濃密なキスで繋がる俺とクラスメイト【石斑奏編】

著者: 膵槽

電子版配信日:2025/01/24

電子版定価:880円(税込)

ポニーテールの黒髪、引き締まったウエストにGカップの美乳……
バレー部で一年からレギュラーを務める完全無欠の美少女・石斑奏。
俺は今、バレーユニフォーム姿の彼女に濃厚なフェラをされている。
しかも奏は、俺のクラスメイトで最愛の恋人、石斑舞の妹だというのに!
平凡な俺・宮地康示に訪れた、キス以上の関係で繋がる淫らな日常の先に、
待っていたのは可愛すぎてエッチすぎる美姉妹とのイチャラブ3P!
WEB小説界の奇跡がここに! 書き下ろし特別編を収録、恋人の妹編!

目次

第一話 私と姉とお義兄ちゃん

第二話 私と憧れとお兄ちゃん

第三話 私と義兄と「認めたくない」

第四話 私と後悔と「お兄ちゃん」

第五話 私とデートとこの気持ち

第六話 私と歪みと選択の末路

第七話 私と決意と最高の結末

第八話 放課後、俺の部屋で二人と…

特別編 そう遠くない未来に

本編の一部を立読み


第一話 私と姉とお義兄ちゃん



 私の名は「石斑奏(いしむらかなで)」、何処にでもいる普通の女学生だ。
 まぁ、普通とは言ったけど自分の容姿が人並みより多少優れている自覚はあるけどね。いや自慢とかじゃなくて、客観的な事実として認めてるだけ。だって実際、小学校の高学年になる頃から急に男子からの告白が増え始めたわけだし。
 って、それは今はどうでもいい。実は今、私はある問題に直面しているのだ。それは………。
『──ぁ♡ ぁ♡ っ♡ こーじっ♡♡ ぁん♡』
『──舞っ! 舞っ! 射精るぞっ!』
『射精してぇっ♡♡♡ ぁん♡ あっ♡♡ ああぁ♡♡』
 隣の部屋、つまり私の姉の部屋から微かに聞こえてくる、この嬌声。誰のものなのかは確かめるまでもない。ついでに人の姉を呼び捨てにした挙句に汚らしく荒々しい声を上げる男の方も、確かめる必要はない。
 頭が痛い。実の姉のそういう場面を知ってしまうのはかなり気まずいというのもある。あるのだが、この頭痛はむしろ、姉と男の情事がほぼ毎晩続けられるせいでちゃんと寝られていない方が原因であると考えている。そりゃ寝れるわけないでしょ。
 私の家の壁は特段薄いというわけではない。けど、子どもの頃の記憶のせいかややおぼろげだが、確か姉と共謀して互いの部屋に通じる道か何かを作ろうとして小さな穴を開けたことがあった。
 結局、子どもの力ではどうすることもできずに計画は流れたが、その時の名残で未開通の小さな穴が互いの部屋の同じ位置に存在している。これのせいか、他の部屋よりかは音が漏れやすくなってしまったようだ。
 流石に姉も私も両親に言い出せるはずがないので、この穴自体は棚などで隠した。しかし、生活音程度ならば問題はないが、一定量以上の音だと曇った感じながら聞こえてきてしまう状態になっている。そのせいで、私は今日も眠れない夜を過ごしていた。
「ああ! なんなのよホント、毎日毎日っ!」
 イライラする。本当に心の底から苛立って仕方がない。
