本販売日:2025/02/21
電子版配信日:2025/03/07
本定価:869円(税込)
電子版定価:880円(税込)
ISBN:978-4-8296-4787-5
「江美子、これは女の務めだ。必死に魔羅をしごけ」
涙を浮かべ、頬をへこませて男根に奉仕する未亡人。
病院を乗っ取ろうとする悪鬼たちの標的にされ、
夫を殺した憎い男との交尾で江美子は哀しき絶頂へ。
親友の未亡人・芳乃も暴虐の螺旋に巻き込まれ……
34歳と38歳、虚ろの淫檻に囚われた二匹の牝!
第一章 四十九日 淫獣現る
第二章 未亡人江美子 黒い褥の恥辱
第三章 喪服調教 穢された夫婦の寝室
第四章 未亡人芳乃 裏切りの肛姦ショウ
第五章 完全屈服 捧げられた三穴
第六章 虚の檻 哀しき奴隷口上
本編の一部を立読み
第一章 四十九日 淫獣現る
納骨の日は、冬の厚い雲が空を覆っていた。
俯く喪服の参列者。本堂に響く読経の声。焼香の煙──。
喪主の名は、知崎江美子。
美しき三十四歳──未亡人である。
(もう泣かないと決めたのに……)
僧侶たちの厳かな声を聞きながら、江美子は白いハンカチで目尻を拭った。
夫であり、知崎総合病院の若き院長でもあった知崎智弘が亡くなってから二ヶ月が経った。不幸な自動車事故だった。病院からの帰り道、反対車線から突っ込んできたトラックと正面から衝突しての即死である。
結婚から五年、そして院長就任からわずか一年での出来事だった。
享年四十。誰よりも大好きだった夫。そして誰よりも愛してくれた夫。
夫なしで生きることなどできない──そう思っていたのに、江美子はまだ生きている。通夜、告別式の手配、親族や病院関係者への連絡に奔走しているうちに、あっという間に四十九日を迎えてしまった。
生きている。ただそれだけだった。虚ろな日々が過ぎていく。
(こんなわたしを見たら、あなたはどう思うかしら……。いっそのこと、一緒に逝ってしまいたかった……)
納骨を終え、法事は滞りなく終わろうとしている。最後の焼香の時間もあとわずかだ。順番は病院関係者まで回っていた。あと十分ほどで読経も終わる。
本堂の入り口がざわついたのは、その時だった。
(何かしら……?)
喪主の席から、知崎江美子はちらりと視線を走らせた。
その少しの視線の移動だけで、夫人を盗み見ていた男たちがさっと目を逸らす。
日本風の美人である江美子の黒紋付姿は、薄幸の未亡人の雰囲気も相まって、えもいわれぬ色気を醸し出していた。前髪を少し直す仕草ひとつにも、男のねばっこい視線がまとわりついてくる。
しかし、育ちの良い江美子は彼らの内に渦巻く煩悩を知らない。ただ、家族を喪った自分に対する、優しい配慮の視線だとしか考えない。
──入り口に新しい参列者が現れたのが見えた。
後ろの席にいる病院のスタッフたちが腰を上げ、何かを喋っている。
「まあ……」
ちらりと見えた人影に、江美子も思わず口に手を当てて声を上げていた。
緋川理沙──総合病院の看護師時代の同期である。
シックなブラックフォーマルのアンサンブルだが、下ろしたウエーブの茶髪がどうにも派手で、この場のしめやかな雰囲気からは浮いていた。江美子と同い年の三十四のはずだが、ずっと若く見える。
理沙は江美子の視線にすぐに気づいて、真っ赤なルージュを妖艶にほころばせた。こっちへ──と手招きをしている。
焼香の列は終盤にさしかかっている。江美子は夫の遺影の前で経を読む僧侶たちに頭を下げ、座を辞した。
「お久しぶり、江美子さん。智弘さんのこと聞いたわ。ご愁傷様」
緋川理沙の近くによると、色っぽい香水の匂いがむっと漂った。身長百六十センチの江美子よりずっと背が高く、喪服の胸元がぐっとせり出しているモデル体型だ。
「恐れ入ります」
腕を組んで妖艶に笑う同僚に向かい、江美子は慇懃に頭を下げる。
(理沙さん、どうして今頃になって……)
彼女の顔を見るのは五年ぶりになるだろうか。
新卒で知崎総合病院に同期入職した二人である。その頃は比較的顔を合わせる機会も多かったが、理沙は看護の仕事が好きではないようだった。周囲からもあまり評判の良いナースではなかった……と記憶している。
──あの子、ドクターたちに色目をつかっているのよ。
と、看護師長に渋い顔をしながら言われたこともあった。
──いるのよ。玉の輿狙いでナースになる子が。
目を丸くする江美子に、看護師長は声を潜めてそう言ったのだ。
しかし結局、《玉の輿》に乗ったのは江美子の方だった。病院の跡継ぎである知崎智弘に見初められ、めでたく結婚の運びとなったのである。
江美子の寿退職と理沙が仕事を突然辞めたのが、ちょうど同じころだった。
「なあに。幽霊でも見るような顔して。……うふふ、今日は貴女にとっておきのお話があるのよ。さあ、こっちへ……」
理沙はルージュの笑みをいっそう深くして江美子の手を取った。ほっそりとした指先には唇と同じ色のネイルが光る。ぞっとするほど冷たい手だ。
「冬山理事長様。知崎江美子をお連れいたしました」
戸惑う江美子を本堂の廊下に連れ出し、理沙が深く、深く、頭を下げた。
しんと冷える廊下で待っていたのは、初老の男である。
(なに、この人……)
すっと背筋が寒くなった。
年齢は、六十代半ばと思われる。上等なスーツ──黒地に、ダークグレーのストライプが入っている。紺色のネクタイだ。喪服ではない──に身を包み、白銀の髪を後ろに撫でつけた出で立ち。弁護士、あるいは政治家のようでもある。
不気味なのは、老人らしからぬ邪悪なエネルギーに満ちたその両目だった。
黒い瞳が虚のように光を吸収し、ほとんど反射していない。瞳が深い洞穴になっているような、人ならざる者の目だった。
(……義眼なのかしら?)
