっ……。出して! 中に全部ちょうだい……っっ、ぁあぁっ。いくっ、ぅぅぅ」
 男女の身体は同時に震え、腰が最も密着した状態で微動だにしない。そして男がゆっくりと肉棒を引き抜くと、そこから白濁とした液体がドロドロと零れ落ちる……。





 薄暗い照明の下、動画のシークバーが一番右へと動ききったパソコンの画面を、俺はぼんやりと眺めていた。
 黒髪美少女の幼馴染ものという狭い性癖の中で見つけた作品。幾度と繰り返し見ているものの、幼馴染と長年の想いを確かめ合うというストーリーが俺の心に大きく刺さり、欲望を吐き出さない日は無い。ストーリーに没頭している間はものすごい興奮の中に居るのに、今となっては虚しい気持ちに苛まれる。
 汚れてしまった手を洗うべく、ふらふらと洗面所へと向かうが、その通り道は腰に手を当て、頬を膨らませている俺の妹によって遮られていた。
「ねぇおにいちゃん。また一人でヤってたの? 年頃の男の子だし、性欲は抑えきれないだろうからするのはいいけど、気まずいから私が居る時間にはしないでって言ったでしょ」
「お前には関係のない話だ。別に迷惑してないだろ、俺の部屋でヤってんだから」
「うわ。汚い。最低」
 怪訝な顔で罵ってくる双子の妹の麻里奈。仲の良い双子の兄妹なんて言われていたのも昔の話。歳を重ね、男女の関係が難しくなるにつれて同居人でありながら疎遠気味。それなりに整った顔は、同年代の中だと中の上だと思うが性格が可愛くない。
「それに今日もイヤホン外れていたから、アンアン言ってるの私の部屋まで全部丸聞こえ。全然勉強に集中できなかった。謝罪して」
「悪かったな」
「そんだけ? ちゃんと謝って!」
「ごめんごめん。で? 話は終わった? 終わったなら邪魔だからどいて。手を洗わせろ」
 ゴミを見るような目の妹を、腕で強引に押しのける。いくら疎遠気味の妹であっても、精液付きの手で押す気にはなれなかった。生意気な妹に対する微かな心遣いである。
「あのね。幼馴染性癖拗らしている兄を持つこっちの身にもなってよ。毎回同じ音声が聞こえてきて、それもさやかちゃんにそっくり。おにいちゃんの性癖なんて知りたくなかったー」
「うるさい。その名前をいちいち出すな」
 俺が手を洗っている最中にも麻里奈は小言を言い続ける。異様に腹が立ち、これ以上余計なことを口走らせないように睨みつけ黙らせる。
 麻里奈は思わず溜息をつくが、溜息をつきたいのはこっちも同じ。無意識のうちに舌打ちを返す。
「おにいちゃんのこと同情はしてる。けどそれを麻里奈に向かって八つ当たりしないで。麻里奈は別におにいちゃんのことを嫌いでは無いんだから」
 言いたいことを言い終わり自室に戻る麻里奈。嫌いでは無いという言葉と最近の疎遠気味の行動。俺はこの二つに整合性が付かず、呆然とその後ろ姿を見ていた。





 暗闇に包まれた部屋の中で、毛布にくるまっている男が一人。
 目はうつろで、まるで何かにうなされているようなそんな様子で。


『私彼氏いるから。後あんた童貞でしょ。顔はカッコ悪いし、モテないし、キモイし、隣居られると邪魔。私の彼氏に何一つ勝ってないから。目障り。私の前に二度と姿を現さないで。そもそも、私と付き合える確率は0%だから』