 自分の姉の濡れ場から漏れ出る声が夜な夜な聞こえてくるのも強いストレスを感じさせるが、それよりも相手の男の方に対してより強い怒りを覚える。
「石斑舞」とは、私の姉であり、私以上に並外れた存在である。美貌然り、スタイル然り、頭脳然り、運動神経然り。完璧超人って言葉は姉のような人の為に作られたのだと断言できる。そう思えるほどに、私の姉は誇らしく、完璧だった。なのに、そんな姉が身体を許している男の方は、平凡以外の何者でもない。つまらない男だったのだ。
 それが何より許せない。名前だって姉と関わるようになる前は聞いたことなかったし、特段有名でもない。本当に、本当に何の特徴も持たない凡人そのもの。そんな男が、私が憧れてやまない姉のイイ人だなんて冗談じゃない。ふつふつと怒りが込み上げ、ギリッ…と食い縛った歯を軋ませた。
『あっ───ああああああぁぁっ♡♡♡』
 桃色の嬌声が微かに漏れてくる。そのあまりの艶々しさに驚き、肩が跳ね上がった。
 イったんだ。お姉ちゃんがアイツとのセックスで絶頂した。声だけで分かってしまう。それだけで鮮明に、二人の情事の様子が脳裏に浮かび上がってきてしまう。それが余計に、イライラを加速させる。
「……ッ! あぁ、もう! クソ、クソ!」
 そして何よりも…。
「くそっ! くそ、くそ……くそ、ぉ…♡」
 くちゅくちゅ…♡
 お姉ちゃんとあの男の秘め事を盗み聞きしながらのオナニーだけが、膨れ上がる怒りを解消してくれる。本末転倒もいいところだが、もう自分の意思では止められない。今も股間を怖々と這い回る自分の指が生み出す小さな快感に、足を震わせて歯を食い縛るしかできない。
 最悪の気分で、なのに体は最高に感じてしまっているのが、質が悪い。
「いっ……いくっ♡」
 勉強に身が入るわけもなく、私は無意識のうちにベッドに横たわりながら股間を弄っていた。とっくにぐしょ濡れになっている股間を指で擦ったり性器の入口を撫でてみたりして、背筋をくすぐるような甘ったるい快楽に身を浸す。これが最近のストレス解消法になってしまった。それもあの男のせいだ。そうに違いない。
 今も絶えず隣の部屋からは嬌声と吐息、舌と唇を絡ませ合っているであろうリップノイズが聞こえてくる。生々しい性行為の音を興奮の材料にして、私の身体は強い快感に震えた。
「いぐ、いぐいぐぅ……ふう゛っ♡♡」
 未だ異性を受け入れたことのない処女だけど、自慰経験がないほど清純じゃない。指でクリトリスの皮を剥いてシコシコすると気持ちいいことは知ってるし、指の関節一個分だけ膣内に入れてほじくるだけでも相当な快感を味わえることも体験済み。
 最近になって慣れだした絶頂後の虚脱感と疲労感をベッドの上に放り出し、荒く息を吐きだしたまま天井を見上げる。
「はぁ………」
 終わってみると冷静さが取り戻され、身内をネタに絶頂を覚えたことに対する言いようのない嫌悪感が胸に渦巻く。が、そもそもお姉ちゃんが自分の部屋でアイツとセックスなんてしなければこんなことになっていないのだ、と自身を正当化してやり過ごす。
 息を整えている間に時計の秒針の音を聞き流して、一段と大きな溜息を吐く。
「………お義兄(にい)ちゃん、かぁ」