しかし、男の視線はこちらを鋭く射抜いている。虚でありながら、江美子の実体を抉るような──。
「江美子さん、こちらは冬山理事長様よ。今日は貴女のお顔を見るためにわざわざおいでくださったの。ご挨拶をして」
理沙の口調には、不思議な緊張が孕んでいる。夫人は違和感を覚えながらも、形式的な礼と挨拶を述べた。
「なるほど……噂にたがわぬ美貌だな。小さな病院に収まるにはもったいない」
男の老獪な視線が江美子の顔を這った。通った鼻筋、緩く横に流した前髪や、愁いを帯びた眉、そして哀しみをたたえた大きな瞳を、蛇の目が撫で回す。
(なんなの……?)
他人の視線でこんなに不快な気持ちになったのは初めてだった。男の真っ黒い両目が、今度は身体の方を舐めるように見た。
(なんだか、気味が悪い……)
こちらは着物なのだから、身体のラインはほとんど出ていないはずだ──それなのに、男の虚の瞳に撫でられただけで、Fカップの乳房を丸裸にされたような羞恥感が込み上げて来る。うなじ、胸元、腰のくびれ。尻の膨らみも……。
「あ……あの……どういったご用でしょうか」
恐る恐る、江美子夫人は訊ねた。
冬山と呼ばれた男は、唇を歪めて一瞬の間を置く。それから口を開いた。
「──知崎総合病院の経営を私にゆだねてもらいたい。安くはない金を出そう」
低い声が、廊下に響く。アナウンサーや政治家のような、よく通る声だった。
本堂の後ろの席に座っていた参列者が不思議そうに振り向く。
「え……?」
江美子はかすかに眉をひそめた。相手が何を言っているのかを呑み込むのに数秒かかった。金を出す、病院をゆだねる──買収する、ということか。
その間も男は、何も言わずに平然と江美子夫人を見つめ返していた。
「そ、そんなの……お会いしたばかりで急におっしゃられても、困ります」
「当然だな。理沙、名刺を渡せ」
影のように控えていた理沙が、素早く江美子に名刺を差し出した。
《WMクリニックグループ 代表理事 冬山 巌男》
白と黒のシンプルだが洒脱な名刺だった。手触りも良く、クリニックのロゴらしきデザインが箔押しで光っている。
江美子夫人は名刺に視線を落としたまま、顔を曇らせた。WMクリニック──近ごろ都心で急速に事業拡大をしている、美容クリニックだ。そんなものがうちのような田舎の病院を買収して、どうしようというのだろうか。
「旦那様が素敵な町に病院を遺してくれて良かったわね、江美子さん。……海が綺麗で、気候も良くて、しかも都心から程よい距離。ロングステイが必要なクリニックのお客様をお迎えするのに、あの病院はぴったりなの」
理沙が歌うように言い、唇を妖艶な笑みの形にした。
「冬山様にお目をかけていただけたこと、感謝なさいな。もうあんな赤字病院の経営のことは、何も心配いらないわよ、江美子さん」
「そんな……」
元同僚のとげのある言葉に、江美子夫人は大きな黒目を潤ませた。
「だってそうでしょう? どうせ、貴女ひとりでは何も──」
さらに続けようとした理沙を、冬山がゆっくりと手で制した。すぐさま元同僚は口をつぐみ、顔を伏せて一歩後ろに下がる。
「経営権を買おう。いくら欲しい」
──何と失礼な聞き方だろう。
だが、怒りの感情の前に、まず恐怖が来た。威圧するような声ではないが、鼓膜を揺すられるたびに身がすくむ。
この黒目に射られると、どうしてだか泣きたくなるのだ。
しかし──病院を美容クリニックに買われるということがどういうことなのか、江美子夫人はよく分かっていた。
(たしかに経営は苦しいけれど、お金の問題ではないわ……)
医療者としての矜持が、夫人を奮い立たせた。
「ち、知崎総合病院は、地域の医療を支えている病院です。お金をいくら出していただけると言っても……そちらに経営をお任せすることはできません。もっと相応しい病院があると思いますわ。他をお探しください」
南関東の片田舎にある海辺の町において、知崎総合病院の存在は住民の生命線だった。常勤医師十名、病床数は二百にも満たない小さな病院だが、急性期の患者の手術から入院、回復期のリハビリ、周産期医療まで、地域のヘルスケアを一手に担っている。
過疎化・高齢化が進むこの町から総合病院が一つ消えることは、多くの人々の命に直結する危機なのだ。