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もうっ!!!」

 肺に溜めていた空気全てを吐き出して、悪夢から目を覚ます。穏やかな睡眠から一転、呼吸は荒く、汗が肌着で吸いきれないほどに流れ出している。汗が冷えて寒気へと変わり、身体の震えが止まらない。
 悪夢だ。それか黒歴史だ。一年前からもう何百回見たかもわからない。妹のせいだ。あの名前を掘り返したから思い出したのだ。
 佐藤さやかという名の俺の幼馴染で同級生、そして初恋の相手。
 艶やかに太陽の光を反射する黒髪、ぱっちりと大きい二重の瞳、シャツがほのかに膨れる胸、スカート越しに浮かび上がるお尻と健康的な肉付きの太もも、気分を明るくさせる気さくな声、優しく握った小さな手の温もり、ほんのり香る柑橘系のような汗の匂い。それら全てを今でも鮮明に思い出すことのできる唯一無二の存在。
 悪夢は、そんなさやかに俺が勇気を出して告白した日のことだった。
 告白しようと呼び出してからずっとにやにや笑い続け、告白を半笑いで受け流し、挙句の果ての暴言の数々。何がかっこ悪いだ。何がモテないだ。何が童貞だ。
 さやかは幼馴染でずっと仲良くて、純粋無垢で俺以外の好きな男が居た記憶も素振りも全く無い。いつも一緒に遊んでいた。水族館、映画館、遊園地、全部二人で行った。これをデート以外の何だって言うんだ。ずっと両想いなのは明らかだった。
 けれど勇気を出して告白した結果は惨敗だった。100%成功するはずの告白だったのに。
 その前の一週間、さやかとは喧嘩して少し距離を置いていた。そこさえ無ければ、いやそれよりもずっとずっと前から、己の恋心に素直になるべきだったんだ。毎日一緒に居て告白するチャンスなんていくらでもあった。少しだけでも勇気をもって一歩踏み出せば、こんなに後悔することも無かったのに。
 この負のループを一年以上ひたすらに繰り返し、引きずり、そして拗らしている。
 あの日から人間不信に片足を踏み入れ、日常生活はこなすものの、人と、特に女子を話すことを嫌った。友達との関わりも大方捨て、酷く塞ぎこむ毎日。さやかが隣に居てくれた時には想像もし得ない暗い現実。人生の底。
「こんな結末になるのなら、付き合える確率がそもそも0%だったのなら、俺は告白するべきじゃなかった……」