「舞と……娘さんと、高校を卒業したら結婚させてください!!」
 それがあの男、宮地康示(みやじこうじ)が夜中に我が家へ侵入していたことが発覚した次の日の発言だった。
 夏休み二日目の朝。新聞を取りに玄関へ出ようとしたパパが、家族の物ではない男物の靴を発見。不思議に思いながらも扉を開けると、家の前には転がったままの自転車があったのだという。
 パパは慌てて家に戻り、異常が無いか家中を確認して回り、その時のドタバタで私も目が覚めてしまった。で、お姉ちゃんの部屋以外には問題がないことを確認したパパは、最後にお姉ちゃんの部屋へ向かっていった。そこで部屋から宮地…一応先輩だから宮地先輩って呼ぶけど、とにかくあの男と揃って出てきた瞬間、我が家は騒然とした。
 お姉ちゃんは特に態度を変えることなく、パパとママに「紹介したい人がいるんだ」と告げてきた。混乱したままのパパの慌てふためいた声によって、家族会議が開かれた。その直後に先の宮地先輩の発言が飛び出てきたというわけだ。
「まず、その、君は娘の彼氏なのか?」
 テーブルに向かい合って座るのは、パパとママ。反対側にお姉ちゃんと宮地先輩。私はソファの背もたれから顔を突き出して話を聞いている。
 パパは宮地先輩の急な話にも動じることなく、お姉ちゃんとの関係について詰めた。
「彼氏じゃないよパパ。この人はね、私の好きな人で……結婚を約束した人だよ」
 ところが、パパの質問にお姉ちゃんがとんでもない返答をしてきた。
 結婚、結婚? 結婚ってあの結婚だよね? お姉ちゃんが、こんな奴と? っていうかコイツ誰?
 混乱で頭がどうにかなりそうになっていると、ママが口を開いた。
「──舞、パパはあなたじゃなくてそちらの彼に聞いているの。静かになさい」
「……は、い」
 静かな淡々とした言葉で、お姉ちゃんが押し黙る。
 我が家の頂点はママだ。パパも厳しい一面はあるが、ママはそれ以上に厳格な性格で、言葉の圧が強い人でもある。だからママに怒られるのはすごく怖くて、みんなママの言うことは絶対に聞く。そんなママの目が、お姉ちゃんの婚約者(?)らしい男へ向いた。
「まずは、初めまして。こちらは舞の父の晴正(はるまさ)。私は母の綴(つづり)と申します」
「あ、えと、はい。こちらこそ…」
「こーじ、康示! 名前!」
「ああ、そうか。あの、お…僕は宮地康示と申します」
「ご丁寧にどうも」
 今のやり取りだけでお姉ちゃんに相応しくないということが丸分かりだ。そりゃいきなりパパとママに挨拶なんて緊張はするだろうけど、もうちょっと落ち着きとか冷静な対応とか、何とかならないのかな。ハッキリ言って、ダサい。お姉ちゃんはコイツのどこがいいのか。
 ソファから睨みつけていると、ママがパパと同じことを聞いた。
「では改めて。康示さん、と呼んでも?」
「え? あ、はい。大丈夫です」
「よかった。それでは、康示さん? 娘とはどういった関係なのかしら? 舞は結婚を約束したと言っているようだけれど」
 切れ長の目がキッと宮地先輩を捉えている。
 私はあの目で見つめられたらすぐ「ごめんなさい」って謝るだろう。それぐらいに視線に力がこもっている。隣にいるパパもそれとなく姿勢を正すぐらいだから、相当なものだ。
「関係は、そうですね。最初は複雑でしたけど…今は互いに好きだって気持ちを伝え合って、交際させてもらっています」
「複雑、ね。事情は色々とあるでしょうし、私が聞くことは一つに絞りましょう。康示さん?」
「は、はい!」
 緊張の蔓延するこの状況は何とも息苦しい。当事者じゃない私がこんなに冷や汗をかいてるんだからアイツもお姉ちゃんも私以上にキツイのは間違いない。けど、ママの態度に違和感を覚える。なんだろう。いつも私達を叱る時とは違う気がする。
 娘が男を夜中に家へ連れ込んで朝まで……えっちなことしてたとか、ブチ切れしていいことだと思うのに。変に冷静なのがママの怖いところなんだけど。