普段は臆病で控えめな江美子夫人だが、これだけは譲ることができなかった。
「ほう──」
冬山の真っ黒な両目が江美子の小さな顔をしばらく見つめた。
心臓の鼓動が速まる。喪服の下で、柔い肌がじんわりと汗をかき始める。肌寒いくらいなのに、だ。
《僕たちに、まだ子供はいないけれど──》
子供ができなくて悩んでいた江美子に、亡くなった夫はよく言っていた。
《この病院で産まれた子はみんな僕たちの子供だと思ってる。もし赤ちゃんができなくても、この病院を守ることで、僕たちの命は続いていくんだよ》
(……知崎総合病院はわたしたちの命そのもの……無くすわけにはいかないわ)
──お引き取りください、と言おうと江美子が口を開きかけたその瞬間だった。
すっ、と男のスーツの腕が伸び、夫人の喪服の肩に大きな手が置かれた。
「ひッ……」
男の掌が着物越しに江美子の二の腕を掴む。夫人のなよやかな腕の形を確かめるように、ねっとりと手首まで舐めるように、触ってくるではないか……。
「な、何ですか……」
「面白いことを言う。この細腕であの病院を守れるのか」
「ま、守ってみせますわ……夫に託された大切な病院ですから……」
江美子は震えながらも、男を睨みつけた。
男が口元をかすかに歪める──いびつな笑みの形に。
(怖い……怖い……)
身体が小刻みに震えていた。これ以上この男に関わってはいけない──と女の本能が警鐘を鳴らしている。
しかし冬山は腕を離さない。振りほどくこともできない。ものすごい力なのだ。
深い皺の刻まれた分厚い掌は、次に江美子のほっそりした右手首を掴んだ。
「……あっ、な、何を……」
そしてそのまま、夫人の身体は男のスーツの胸に抱き寄せられる。
着物に染みついた線香の匂いがふわっと立ち上った。
「ふふふ……この柔らかな女体で男の真似事をしようというのだな、江美子」
「ひっ……」
(い、いや……この人、おしりを……っ)
おもむろに、無骨な手が喪服に包まれた丸尻を揉みしだき始めたのである。ゆっくりと、臀部の形を確かめるように。そして厚いちりめんの布に指を食い込ませるように……。邪悪で大きな掌が臀部をまさぐる。
「あ……」
腕の中で夫人は目を見開いた。男への恐怖で、それ以上の声は出なかった。
「この細い骨格。ふふふ……己が男に劣る性別であることを忘れるな。何もできぬ身分で私に逆らうことの意味を、よく考えるがいい」
「……っ」
江美子夫人は身体を震わせながら、きつく唇を噛んだ。
(そんなこと、分かっているわ。わたしには何もできない……)
頼りにしていた夫を喪い、この浮き世に残された自分にできることなどたかが知れているだろう。総合病院の運営など、女手には余る仕事に違いなかった。
(でも……わたしがやらなければ、あの人の病院が守れないのよ……)
信頼のおける人物──たとえば夫の片腕として働いてくれた老年の副院長に経営を任せようとしたこともあった。しかし、にべもなく断られてしまった。
《そんな大変な仕事は僕にはできないよ、奥さん》
副院長はそのまま消えるように退職し、行方知れずとなってしまった。元々出世欲のない人物だったが、夫が亡くなってから姿をくらますまでの早さといったらなかった。
男性にとっても、それだけ大変な仕事なのだと江美子は分かっている。
(だからこそ……わたしがやらなければ……っ)
未亡人の肉体は男の腕に抱かれ、好き勝手にまさぐられている。尻だけでなく、反対の手は白いうなじを撫で回し始めていた。まさに骨格を確かめられているような、不気味な触り方だった。男の深い呼吸が耳元で聞こえる。
「……わ、わたくしに触れないでっ!」
か細く震えた声──しかし江美子夫人の精一杯のボリュームで、叫んだ。と同時に、両手で冬山の身体を突き放す。
想像以上に硬い衝撃が掌から伝わった。筋肉の鎧に阻まれたのだ。突き飛ばしたはずの江美子夫人の方が、かえってバランスを崩した。
「あ……っ」
男の手が伸びて、転びかけた江美子夫人の左手を掴む。なおも抱き寄せようとするかのように引っ張られ、黒紋付の袖が翻った。
「イヤ──離してくださいっ」
身も世もなく、そう叫んでいた。
法事の参列者たちが、驚いて振り向いている。腕に抱かれ、尻を触られていたところを見られた──そう思うと、江美子の羞恥の芯がかっと燃え上がった。