《じゃあ、確率がわかっていたらいいの?》


 吐き出した自問自答の言葉に、謎の女のような声が響く。空耳にしてはあまりにも鮮明過ぎる声に、きょろきょろと何度も何度も部屋の中を見渡す。しかし動く影一つ見つからない。
《ここだよ。紫門惇志君》
 もう一度、同じ声色の言葉が俺の耳に届く。はっきりと明確に、しかもフルネームが呼ばれた。その声の元が自分に対して喋りかけていることに確信を得る。
 声色は妹の麻里奈でもない。さやかでもない。友達でもない。こんな声は知らない。その声から想像する人物像は、可愛い末っ子タイプの女の子といったところだろうか。
「君はどこにいるんだ? 俺は君と話をしてみたい」
 俺はまだ見知らぬ人間へと優しく語りかける。自分の名前を知る謎の女子との未知なる遭遇に、ほんの少しだが心を弾ませる。
《そっか私のこと見えないのかぁ。初めてだったから忘れていたよ。テヘっ☆》
 その声の主は惇志からは見えない。けれど視界の中には確かに居るようだ。
「ぶりっ子とか要らないから、姿を現してくれ」
《お望み通り姿を見せてあげる☆ ちょっと目を瞑って》
 謎の声に言われるがまま目を瞑る。次に目を開いた時何が起こるのか、誰が目の前に現れるのか、その期待に心を躍らせる。
 閉じた目の中にある漆黒の世界が一転、強烈なライトを当てられたかのように白く染まった。あまりの眩しさに、反射的に目をぎゅっと閉じる。しかし、その眩しさはほんの一瞬だった。視界が再び漆黒に戻った時、また謎の声が部屋に響く。
《じゃあ目を開けてもいいよ~。こんにちは紫門惇志君☆》
 言われるがままに目を開けた先に飛んでいたのは謎の生物だった。
「は? これ幻覚? 夢? 俺の部屋にサキュバスが居るんだけど……」
 人間の大きさとは程遠く、おおよそ五十センチくらいの体長。あどけないロリっぽい顔のパーツ、青がかった紫色の髪の毛に、同じ色の瞳。上半身は顔と同じサイズにも見える爆乳が二つ。それらを隠すような青紫色のランジュリーは、乳首を隠すことはできているのだが、異次元の膨らみの七割以上は隠れていない。下半身は、紫の股下一センチスカートに黒のタイツ。さらには、角に羽に尻尾。
 自分の想像を大きく超える異次元の存在を、目を擦り見れば見るほど、脳の混乱を引き起こす。
《おーい。惇志君起きて? どうしたの?》
「うわぁぁぁ。サキュバスに触られてる!」
《惇志君。私はサキュバスじゃない。悪魔。あ・く・ま》
「お前サキュバスじゃないのかよ。どっからどう見てもサキュバスなんだけど……」
 そう言いながらどうしてもサキュバスっぽい自称悪魔の爆乳に視線が釘付けになる。ロリっぽい見た目なのに、見かけによらない巨乳は結構タイプ寄り……。
《誰がロリっぽい巨乳ですって?》
「あっ。えっ? 俺口に出したっけ?」
《惇志君の心の声は全部お見通しなんだからね。下手なことを考えないことね☆》
 どうやら脳内で考えていることは、口に出すことなく筒抜けのようだ。
「まぁそれよりも、お前が何のために俺の前に現れたのかを教えてくれよ。さっき確率がなんとか言ってたよな。あれはどういうことだ」
《あぁそれ早速聞いちゃう? 聞きたいの?》
 素直に答えてもらうどころか、逆にウザったい絡みをされると、人は急に聞く気を失ってしまうのは仕方のないことだろう。
 その後も質問する度に答えをはぐらかされ、肝心なことを話さない自称悪魔にいくらなんでも腹が立つので、部屋から摘まみだそうと目の前の空間に手を出す。出したのだが。抱きかかえるように掴みに行ったその両手は、無情にも何かに触れることなく綺麗に空を切った。
《ざんね~ん☆ 私空想上の悪魔だから、実体はどこにもないんだよね~。私はあなたの脳にいるの。まぁイメージするなら拡張現実的な感じ? 私の姿は特定のデバイスを通じてじゃないと見えないのっ》
「じゃあなんで俺には見えているんだ。ゴーグルとかスマホとか、何も使っていないぞ」
《それは惇志君の目がデバイスになってるからだよっ☆ さっきいじらせてもらったの。ピカってしたでしょ☆》
 悪魔に言われて目を閉じた間のことを思い出す。一瞬走った強烈な稲妻。その瞬間から、俺にはこの悪魔の姿が見えるようになった。
「あぁ。あの光が、それか。ということは逆に俺の目がデバイス代わりになっているから、他の人からは見ることができないということか?」
《ぴんぽーん☆ せいかい☆ ちなみに、私の声も惇志君にしか聞こえないよ。よかったね。独り占めじゃーん☆》
 調子に乗って俺の身体をペシぺシと叩いて、この状況を楽しんでいる悪魔に対し、イラつきが止まらない。触れられないのならと睨みつけて威圧したのだが、妹のようにはうまくいかず意気消沈する。
「てか俺からは触れないのに、なんでお前が触ってこられるんだ」
《それは企業秘密ってことで☆》
 こっちからは触ることができず、勝手に見えてしまうようになった以上、どんな態度を取られようと摘まみ出すことも視界から消すこともできない。急に現れた厄介すぎる存在に半ば呆れながら話しかける。
「わかったからさっさと要件を済ませてくれ。流石に何も無しってことは無いよな?」
《はいはい、ごめんごめん。それじゃあ本題入るね☆》
 長い一方的なじゃれ合いが終わり、遂に本題に入ると聞いて、流石に真剣に聞くモードに入る。悪魔もそれなりに真面目な雰囲気を醸し出すのがまた腹立つところ。
《君って確率って言葉は知っているでしょ》
「学校で習う数学的な話でいいなら。なんとなく」
《その確率がわかっていたらって思ったことはない? まぁ、あるよね。君が大切な幼馴染にフラれた時の話だよ。あ、今は元・大切な幼馴染かな?》