 そんな私の不安は的中することになる。
「娘との結婚の話は、もうそちらの御両親にはお伝えしてあるのかしら?」
「綴さん!?」
 平淡な口調でそう述べたママに、パパが驚きの声を上げた。
 ちょっと、待って? 結婚の話をアイツの両親に伝えてあるかって、そんなに大事なことなの? っていうかそれって、今?
 ママの顔を覗き見ても、やっぱりいつものママの顔があった。感情があまり目立たない、仮面みたいな表情のママ。ただ、パパだけはママの言葉にすごく驚いてた。どういう意味なのか私にはピンとこなかったけど。
「いや、それはまだ……正直に言うと、結婚の話も昨日の夜に決めたことなので」
「昨日の夜?」
「あー、えっと、正確には午前二時ぐらいだから今日、になるんでしょうか?」
「そうですか。それは残念。康示さんが婿入りするか、舞が嫁入りするか。どちらが良いか是非ともお話ししたかったのですが」
 そう言って、ママはうっすら微笑んだ。え? 待って、どういうことなの?
 婿入りとか嫁入りとか…は? いやいや、話がかなり飛んでない? 飛んでるよね絶対?
 パパだって口を開けてママをガン見するほど動揺してるから、二人の総意じゃないことくらい分かる。
 お姉ちゃんもママの質問が予想外だったようで、目を丸くして驚いてた。私も同じ顔をしてると思う。でも本当におかしいってこんなの。娘が知らない間に見知らぬ男を家に上げて、挙句にせ…性的なことシてたのに、怒りもしないってなんなの?
 頭の中が疑念と不満で埋め尽くされていく中、ママが微笑んだまま話を続ける。
「娘と高校卒業後に結婚するというのであれば、現状は婚約を前提とした交際関係になるわけですね。それなら私から口を挟むことはありません。どうか娘を宜しくお願いします」
「え、え!? あの、はい。ありがとうございます…?」
 ほら! 宮地先輩だって混乱してんじゃん! そりゃそうだよ! ママ以外みんな固まってんだから!
「ちょ、ちょっと待って綴さん!」
 と、ここでパパが待ったをかけた。
 ママの厳しい態度に期待できなくなった以上、パパに頼るしかなくなった。ここは家長の意地って奴を見せてよパパ!
「はい?」
「いや……いくら何でも話が急過ぎないか? そりゃいつかは舞だって結婚することになるだろうけど、まだ学生だ。今後の進路だって考えなきゃいけないのに、それに彼のことだって知らないことだらけなんだぞ。ここは冷静になって、時間をおいて改めて」
「改めずとも良いでしょう。康示さんは舞の選んだ相手です。時間をおいて冷静になるべきは貴方よ、晴正さん」
「綴さんは心配にならないのか!? 舞の将来に関わる大事な話なんだ! そう簡単に結論を出していいわけがないだろう!?」
「……簡単に。今、簡単にと、そう言いました?」
「っ……」
 悲報、パパ、気圧される。
 パパの言い分はもっともというか、普通の親の感性だったら出てきて当たり前の発言だったと思うけど。逆にママが怖くなってきた。ママはお姉ちゃんがどこの馬の骨とも知れない奴とくっついても構わないって思ってるのかな…。なんか、嫌だな。
 圧の強まったママが、パパの方を向いて厳かに言い放つ。
「晴正さん、貴方も知っているでしょう? 舞は子どもの頃から小さなストレスで体を壊してきた。家族以外の人と関わることすら少なくなった。……舞が最後にワガママを言ったのがいつか、覚えていますか?」
「ワガママって、そんなの……」
「最後のワガママは、中学二年の夏休みが明ける前日──『もう誰とも関わりたくない。勉強ならちゃんとするから、学校には行きたくない』だった。私も貴方も、舞を励まして学校へ送り出した。けど、その日からこの子は私にも貴方にも、ワガママを言わなくなった」
「…………」
「ずっと後悔してたんです。なんであの時、この子の必死の訴えを聞き入れてあげなかったんだろうって。あんな弱音を吐き出すぐらい追い詰められてた舞を、どうして守ってあげなかったのかって」
「それは……」
 さっきまでの柔らかい笑顔は、ママから消えていた。今にも泣き出しそうな、それを何とか堪えているような悲痛な面持ちで、ママは話を続ける。
「結局、私は舞の強さに甘えてたんです。私達が頼りにならないと分かって、それでも心配はさせまいと気丈に振る舞い続ける娘の姿を見るのは、本当に辛かった…」
「……ああ。そう、だね」
「ママ…」
「けれど。今日は久しぶりに舞の、心からの笑顔を見ることができた。私達にはもう向けられることはないと覚悟していたのに。取り戻してくれたのが誰か、言うまでもないでしょう」
 お姉ちゃんの目が潤んでいる。パパも少し、肩が震えてる。私はただ見ているばかり。言葉を挟む余地すらない。
 ママは目尻を指で拭って、宮地先輩の方へ向き直った。
「娘の病気のことは、もうご存知ですね?」
「……はい。出逢ったきっかけもその病気でしたから」
「そうでしたか。それなら、ええ。安心して娘をお任せできます」
 最後の確認が済んだのか、ママは一呼吸の間をおいて、それからゆっくりと頭を下げた。
「親として恥ずかしい限りですが、この子は私達が叶えてあげられなかったワガママを貴方にぶつけることでしょう。ですがどうか、どうか…娘のワガママに付き合ってあげてください」
「綴さん…」
「晴正さん。貴方の返答がどうであれ、私は彼との結婚を認めるつもりです。勿論、彼のご家族ともきちんと話し合ったうえで、卒業後という制限を加えますが」
「そこまで言われたら、父親の立場で嫌とは言えんよ」
 ママに続くようにパパも姿勢を正して、同じように頭を下げる。
「正直、君のことを何も知らん。それでも、娘が選んで認めた相手だという一点だけは信じよう。まだ未成年だし、将来の予定も考えていかなければならないが……助力はする。だから、絶対に娘を裏切らんでくれ」
「パパ!」
「舞。頼むからこういう大事なことはもっとちゃんと相談してくれ…」
「それは、あー、ごめんね」
 ママもパパも、一応は宮地先輩とお姉ちゃんが結婚するのを認める方針で決めたようだ。対面している先輩もお姉ちゃんも、どうしていいか分からずあたふたしているのが見える。
 けど、私は絶対認めないから。だっておかしいじゃん。お姉ちゃんがいろいろ大変だったのは知ってるよ。でも、それとどうあの先輩が結びつくの?
 深夜に家に上がり込んで、お姉ちゃんとえっちなことして、それでいきなり結婚させろとか頭イカれてるとしか思えないし。両親が認めてる以上、大きく反対の声は上げられない。けど、私の意思は絶対に曲げないから。
 アンタなんか、お姉ちゃんの旦那に相応しいもんか。
「……そういうわけだから、奏?」
「んぇッ!? な、なに? お姉ちゃん?」
 胸に秘めたる宣言の代わりに睨みつけていると、お姉ちゃんと目が合ってしまった。マズい、なんか怒ってるっぽい感じだ。
「これからこーじは奏の家族になるんだから、よろしくね?」
「ぇ、あ、あー。うん。分かった…」
 笑顔だけど、言葉の圧が強い。こういうところは本当にママそっくりだ。目が笑ってないあたりが特に。
 いや、返事しただけだし。認める気ないから。絶対絶対絶対、嫌だからね。
 内心の憤慨を抑え込む。すると、ママも此方を向いて話しかけてきた。
「そうだった。良かったわね、奏」
「……なにが?」
「だって、康示さんは舞と結婚するんだもの。そうなったら、関係上は義理の兄(・・・・)ということになるじゃない?」
「──ッ!!」
 ママの嬉しそうな言葉を聞いて、背筋が泡立つ。
 やめて、やめてよママ。それ以上はダメ。言わないで。
 視線で懇願するも、届かない。お姉ちゃんと同じくらいウキウキした表情で、ママは私に言った。
「おめでとう奏。念願のおにいちゃんができたわよ」
 その言葉を耳にした瞬間、私の心臓がトクンとわずかに跳ねた。