『そもそも、私と付き合える確率は0%だから』

 意地悪く笑う悪魔の言葉につられるように、この衝撃的な言葉が脳内で再生されて苦虫を噛み潰す。だがこの実体験を思い返せば、悪魔の話は一理ある。
「確かに確定でフラれる女の子に告白する奴はほとんどいない。俺はあの時九割、いや九割九分成功すると思っていた。けれど現実は違った。お前の言う通り、確率ってものがわかれば、今もこうして悩んでいることも無かったのかもしれないな」
《そゆこと☆ 確率って人の目には見えない抽象的なものだけどさ、重要な要素なんだよね。そこで一つ、私からのプレゼント。もう一度目を瞑ってよ☆》
 再び目を閉じさせようとする悪魔。さっき変な奴が見えるようになるという最悪なプレゼントをもらってしまったがために、また不安を覚える。
「お前また変なことしないだろうな? 悪魔に力を授けられるシチュエーションとか、嫌な予感しかしないけど」
《大丈夫☆ 大丈夫☆ 安心して☆》
 全く安心できない悪魔へせめてもの抵抗と、目を開けたまま悪魔の方を見続けていると、悪魔はどんどん距離を詰めてきて、その距離は五センチあるかないかまで来ていた。
「近い。近すぎる。こんなのキス待ちの距離だぞ」
《キスしてほしいの?☆》
「そういうわけじゃない」
《まぁいいや。これは私の独断と偏見によってすでに決まったことだから☆ 逆らう男にはこうだ☆》
 言葉と同時に悪魔の距離は遂にゼロになった。そしてちょうど目の位置に五十センチの身体にしてはあまりにも大きい爆乳があり、視界が真っ暗になるまで押し付けられた。柔らかな脂肪がぐにゅりと潰れ、アイマスクよりも何倍も温かく優しい触感の目隠しをされている。
「うわぁ……悪魔のおっぱいやわらけぇぇ……」
 初めて触れるおっぱいの感覚に思わず声が漏れる。そしてその瞬間に、また強烈なライトを押し当てられたかのように視界が白く染まる。あまりにも眩しく、どうにかその光を軽減しようと目をぎゅっと胸に押し当てる。眩しいからね、これは不可抗力だ。
 しかしその眩しさはほんの一瞬で、気づけば部屋に爆乳に埋もれてにやにやしている男一人という状況だけが残っていた。
《なにおっぱいに顔うずめているの? このエロガキぃぃぃぃ!!!》
「いっっっっっっっっってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 体格差を埋めるために、大きくテイクバックを取った強烈なビンタが顔面にクリーンヒットし、あまりの痛みに蹲る。
「なんで俺が叩かれてんだよ! 最初はそっちがおっぱい押し当ててきただろうが! あと眩しかったらぎゅっと手で押さえたりするだろ、それがたまたまおっぱいだったってだけだろ!」
《はいはーい。私がわるかったですーーだ☆ それでね、これで惇志君は確率を知れるようになりました。おめでとう☆》
 と言われましても。流れをぶった切る突然の報告に再び混乱する。
「確率を知れるようになりました。とは?」
 一言一句悪魔の言葉をただ言い返すだけしかできなかった。それに部屋の中を見渡しても、おかしい点や変わった点を見つけることができなかった。そこで飛んでいる悪魔を除いてではあるが。
《じゃあせっかくだし試しに面白いもの見せてあげる。とってもびっくりすると思うよ☆》





 ついて来てと言われて向かった先は、妹の麻里奈の部屋だった。アイドルのポスターやらグッズが並べられているその部屋に、麻里奈の後姿が見えた。
 ピンク色を基調にしたモコモコとしたパジャマを着て、手を太ももの辺りに置いて椅子に座っている妹は、スマホで動画を見ているようだ。ただ身体が邪魔でその画面を捉えることはできず、またしっかりと有線のイヤホンが嵌められているようで、音声も聞こえてこない。
《イヤホンも嵌められない惇志君とは大違いね☆》
「余計なお世話だ」
 どうやらさっきの妹との口喧嘩もすでに悪魔には見られていたようだ。しかし何かを言い返そうとしても、ほんの少し開けたドアの隙間からこっそり妹の部屋を覗き見しているのがバレそうで大きな声は出せず、手を出そうとしても俺からは触ることができない。
 悪魔はそんな俺を嘲笑いながら、麻里奈の部屋の上をクルクルと飛び回っている。非常に不愉快。
 麻里奈からは悪魔の存在は見えないだろうから、今下手なことをされたら家庭内盗撮魔として怒られるのは俺だけだ。いくら双子とはいえ、これはただの犯罪だ。
「そこまでして、俺に見せたいものはっていうのはなんだ」
 風のささやきレベルの小声で話しかける。
《言ったじゃん。確率が見えるようになったって☆ あの妹さんについての面白い確率見せてあげるよ☆ 驚かないようにねっ☆》
「面白い確率ってなんだよ。じゃあ例えばあいつに好きな人ができる確率とか?」
《それも結構面白そうじゃんっ☆ じゃあ先にそれを見てみよう! 期間は無制限だとだめだから、一ヶ月にしよっか。惇志君、心の中で『一ヶ月以内に妹に彼氏ができる確率は?』ってイメージしてみて》
「やってみるか……」
 この確率が見えるようになったという悪魔の発言に、俺は半信半疑、いや八割嘘だと思っていた。ただ、妹に彼氏ができるかどうかは気になって仕方がない。渋々という表情は一応浮かべつつ、内心興味津々に言われたまま強くイメージしてみることにする。