第二話 私と憧れとお兄ちゃん



 人間誰しも、人に言えない部分を持っているものだ。
 それは性格然り趣味然り、とにかく他人に大っぴらには明かせない、普段の自分とは異なる側面を持つのが普通の人間だと私は思う。哲学者みたいなことを言うタイプじゃないけど、これに関しては本気でそう思ってる。だって私にも、そして欠点なんてないかのように思えるお姉ちゃんにすら、そうした部分はあるのだから。
 私の姉、石斑舞には余人に言えない弱みがある。
 それは、未だ原因すら解明されていない「ストレス性の身体機能麻痺」だ。
 子どもの頃からお姉ちゃんは怒ったり何か嫌なことがあったりして精神的に大きな負荷がかかると、必ずと言っていいほど体を壊していた。特に呼吸器系へ顕著に顕れて、過呼吸のような症状が悪化すると呼吸すらままならなくなって失神する。
 目の前で顔から血の気が引いて昏倒する姉の姿を、幼い頃から目撃していれば嫌でも印象に残る。そんな弱点のある姉の存在を、私は蔑むどころか尊敬した。
 何でもできる完全無欠な人ってイメージのままだったら、私は劣等感から筋違いな憎しみを抱いていたと思う。でも、お姉ちゃんは人付き合いができなかった。私はそういった病や症状は無かったから、問題なく他人と接することができた。
「いいな、かなちゃんは。お友達がいっぱいいて」
 小学生の頃だったかな。お姉ちゃんが泣き腫らした顔で私に言った言葉は、何があっても忘れられない。勉強も運動も人並み以上にこなす才女だった姉が、私を羨んだのから。
 ある意味、欠点があるからこそ私はお姉ちゃんとの仲に溝を作ることなく今日まで支えあうことができた。
 冒頭の話に戻るけど、当然私にもそういった「隠している」部分があったりする。ちなみにこれは、お姉ちゃんに明かしたこともない。ママには知られちゃってるけど、パパにすら内緒にしている、ある秘密だ。
「ねぇカナ聞いた? 舞先輩のヤバい噂!」
 私より数段高いテンションと声色で呼びかけられ、意識が明確になる。それと同時に、周囲の喧騒がどっと耳に雪崩れ込んできて顔をしかめた。
 あぁ、そっか。四限目終わって昼休憩なのか。ぼんやりと思い出しながら、友達の話に適当に相槌を打とうとして止まる。なに、誰の噂だって?
「お姉ちゃんの話した?」
「そーそー! カナは何か聞いてないの?」
「いや何も。ってか、噂って何なの?」
「マジ? そっから?」
 楽しかった高校一年目の夏休みはとうに過ぎ去り、九月。久々に会うクラスメイトと談笑する時間に、爆弾が放り込まれた。
「舞先輩って、先輩後輩イケメン関係なく告白フッてたって有名じゃん? 休み明けに隣んクラスの男子が告ったんだって!」
「へー。どうせフラれたんでしょ」
「それはいつも通りだったんだけど、その後!」
「後って、告ってフラれて終わりじゃないの普通?」
「舞先輩がね、『婚約者がいるから誰ともお付き合いはできない』って返事したんだって! ヤバくない!?」
 ペットボトルの冷茶を盛大に噴き出すところだった。
 喉の変なところに入り込んだ水分にえづいて苦しむ。ゲホゲホと咳き込んでいる私を心配しつつも、友達は話を続けた。
「どんなイケメンもフッた舞先輩の婚約者とか想像つかな過ぎんだけど! カナは聞いてないの? あ、もしかして会ったことある!?」
 会ったこと? あるよ。夜中に家に侵入されて翌朝には両親公認、おまけにお姉ちゃんと夏休み中飽きもせずズッコンバッコン。マジで不眠症一歩手前までいきかけたわ。人の生活リズム滅茶苦茶にしてくれやがってあの野郎…。
 憎しみをぶつけるようにコロッケサンドを頬張る。思い出すだけで頭が痛くなりそうだ。って、あぁダメだ。お姉ちゃんの聞いたことないぐらい蕩けた甘え声と、生々しい水音がフラッシュバックして心臓がバクバクし始めた。
 あー、クソ。寝ても覚めても腹が立つ。お姉ちゃんがママ達からオッケーもらったからって、ほぼ毎日アイツを家に呼ぶんだもん。私の方が居づらくて友達の家を泊まり歩いたわ。貴重なひと夏の体験をありがとう、クソ野郎!
「カナ? どした? 怒ってんの?」
「……別に」
 購買で見つけたボリューミーなコロッケサンドを食べきる。それでも現役女子高校生の胃袋はそう簡単には満たされない。というわけで、同じく購買でいい値段してたフルーツヨーグルトをいざ開封──しようとしていたところで、スマホに新着メッセージが表示された。
「RINE? 誰から? サっちん?」
「んーん、お姉ちゃんから」
「わぉ! ね、ね! ついでに噂の婚約者のこと聞いてよ!」
「あー、多分秘密にされるんじゃないかな、ハハハ」
 親友からのがっつきをそれとなく誤魔化して席を立つ。
 スマホの画面に浮かんだお姉ちゃんからの『二棟の三階の踊り場、急いで来て』というメッセージ。校内でもお姉ちゃんとよくやり取りをするから、メッセージが来ること自体は不思議じゃない。けど問題はその内容だ。
 二棟とは、私達一年生の教室がある一棟と渡り廊下を挟んだ反対側にある校舎で、二年と三年の教室がある。用事がなければ一年生が二棟へ出向く機会はほとんどない。だからこそ、お姉ちゃんからの連絡が奇妙に思えた。でも、急いで来てって言ってるし。何かあったら大変だ。そう思い、友達に断りを入れてから教室を出て、足早に指定された場所へ向かう。
 目的地に二分ほどかけて到着する。そこで私が目にしたのは、幻覚を疑うほど衝撃的な光景だった。
「んぼっ♡ ぶぷっ♡♡ んぶっ♡ じゅるるっ♡♡」
「くぁぁ…! そ、そんな音たてて吸うなって…」
 辿り着いたL字型の踊り場の隅で、お姉ちゃんが宮地先輩の股のあたりに頭を押し付けている。そして、空気を含んだ間抜けな音を立てながら激しく前後に頭を動かしていた。
 つまり、その……えっちなことをしているのだと一目で分かった。
「ちょっ──お、姉、ちゃん…!?」
 声が上擦って途切れかけるが、仕方ないだろう。家で壁越しにエロいことしてるのは聞いていたが、まさか白昼堂々と学校の中で行為に及ぶとは思いもよらなかったんだから。
 ってか、えぇ…めっちゃ吸い付いてんじゃん。宮地先輩が踊り場の壁に背中を預ける形で寄りかかり、その股間にお姉ちゃんがえぐい勢いで顔を突っ込む。ぐぽぉ♡と水気たっぷりの音と一緒に、多分だけど宮地先輩のおちん……を口に含んでる。
 これまで耳だけで感じてきた姉とその彼氏(婚約者)の情事をもろに直視してしまい、階段を駆け上がってきた疲労を忘れて停止した。そんな私に気付いた宮地先輩が顔を赤らめながらお姉ちゃんを引き剥がそうとする。
「お、おい舞! 妹さん来たぞ…っ! うぁっ!」
「んーん♡♡ んもっ♡ ぶぶっ♡ くぽっ♡」
「一回止まれってマジで…!」
「んっ♡♡ んぼ♡ んぶっ♡ んぶっ♡♡ ぶぽっ♡」
 けど、お姉ちゃんは止まらない。むしろさっきより勢いが増している気がする。
 うわ、うわぁ…。涎がお姉ちゃんの唇から垂れてて、とてつもなくエロい感じがする。それに、普通の生活の中じゃ絶対嗅がないような不思議な匂いまでしてきた。アレだ、スルメとか、そういった感じの癖のある匂いだ。
 急いで来たせいか、乾いた喉が無意識に唾を飲みこむ。宮地先輩のアレを口にいれてるお姉ちゃんの音で聞こえなかったと思うけど、唾が喉を通る音がやけに大きく感じた。そうして、階段で突っ立ってどれだけ時間が経ったか。
「ヤバいって舞…くっ! もう、射精そうだ…!」
「ぇ、えっ? ちょっと、でるってまさか…」
「ぶぼっ♡♡ くぽっ♡ ぶぶっ♡ ぼぷっ♡」
 宮地先輩がいよいよ顔をしかめて腰を引き出した。なんとかお姉ちゃんの口から逃げようとしてるみたいだけど、逃がさないようにガッチリ太腿を抱きかかえられてて身動きが難しいみたいだった。
 でる、って言ってた。私も初心じゃない。保健体育の授業で性器の話は知ってるつもりだ。つまり、でるってのは、アレが、だよね。え、嘘でしょ? このままだとお姉ちゃんの口の中に…。
 そう思ったのも束の間、先輩とお姉ちゃんの身体が一緒に大きく跳ねた。
「ぐぅ……射精るッ!!」
「んぉぇ♡♡♡ ぉごっ♡♡ んむぉ♡♡ ぉ♡ っ♡ ん゛……ごくっ♡ ごくっ♡♡ じゅるるっ♡♡ じゅずず♡♡」
「え、えっ。嘘、お姉ちゃん、飲んでる…!?」
 お姉ちゃんがもぞもぞと宮地先輩の股間に顔を埋めて、ぴくぴく震えているのがやや離れたこの場所からでも分かった。初めて生で見る性的な行為のはずなのに、私は確信した。
 お姉ちゃん、絶頂(い)ったんだ。男の人のアレを咥えて、精子……飲んで、気持ち良くなってたんだ。

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