『一ヶ月以内に妹に彼氏ができる確率は?』

「って、そんなことをイメージしても確率がわかるなんて――――」

―18%―

 急に妹の麻里奈の頭上に、デジタル数字の18という二桁が現れたのを見て、一瞬言葉を失う。今日何度目かの動揺。そして最大の衝撃。
「か、確率が……見えた。これは本当なのか……?」
《うんっ☆ これはほんとでまじでガチの数字だよっ☆ 18%かぁ。妹さん結構かわいい顔しているのに思ったより低いなぁ。世知辛いねー》
 18%。頻度で言えば六回に一回より少し大きいくらい。悪魔は少ないとは言うものの、同じ歳の妹が一ヶ月以内に彼氏を作って、いちゃいちゃすることを想像してしまうと、兄としては憂鬱な気分だ。
 しかも知る限り、あいつに小学校以来好きな人が居るなんて話聞いた覚えがない。今ももちろん好きな人はいないはず。
「ということはだぞ、お前の言っていることが本当で、『一ヶ月以内に妹に彼氏ができる確率』が18%なんだとしたら、これから一ヶ月以内に言い寄られてそのまま付き合うって流れになるよな?」
《確かにそうかも☆》
「そんな時間も掛けずに知り合って、順序をすっ飛ばす奴に絶対碌な奴いないよな……。もしかして変な奴と付き合ってしまう確率高いんじゃ……」
 麻里奈がヤリチンにでも捕まって、そのまま下手な方向に堕とされて、ギャルみたいな見た目になって、毎日外泊三昧になって……。自分の好きだった人のことを思い出してしまって脳が破壊される。流石に今は疎遠で喧嘩気味でも、大切な妹にそんな風にはなってほしくない。
「おい悪魔。そんな確率も見れたりするのか?」
《もっちろん☆ 『一ヶ月以内に妹が禄でもない奴と付き合う確率』ってイメージしたらいいよ。ちゃんと君の嫌いなタイプの人間で判定されるから》
「なんで俺の嫌いなタイプがわかるんだよ」
《それも企業秘密☆》
 こいつはこの能力のカラクリを教えるつもりはないようだ。しかしそれはもはや関係ない。妹の将来の方が重要だ。今度はこの能力を一切疑うことなく、興味十割でイメージを固める。
「『一ヶ月以内に妹が禄でもない奴と付き合う確率』を教えてくれ!」

―12%―

「うおぉぉぉぉ。それは最悪だ……もし彼氏ができたら妹が三分の二でギャル化する……。とりあえず交友関係洗うか……」
 想像よりも思い描いた最悪なシナリオへ向かう確率が高そうなのを知ってしまい、思わず頭を抱える。
《これでわかった?この能力の実力☆》
「マジでやばい。これはやばい。ヤバすぎるのにも程がある。大発明だ!」
《そっ☆ この能力はマジでやばくてやばいんだよ~~~☆ スーパーアルティメット大発明☆》
「お前まで語彙力無くしてどうするんだよ。てか話終わりで良いか?」
 使い方はわかった。どうもなんでも確率が見えるらしい。こんなのをこの場に留めておくわけにはいかない。悪魔との話をぶった切ってでも、早く他の場面でも使ってみたい。
 はやる気持ちが抑えきれなくなる俺だが、そんな簡単には話は終わらなかった。
《ちょっと待って☆ 本当の話はここからっ☆ 次は、『今、妹が俺とセックスしたい確率は?』ってイメージしてみて》
「ん? いもうととおれがせっくす????」
 童貞の俺にはセックスという言葉が一つ引っかかり、更に相手が妹ということにまた引っかかって、また思考が止まる。
「あの……あなたは何を申し上げているのですか??」
《何って、言葉の通りだよっ☆ ほらほらイメージしてみて~~》
 脳裏に浮かぶのは近親相姦の四文字。インモラル中のインモラル。人類のタブー中のタブー。
「ちょっと待て。それはいくらなんでも駄目だ。確率がゼロだろうとなんだろうと、想像するのも許されることじゃないだろ?」
《なんだよしょうがないなぁ意気地なし。じゃあ、勝手に確率見せてあげるね。『今、妹が俺とセックスしたい確率』どーーーーん☆》
 無邪気にはしゃぐ悪魔の声と共に、妹の頭上に数字が出現した。さっきと同じデジタル表示で2桁――――

―93%―

 あまりの衝撃に遂に瞬きすらできなくなった。
「これは……妹が、目の前の女の子が、俺とセックスをしたいということなのか? い、今まさにやりたいってことなのか??」
 その数字の意味は、その解釈に他ならない。どんだけ他の解釈を試みても、導き出される結論は一つだけ。

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